説明

車両用シート装置

【課題】降車時の着座乗員の各動作に応じてシートを好適に調整し、降車動作に伴う負担感をより効果的に軽減できるようにする。
【解決手段】シートの諸元値データを記憶するメモリ部56と、シート状態を検出するセンサ41f,41r,42f,42rと、着座乗員の体格を推定する体格判定部53と、シート諸元値データと推定された着座乗員の体格とに基づいて、乗員降車時の片側の足抜き動作中の負担感が最小となるように足抜き動作の軌跡を推定すると共に、前記片側の足抜け位置を推定する片側足抜け位置推定処理部58と、推定された前記足抜き動作の軌跡が確保されるように、シートを調整するシート前後位置・座面角調整量算出処理部62と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両に装備される車両用のシート装置、特に、着座乗員の降車性を高めることができる車両用シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車等の車両に乗車しシート上に着座している乗員は、ドアを開いて降車する際には、自身の足部が他のシートやピラー等の車体部材にぶつからないように気を付けながら足抜きを行う必要があり、また、先に移動する片側の足について足抜きを行った後には、他側の足について足抜きを行って地面に立脚できるように踏ん張らねばならず、かなりの負担感を覚えることは免れ難い。
【0003】
そこで、従来、車両用のシート装置について、着座乗員が降車する際の降車性を高めて、降車動作をできるだけスムースに行えるようにすることを目的として、種々の提案がなされている。
例えば特許文献1には、ドアのロック解除や開閉あるいはシーベルト装置のバックル解除等の情報に基づいて、着座乗員が降車すると判断した場合には、シートクッションに対するシートバックの傾斜角を降車に適した角度となるように制御する、とした構成が開示されている。
【特許文献1】特開2007−185988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、着座乗員の降車動作は、実際には、乗員の体格に応じて異なる身体各部の種々のきめ細かな動作が一連のものとして組み合わさって構成されており、単にシートクッションに対するシートバックの傾斜角を調整するだけでは、降車動作に伴う乗員の負担感を効果的に軽減することは、実際には難しい。
【0005】
そこで、この発明は、降車時の着座乗員の各動作に応じてシートを好適に調整し、降車動作に伴う負担感をより効果的に軽減できるようにすることを、基本的な目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本願の第1の発明(請求項1に係る発明)は、シートの諸元値データを記憶する諸元値記憶手段と、シート状態を検出するシート状態検出手段と、着座乗員の体格を推定する乗員体格推定手段と、前記シート諸元値データと推定された前記着座乗員の体格とに基づいて、前記乗員降車時の片側の足抜き動作中の負担感が最小となるように足抜き動作の軌跡を推定すると共に、前記片側の足抜け位置を推定する足抜け位置推定手段と、推定された前記足抜き動作の軌跡が確保されるように、シートを調整するシート調整手段と、を備えたことを特徴としたものである。
【0007】
また、本願の第2の発明(請求項2に係る発明)は、前記第1の発明において、ドア開度を検出するドア開度検出手段を更に備え、前記足抜け位置推定手段は、前記シート諸元値データと前記シート状態と推定された前記着座乗員の体格と前記ドア開度とに基づいて、乗員降車時の片側の足抜け位置を推定する、ことを特徴としたものである。
【0008】
更に、本願の第3の発明(請求項3に係る発明)は、前記第1の発明において、前記シート調整手段は、前記片側の足抜き動作の終了後に前記乗員の踏ん張り力が発生し得る姿勢に応じたシート状態となるように、シートを再調整する、ことを特徴としたものである。
【0009】
また更に、本願の第4の発明(請求項4に係る発明)は、前記第1の発明において、前記足抜け位置推定手段は乗員の片側の足抜き動作の軌跡を推定し、前記シート調整手段は、前記軌跡中において前記足抜き動作が他の車両部材と干渉しないように、シートを車両前後方向へ移動調整する、ことを特徴としたものである。
ここに、前記他の車両部材とは、例えば当該シートの近傍に位置するピラーや他のシートを含むものである。
【0010】
また更に、本願の第5の発明(請求項5に係る発明)は、前記第4の発明において、前記シート調整手段は、前記乗員が着座したシート及び他のシートの少なくとも何れか一方を車両前後方向へ移動調整する、ことを特徴としたものである。
【0011】
また更に、本願の第6の発明(請求項6に係る発明)は、前記第1の発明において、前記足抜け位置推定手段は乗員の片側の足についての足抜け位置までの足抜き動作の軌跡を推定し、前記シート調整手段は、前記軌跡中において前記乗員の足の関節のトルク積算値が最小となるように、シートバック及びシートクッションの少なくとも何れか一方の角度を調節する、ことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本願の第1の発明によれば、シート諸元値データと推定された着座乗員の体格とに基づいて、乗員降車時の片側の足抜き動作中の負担感が最小となるように足抜き動作の軌跡を推定すると共に前記片側の足抜け位置を推定し、推定された前記足抜き動作の軌跡が確保されるようにシートを調整することにより、乗員の体格に応じて異なる足抜き動作の軌跡および足抜き位置に基づいて、乗員降車時の片側の足抜き動作中の負担感を最小にすることができ、降車動作に伴う乗員の負担感を効果的に軽減することができる。
【0013】
また、本願の第2の発明によれば、基本的には前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、ドア開度を考慮に入れて乗員降車時の片側の足抜け位置を推定することができ、ドア開度に応じて(つまりドアが全開でなくても)乗員の負担感がより軽減された降車を実現することができる。
【0014】
更に、本願の第3の発明によれば、基本的には前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、片側の足抜き動作の終了後に乗員の踏ん張り力が発生し得る姿勢に応じたシート状態となるように、シートを再調整することにより、他方の足が立ち上がり易い姿勢をとることを助勢することができ、降車動作に伴う乗員の負担感をより軽減することができる。
【0015】
また更に、本願の第4の発明によれば、基本的には前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、乗員の片側の足抜き動作の軌跡中において当該足抜き動作が他の車両部材と干渉しないように、シートを車両前後方向へ移動調整することにより、乗員が片側の足について足抜き動作を行う際に干渉するものを無くし、かかる干渉を回避するために乗員の負担感が増すことを抑制できる。
【0016】
また更に、本願の第5の発明によれば、基本的には前記第4の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、乗員が着座したシート及び他のシートの少なくとも何れか一方を車両前後方向へ移動調整することにより、前後方向についてより大きなスペースを確保して、乗員が足抜き動作を行う際に他のシートと干渉することを、より確実に回避することができる。
【0017】
また更に、本願の第6の発明によれば、基本的には前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、乗員の片側の足抜け位置までの足抜き動作の軌跡中において前記乗員の片側の足の関節のトルク積算値が最小となるように、シートバック及びシートクッションの少なくとも何れか一方によって乗員の身体を押し出すようにして支持し、乗員の片側の足についての足抜き動作を助勢することができる。これにより、足抜き動作中における乗員の負担感を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るシート装置を備えた自動車の車室内を模式的に示す側面図である。この図に示すように、前記自動車の車室内には、前後に並べられて2列のシート30f,30rが配設され、各シート30f,30rのシートクッション31f,31rの底面側には、シート30f,30rの車体前後方向における位置(前後位置)およびシート座面角(シートクッション31f,31rの着座面の角度)を調整し得るシート位置・座面角調整装置70f,70rと、シート30f,30rの前後位置を検出するシート前後位置センサ41f,41rと、シート座面角を検出するシート座面角センサ42f,42rとが設けられている。尚、シート座面角とは、シート座面の例えば水平面に対する傾斜角度である。シート座面角センサ42f,42rは、例えば、シートクッション31f,31rとシートバック32f,32rとの連結部の下方に位置している。
