説明

車両用シート巻取り装置

【課題】製造工数の増大を抑制しつつ、巻取り軸の内周部及び捩りばねの外周部間に介装される防音チューブの巻取り軸に対する回転をより確実に係止できる車両用シート巻取り装置を提供する。
【解決手段】内周部に軸方向全長に亘って延在する巻取り軸側嵌合部26aを有する筒状の巻取り軸26と、該巻取り軸26に挿入される支持部材27と、捩りばね28と、巻取り軸26の内周部及びコイル部28aの外周部間に介装された防音チューブ29とを備える。支持部材27及び防音チューブ29にそれぞれ形成され、巻取り軸側嵌合部26aに嵌合する支持部材側嵌合部27a及びチューブ側嵌合部29aと、支持部材27に突設されたスプリング保持部27dと、防音チューブ29に突出形成されコイル部28aの端末を覆うように内周側から軸方向に折り返されるとともにコイル部28a及びスプリング保持部27dにより挟持される位置決め部29bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の開口部に透光エリアを形成する透光部材を開放する方向へのシートの巻き取り及び透光部材を遮る方向へのシートの繰り出しをするための車両用シート巻取り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シート巻取り装置としては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この装置は、固定軸(6)と、該固定軸に回転可能に支持された中空円筒状の巻取り軸(8)と、該巻取り軸の外周部に一方の端末が固定されたシート(4)と、固定軸の外周面(6C)及び巻取り軸の内周面(8C)間に挿入されて該巻取り軸をシートの巻取り方向に付勢する捩りばね(9)とを有する。また、この装置は、捩りばねの内周部に当接可能な複数の当接突条を有して固定軸の外周面に装着された第1の防音チューブ(10)を有するとともに、捩りばねの外周部に当接可能な複数の当接突条を有して巻取り軸の内周面に装着された第2の防音チューブ(11)を有する。これにより、例えば捩りばねが捩り変形した際、該捩りばねが衝突等する第1又は第2の防音チューブの当接突条が弾性変形することで、異音の発生が抑えられるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−250225号公報(第[0014]〜[0017]段落、第2〜4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、捩りばねの一方の脚部(9B)が固定軸の自由端(6B)に係止されるとともに、他方の脚部(9A)が巻取り軸に一体回転するように固定された支持部材(7A)に係止されている。そして、巻取り軸に対する支持部材の回転係止は、かしめ加工によって実現している。従って、かしめ工程の追加を要する分、製造工数の増大を余儀なくされる。あるいは、かしめ加工に伴い、巻取り軸の強度低下を余儀なくされる。
【0005】
また、第2の防音チューブは、その外周面(11B)が巻取り軸の内周面に密に嵌合されるとともに、その端部(11E)が巻取り軸に一体回転するように固定された軸受部材(7E)の外周面及び巻取り軸の内周面間にきつく挿入されることで巻取り軸に対する回転が係止されている。しかしながら、巻取り軸及び第2の防音チューブの嵌合等は、円周面同士の嵌合となるため、巻取り軸に対する第2の防音チューブの回転係止が不十分になってしまう。
【0006】
本発明の目的は、製造工数の増大を抑制しつつ、巻取り軸の内周部及び捩りばねの外周部間に介装される防音チューブの巻取り軸に対する回転をより確実に係止することができる車両用シート巻取り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、固定軸と、該固定軸に回転可能に支持され内周部に軸方向に延在する巻取り軸側嵌合部を有する筒状の巻取り軸と、該巻取り軸に一方の端末が固定されたシートと、前記巻取り軸に挿入される支持部材と、軸方向における前記固定軸及び前記支持部材間で前記巻取り軸に挿入されるコイル部を有し両脚部が前記固定軸及び前記支持部材にそれぞれ係止されて前記巻取り軸を前記シートの巻取り方向に付勢する捩りばねと、前記巻取り軸の内周部及び前記コイル部の外周部間に介装された防音チューブとを備える車両用シート巻取り装置において、前記支持部材及び前記防音チューブにそれぞれ形成され、前記巻取り軸側嵌合部に嵌合することで前記巻取り軸に対する回転を係止する支持部材側嵌合部及びチューブ側嵌合部と、前記捩りばねに対向する軸方向に沿って前記支持部材に突設された挟持部と、前記防音チューブの周方向における所定範囲から前記支持部材に対向する軸方向に沿って突出形成され、前記コイル部の端末を覆うように内周側から軸方向に折り返されるとともに前記コイル部及び前記挟持部により挟持される位置決め部とを備えたことを要旨とする。
