説明

車両用ドアフレーム及び車両用ドアフレームの製造方法

【課題】部品点数を増大させることなくドアフレームの曲げ部の設計自由度を大きくすることのできる車両用ドアフレームを提供する。
【解決手段】車両用ドアフレームは、一枚の板材により形成されて中空本体部31A,31B,31Cと同中空本体部31A,31B,31Cから延びるフランジ部32A,32B,32Cとを有する長尺状の部材であって長手方向に対して曲げられた曲げ部30Cを有するフレーム部材30を備える。また、曲げ部30Cには中空本体部31Cとフランジ部32Cとを分断する貫通孔P2が形成され、貫通孔P2は長手方向(矢印D3方向)において曲げ部30Cの中心に近づくほど中空本体部31Cに対してフランジ部32Cが離間する態様にて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空本体部と同中空本体部から延びるフランジ部とを一体として有する長尺状の部材であって長手方向に対して曲げられた曲げ部を有するフレーム部材を備える車両用ドアフレーム及び車両用ドアフレームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用ドアフレームとしては、例えば特許文献1に記載のものがある。特許文献1に記載のものでは、中空本体部と同中空本体部から延びるフランジ部とを一体として有する長尺状の部材であって長手方向に対して曲げられた曲げ部を有するフレーム部材を一枚の板材から形成している。ここで、この長尺状の部材をその長手方向に対して曲げる曲げ加工に先立ち、曲げ部となる部位を構成するフランジ部を切除するとともに、曲げ加工を行なった後に、上述したフランジ部の切除された部位を塞ぐように上記曲げ部に対してブラケットを溶接して固定している。このように、曲げ部を構成するフランジ部に相当する部位をフレーム部材とは別部材とすることで、曲げ加工の技術上の制約により曲げ部の大きさを小さくすることができない場合にあって、曲げ部の大きさ、特にフランジ部の曲げ領域を小さくすることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−127749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、こうした従来の車両用ドアフレームにあっては、ドアフレームの曲げ部の設計自由度を高めようとすると、上述したようにフレーム部材の他にブラケット等の他の部品が必要となるため、ドアフレームの部品点数が増大するといった問題が生じる。
【0005】
尚、こうした問題は、フレーム部材が一枚の板材により形成されるものに限られるものではなく、他に例えばフレーム部材が押し出し成形によって形成されるものにおいても共通して生じ得る。
【0006】
本発明の目的は、部品点数を増大させることなくドアフレームの曲げ部の設計自由度を大きくすることのできる車両用ドアフレーム及び車両用ドアフレームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、中空本体部と同中空本体部から延びるフランジ部とを一体として有する長尺状の部材であって長手方向に対して曲げられた曲げ部を有するフレーム部材を備える車両用ドアフレームであって、前記曲げ部には前記中空本体部と前記フランジ部とを分断する貫通孔が形成され、前記貫通孔は長手方向において前記曲げ部の中心に近づくほど前記中空本体部に対して前記フランジ部が離間する態様にて形成されてなることをその要旨としている。
【0008】
同構成によれば、フレーム部材の曲げ部に中空本体部とフランジ部とを分断する貫通孔を形成することで、長手方向におけるフランジ部の曲げ形状を中空本体部の曲げ形状とは独立したものとすることができるようになる。従って、部品点数を増大させることなくドアフレームの曲げ部の設計自由度を大きくすることができるようになる。
【0009】
請求項1に記載の車両用ドアフレームは、請求項2に記載の発明によるように、前記フレーム部材は一枚の板材により形成されてなるといった態様をもって具体化することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用ドアフレームにおいて、前記曲げ部を構成するフランジ部は同曲げ部に接続する他のフランジ部の延びる方向に沿った形状を有してなることをその要旨としている。
【0011】