【0019】
尚、前記自動車は、車体前後方向における中央よりも後部側は、ドア開口部の上縁が車両後方ほど低くなるタイプの車体形状を有している。従って、後席シート30rの乗員1rは、特に、ドア開度が小さい場合には、自身の重心が後寄りとなり、ドア開口部の上縁がより低くなる領域を通って降車動作を行わざるを得ないことになる。また、後席シート30rの外側方の後ろ寄りには、後輪用のタイヤハウス(不図示)が位置している。
【0020】
前記自動車のドアミラー部分には、撮像装置としてのカメラ装置39が設けられている。該カメラ装置39は、所謂CCDカメラで構成され、ドアミラー部分から後方に向けて撮像することにより、その撮像データに基づいて、乗員Mf,Mrの体格や降車動作における乗員頭部の位置を、簡便で且つ精度良く検出することができる。また、このカメラ39の撮像データに基づいてドアの開度も検出することができる。
尚、乗員Mf,Mrの体格情報については、当該乗員Mf,Mrが所持するICカードに体格を含む情報を登録しておき、このICカードをカード読み取り装置に通すことにより、撮像手段を用いる必要無しに情報入手できるようにすることも可能である。
【0021】
前記シート位置・座面角調整装置70f,70rとしては、種々の公知の構造を含むものが適用できる。例えば図2に示すように、シート前後移動用モータ47f(47r)及びシート座面角調整用モータ48f(48r)を備えた構成としても良い。
この図2に示されたシート位置・座面角調整装置70f(70r)には、シートクッション31f,31rの後部下面に結合される後部ブラケット91の枢支部を貫通するとともにスライド部材77に支持された支持軸92と、シート座面角調整用モータ48f(48r)により回転駆動される作動ギア93と、この作動ギア93に歯合するセクタギア94aが基端部に形成された駆動レバー94と、シートクッション31f,31rの前部下面に結合される前部ブラケット95に連結されたリンクプレート96とを有するチルト手段97が設けられている。尚、シート座面角調整用モータ48f(48r)はブラケットを介してスライド部材77に取り付けられている。
【0022】
そして、シート座面角調整用モータ48f(48r)を駆動し回転軸を介して作動ギア93を回転させ、この作動ギア93により駆動レバー94を駆動して揺動変位させることにより、後部ブラケット91に枢支された支持軸92を支点にシートクッション31f,31rの後端部が昇降駆動され、シート座面角が変化することになる。前記支持軸92の軸端部に、シート座面角センサ42f(42r)を構成するポテンショメータが取り付けられている。
【0023】
また、前記シート位置・座面角調整装置70f(70r)は、シートクッション31f,31rを車体前後方向へスライド変位させるために、ラックギヤ80を有するスライドレール76を備えており、該スライドレール76にはシート前後移動用モータ47f(47r)により回転駆動される転動ギア81が噛合している。そして、シート前後移動用モータ47f(47r)を駆動し回転軸を介して転動ギア81を回転させることにより、前部ブラケット95及び後部ブラケット91に結合されたシートクッション31f,31rが前後方向へスライド移動されることになる。尚、シート前後移動用モータ47f(47r)はブラケットを介してスライド部材77に取り付けられている。また、シート前後位置センサ41f(41r)は、スライドレール76に内蔵されたポテンショメータ(不図示)により構成されている。
【0024】
尚、このシート位置・座面角調整装置70f,70r、シート前後位置センサ41f,41r及びシート座面角センサ42f,42rは、前席用および後席用について同一のものである。
【0025】
前記シート位置・座面角調整装置70f,70rのシート前後移動用モータ47f,47r及びシート座面角調整用モータ48f,48r、シート前後位置センサ41f,41r、シート座面角センサ42f,42r、カメラ装置39は何れも、図3に示すシート制御ユニット50に信号授受可能に接続されている。
【0026】
また、着座乗員Mf,Mrの降車動作の開始を予測する降車動作予測手段として、シートベルト(不図示)のバックルのロック・アンロック状態を検出するバックルSW(スイッチ)45が設けられており、ロック状態であったバックルがアンロック(ロック解除)されたことを検出することにより、着座乗員Mf,Mrが降車動作を開始することを予測できる。該バックルSW45も前記シート制御ユニット50に信号授受可能に接続されている。
【0027】
該シート制御ユニット50は、前席シート30f及び後席シート30rをそれぞれ作動制御するもので、好ましくは、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。尚、かかるシート制御ユニット50は、必ずしも専用のものを独立して設ける必要はなく、他の制御要素あるいは車両全体の制御を司る制御ユニットの一部として、その内部に組み込まれていても良い。
【0028】
前記シート制御ユニット50には、バックルSW45の検出信号が入力される降車開始判定部51と、カメラ装置39からの撮像データが入力されるドア開度判定部52,体格判定部53及び片側足抜き終了判定部54とを備えられている。
降車開始判定部51は、バックルSW45からの入力信号に基づいて、着座乗員Mf,Mrが着座状態を維持するか或いは降車動作を開始すると予測できるかを判定するものである。ドア開度判定部52は、カメラ装置39から入力された撮像データに基づいて、ドア開度(ドア全開,全閉,半開,半開よりも小または大など)を判定するものである。
【0029】
また、体格判定部53は、カメラ装置39から入力された撮像データに基づいて、乗員Mf,Mrの体格を判定するものである。更に、片側足抜き終了判定部54は、カメラ装置39から入力された撮像データに基づいて、乗員Mf,Mrが降車動作を行っている場合について、乗員Mf,Mrの片側の足(先に移動させる方の足)がドア開口部を通過して外方へ移動し車外の地面に着いたか否か(つまり足抜きが終了したか否か)を判定するものである。
【0030】
シート制御ユニット50は、また、第1,第2及び第3のメモリ部55,56及び57を備えている。第1メモリ部は後述する片側足抜け位置推定用データを格納し、第2メモリ部56は後述するシート諸元値データを格納し、また、第3メモリ部57は後述する車両諸元値データを格納している。尚、かかるメモリ部55,56,57は、必ずしもシート制御ユニット50の内部に設ける必要はなく、該シート制御ユニット50の外部に付設された外部メモリとして、データ読み出し可能に備えるようにしても良い。
【0031】
更に、シート制御ユニット50には、着座乗員Mf,Mrの降車動作の開始が予測された場合において、前記ドア開度判定部52及び体格判定部53の各判定結果に基づき、且つ、前記第1メモリ部55に格納された片側足抜け位置推定用データ及び第2メモリ部56に格納されたシート諸元値データを適用することによって、乗員Mf,Mrの片側足抜け位置(つまり、先に移動させる片側の足の着地位置)を推定処理する片側足抜け位置推定処理部58が備えられている。
【0032】
また更に、シート制御ユニット50には、前記片側足抜け位置推定処理部58での処理結果に基づき、且つ、前記第3メモリ部57に格納された車両諸元値データを適用することによって、乗員Mf,Mrの片側足抜き動作に好適なシート前後位置およびシート座面角を算出する片側足抜き動作用シート位置・座面角算出処理部59が備えられている。また、前記片側足抜き終了判定部54が乗員Mf,Mrの片側足抜き動作が終了したと判定した場合において、前記体格判定部53の判定結果に基づいて、乗員Mf,Mrが踏ん張り姿勢をとる上で好適なシート座面角を算出する踏ん張り姿勢用シート座面角算出処理部61が備えられている。