【0008】
同構成によれば、前記巻取り軸に対する前記支持部材の回転を、前記巻取り軸側嵌合部及び前記支持部材側嵌合部の嵌合によって係止できる。従って、例えばかしめ工程が不要になる分、製造工数を低減でき、あるいはかしめ加工に伴う前記巻取り軸の強度低下を回避できる。一方、前記巻取り軸に対する前記防音チューブの回転を、前記巻取り軸側嵌合部及び前記チューブ側嵌合部の嵌合、並びに前記コイル部及び前記支持部材の前記挟持部による前記位置決め部の挟持によってより確実に係止できる。加えて、前記固定軸に近付く側への前記防音チューブの軸方向への移動を、前記コイル部及び前記挟持部による前記位置決め部の挟持によって係止できる。従って、例えば前記固定軸及び前記支持部材に両脚部の係止された前記捩りばねの外周部を前記防音チューブに挿入した仮組み状態で前記巻取り軸に前記支持部材等を嵌挿する際に、前記捩りばねの伸縮変形に起因する前記防音チューブの軸方向への位置ずれを抑制でき、その組付性を向上できる。あるいは、前記巻取り軸の回転や前記捩りばねの変形に伴った、前記防音チューブの軸方向への位置ずれを抑制でき、前記防音チューブが前記固定軸に巻き込まれて前記巻取り軸等が回転不能に陥ることを抑制できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用シート巻取り装置において、前記防音チューブの前記チューブ側嵌合部を除く外周部に突設され、前記巻取り軸の内周部に弾性的に接触する突条を備えたことを要旨とする。
【0010】
同構成によれば、例えば前記固定軸及び前記支持部材に両脚部の係止された前記捩りばねの外周部を前記防音チューブに挿入した仮組み状態で前記巻取り軸に前記支持部材及び前記防音チューブを嵌挿する際に、前記突条が前記巻取り軸の内周部に弾性的に接触する。従って、例えば前記防音チューブの外周部全体が前記巻取り軸の内周部に接触する場合に比べて、前記防音チューブを前記巻取り軸に嵌挿する際の摺動抵抗を低減でき、その組付性を向上できる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両用シート巻取り装置において、前記位置決め部の周方向中央部の角度位置及び該角度位置に径方向で対向する角度位置の少なくとも一方で、前記防音チューブの内周部に軸方向に延設された案内溝を備えたことを要旨とする。
【0012】
同構成によれば、例えば前記位置決め部を成形するために前記防音チューブから軸方向に突出させる凸形状を、前記防音チューブの素材となる押出成形材から切り出す際、該押出成形材を前記案内溝に沿って折り重ねて切断することで、前記凸形状(位置決め部)を成形する周方向の範囲(角度位置)を位置ずれさせることなく、該凸形状を容易に成形することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用シート巻取り装置において、前記挟持部は、前記捩りばねの脚部及び前記支持部材の係止位置を中心とする前記位置決め部から離隔する回転方向に向かうに従い、前記捩りばねに対向する軸方向への突出長が漸減するガイド部を有することを要旨とする。
【0014】
同構成によれば、例えば前記捩りばねの外周部を前記防音チューブに挿入した仮組み状態で、前記位置決め部を成形するために前記防音チューブから軸方向に突出させる凸形状に、前記ガイド部の突出長が小さい側が近接するように前記支持部材に前記捩りばねの該当の脚部を係止する。そして、この状態で、前記捩りばねの脚部及び前記支持部材の係止位置を中心に前記回転方向に前記支持部材を回動すると、前記挟持部の回動軌跡上に配置される前記凸形状は、前記ガイド部に案内されて徐々に内周側から軸方向に折り返される。そして、前記支持部材の回動に伴い、前記挟持部が前記コイル部に挿入されると、軸方向に折り返された前記凸形状が前記位置決め部として前記コイル部及び前記挟持部により挟持される。このように、前記凸形状から前記位置決め部を円滑に成形して、前記コイル部及び前記挟持部により挟持させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、製造工数の増大を抑制しつつ、巻取り軸の内周部及び捩りばねの外周部間に介装される防音チューブの巻取り軸に対する回転をより確実に係止することができる車両用シート巻取り装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態が適用される車両ルーフを示す斜視図。
