説明

車両用ドラムブレーキ

【課題】ストラットの車軸方向の厚さ寸法を抑えると共に、ストラット戻しスプリングの係合孔を形成する部分に充分な肉厚を備えることができ、係合孔をプレスによる打ち抜き加工で形成することのできる車両用ドラムブレーキを提供する。
【解決手段】バックプレート2の内部側に一対の第1ブレーキシュー3と第2ブレーキシュー4とを拡開可能に配置し、第2ブレーキシュー4の先端拡開側とパーキングレバー12の一端とを支軸13にて回動可能に連結する。パーキングレバー12の支軸取付部よりも牽引手段連結部側と、第1ブレーキシュー3の先端拡開側との間に、長手方向中間部に湾曲部15aを備えたストラット15を配設する。ストラット15と第2ブレーキシュー4との間に、非作動状態のストラット15を初期位置に戻すストラット戻しスプリング16を架け渡す。ストラット15の湾曲部15aにストラット戻しスプリング16の係合孔15fを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドラムブレーキに関し、詳しくは、パーキングレバーと一方のブレーキシューとの間に配置されるストラットと、該ストラットを初期位置に戻すストラット戻しスプリングとの連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ドラムブレーキとして、車体に固設されるバックプレートの内部側に一対の第1ブレーキシューと第2ブレーキシューとを対向配置し、両ブレーキシューを所定間隔に保持すると共に、両ブレーキシューの先端側をリターンスプリングで縮径方向に付勢し、ブレーキ作動時にブレーキシューの先端側をブレーキドラムの内周面に向けて拡開させる構造のドラムブレーキが知られている。このようなドラムブレーキに組み込まれるパーキングブレーキ機構としては、前記第2ブレーキシューの拡開側とパーキングレバーの一端とを支軸によって回動可能に連結し、該パーキングレバーの他端に、ハンドレバーやフットペダル等の操作子により牽引されるブレーキケーブルやブレーキロッド等の牽引手段を連結するとともに、該パーキングレバーの第2ブレーキシュー連結部よりも牽引手段連結部側の位置と、前記第1ブレーキシューの拡開側との間にストラットを配設したものがある。
【0003】
このストラットは、バックプレートの中央に配置されるハブユニット等の部材との干渉を避けるために、長手方向中央部に、バックプレートの外周側に向けて湾曲させた湾曲部を備えており、この湾曲部よりも第2ブレーキシュー側の端部に、作動後のストラットを初期位置に戻すためのストラット戻しスプリングを係合する係合孔が設けられていて、ストラット戻しスプリングは、一端を前記係合孔に、他端を第2ブレーキシューに形成した装着孔にそれぞれ係合させていた(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平7−753号公報(図4)
【特許文献2】特開2002−295542号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献のストラットでは、係合孔を設けるストラットの一端部に第2ブレーキシューのウエブとパーキングレバーとが重合状態で嵌合する嵌合溝が設けられていることから、係合孔を形成するためにはストラットの一端部を車軸方向に突出させて、該一端部の肉厚を確保しなければならなかった。しかし、ストラットの大型化を避けるために、前記一端部の車軸方向の突出量を極力抑えなければならないことから、プレスによる打ち抜き加工で係合孔を形成できるだけの肉厚は確保できず、切削加工によって係合孔を形成しなければならないことから、係合孔の形成に手間が掛かり生産性が良好ではなかった。
【0006】
そこで本発明は、ストラットの車軸方向の厚さ寸法を抑えることができると共に、ストラット戻しスプリングを係合させる係合孔を形成する部分に充分な肉厚を備えることができ、プレスによる打ち抜き加工で係合孔を形成できる車両用ドラムブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ドラムブレーキは、車体に固設されるバックプレートの内部側に一対の第1ブレーキシューと第2ブレーキシューとを基端部を回動中心として先端側が拡開可能な状態で対称に配置し、第2ブレーキシューの先端拡開側とパーキングレバーの一端とを支軸にて回動可能に連結し、該パーキングレバーの他端に牽引手段を連結すると共に、該パーキングレバーの支軸取付部よりも牽引手段連結部側と、前記第1ブレーキシューの先端拡開側との間に、長手方向中間部に前記バックプレートの外周側に向けて湾曲させた湾曲部を備え、湾曲部の両端部に直線部が設けられたストラットを配設し、該ストラットと前記第2ブレーキシューとの間に、非作動状態のストラットを初期位置に戻すストラット戻しスプリングを架け渡した車両用ドラムブレーキにおいて、前記ストラットの前記湾曲部の第2ブレーキシュー側に前記ストラット戻しスプリングの一端が係合する係合孔を形成したことを特徴とする。