車両用アンダーカバー
【課題】車体下部での空気抵抗の低減化が、より効果的に達成され得る車両用アンダーカバーを提供する。
【解決手段】車体の前後方向に延びる平面部28,34のうち、該平面部28,34から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部αとの間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、該平面部28,34と該立上面部αの両面において開口する凹溝38,40を設けて、構成した。
【解決手段】車体の前後方向に延びる平面部28,34のうち、該平面部28,34から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部αとの間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、該平面部28,34と該立上面部αの両面において開口する凹溝38,40を設けて、構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用アンダーカバーに係り、特に、車体下部での空気抵抗を低減せしめることを主な目的として、車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーの改良された構造に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、自動車等の車両では、車体表面に凹凸部が存在すると、走行時における車体表面での空気の円滑な流れが阻害されるようになり、それによって、空気抵抗が増大して、走行安定性が損なわれたり、或いは燃費が悪化する等の問題が惹起される。このため、近年では、車体の側面や上面は勿論、下面についても、空気抵抗の低下が、車体設計上での重要な要素となっている。
【0003】
かかる状況下、車体下部での空気抵抗を低減せしめることを主な目的として、車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーにおいて、車体下部を流れる空気の流れをよりスムーズにする等して、空気抵抗の更なる低減化を図るようにした構造が、種々提案されている(例えば、下記特許文献1及び2参照)。
【0004】
ところが、それら従来の車両用アンダーカバーの構造について、本発明者が様々な角度から検討を加えたところ、空気抵抗の低減効果が、期待される程、十分に得られるものでないことが、明らかとなった。
【0005】
すなわち、従来の車両用アンダーカバーの多くのものは、空気の流れを円滑化するために、通常、下面の大部分が、車体の前後方向に延びる平面部とされているが、その平面部には、凹部や孔部、或いは段差等が、所々、不可避的に存在する。例えば、平面部において開口して、車体の前後方向や幅方向に延びる矩形の凹溝形態等を呈する補強ビードや、取付ボルト等が挿通される取付孔等が、それである。そして、それら平面部に存在する補強ビードや取付孔等の凹部や孔部、或いは段差部においては、その側面や内周面、段付け面のうちの少なくとも一部が、平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部として、形成されている。
【0006】
それ故、そのような平面部とそれに連続する立上面部とを有するアンダーカバーが装着された車両の走行時には、アンダーカバーの下方を流れる空気が、平面部に沿って後方にスムーズに流動せしめられるようになるものの、走行速度が大きくなればなる程、立上面部が露呈せしめられる立上面部の後方側近傍の空間内への空気の流入が困難となる。そして、それにより、立上面部の後方側近傍の空間内が負圧となって、そこで、立上面部に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめる空気の渦流(旋回流)が不可避的に生ぜしめられるようになる。
【0007】
従って、従来のアンダーカバーのうち、特に、上記せる如き平面部と立上面部とを有するものにおいては、立上面部の後方側近傍の空間内で比較的に大きな空気抵抗が発生せしめられることとなり、その結果として、所期の空気低減効果を得ることが出来なくなってしまうのである。
【0008】
【特許文献1】特開平7−215073号公報
【特許文献2】特開平8−127367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、車体下部での空気抵抗の低減化が、より効果的に且つ確実に達成され得る車両用アンダーカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては、かかる課題の解決のために、その要旨とするところは、車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーであって、車体の前後方向に延びる平面部と、該平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部とを一体的に有するものにおいて、前記平面部のうち、前記立上面部との間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、該平面部と該立上面部の両面において開口する凹溝を設けたことを特徴とする車両用アンダーカバーにある。
【発明の効果】
【0011】
すなわち、本発明に従う車両用アンダーカバーにあっては、車体下面への装着下での車両の走行時に、平面部に沿って流れる空気が、凹溝内に侵入し、また、この凹溝に案内されて、立上面部が露呈せしめられる立上面部の後方側近傍の空間内に導かれるようになる。そのため、走行速度が大きい場合にも、立上面部に沿って流れる空気が、立上面部の後方側近傍の空間内に、容易に且つスムーズに流入せしめられるようになり、それによって、そのような空間内の負圧化が有利に抑制され得る。そして、その結果、立上面部に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめる空気の渦流が、立上面部の後方側近傍の空間内で生ずることが効果的に解消されるか、若しくはそのような渦流が可及的に小さく為され得る。
【0012】
従って、かくの如き本発明に従う車両用アンダーカバーにおいては、車体の前後方向に延びる平面部と、その平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部とを一体的に有するものであっても、車体の下面に装着された状態下において、車両走行時における車体下部での空気抵抗の低減化が、より効果的に且つ更に確実に達成され得ることとなる。そして、その結果として、車両の走行安定性と燃費とを、何れも有利に向上せしめることが出来るのである。
【発明の態様】
【0013】
ところで、本発明は、少なくとも、以下に列挙する如き各種の態様において、好適に実施され得るものである。
【0014】
(1) 車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーであって、車体の前後方向に延びる平面部と、該平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部とを一体的に有するものにおいて、前記平面部のうち、前記立上面部との間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、該平面部と該立上面部の両面において開口する凹溝を設けたことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【0015】
(2) 上記の態様(1)において、前記凹溝が、前記平面部における前記角部を含む部分に、車体の幅方向に並列して位置する状態で複数設けられていること。本態様によれば、凹溝が一個だけ設けられる場合に比して、平面部に沿って流れる空気が、複数の凹溝に案内されて、立上面部が露呈せしめられる立上面部の後方側近傍の空間内に、より多くの量において、より効率的に導かれ、以て、かかる空間内で生ずる渦流が、更に効果的に解消乃至は小さく為され得る。そして、その結果として、車両走行時における車体下部で生ずる空気抵抗が、より一層有利に低下せしめられ得るのである。
【0016】
(3) 上記せる態様(1)又は態様(2)において、前記凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結する状態で、車体の前方に位置する側面が、湾曲面とされていること。この本態様によれば、凹溝の側面のうち、車体の前方に位置する側面において、車体の幅方向に平行に延びる部分、つまり、車両の走行時において、例えば、立上面部の後方側近傍の空間内に生ずるような渦流が凹溝内で発生した場合に、車体の後方に引張する引張力が容易に作用せしめられる部分が、ゼロ乃至は極力小さく為され得る。これによって、車両走行時における車体下部で生ずる空気抵抗の低減が、更に効果的に実現され得る。
【0017】
(4) 上記の態様(1)乃至は態様(3)のうちの何れか一つにおいて、前記凹溝が、車体の後方から前方に向かって漸減する幅を有して構成されていること。この本態様によれば、凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結して、車体前方側位置する側面が、有利に小さく為され得る。従って、かかる本態様によっても、凹溝における車体前方側の側面に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめるような空気の渦流の凹溝内での発生によって、空気抵抗が増大することが、可及的に防止され得る。
【0018】
(5) 上記せる態様(4)において、前記凹溝における車体の幅方向に対向する二つの側面が、車体の後方から前方に向かって互いに接近するように傾斜する傾斜面とされて、該凹溝が平面視三角形形状を呈するように構成されていること。このような本態様によれば、凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結して、車体前方側に位置する側面が省略され得る。従って、凹溝における車体前方側の側面に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめるような空気の渦流が、凹溝内に発生しても、車両走行時における車体下部で生ずる空気抵抗の低減が、有利に達成され得る。