【図2】同実施形態を示す斜視図。
【図3】(a)は、同実施形態を示す縦断面図であり、(b)(c)は、(a)のB矢視図及びC矢視図。
【図4】(a)(b)は、同実施形態を示す分解斜視図及び縦断面図。
【図5】図4(b)のD−D線に沿った断面図。
【図6】図4(b)のE−E線に沿った断面図。
【図7】同実施形態を誇張して示す横断面図。
【図8】同実施形態の組付け態様を示す縦断面図。
【図9】凸形状の成形態様を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1〜図9を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1に示すように、自動車などの車両ルーフ10には、開口部としての略四角形のルーフ開口部10aが形成されるとともに、該ルーフ開口部10aに透光エリアを形成する透光部材としてのガラス製のルーフパネル11が設置されている。
【0018】
車両ルーフ10には、図2に示すように、ルーフ開口部10aの車両幅方向両側縁部において、例えばアルミニウム合金の押出材からなる一対のガイドレール12が車両前後方向に延設されるとともに、各ガイドレール12の後側において、例えば金属板からなるブラケット13が立設されている。そして、両ブラケット13には、シート巻取り装置20が支持されている。このシート巻取り装置20は、遮光用のシート21を備えるとともに、車両幅方向に延在してシート21の端末に固着されたガーニッシュ22を備え、更に該ガーニッシュ22の幅方向両端部から当該方向にそれぞれ突設されて両ガイドレール12に前後方向に移動自在に装着される一対のシュー23を備える。シート巻取り装置20は、ガーニッシュ22とともに両シュー23がガイドレール12に沿って前方に移動することで、シート21を繰り出しつつ、ルーフパネル11を遮る。あるいは、シート巻取り装置20は、シート21を巻き取ることで、ガーニッシュ22とともに両シュー23をガイドレール12に沿って後方に移動させつつ、ルーフパネル11を開放する。
【0019】
詳述すると、図3(a)(b)に示すように、幅方向一側(図示左側)のブラケット13(以下、ブラケット13Aともいう)には、幅方向に開口する略四角形の嵌合孔14が形成されている。そして、嵌合孔14には、幅方向に軸線の延びる固定軸24に形成された略四角柱状の嵌合突部24aが嵌合されている。従って、固定軸24は、ブラケット13Aに対し回転不能に支持されている。なお、固定軸24は、幅方向内側の先端部に略円柱状の軸受部24bを有するとともに、該軸受部24bの外周面の所定角度位置(図3(a)の上側)で軸方向に延在するガイド溝24cを有し、更に該ガイド溝24cの幅方向外側の先端に連続して径方向に凹設された縦孔状の係止孔24dを有する。また、固定軸24は、軸受部24bの中央部から幅方向内側に突設された略部分円柱状のスプリング保持部24eを有する。
【0020】
一方、図3(a)(c)に示すように、幅方向他側(図示右側)のブラケット13(以下、ブラケット13Bともいう)には、幅方向に開口する略円形の軸受孔15が形成されている。そして、軸受孔15には、幅方向に軸線の延びる回転軸25に形成された略円筒状の軸部25aが挿入されている。従って、回転軸25は、ブラケット13Bに対し回転可能に支持されている。
【0021】
そして、固定軸24の軸受部24bは、幅方向に軸線の延びるアルミニウム合金製の押出材からなる略円筒状の巻取り軸26の一方の端部に回転自在に挿入されるとともに、回転軸25は、巻取り軸26の他方の端部に回転不能に嵌挿されている。従って、巻取り軸26は、一方の端部が固定軸24の軸受部24b周りに回転可能であるとともに、他方の端部が回転軸25を介して軸受孔15周りに回転可能であることで、両ブラケット13に対し回転可能に支持されている。
【0022】
なお、巻取り軸26の外周部には、前記シート21の一方の端末が固定されて該シート21が巻回されている。従って、シート21は、巻取り軸26が一方向に回転することで繰り出され、逆方向に回転することで巻き取られる。