さらに、前記第2ブレーキシューのウエブにおける反バックプレート側面の延長線上に、前記係合孔の一部が配置されるとよい。さらに、前記係合孔におけるバックプレート側の一部、前記係合孔のバックプレート側端面が前記第2ブレーキシューのウエブにおける反バックプレート側面の延長線上に配置されると良い。また、前記ストラットの前記湾曲部は、前記バックプレートに配置されるハブユニットとの干渉を避けるように、該ハブユニットに沿って湾曲させることもできる。さらに、前記ストラットは、前記パーキングレバーの回動時に前記第1ブレーキーシューを制動方向に押動するストラットであって、第1ブレーキシュー側の直線部に第1ブレーキシューのウエブを嵌合する嵌合溝を、第2ブレーキシュー側の直線部に第2ブレーキシューのウエブと前記パーキングレバーとを重合状態で嵌合する嵌合溝を、それぞれ設けることもできる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る本発明の車両用ドラムブレーキによれば、ストラットの湾曲部の第2ブレーキシュー側にストラット戻しスプリングの一端を係合させる係合孔を形成することにより、従来のように、ストラットの一端部を車軸方向に突出させる必要がなくなり、ストラットの車軸方向の厚さ寸法を抑えることができる。また、ストラットの湾曲部には、所定の肉厚があることから、係合孔をプレスによる打ち抜き加工で形成することができ、製造コストの削減を図ることができる。
【0009】
さらに、第2ブレーキシューのウエブにおける反バックプレート側面の延長線上に、前記係合孔の一部、特に、係合孔におけるバックプレート側の一部を配置することにより、ストラット戻しスプリングを極力傾けることなく張設することができるので、ストラットの車軸方向の厚さ寸法を抑えながら、ストラット戻しスプリングのスプリング力を確保することができる。特に、請求項4に係る発明のように、係合孔のバックプレート側端面が第2ブレーキシューの反バックプレート側面の延長線上に配置されていると、ストラット戻しスプリングをバックプレートに対してより一層平行な状態で張設することができ、ストラットの車軸方向の厚さ寸法を極力抑えながら、ストラット戻しスプリングのスプリング力を確保することができる。
【0010】
また、請求項5に係る発明のように、バックプレートに配置されるハブユニットに沿ってストラットの湾曲部を湾曲させたことにより、湾曲部の肉厚を確保しながら、省スペース化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一形態例を示す車両用ドラムブレーキの一部断面正面図である。
【図2】図1のII-II断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図に示す車両用ドラムブレーキ1は、デュオサーボ型の機械式ドラムブレーキであって、車体(図示せず)にボルト止めされるバックプレート2の内側に、一次側の第1ブレーキシュー3と二次側の第2ブレーキシュー4とが対応配置され、基端部3a,4aを回動支点として先端部3b,4b側が拡開可能に形成されている。
【0013】
両ブレーキシュー3,4は、それぞれバックプレート2に平行に配置されるウエブ3c,4cと、該ウエブ3c,4cの外縁に交差方向に固設されるリム3d,4dと、このリム3d,4dの外周面に貼着されるライニング3e,4eとで形成され、ウエブ3c,4cの略中間部がシューホールドピン5,5とシューホールドスプリング6,6とによってバックプレート2に弾持されている。
【0014】
両ブレーキシュー3,4の基端部3a,4a間には、アジャストギア7によるアジャスト機構を備えたフローティングサポート8が配置され、両基端部3a,4a間に張設されたシュー戻しスプリング9によって基端部3a,4aがフローティングサポート8の両端に圧接状態で支持されている。また、両ブレーキシュー3,4の先端部3b,4b間にはアンカーピン10が設けられ、アンカーピン10と先端部3b,4bとの間にそれぞれ張設されたリターンスプリング11,11により、非作動時の両ブレーキシュー3,4を縮径方向に付勢して先端部3b,4bをアンカーピン10に圧接させて支持するようにしている。