【0019】
(6) 上記の態様(1)乃至は態様(5)のうちの何れか一つにおいて、前記凹溝が、車体の前方から後方に向かって漸増する深さを有して構成されていること。この本態様によっても、凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結して、車体前方側位置する側面が、有利に小さく為され得、その結果として、上記せる態様(3)や態様(4)において奏される作用・効果が有効に享受され得る。しかも、本態様によれば、平面部に沿って流れる空気が、凹溝にて、車体後方に向かって斜め上方に案内されて、立上面部が露呈せしめられる立上面部の後方側近傍の空間内に、斜め上方に向かう流れの向きをもって導かれ得る。従って、立上面部の後方側近傍の空間内での渦流の発生が、より効果的に抑制され得て、空気抵抗の低減効果が、より有効に享受され得ることとなる。
【0020】
(7) 上記せる態様(1)乃至は態様(6)のうちの何れか一つにおいて、前記凹溝が、円弧状の縦断面形状を有して構成されていること。この本態様においては、凹溝が、例えば、同じ深さを有する矩形溝とされている場合に比して、凹溝の内周面の面積が有利に小さく為され得る。それによって、凹溝内を案内される空気の内周面との接触抵抗が効果的に減少され、以て、空気抵抗の低減化が、より有効に図られ得る。
【0021】
(8) 上記の態様(1)乃至は態様(6)のうちの何れか一つにおいて、前記凹溝が、V字状の縦断面形状を有して構成されていること。この本態様によれば、凹溝が縦断面円弧状とされる場合よりも、凹溝の内周面の面積が更に一層有利に小さく為され得る。従って、空気抵抗の低減化が、更に一層効果的に図られ得ることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る車両用アンダーカバーの構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0023】
先ず図1及び図2には、本発明に従う構造を有する車両用アンダーカバーの一例として、自動車の車体の前部の下面を覆って設置される自動車用アンダーカバーが、その下面形態と縦断面形態とにおいて、それぞれ概略的に示されている。それらの図から明らかなように、本実施形態のアンダーカバー10は、基板部12と脚部14とを一体的に有し、例えば、ポリアミド樹脂等を用いて形成された樹脂成形品にて、構成されている。
【0024】
より具体的には、アンダーカバー10の基板部12は、全体として、下面16と上面17とが、それぞれ平坦面とされた平板形態を呈している。また、この基板部12においては、アンダーカバー10の車体下面への設置状態下で、図1における上下方向(図2中、左右方向)に対応する長さ方向が、車体の前後方向となる一方、図1における左右方向(図2中、紙面に垂直な方向)に対応する幅方向が、車体の幅方向となるように構成されている。そして、かかる基板部12の上面17の外周縁部に、脚部14が、所定高さ突出し、且つ全周に亘って周方向に連続して延びる枠状形態をもって、一体的に立設されているのである。なお、以下からは、原則として、図1の上下方向を車体前後方向、また、図1の左右方向を車幅方向、更に、基板部12の上面17側と下面16側とをそれぞれ上方と下方と言うこととする。
【0025】
また、かかるアンダーカバー10においては、基板部12の外周部における周上の、例えば6個所に、下面16において開口する凹所18が、周方向に所定間隔をおいて、それぞれ1個ずつ、設けられている。それら各凹所18は、図3及び図4に示されるように、脚部14の高さよりも小さな深さ位置に、下面16と平行に配された矩形の内側底面部20と、車体前後方向と車幅方向とにそれぞれ対向する状態、つまり車体前後方向と車幅方向とに向かってそれぞれ露呈せしめられた状態で、下面16と垂直となるように位置せしめられた4個の矩形の内側側面部22a〜22dとを備えた矩形形状を有している。また、かかる内側底面部20の中心部には、円形の貫通孔24が、形成されている。なお、図1中、19はフランジ部であって、基板部12の前部を車体の下面に取り付ける取付ボルトの挿通孔21を有して構成されている。
【0026】
そして、図1乃至図4から明らかなように、基板部12の下面16には、補強ビード26が、車幅方向に互いに等間隔を隔てて、例えば6個形成されている。これら6個の補強ビード26は、何れも、比較的に狭幅の矩形縦断面形状をもって、基板部12の下面16から下方に向かって所定高さ突出し、且つ下面16に設けられた6個の凹所18に向かって、下面16の前部から後方に向かって真っ直ぐに連続して延びる突条形態を呈している。換言すれば、補強ビード26は、上面17において開口する矩形凹溝形態をもって、前後方向に延びるように形成されているのである。
【0027】
また、かかる補強ビード26にあっては、下面16と平行に延びる平坦面からなる外側底面部28と、車体前後方向と車幅方向とにそれぞれ対向位置する、換言すれば、車体前後方向と車幅方向とに向かってそれぞれ露呈せしめられる4個の外側側面部30a〜30dとを有している。なお、それら4個の外側側面部30a〜30dのうち、車体の前方側に向かって露呈せしめられる前部外側側面部30aが、後方に向かって下傾する傾斜面とされており、また、かかる前部外側側面部30aを除く3個の外側側面部30b〜30dは、下面16と垂直な垂直面とされている。そして、特に、下面16と垂直に位置せしめられた3個の外側側面部30b〜30dのうち、車体後方側に向かって露呈せしめられる後部外側側面部30bが、各補強ビード26の後方に位置せしめられた凹所18における前記4個の内側側面部22a〜22dのうちで、車体後方側に向かって露呈せしめられた状態で下面16と垂直とされた前部内側側面部22aと連続面とされている。
【0028】
さらに、そのような補強ビード26の後方側端部における車幅方向の両サイドには、風除け部32が、かかる補強ビード26の後方側端部を間に挟んで隣り合うように位置せしめられた状態で、それぞれ1個ずつ設けられている。この風除け部32は、後方に向かって下傾する傾斜案内面部34を、下面として有すると共に、車体の後方側に向かって露呈せしめられて、下面16に対して垂直面となる後部外側側面部36とを有している。そして、傾斜案内面部34の後端縁に位置する頂部が、それと隣り合う別の風除け部32との間に位置する補強ビード26の後端縁部と、同一の高さで、車幅方向に連続して延びるように位置せしめられており、また、後部外側側面部36が、各凹所18における前記4個の内側側面部22a〜22dのうちで、車体後方側に向かって露呈せしめられた状態で下面16と垂直とされた前部内側側面部22aと連続面とされている。なお、ここでは、各風除け部32の傾斜案内面部34の頂部と各補強ビード26の外側底面部28の高さが、各凹所18の内側底面部20における貫通孔24内に挿通される、後述する取付ボルトの頭部の高さよりも所定寸法高くされている。
【0029】
これによって、ここでは、凹所18の前部内側側面部22aと、凹所18の前方に位置する補強ビード26の後部外側側面部30bと、補強ビード26の後端部の両サイドに位置する各風除け部32の後部外側側面部36とにて、一つの平面αが、形成されている。そして、この平面αが、基板部12の下面16に平行な平面からなる補強ビード26の外側底面部28と、かかる下面16から後方に向かって下傾する傾斜平面からなる風除け部32の傾斜案内面部34とからそれぞれ立ち上がり、且つ車体の後方に向かって露呈せしめられるように位置せしめられている。このことから明らかなように、本実施形態においては、補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34とにて、車体の前後方向に延びる平面部が構成される一方、凹所18の前部内側側面部22aと補強ビード26の後部外側側面部30bと風除け部32の後部外側側面部36とからなる平面αにて、立上面部が構成されている。
【0030】
そうして、本実施形態のアンダーカバー10にあっては、脚部14の先端面を、図示しない自動車の車体の前部の下面に当接させることにより、かかる車体の下面に対して、上面17を脚部14の高さ分だけの距離を隔てて対向させた状態で配置され、また、そのような配置状態下で、前記フランジ部19の挿通孔21や各凹所18や貫通孔24に挿通された取付ボルトが、車体の下面にボルト固定されることで、車体の前部の下面に、その略全体を覆った状態で取り付けられるようになっている。
【0031】
かくして、アンダーカバー10においては、6個の補強ビード26の存在により、基板部12、ひいてはアンダーカバー10全体の曲げ強度が有利に高められている。また、基板部12の下面16と補強ビード26の外側底面部28とが平坦面とされていると共に、補強ビード26の前部外側側面部30aが後方に向かって下傾する傾斜面とされていることで、車体の下面に設置された状態での自動車の走行時に、車体の下方を流れる走行風(空気)が、基板部12の下面16や補強ビード26の外側底面部28に沿って、水平方向にスムーズに流動せしめられると共に、かかる走行風が、補強ビード26の前部外側側面部30aに対して、その流れを遮られるように衝突して、大きな空気抵抗が生ずるようなことが可及的に抑制され得るようになっている。しかも、基板部12の下面16に沿って流れる走行風が、凹所18の形成部位に到達したときには、風除け部32の傾斜案内面部34に案内されて、かかる走行風の流れの向きがスムーズに下方に変えられるようになっており、それによって、かかる走行風が、各凹所18の貫通孔24内に挿通された取付ボルトの頭部に衝突して、その流れに乱れが生ずるようなことも、防止され得るようになっている。
【0032】
