説明

車両用シートリクライニング装置、及び車両用シートリクライニング装置の製造方法

【課題】ロックスプリングの浮き上がりの懸念を解消する。
【解決手段】機枠10と、内歯ギヤ61を有する蓋体60と、外歯ギヤ21が内歯ギヤに係脱する方向へ揺動可能とされたロックツース20と、ロック方向への回動により外歯ギヤを内歯ギヤに係合させるカム40と、内周端70aが機枠に突設された係合凸部113の外周に嵌合固定され外周端70bがカム40に係合されることで、カムをロック方向へ付勢するうず巻き状のロックスプリング70とを備え、係合凸部113を、機枠を構成する金属板材に対するエンボス加工によって形成した後、係合凸部の先端面113bを押圧することにより、係合凸部の外周面113aを、基端側より先端側が径大となるように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座面となるシートクッションに対して、背もたれとなるシートバックを回転可能に取り付けるための車両用シートリクライニング装置、及び、同車両用シートリクライニング装置におけるロックスプリング係合用の係合凸部の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用シートリクライニング装置としては、シートクッション側のベースプレートに取り付けられる機枠と、シートバック側のアームプレートに取り付けられる蓋体とが相互に回動可能に構成され、機枠に取り付けられたロックツースの外歯ギヤと蓋体の内周面に形成された内歯ギヤとの噛合によって、機枠と蓋体との相互回転を阻止するように構成されたものが知られている。
【0003】
図6、図7を用いて、例えば、特許文献1に記載された従来の車両用シートリクライニング装置について簡単に説明する。
【0004】
この車両用シートリクライニング装置は、全体として円板状に形成された機枠10と、この機枠10に形成された円形凹部14の内面側に嵌合され、円形凹部14の内周面14aに沿って同軸状に回転可能な蓋体60と、これら機枠10及び蓋体60の間のスペースに収容された揺動式のロックツース20、回転式のカム40、このカム40をロック方向に付勢するうず巻き状のロックスプリング70と、蓋体60及び機枠10を軸方向に分離しないよう相互に回転可能に保持するホルダ80とを有している。
【0005】
蓋体60には、内周面に内歯ギヤ61が形成されている。ロックツース20は、機枠10に突設された軸部16及び一対のガイド凸部11A,11Bを介して揺動自在に取り付けられており、上記各内歯ギヤ61に対向する位置にその内歯ギヤ61に噛合可能な外歯ギヤ21を有している。
【0006】
カム40は、図6に示すように、回転中心孔42を中心にして一方向(時計方向)に回転することにより、2つの各ロックツース20を半径方向外側に押して外歯ギヤ21を内歯ギヤ61に噛合させ、他方向(反時計方向)に回転することによりその噛合を解除する働きをなす。
【0007】
機枠10には、ロックツース20の揺動中心を有する前記軸部16の他に、ロックツース20の外周面を支持する第1ガイド凸部11A及び第2ガイド凸部11Bと、ロックスプリング70を支持する断面半円形状の係合凸部13とが設けられており、これら軸部16、第1ガイド凸部11A、第2ガイド凸部11B、係合凸部13は、機枠10を構成する金属板材にプレスによるエンボス加工を施すことによって、円形凹部14の底面に各々2つずつ突設されている。
【0008】
そして、うず巻き状のロックスプリング70は、内周端70aが係合凸部13の外周に巻き付けるようにして嵌合固定され且つ外周端70bがカム40に係合されることで、カム40をロック方向へ付勢している。
【特許文献1】特開2002−345587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ロックスプリング70の内周端70aを保持している係合凸部13は、エンボス加工によって形成されたものであるから、型抜きなどの関係上、通常そのままの加工状態では、図8に示すように、その外周面13aが、ストレート形状もしくは先細りテーパ形状をなしている。このため、カム40の繰り返し動作などに伴って、その係合凸部13の外周面13aに嵌合固定しているロックスプリング70の内周端70aが係合凸部13の外周面13a上を滑り移動することで、ロックスプリング70が浮き上がった状態になる可能性がある。浮き上がった状態になると、ロックスプリング70が蓋体60と接触するおそれが出てくるので、操作感が悪化する懸念が生じる。
【0010】