車両用ドアフレームにあっては、ドアフレームの取り付けられる車両の意匠性の観点から、フレーム部材の曲げ部、特にフランジ部の曲げ領域を小さくすることが望まれる。
この点、上記構成によれば、曲げ部を構成するフランジ部が同曲げ部に接続する他のフランジ部の延びる方向に沿った形状とされるため、フランジ部の曲げ領域を小さくすることができるようになる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の車両用ドアフレームにおいて、前記貫通孔の開口を覆う被覆部材が設けられてなることをその要旨としている。
【0013】
フレーム部材の曲げ部に中空本体部とフランジ部とを分断する貫通孔が形成される構成にあっては、同貫通孔に異物が入り込むといったおそれや、同貫通孔の存在によってドアフレームの意匠性が損なわれるおそれがある。
【0014】
この点、上記構成によれば、貫通孔の開口が被覆部材により覆われることから、貫通孔に異物が入り込むことを回避することができる。また、フレーム部材の曲げ部に貫通孔を形成することによりドアフレームの意匠性が損なわれることを好適に抑制することができるようになる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の車両用ドアフレームにおいて、前記被覆部材は前記フレーム部材と窓ガラスとの間に設けられて同窓ガラスを保持するガラスランを構成することをその要旨としている。
【0016】
同構成によれば、被覆部材がガラスランを構成するものとされるため、被覆部材をガラスランとは別部材とする構成に比べて、部品点数の増大を抑制することができ、車両用ドアフレームの構成を簡易なものとすることができるようになる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、中空本体部と同中空本体部から延びるフランジ部とを一体として有する長尺状の部材であって長手方向に対して曲げられた曲げ部を有するフレーム部材を形成するとともに、前記曲げ部となる部位においてその曲げ加工の前或いは後に長手方向に沿って延びるとともに前記中空本体部と前記フランジ部とを分断するスリット孔を貫通形成するスリット孔形成工程と、長手方向において前記曲げ部の中心に近づくほど前記中空本体部に対して前記フランジ部が離間するように前記フランジ部をプレス加工するプレス加工工程と、を備えることをその要旨としている。
【0018】
同構成によれば、まず、スリット孔形成工程において、中空本体部とフランジ部とを有する長尺状の部材を形成し、これを長手方向に対して曲げる曲げ加工を行なうことで曲げ部が形成される。また、この曲げ加工の前であれば曲げ部となる部位に、或いはこの曲げ加工の後であれば曲げ部に、中空本体部とフランジ部とを分断するスリット孔が形成される。次に、プレス加工工程において、フランジ部をプレス加工することにより、長手方向において曲げ部の中心に近づくほど中空本体部に対してフランジ部が離間することとなる。これにより、長手方向におけるフランジ部の曲げ形状が中空本体部の曲げ形状とは独立したものとなるフレーム部材を製造することができるようになる。従って、部品点数を増大させることなくドアフレームの曲げ部の設計自由度を大きくするドアフレームを製造することができるようになる。
【0019】
請求項6に記載のドアフレームの製造方法は、請求項7に記載の発明によるように、前記フレーム部材を一枚の板材からロール成形により形成するロール成形工程を備えるといった態様をもって具体化することができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は請求項6又は請求項7に記載の車両用ドアフレームの製造方法において、前記プレス加工工程では、前記曲げ部を構成するフランジ部を同曲げ部に接続する他のフランジ部の延びる方向に沿った形状にプレス加工することをその要旨としている。
【0021】
車両用ドアフレームにあっては、ドアフレームの取り付けられる車両の意匠性の観点から、フレーム部材の曲げ部、特にフランジ部の曲げ領域を小さくすることが望まれる。
この点、上記構成によれば、プレス加工工程において、曲げ部を構成するフランジ部が同曲げ部に接続する他のフランジ部の延びる方向に沿った形状にプレス加工されるため、フランジ部の曲げ領域を小さくすることができるようになる。
【0022】