【0023】
巻取り軸26には、その軸線方向中間部において、例えば樹脂材からなる略円柱状の支持部材27が嵌挿されている。すなわち、図6に示すように、巻取り軸26の内周部には、径方向で互いに対向する角度位置において、軸方向全長に亘って延在する一対の巻取り軸側嵌合部26aが形成されている。各巻取り軸側嵌合部26aは、巻取り軸26の円形の内壁面を径方向と平行に直線状に盛り上げることでなり、軸方向に沿って平面状に広がっている。つまり、巻取り軸26の内壁面は、いわゆる2面幅を有する略小判形である。一方、支持部材27の外周部には、両巻取り軸側嵌合部26aに径方向で対向する角度位置において、軸方向全長に亘って延在する一対の支持部材側嵌合部27aが形成されている。各支持部材側嵌合部27aは、支持部材27の円形の外壁面を径方向と平行に直線状に切り欠くことでなり、軸方向に沿って平面状に広がっている。つまり、支持部材27の外壁面は、いわゆる2面幅を有する略小判形である。巻取り軸26及び支持部材27は、両側の巻取り軸側嵌合部26a及び支持部材側嵌合部27aが嵌合することで一体回転するように連結されている。
【0024】
なお、図4(a)(b)に併せ示すように、支持部材27は、その外周面の所定角度位置(両支持部材側嵌合部27a間の中心となる一の角度位置)で軸方向に延在するガイド溝27bを有するとともに、該ガイド溝27bの幅方向内側の先端に連続して径方向に凹設された縦孔状の係止孔27cを有する。また、支持部材27は、その中央部から固定軸24に対向する幅方向外側に突設された挟持部としての略部分円柱状のスプリング保持部27dを有する。
【0025】
図3に示すように、巻取り軸26には、固定軸24及び支持部材27間に介装された捩りばね28が挿入されている。この捩りばね28は、固定軸24及び支持部材27間に挟まれるとともに両端にスプリング保持部24e,27dがそれぞれ挿入されるコイル部28aを有するとともに、該コイル部28aの一端から固定軸24に対向する幅方向外側に延出する略L字状の脚部28bを有し、更にコイル部28aの他端から支持部材27に対向する幅方向内側に延出する略L字状の脚部28cを有する。捩りばね28は、両端がスプリング保持部24e,27dにそれぞれ挿入・保持され、ガイド溝24cに案内される脚部28bの先端が係止孔24dに挿入・係止され、ガイド溝27bに案内される脚部28cの先端が係止孔27cに挿入・係止されている。つまり、捩りばね28は、脚部28bが固定軸24に固定され、脚部28cが支持部材27に固定されている。そして、例えば捩りばね28の自由状態から巻取り軸26と一体で支持部材27を固定軸24に対し回転させると、捩りばね28には自由状態に戻ろうとする付勢力が発生する。捩りばね28は、基本的にシート21を巻き取る回転方向に支持部材27(巻取り軸26)を付勢するようになっている。従って、シート21の巻取り状態から該シート21を繰り出すべく巻取り軸26(支持部材27)が一方向に回転すると、捩りばね28には自由状態に戻ろうとする付勢力が発生する。そして、その後に、シート21が解放されると、捩りばね28に付勢されて支持部材27と一体で巻取り軸26が逆方向に回転し、シート21が巻き取られる。
【0026】
巻取り軸26には、捩りばね28のコイル部28aの外周側で、例えば樹脂製の押出成形材からなる略円筒状の防音チューブ29が嵌挿されている。すなわち、図5に示すように、防音チューブ29の外周部には、前記両巻取り軸側嵌合部26aに径方向で対向する角度位置において、軸方向全長に亘って延在する一対のチューブ側嵌合部29aが形成されている。各チューブ側嵌合部29aは、防音チューブ29の円形の外壁面を径方向と平行に直線状に切り欠くことでなり、軸方向に沿って平面状に広がっている。つまり、防音チューブ29の外壁面は、いわゆる2面幅を有する略小判形である。巻取り軸26及び防音チューブ29は、両側の巻取り軸側嵌合部26a及びチューブ側嵌合部29aが嵌合することで一体回転するように連結されている。
【0027】
