説明

車両用の空調エアー吹出構造

【課題】 ステアリングメンバの剛性が向上し、且つインストルメントパネルをステアリングメンバに接近させた状態で配置可能な車両用の空調エアー吹出構造を提供する。
【解決手段】 ステアリングメンバ3における導入口11の少なくとも前後方向一方側隣接位置に中空ボックス部7、8を形成したため、導入口11の剛性が向上し、ステアリングメンバ1全体の剛性が向上する。従って、ステアリングメンバ1の車体構造材としての機能が向上し、導入口11と空調ユニット16の排出口17との接続が外れるおそれもない。更に、車体衝突時の衝撃により、インストルメントパネル1が前方へ移動して中空ボックス部8を押し潰すと、中空ボックス部8が潰れる際の反力により、衝突エネルギーの吸収量が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の空調エアー吹出構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のインストルメントパネルの内部には、車幅方向に沿った状態でステアリングメンバが配されている。このステアリングメンバは金属製の筒形状をしており、本来的には、車体構造材として、或いはステアリングコラム等の支持のために使用されるが、筒形状のために、空調ダクトとして兼用される場合もある。
【0003】
空調ダクトとして使用する場合には、ステアリングメンバの下面に導入口を開口形成し、上面に複数の吹出口が形成される。そして、ステアリングメンバの導入口には、空調ユニットの上面に形成された排出口が接続される。一般に、導入口の開口面積は、吹出口の合計の開口面積と同等か、それ以上に大きく設定される。
【0004】
そして、空調ユニットで処理された空調エアーを導入口からステアリングメンバ内に導入し、導入したその空調エアーを複数の吹出口から車室内に吹出すようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−189041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の技術にあっては、ステアリングメンバに大きな導入口を開口形成するため、ステアリングメンバ自体のねじれ剛性等が低下するおそれがある。従って、ステアリングメンバの車体構造材としての機能が低下する。
【0006】
また、ステアリングメンバにねじれ方向での荷重が加わると、ステアリングメンバがねじれて導入口が変形し、空調ユニットの排出口との接続が外れるおそれもある。
【0007】
更に、車体衝突時の衝撃により、インストルメントパネルが前方へ変形する際に、インストルメントパネルが他の機器と干渉することなく確実に前方へ変形して、衝突エネルギーを吸収できるように、ステアリングメンバとインストルメントパネルとの間には、ある程度の間隔を確保しておく必要がある。そのため、インストルメントパネルの位置はどうしてもステアリングメンバから離れた状態となり、その分、車室内スペースを圧迫している。
【0008】
本発明は、このような従来の技術に着目してなされたものであり、ステアリングメンバの剛性が向上し、且つインストルメントパネルをステアリングメンバに接近させた状態で配置可能な車両用の空調エアー吹出構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、インストルメントパネルの内部に、筒状のステアリングメンバを車幅方向に沿って配し、該ステアリングメンバに導入口と吹出口とを形成し、導入口に空調ユニットの排出口を接続し、空調エアーをステアリングメンバ内に導入して吹出口より車室内に吹出し可能とした車両用の空調エアー吹出構造であって、前記ステアリングメンバにおける導入口の少なくとも前後方向一方側隣接位置に、複数のリブにて区切られた中空ボックス部を形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、中空ボックス部を導入口の少なくとも後側に形成したことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、ステアリングメンバを、中空ボックス部も含めて上下二つ割構造にしたことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、ステアリングメンバ及び中空ボックス部を、軽合金又は強化繊維含有樹脂で形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、ステアリングメンバにおける導入口の少なくとも前後方向一方側隣接位置に中空ボックス部を形成したため、導入口の剛性が向上し、ステアリングメンバ全体の剛性が向上する。従って、ステアリングメンバの車体構造材としての機能が向上し、導入口と空調ユニットの排出口との接続が外れるおそれもない。更に、車体衝突時の衝撃により、インストルメントパネルが前方へ移動して中空ボックス部を押し潰しても、中空ボックス部が潰れる際の反力により、衝突エネルギーの吸収量が、何も潰さない場合よりも増加する。従って、インストルメントパネルを中空ボックス部に極力接近させても問題なく、その分、車室内スペースの拡大を図ることができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、中空ボックス部を導入口の少なくとも後側に形成したため、衝突によりインストルメントパネルが前方へ移動する際に、内部では中空ボックス部だけが潰れることとなり、中空ボックス部の変形による衝突エネルギーの吸収を他の要因の影響を受けずに確実に行うことができる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、中空ボックス部を含むステアリングメンバを上下二つ割構造にしたため、中空ボックス部を含むステアリングメンバの製造が容易である。