而して、かくの如き構造とされた本実施形態のアンダーカバー10にあっては、特に、各補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34とに対して、各走行風の乱れを更に有利に抑制するための凹溝38,40が、それぞれ複数個(ここでは、3個)ずつ、形成されている。
【0033】
すなわち、図3乃至図6から明らかなように、補強ビード26の外側底面部28においては、平面αとの間で形成される角部42を含む後端部に、前後方向に所定長さで延び、且つ外側底面部28と平面αの後部外側側面部30bの両方の面において、下方と後方とに向かってそれぞれ開口する凹溝38が、車幅方向に隣接して、並列する状態で、複数個(ここでは3個)設けられている。また、風除け部32の傾斜案内面部34においても、その頂部、つまり平面αとの間で形成される角部42を含む後端部に、前後方向に所定長さで延び、且つ傾斜案内面部34と平面αの後部外側側面部36の両方の面において、下方と後方とに向かってそれぞれ開口する凹溝40が、車幅方向に隣接して、並列する状態で、複数個(ここでは3個)設けられている。
【0034】
そして、ここでは、それら補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34とにそれぞれ複数個ずつ設けられた凹溝38,40のそれぞれが、何れも、下方への開口側に向かって相互に離間するように傾斜する傾斜面からなる2個の側面部44,44を備えた縦断面V字形状を有している。また、それら各凹溝38,40においては、2個の側面部44,44が、前方に向かって互いに接近するように配置されており、それによって、溝幅が、前方に向かうに従って徐々に小さくされて、平面視が二等辺三角形形状を呈するように構成されている。
【0035】
そしてまた、補強ビード26の外側底面部28に設けられた凹溝38は、図5に示されるように、2個の側面部44,44との間で形成される角部からなる、車体前後方向に延びる線状の底部46が、後方に向かって上傾するように傾斜せしめられている。これによって、溝深さが、後方に向かうに従って徐々に大きくされている。
【0036】
一方、風除け部32の傾斜案内面部34に設けられた凹溝40は、図6に示されるように、傾斜案内面部34が、後方に向かって下傾するように傾斜せしめられているのに対して、2個の側面部44,44との間で形成される角部からなる、車体前後方向に延びる線状の底部46が、後方に向かって水平に(基板部12の下面16や補強ビード26の外側底面部28と平行に)延出せしめられている。これによって、風除け部32の傾斜案内面部34に設けられた凹溝40の深さも、後方に向かうに従って漸増せしめられるようになっている。
【0037】
かくして、本実施形態のアンダーカバー10にあっては、図5に矢印:ア,イで示されるように、車体の下面に設置された状態での自動車の走行時に、車体の下方において、補強ビード26の外側底面部28に沿って水平に流れる走行風が凹所18の形成部位に到達したときに、かかる走行風の一部が、複数の凹溝38内に入り込むようになる。そして、それら複数の凹溝38内のそれぞれに入り込んだ走行風が、各凹溝38の側面部42や線状底部46に案内されて、流れの向きを上方に変えながら、凹所18内に、内側底面部20に向かって流入せしめられる。
【0038】
このとき、例えば、走行風が、凹溝38内に入り込むことなく、補強ビード26の外側底面部28に沿って水平方向(矢印:アの方向)にのみ流れる場合には、凹所18の下方を流通する走行風の影響で、凹所18内における平面αの近傍が負圧となって、図5に二点鎖線の矢印:ウで示される如き比較的に大きな渦流が生ぜしめられるようになる。しかしながら、ここでは、走行風の一部が、凹溝38に案内されて、凹所18内に流入せしめられるため、凹所18の下方を流通する走行風の影響による、凹所18内における平面αの近傍部分での負圧化が可及的に小さく抑えられて、図5に実線の矢印:エで示されるように、凹所18内で発生する渦流が、効果的に小さく為され得るようになる。
【0039】
また、図6にも矢印:ア,イで示されるように、ここでは、アンダーカバー10が設置された自動車の走行時に、車体の下方において、基板部12の下面16に沿って水平に流れる走行風が、凹所18の形成部位に到達して、風除け部32の傾斜案内面部34にて、かかる走行風の流れの向きが下方に変えられる一方で、そのような走行風の一部が、複数の凹溝40内に入り込むようになる。そして、それら複数の凹溝40内のそれぞれに入り込んだ走行風が、各凹溝40の側面部42や線状底部46に案内されて、流れの向きを再び水平方向に変えながら、凹所18内の内側底面部20の近傍部分に流入せしめられる。
【0040】
このとき、例えば、走行風が、凹溝40内に入り込むことなく、風除け部32の傾斜案内面部34に沿って下向き方向(矢印:アの方向)にのみ流れる場合には、凹所18の下方を流通する走行風の影響で、凹所18内における平面αの近傍が負圧となって、図6に二点鎖線の矢印:ウで示される如き比較的に大きな渦流が生ぜしめられるようになる。しかしながら、ここでは、走行風の一部が、凹溝40に案内されて、凹所18内の内側底面部20の近傍部分に流入せしめられるため、凹所18の下方を流通する走行風の影響による、凹所18内における平面αの近傍部分での負圧化が可及的に小さく抑えられて、図6に実線の矢印:エで示されるように、凹所18内で発生する渦流が、効果的に小さく為され得るようになる。
【0041】
このように、本実施形態においては、車体の下方を、基板部12の下面16や、補強ビード26の外側底面部28、風除け部32の傾斜案内面部34等に沿ってスムーズに流れる走行風の一部が、凹溝38,40に案内されて、凹所18内に流入せしめられるようになっていることにより、平面αに対して、その全体を後方に引張する引張力を作用せしめる空気の渦流が、効果的に小さく為され得る。そして、特に、ここでは、凹溝38が、上傾して延びる線状底部46を有しているところから、かかる凹溝38内に入り込んだ走向風が、凹所18内に、その内側底面20に向かって、斜め上向きに流入せしめられるようになり、これによって、走向風が内側底面20に平行な向きで凹所18内に流れ込む場合に比して、凹所18内で発生する渦流が、より一層有利に小さく為され得る。
【0042】
従って、かくの如き本実施形態に係るアンダーカバー10にあっては、車体の下面に装着された状態下において、自動車の走行時における車体下部での空気抵抗を、より一層十分に且つ効果的に低減せしめることが出来る。そして、その結果として、自動車の走行安定性と燃費の両方の向上が、極めて有利に図られ得るのである。
【0043】
また、かかるアンダーカバー10においては、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34にそれぞれ複数設けられて、車体の下方を流れる走行風の一部を、凹所18内の内側底面部20の近傍部分に流入せしめるように案内する凹溝38,40が、何れも、前方に向かうに従って徐々に小さくされた深さと幅とを有して、平面視が二等辺三角形形状を呈するように構成されているところから、各凹溝38,40において、後方側に向かって露呈せしめられる側面部分が、存在しないようになっている。それ故、そのような各凹溝38,40内に走行風が入り込んだときに、各凹溝38,40内で渦流が生じても、そのような渦流が、後方側に向かって露呈せしめられる側面部分に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめるようなことが効果的に解消され得るのであり、これによっても、自動車の走行時における車体下部での空気抵抗の更なる低減化が、有利に図られ得ることとなる。
【0044】
さらに、本実施形態では、走行風が流通せしめられる各凹溝38,40が縦断面V字形状を有して構成されているため、例えば、各凹溝38,40と同一の深さと縦断面矩形形状を呈する凹溝内を走行風が流通せしめられる場合に比して、内部を流通する走行風との接触面の面積が、各凹溝38,40において、有利に小さく為され得る。その結果、各凹溝38,40の内面に対する走行風の接触抵抗が効果的に減少され、これによっても、空気抵抗の低減化が有利に図られ得る。
【0045】
なお、ここにおいて、本実施形態に係るアンダーカバー10が、上述せる如き特徴を確実に発揮され得るものであることを確かめるために、本発明者等によって実施された流体解析(CFD)について、詳述する。
【0046】
すなわち、先ず、図1乃至図6に示される如き構造を有し、且つ凹溝38,40の長さが60mm、最大幅が20mm、最大深さが2mmとされたアンダーカバー10を想定し、走行風の流速を100km/hとしたときの効力係数を、流体解析によって求めた。また、それとは別に、図1乃至図6に示される如き構造を有し、且つ凹溝38,40の長さと最大幅とが、上記と同一の大きさとされるものの、最大深さが4mm、6mm、8mm、10mmの互いに異なる大きさとされた4種類のアンダーカバー10を更に想定し、そして、それら4種類のアンダーカバー10において、走行風の流速を100km/hとしたときの効力係数を、流体解析によって、それぞれ求めた。更に、凹溝38,40が何等設けられていない(つまり、凹溝38,40の深さが0mmとされている)以外、図1乃至図6に示される如き構造と同様な構造を有するアンダーカバー10を想定し、走行風の流速を100km/hとしたときの効力係数を、流体解析によって求めた。それらの結果を、図7に併せて示した。
【0047】
かかる図7から明らかなように、凹溝38,40を設けることによって、効力係数が確実に減少せしめられることが、認められる。これは、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34に対する凹溝38,40の形成により、空気抵抗の低減化が図られ得ることを、如実に示している。
【0048】
