説明

車両用コネクタユニット

【課題】 インストゥルメントパネル用コネクタに対して他のワイヤハーネスのコネクタを嵌合するに際し、その配線用スペース等を小さく抑え、かつ、コネクタ嵌合作業を容易にする。
【解決手段】 車両のインストゥルメントパネルに沿って配索されるワイヤハーネスに含まれる複数のインストゥルメントパネル用コネクタ16,14を共通のコネクタ保持ケース50に保持させる。このコネクタ保持ケース50は、車両前方の領域に配索されるワイヤハーネスに含まれる車両前側用コネクタ24に嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタ16は車両前側を向き、車両後方の領域に配索されるワイヤハーネスに含まれる車両後側用コネクタ34に嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタ14は車両後側を向くように、両コネクタ16,14を逆の向きに保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のインストゥルメントパネルに沿って配索されるワイヤハーネスのコネクタに対し、その前後に配索されるワイヤハーネスのコネクタを嵌合するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両におけるワイヤハーネスの配線構造として、特許文献1に記載されるように車室前側のインストゥルメントパネルの裏側にワイヤハーネスを配索し、このワイヤハーネスにエンジンルーム内ワイヤハーネスやフロア内ワイヤハーネスといった他のワイヤハーネスを電気的に接続する構造が知られている。その一例を図13に示す。
【0003】
図において、車室前側にインストゥルメントパネル2が配設され、その裏側に同パネル2に沿ってインストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10が配索されている。さらに、当該インストゥルメントパネル2よりも前方のエンジンルーム内には給電用電線等を含むエンジンルーム用ワイヤハーネス20が配索される一方、前記インストゥルメントパネル2よりも後方の領域には、ドア用ワイヤハーネス30やフロア用ワイヤハーネス40が配索されており、これらのワイヤハーネス20,30,40が前記インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10に電気的に接続されるようになっている。
【0004】
図14は、前記ワイヤハーネス同士の接続構造例を示したものである。前記インストゥルメントパネル2の直後方位置において、車両のボディの側壁4に窓4aが設けられ、この窓4a内にコネクタケース100が固定されており、このコネクタケース100内には、前記インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10の端末に設けられた複数のインストゥルメントパネル用コネクタ110が車両幅方向内側(図13及び図14では右側)を向く姿勢で保持されている。これらのインストゥルメントパネル用コネクタ110には、前記エンジンルーム用ワイヤハーネス20の端末に設けられたコネクタ120や前記ドア用ワイヤハーネス30の端末に設けられたコネクタ130が車両幅方向の内側から嵌合される。
【0005】
また、前記フロア用ワイヤハーネス40の端末に設けられたコネクタ140はボディ底部近傍に設置されており、このコネクタ140に対し、前記インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10の分岐端末に設けられたコネクタ112や前記エンジンルーム用ワイヤハーネス20の分岐端末に設けられたコネクタ122が嵌合される。
【0006】
以上の構造により、前記インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10と他のワイヤハーネス20,30,40との電気的接続が実現される。
