説明

車両用シート

【課題】スピーカ付きの車両用シートにおいてスピーカから発生する一の音声が前席の乗員が他の音声を聴取する妨げにならないような車両用シートの提供。
【解決手段】乗員が着座するためのシートクッション10と、シートクッションに着座した乗員の背を支持するとともに、シートクッション10に対して起倒可能に形成されたシートバック11と、シートバック11の背面に横方向に設けられた線音源スピーカ20と、を有し、線音源スピーカ20は、シートバック11を最も起したときにおいても振動板21が斜め下方を向くように設けられている車両用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートにかかり、特に、スピーカ付きの車両用シートにおいてスピーカから発生する音声が他の乗員の妨げにならない車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シートに取り付けられたスピーカは、通常、聴取者の耳の方向に向けて音声を放射するように配置される。このようなシートとしては、背もたれに、背面に向けた左右二つのスピーカを設けた複数の椅子と、録音あるいは合成された音響信号に対して音の定位を加えるための音像定位演算手段と、この音像定位算定手段から出力される音響信号に対して、この音響信号を左右のスピーカから出力した場合に生じる各チャンネルのクロストークをキャンセルするための処理を施すクロストークキャンセル演算手段と、による処理が施された音響信号を各スピーカに送るための立体音再生装置と、を備えた立体音再生用システムがある(特許文献1)
【0003】
また、車両用シートに取り付けられたスピーカとして、車両の進行方向に従って前向きに配置された各座席の背面に、任意方向へ角度が可変なパラメトリックスピーカを設けたことを特徴とする車両用音響システムがある(特許文献2)。
【0004】
さらに、穴28を開口させ、複数のスプリング29でシート・バック・フレーム17に懸架される樹脂サスペンション・ボード23と、該穴28に合わせられて該樹脂サスペンション・ボードの裏面に固定的に取り付けられる骨伝導スピーカ26と、該樹脂サスペンション・ボード23の表面24に重ねられて支持される伝導クッション27と、該伝導クッション27の表面31に重ねられ、シート・バック・フレーム17を覆って組みつけられ、シート外形を形成するシート・バック・パッド22とを含む骨導音系音響システム15を備える自動車シートがある(特許文献3、符号は特許文献3の符号)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−25086号公報
【特許文献2】特開平5−345549号公報
【特許文献3】特開2007−54457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、カーナビゲータを使用することが一般化し、運転者がカーナビゲータからの音声による案内を聴取しながら運転動作を行うことが多くなった。また、音声に対する好みが多様化し、同乗者が夫々異なった音声を聴取したいというニーズが高まってきている。そこで、シートに設けたスピーカからの音声が運転者や他の乗員の音声聴取の妨げとならないようなスピーカシステムが求められている。
【0007】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、スピーカ付きの車両用シートにおいてスピーカから発生する一の音声が前席ならびに隣席の乗員が他の音声を聴取する妨げにならないような車両用シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、乗員が着座するためのシートクッションと、前記シートクッションに着座した乗員の背を支持するとともに、前記シートクッションに対して起倒可能に形成されたシートバックと、前記シートバックの背面に横方向に設けられた線音源スピーカと、を有し、前記線音源スピーカは、前記シートバックを最も起したときにおいても振動板が車両床面に向かって斜め下方を向くように設けられている車両用シートに関する。
【0009】
これらの車両用シートにおいては、線音源スピーカは、前記シートバックの背面に横方向に、シートバックの傾きの如何に拘らず振動板が斜め後下方を向くように設けられているから、線音源スピーカから放射された音声はその殆どが後席乗員に届き、シートバックの背面及び上面を回折して前席の乗員に達することが少ないから、前記線音源スピーカからの音声が、前席に座っている乗員が他の音声を聴取する妨げとなることがない。
【0010】
また、線音源スピーカから放射される音声は、線音源スピーカの長手方向に対して指向性を有しているから、隣席の乗員が他の音声を聴取する妨げとならない。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記線音源スピーカは1台でステレオ再生が可能である請求項1に記載の車両用シートに関する。
【0012】
前記車両用シートにおいては、後席乗員が前席乗員の妨げとならずにステレオ音声を聴取することができる。
【0013】
請求項3の発明は、後方に向かって突出する上部突出部が前記シートバックの背面の上端部に形成され、前記線音源スピーカは、前記シートバックの背面における前記上部突出部の下方に設けられている請求項1または2に記載の車両用シートに関する。
【0014】
前記車両用シートにおいては、線音源スピーカがシートバックの背面における上部突出部の下方に設けられているから、上部突出部材による吸音と回折減音とによって線音源スピーカから前方に向かう音声を上部突出部材がないときと比較してさらに減少させることができる。
【0015】
したがって、前記線音源スピーカから放射された音声が前席の乗員の音声聴取の妨げとなる度合いがさらに少なくなる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、側方から見たときのシートバックの回動中心を通るシートバックの中心線に対する振動板の面に直交する直線の傾きが下向きに90〜130になるように、前記線音源スピーカが取り付けられている請求項1に記載の車両用シートに関する。