また、上記と同様なシミュレーション条件で6種類のアンダーカバー10(凹溝38,40の長さと最大幅が同じであるものの、最大深さが互いに異なる5種類のアンダーカバーと、凹溝38,40が何等設けられていない1種類のアンダーカバー)を想定し、それら6種類のアンダーカバー10のそれぞれにおいて、基板部12の下面16のうち、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34の形成領域(図3におけるA領域)と、凹溝38,40の後端縁部と平面αの形成領域(図3におけるB領域)と、凹所18の車体前後方向中間部分の形成領域(図3におけるC領域)と、凹所18における後部内側側面部22bを含む部分の形成領域(図3におけるD領域)のそれぞれの領域での効力を、流体解析によって求めた。その結果を、図8に併せて示した。
【0049】
かかる図8から明らかなように、凹溝38,40を設けることによって、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34の形成領域での効力が確実に減少せしめられることが、認められる。これによっても、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34に対する凹溝38,40の形成により、空気抵抗の低減化が図られ得ることが、明確に認識され得る。
【0050】
さらに、図1乃至図6に示される如き構造を有し、且つ凹溝38,40の長さが60mm、最大幅が20mm、最大深さが2mmとされたアンダーカバー10を想定し、走行風の流速を100km/hとしたときのアンダーカバー10の下方における圧力分布を、流体解析によって求めた。その結果を、図9に示した。
【0051】
また、それとは別に、凹溝38,40が何等設けられていない以外、図1乃至図6に示される如き構造と同様な構造を有するアンダーカバー10を想定し、走行風の流速を100km/hとしたときのアンダーカバー10の下方における圧力分布を、流体解析によって求めた。その結果を、図10に示した。
【0052】
それら図9及び図10から明らかなように、凹溝38,40を設けることによって、凹所18内における負圧化された領域が、確実に小さくされていることが、認められる。これによっても、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34に対する凹溝38,40の形成により、空気抵抗の低減化が図られ得ることが、明確に認識され得る。なお、かかる図9及び図10、並びに後述する図11及び図12に関しては、図1乃至図6に示された前記実施形態と同様な構造とされた部材及び部位について、図1乃至図6と同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略した。
【0053】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0054】
例えば、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34にそれぞれ設けられる凹溝38,40の配設個数や長さは、例示のものに、何等限定されるものではなく、外側底面部28や傾斜案内面部34の幅や長さ等に応じて、適宜に決定されるところである。
【0055】
また、そのような凹溝38,40の幅も、全長に亘って同じ幅とされていても良く、或いは後方側が前方側よりも多少小さくされていても、何等差し支えない。
【0056】
さらに、凹溝38,40の平面視形状も、例示のものに何等限定されるものではなく、例えば、図11に示されるように、凹溝38,40が、平面視略U字形状とされていても良い。この図11に示されるアンダーカバー10では、凹溝38,40の側面部分のうち、後方側に向かって露呈せしめられる側面部分48が湾曲形状とされる。それ故、後方側に向かって露呈せしめられる側面部分48において、車体の幅方向に平行に延びる部分、つまり、車両の走行時に、例えば、凹溝38,40内で渦流が生じたときに、かかる渦流にて、車体の後方に引張する引張力が容易に作用せしめられる部分が、ゼロ乃至は極力小さく為され得る。従って、凹溝38,40が、平面視略U字形状とされることによっても、自動車の走行時における車体下部で生ずる空気抵抗の低減化が、有利に達成され得ることとなる。
【0057】
また、凹溝38,40の縦断面形状も、例示のV字形状に特に限定されるものではなく、例えば、図12に示されるように、かかる縦断面形状を円弧形状とすることも可能である。この場合にあっても、例えば、各凹溝38,40と同一の深さと縦断面矩形形状を呈する凹溝内を走行風が流通せしめられる場合に比して、内部を流通する走行風との接触面の面積が、各凹溝38,40において、有利に小さく為され得る。従って、各凹溝38,40の内面に対する走行風の接触抵抗が効果的に減少されて、空気抵抗の低減化が有利に図られ得る。
【0058】
さらに、前記幾つかの実施形態では、空気抵抗の更なる低減化を図る凹溝38,40が、補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34の両方に、それぞれ設けられていたが、それらのうちの何れか一方のみに設けられていても良い。
【0059】
また、かかる凹溝38,40は、その形成部位が、補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34に何等限定されるものでなく、車体の前後方向に延びる平面部のうち、かかる平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部との間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、平面部と立上面部の両面において開口するように設けられるものである。
【0060】
従って、例えば、基板部12の下面16において開口する凹溝形態をもって、車体の前後方向や車幅方向に延びるように形成されたビードや、基板部12の下面16に設けられた、ビード以外の凹部、或いは孔部等のそれぞれのものにおける側面と基板部12の下面16との間で形成される角部を含む下面16部分等に対しても、凹溝38,40が、適宜に形成される。
【0061】
加えて、本発明は、自動車の車体の下面を覆って設置されるアンダーカバーの他、自動車以外の車両における車体の下面を覆って設置される車両用アンダーカバーの何れに対しても、有利に適用可能であることは、勿論である。
【0062】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に従う車両用アンダーカバーの一実施形態を示す下面説明図である。
【図2】図1におけるII−II断面の拡大説明図である。
【図3】図1における部分拡大説明図である。
【図4】図2におけるIV−IV断面の拡大説明図である。
【図5】図3におけるV−V断面の部分拡大説明図である。
【図6】図3におけるVI−VI断面の部分拡大説明図である。
【図7】本発明に従う構造を有し、且つ凹溝の最大深さが互いに異なる5種類の車両用アンダーカバーと従来の車両用アンダーカバーとを想定した流体解析により求めた、凹溝の深さと抗力係数との関係を示すグラフである。
【図8】本発明に従う構造を有し、且つ凹溝の最大深さが互いに異なる5種類の車両用アンダーカバーと従来の車両用アンダーカバーとを想定した流体解析により求めた、凹溝の深さと抗力との関係を、互いに異なる部位毎に示すグラフである。
【図9】本発明に従う構造を有する車両用アンダーカバーを想定した流体解析により求めた、アンダーカバーの下方での圧力分布を示すグラフである。
【図10】従来の車両用アンダーカバーを想定した流体解析により求めた、アンダーカバーの下方での圧力分布を示すグラフである。
【図11】図1に示された車両用アンダーカバーの別の実施形態を示す図3に対応する図である。
【図12】図1に示された車両用アンダーカバーの更に別の実施形態を示す図4に対応する図である。
【符号の説明】
【0064】
10 アンダーカバー 12 基板部
14 脚部 16 下面
18 凹所 20 内側底面部
22 内側側面部 26 補強ビード
28 外側底面部 30 外側側面部
32 風除け部 34 傾斜案内面部
36 後部外側側面部 38,40 凹溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用アンダーカバーに係り、特に、車体下部での空気抵抗を低減せしめることを主な目的として、車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーの改良された構造に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、自動車等の車両では、車体表面に凹凸部が存在すると、走行時における車体表面での空気の円滑な流れが阻害されるようになり、それによって、空気抵抗が増大して、走行安定性が損なわれたり、或いは燃費が悪化する等の問題が惹起される。このため、近年では、車体の側面や上面は勿論、下面についても、空気抵抗の低下が、車体設計上での重要な要素となっている。
【0003】
かかる状況下、車体下部での空気抵抗を低減せしめることを主な目的として、車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーにおいて、車体下部を流れる空気の流れをよりスムーズにする等して、空気抵抗の更なる低減化を図るようにした構造が、種々提案されている(例えば、下記特許文献1及び2参照)。
【0004】
ところが、それら従来の車両用アンダーカバーの構造について、本発明者が様々な角度から検討を加えたところ、空気抵抗の低減効果が、期待される程、十分に得られるものでないことが、明らかとなった。
【0005】
すなわち、従来の車両用アンダーカバーの多くのものは、空気の流れを円滑化するために、通常、下面の大部分が、車体の前後方向に延びる平面部とされているが、その平面部には、凹部や孔部、或いは段差等が、所々、不可避的に存在する。例えば、平面部において開口して、車体の前後方向や幅方向に延びる矩形の凹溝形態等を呈する補強ビードや、取付ボルト等が挿通される取付孔等が、それである。そして、それら平面部に存在する補強ビードや取付孔等の凹部や孔部、或いは段差部においては、その側面や内周面、段付け面のうちの少なくとも一部が、平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部として、形成されている。