【特許文献1】特開2003−318490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記図14に示した接続構造は、コネクタケース100に保持される各インストゥルメントパネル用コネクタ110に対し、エンジンルーム用ワイヤハーネス20のコネクタ120やドア用ワイヤハーネス30のコネクタ130が全て車両幅方向の内側から嵌合されるものであるので、当該ワイヤハーネス20,30を一旦コネクタケース100よりも車両幅方向内側の領域に大きく取り回さなければならない。従って、その内側領域(すなわち車室側の領域)に大きな配線用スペース及びコネクタ嵌合作業用のスペースを確保しなければならず、その分車室内のスペースが制限されることになる。
【0008】
また、前記コネクタケース100に保持されるインストゥルメントパネル用コネクタ110には、エンジンルーム用ワイヤハーネス20のコネクタ120に嵌合されるものとドア用ワイヤハーネス30のコネクタ130に嵌合されるものとが混在しているので、その選別作業が面倒であり、当該作業を組立ライン上で行うことは製造効率向上の妨げとなる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、インストゥルメントパネル用コネクタに対して他のワイヤハーネスのコネクタを嵌合するに際し、その配線用スペース等を小さく抑え、かつ、コネクタ嵌合作業を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、車両のインストゥルメントパネルに沿って配索されるワイヤハーネスに含まれる複数のインストゥルメントパネル用コネクタと、これらのインストゥルメントパネル用コネクタを保持するコネクタ保持ケースとを備え、このコネクタ保持ケースは、前記インストゥルメントパネル用コネクタのうち前記インストゥルメントパネルよりも車両前方の領域に配索されるワイヤハーネスに含まれる車両前側用コネクタに嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタと、前記インストゥルメントパネル用コネクタのうち前記インストゥルメントパネルよりも車両後方の領域に配索されるワイヤハーネスに含まれる車両後側用コネクタに嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタとを相互逆向きに保持する車両用コネクタユニットである。
【0011】
このような車両用コネクタユニットにおいて、そのインストゥルメントパネル用コネクタのうち車両前側用インストゥルメントパネル用コネクタに嵌合されるコネクタが車両前方を向き、かつ、車両後側用コネクタに嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタが車両後方を向く姿勢で、前記インストゥルメントパネルの近傍に前記コネクタ保持ケースを設置するようにすれば、このコネクタ保持ケースに保持されるインストゥルメントパネル用コネクタに対し、車両前側用コネクタは車両前側から、車両後側用コネクタは車両後側からそれぞれ自然に嵌合できるので、前記図14に示した構造のように前記コネクタ保持ケースよりも車両内側の領域にワイヤハーネスを大きく取り回す必要がなく、配線用スペースやコネクタ嵌合作業用スペースは有効に削減される。特に、前記コネクタ保持ケースよりも車両内側の領域に要するスペースはほとんどなくなる。
【0012】
また、車両前側用コネクタに嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタと車両後側用コネクタに嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタとが相互逆向きに保持されているので、これらのコネクタの選別作業も従来に比して大幅に容易化される。
【0013】
前記車両用コネクタユニットにおいて、前記コネクタ保持ケースは、前記車両前側用コネクタ及び車両後側用コネクタをそれぞれインストゥルメントパネル用コネクタと完全嵌合する手前の位置に仮保持する仮保持部を有するとともに、このコネクタ保持ケースに、外部から操作を受ける操作部材と、この操作部材に加えられる操作力を、前記仮保持部にそれぞれ仮保持されている車両前側用コネクタ及び車両後側用コネクタをそれぞれ前記インストゥルメントパネル用コネクタに嵌合するコネクタ嵌合力に変換する操作力変換機構とが設けられていることが、より好ましい。
【0014】
この構造によれば、車両前側用コネクタ及び車両後側用コネクタをコネクタ保持ケースの各仮保持部に仮保持させた後、操作部材を操作することによって前記各コネクタをまとめてインストゥルメントパネル用コネクタに嵌合することが可能となり、コネクタ嵌合作業の効率が飛躍的に高まる。