請求項9に記載の発明は、請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の車両用ドアフレームの製造方法において、前記スリット孔形成工程では、前記曲げ加工の前に前記スリット孔を形成することをその要旨としている。
【0023】
同構成によれば、スリット孔形成工程において、曲げ加工の前にスリット孔を形成するようにしている。このため、直線状のスリット孔を形成すればよく、スリット孔を容易に形成することができるようになる。
【0024】
請求項10に記載の発明は、請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の車両用ドアフレームの製造方法において、前記スリット孔形成工程では、前記曲げ加工の後に前記スリット孔を形成することをその要旨としている。
【0025】
曲げ加工の前にスリット孔を形成する工程を採用した場合には、スリット孔の存在によって剛性が局所的に低下することで当該曲げ加工を好適に行なうことができないおそれがある。
【0026】
この点、上記構成によれば、曲げ加工の後にスリット孔を形成するようにしているため、曲げ加工に際してスリット孔の存在が問題となることを回避することができるようになる。
【0027】
請求項11に記載の発明は、請求項6〜請求項10のいずれか一項に記載の車両用ドアフレームの製造方法において、前記プレス加工工程の後に前記スリット孔から変形した貫通孔の開口を覆う被覆部材を前記フレーム部材に取り付ける取付工程を更に備えることをその要旨としている。
【0028】
同構成によれば、貫通孔に異物が入り込むことを回避することのできるドアフレームを製造することができるようになる。また、フレーム部材の曲げ部に貫通孔を形成することによりドアフレームの意匠性が損なわれることを好適に抑制することのできるドアフレームを製造することができるようになる。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、部品点数を増大させることなくドアフレームの曲げ部の設計自由度を大きくすることのできる車両用ドアフレーム及び車両用ドアフレームの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る車両用ドアフレームの一実施形態について、ドアフレームの適用される前ドアの車室内から視た構造を概略的に示す概略図。
【図2】同実施形態における曲げ加工前の長尺状の部材について、その一部の斜視構造を示す斜視図。
【図3】同実施形態における曲げ加工後の長尺状の部材について、曲げ部を中心とした斜視構造を示す斜視図。
【図4】図3の矢印A方向から視た長尺状の部材の断面構造を示す断面図。
【図5】同実施形態におけるフレーム部材について、曲げ部を中心とした斜視構造を示す斜視図。
【図6】図5のB−B線に沿った断面構造を示す断面図。
【図7】同実施形態におけるドアフレームの断面構造を示す断面図であって、(a)フレーム部材に対して外側からガラスランの外側被覆部を取り付けた状態を示す断面図、(b)(a)に示す状態からガラスランの内側被覆部を外側被覆部に対して溶着した状態を示す断面図。
【図8】本発明に係る車両用ドアフレームの変形例について、ドアフレームの適用される前ドア及び後ドアの車室内から視た構造を概略的に示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図1〜図7を参照して、本発明に係る車両用ドアフレーム及び車両用ドアフレームの製造方法を、セダン型車両の前ドアに適用されるドアフレーム及びその製造方法として具体化した一実施形態について詳細に説明する。
【0032】
尚、以降において、車両前方向を単に「前方」、車両後方を単に「後方」、鉛直方向上方を単に「上方」、及び鉛直方向下方を単に「下方」と称する。また、車幅方向において車両内側を単に「内側」、車両外側を単に「外側」と称する。
【0033】
図1に示すように、前ドア1は、車両本体に取り付けられるドア本体2と、ドア本体2の上部に連結されるドアフレーム3と、ドア本体2及びドアフレーム3に対して上下方向に変位可能に設けられる窓ガラス4とからなる。ドアフレーム3は、斜め後上方に延びる縦枠部3Aと、縦枠部3Aの上端部から曲がりながら徐々に前方に指向する曲げ部3Cと、曲げ部3Cの前端部から斜め前下方に延びる上枠部3Bとからなる。尚、図1では、車室内から視たときの前ドア1の概略構造を示している。