【0017】
車両用シートのシート角は、ニュートラルの状態においては通常車両床面に直交する線から車両後方に向かって20度前後傾いた状態にあり、シートバックを最も起したときは、車種によって異なるものの、一般的にシートバックはニュートラル位置から10度前後起きた状態となる。
【0018】
したがって、前記車両用シートにおいては、シートバックの傾きの如何に拘らず振動板が斜め下方を向く。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記線音源スピーカが、前記シートバックの内部に設けられ、前記シートバックの背面において開口するスピーカグリルに収容され、前記スピーカグリルの内部上面には吸音材が設けられている請求項1〜4の何れか1項に記載の車両用シートに関する。
【0020】
前記車両用シートにおいては、線音源スピーカを収容するスピーカグリルの内部上面に吸音材が設けられているから、線音源スピーカからの斜め後上方への音の放射を特に効果的に防止できる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記シートバックにおいて乗員の肩を支持する1対の肩部の夫々の上端面に、乗員の耳に向かって音声を放射するように設けられた平面波スピーカを備える請求項1〜5の何れか1項に記載の車両用シートに関する。
【0022】
前記車両用シートにおいては、シートバックの一対の肩部の上端面に夫々平面波スピーカが設けられ、前記平面波スピーカの音声は直進性があるから、前席の乗員が更に明瞭に前記他の音声を聴取できる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、スピーカ付きの車両用シートにおいてスピーカから発生する音声が他の乗員の妨げにならないような車両用シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施形態1に係る車両用シートの構成の概略および線音源スピーカの取付部の構成を示す部分断面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る車両用シートを後ろ側から見た背面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る車両用シートにおける線音源スピーカの取付部の別の構成を示す部分断面図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る車両用シートにおいて、シートバックの肩部の上面に平面波スピーカを設けた例を示す斜視図である。
【図5】図5は、実施形態1に係る車両用シートに装着される線音源スピーカの構成を示す平面図および縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
1.実施形態1
1−1 構成
以下、本発明に係る車両用シートの一例について説明する。以下、図面において、矢印「FR」は前方(車両前方)を、矢印「RR」は後方(車両後方)を示す。図1及び図2に示すように、実施形態1に係る車両用シート1は、車両の前席用シートであり、乗員が着座するシートクッション10と、シートクッション10に着座した乗員の背中を支持するシートバック11と、シートクッション10に着座した乗員の頭部を支持するヘッドレスト12と、シートクッション10を車両の床面に固定する脚部13と、を備える。
【0026】
図1及び図2に示すように、シートバック11の背面の上端縁近傍には、後方に向かって突出する上部突出部15が設けられ、前記背面における上部突出部15の直ぐ下方には横長の凹陥部16が設けられ、凹陥部16の内部に線音源スピーカ20が横方向に設けられている。
【0027】
線音源スピーカ20においては、図1に示すように、側方から見たときシートバックの回動中心を通るシートバックの中心線Lに対する振動板21の面に直交する直線hの傾きが下向きに90〜130度になるように、振動板21の傾きが設定されている。
【0028】
図3に示すように、シートバック11のフレームにはスピーカボックス16が固定され、スピーカボックス16の内部に線音源スピーカ20が固定されている。そして、スピーカボックス16の外側にはスピーカグリル19が固定されている。さらに、スピーカグリル19の内部上面には吸音材17が設けられている。この吸音材17により線音源スピーカ20から斜め後上方への音声の拡散がより効果的に防止される。
【0029】
車両用シート1においては、図4に示すように、シートバック11において乗員の肩を支持する肩部18の上面に、乗員の耳に向かって音声を放射する平面波スピーカ30を設けることができる。
【0030】
以下、線音源スピーカ20の構成について説明する。線音源スピーカ20の平面図を図5の(A)に、線音源スピーカ20を図5の(A)における長手方向の平面A−Aで切断した縦断面を図5の(B)に示す。
【0031】
図5の(A)および(B)に示すように、線音源スピーカ20は、一定の間隔で一列に配設された4個の磁石22と、磁石22に対向するように配設された振動板21と、振動板21の磁石22に対向する側の面における磁石22の磁極22Nに対向する位置に設けられたボイスコイル23と、磁石22の磁極22Sに当接するヨーク24と、振動板21の周縁部において振動板21を支持するとともに、磁石22およびヨーク24が固定された「ロ」の字型の平面形状を有するフレーム25と、振動板21の周縁部において振動板21をフレーム25に弾性的に保持するエッジ部26と、を備える。
【0032】
磁石22は矩形の板状に形成され、一方の面がN極である磁極22Nとされ、他方の面がS極である磁極22Sとなるように着磁されている。
【0033】
磁石22の夫々に対してボイスコイル23が設けられている。