【0015】
さらに、前記操作力変換機構を、前記操作部材に加えられる操作力をこの操作力よりも大きなコネクタ嵌合力に変換する倍力機構とすれば、小さな操作力で複数のコネクタの嵌合作業をまとめて行うことが可能となり、操作性はさらに高くなる。
【0016】
前記操作部材の操作方向は特に問わないが、当該操作部材が上下方向に操作可能となるように前記コネクタ保持ケースに設けられている構成とすれば、当該コネクタ保持ケースよりも車両内側の領域に所要スペースを増やすことなく前記操作部材の操作が可能になる。
【0017】
また、前記コネクタ保持ケースは、上下方向に延びる形状を有しているものが、より好適である。このような形状にすれば、車両幅方向についてのコネクタ保持ケースの占有スペースをさらに削減することが可能となる。
【0018】
特に、前記コネクタ保持ケースが前記インストゥルメントパネルの近傍における車両のボディの側壁に沿う姿勢で当該側壁に固定されている車両の配線構造では、車両内側(車室側)へのコネクタ保持ケースの突出量を有効に削減することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、インストゥルメントパネル用コネクタに対して他のワイヤハーネスのコネクタを嵌合するに際し、その配線用スペース等を小さく抑え、かつ、コネクタ嵌合作業を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の好ましい実施の形態を図1〜図11に基づいて説明する。
【0021】
図1は、自動車の車室前側に配設されるインストゥルメントパネル2の近傍の配線構造を示したものである。前記インストゥルメントパネル2のすぐ裏側には車両幅方向に延びる図略のリーンフォースメント(強度部材)が配設され、このリーンフォースメントに沿ってインストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10が配索されている。前記インストゥルメントパネル2よりも前方のエンジンルーム内には給電用電線等を含むエンジンルーム用ワイヤハーネス20が配索される一方、前記インストゥルメントパネル2よりも後方の領域には、図略のドアから導かれるドア用ワイヤハーネス30や、車室フロアに敷設されるフロア用ワイヤハーネス40が存している。そして、これらのワイヤハーネス20,30,40が図2〜図11に示すコネクタユニットによって前記インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10に電気的に接続されるようになっている。
【0022】
図2に示すように、前記インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10の電線12の端末には、前記エンジンルーム用ワイヤハーネス20に接続されるインストゥルメントパネル用コネクタ16と、前記ドア用ワイヤハーネス30及びフロア用ワイヤハーネス40に接続されるインストゥルメントパネル用コネクタ14とが接続されている。これらのコネクタ16,14はいずれも上下方向に延びる略直方体状をなし、図3に示す共通のコネクタケース50に保持されて車両用コネクタユニットを構成している。
【0023】
一方、図4に示すように、前記エンジンルーム用ワイヤハーネス20の電線22の端末にはコネクタ24,26が接続されている。このうち、前記コネクタ24は前記インストゥルメントパネル用コネクタ16に嵌合される車両前側用コネクタであり、前記コネクタ26は後述のようにフロア用ワイヤハーネス40側に接続されるものである。
【0024】
また、図5に示すように、前記ドア用ワイヤハーネス30の電線32の端末にはコネクタ34が接続され、前記フロア用ワイヤハーネス40の電線42の端末にはコネクタ44が接続されている。前記コネクタ34は前記インストゥルメントパネル用コネクタ14の上側部分に嵌合される車両後側用コネクタであり、前記コネクタ44は前記インストゥルメントパネル用コネクタ14の下側部分に嵌合される車両後側用コネクタであるが、このコネクタ44の下部には前記エンジンルーム用ワイヤハーネス20のコネクタ26と直接嵌合可能なエンジンルーム接続用コネクタ部46が形成されている。