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、ステアリングメンバ及び中空ボックス部を、軽合金又は強化繊維含有樹脂で形成しため、必要な強度を確保しながら、軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、ステアリングメンバの剛性が向上し、且つインストルメントパネルをステアリングメンバに接近させた状態で配置可能な車両用の空調エアー吹出構造を提供するという目的を、インストルメントパネルの内部に、筒状のステアリングメンバを車幅方向に沿って配し、該ステアリングメンバに導入口と吹出口とを形成し、導入口に空調ユニットの排出口を接続し、空調エアーをステアリングメンバ内に導入して吹出口より車室内に吹出し可能とした車両用の空調エアー吹出構造であって、前記ステアリングメンバにおける導入口の少なくとも前後方向一方側隣接位置に、複数のリブにて区切られた中空ボックス部を形成したことで、実現した。以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1〜図8は、本発明の第1実施例を示す図である。車室内の前方にはインストルメントパネル1が取付けられている。インストルメントパネル1の内部には、車幅方向両側のダッシュサイド2、2間に、車幅方向に沿うステアリングメンバ3が架設されている。ステアリングメンバ3の両端部は、ブラケット4を介してダッシュサイド2に結合されている。このステアリングメンバ3はマグネシウム又はアルミニウム軽合金(強化繊維含有樹脂でも可)で形成されている。従って、必要な強度を確保しながら、軽量化を図ることができる。
【0019】
ステアリングメンバ3は、基本的に円筒形状で、車幅方向中央部分だけ角筒部12として形成されている。ステアリングメンバ3の運転席側には、図示せぬステアリングコラムを支持するステアリングサポート5が形成されている。
【0020】
角筒部12の前後には、複数のリブ6にて区切られた角型の中空ボックス部7、8が前後隣接した状態で一体形成されている。各中空ボックス部7、8におけるリブ6は3本で、それぞれ前後方向に沿って真っ直ぐあり、各中空ボックス部7、8をそれぞれ4つの部屋に区画している。
【0021】
ステアリングメンバ3の円筒状部分の両端には、上面側にサイド吹出口9がそれぞれ形成されている。角筒部12の上面には2つのセンタ吹出口10が形成されている。角筒部12の下面には、下面の略全部を開けた導入口11が形成されている(図3参照)。
【0022】
ステアリングメンバ3は、中空ボックス部7、8及びステアリングサポート5も含めて、全体が上側半割部材3aと下側半割部材3bとを合わせて溶接した二つ割り構造になっている。従って、全体の構造が複雑でも、ステアリングメンバ3の製造が容易である。
【0023】
インストルメントパネル1には、中央にセンタデフ13が形成され、左右両側にサイドデフ14がそれぞれ形成されている。センタデフ13とセンタ用吹出口10が、図示せぬ周知のダクトを介して連結され、サイドデフ14とサイド用吹出口9もそれぞれ図示せぬ周知のダクトを介して連結されている。インストルメントパネル1の中央部には、オーディオ機器15(図1参照)が設けられている。オーディオ機器15はインストルメントパネル1の内部側に突出し、後側の中空ボックス部8と僅かな隙間Sを介して接近している(図7参照)。
【0024】
ステアリングメンバ3の下方には、空調ユニット16が設置されている。空調ユニット16の上面には、ステアリングメンバ3の下面に形成された導入口11に相応する形状の排出口17が、上方へ若干突出した状態で形成されている。そして、導入口11と排出口17とは、排出口17を導入口11内に嵌合した状態で接続される。
【0025】
そして、空調ユニット16から排出された空調エアーは、導入口11からステアリングメンバ3内に導入され、センタ用吹出口10及びサイド用吹出口9から車室内へ吹出される。
【0026】
この実施例によれば、ステアリングメンバ3における導入口11の前後隣接位置にそれぞれ中空ボックス部7、8を形成したため、導入口11の剛性が向上し、ステアリングメンバ3全体の剛性が向上する。従って、ステアリングメンバ3の車体構造材としての機能が向上し、車幅方向両側のダッシュサイド2を含む車体全体の剛性が向上する。
【0027】
また、導入口11の剛性が高く、ステアリングメンバ3にねじれ方向の荷重が加わっても導入口11が変形しない。そのため、導入口11と空調ユニット16の排出口17との接続は維持され、両者が外れるおそれはない。
【0028】
更に、車体衝突時の衝撃により、インストルメントパネル1に車室内側から二次衝突による衝突エネルギーF(図8参照)が加わり、インストルメントパネル1が前方へ移動する場合には、最初に、インストルメントパネル1から前側に突出しているオーディオ機器15が、前後2つの中空ボックス部7、8のうちの後側の中空ボックス部8に先当たりして、その中空ボックス部8を押し潰す(図8参照)。
【0029】