【0034】
次に、本実施形態のドアフレーム3の製造方法及びその構造について説明する。
図2〜図6を参照して、ドアフレーム3を構成するフレーム部材30の製造方法及びその構造について説明する。
【0035】
まずは、図2に示すように、鉄系材料からなる一枚の板材をロール成形することにより、フレーム部材30の原材となる長尺状の部材230を形成する(ロール成形工程)。この長尺状の部材230は、長手方向において同一の断面形状を有するものであって、中空空間Hを区画形成する中空本体部231と同中空本体部231から延びるとともに板材を折り返すことで形成されるフランジ部232とを有している。尚、板材としては、鉄系材料からなるものを採用しているが、これをアルミニウム系材料やその他の金属系材料からなるものとすることもできる。
【0036】
次に、図3に示すように、長尺状の部材230をその長手方向に対して曲げることにより、曲げ部130Cを有する長尺状の部材130を形成する(曲げ加工工程)。以降において、長尺状の部材130のうち上記縦枠部3Aに相当する部位を縦枠部130A、上枠部3Bに相当する部位を上枠部130B、及び曲げ部3Cに相当する部位を曲げ部130Cと称する。また、長尺状の部材130における長手方向とは、長尺状の部材130の各部位における延びる方向を意味する。具体的には、縦枠部130Aでは図3中の矢印D1方向であり、上枠部130Bでは図3中の矢印D2方向であり、曲げ部130Cでは図3中の矢印D3方向である。
【0037】
尚、上記ロール成形工程及び上記曲げ加工工程はいずれも従来一般の工程であるため、詳細な説明については割愛する。
ここで、図4を参照して、長尺状の部材130の断面形状について説明する。
【0038】
図4に示すように、中空本体部131は、内外方向に向けて延びる略平面状の平面部131a、平面部131aの内側端部及び外側端部の双方から屈曲してそれぞれ後方に向けて互いに徐々に近接するように傾斜する一対の傾斜部131b、及びこれら一対の傾斜部131bの後側端部から屈曲してそれぞれ後方に向けて延びるとともに互いに略平行をなす一対の平行部131cを有している。また、中空本体部131は、これら一対の平行部131cのうち内側に位置する部位(図4において下側に位置する部位)の後側端部から屈曲して外側に延びる長辺部131d、及び一対の平行部131cのうち外側に位置する部位(図4において上側に位置する部位)の後側端部から屈曲して外側に延びるとともに上記長辺部131dよりも短い短辺部131eを有している。また、中空本体部131は、長辺部131dの後側端部から屈曲して斜め外前方に向けて延び、更に屈曲して斜め後外方に延びる内側屈曲部131f、及び短辺部131eの後側端部から屈曲して前方に延び、更に屈曲して斜め後外方に延びる外側屈曲部131gを有している。また、短辺部131eの後側端部が内側屈曲部131fに当接するとともに、内側屈曲部131fの先端である屈曲して斜め後外側に延びる部位が外側屈曲部131gの先端である屈曲して斜め後外側に延びる部位に当接している。
【0039】
ここで、内側屈曲部131fと外側屈曲部131gとが当接している部位が、中空本体部131とフランジ部132との境界である境界部133となる。
板材の一端が折り返されて形成された空間に板材の他端が挿入されており、この一端と他端とが重なり合う部位がフランジ部132とされている。
【0040】
次に、長尺状の部材130の曲げ部130Cにおける上記境界部133に、先の図3に併せ示すように、長手方向(矢印D3方向)に沿って延びるとともに中空本体部131とフランジ部132とを分断するスリット孔P1を貫通形成する(スリット孔加工工程)。
【0041】
次に、図5に示すように、長手方向(矢印D3方向)において曲げ部30Cの中心(B−B線)に近づくほど中空本体部31Cに対してフランジ部32Cが離間するようにフランジ部をプレス加工する(プレス加工工程)。具体的には、先の図3に示した曲げ部130Cを構成するフランジ部において、縦枠部130A側の端部から曲げ部130Cの中心側の端部までの部位に対して、図6の矢印Fに示す方向にプレス加工を行なう。これにより、図5に示すように、曲げ部30Cには中空本体部31Cとフランジ部32Cとを分断する貫通孔P2が形成され、この貫通孔P2は長手方向(矢印D3)において曲げ部30Cの中心に近づくほど中空本体部31Cに対してフランジ部32Cが離間する態様にて形成される。具体的には、曲げ部30Cを構成するフランジ部32Cにおいて、上記中心よりも縦枠部30A側に位置する部位が、縦枠部30Aの延びる方向(矢印D1)に沿った形状とされ、上記中心よりも上枠部30B側に位置する部位が、上枠部30Bの延びる方向(矢印D2)に沿った形状とされる。これにより、フランジ部32Cの曲げ領域は、図5に矢印RFにて示す領域となり、中空本体部31Cの曲げ領域、すなわち曲げ部30Cの領域よりも小さくなる。