【0025】
従って、このコネクタユニットにおいては、前記インストゥルメントパネル用コネクタ16と前記コネクタ24(車両前側用コネクタ)との嵌合により前記インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10と前記エンジンルーム用ワイヤハーネス20とが電気的に接続され、前記インストゥルメントパネル用コネクタ14と前記コネクタ34,44(車両後側用コネクタ)との嵌合により前記インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10と前記ドア用ワイヤハーネス30及びフロア用ワイヤハーネス40とが電気的に接続され、前記コネクタ26と前記コネクタ44のエンジンルーム接続用コネクタ部46との嵌合によりエンジンルーム用ワイヤハーネス20とフロア用ワイヤハーネス40とが電気的に接続されるようになっている。
【0026】
このような電気的接続を実現するためのコネクタユニットは、前記インストゥルメントパネル用コネクタ16,14及びコネクタ保持ケース50と、このコネクタ保持ケース50に装着される操作カバー60とで構成されている。
【0027】
図3に示すように、前記コネクタ保持ケース50は、上下方向に延びる形状を有し、前記インストゥルメントパネル用コネクタ16,14を相互逆向きに保持するとともに、インストゥルメントパネル用コネクタ14のさらに下方に前記コネクタ26を保持する構造を有している。
【0028】
前記コネクタ保持ケース50の中央には前記インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10の端末が上下方向に挿通されるワイヤハーネス挿通筒部51が形成され、その両側に前記インストゥルメントパネル用コネクタ16,14がそれぞれ外向きに保持されている。そして、前記インストゥルメントパネル用コネクタ16が車両前側を向き、前記インストゥルメントパネル用コネクタ14及びコネクタ26が車両後側を向く姿勢で、コネクタ保持ケース50が前記インストゥルメントパネル2の近傍(図1に示す例では同パネル2のすぐ裏側)のボディ側壁4に固定されるようになっている。
【0029】
具体的に、前記ボディ側壁4には前記ワイヤハーネス挿通筒部51が嵌め込み可能な矩形状の貫通孔4aが形成される一方、前記ワイヤハーネス挿通筒部51の左右両側面には上下方向の溝51aが形成され、これらの溝51aに前記貫通孔4aの周縁部分が差し込まれた状態で、前記コネクタ保持ケース50が前記ボディ側壁4に沿う姿勢で当該側壁4aに固定されるようになっている。
【0030】
なお、この実施の形態では前記ワイヤハーネス挿通筒部51から車両幅方向内側(図3では右側)にインストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10が導出されるようになっており、このインストゥルメントパネル用ワイヤハーネス10を下から支持するためのトレイ56が前記コネクタ保持ケース50に形成されている。
【0031】
前記コネクタ保持ケース50において、前記インストゥルメントパネル用コネクタ16よりも外側の部分(車両前側の部分)には、当該インストゥルメントパネル用コネクタ16と完全嵌合する位置よりも手前側(ケース外側)の位置に前記コネクタ24を仮保持するための仮保持部52(図6及び図7)が形成され、前記インストゥルメントパネル用コネクタ14よりも外側の部分(車両後側の部分)には、当該インストゥルメントパネル用コネクタ14と完全嵌合する位置よりも手前側(ケース外側)の位置に前記コネクタ34,44をそれぞれ仮保持するための仮保持部53,54が形成されている。これらの仮保持部52,53,54は、各コネクタ24,34,44の絶縁ハウジングが嵌入可能なフード状をなしている。
【0032】
さらに、この実施の形態では、前記仮保持部52,53,54内に各コネクタ24,34,44を仮係止するための仮係止部がコネクタ保持ケース50に設けられている。このうち代表的に仮保持部52についての仮係止部を図6及び図7に示す。
【0033】