また、図4(a)(b)に示すように、巻取り軸26の内周部及びコイル部28aの外周部間に介装された防音チューブ29は、片側のチューブ側嵌合部29aに沿って軸方向に突出する凸形状Pを、コイル部28aの端末を覆うように内周側から軸方向に折り返してなる位置決め部29bを有する。防音チューブ29は、位置決め部29bがコイル部28a及びスプリング保持部27dに挟持されることで、両側の巻取り軸側嵌合部26a及びチューブ側嵌合部29aの嵌合との協働で、巻取り軸26に対する防音チューブ29の回転が係止されている。加えて、防音チューブ29は、位置決め部29bがコイル部28a及びスプリング保持部27dに挟持されることで、固定軸24に近付く側への防音チューブ29の軸方向への移動が係止されている。なお、図3に示すように、固定軸24及び防音チューブ29の軸方向で対向する両先端間には間隙Δが設定されており、これら固定軸24及び防音チューブ29の干渉がより確実に抑制されている。
【0028】
さらに、図7に誇張して示すように、防音チューブ29の両支持部材側嵌合部27aで挟まれる各円形の外壁面には、左右対称となる一対のリブ状の突条29cが突設されている。防音チューブ29の両チューブ側嵌合部29aを除く外周部に突設されたこれら突条29cは、軸方向全長に亘って延在しており、径方向で対向する巻取り軸26の円形の内壁面に弾性的に接触する。また、防音チューブ29には、位置決め部29b(凸形状P)の配置されない片側の支持部材側嵌合部27aの中心において、該支持部材側嵌合部27aの内壁面に案内溝29dが形成されている。この案内溝29dは、軸方向全長に亘って延在している。図9に模式的に示すように、防音チューブ29の素材となる押出成形材Wから前記凸形状Pを切り出す際には、該押出成形材Wを案内溝29dに沿って折り重ねて切断することで、凸形状P(位置決め部29b)を成形する周方向の範囲(角度位置)を位置ずれさせることなく、該凸形状Pを容易に成形することができる。
【0029】
ここで、凸形状Pの折返しによる位置決め部29bの成形態様について説明する。図8に示すように、支持部材27のスプリング保持部27dは、捩りばね28の脚部28c及び支持部材27の係止位置(係止孔27c)を中心とする位置決め部29bから離隔する回転方向に向かうに従い、捩りばね28に対向する軸方向への突出長が漸減する斜面状のガイド部27eを有する。そして、支持部材27の組付けにあたっては、捩りばね28(コイル部28a)の外周部を防音チューブ29に挿入した仮組み状態で、前記凸形状Pに、ガイド部27eの突出長が小さい側が近接するように支持部材27の係止孔27cに捩りばね28の脚部28cを係止する。そして、この状態で、捩りばね28の脚部28c及び支持部材27の係止位置(係止孔27c)を中心に前記回転方向に支持部材27を回動すると、スプリング保持部27dの回動軌跡上に配置される凸形状Pは、ガイド部27eに案内されてコイル部28aの端末を支点に徐々に内周側から軸方向に折り返される。そして、支持部材27の回動に伴い、スプリング保持部27dがコイル部28aに挿入されると、軸方向に折り返された凸形状Pが位置決め部29bとしてコイル部28a及びスプリング保持部27dにより挟持される。
【0030】
なお、固定軸24及び支持部材27に両脚部28b,28cの係止された捩りばね28(コイル部28a)の外周部を防音チューブ29に挿入した仮組み状態で、巻取り軸26に支持部材27及び防音チューブ29を嵌挿することで、固定軸24等が巻取り軸26組み付けられる。
【0031】
次に、本実施形態の動作について説明する。
シート巻取り装置20は、ガーニッシュ22とともに両シュー23がガイドレール12に沿って前方に移動することで、捩りばね28の付勢力に抗して巻取り軸26(支持部材27)を一方向に回転させつつ、巻取り状態にあるシート21を繰り出す。これにより、ルーフパネル11がシート21で遮られる。一方、シート巻取り装置20は、捩りばね28の付勢力で巻取り軸26(支持部材27)を逆方向に回転させることで、ガーニッシュ22とともに両シュー23をガイドレール12に沿って後方に移動させつつ、繰出し状態(展開状態)にあるシート21を巻き取る。これにより、ルーフパネル11が開放される。
【0032】
この際、巻取り軸26に対する支持部材27の回転は、両側の巻取り軸側嵌合部26a及び支持部材側嵌合部27aの嵌合によって係止される。一方、巻取り軸26に対する防音チューブ29の回転は、巻取り軸側嵌合部26a及びチューブ側嵌合部29aの嵌合、並びにコイル部28a及びスプリング保持部27dによる位置決め部29bの挟持によって係止される。加えて、固定軸24に近付く側への防音チューブ29の軸方向への移動は、コイル部28a及びスプリング保持部27dによるによる位置決め部29bの挟持によって係止される。