本発明は、上記事情を考慮し、簡単な操作によりロックスプリングの浮き上がりを有効に防止することができて、安定した操作を長期にわたり持続させることのできる車両用シートリクライニング装置、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、
機枠と、この機枠に回転可能に取り付けられ、内周面に沿って内歯ギヤを有する蓋体と、前記機枠に取り付けられ、前記内歯ギヤに噛合可能な外歯ギヤを有し、該外歯ギヤが前記内歯ギヤに係脱する方向へ揺動可能とされたロックツースと、ロック方向への回動により、前記ロックツースを揺動させて、前記外歯ギヤを前記内歯ギヤに係合させるカムと、内周端が前記機枠に突設された係合凸部の外周に嵌合固定され且つ外周端が前記カムに係合されることで、前記カムをロック方向へ付勢するうず巻き状のロックスプリングとを備えた車両用シートリクライニング装置であって、前記係合凸部は、前記機枠からの突出寸法が、前記ロックスプリングの幅寸法の1/2以上になるように突設されるとともに、前記係合凸部の外周面を、基端側より先端側が径大となるように形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、機枠と、この機枠に回転可能に取り付けられ、内周面に沿って内歯ギヤを有する蓋体と、前記機枠に取り付けられ、前記内歯ギヤに噛合可能な外歯ギヤを有し、該外歯ギヤが前記内歯ギヤに係脱する方向へ揺動可能とされたロックツースと、ロック方向への回動により、前記ロックツースを揺動させて、前記外歯ギヤを前記内歯ギヤに係合させるカムと、内周端が前記機枠に突設された係合凸部の外周に嵌合固定され且つ外周端が前記カムに係合されることで、前記カムをロック方向へ付勢するうず巻き状のロックスプリングとを備えた車両用シートリクライニング装置における前記ロックスプリング係合用の係合凸部の形成方法であって、前記機枠を構成する金属板材に対するエンボス加工によって前記機枠の底面から突出する前記係合凸部を形成した後、該係合凸部の先端面を前記機枠の底面側へ押圧することにより、該係合凸部の外周面を、基端側より先端側が径大となるように形成するとともに、該係合凸部の前記機枠からの突出寸法が、前記ロックスプリングの幅寸法の1/2以上になるように形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、機枠と、この機枠に回転可能に取り付けられ、内周面に沿って内歯ギヤを有する蓋体と、前記機枠に取り付けられ、前記内歯ギヤに噛合可能な外歯ギヤを有し、該外歯ギヤが前記内歯ギヤに係脱する方向へ揺動可能とされたロックツースと、ロック方向への回動により、前記ロックツースを揺動させて、前記外歯ギヤを前記内歯ギヤに係合させるカムと、内周端が前記機枠に突設された係合凸部の外周に嵌合固定され且つ外周端が前記カムに係合されることで、前記カムをロック方向へ付勢するうず巻き状のロックスプリングとを備えた車両用シートリクライニング装置の製造方法であって、前記機枠を構成する金属板材に対するエンボス加工によって前記機枠の底面から突出する前記係合凸部を前記ロックスプリングの幅寸法の1/2以上になるように形成した後、該係合凸部の先端面の中央に押圧部材を押圧して凹部を形成することにより、該係合凸部の先端側外周面が、基端側外周面より径大となるように形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、ロックスプリングの内周端を嵌合固定する係合凸部の外周面を、基端側より先端側が径大となるように形成してあるので、ロックスプリングが抜ける方向に動かなくなり、ロックスプリングの浮き上がりを有効に防止することができる。従って、浮き上がったロックスプリングが蓋体に接触して操作感を悪化させるというような懸念を無くすことができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、前記係合凸部をエンボス加工した後、その先端面を押圧することにより、係合凸部の先端側外周面を径大に形成するので、係合凸部の先端面を押圧部材等で押圧する工程を1つ追加するだけで、簡単にロックスプリングの浮き上がりの問題を解消することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、前記係合凸部をエンボス加工した後、その先端面の中央に押圧部材を押圧して凹部を形成することにより、係合凸部の先端側外周面を径大に形成するので、係合凸部の先端面に凹部を形成する工程を1つ追加するだけで、簡単にロックスプリングの浮き上がりの問題を解消することができる。また、係合凸部の先端面の中央に凹部を形成するため、この凹部の形成によって係合凸部の突出寸法が低くなるのを防止でき、さらにロックスプリングの浮き上がり防止効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は実施形態の車両用シートリクライニング装置の側断面図、図2はその要部拡大図、図3(a)、(b)は同要部におけるロックスプリング係合用の係合凸部の形成工程の説明図である。なお、車両用シートリクライニング装置の正面図に関しては図6を共用する。また、本実施形態の装置の図6、図7の従来例と同一構成要素には同一符号を付して説明を簡略化する。