前記仮保持部52の両側壁には上下一対のスリットが形成されることにより当該側壁の厚み方向に撓み変形可能な係止アーム55が形成され、この係止アーム55の端部に内向きに突出する係止突起55aが形成されている。これに対してコネクタ24の両側面には外向きに被係止突起24aが形成されており、これらの被係止突起24aが前記係止突起55aと係合することにより、前記仮保持部52内の仮保持位置にコネクタ24が仮係止されるようになっている。
【0034】
各コネクタ24,34,44の左右両側面には、それぞれ、外向きに被案内突起24b,34b,44bが突設されている。これに対し、各仮保持部52,53,54の左右側壁にはその端面から水平方向内向きに延びる案内溝52a,53a,54aが形成されており、これら案内溝52a,53a,54aにそれぞれ前記コネクタ24,34,44の被案内突起24b,34b,44bが嵌入されることにより、当該被案内突起24b,34b,44bがそれぞれ前記案内溝52a,53a,54aに沿う方向すなわちコネクタ嵌合方向に案内されるようになっている。
【0035】
操作カバー60は、前記コネクタ保持ケース50の外側に嵌合される形状を有している。具体的には、底壁60aと、この底壁60aの両側(車両幅方向両側)から上向きに延びる一対の側壁60bとを一体に有し、両側壁60bの間に前記コネクタ保持ケース50が上側から嵌め込み可能な形状となっており、このコネクタ保持ケース50に対して操作カバー60が上下方向に相対移動可能となっている。
【0036】
この操作カバー60が前記コネクタ保持ケース50に係止される位置として、図3,図6,図7,図9に示すように当該操作カバー60の底壁60aが前記コネクタ保持ケース50の底面よりも下方に位置する仮係止位置と、この仮係止位置よりも上側の位置であって図8及び図10に示すように前記底壁60aが前記コネクタ保持ケース50の底面にほぼ当接する本係止位置とが設定されている。
【0037】
具体的に、前記コネクタ保持ケース50の上部には、前記ワイヤハーネス挿通筒部50と反対の側に当該ケース50の上端から下方に係止板57が垂下しており、この係止板57とコネクタ保持ケース50の本体側面との間に前記操作カバー60の一方の側壁60bが差込可能な隙間が確保されている。そして、この係止板57の左右両縁部に、上側係止切欠57a及び下側係止切欠57bが形成されている。
【0038】
一方、前記操作カバー60の両側壁60bのうち前記係止板57側の側壁60bには上方に大きく開放された矩形状の切欠66が形成され、この切欠66の左右両縁部から下向きに上側被係止アーム67A及び下側被係止アーム67Bが延びている。これらの被係止アーム67A,67Bはその下端部が側壁60bの厚み方向に撓み可能となっており、当該下端部にそれぞれ外向きの被係止突起67a,67bが形成されている。そして、前記上側被係止アーム67Aの被係止突起67aが前記係止板57の下側係止突起57bに係合されることにより前記仮係止位置に操作カバー60が係止され、前記上側被係止アーム67Aの被係止突起67a及び下側被係止アーム67Bの被係止突起67bがそれぞれ前記係止板57の上側係止突起57a及び下側係止突起57bに係合されることにより前記本係止位置に前記操作カバー60が係止されるようになっている。
【0039】
この操作カバー60における両側壁60bの両縁部(車両前後方向の両縁部)には、前記各仮保持部52,53,54に対応して誘導溝62,63,64が設けられている。各誘導溝62,63,64は、前記側壁60bをその厚み方向に貫通し、かつ、前記各コネクタ24,34,44の被案内突起24b,34b,44bが嵌入可能な幅寸法を有しており、その溝形状は、操作カバー60が前記仮係止位置から本係止位置に移動するのに伴って前記仮保持位置にあるコネクタ24,34,44の被案内突起24b,34b,44bをそれぞれ当該コネクタ24,34,44がインストゥルメントパネル用コネクタ16,14と完全嵌合する方向に誘導する形状を有している。
【0040】
具体的に、各誘導溝62,63,64は、前記側壁60bの縁部からカバー内側に向かうに従って下方に大きく延びる形状を有している。これら誘導溝62,63,64の外側端は前記側壁60bの縁部につながっていて側方に開放されており、かつ、操作カバー60が前記仮係止位置にあるときに前記各案内溝52a,53a,54aと同じ高さとなる位置に存している。
【0041】
次に、このコネクタユニットを用いて各コネクタを嵌合する方法の例を以下に示す。
【0042】