【0042】
次に、図7を参照して、フレーム部材30に対してガラスラン40を取り付ける工程(以下、取付工程)について説明する。尚、図7(a)は、フレーム部材30に対して外側からガラスラン40の外側被覆部43を取り付けた状態を示し、図7(b)は、図7(a)に示す状態からガラスラン40の内側被覆部44を外側被覆部43に対して溶着した状態を示している。
【0043】
図7(a)に示すように、ガラスラン40は、フレーム部材30と窓ガラス(図示略)との間に設けられて同窓ガラス4を保持するものであり、大きくは、フレーム部材30の中空本体部31Cに取り付けられる本体部側取付部41、フランジ部32Cに取り付けられるフランジ側取付部42、貫通孔P2を外側から覆う外側被覆部43、及び貫通孔P2を内側から覆う内側被覆部44からなる。
【0044】
本体部側取付部41は、中空本体部31Cの傾斜部31b、平行部31cの外側に位置する面、及び外側屈曲部31gによって区画形成される凹溝内に挿入されることで中空本体部31Cに対して取り付けられている。また、本体部側取付部41は、その内周側の端部から延びて中空本体部31Cの平面部31aに当接するリップ部41b、及び同内周側の端部からフレーム部材30の外側に向けて延びる内周側ガラス保持片41aを有している。
【0045】
フランジ側取付部42は、フランジ部32Cを外側、外周側、及び内周側の三方から覆うとともに内側に開口を有する態様にて設けられている。また、フランジ側取付部42は、その外側端部からフレーム部材30の内周側に向けて延びる外周側ガラス保持片42aを有している。また、フランジ側取付部42の外周面には、外周側に向けて延びる2つのシール片(外側シール片42b,内側シール片42c)が内外方向に離間して突出形成されている。
【0046】
外側被覆部43は、本体部側取付部41とフランジ側取付部42との間に位置するとともにその両端にてこれら取付部41,42に連結されている。
内側被覆部44は、フランジ側取付部42の内側端部に連結されるとともに内側に向けて延びている。そして、ガラスラン40を構成する本体部側取付部41、フランジ側取付部42、及び外側被覆部43をフレーム部材30に対して取り付けた後に、7(a)の矢印D4方向に内側被覆部44を折り曲げて、図7(b)に示すように、外側被覆部43の内側端面に対して内側被覆部44を溶着する。このように、フレーム部材30の貫通孔P2を介して外側被覆部43と内側被覆部44とが溶着されることで、ガラスラン40によりフレーム部材30のフランジ部32Cが囲まれる構成となっている。換言すれば、ガラスラン40がフレーム部材30を貫通している。従って、フレーム部材30からガラスラン40が抜け落ちることを回避することができる。
【0047】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、車両用ドアフレーム3は、一枚の板材により形成されて中空本体部31A,31B,31Cと同中空本体部31A,31B,31Cから延びるフランジ部32A,32B,32Cとを有する長尺状の部材であって長手方向に対して曲げられた曲げ部30Cを有するフレーム部材30を備えるものとしている。また、曲げ部30Cには中空本体部31Cとフランジ部32Cとを分断する貫通孔P2が形成され、貫通孔P2は長手方向(図5の矢印D3方向)において曲げ部30Cの中心に近づくほど中空本体部31Cに対してフランジ部32Cが離間する態様にて形成されるものとしている。このように、フレーム部材30の曲げ部30Cに中空本体部31Cとフランジ部32Cとを分断する貫通孔P2を形成することで、長手方向におけるフランジ部32Cの曲げ形状を中空本体部31Cの曲げ形状とは独立したものとすることができるようになる。従って、部品点数を増大させることなくフレーム部材30の曲げ部30Cの設計自由度を大きくすることができるようになる。