【0033】
また更に、シート制御ユニット50は、シート前後位置センサ41f,41r及びシート座面角センサ42f,42rからの入力信号、片側足抜き動作用シート位置・座面角算出処理部59及び踏ん張り姿勢用シート座面角算出処理部61からの入力信号に基づいて、現状からのシート前後位置についての所要調整量,シート座面角の所要調整量を算出するシート前後位置・座面角調整量算出処理部62を備え、該算出処理部62の処理結果に基づいた各調整量は制御信号として、前記シート位置・座面角調整装置70f,70rのシート前後移動用モータ47f,47r及びシート座面角調整用モータ48f,48rに出力され、この出力信号に基づいて該モータ47f,47r及び48f,48rが駆動されることにより、シート前後位置及び/又はシート座面角が好適に調整されるようになっている。
【0034】
次に、シート制御ユニット50の第1メモリ部55に格納された片側足向け位置推定用データ,第2メモリ部56に格納されているシート諸元値データ及び第3メモリ部57に格納されている車両諸元値データ、並びに片側足抜け位置推定処理部58,片側足向き動作用シート位置・座面角算出処理部59及び踏ん張り姿勢用シート位置・座面角算出処理部61による処理内容等について、例えば、主として後席シート30rの場合を例にとって説明する。
【0035】
図5(a)及び図5(b)は、後席シート30rとその周辺の車両部分との位置関係を模式的に示す正面図および側面図であり、必要なシート諸元値として、例えば、シート30rに乗員Mrが着座した場合のヒップポイント(HP)の地面Grからの高さHt(HP地上高)が図示されている。また、必要な車両諸元値として、例えば、地面Grからサイドシル35までの高さHc、シート30rの車幅方向中心からサイドシル35の外側面までの幅Dc、前記ヒップポイントHPからセンタピラー36までの前後方向の距離Lpが図示されている。尚、符号Kは、ドア開口部を示している。
【0036】
シート30rに着座した乗員Mrが降車する場合、他側の足を車室フロア面上に残した状態で片側の足を先に移動させ、この片側の足(先に移動させる方の足)がドア開口部を通過して車外の地面に着くことにより、足抜き動作が終了する。
例えば、車両左側のドアから降車する場合について、より具体的に説明すれば、図7に示すように、シート30rに着座した乗員Mrは、左足A1の大腿部を若干持ち上げるようにして、前席シート30fのシートバック32f又はセンタピラー36と干渉しないように気を付けながら、つまり、ヒップポイントHPから足A1のつま先まで距離が最大距離Lmaxを越えないように気を付けながら、図における実線表示状態から破線表示状態を経て移動させ、左足A1を地面Gr上に着地させることで足抜き動作を終える(図7:2点鎖線表示参照)。
【0037】
この足抜き動作においては、進行する動作状態に応じて乗員Mrは負担感(筋負担)を覚える場合が生じるが、この筋負担を覚えるか或いは殆ど覚えることが無いかは、シート諸元値や車両諸元値等のパラメータなど、種々の設計条件によって異なり、また、乗員の体格など人的条件やドアの開度などによっても異なる。本実施形態では、これら条件を種々に変更してシミュレーションを繰り返すことによって、筋負担に関する多数のデータマップを作成し、これらのデータマップを用いて足抜き動作における移動軌跡を推定するようにしている。
【0038】
図6は、降車時の足抜き動作に伴う乗員Mrの筋負担に関するデータマップの一例を示す説明図である。この図の場合には、ヒップポイントHPとヒップポイントHPから足抜き位置までの距離とを変化させて筋負担の有無を、例えば母数が100程度のシミュレーションを行って調べたもので、同様のマップが体格(背が高い,低い,中程度など)に応じて、また、ドア開度(前開,中開き,中開きよりも小など)に応じてそれぞれ用意される。
【0039】
かかるデータマップとしては、図6に例示したもの以外に、シートの車幅方向位置(シート30rの車幅方向中心からサイドシル35の外側面までの幅Dc)を横軸としたものや、サイドシル地上高(地面Grからサイドシル35までの高さHc)或いはセンタピラー位置(ヒップポイントHPからセンタピラー36までの前後方向の距離Lp)等を縦軸にとったものなど、種々のものが用意される。
【0040】
降車動作を行う乗員Mrは、少なくとも結果として最も筋負担が小さくなるように足を移動させるのが普通であると考えられるので、この筋負担が最小となる移動軌跡を推定する。動作の進行に応じて乗員Mrの腰(股),膝,足首などの関節には継続的にトルクが加えられ、このトルクの累積値等に応じて乗員Mrは負担感を覚えることになるので、本実施形態では、前記関節に加わるトルク値をシミュレーションで求め、これに基づいて足抜き移動軌跡を推定し、この移動軌跡の最終点を足抜き(後の)位置として推定するようにしている。
【0041】
足抜き移動軌跡をシミュレーションで推定する具体例については、後で詳しく説明するが、図8に模式的に示すように、例えば、遺伝的アルゴリズムにより複数の軌跡が生成される。これら複数の軌跡の中から、関節トルクの積算値が最小となる軌跡が選択される。そして、その移動軌跡の最終位置が足抜き位置とされる(ヒップポイントHPからの距離L1で表示)。尚、この図8の例では、2つの移動軌跡について、足抜き位置L1にΔLの差がある。また、この図8の例では、後席シート30rの初期位置(実線表示参照)のままでは、足抜き動作時に前席シート30fのシートバック32f或いはセンタピラー36と干渉するので、後席シート30rを後方へ所定量スライド移動させて足抜き動作が行われる。
【0042】
前記足抜き位置L1の算出に用いた移動軌跡から、軌跡の膨らみにより生じる最大距離Lmax、及びこの移動軌跡で足抜きを行う際に、足抜き動作の初期に大腿部を若干持ち上げる動作を助勢するに好適なシート座面角の最大値Θmax1、更に、後述するように足抜き動作の終期に片側の足A1を回転させて大腿部を斜め下方に向けながら足先を着地させる動作を助勢するに好適なシート座面角の最大値Θmax2が求められる。
【0043】
図9は、このような最大距離Lmax,足抜き動作の初期に好適なシート座面角の最大値Θmax1,足抜き動作の初期に好適なシート座面角の最大値Θmax2をマップとしてデータ化した一例を示す説明図である。このデータマップは、ヒップポイントHPの高さ及び足抜け位置L1をパラメータとして纏められ、例えば体格(身長)に応じて異なるものが用意される。
【0044】
図10乃至図13は、乗員の片側の足の足抜き動作例を説明する一連の説明図である。図10に示すように、シート30rに着座した乗員Mrは、足抜き動作の初期においては、片側の足A1(左足)の大腿部を若干持ち上げながら、図11に示すように大腿部を更に持ち上げた状態に移行するが、このとき、シート座面角がΘmax1となるまで前側が持ち上がるようにシートクッション31rが傾斜することにより、乗員Mrの大腿部を持ち上げる動作が助勢される。また、足抜き動作時に前席シート30fのシートバック32f或いはセンタピラー36との干渉を回避するために、後席シート30rが所定量後退させられる。このとき、後席シート30rの後退スペースが不足する場合には、それを補うために前席シート30fが前進させられる。尚、図10における2点鎖線は、推定された足抜け状態を示している。
【0045】
このように、後席シート30rに着座した乗員Mrの片側の足抜き動作の軌跡中において当該足抜き動作が他の車両部材(センタピラー36或いは前席シート30f)と干渉しないように、シート30rを車両前後方向へ移動調整することにより、乗員Mrが片側の足について足抜き動作を行う際に干渉するものを無くし、かかる干渉を回避するために乗員Mrの負担感が増すことを抑制できるのである。
特に、乗員Mrが着座した後席シート30r及び前席シート30fの少なくとも何れか一方を車両前後方向へ移動調整することにより、前後方向についてより大きなスペースを確保して、乗員が足抜き動作を行う際に前席シート30fと干渉することを、より確実に回避することができる。
【0046】