【0006】
それ故、そのような平面部とそれに連続する立上面部とを有するアンダーカバーが装着された車両の走行時には、アンダーカバーの下方を流れる空気が、平面部に沿って後方にスムーズに流動せしめられるようになるものの、走行速度が大きくなればなる程、立上面部が露呈せしめられる立上面部の後方側近傍の空間内への空気の流入が困難となる。そして、それにより、立上面部の後方側近傍の空間内が負圧となって、そこで、立上面部に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめる空気の渦流(旋回流)が不可避的に生ぜしめられるようになる。
【0007】
従って、従来のアンダーカバーのうち、特に、上記せる如き平面部と立上面部とを有するものにおいては、立上面部の後方側近傍の空間内で比較的に大きな空気抵抗が発生せしめられることとなり、その結果として、所期の空気低減効果を得ることが出来なくなってしまうのである。
【0008】
【特許文献1】特開平7−215073号公報
【特許文献2】特開平8−127367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、車体下部での空気抵抗の低減化が、より効果的に且つ確実に達成され得る車両用アンダーカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては、かかる課題の解決のために、その要旨とするところは、車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーであって、車体の前後方向に延びる平面部と、該平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部とを一体的に有するものにおいて、前記平面部のうち、前記立上面部との間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、該平面部と該立上面部の両面において開口する凹溝を設けたことを特徴とする車両用アンダーカバーにある。
【発明の効果】
【0011】
すなわち、本発明に従う車両用アンダーカバーにあっては、車体下面への装着下での車両の走行時に、平面部に沿って流れる空気が、凹溝内に侵入し、また、この凹溝に案内されて、立上面部が露呈せしめられる立上面部の後方側近傍の空間内に導かれるようになる。そのため、走行速度が大きい場合にも、立上面部に沿って流れる空気が、立上面部の後方側近傍の空間内に、容易に且つスムーズに流入せしめられるようになり、それによって、そのような空間内の負圧化が有利に抑制され得る。そして、その結果、立上面部に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめる空気の渦流が、立上面部の後方側近傍の空間内で生ずることが効果的に解消されるか、若しくはそのような渦流が可及的に小さく為され得る。
【0012】
従って、かくの如き本発明に従う車両用アンダーカバーにおいては、車体の前後方向に延びる平面部と、その平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部とを一体的に有するものであっても、車体の下面に装着された状態下において、車両走行時における車体下部での空気抵抗の低減化が、より効果的に且つ更に確実に達成され得ることとなる。そして、その結果として、車両の走行安定性と燃費とを、何れも有利に向上せしめることが出来るのである。
【発明の態様】
【0013】
ところで、本発明は、少なくとも、以下に列挙する如き各種の態様において、好適に実施され得るものである。
【0014】
(1) 車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーであって、車体の前後方向に延びる平面部と、該平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部とを一体的に有するものにおいて、前記平面部のうち、前記立上面部との間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、該平面部と該立上面部の両面において開口する凹溝を設けたことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【0015】
(2) 上記の態様(1)において、前記凹溝が、前記平面部における前記角部を含む部分に、車体の幅方向に並列して位置する状態で複数設けられていること。本態様によれば、凹溝が一個だけ設けられる場合に比して、平面部に沿って流れる空気が、複数の凹溝に案内されて、立上面部が露呈せしめられる立上面部の後方側近傍の空間内に、より多くの量において、より効率的に導かれ、以て、かかる空間内で生ずる渦流が、更に効果的に解消乃至は小さく為され得る。そして、その結果として、車両走行時における車体下部で生ずる空気抵抗が、より一層有利に低下せしめられ得るのである。
【0016】
(3) 上記せる態様(1)又は態様(2)において、前記凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結する状態で、車体の前方に位置する側面が、湾曲面とされていること。この本態様によれば、凹溝の側面のうち、車体の前方に位置する側面において、車体の幅方向に平行に延びる部分、つまり、車両の走行時において、例えば、立上面部の後方側近傍の空間内に生ずるような渦流が凹溝内で発生した場合に、車体の後方に引張する引張力が容易に作用せしめられる部分が、ゼロ乃至は極力小さく為され得る。これによって、車両走行時における車体下部で生ずる空気抵抗の低減が、更に効果的に実現され得る。
【0017】
(4) 上記の態様(1)乃至は態様(3)のうちの何れか一つにおいて、前記凹溝が、車体の後方から前方に向かって漸減する幅を有して構成されていること。この本態様によれば、凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結して、車体前方側位置する側面が、有利に小さく為され得る。従って、かかる本態様によっても、凹溝における車体前方側の側面に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめるような空気の渦流の凹溝内での発生によって、空気抵抗が増大することが、可及的に防止され得る。
【0018】
(5) 上記せる態様(4)において、前記凹溝における車体の幅方向に対向する二つの側面が、車体の後方から前方に向かって互いに接近するように傾斜する傾斜面とされて、該凹溝が平面視三角形形状を呈するように構成されていること。このような本態様によれば、凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結して、車体前方側に位置する側面が省略され得る。従って、凹溝における車体前方側の側面に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめるような空気の渦流が、凹溝内に発生しても、車両走行時における車体下部で生ずる空気抵抗の低減が、有利に達成され得る。
【0019】
(6) 上記の態様(1)乃至は態様(5)のうちの何れか一つにおいて、前記凹溝が、車体の前方から後方に向かって漸増する深さを有して構成されていること。この本態様によっても、凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結して、車体前方側位置する側面が、有利に小さく為され得、その結果として、上記せる態様(3)や態様(4)において奏される作用・効果が有効に享受され得る。しかも、本態様によれば、平面部に沿って流れる空気が、凹溝にて、車体後方に向かって斜め上方に案内されて、立上面部が露呈せしめられる立上面部の後方側近傍の空間内に、斜め上方に向かう流れの向きをもって導かれ得る。従って、立上面部の後方側近傍の空間内での渦流の発生が、より効果的に抑制され得て、空気抵抗の低減効果が、より有効に享受され得ることとなる。
【0020】
(7) 上記せる態様(1)乃至は態様(6)のうちの何れか一つにおいて、前記凹溝が、円弧状の縦断面形状を有して構成されていること。この本態様においては、凹溝が、例えば、同じ深さを有する矩形溝とされている場合に比して、凹溝の内周面の面積が有利に小さく為され得る。それによって、凹溝内を案内される空気の内周面との接触抵抗が効果的に減少され、以て、空気抵抗の低減化が、より有効に図られ得る。
【0021】
(8) 上記の態様(1)乃至は態様(6)のうちの何れか一つにおいて、前記凹溝が、V字状の縦断面形状を有して構成されていること。この本態様によれば、凹溝が縦断面円弧状とされる場合よりも、凹溝の内周面の面積が更に一層有利に小さく為され得る。従って、空気抵抗の低減化が、更に一層効果的に図られ得ることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る車両用アンダーカバーの構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0023】
先ず図1及び図2には、本発明に従う構造を有する車両用アンダーカバーの一例として、自動車の車体の前部の下面を覆って設置される自動車用アンダーカバーが、その下面形態と縦断面形態とにおいて、それぞれ概略的に示されている。それらの図から明らかなように、本実施形態のアンダーカバー10は、基板部12と脚部14とを一体的に有し、例えば、ポリアミド樹脂等を用いて形成された樹脂成形品にて、構成されている。
【0024】