【0048】
(2)本実施形態では、曲げ部30Cを構成するフランジ部32Cは同曲げ部30Cに接続する他のフランジ部32A,32Bの延びる方向(図5における矢印D1方向或いは矢印D2方向)に沿った形状を有するとしている。
【0049】
車両用ドアフレームにあっては、ドアフレームの取り付けられる車両の意匠性の観点から、フレーム部材の曲げ部、特にフランジ部の曲げ領域を小さくすることが望まれる。
この点、上記実施形態によれば、フランジ部32Cの曲げ領域RFを小さくすることができるようになる(図5参照)。
【0050】
(3)本実施形態では、貫通孔P2の開口を覆う被覆部材(外側被覆部43、内側被覆部44)が設けられるものとしている。また、この被覆部材はフレーム部材30と窓ガラス4との間に設けられて同窓ガラス4を保持するガラスラン40を構成するものとしている。
【0051】
フレーム部材30の曲げ部30Cに中空本体部31Cとフランジ部32Cとを分断する貫通孔P2が形成される構成にあっては、同貫通孔P2に異物が入り込むといったおそれや、同貫通孔P2の存在によってドアフレームの意匠性が損なわれるおそれがある。
【0052】
この点、上記実施形態によれば、貫通孔P2の開口が被覆部材(外側被覆部43、内側被覆部44)により覆われることから、貫通孔P2に異物が入り込むことを回避することができる。また、フレーム部材30の曲げ部30Cに貫通孔P2を形成することによりドアフレームの意匠性が損なわれることを好適に抑制することができるようになる。また、上記実施形態によれば、被覆部材(外側被覆部43、内側被覆部44)がガラスラン40を構成するものとされるため、被覆部材をガラスランとは別部材とする構成に比べて、部品点数の増大を抑制することができ、車両用ドアフレーム3の構成を簡易なものとすることができるようになる。
【0053】
(4)本実施形態の車両用ドアフレーム3の製造方法では、次のスリット孔形成工程と、プレス加工工程とを備えるものとしている。このスリット孔形成工程では、中空本体部131と同中空本体部131から延びるフランジ部132とを有する長尺状の部材130であって長手方向に対して曲げられた曲げ部130Cを有するフレーム部材を一枚の板材から形成するようにしている。また、曲げ部130Cとなる部位においてその曲げ加工の後に長手方向(図3の矢印D3方向)に沿って延びるとともに中空本体部131とフランジ部132とを分断するスリット孔P1を貫通形成するようにしている。上記プレス加工工程では、長手方向において曲げ部30Cの中心に近づくほど中空本体部31Cに対してフランジ部32Cが離間するようにフランジ部をプレス加工するようにしている。
【0054】
こうした工程を備える本実施形態によれば、長手方向におけるフランジ部32Cの曲げ形状が中空本体部31Cの曲げ形状とは独立したものとなるフレーム部材30を製造することができるようになる。従って、部品点数を増大させることなくフレーム部材30の曲げ部30Cの設計自由度を大きくするドアフレーム3を製造することができるようになる。
【0055】
(5)本実施形態のプレス加工工程では、曲げ部30Cを構成するフランジ部32Cを同曲げ部30Cに接続する他のフランジ部32A,32Bの延びる方向(図5の矢印D1方向、矢印D2方向)に沿った形状にプレス加工するようにしている。これにより、フランジ部32Cの曲げ領域RFを小さくすることができるようになる。
【0056】
(6)本実施形態のスリット孔形成工程では、曲げ加工の後にスリット孔P1を形成するようにしている。
曲げ加工の前にスリット孔を形成する工程を採用した場合には、スリット孔の存在によって剛性が局所的に低下することで当該曲げ加工を好適に行なうことができないおそれがある。
【0057】
この点、上記実施形態によれば、曲げ加工の後にスリット孔P1を形成するようにしているため、曲げ加工に際してスリット孔P1の存在が問題となることを回避することができるようになる。
【0058】
(7)本実施形態の車両用ドアフレーム3の製造方法では、プレス加工工程の後にスリット孔P1から変形した貫通孔P2の開口を覆う被覆部材(外側被覆部43、内側被覆部44)をフレーム部材30に取り付ける取付工程を更に備えるものとしている。これにより、貫通孔P2に異物が入り込むことを回避することのできるドアフレーム3を製造することができるようになる。また、フレーム部材30の曲げ部30Cに貫通孔P2を形成することによりドアフレーム3の意匠性が損なわれることを好適に抑制することのできるドアフレーム3を製造することができるようになる。