そして、図12に示すように、左足A1を着地させて足抜き動作を終えるが、このとき、シート座面角がΘmax2となるまで前側が立ち下がるようにシートクッション31rが傾斜することにより、乗員Mrの大腿部を立ち下げて着地をする動作が助勢される。そして、図13に示すように、右足A2をシートクッション31r上に残した常態で、先に足抜きした左足A1のつま先の角度を変えて踏ん張り、両足で地面に立脚するための動作を行うことになる。
【0047】
人間の踏ん張り力は、図14に模式的に示すように、人間(乗員)の体格と車両寸法(この場合、特にシート座面角)によって大きな影響を受ける。図17は、人間の踏ん張り力をシミュレーションで求める場合の人間の足Aの踏ん張りモデルを示す図で、(a)は踏ん張り面F1が比較的高い場合を、(b)は踏ん張り面F2が比較的低い場合を示している。踏ん張り面F1が比較的高く乗員の足Aにとって窮屈な場合には、膝関節Amや足首Anにより大きな負担が掛り、より大きな踏ん張り力を要することになる。尚、図17のモデルにおいて、符号Aj及びAkはそれぞれ踵およびつま先を示している。
【0048】
図15は、乗員の体格をパラメータとして、人間の踏ん張り力と車両寸法との関係を示すグラフである。このグラフから、体格に応じて最大の踏ん張り力が得られる車両寸法(シート座面角)に若干の違いがあることがわかる。かかる最大の踏ん張り力が得られるシート座面角は、シート諸元値と乗員の体格(身長)データとに基づいて算出することができる。
あるいは、乗員の体格(身長)と最大の踏ん張り力が得られるシート座面角ΘLとを示すマップを作成し、このようなデータマップを予めシート制御ユニット50のメモリ部(例えば第1メモリ部55)に格納しておくようにしてもよい。
【0049】
図16は、このような最大の踏ん張り力が得られるシート座面角についてのデータマップの一例を示す説明図である。かかるデータマップを利用することで、足抜き動作後に最大の踏ん張り力が得られるシート座面角ΘLを乗員Mrの体格に応じて読み出し、図13に示されるように、シート座面角がΘLとなるようにシートクッション31rの傾斜角を調整すればよい。
【0050】
このように、片側の足A1についての足抜き動作の終了後に乗員Mrの踏ん張り力が発生し得る姿勢に応じたシート状態となるように、シート30rを再調整することにより、他方の足A2が立ち上がり易い姿勢をとることを助勢することができ、降車動作に伴う乗員Mrの負担感をより軽減することができるのである。
【0051】
次に、足抜き移動軌跡をシミュレーションで推定する一具体例について説明する。
図18は、本実施形態に係る片側足抜き動作における足の移動軌跡および片側足抜け位置を推測するのに用いるデータベースの構成を示すER図であり、図19は図18のデータベースに保存される人体特性データの説明図、図20は図18のデータベースに保存される設計諸元データの説明図である。
【0052】
図18を参照して、データベースシステムは、マスタテーブル210〜214と、複数のトランザクションテーブル221〜227とを有している。ここで、テーブルとは、データベース21において、2次元マトリックス(行と列)でデータを保存するデータの集合のことをいい、以下の説明では、テーブルの項目(列)を属性、テーブルの実現値(列に割り当てられる実際の値)を行という。また、図18において、(PK)は主キーを、(FK)は外部キーを、それぞれ表わしている。主キーは、テーブル内において、行を一意に識別する属性である。外部キーは、主キーと同じ値を持つことによって、当該主キーを有するテーブルのデータを参照するためのものである。さらに、図18中の矢印は、テーブル間の関係(リレーションシップ)を表わしており、矢印の終点側のテーブルにある外部キーが矢印の起点側のテーブルにある主キーを参照していることを示している。また、2つのテーブル間において、主キーと外部キーの対応関係をカーディナリティといい、矢印は、起点が1、終点が多のカーディナリティを有することを示している。
【0053】
まず、マスタテーブルとしては、年齢マスタ210、関節マスタ211、関節角度マスタ212、体節長さマスタ213、体節質量マスタ214が設けられている。これらマスタテーブル210〜214は、本実施形態において、乗員の人体特性データの具体例であり、これらマスタテーブル210〜214を備えることにより、設計支援装置10のハードディスク装置15は、人体特性データ記憶手段を構成している。各マスタテーブル210〜214は、市販の人体計測データベース(例えば、社団法人人間生活工学研究センター(HQL)が提供している人体計測データベース)を加工して構築されたものであり、約30000人程度のデータが登録されているものである。
【0054】
年齢マスタ210は、年齢を主キーとして、粘性補正定数を有するテーブルである。粘性補正定数Cは、年齢毎に人間の弾性抵抗が変化することに伴い、これをパラメータとして採用するために保存される補正項であり、本実施形態において、年齢毎に乗員の脚部の関節トルクに関係する年齢別補正データの具体例を構成している。
【0055】
関節マスタ211は、関節番号を主キーとして、{x座標、y座標、粘性係数、最大発揮トルク}を有するテーブルであり、関節角度マスタ212は、{関節番号、服装特性}を主キーとして、関節角度θの{下限値α、上限値β}を有するテーブルであり、体節長さマスタ213は、{身長、座高、体節番号}を主キーとして、体節長さを有するテーブルである。
【0056】
図19を参照して、本実施形態において検討される人体特性データは、爪先の座標(x0,y0)、足首関節の座標(x1,y1)、膝関節の座標(x2,y2)、股関節の座標(x3,y3)、爪先から足首関節までの体節長さL1、足首関節から膝関節までの体節長さL2、膝関節から股関節までの体節長さL3、各関節の角度θ1〜θ4、各体節の質量m1〜m3である。
【0057】
図18に示す関節マスタ211は、各関節の座標を管理するためのテーブルである。この関節マスタ211において、関節番号は関節を識別する添え字であり、体節長さマスタ213において、体節番号は体節を識別する添え字である。例えば関節番号が2であることは、膝関節の座標(x2,y2)であることを示している。最大発揮トルクτmaxは、各関節に作用し得る最大のトルクを関節毎に実験等によって設定されたデータである。また属性{粘性係数}は、関節毎に粘性係数ciを保存するためのものである。
【0058】
関節角度マスタ212は、関節毎に角度θ1〜θ4の下限値α、上限値βを定めることにより、後述する拘束条件の範囲を特定するためのテーブルである。各下限値α、上限値βは、乗員の服装によって変化するものであることから、本実施形態においては、服装を一意に特定する服装特性を属性として含め、服装によって下限値α、上限値βが変更されるように構成されている。このように本実施形態では、服装毎に関節の角度θ1〜θ4の下限値α、上限値βを定めることにより、服装毎に決定される関節角度範囲データの記憶を実現している。関節角度マスタ212の属性{関節番号}は、関節マスタ211を参照する外部キーになっている。
【0059】
体節長さマスタ213は、身長と座高によって、体節長さL1〜L3を特定するためのテーブルである。各体節長さL1〜L3は、身長と座高によって概ね定まることから、本実施形態では、これらを体節長さマスタ213に保存し、制御マップデータとして利用するようにしている。
【0060】
体節質量マスタ214は、{身長、座高、体節番号、体重}を主キーとして、{体節質量m}を有するテーブルである。{身長、座高、体重}が決まると、各体節の質量m1〜m3は、概ね一意に定まるので、本実施形態では、これらを体節質量マスタ214に保存し、制御マップデータとして利用するようにしている。本実施形態では、体節質量マスタ214の属性{身長、座高、体節番号}を外部キーとして体節長さマスタ213のデータを参照することが可能になっている。
【0061】
次に、トランザクションテーブルとしては、シミュレーション221、設計諸元データ222、人体特性データ223、拘束条件224、遺伝的アルゴリズム225、関節角パターン226、関節トルク227が設けられている。
【0062】
シミュレーション221は、SM番号を主キーとして、シミュレーションを実施した実施日を保存するテーブルである。このテーブルは、シミュレーション毎にSM番号という管理番号を付与して、このSM番号毎にシミュレーション結果を管理するためのメインテーブルである。