【0033】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、巻取り軸26に対する支持部材27の回転を、両側の巻取り軸側嵌合部26a及び支持部材側嵌合部27aの嵌合によって係止できる。従って、例えばかしめ工程が不要になる分、製造工数を低減でき、あるいはかしめ加工に伴う巻取り軸26の強度低下を回避できる。一方、巻取り軸26に対する防音チューブ29の回転を、巻取り軸側嵌合部26a及びチューブ側嵌合部29aの嵌合、並びにコイル部28a及びスプリング保持部27dによる位置決め部29bの挟持によってより確実に係止できる。加えて、固定軸24に近付く側への防音チューブ29の軸方向への移動を、コイル部28a及びスプリング保持部27dによる位置決め部29bの挟持によって係止できる。従って、例えば固定軸24及び支持部材27に両脚部28b,28cの係止された捩りばね28の外周部を防音チューブ29に挿入した仮組み状態で巻取り軸26に支持部材27等を嵌挿する際に、捩りばね28の伸縮変形に起因する防音チューブ29の軸方向への位置ずれを抑制でき、その組付性を向上できる。あるいは、巻取り軸26の回転や捩りばね28の変形に伴った、防音チューブ29の軸方向への位置ずれを抑制でき、防音チューブ29が固定軸24に巻き込まれて巻取り軸26等が回転不能に陥ることを抑制できる。
【0034】
(2)本実施形態では、例えば固定軸24及び支持部材27に両脚部28b,28cの係止された捩りばね28(コイル部28a)の外周部を防音チューブ29に挿入した仮組み状態で巻取り軸26に支持部材27及び防音チューブ29を嵌挿する際に、突条29cが巻取り軸26の内周部に弾性的に接触する。従って、例えば防音チューブ29の外周部全体が巻取り軸26の内周部に接触する場合に比べて、防音チューブ29を巻取り軸26に嵌挿する際の摺動抵抗を低減でき、その組付性を向上できる。
【0035】
(3)本実施形態では、例えば位置決め部29bを成形するために防音チューブ29から軸方向に突出させる凸形状Pを、押出成形材Wから切り出す際、該押出成形材Wを案内溝29dに沿って折り重ねて切断することで、凸形状P(位置決め部29b)を成形する周方向の範囲(角度位置)を位置ずれさせることなく、該凸形状Pを容易に成形することができる。
【0036】
(4)本実施形態では、例えば捩りばね28(コイル部28a)の外周部を防音チューブ29に挿入した仮組み状態で、位置決め部29bを成形するために防音チューブ29から軸方向に突出させる凸形状Pに、ガイド部27eの突出長が小さい側が近接するように支持部材27に捩りばね28の脚部28cを係止する。そして、この状態で、捩りばね28の脚部28c及び支持部材27の係止位置(係止孔27c)を中心に支持部材27を回動すると、スプリング保持部27dの回動軌跡上に配置される凸形状Pは、ガイド部27eに案内されて徐々に内周側から軸方向に折り返される。そして、支持部材27の回動に伴い、スプリング保持部27dがコイル部28aに挿入されると、軸方向に折り返された凸形状Pが位置決め部29bとしてコイル部28a及びスプリング保持部27dにより挟持される。このように、凸形状Pから位置決め部29bを円滑に成形して、コイル部28a及びスプリング保持部27dにより挟持させることができる。
【0037】
(5)本実施形態では、巻取り軸側嵌合部26a、支持部材側嵌合部27a及びチューブ側嵌合部29aを、それぞれ平面状の極めて簡易な形状にできる。
(6)本実施形態では、片側のチューブ側嵌合部29aの角度位置に合わせて位置決め部29b(凸形状P)を突設したため、防音チューブ29等を巻取り軸26に嵌挿する際の位置決めの目印として利用することができる。
【0038】
(7)本実施形態では、巻取り軸26に対する防音チューブ29の回転を係止できるため、例えば該回転に伴って巻取り軸26及び防音チューブ29間に意図しない隙が生まれて異音の原因になり、あるいはこれら巻取り軸26及び防音チューブ29が密着して組付け困難に陥ることを回避できる。
【0039】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記実施形態において、防音チューブ29の案内溝29dは、位置決め部29bの周方向中央部の角度位置に径方向で対向する角度位置に代えて、若しくは加えて、位置決め部29bの周方向中央部の角度位置に形成してもよい。
【0040】