【0059】
尚、本発明に係る車両用ドアフレーム及び車両用ドアフレームの製造方法は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
【0060】
・上記実施形態によるように、スリット孔形成工程を、曲げ加工の後にスリット孔P1を形成するものとすることが、曲げ加工に際してスリット孔P1の存在が問題となることを回避する上で望ましい。しかしながら、曲げ加工に際してスリット孔の存在が問題とならない場合には、スリット孔形成工程を、曲げ加工の前にスリット孔を形成するものとしてもよい。この場合、長尺状の部材に対して直線状のスリット孔を形成すればよく、スリット孔を容易に形成することができるようになる。
【0061】
・上記実施形態によるように、貫通孔P2の開口を覆う被覆部材(外側被覆部43、内側被覆部44)をガラスラン40と一体形成することが、ドアフレーム3を構成する部品点数の増大を抑制してドアフレーム3の構成を簡易なものとする上では望ましい。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、ガラスランと被覆部材とを別部材としてもよい。この場合、従来のガラスランをそのまま流用することができるといった別の効果を奏することができる。
【0062】
・上記実施形態によるように、貫通孔P2の開口を覆う被覆部材を設けることが、貫通孔P2に異物が入り込むことを回避する上では望ましい。しかしながら、こうしたことが問題とならないのであれば、貫通孔の開口を覆う被覆部材を割愛してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、セダン型車両の前ドア1に対して本発明を適用したが、本発明に係るドアフレーム及びその製造方法の適用対象はこれに限られるものではない。他に例えば、図8に示すように、後ドア301に対して本発明を適用することもできる。この場合、この場合、縦枠部303Aと上枠部303Bとを接続する曲げ部303Cに対して本発明を適用すればよい。また、図8に示すように、上枠部303Bの下端部近傍に第2の曲げ部303Dを有するものにあっては、同曲げ部303Dに対して本発明を適用することもできる。また同様にして、図8に示すように、前ドア401の上枠部403Bの下端部近傍に第2の曲げ部403Dを有するものにあっては、同曲げ部403Dに対して本発明を適用することもできる。要するに、一枚の板材により形成されて中空本体部と同中空本体部から延びるフランジ部とを有する長尺状の部材であって長手方向に対して曲げられた曲げ部を有するフレーム部材を備えるものであればよい。
【0064】
・曲げ部30Cを構成するフランジ部32Cの形状は、上記実施形態にて例示した形状、すなわち、曲げ部30Cに接続する他のフランジ部32A,32Bの延びる方向(図5の矢印D1方向或いは矢印D2方向)に沿った形状に限定されるものではない。要するに、曲げ部には中空本体部とフランジ部とを分断する貫通孔が形成され、同貫通孔は長手方向において曲げ部の中心に近づくほど中空本体部に対してフランジ部が離間する態様にて形成されるものであればよい。
【0065】
・上記実施形態では、ロール成形によりフレーム部材を形成したが、フレーム部材の形成態様はこれに限定されるものではなく、他に例えば、押出し成形によってもフレーム部材を形成することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…前ドア、2…ドア本体、3…ドアフレーム、3A…縦枠部、3B…上枠部、3C…曲げ部、4…窓ガラス、30…フレーム部材、31A,31B,31C,131A…中空本体部、31a,131a…平面部、31b,131b…傾斜部、31c、131c…平行部、31d、131d…長辺部、31e,131e…短辺部、31f、131f…内側屈曲部、31g、131g…外側屈曲部、32A,32B,32C,132A…フランジ部、133…境界部、40…ガラスラン、41…本体部側取付部、41a…内周側ガラス保持片、41b…リップ部、42…フランジ側取付部、42a…外周側ガラス保持片、42b…外側シール片、42c…内側シール片、43…外側被覆部、44…内側被覆部、130,230…長尺状の部材、P1…スリット孔、P2…貫通孔、RF…曲げ領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空本体部と同中空本体部から延びるフランジ部とを一体として有する長尺状の部材であって長手方向に対して曲げられた曲げ部を有するフレーム部材を備える車両用ドアフレームであって、