【0063】
設計諸元データ222は、{SM番号、諸元番号}を主キーとして、{H、W、LH}を保存することにより、シミュレーション対象となる車両の設計諸元データを管理するためのテーブルであり、本実施形態においては、この設計諸元データ222が、設計諸元データを記憶する設計諸元データ記憶手段の具体例を構成している。
【0064】
図20を参照して、本実施形態における設計諸元データとしては、車両1のサイドシル2の高さ(サイドシル高さ)H、サイドシル2から座席3の中心までの車幅方向幅(サイドシル幅)W、並びに座席3のヒップポイントPからドア開口部4のピラーまでの前後方向の長さ(開口長さ)LHが対象となっている。これを受けて、設計諸元データ222には、サイドシル高さH、サイドシル幅W、開口長さLHをそれぞれ保存する属性{H、W、LH}が用意されているとともに、一組の{H、W、LH}を識別するための諸元番号が主キーの一部として設定されている。また、SM番号を外部キーとして、シミュレーション221を参照することにより、シミュレーション221に設定された行毎に複数の設定諸元を設定することができるようになっている。
【0065】
人体特性データ223は、{SM番号、人体特性データ番号}を主キーとして、{年齢、身長、座高、体重、服装}を保存することにより、シミュレーション対象となる人体の特性を保存するためのテーブルであり、本実施形態においては、この人体特性データ223が、人体特性データを記憶する人体特性データ記憶手段の具体例を構成している。図19で説明したように、人体特性データとしては、各関節部分の座標(x0,y0)〜(x3,y3)、各体節長さL1〜L3、各体節の質量m1〜m3がある。これらをシミュレーション対象とするために、人体特性データ223は、上述した属性を有しており、これらによって、シミュレーション対象となる人体特性データを保存することができるようになっている。ここで、人体特性データ223は、SM番号を外部キーとして、シミュレーション221を参照することにより、シミュレーション221に設定された行毎に複数の人体特性データを設定することができるようになっている。また、属性{年齢}は、年齢マスタ210を参照するための外部キーになっている。さらに、人体特性データ223において、属性{服装}は、関節角度マスタ212に保存されている下限値α、上限値βを変更することにより、次に説明する拘束条件を補正するための補正項目であり、本実施形態では、洋服の場合と和服の場合とを択一的に選択するように設定されている。
【0066】
次に、拘束条件224は、{SM番号、人体特性データ番号、諸元番号、関節番号}を主キーとして、{拘束条件x、拘束条件y}を有するテーブルである。
【0067】
拘束条件は、図19の人体モデルから幾何学的条件を数式化したものであり、次式に基づいて演算されるものである。
【0068】
【数1】

【0069】
そして、拘束条件224には、後述するシミュレーションプログラム22によって各式(1)〜(4)の演算結果が保存されることになる。図示の通り、拘束条件224は、{SM番号、諸元番号}、{SM番号、人体特性データ番号}を外部キーとして、設計諸元データ222、人体特性データ223を参照する連関エンティティを構成しており、これによって、人体特性データ223に設定された行毎に設計諸元データ毎の拘束条件を設定することが可能になっている。また、拘束条件224は、{関節番号、服装特性}を外部キーとして関節角度マスタ212を参照するように設定されており、これによって、服装毎の関節角度θ1〜θ4の下限値α、上限値βを参照することができるとともに、関節マスタ211のx座標、y座標を参照することが可能になっている。
【0070】
次に、遺伝的アルゴリズム225は、{SM番号、人体特性データ番号、諸元番号、関節番号、世代番号}を主キーとするテーブルである。世代番号は、次に説明する遺伝的アルゴリズムにおいて、生成される世代Gを一意に特定する番号である。
【0071】
遺伝的アルゴリズムは、進化論的な考え方に基づいてデータを操作し、最適な探索や学習、推論を実行する手法である。
【0072】
図21は遺伝的アルゴリズムの概要を示すフローチャートである。
【0073】
図21を参照して、遺伝的アルゴリズムでは、最初に初期世代集団を生成し(ステップS1)、次いで、生成された集団の個体に対して適合度を計算する(ステップS2)。次に、各個体を評価し(ステップS3)、その評価に基づいて終了条件を満たしているかどうか判定する(ステップS4)。終了条件を満たしていない場合には、GAオペレーションを実行し(ステップS5)、ステップS2のルーチンに復帰する。
【0074】
本実施形態では、詳しくは後述するシミュレーションプログラム22によって、式(1)〜(4)の拘束条件から次式(5)の関節角パターン(個体)が世代G毎に複数パターン生成され、式(5)のパラメータが変更されることによって、ステップS5のGAオペレーションが実行される。
【0075】
【数2】

【0076】
但し、ai、bi、ci、di、ei:関節角パターンを決定するパラメータである。
【0077】
式(5)の関節角パターンθ(t)は、各関節の角度を時間の4次関数として、予め設定された個数Nだけ生成されるものである。
【0078】
図22は図21の遺伝的アルゴリズムにおけるGAオペレーションの説明図である。
【0079】
図22を参照して、GAオペレーションの態様としては、ある世代Gの個体をそのままコピーするクローン(図22(A))と、ある世代Gの個体を、当該世代Gには存在しないパターンに変化させる突然変異(図22(B))と、ある世代Gにおける複数の個体の一部を入れ換える交叉(図22(C))とがある。
【0080】
式(5)に即して説明すると、図22(A)のクローンが選択された場合、拘束条件に基づいて得られた式(5)がそのまま次の世代G+1に採用される。また、図22(B)突然変異が採用された場合、関節を曲げるタイミングが、当該世代Gには存在しないパターンで変化するように、式(5)が変更される。また、突然変異は、その変更の程度によって大変異と小変異とに分類される。さらに図22(C)の交叉が採用された場合、関節を曲げる量やタイミングが、複数の関節角パターンの間で入れ替わるように式(5)が変更される。
【0081】
本件発明者の鋭意研究の結果、世代Gから世代G+1に移行する際に、
クローン:大変異:小変異:交叉=3:35:10:52
に設定することにより、シミュレーション結果と人体測定による測定結果とが極めて近似する結果を得られた。そこで、本実施形態では、後述する遺伝的アルゴリズムの実行に際し、3:35:10:52の比率で、GAオペレーションを実行するように設定されている。
【0082】
個体の評価方法としては、適合度に比例した割合で個体を選択する「ルーレット選択方式」、集団の中から個体をある個対数(トーナメントサイズ)だけランダムに選定し、その中で適合度の最も高いものを選択する「トーナメント選択方式」、適合度の高い個体のいくつかを、そのまま次の世代に残す「エリート戦略」等を採用することが可能である。
【0083】
各関節角パターンθ(t)を評価するために、本実施形態では、次式(6)の評価関数によって得られる評価値[PI]を採用している。評価値[PI]は、人体特性データ毎に設定された設計諸元データを評価するための値である。
【0084】
【数3】

【0085】
但し、i:関節番号、j:体節番号、tf:動作時間、τiN:関節トルクである。
【0086】
式(6)の関節トルクτiNは、静力学および動力学の観点から、3つの力(慣性力τiI、コリオリ力と遠心力hi、重力τig)と、2つの抵抗(弾性抵抗τik、粘性抵抗τic
によって影響を受ける物理量であり、本実施形態においては、次式で与えられるものである。
【0087】
【数4】

【0088】
但し、j:体節番号、N:個体番号、τiI:慣性力、hi:コリオリ力と遠心力、τig:重力、τik:弾性抵抗、τic:粘性抵抗である。
【0089】