1)コネクタ保持ケース50に操作カバー60を仮係止位置に仮係止させた状態で、当該コネクタ保持ケース50をボディ側壁4に固定する。
【0043】
2)前記コネクタ保持ケース50のワイヤハーネス挿通筒部51内に上からインストゥルメントパネル用コネクタ16,14を挿入するようにしながら当該コネクタ16,14を相互逆向きの姿勢でコネクタ保持ケース50にセットする。また、インストゥルメントパネル用コネクタ14の下側にエンジンルーム用ワイヤハーネス20のコネクタ26もセットしておく。
【0044】
3)コネクタ保持ケース50の仮保持部52にエンジンルーム用ワイヤハーネス20のコネクタ24を仮保持させる。具体的には、当該コネクタ24の被案内突起24bをコネクタ保持ケース50の案内溝52及び操作カバー60の誘導溝62の双方に嵌め込むようにしながら、当該コネクタ24の被係止突起24aがコネクタ保持ケース50の係止アーム55の係止突起55aに係合する位置まで、当該コネクタ24を前記仮保持部52内に押し込む。同様にして、コネクタ保持ケース50の仮保持部53,54にドア用ワイヤハーネス30のコネクタ34及びフロア用ワイヤハーネス40のコネクタ44をそれぞれ仮保持させる。
【0045】
この段階では、図11(a)に示すように、各コネクタ24,34,44の端子(同図ではコネクタ24,34の端子24t,34tのみ図示)がインストゥルメントパネル用コネクタ16,14の端子16t,14tに完全嵌合する位置よりも手前の位置にあり、よって各コネクタ24,34,44のセットに大きな力は要しない。また、車両前側用コネクタであるコネクタ24に嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタ16と、車両後側用コネクタであるコネクタ34,44に嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタ14とが互いに逆向きに保持されているので、これらインストゥルメントパネル用コネクタ16,14に嵌合されるべきコネクタの選別作業がきわめて容易であり、作業性が著しく向上する。
【0046】
4)3)の状態から操作カバー60を押し上げて前記仮係止位置から本係止位置まで移動させる。この操作カバー60の上昇に伴い、各誘導溝62,63,64に係合されている各コネクタ24,34,44の被案内突起24b,34b,44bは相手方のインストゥルメントパネル用コネクタ16,14と嵌合する向きに案内され、当該操作レバー60の操作が終了した時点で各コネクタ24,34,44とインストゥルメントパネル用コネクタ16,14とが完全嵌合する(例えば図11(b)に示すコネクタ24,34の端子24t,34tとインストゥルメントパネル用コネクタ16,14の端子16t,14tとが完全嵌合する)のと同時に、前記コネクタ44に一体に形成されているエンジンルーム接続用コネクタ部46とコネクタ26も完全嵌合する。
【0047】
すなわち、操作カバー60に加えられる上向きの操作力は、各誘導溝62,63,64及び被案内突起24b,34b,44bからなる操作力変換機構によって、前記コネクタ24,34,44とインストゥルメントパネル用コネクタ16,14とを嵌合するコネクタ嵌合力に変換されることとなり、単一の操作によって車両前側及び後側の双方におけるコネクタ同士の嵌合を実現することができる。特に、図示のように誘導溝62,63,64の形状を、コネクタ嵌合方向に対して上下方向に大きく傾く形状にすれば、前記操作力よりも大きなコネクタ嵌合力が生ずるので、小さな操作力で全てのコネクタ嵌合作業をまとめて行うことが可能となる。
【0048】
なお、本発明において操作力変換機構の具体的な構成は問わず、例えば歯車機構やリンク機構を用いることも可能である。また、操作部材とは別に操作力変換機構の構成要素を含んでいてもよい。
【0049】
図12(a)(b)は、水平方向に操作される操作板80の操作力を操作力変換板70を介してコネクタ嵌合力に変換する構造を示したものである。
【0050】
同図の操作板80は、コネクタ保持ケース50の下部に水平方向に操作可能に組付けられ、その被案内部82の上端がコネクタ保持ケース50に設けられた水平方向の案内部58に案内されるようになっている。
【0051】