前記曲げ部には前記中空本体部と前記フランジ部とを分断する貫通孔が形成され、
前記貫通孔は長手方向において前記曲げ部の中心に近づくほど前記中空本体部に対して前記フランジ部が離間する態様にて形成されてなる
ことを特徴とする車両用ドアフレーム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ドアフレームにおいて、
前記フレーム部材は一枚の板材により形成されてなる
ことを特徴とする車両用ドアフレーム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用ドアフレームにおいて、
前記曲げ部を構成するフランジ部は同曲げ部に接続する他のフランジ部の延びる方向に沿った形状を有してなる
ことを特徴とする車両用ドアフレーム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の車両用ドアフレームにおいて、
前記貫通孔の開口を覆う被覆部材が設けられてなる
ことを特徴とする車両用ドアフレーム。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用ドアフレームにおいて、
前記被覆部材は前記フレーム部材と窓ガラスとの間に設けられて同窓ガラスを保持するガラスランを構成する
ことを特徴とする車両用ドアフレーム。
【請求項6】
中空本体部と同中空本体部から延びるフランジ部とを一体として有する長尺状の部材であって長手方向に対して曲げられた曲げ部を有するフレーム部材を形成するとともに、前記曲げ部となる部位においてその曲げ加工の前或いは後に長手方向に沿って延びるとともに前記中空本体部と前記フランジ部とを分断するスリット孔を貫通形成するスリット孔形成工程と、
長手方向において前記曲げ部の中心に近づくほど前記中空本体部に対して前記フランジ部が離間するように前記フランジ部をプレス加工するプレス加工工程と、
を備える車両用ドアフレームの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のドアフレームの製造方法において、
前記フレーム部材を一枚の板材からロール成形により形成するロール成形工程を備える
ことを特徴とする車両用ドアフレームの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の車両用ドアフレームの製造方法において、
前記プレス加工工程では、前記曲げ部を構成するフランジ部を同曲げ部に接続する他のフランジ部の延びる方向に沿った形状にプレス加工する
ことを特徴とする車両用ドアフレームの製造方法。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の車両用ドアフレームの製造方法において、
前記スリット孔形成工程では、前記曲げ加工の前に前記スリット孔を形成する
ことを特徴とする車両用ドアフレームの製造方法。
【請求項10】
請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の車両用ドアフレームの製造方法において、
前記スリット孔形成工程では、前記曲げ加工の後に前記スリット孔を形成する
ことを特徴とする車両用ドアフレームの製造方法。
【請求項11】
請求項6〜請求項10のいずれか一項に記載の車両用ドアフレームの製造方法において、
前記プレス加工工程の後に前記スリット孔から変形した貫通孔の開口を覆う被覆部材を前記フレーム部材に取り付ける取付工程を更に備える
ことを特徴とする車両用ドアフレームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−96702(P2012−96702A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247111(P2010−247111)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】