【0018】
この車両用シートリクライニング装置は、機枠10と、機枠10の円形凹部14の内周面14aに沿って回転可能な蓋体60と、機枠10及び蓋体60の間のスペースに収容されたロックツース20、回転式のカム40、このカム40をロック方向に付勢するうず巻き状のロックスプリング70と、蓋体60及び機枠10を相互に回転可能に保持するホルダ80とを有している。
【0019】
蓋体60には円形凹部の内周面に内歯ギヤ61が形成され、機枠10に突設した軸部16及び一対のガイド凸部11A,11Bに揺動自在に支持されたロックツース20には、内歯ギヤ61に噛合可能な外歯ギヤ21が形成されている。
【0020】
カム40は、一方向(時計方向)に回転することにより、ロックツース20を半径方向外側に押して外歯ギヤ21を内歯ギヤ61に噛合させ、他方向(反時計方向)に回転することによりその噛合を解除する。
【0021】
機枠10には、軸部16と、ロックツース20を補強的に支持する第1ガイド凸部11A及び第2ガイド凸部11Bと、ロックスプリング70を支持する断面半円形状の係合凸部113とが設けられており、これら軸部16、第1ガイド凸部11A、第2ガイド凸部11B、係合凸部113は、機枠10を構成する金属板材にプレスによるエンボス加工を施すことによって、円形凹部14の底面に2つずつ突設されている。また、係合凸部113は、機枠10からの突出寸法Hが、後述するロックスプリング70の幅寸法Wの1/2以上、幅寸法W以下(W/2≦H≦W)になるように突設されている。
【0022】
そして、うず巻き状のロックスプリング70は、内周端70aが係合凸部113の外周面113aに嵌合固定され且つ外周端70bがカム40に係合されることで、カム40をロック方向へ付勢している。
【0023】
この場合、図2に示すように、係合凸部113の外周面113aは、基端側の径d1より先端側の径d2が大となる逆テーパ状に形成されており、その逆テーパ状の外周面113aに対してロックスプリング70の内周端70aを巻き付けるようにして嵌合固定されている。
【0024】
係合凸部113の外周面113aを逆テーパ状に形成する方法としては、図3(a)に示すように、金型200とパンチ202を用いたエンボス加工により係合凸部113を形成した後、(b)に示すように、係合凸部113の先端面113bを押圧部材としてのパンチ250などで軽く押圧する方法を採用することができる。
【0025】
また、図4、図5に示すように、エンボス加工後に、係合凸部113の先端面113bの中央に先端突起252を有するパンチ250を用いて凹部113dを形成する方法も採用することができる。
【0026】
なお、ここで、逆テーパ状というのは、先端側が基端側より広がっているという意味であり、厳密にテーパ面として形成されている必要はない。つまり、先端側の端面がフランジ状に拡径された形状であってもよい。
【0027】
以上のように、逆テーパ状に形成した係合凸部113の外周面113aにロックスプリング70の内周端70aを嵌合工程することにより、ロックスプリング70が抜ける方向に動かなくなり、ロックスプリング70の浮き上がりを有効に防止することができる。従って、浮き上がったロックスプリング70が蓋体60に接触して操作感を悪化させるというような懸念を確実に無くすことができる。
【0028】
また、逆テーパ状に形成する方法としては、係合凸部113のエンボス加工後に、その先端面113bを直接パンチ250などで軽く押圧する工程を1つ追加するだけでよいので、簡単にロックスプリング70の浮き上がりの問題を解消することができる。
【0029】
さらに、ロックスプリング70に対して係合凸部113の突出寸法HをW/2≦H≦Wとなるように設定しているので、係合凸部113を形成するする際に、鍛造ではなく半抜きのプレス加工で十分なため、製造コストを増大させることなく、ロックスプリング70の浮き上がりの問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態の車両用シートリクライニング装置の側断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2の要部におけるロックスプリング係合用の係合凸部の形成工程の説明図で、(a)はエンボス加工後の状態、(b)は叩き工程により係合凸部の外周面を逆テーパ状に形成した状態を示す図である。