操作力変換板70は、前記操作カバー60と同様に上下方向に移動可能となるようにコネクタ保持ケース50に組み込まれ、前記誘導溝62,63,64と同様に前記コネクタ24,34,44の被案内突起24b,34b,44bに係合される誘導溝72,73,74を有している。そして、この操作力変換板70の底部に形成された被案内突起76が、前記操作板80に形成された斜め向きの案内溝86に嵌め込まれており、この操作板80を車室側(図では左側)から車両前側に向かって水平方向に操作することにより、その操作力が操作力変換板70を上向きに移動させる力に変換され、さらに、その移動力が各誘導溝72,73,74によってコネクタ嵌合力に変換されるようになっている。
【0052】
このような構造においても、操作板80の操作によって各コネクタの嵌合をまとめて行うことが可能になる。ただし、前記図1〜図11に示した操作カバー60のように、操作部材が上下方向に操作されるものとすれば、複雑な構造を用いることなく、また車両内側に占有スペースを拡大することなく、単一の操作部材の操作力を大きなコネクタ嵌合力に変換し得る操作力変換機構を構築することが可能になる。
【0053】
ただし、本発明は必ずしも当該操作力変換機構や操作部材を具備するものに限られず、各インストゥルメントパネル用コネクタに直接、車両前側用コネクタや車両後側用コネクタが嵌合操作されるものであってもよいし、操作力変換機構を媒介とするものと直接嵌合されるものとが混在していてもよい。また、当該操作力変換機構は必ずしも倍力機構でなくてもよい。
【0054】
その他、本発明は例えば次のような実施の形態をとることも可能である。
【0055】
・図示のコネクタユニットでは、前側のインストゥルメントパネル用コネクタ16及び後側のインストゥルメントパネル用コネクタ14がそれぞれ単数であるものを示したが、前側または後側について複数のインストゥルメントパネル用コネクタを設けるようにしてもよい。この場合、同じ側の複数のインストゥルメントパネル用コネクタを上下方向に配列するようにすれば、コネクタ保持ケース50を上下方向に延びる形状としながら当該コネクタ保持ケース50にコンパクトに各インストゥルメントパネル用コネクタを保持させることが可能になる。
【0056】
・インストゥルメントパネル用ワイヤハーネスに接続されるワイヤハーネスは図示のエンジンルーム用ワイヤハーネス20等に限られず、例えばルーフ用ワイヤハーネスが含まれるものであってもよい。
【0057】
・本発明において、コネクタ保持ケースを固定する箇所は図例のボディ側壁4に限られず、例えばボディの底板上に設置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両の配線形態を示す斜視図である。
【図2】前記車両に配索されるインストゥルメントパネル用ワイヤハーネスの端末に設けられたインストゥルメントパネル用コネクタを示す斜視図である。
【図3】前記インストゥルメントパネル用コネクタを保持するコネクタ保持ケース及び同コネクタ保持ケースに装着される操作カバーを示す斜視図である。
【図4】前記車両に配索されるエンジンルーム用ワイヤハーネスの端末に設けられたコネクタを示す斜視図である。
【図5】前記車両に配索されるドア用ワイヤハーネスの端末及びフロア用ワイヤハーネスの端末に設けられたコネクタを示す斜視図である。
【図6】前記コネクタ保持ケースにエンジンルーム用ワイヤハーネスのコネクタを仮保持させる前の状態を示す斜視図である。
【図7】前記コネクタ保持ケースにエンジンルーム用ワイヤハーネスのコネクタを仮保持させた状態を示す斜視図である。
【図8】前記コネクタ保持ケースに保持されているインストゥルメントパネル用コネクタに各コネクタが完全嵌合した状態を示す斜視図である。
【図9】前記コネクタ保持ケースに各コネクタを仮保持させる前の状態を示す正面図である。
【図10】前記コネクタ保持ケースに保持されているインストゥルメントパネル用コネクタに各コネクタが完全嵌合した状態を示す正面図である。
【図11】(a)は図9のA−A線の高さにおける断面平面図であってコネクタ保持ケースに各コネクタが仮保持されている状態を示す図、(b)は図10のB−B線断面図である。
【図12】本発明に係る操作部材及び操作力変換機構の変形例を示す正面図である。
【図13】従来の車両の配線形態例を示す斜視図である。
【図14】図13に示す配線形態に含まれるワイヤハーネス同士の接続構造例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