【0015】
前記第2ブレーキシュー4の先端部4bの近傍には、パーキングレバー12を連結するための支軸13が設けられている。また、パーキングレバー12の他端には、パーキングレバー12を牽引するための牽引手段であるブレーキケーブル14の連結部12aが設けられており、ブレーキケーブル14はバックプレートの挿通部を通してバックプレート2の外部側から内部側に挿通されている。
【0016】
パーキングレバー12における前記支軸13よりも前記連結部12a側と前記第1ブレーキシュー3のウエブ3cの先端部側との間には、アンカーピン10の内周側に近接してストラット15が配設されると共に、ストラット15と第2ブレーキシュー4のウエブ4cとの間には、ストラット15を第2ブレーキシュー4側に付勢するストラット戻しスプリング16が張設されている。
【0017】
ストラット15は、バックプレートの中央に配置されるハブユニット等の部材との干渉を避けるために、長手方向中間部にバックプレートの外周側に向けて湾曲させた湾曲部15aを備え、両端側に直線部15b,15cが設けられている。ストラット15の第1ブレーキシュー側の直線部15bと第1ブレーキシュー3のウエブ3cとには、直交方向で互いに嵌合する嵌合溝15d,3fがそれぞれ設けられ、ストラット15の第2ブレーキシュー側の直線部15cには、第2ブレーキシュー4のウエブ4cとパーキングレバー12とが重合状態で嵌合する嵌合溝15eが設けられると共に、第2ブレーキシュー4のウエブ4cにはストラット15が嵌合する嵌合溝4fが設けられている。また、ストラット15の湾曲部15aの第2ブレーキシュー側には、ストラット戻しスプリング16の係合孔15fがプレスによる打ち抜き加工で形成され、該係合孔15fと第2ブレーキシュー4のウエブ4cに形成した装着孔4gとに、ストラット戻しスプリング16の両端に形成したフック16a,16bがそれぞれ係合される。また、図2に示されるように、係合孔15fは、ストラット15の長手方向に長い長円状に形成され、係合孔15fのバックプレート側端面15gが第2ブレーキシュー4のウエブ4cにおける反バックプレート側面4hの延長線上に配置されている。つまり、前記反バックプレート側面4hを、第1ブレーキシュー3のウエブ3cにおける反バックプレート側面3gに向かって延長させた(双方のウエブ4c,3cの反バックプレート側面4h,3gを結ぶ)仮想線L1上に係合孔15fの一部が位置するように構成されている。
【0018】
このように形成したドラムブレーキ1では、ハンドルレバーやフットペダル等の操作子を操作してブレーキケーブル14を牽引すると、パーキングレバー12が支軸13を回動中心として傾動し、ストラット15を第1ブレーキシュー3の方向に押動する。これにより、第1ブレーキシュー3の先端部側を拡開させる方向の押動力が作用すると共に、その反作用として、支軸13を介して第2ブレーキシュー4の先端部側を拡開させる方向の押動力が作用する。これにより、両ブレーキシュー3,4は、前記リターンスプリング11,11によって両ブレーキシュー3,4を縮径させる方向に作用する縮径力と、ストラット戻しスプリング16によってストラット15を引き戻す方向に作用する復元力とに抗して、アンカーピン10から離間する方向、即ちバックプレート2の外周側に向けて拡開し、両ライニング3e,4eがブレーキドラムの内周面に摺接して両ブレーキシュー3,4による制動力を発生させる。
【0019】
パーキングブレーキ作動時にブレーキケーブル14の牽引を解除すると、前記両リターンスプリング11,11、ストラット戻しスプリング16の復元力により、制動時とは逆に両ブレーキシュー3,4がバックプレート2の内周側へ縮径するとともにパーキングレバー12が初期の位置に復帰して制動力が解除される。
【0020】
本形態例では、上述のようにストラット15の湾曲部15aにストラット戻しスプリング16の一端に形成したフック16aを係合させる係合孔15fを形成することにより、従来のように、ストラット15の一端部を車軸方向に突出させる必要がなくなり、ストラット15の車軸方向の厚さ寸法を抑えることができる。また、ストラット15の湾曲部15aには、所定の肉厚があることから、係合孔15fをプレスによる打ち抜き加工で形成することができ、製造コストの削減を図ることができる。さらに、係合孔15fのバックプレート側端面15gが第2ブレーキシュー4の反バックプレート側面4hの延長線上に配置されていることから、ストラット戻しスプリング16をバックプレート2に対して平行な状態で張設することができ、ストラット15の車軸方向の厚さ寸法を極力抑えながら、ストラット戻しスプリング16のスプリング力を確保することができる。