本実施形態において、人間は、負担を最小となるように動作すると仮定し、各関節に加わる関節トルクτiNが最小となるように動作すると仮定している。そこで、本実施形態では、式(7)から明らかなように、各関節に加わるパラメータ(慣性力τiI、コリオリ力と遠心力hi、重力τig弾性抵抗τik、粘性抵抗τic)の総和を最大発揮トルクτmaxで除すことで、関節トルクτiNを正規化し、式(6)から明らかなように、評価値[PI]は、正規化された関節トルクτiNの総和としている。なお、関節トルクτiNは、方向によって符号が異なるものであるから、式(6)では、絶対値の総和を演算している。
【0090】
慣性力τiIは次式によって表わされるものである。
【0091】
【数5】

【0092】
但し、Hは慣性行列であり、次式で表わされるものである。
【0093】
【数6】

【0094】
ここで、J:ヤコビ行列、上付き「T」:転置行列、上付き「L」:並進ヤコビ行列、上付き「A」:回転ヤコビ行列。
【0095】
コリオリ力(回転座標系で移動した際に移動方向と垂直に移動速度に比例した大きさで受ける力)と遠心力hiは、それぞれ次式によって表わされるものである。
【0096】
【数7】

【0097】
また、重力τigは次式によって表わされるものである。
【0098】
【数8】

【0099】
次に、弾性抵抗τik、粘性抵抗τicは、それぞれ次式によって演算される。
【0100】
【数9】

【0101】
ここで、式(12)は、マスタテーブル210〜214のソースとなったデータベースから近似式を作成したものであり、式(13)は、公知の研究に基づくものを採用している。式(13)において、cは粘性補正定数であり、上述した年齢マスタ210の値が代入される。また、ciは粘性係数であり、上述した関節マスタ211の値が代入される。
【0102】
遺伝的アルゴリズムの終了条件は、生成される個体の特性や、個体の評価方法によって種々設定することが可能である。例えば、ある世代Gで得られた最良の個体の評価値[PI]Gと次の世代G+1で得られた最良の個体の評価値[PI]G+1の差がある閾値以下である場合には、シミュレーションが収束したとして、終了させるようにしてもよい。或いは、世代Gの変更回数を予め設定しておき、その回数を終了した場合には、シミュレーションが収束したとみなして、終了させるようにしてもよい。
【0103】
図18に示す関節角パターン226は、{SM番号、人体特性データ番号、諸元番号、関節番号、世代番号、個体番号}を主キーとして、{関節角パターン、評価値[PI]、最適パターンフラグ}を属性として有しており、式(5)の値を保存するためのテーブルである。関節角パターン226は、{SM番号、人体特性データ番号、諸元番号、関節番号、世代番号}を外部キーとして、遺伝的アルゴリズム225を参照することができるように設定されている。また、属性{最適パターンフラグ}は、遺伝的シミュレーションによって最適と判定された関節角パターンにマーキングするためのフラグである。
【0104】
関節トルク227は、{SM番号、人体特性データ番号、諸元番号、関節番号、世代番号、個体番号、関節トルク番号}を主キーとして、{関節トルク、慣性力、コリオリ力、遠心力、弾性抵抗、粘性抵抗}を属性として有している。この関節トルク227は、{SM番号、人体特性データ番号、諸元番号、関節番号、世代番号、個体番号}を外部キーとして関節角パターン226を参照できるように設定されている。これによって、生成された関節角パターン毎に関節トルクの演算結果を保存することができるとともに、拘束条件224に設定された式(1)〜(4)の拘束条件を参照できるようになっている。
【0105】
本実施形態に係るシミュレーションプログラム22は、上述したデータベース21のトランザクションテーブル221、222にデータを入力するためのフォームを含んでいる。
【0106】
図23は設計諸元データの入力画面であり、図24は人体特性データの入力画面である。
【0107】
図23および図24を参照して、入力画面は、シミュレーション番号毎にページが変化するメインフォーム301と、このメインフォーム301に組み込まれたタブ形式のサブフォーム302、303とによって構成されている。各フォーム301〜303は、GUIによって具体化されたものであり、キーボード16、マウス17の操作によって、状態遷移し、所定の操作によって所定の値が図18で示すデータベース21に入力されるようになっている。
【0108】
メインフォーム301は、図略のメニュー画面で入力された実施日をシミュレーション番号毎に表示するものであり、実施日、シミュレーション番号は、それぞれ図18のシミュレーション221に保存されるようになっている。メインフォーム301には、ボタン301aが設けられており、このボタンをクリックすることにより、各サブフォーム302、303のデータを更新して、シミュレーションプログラム22を実行することが可能になっている。
【0109】
サブフォーム302は、設計諸元データを入力するためのGUIであり、設計諸元データ222の行を複数表示可能な連票形式のフォームである。各行には、設計諸元データ222の属性に対応して、諸元番号、サイドシル高さH、サイドシル幅W、開口長さLHが表示されるようになっており、このうち、サイドシル高さH、サイドシル幅W、開口長さLHが入力項目になっている。オペレータがこれらの項目を入力し、登録ボタン302aをクリックすることにより、諸元番号毎の行が設計諸元データ222に追加されるようになっている。なお302bは、行毎に設けられたキャンセルボタンであり、このキャンセルボタン302bをクリックすることにより、対応する行が削除されるように設定されている。
【0110】
サブフォーム303は、人体特性データを入力するためのGUIであり、人体特性データ223の行を複数表示可能な連票形式のフォームである。各行には、人体特性データ223の属性に対応して、人体特性データ番号、年齢、身長、座高、体重、服装が表示されるようになっており、このうち、年齢、身長、座高、体重、服装が入力項目になっている。本実施形態において、服装は「洋服」と「和服」を選択肢として表示し、図略のランク数でこれらを識別する評定法方式が採用されている。オペレータがこれらの項目を入力し、登録ボタン303aをクリックすることにより、人体特性データ番号毎の行を人体特性データ223に追加されるようになっている。なお303bは、行毎に設けられたキャンセルボタンであり、このキャンセルボタン303bをクリックすることにより、対応する行が削除されるように設定されている。
【0111】
次に、登録が完了し、メインフォーム301のボタン301aをクリックすると、図25に示すフローが実行される。
【0112】
図25は本実施形態に係るシミュレーションプログラム22のメインフローを示すフローチャートである。
【0113】
図25を参照して、シミュレーションプログラム22が実行されると、車両設計諸元データが入力されているか否かを判別し(ステップS10)、入力されていない場合には、エラー表示を返すように設定されている(ステップS11)。このエラー表示では、メインフォーム301、サブフォーム302を再表示し、オペレータが車両設計特性を再入力することになる。
【0114】
ステップS10において、車両の設計諸元データが入力されている場合には、同様に、人体特性データが入力されているか否かを判別し(ステップS12)、入力されていない場合には、エラー表示を返すように設定されている(ステップS14)。このエラー表示では、メインフォーム301、サブフォーム303を再表示し、オペレータが人体特性データを再入力することになる。
【0115】
設計諸元データ、人体特性データが何れも入力されている場合、評価関数の演算が実行され(ステップS15)、実行結果を表示する(ステップS16)ように構成されている。
【0116】
図26は図25の評価関数演算サブルーチンを示すフローチャートである。
【0117】
図18及び図26を参照して、評価関数演算サブルーチンが実行されると、CPU11は、シミュレーションプログラム22に基づき、関節毎に拘束条件を演算する(ステップS151)。このステップS151では、サブフォーム302から入力された各諸元H、W、LHが設計諸元データ222から参照され、サブフォーム303から入力された人体特性データ毎に式(1)〜(4)が演算される。なお、体節長さLの決定は、人体特性データ223に保存されている{身長、座高}から該当するデータをプログラム(或いはSQL)で体節長さマスタ213から読取り、拘束条件の演算に供する。ここで、本実施形態では、人体特性データとして服装が入力項目として設定されているとともに、拘束条件の演算時には、関節角度マスタ212から服装別に関節角度θの下限値α、上限値βを選定することができるので、拘束条件の設定をより緻密に実行可能になる。拘束条件は、ステップS1、S2で入力された設計諸元データと人体特性データの組み合わせ分だけ生成される。