【図4】別の実施形態の要部拡大図である。
【図5】図4の要部におけるロックスプリング係合用の係合凸部の形成工程の説明用の図で、叩き工程の追加により係合凸部の外周面を逆テーパ状に形成した状態を示す図である。
【図6】従来の車両用シートリクライニング装置の内部構成を示す正面図である。
【図7】同装置の側断面図である。
【図8】図7の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0031】
10 機枠
20 ロックツース
21 外歯ギヤ
40 カム
60 蓋体
61 内歯ギヤ
70 ロックスプリング
70a 内周端
70b 外周端
113 係合凸部
113a 外周面
113b 先端面
113d 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機枠と、この機枠に回転可能に取り付けられ、内周面に沿って内歯ギヤを有する蓋体と、前記機枠に取り付けられ、前記内歯ギヤに噛合可能な外歯ギヤを有し、該外歯ギヤが前記内歯ギヤに係脱する方向へ揺動可能とされたロックツースと、ロック方向への回動により、前記ロックツースを揺動させて、前記外歯ギヤを前記内歯ギヤに係合させるカムと、内周端が前記機枠に突設された係合凸部の外周に嵌合固定され且つ外周端が前記カムに係合されることで、前記カムをロック方向へ付勢するうず巻き状のロックスプリングとを備えた車両用シートリクライニング装置であって、
前記係合凸部は、前記機枠からの突出寸法が、前記ロックスプリングの幅寸法の1/2以上になるように突設されるとともに、
前記係合凸部の外周面を、基端側より先端側が径大となるように形成したことを特徴とする車両用シートリクライニング装置。
【請求項2】
機枠と、この機枠に回転可能に取り付けられ、内周面に沿って内歯ギヤを有する蓋体と、前記機枠に取り付けられ、前記内歯ギヤに噛合可能な外歯ギヤを有し、該外歯ギヤが前記内歯ギヤに係脱する方向へ揺動可能とされたロックツースと、ロック方向への回動により、前記ロックツースを揺動させて、前記外歯ギヤを前記内歯ギヤに係合させるカムと、内周端が前記機枠に突設された係合凸部の外周に嵌合固定され且つ外周端が前記カムに係合されることで、前記カムをロック方向へ付勢するうず巻き状のロックスプリングとを備えた車両用シートリクライニング装置における前記ロックスプリング係合用の係合凸部の形成方法であって、
前記機枠を構成する金属板材に対するエンボス加工によって前記機枠の底面から突出する前記係合凸部を形成した後、該係合凸部の先端面を前記機枠の底面側へ押圧することにより、該係合凸部の外周面を、基端側より先端側が径大となるように形成するとともに、該係合凸部の前記機枠からの突出寸法が、前記ロックスプリングの幅寸法の1/2以上になるように形成したことを特徴とする車両用シートリクライニング装置の製造方法。
【請求項3】
機枠と、この機枠に回転可能に取り付けられ、内周面に沿って内歯ギヤを有する蓋体と、前記機枠に取り付けられ、前記内歯ギヤに噛合可能な外歯ギヤを有し、該外歯ギヤが前記内歯ギヤに係脱する方向へ揺動可能とされたロックツースと、ロック方向への回動により、前記ロックツースを揺動させて、前記外歯ギヤを前記内歯ギヤに係合させるカムと、内周端が前記機枠に突設された係合凸部の外周に嵌合固定され且つ外周端が前記カムに係合されることで、前記カムをロック方向へ付勢するうず巻き状のロックスプリングとを備えた車両用シートリクライニング装置の製造方法であって、
前記機枠を構成する金属板材に対するエンボス加工によって前記機枠の底面から突出する前記係合凸部を前記ロックスプリングの幅寸法の1/2以上になるように形成した後、該係合凸部の先端面の中央に押圧部材を押圧して凹部を形成することにより、該係合凸部の先端側外周面が、基端側外周面より径大となるように形成することを特徴とする車両用シートリクライニング装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−245992(P2008−245992A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92279(P2007−92279)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000237307)富士機工株式会社 (392)
【Fターム(参考)】