10 インストゥルメントパネル用ワイヤハーネス
14,16 インストゥルメントパネル用コネクタ
20 エンジンルーム用ワイヤハーネス
24 コネクタ(車両前側用コネクタ)
24b 被案内突起(操作力変換機構を構成)
30 ドア用ワイヤハーネス
34 コネクタ(車両後側コネクタ)
34b 被案内突起(操作力変換機構を構成)
40 フロア用ワイヤハーネス
44 コネクタ(車両後側コネクタ)
44b 被案内突起(操作力変換機構を構成)
50 コネクタ保持ケース
52,53,54 仮保持部
60 操作カバー(操作部材)
62,63,64 誘導溝(操作力変換機構を構成)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のインストゥルメントパネルに沿って配索されるワイヤハーネスに含まれる複数のインストゥルメントパネル用コネクタと、これらのインストゥルメントパネル用コネクタを保持するコネクタ保持ケースとを備え、このコネクタ保持ケースは、前記インストゥルメントパネル用コネクタのうち前記インストゥルメントパネルよりも車両前方の領域に配索されるワイヤハーネスに含まれる車両前側用コネクタに嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタと、前記インストゥルメントパネル用コネクタのうち前記インストゥルメントパネルよりも車両後方の領域に配索されるワイヤハーネスに含まれる車両後側用コネクタに嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタとを相互逆向きに保持するものであることを特徴とする車両用コネクタユニット。
【請求項2】
請求項1記載の車両用コネクタユニットにおいて、前記コネクタ保持ケースは、前記車両前側用コネクタ及び車両後側用コネクタをそれぞれインストゥルメントパネル用コネクタと完全嵌合する手前の位置に仮保持する仮保持部を有するとともに、このコネクタ保持ケースに、外部から操作を受ける操作部材と、この操作部材に加えられる操作力を、前記仮保持部にそれぞれ仮保持されている車両前側用コネクタ及び車両後側用コネクタをそれぞれ前記インストゥルメントパネル用コネクタに嵌合するコネクタ嵌合力に変換する操作力変換機構とが設けられていることを特徴とする車両用コネクタユニット。
【請求項3】
請求項2記載の車両用コネクタユニットにおいて、前記操作力変換機構は、前記操作部材に加えられる操作力をこの操作力よりも大きなコネクタ嵌合力に変換する倍力機構であることを特徴とする車両用コネクタユニット。
【請求項4】
請求項2または3記載の車両用コネクタユニットにおいて、前記操作部材は上下方向に操作可能となるように前記コネクタ保持ケースに設けられていることを特徴とする車両用コネクタユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の車両用コネクタユニットにおいて、前記コネクタ保持ケースは上下方向に延びる形状を有していることを特徴とする車両用コネクタユニット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の車両用コネクタユニットを備え、この車両用コネクタユニットに含まれるインストゥルメントパネル用コネクタのうち車両前側用インストゥルメントパネル用コネクタに嵌合されるコネクタが車両前方を向き、かつ、車両後側用コネクタに嵌合されるインストゥルメントパネル用コネクタが車両後方を向く姿勢で、前記インストゥルメントパネルの近傍に前記コネクタ保持ケースが設置されていることを特徴とする車両の配線構造。
【請求項7】
請求項6記載の車両の配線構造において、前記コネクタ保持ケースが前記インストゥルメントパネルの近傍における車両のボディの側壁に沿う姿勢で当該側壁に固定されていることを特徴とする車両の配線構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−147354(P2006−147354A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336062(P2004−336062)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】