【0118】
次に、拘束条件が演算されると、演算結果が拘束条件224の対応する属性に保存されるとともに、遺伝的アルゴリズムにおける世代が初期化され(ステップS152)、遺伝的アルゴリズム225に行が加えられる。
【0119】
次いで、この世代Gに関し、式(5)の関節角パターンを予め設定された個数Nだけ生成する(ステップS153)。これにより、関節角パターン226には、世代番号毎に生成された複数の関節角パターンが登録される。
【0120】
次いで、関節角パターン毎に式(7)の関節トルクτiNが演算され、演算結果が関節トルク227に保存される(ステップS154)。このステップS154では、上述したように、各関節に加わるパラメータ(慣性力τiI、コリオリ力と遠心力hi、重力τig弾性抵抗τik、粘性抵抗τic)の総和を最大発揮トルクτmaxで除すことで、関節トルクτiNを正規化しているので、自然な人間の動作をシミュレーションするためのパフォーマンスインデックスとして利用することが可能になる。なお関節トルクτiNの演算に当たっては、入力画面のサブフォーム303から入力された{身長、座高、体重}に基づき、プログラムまたはSQLによって、体節質量マスタ214から該当する体節質量mを読み出し、値を代入するようにしている。
【0121】
本実施形態において、式(7)の関節トルクτiNを演算するに際し、データベース21の年齢マスタ210に保存されている粘性補正定数cと、関節マスタ211に保存されている粘性係数ciが読み出され、式(13)に代入される。
【0122】
次に、世代Gについて、式(6)の評価関数から評価値[PI]が演算され、関節角パターン226の属性{評価値[PI]}に保存される(ステップS155)。
【0123】
次に、上述した終了条件設定に基づき、終了条件を満たしているか否かが判定され(ステップS156)、満たしていない場合には、世代Gを次の世代G+1に更新し(ステップS157)、遺伝的アルゴリズム225の行を追加して、GAオペレーションを実行し(ステップS158)、ステップS153に復帰する。
【0124】
他方、終了条件を満たしている場合には、最適個体を選定し、処理を終了する(ステップS159)。このステップS159では、演算された評価値[PI]のうち、最小の関節角パターンθ(t)が関節角パターン226の中から選定され、該当する行の最適パターンフラグにマーキングが施される。これにより、実行されたシミュレーションの中で、何れの関節角パターンが最適であったかを判定することができるので、この関節角パターンに係る設計諸元データを設計諸元データ222から特定することが可能になる。
【0125】
以上説明したように、本具体例では、車両用ドア部周辺の設計諸元データと人体の特性データから、式(1)〜(4)で示した乗降動作の拘束条件を演算し、さらに演算された拘束条件に基づいて乗降動作をシミュレーションすることにより、乗員が取り得る乗降動作に基づいて、好ましい設計諸元データを得ることが可能になる。
【0126】
また、本具体例では、演算された拘束条件に基づいて、乗員の関節に作用するトルクが最小となるように、すなわち、式(6)で求められる評価値[PI]が最小となる乗降動作をシミュレーションしている。そのため本実施形態では、乗員の関節に作用するトルクが最小となるように乗降動作をシミュレーションするので、乗員が最も負担や違和感を受けることなく、乗降動作を取ることのできる設計諸元データを得ることが可能になる。
【0127】
また、本具体例では、データベース21の年齢マスタ210に、年齢毎に乗員の脚部の関節トルクτiNに関係する粘性補正定数cを補正項として記憶するものであり、シミュレーションは、この粘性補正定数cに基づき、乗員の関節トルクτiNを年齢別に補正して実行されている。そのため本実施形態では、シミュレーションの乗員対象を年齢別に分別することが可能になる。
【0128】
また、本具体例では、身長と座高毎に決定される体節長さLiを記憶する体節長さマスタ213を有するものであり、拘束条件の演算に当たっては、設定された(入力画面のサブフォーム303から入力された)身長と座高に基づいて、体節長さLiを選定し、拘束条件を演算するものである。そのため本実施形態では、身長と座高に基づいて体節長さLiを決定し、拘束条件を演算しているので、拘束条件の精度がより高くなる。従って、拘束条件に基づいて生成される関節角パターンや関節トルクτiN、ひいては、評価値[PI]の精度が向上する。
【0129】
また、本具体例では、身長と座高と体重毎に決定される体節質量マスタ214を有しており、関節トルクτiNを、設定された身長と座高と体重とに基づいて、体節質量mを選定することにより演算している。そのため本実施形態では、体節質量mの点からも関節トルクτiN、ひいては、評価値[PI]の精度がより高くなる。
【0130】
また、本具体例では、関節角度マスタ212に服装毎の関節角度θiの下限値α、上限値βを保存しておき、設定された服装に基づいて、これらのデータを関節角度範囲データとして選定し、拘束条件を演算している。そのため本実施形態では、拘束条件の演算に際し、乗員の服装をパラメータとして取り入れることが可能になるので、特定の顧客層を狙ったシミュレーションをより的確に実行することが可能になる。
【0131】
上述した具体例は一例に過ぎず、例えば、設計諸元データとしては、上述した具体例に例示したものの他、車両の開口面積を加えることが可能である。また、人体特性データ223を参照する体節別のテーブルを設け、このテーブルから体節質量マスタ214を参照させることにより、人体特性データ223の各データと体節質量マスタ214の体節質量mや体節長さマスタ213の体節長さLをデータベース上で関連づけて管理することが可能になる。その他、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0132】
以上の構成を備えたシート装置30f,30rの乗員降車時における作動制御について、例えば後席シート30rの場合を例にとって説明する。
図4は、後席シート30rの着座乗員降車時の作動制御を説明するためのフローチャートである。この図に示すように、システムがスタートすると、まず、ステップ#1で、バックルSW45のオン/オフ(ON/OFF)状態に基づいて、着座乗員Mrが降車動作を開始すると予測されるか否かが判定される。
【0133】
本システムは、乗員Mrがシート30rに着座しシートベルトバックルをロックしてバックルSW45がONされた状態を初期状態としてスタートしており、ステップ#1での判定においては、ON状態であったバックルSW45がOFFになると(ステップ#1:YES)、バックルがアンロックされて着座乗員Mrが降車動作を開始するものと予測される。一方、バックルSW45のON状態が継続されている場合には(ステップ#1:NO)、バックルのロック状態が継続され乗員Mrは降車の意志がないものと判断できる。
【0134】
着座乗員Mrが降車動作を開始すると予測される場合には(ステップ#1:YES)、ステップ#2,#3,#4,#5で、第2メモリ部56のシート諸元値データ、シート前後位置センサ41f,41r及びシート座面角センサ42f,42rの検出値、乗員体格データ、ドア開度がそれぞれ読み込まれる。乗員体格データ及びドア開度は、例えばカメラ39による撮像データに基づくものである。
【0135】
次に、ステップ#6,#7で、乗員体格データ及びドア開度に基づき、且つ、第1メモリ部55の片側足抜け推定用データ及び第2メモリ部56のシート諸元値データを適用して、乗員Mrの片側の足A1について足抜き動作中の移動軌跡および足抜き位置が推定される。この足抜き位置は、足抜き動作の推定移動軌跡の最終点として推定されるものである。
【0136】
以上の推定結果に基づき、且つ、第3メモリ部57の車両諸元値データを適用して、推定された足抜き動作時の移動軌跡および足抜き位置に対応したシート前後位置およびシート座面角度が算出される(ステップ#8)。そして、ステップ#9で、実際のシート前後位置およびシート座面角度が、ステップ#8で得られた値になるように調整される。