【0034】
磁石22の磁極22Nには、鉄板から形成され、磁石22と合同な平面形状を有するポールピース27が取り付けられている。ポールピース27は少なくとも一部がボイスコイル23内部に貫入している。
【0035】
また、4個のボイスコイル23はA、Bの2つの群に分けられ、A群のボイスコイル23には右チャンネルの音声信号を入力し、B群のボイスコイルには左チャンネルの音声信号を入力することにより、1台の線音源スピーカ20においてステレオ再生を可能としている。
【0036】
フレーム25は全体として長手方向が磁石22の配列方向に沿った形態であって「ロ」の字型の平面形状を有する部材であり、フレーム25の底部近傍にヨーク24の底部が嵌めこまれて固定されている。
【0037】
振動板21は、長辺が磁石22の配列方向に沿った長方形の平面形状を有するシート状の部材であり、ボイスコイル23の後述するボビン23Aが挿入され、固定されている。
【0038】
1−2 作用
実施形態1の車両用シート1においては、シート角φ、即ちシートバック11の車両床面に直交する直線に対する傾き、言い換えれば中心線Lの前記直線に対する傾きは、ニュートラルの状態においては通常車両後方に向かって20度前後傾いた状態にあり、シート角φは、ロックがかかった位置でシートバックを最も起したときはニュートラル位置から10度前後起きた角度となる。
【0039】
ここで、線音源スピーカ20は、上述のように、振動板21の面に直交する直線hの、シートバックの中心線Lに対する傾きθが下向きに測って90度乃至130度の範囲になるように振動板の傾きが設定されている。
【0040】
したがって、車両用シート1においては、シートバック11を最も立てたときも、線音源スピーカ20の振動板21は斜め下方を向く。
【0041】
線音源スピーカ20においては、振動板21全体が振動することにより、線音源スピーカ20からは円筒波が発生するが、この円筒波は、自由空間では、シートバック11の中心線Lの法線から110度の点で、法線H上の縁より3dB低下することが実験により確認されている。
【0042】
前席乗員の耳の位置は、この110度の線からさらに遠方にあり、これにシートバック11の上部突出部15ならびに吸音材17による吸音と回折減音により、線音源スピーカ20から放射された音声はその殆どが後席乗員に届き、線音源スピーカ20からの音声が、前席の乗員による他の音声の聴取の妨げとなることがない。
【0043】
前2席の車両用シート1の肩部18の上面に設けられた平面波スピーカ30と、線音源スピーカ20とを用いることにより、各々の乗員が他の乗員の妨げとなることなく、夫々ステレオ定位した音声を聴取することができる。
【0044】
さらに、スピーカの設置は車両用シート1への線音源スピーカ20の取付けのみで完了するので、車両組立工程におけるスピーカ取付け費用を低減することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 車両用シート
10 シートクッション
11 シートバック
12 ヘッドレスト
13 脚部
14 シートサイドシールド
15 上部突出部
16 スピーカボックス
17 吸音材
18 肩部
19 スピーカグリル
20 線音源スピーカ
21 振動板
21A 開口部
22 磁石
22N 磁極
22S 磁極
23 ボイスコイル
23A ボビン
23B 巻線
24 ヨーク
24A 屈曲部
24B 屈曲部
25 フレーム
26 エッジ部
27 ポールピース
28 キャップ
30 平面波スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するためのシートクッションと、
前記シートクッションに着座した乗員の背を支持するとともに、前記シートクッションに対して起倒可能に形成されたシートバックと、
前記シートバックの背面に横方向に設けられた線音源スピーカと、
を有し、
前記線音源スピーカは、前記シートバックを最も起したときにおいても振動板が車両床面に向かって斜め下方を向くように設けられている車両用シート。
【請求項2】
前記線音源スピーカは1台でステレオ再生が可能である請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
後方に向かって突出する上部突出部が前記シートバックの背面の上端部に形成され、
前記線音源スピーカは、前記シートバックの背面における前記上部突出部の下方に設けられている
請求項1または2に記載の車両用シート。
【請求項4】
側方から見たときシートバックの回動中心を通るシートバックの中心線に対する振動板の面に直交する直線の傾きが下向きに90〜130度になるように、前記線音源スピーカが取り付けられている請求項1に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記線音源スピーカは、前記シートバックの内部に設けられ、前記シートバックの背面において開口するスピーカグリルに収容され、前記スピーカグリルの内部上面には吸音材が設けられている請求項1〜4の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記シートバックにおいて乗員の肩を支持する1対の肩部の夫々の上端面に、乗員の耳に向かって音声を放射するように設けられた平面波スピーカを備える請求項1〜5の何れか1項に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−229754(P2011−229754A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104268(P2010−104268)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(599081255)株式会社エフ・ピー・エス (13)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】