【0021】
尚、本発明は上述の形態例のように、デュオサーボ型の機械式ドラムブレーキに適用するものに限らず、カム式の機械式ドラムブレーキ等にも適用できる。
【符号の説明】
【0022】
1…車両用ドラムブレーキ、2…バックプレート、3…第1ブレーキシュー、3a…基端部、3b…先端部、3c…ウエブ、3d…リム、3e…ライニング、3f…嵌合溝、3g…反バックプレート側面、4…第2ブレーキシュー、4a…基端部、4b…先端部、4c…ウエブ、4d…リム、4e…ライニング、4f…嵌合溝、4g…装着孔、4h…反バックプレート側面、5…シューホールドピン、6…シューホールドスプリング、7…アジャストギア、8…フローティングサポート、9…シュー戻しスプリング、10…アンカーピン、11…リターンスプリング、12…パーキングレバー、12a…連結部、13…支軸、14…ブレーキケーブル、15…ストラット、15a…湾曲部、15b,15c…直線部、15d,15e…嵌合溝、15f…係合孔、15g…バックプレート側端面、16…ストラット戻しスプリング、16a,16b…フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固設されるバックプレートの内部側に一対の第1ブレーキシューと第2ブレーキシューとを基端部を回動中心として先端側が拡開可能な状態で対称に配置し、第2ブレーキシューの先端拡開側とパーキングレバーの一端とを支軸にて回動可能に連結し、該パーキングレバーの他端に牽引手段を連結すると共に、
該パーキングレバーの支軸取付部よりも牽引手段連結部側と、前記第1ブレーキシューの先端拡開側との間に、長手方向中間部に前記バックプレートの外周側に向けて湾曲させた湾曲部を備え、湾曲部の両端部に直線部が設けられたストラットを配設し、該ストラットと前記第2ブレーキシューとの間に、非作動状態のストラットを初期位置に戻すストラット戻しスプリングを架け渡した車両用ドラムブレーキにおいて、前記ストラットの前記湾曲部の第2ブレーキシュー側に前記ストラット戻しスプリングの一端が係合する係合孔を形成したことを特徴とする車両用ドラムブレーキ。
【請求項2】
前記第2ブレーキシューのウエブにおける反バックプレート側面の延長線上に、前記係合孔の一部が配置されることを特徴とする請求項1記載の車両用ドラムブレーキ。
【請求項3】
前記第2ブレーキシューのウエブにおける反バックプレート側面の延長線上に配置される前記係合孔の一部が、前記係合孔におけるバックプレート側の一部であることを特徴とする請求項2記載の車両用ドラムブレーキ。
【請求項4】
前記第2ブレーキシューのウエブにおける反バックプレート側面の延長線上に配置される前記係合孔の一部が、前記係合孔のバックプレート側端面であることを特徴とする請求項2又は3記載の車両用ドラムブレーキ。
【請求項5】
前記ストラットの前記湾曲部は、前記バックプレートに配置されるハブユニットとの干渉を避けるように、該ハブユニットに沿って湾曲させることを特徴とする請求項1乃至4記載の車両用ドラムブレーキ。
【請求項6】
前記ストラットは、前記パーキングレバーの回動時に前記第1ブレーキーシューを制動方向に押動するストラットであって、第1ブレーキシュー側の直線部に第1ブレーキシューのウエブを嵌合する嵌合溝が、第2ブレーキシュー側の直線部に第2ブレーキシューのウエブと前記パーキングレバーとを重合状態で嵌合する嵌合溝が、それぞれ設けられていることを特徴とする請求項1乃至5記載の車両用ドラムブレーキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−163213(P2012−163213A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−100325(P2012−100325)
【出願日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【分割の表示】特願2009−259402(P2009−259402)の分割
【原出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】