従って、この中空ボックス部8が潰れる際の反力により、衝突エネルギーFを効率良く吸収することができ、衝突エネルギーFの吸収量が増加する。このように、中空ボックス部8を押し潰すことで衝突エネルギーFの吸収を図るため、インストルメントパネル1に固定されたオーディオ機器15を、中空ボックス部8に極力接近させて配置することができ、また中空ボックス部8を形成しない場合のように、インストルメントパネル1を必要以上(例えば中空ボックス部8の前後寸法以上)離して設置する必要がなく、その結果として、車室内スペースの拡大を図ることができる。
【0030】
特に、中空ボックス部8が導入口11の後側に形成され、衝突によりインストルメントパネル1が前方へ移動する際に、内部では後側の中空ボックス部8だけが潰れることとなり、例えばステアリングメンバ3自体は潰れないため、中空ボックス部の変形による衝突エネルギーの吸収を他の要因の影響を受けずに確実に行うことができる。
【実施例2】
【0031】
図9及び図10は、本発明の第2実施例を示す図である。この実施例では、内部のリブの構造が異なる2つの中空ボックス部18、19を有するステアリングメンバ22、23の例を示す。図9は、リブ20が山状の中空ボックス部18(その1)を示し、図10はリブ21が菱形状の中空ボックス部19(その2)を示している。中空ボックス部18、19が潰れる際の反力は内部のリブ20、21の形状に異なるため、各車両構造及びインストルメントパネルの構造に応じた最適のリブ形状を選択して、衝突エネルギーFの吸収量をコントロールすることができる。その他の構成及び作用効果は先の実施例と同様であり、共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上の実施例では、両側が円筒状で中央部だけを角筒部12にしたステアリングメンバ3を例にしたが、全体が角筒状でも良い。また、導入口11の前後両側に中空ボックス部7、8、18、19を設ける例を示したが、どちらか片方でも良い。更に角筒部12に相当する幅範囲内に中空ボックス部7、8、18、19を形成する例を示したが、角筒部12の幅範囲を超えて左右に張り出した状態で中空ボックス部7、8、18、19を形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施例に係るステアリングメンバを示す分解斜視図。
【図2】図1に係る空調ユニットに接続したステアリングメンバを示す斜視図。
【図3】図2のステアリングメンバと空調ユニットとを下側から見上げた分解斜視図。
【図4】図2に係るステアリングメンバを上下に分割した状態と空調ユニットとの関係を示す斜視図。
【図5】図2の上面図。
【図6】図4に係るステアリングメンバの角筒部付近だけの下側半割部材を示す一部破断平面図。
【図7】図1に係るインストルメントパネルをステアリングメンバに組付けた状態における図1中矢示SA−SAに沿う断面図。
【図8】後側の中空ボックス部が押し潰された状態を示す図6相当の一部破断平面図。
【図9】本発明の第2実施例に係る中空ボックス部(その1)を示す図6相当の一部破断平面図。
【図10】本発明の第2実施例に係る中空ボックス部(その2)を示す図6相当の一部破断平面図。
【符号の説明】
【0034】
1 インストルメントパネル
3、22、23 ステアリングメンバ
6、20、21 リブ
7、8、18、19 中空ボックス部
9 サイド吹出口
10 センタ吹出口
11 導入口
15 オーディオ機器
16 空調ユニット
17 排出口
F 衝突エネルギー
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インストルメントパネル(1)の内部に、筒状のステアリングメンバ(3)を車幅方向に沿って配し、該ステアリングメンバ(3)に導入口(11)と吹出口(9,10)とを形成し、導入口(11)に空調ユニット(16)の排出口(17)を接続し、空調エアーをステアリングメンバ(3)内に導入して吹出口(9,10)より車室内に吹出し可能とした車両用の空調エアー吹出構造であって、
前記ステアリングメンバ(3)における導入口(11)の少なくとも前後方向一方側隣接位置に、複数のリブ(6)にて区切られた中空ボックス部(7,8)を形成したことを特徴とする車両用の空調エアー吹出構造。
【請求項2】
請求項1記載の車両用の空調エアー吹出構造であって、
中空ボックス部(8)を導入口(11)の少なくとも後側に形成したことを特徴とする車両用の空調エアー吹出構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の車両用の空調エアー吹出構造であって、
ステアリングメンバ(3)を、中空ボックス部(7,8)も含めて上下二つ割構造にしたことを特徴とする車両用の空調エアー吹出構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用の空調エアー吹出構造であって、
ステアリングメンバ(3)及び中空ボックス部(7,8)を、軽合金又は強化繊維含有樹脂で形成したことを特徴とする車両用の空調エアー吹出構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−143111(P2006−143111A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338839(P2004−338839)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】