より具体的には、アンダーカバー10の基板部12は、全体として、下面16と上面17とが、それぞれ平坦面とされた平板形態を呈している。また、この基板部12においては、アンダーカバー10の車体下面への設置状態下で、図1における上下方向(図2中、左右方向)に対応する長さ方向が、車体の前後方向となる一方、図1における左右方向(図2中、紙面に垂直な方向)に対応する幅方向が、車体の幅方向となるように構成されている。そして、かかる基板部12の上面17の外周縁部に、脚部14が、所定高さ突出し、且つ全周に亘って周方向に連続して延びる枠状形態をもって、一体的に立設されているのである。なお、以下からは、原則として、図1の上下方向を車体前後方向、また、図1の左右方向を車幅方向、更に、基板部12の上面17側と下面16側とをそれぞれ上方と下方と言うこととする。
【0025】
また、かかるアンダーカバー10においては、基板部12の外周部における周上の、例えば6個所に、下面16において開口する凹所18が、周方向に所定間隔をおいて、それぞれ1個ずつ、設けられている。それら各凹所18は、図3及び図4に示されるように、脚部14の高さよりも小さな深さ位置に、下面16と平行に配された矩形の内側底面部20と、車体前後方向と車幅方向とにそれぞれ対向する状態、つまり車体前後方向と車幅方向とに向かってそれぞれ露呈せしめられた状態で、下面16と垂直となるように位置せしめられた4個の矩形の内側側面部22a〜22dとを備えた矩形形状を有している。また、かかる内側底面部20の中心部には、円形の貫通孔24が、形成されている。なお、図1中、19はフランジ部であって、基板部12の前部を車体の下面に取り付ける取付ボルトの挿通孔21を有して構成されている。
【0026】
そして、図1乃至図4から明らかなように、基板部12の下面16には、補強ビード26が、車幅方向に互いに等間隔を隔てて、例えば6個形成されている。これら6個の補強ビード26は、何れも、比較的に狭幅の矩形縦断面形状をもって、基板部12の下面16から下方に向かって所定高さ突出し、且つ下面16に設けられた6個の凹所18に向かって、下面16の前部から後方に向かって真っ直ぐに連続して延びる突条形態を呈している。換言すれば、補強ビード26は、上面17において開口する矩形凹溝形態をもって、前後方向に延びるように形成されているのである。
【0027】
また、かかる補強ビード26にあっては、下面16と平行に延びる平坦面からなる外側底面部28と、車体前後方向と車幅方向とにそれぞれ対向位置する、換言すれば、車体前後方向と車幅方向とに向かってそれぞれ露呈せしめられる4個の外側側面部30a〜30dとを有している。なお、それら4個の外側側面部30a〜30dのうち、車体の前方側に向かって露呈せしめられる前部外側側面部30aが、後方に向かって下傾する傾斜面とされており、また、かかる前部外側側面部30aを除く3個の外側側面部30b〜30dは、下面16と垂直な垂直面とされている。そして、特に、下面16と垂直に位置せしめられた3個の外側側面部30b〜30dのうち、車体後方側に向かって露呈せしめられる後部外側側面部30bが、各補強ビード26の後方に位置せしめられた凹所18における前記4個の内側側面部22a〜22dのうちで、車体後方側に向かって露呈せしめられた状態で下面16と垂直とされた前部内側側面部22aと連続面とされている。
【0028】
さらに、そのような補強ビード26の後方側端部における車幅方向の両サイドには、風除け部32が、かかる補強ビード26の後方側端部を間に挟んで隣り合うように位置せしめられた状態で、それぞれ1個ずつ設けられている。この風除け部32は、後方に向かって下傾する傾斜案内面部34を、下面として有すると共に、車体の後方側に向かって露呈せしめられて、下面16に対して垂直面となる後部外側側面部36とを有している。そして、傾斜案内面部34の後端縁に位置する頂部が、それと隣り合う別の風除け部32との間に位置する補強ビード26の後端縁部と、同一の高さで、車幅方向に連続して延びるように位置せしめられており、また、後部外側側面部36が、各凹所18における前記4個の内側側面部22a〜22dのうちで、車体後方側に向かって露呈せしめられた状態で下面16と垂直とされた前部内側側面部22aと連続面とされている。なお、ここでは、各風除け部32の傾斜案内面部34の頂部と各補強ビード26の外側底面部28の高さが、各凹所18の内側底面部20における貫通孔24内に挿通される、後述する取付ボルトの頭部の高さよりも所定寸法高くされている。
【0029】
これによって、ここでは、凹所18の前部内側側面部22aと、凹所18の前方に位置する補強ビード26の後部外側側面部30bと、補強ビード26の後端部の両サイドに位置する各風除け部32の後部外側側面部36とにて、一つの平面αが、形成されている。そして、この平面αが、基板部12の下面16に平行な平面からなる補強ビード26の外側底面部28と、かかる下面16から後方に向かって下傾する傾斜平面からなる風除け部32の傾斜案内面部34とからそれぞれ立ち上がり、且つ車体の後方に向かって露呈せしめられるように位置せしめられている。このことから明らかなように、本実施形態においては、補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34とにて、車体の前後方向に延びる平面部が構成される一方、凹所18の前部内側側面部22aと補強ビード26の後部外側側面部30bと風除け部32の後部外側側面部36とからなる平面αにて、立上面部が構成されている。
【0030】
そうして、本実施形態のアンダーカバー10にあっては、脚部14の先端面を、図示しない自動車の車体の前部の下面に当接させることにより、かかる車体の下面に対して、上面17を脚部14の高さ分だけの距離を隔てて対向させた状態で配置され、また、そのような配置状態下で、前記フランジ部19の挿通孔21や各凹所18や貫通孔24に挿通された取付ボルトが、車体の下面にボルト固定されることで、車体の前部の下面に、その略全体を覆った状態で取り付けられるようになっている。
【0031】
かくして、アンダーカバー10においては、6個の補強ビード26の存在により、基板部12、ひいてはアンダーカバー10全体の曲げ強度が有利に高められている。また、基板部12の下面16と補強ビード26の外側底面部28とが平坦面とされていると共に、補強ビード26の前部外側側面部30aが後方に向かって下傾する傾斜面とされていることで、車体の下面に設置された状態での自動車の走行時に、車体の下方を流れる走行風(空気)が、基板部12の下面16や補強ビード26の外側底面部28に沿って、水平方向にスムーズに流動せしめられると共に、かかる走行風が、補強ビード26の前部外側側面部30aに対して、その流れを遮られるように衝突して、大きな空気抵抗が生ずるようなことが可及的に抑制され得るようになっている。しかも、基板部12の下面16に沿って流れる走行風が、凹所18の形成部位に到達したときには、風除け部32の傾斜案内面部34に案内されて、かかる走行風の流れの向きがスムーズに下方に変えられるようになっており、それによって、かかる走行風が、各凹所18の貫通孔24内に挿通された取付ボルトの頭部に衝突して、その流れに乱れが生ずるようなことも、防止され得るようになっている。
【0032】
而して、かくの如き構造とされた本実施形態のアンダーカバー10にあっては、特に、各補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34とに対して、各走行風の乱れを更に有利に抑制するための凹溝38,40が、それぞれ複数個(ここでは、3個)ずつ、形成されている。
【0033】
すなわち、図3乃至図6から明らかなように、補強ビード26の外側底面部28においては、平面αとの間で形成される角部42を含む後端部に、前後方向に所定長さで延び、且つ外側底面部28と平面αの後部外側側面部30bの両方の面において、下方と後方とに向かってそれぞれ開口する凹溝38が、車幅方向に隣接して、並列する状態で、複数個(ここでは3個)設けられている。また、風除け部32の傾斜案内面部34においても、その頂部、つまり平面αとの間で形成される角部42を含む後端部に、前後方向に所定長さで延び、且つ傾斜案内面部34と平面αの後部外側側面部36の両方の面において、下方と後方とに向かってそれぞれ開口する凹溝40が、車幅方向に隣接して、並列する状態で、複数個(ここでは3個)設けられている。
【0034】
そして、ここでは、それら補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34とにそれぞれ複数個ずつ設けられた凹溝38,40のそれぞれが、何れも、下方への開口側に向かって相互に離間するように傾斜する傾斜面からなる2個の側面部44,44を備えた縦断面V字形状を有している。また、それら各凹溝38,40においては、2個の側面部44,44が、前方に向かって互いに接近するように配置されており、それによって、溝幅が、前方に向かうに従って徐々に小さくされて、平面視が二等辺三角形形状を呈するように構成されている。
【0035】
そしてまた、補強ビード26の外側底面部28に設けられた凹溝38は、図5に示されるように、2個の側面部44,44との間で形成される角部からなる、車体前後方向に延びる線状の底部46が、後方に向かって上傾するように傾斜せしめられている。これによって、溝深さが、後方に向かうに従って徐々に大きくされている。
【0036】
一方、風除け部32の傾斜案内面部34に設けられた凹溝40は、図6に示されるように、傾斜案内面部34が、後方に向かって下傾するように傾斜せしめられているのに対して、2個の側面部44,44との間で形成される角部からなる、車体前後方向に延びる線状の底部46が、後方に向かって水平に(基板部12の下面16や補強ビード26の外側底面部28と平行に)延出せしめられている。これによって、風除け部32の傾斜案内面部34に設けられた凹溝40の深さも、後方に向かうに従って漸増せしめられるようになっている。
【0037】
かくして、本実施形態のアンダーカバー10にあっては、図5に矢印:ア,イで示されるように、車体の下面に設置された状態での自動車の走行時に、車体の下方において、補強ビード26の外側底面部28に沿って水平に流れる走行風が凹所18の形成部位に到達したときに、かかる走行風の一部が、複数の凹溝38内に入り込むようになる。そして、それら複数の凹溝38内のそれぞれに入り込んだ走行風が、各凹溝38の側面部42や線状底部46に案内されて、流れの向きを上方に変えながら、凹所18内に、内側底面部20に向かって流入せしめられる。