・前記実施形態において、巻取り軸26と、支持部材27及び防音チューブ29の嵌合形状は一例である。例えば、巻取り軸側嵌合部26aと、支持部材側嵌合部27a及びチューブ側嵌合部29aとを片側に1つのみ設けてこれらを嵌合してもよい。
【0041】
・前記実施形態において、例えば巻取り軸26からのシート21の繰り出しは、電動で行うようにしてもよいし、手動で行うようにしてもよい。
・前記実施形態において、シート巻取り装置20は、ルーフ開口部10aの前縁部に支持されて後側にシート21を繰り出してもよい。あるいは、透光部材としてのフロントガラスG(図1参照)や、サイドガラス、リヤガラスなどに配設されるシート巻取り装置20であってもよい。
【0042】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用シート巻取り装置において、
前記巻取り軸側嵌合部は、前記巻取り軸の内周部を平面状に成形してなり、
前記支持部材側嵌合部及び前記チューブ側嵌合部は、前記支持部材の外周部及び前記防音チューブの外周部をそれぞれ平面状に成形してなることを特徴とする車両用シート巻取り装置。同構成によれば、前記巻取り軸側嵌合部、前記支持部材側嵌合部及び前記チューブ側嵌合部を、それぞれ平面状の極めて簡易な形状にできる。
【符号の説明】
【0043】
21…シート、24…固定軸、26…巻取り軸、26a…巻取り軸側嵌合部、27…支持部材、27a…支持部材側嵌合部、27d…スプリング保持部(挟持部)、27e…ガイド部、28…捩りばね、28a…コイル部、28b,28c…脚部、29…防音チューブ、29a…チューブ側嵌合部、29b…位置決め部、29c…突条、29d…案内溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定軸と、該固定軸に回転可能に支持され内周部に軸方向に延在する巻取り軸側嵌合部を有する筒状の巻取り軸と、該巻取り軸に一方の端末が固定されたシートと、前記巻取り軸に挿入される支持部材と、軸方向における前記固定軸及び前記支持部材間で前記巻取り軸に挿入されるコイル部を有し両脚部が前記固定軸及び前記支持部材にそれぞれ係止されて前記巻取り軸を前記シートの巻取り方向に付勢する捩りばねと、前記巻取り軸の内周部及び前記コイル部の外周部間に介装された防音チューブとを備える車両用シート巻取り装置において、
前記支持部材及び前記防音チューブにそれぞれ形成され、前記巻取り軸側嵌合部に嵌合することで前記巻取り軸に対する回転を係止する支持部材側嵌合部及びチューブ側嵌合部と、
前記捩りばねに対向する軸方向に沿って前記支持部材に突設された挟持部と、
前記防音チューブの周方向における所定範囲から前記支持部材に対向する軸方向に沿って突出形成され、前記コイル部の端末を覆うように内周側から軸方向に折り返されるとともに前記コイル部及び前記挟持部により挟持される位置決め部とを備えたことを特徴とする車両用シート巻取り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シート巻取り装置において、
前記防音チューブの前記チューブ側嵌合部を除く外周部に突設され、前記巻取り軸の内周部に弾性的に接触する突条を備えたことを特徴とする車両用シート巻取り装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用シート巻取り装置において、
前記位置決め部の周方向中央部の角度位置及び該角度位置に径方向で対向する角度位置の少なくとも一方で、前記防音チューブの内周部に軸方向に延設された案内溝を備えたことを特徴とする車両用シート巻取り装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用シート巻取り装置において、
前記挟持部は、前記捩りばねの脚部及び前記支持部材の係止位置を中心とする前記位置決め部から離隔する回転方向に向かうに従い、前記捩りばねに対向する軸方向への突出長が漸減するガイド部を有することを特徴とする車両用シート巻取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−224311(P2012−224311A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96173(P2011−96173)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】