【0137】
その後、片側足抜き動作が終了したか否かが判定され(ステップ#10)、この判定結果がYESになると、乗員の体格データ及びシート諸元値データに基づき、踏ん張り姿勢のためのシート座面角が算出される(ステップ#11)。この代わりに、前述のように踏ん張り姿勢用のデータベースを用意しておき、このデータベースを適用して踏ん張り姿勢のためのシート座面角を得るようにしても良い。
そして、ステップ#12で、実際のシート座面角が、ステップ#11で得られた値となるようにシートクッション31rの傾斜角度が調整される。
【0138】
以上、説明したように、本実施形態によれば、シート諸元値データと推定された着座乗員Mrの体格とに基づいて、乗員降車時の片側の足抜き動作中の負担感が最小となるように足抜き動作の軌跡を推定すると共に前記片側の足抜け位置を推定し、推定された前記足抜き動作の軌跡が確保されるようにシートを調整することにより、乗員Mrの体格に応じて異なる足抜き動作の軌跡および足抜き位置に基づいて、乗員降車時の片側の足抜き動作中の負担感を最小にすることができ、降車動作に伴う乗員の負担感を効果的に軽減することができるのである。
【0139】
特に、ドア開度を考慮に入れて乗員降車時の片側の足抜け位置が推定されるので、ドア開度に応じて、つまり、ドア半開時などドアが全開でなくても、乗員Mrの負担感がより軽減された降車を実現することができる。
【0140】
尚、以上の説明で後席シート30rを例にとったものについては、前席シート30fやセンタピラー36との関係が影響を及ぼす内容を除いては、基本的には、前席シート30fの場合にも適用できるものである。
【0141】
このように、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、変更および改良等がなされるものであることは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、車両用シート装置に関し、降車時の着座乗員の各動作に応じてシートを好適に調整し降車動作に伴う負担感をより効果的に軽減することができ、着座乗員の降車性を高めることができる自動車等の車両に装備されるシート装置として、有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明の実施形態に係るシート装置を備えた自動車の車室内を模式的に示す側面図である。
【図2】前記シート装置に付設されたシート位置・座面角調整装置の一例を示す説明図である。
【図3】前記シートのシート制御ユニットの構成を概略的に示すブロック構成図である。
【図4】前記シートの着座乗員降車時の作動制御を説明するためのフローチャートである。
【図5】前記シートとその周辺の車両部分との位置関係を模式的に示す図で、図5(a)は正面図、図5(b)は側面図である。
【図6】降車時の足抜き動作に伴う乗員の筋負担に関するデータマップの一例を示す説明図である。
【図7】前記シートに着座した乗員の足抜き動作を示す説明図である。
【図8】後席乗員の足抜き動作を説明するための前席シート及び後席シートの平面図である。
【図9】降車時の足抜き動作に要する最大距離および好適なシート座面角に関するデータマップの一例を示す説明図である。
【図10】前記シートに着座した乗員の一連の足抜き動作の説明図の一部である。
【図11】前記シートに着座した乗員の一連の足抜き動作の説明図の一部である。
【図12】前記シートに着座した乗員の一連の足抜き動作の説明図の一部である。
【図13】前記シートに着座した乗員の一連の足抜き動作の説明図の一部である。
【図14】人間の踏ん張り力と乗員の体格及び車両寸法との関係を模式的に示す説明図である。
【図15】乗員の体格をパラメータとして人間の踏ん張り力と車両寸法との関係を示すグラフである。
【図16】最大の踏ん張り力が得られるシート座面角についてのデータマップの一例を示す説明図である。
【図17】人間の踏ん張り力をシミュレーションで求める場合の人間の足の踏ん張りモデルを示す図で、図17(a)は踏ん張り面が比較的高い場合を、図17(b)は踏ん張り面が比較的低い場合を、それぞれ示す説明図である。
【図18】本実施形態に係る片側足抜き軌跡の推測に用いるデータベースの構成の具体例を示すER図である。
【図19】図18のデータベースに保存される人体特性データの説明図である。
【図20】図18のデータベースに保存される設計諸元データの説明図である。
【図21】遺伝的アルゴリズムの概要を示すフローチャートである。
【図22】図21に示した遺伝的アルゴリズムにおけるGAオペレーションの説明図である。
【図23】設計諸元データの入力画面である。
【図24】人体特性データの入力画面である。
【図25】本実施形態に係るシミュレーションプログラムのメインフローを示すフローチャートである。
【図26】図25の評価関数演算サブルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0144】
30f 前席シート
30r 後席シート
31f,31r シートクッション
32f,32r シートバック
36 センタピラー
39 カメラ
41f,41r シート前後位置センサ
42f,42r シート座面角センサ
45 バックルSW
47 シート前後移動用モータ
48 シート座面角調整用モータ
50 シート制御ユニット
51 降車開始判定部
52 ドア開度判定部
53 体格判定部
54 片側足抜き終了判定部
55 第1メモリ部
56 第2メモリ部
57 第3メモリ部
58 片側足抜け位置推定処理部
59 片側足抜き動作用シート位置・座面角算出処理部
61 踏ん張り姿勢用シート座面角算出処理部
62 シート前後位置・座面角調整量算出処理部
A,A1,A2 乗員の足
L1 足抜け位置
Mf,Mr 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの諸元値データを記憶する諸元値記憶手段と、
シート状態を検出するシート状態検出手段と、
着座乗員の体格を推定する乗員体格推定手段と、
前記シート諸元値データと推定された前記着座乗員の体格とに基づいて、前記乗員降車時の片側の足抜き動作中の負担感が最小となるように足抜き動作の軌跡を推定すると共に、前記片側の足抜け位置を推定する足抜け位置推定手段と、
推定された前記足抜き動作の軌跡が確保されるように、シートを調整するシート調整手段と、
を備えた、ことを特徴とする車両用シート装置。
【請求項2】
ドア開度を検出するドア開度検出手段を更に備え、
前記足抜け位置推定手段は、前記シート諸元値データと前記シート状態と推定された前記着座乗員の体格と前記ドア開度とに基づいて、乗員降車時の片側の足抜け位置を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項3】
前記シート調整手段は、前記片側の足抜き動作の終了後に前記乗員の踏ん張り力が発生し得る姿勢に応じたシート状態となるように、シートを再調整する、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項4】
前記足抜け位置推定手段は、乗員の片側の足抜き動作の軌跡を推定し、
前記シート調整手段は、前記軌跡中において前記足抜き動作が他の車両部材と干渉しないように、シートを車両前後方向へ移動調整する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項5】
前記シート調整手段は、前記乗員が着座したシート及び他のシートの少なくとも何れか一方を車両前後方向へ移動調整する、ことを特徴とする請求項4に記載の車両用シート装置。
【請求項6】
前記足抜け位置推定手段は乗員の片側の足抜け位置までの足抜き動作の軌跡を推定し、
前記シート調整手段は、前記軌跡中において前記乗員の足の関節のトルク積算値が最小となるように、シートバック及びシートクッションの少なくとも何れか一方の角度を調節する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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