【0038】
このとき、例えば、走行風が、凹溝38内に入り込むことなく、補強ビード26の外側底面部28に沿って水平方向(矢印:アの方向)にのみ流れる場合には、凹所18の下方を流通する走行風の影響で、凹所18内における平面αの近傍が負圧となって、図5に二点鎖線の矢印:ウで示される如き比較的に大きな渦流が生ぜしめられるようになる。しかしながら、ここでは、走行風の一部が、凹溝38に案内されて、凹所18内に流入せしめられるため、凹所18の下方を流通する走行風の影響による、凹所18内における平面αの近傍部分での負圧化が可及的に小さく抑えられて、図5に実線の矢印:エで示されるように、凹所18内で発生する渦流が、効果的に小さく為され得るようになる。
【0039】
また、図6にも矢印:ア,イで示されるように、ここでは、アンダーカバー10が設置された自動車の走行時に、車体の下方において、基板部12の下面16に沿って水平に流れる走行風が、凹所18の形成部位に到達して、風除け部32の傾斜案内面部34にて、かかる走行風の流れの向きが下方に変えられる一方で、そのような走行風の一部が、複数の凹溝40内に入り込むようになる。そして、それら複数の凹溝40内のそれぞれに入り込んだ走行風が、各凹溝40の側面部42や線状底部46に案内されて、流れの向きを再び水平方向に変えながら、凹所18内の内側底面部20の近傍部分に流入せしめられる。
【0040】
このとき、例えば、走行風が、凹溝40内に入り込むことなく、風除け部32の傾斜案内面部34に沿って下向き方向(矢印:アの方向)にのみ流れる場合には、凹所18の下方を流通する走行風の影響で、凹所18内における平面αの近傍が負圧となって、図6に二点鎖線の矢印:ウで示される如き比較的に大きな渦流が生ぜしめられるようになる。しかしながら、ここでは、走行風の一部が、凹溝40に案内されて、凹所18内の内側底面部20の近傍部分に流入せしめられるため、凹所18の下方を流通する走行風の影響による、凹所18内における平面αの近傍部分での負圧化が可及的に小さく抑えられて、図6に実線の矢印:エで示されるように、凹所18内で発生する渦流が、効果的に小さく為され得るようになる。
【0041】
このように、本実施形態においては、車体の下方を、基板部12の下面16や、補強ビード26の外側底面部28、風除け部32の傾斜案内面部34等に沿ってスムーズに流れる走行風の一部が、凹溝38,40に案内されて、凹所18内に流入せしめられるようになっていることにより、平面αに対して、その全体を後方に引張する引張力を作用せしめる空気の渦流が、効果的に小さく為され得る。そして、特に、ここでは、凹溝38が、上傾して延びる線状底部46を有しているところから、かかる凹溝38内に入り込んだ走向風が、凹所18内に、その内側底面20に向かって、斜め上向きに流入せしめられるようになり、これによって、走向風が内側底面20に平行な向きで凹所18内に流れ込む場合に比して、凹所18内で発生する渦流が、より一層有利に小さく為され得る。
【0042】
従って、かくの如き本実施形態に係るアンダーカバー10にあっては、車体の下面に装着された状態下において、自動車の走行時における車体下部での空気抵抗を、より一層十分に且つ効果的に低減せしめることが出来る。そして、その結果として、自動車の走行安定性と燃費の両方の向上が、極めて有利に図られ得るのである。
【0043】
また、かかるアンダーカバー10においては、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34にそれぞれ複数設けられて、車体の下方を流れる走行風の一部を、凹所18内の内側底面部20の近傍部分に流入せしめるように案内する凹溝38,40が、何れも、前方に向かうに従って徐々に小さくされた深さと幅とを有して、平面視が二等辺三角形形状を呈するように構成されているところから、各凹溝38,40において、後方側に向かって露呈せしめられる側面部分が、存在しないようになっている。それ故、そのような各凹溝38,40内に走行風が入り込んだときに、各凹溝38,40内で渦流が生じても、そのような渦流が、後方側に向かって露呈せしめられる側面部分に対して、それを後方に引張する引張力を作用せしめるようなことが効果的に解消され得るのであり、これによっても、自動車の走行時における車体下部での空気抵抗の更なる低減化が、有利に図られ得ることとなる。
【0044】
さらに、本実施形態では、走行風が流通せしめられる各凹溝38,40が縦断面V字形状を有して構成されているため、例えば、各凹溝38,40と同一の深さと縦断面矩形形状を呈する凹溝内を走行風が流通せしめられる場合に比して、内部を流通する走行風との接触面の面積が、各凹溝38,40において、有利に小さく為され得る。その結果、各凹溝38,40の内面に対する走行風の接触抵抗が効果的に減少され、これによっても、空気抵抗の低減化が有利に図られ得る。
【0045】
なお、ここにおいて、本実施形態に係るアンダーカバー10が、上述せる如き特徴を確実に発揮され得るものであることを確かめるために、本発明者等によって実施された流体解析(CFD)について、詳述する。
【0046】
すなわち、先ず、図1乃至図6に示される如き構造を有し、且つ凹溝38,40の長さが60mm、最大幅が20mm、最大深さが2mmとされたアンダーカバー10を想定し、走行風の流速を100km/hとしたときの効力係数を、流体解析によって求めた。また、それとは別に、図1乃至図6に示される如き構造を有し、且つ凹溝38,40の長さと最大幅とが、上記と同一の大きさとされるものの、最大深さが4mm、6mm、8mm、10mmの互いに異なる大きさとされた4種類のアンダーカバー10を更に想定し、そして、それら4種類のアンダーカバー10において、走行風の流速を100km/hとしたときの効力係数を、流体解析によって、それぞれ求めた。更に、凹溝38,40が何等設けられていない(つまり、凹溝38,40の深さが0mmとされている)以外、図1乃至図6に示される如き構造と同様な構造を有するアンダーカバー10を想定し、走行風の流速を100km/hとしたときの効力係数を、流体解析によって求めた。それらの結果を、図7に併せて示した。
【0047】
かかる図7から明らかなように、凹溝38,40を設けることによって、効力係数が確実に減少せしめられることが、認められる。これは、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34に対する凹溝38,40の形成により、空気抵抗の低減化が図られ得ることを、如実に示している。
【0048】
また、上記と同様なシミュレーション条件で6種類のアンダーカバー10(凹溝38,40の長さと最大幅が同じであるものの、最大深さが互いに異なる5種類のアンダーカバーと、凹溝38,40が何等設けられていない1種類のアンダーカバー)を想定し、それら6種類のアンダーカバー10のそれぞれにおいて、基板部12の下面16のうち、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34の形成領域(図3におけるA領域)と、凹溝38,40の後端縁部と平面αの形成領域(図3におけるB領域)と、凹所18の車体前後方向中間部分の形成領域(図3におけるC領域)と、凹所18における後部内側側面部22bを含む部分の形成領域(図3におけるD領域)のそれぞれの領域での効力を、流体解析によって求めた。その結果を、図8に併せて示した。
【0049】
かかる図8から明らかなように、凹溝38,40を設けることによって、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34の形成領域での効力が確実に減少せしめられることが、認められる。これによっても、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34に対する凹溝38,40の形成により、空気抵抗の低減化が図られ得ることが、明確に認識され得る。
【0050】
さらに、図1乃至図6に示される如き構造を有し、且つ凹溝38,40の長さが60mm、最大幅が20mm、最大深さが2mmとされたアンダーカバー10を想定し、走行風の流速を100km/hとしたときのアンダーカバー10の下方における圧力分布を、流体解析によって求めた。その結果を、図9に示した。
【0051】
また、それとは別に、凹溝38,40が何等設けられていない以外、図1乃至図6に示される如き構造と同様な構造を有するアンダーカバー10を想定し、走行風の流速を100km/hとしたときのアンダーカバー10の下方における圧力分布を、流体解析によって求めた。その結果を、図10に示した。
【0052】
それら図9及び図10から明らかなように、凹溝38,40を設けることによって、凹所18内における負圧化された領域が、確実に小さくされていることが、認められる。これによっても、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34に対する凹溝38,40の形成により、空気抵抗の低減化が図られ得ることが、明確に認識され得る。なお、かかる図9及び図10、並びに後述する図11及び図12に関しては、図1乃至図6に示された前記実施形態と同様な構造とされた部材及び部位について、図1乃至図6と同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略した。
【0053】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0054】
例えば、補強ビード26の外側底面部28や風除け部32の傾斜案内面部34にそれぞれ設けられる凹溝38,40の配設個数や長さは、例示のものに、何等限定されるものではなく、外側底面部28や傾斜案内面部34の幅や長さ等に応じて、適宜に決定されるところである。
【0055】
また、そのような凹溝38,40の幅も、全長に亘って同じ幅とされていても良く、或いは後方側が前方側よりも多少小さくされていても、何等差し支えない。
【0056】
さらに、凹溝38,40の平面視形状も、例示のものに何等限定されるものではなく、例えば、図11に示されるように、凹溝38,40が、平面視略U字形状とされていても良い。この図11に示されるアンダーカバー10では、凹溝38,40の側面部分のうち、後方側に向かって露呈せしめられる側面部分48が湾曲形状とされる。それ故、後方側に向かって露呈せしめられる側面部分48において、車体の幅方向に平行に延びる部分、つまり、車両の走行時に、例えば、凹溝38,40内で渦流が生じたときに、かかる渦流にて、車体の後方に引張する引張力が容易に作用せしめられる部分が、ゼロ乃至は極力小さく為され得る。従って、凹溝38,40が、平面視略U字形状とされることによっても、自動車の走行時における車体下部で生ずる空気抵抗の低減化が、有利に達成され得ることとなる。
【0057】
また、凹溝38,40の縦断面形状も、例示のV字形状に特に限定されるものではなく、例えば、図12に示されるように、かかる縦断面形状を円弧形状とすることも可能である。この場合にあっても、例えば、各凹溝38,40と同一の深さと縦断面矩形形状を呈する凹溝内を走行風が流通せしめられる場合に比して、内部を流通する走行風との接触面の面積が、各凹溝38,40において、有利に小さく為され得る。従って、各凹溝38,40の内面に対する走行風の接触抵抗が効果的に減少されて、空気抵抗の低減化が有利に図られ得る。
【0058】
さらに、前記幾つかの実施形態では、空気抵抗の更なる低減化を図る凹溝38,40が、補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34の両方に、それぞれ設けられていたが、それらのうちの何れか一方のみに設けられていても良い。
【0059】
また、かかる凹溝38,40は、その形成部位が、補強ビード26の外側底面部28と風除け部32の傾斜案内面部34に何等限定されるものでなく、車体の前後方向に延びる平面部のうち、かかる平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部との間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、平面部と立上面部の両面において開口するように設けられるものである。
【0060】
従って、例えば、基板部12の下面16において開口する凹溝形態をもって、車体の前後方向や車幅方向に延びるように形成されたビードや、基板部12の下面16に設けられた、ビード以外の凹部、或いは孔部等のそれぞれのものにおける側面と基板部12の下面16との間で形成される角部を含む下面16部分等に対しても、凹溝38,40が、適宜に形成される。
【0061】
加えて、本発明は、自動車の車体の下面を覆って設置されるアンダーカバーの他、自動車以外の車両における車体の下面を覆って設置される車両用アンダーカバーの何れに対しても、有利に適用可能であることは、勿論である。
【0062】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に従う車両用アンダーカバーの一実施形態を示す下面説明図である。
【図2】図1におけるII−II断面の拡大説明図である。
【図3】図1における部分拡大説明図である。
【図4】図2におけるIV−IV断面の拡大説明図である。
【図5】図3におけるV−V断面の部分拡大説明図である。
【図6】図3におけるVI−VI断面の部分拡大説明図である。
【図7】本発明に従う構造を有し、且つ凹溝の最大深さが互いに異なる5種類の車両用アンダーカバーと従来の車両用アンダーカバーとを想定した流体解析により求めた、凹溝の深さと抗力係数との関係を示すグラフである。
【図8】本発明に従う構造を有し、且つ凹溝の最大深さが互いに異なる5種類の車両用アンダーカバーと従来の車両用アンダーカバーとを想定した流体解析により求めた、凹溝の深さと抗力との関係を、互いに異なる部位毎に示すグラフである。
【図9】本発明に従う構造を有する車両用アンダーカバーを想定した流体解析により求めた、アンダーカバーの下方での圧力分布を示すグラフである。
【図10】従来の車両用アンダーカバーを想定した流体解析により求めた、アンダーカバーの下方での圧力分布を示すグラフである。
【図11】図1に示された車両用アンダーカバーの別の実施形態を示す図3に対応する図である。
【図12】図1に示された車両用アンダーカバーの更に別の実施形態を示す図4に対応する図である。
【符号の説明】
【0064】
10 アンダーカバー 12 基板部
14 脚部 16 下面
18 凹所 20 内側底面部
22 内側側面部 26 補強ビード
28 外側底面部 30 外側側面部
32 風除け部 34 傾斜案内面部
36 後部外側側面部 38,40 凹溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーであって、車体の前後方向に延びる平面部と、該平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部とを一体的に有するものにおいて、
前記平面部のうち、前記立上面部との間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、該平面部と該立上面部の両面において開口する凹溝を設けたことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項2】
前記凹溝が、前記平面部における前記角部を含む部分に、車体の幅方向に並列して位置する状態で複数設けられている請求項1に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項3】
前記凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結する状態で、車体の前方に位置する側面が、湾曲面とされている請求項1又は請求項2に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項4】
前記凹溝が、車体の後方から前方に向かって漸減する幅を有して構成されている請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項5】
前記凹溝における車体の幅方向に対向する二つの側面が、車体の後方から前方に向かって互いに接近するように傾斜する傾斜面とされて、該凹溝が平面視三角形形状を呈するように構成されている請求項4に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項6】
前記凹溝が、車体の前方から後方に向かって漸増する深さを有して構成されている請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項7】
前記凹溝が、円弧状の縦断面形状を有して構成されている請求項1乃至請求項6のうちの何れか1項に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項8】
前記凹溝が、V字状の縦断面形状を有して構成されている請求項1乃至請求項6のうちの何れ1項に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項1】
車体の下面を覆って配置される車両用アンダーカバーであって、車体の前後方向に延びる平面部と、該平面部から立ち上がり、車体の後方に向かって露呈せしめられる立上面部とを一体的に有するものにおいて、
前記平面部のうち、前記立上面部との間で形成される角部を含む部分に、車体の前後方向に延出して、該平面部と該立上面部の両面において開口する凹溝を設けたことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項2】
前記凹溝が、前記平面部における前記角部を含む部分に、車体の幅方向に並列して位置する状態で複数設けられている請求項1に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項3】
前記凹溝の側面のうち、車体の幅方向に対向する二つの側面を連結する状態で、車体の前方に位置する側面が、湾曲面とされている請求項1又は請求項2に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項4】
前記凹溝が、車体の後方から前方に向かって漸減する幅を有して構成されている請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項5】
前記凹溝における車体の幅方向に対向する二つの側面が、車体の後方から前方に向かって互いに接近するように傾斜する傾斜面とされて、該凹溝が平面視三角形形状を呈するように構成されている請求項4に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項6】
前記凹溝が、車体の前方から後方に向かって漸増する深さを有して構成されている請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項7】
前記凹溝が、円弧状の縦断面形状を有して構成されている請求項1乃至請求項6のうちの何れか1項に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項8】
前記凹溝が、V字状の縦断面形状を有して構成されている請求項1乃至請求項6のうちの何れ1項に記載の車両用アンダーカバー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−283810(P2007−283810A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110468(P2006−110468)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】
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