説明

車両用ハブユニット

【課題】ハブ軸端部のかしめ部に形成されるスプライン歯部の剛性を高め、ハブユニットの許容負荷トルクを大きくすることができる車両用ハブユニットを提供する。
【解決手段】転動体6を介して外輪5の内方にハブホイール3が配設されており、このハブホイール3のハブ軸2の端部に内輪構成部材4がかしめ固定されているハブユニット1。ハブ軸2のかしめ部12には、ハブユニット1に駆動力を伝達する等速ジョイント側の歯部と噛み合うスプライン歯部が形成されており、且つ、スプライン歯部の内径側の歯底に凸部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用ハブユニットに関する。さらに詳しくは、車輪が取り付けられるハブホイールのハブ軸の端部に内輪を構成する部材がかしめ固定されている車両用ハブユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するものとしてハブユニットが用いられている。図4は従来のハブユニットの一例を示す断面説明図である。
【0003】
図4に示されるハブユニット51は、ハブ軸52を有するハブホイール53と、前記ハブ軸52の一端にかしめ固定された内輪構成部材54と、前記ハブ軸52の径方向外方に配設された外輪55と、この外輪55の内周面の外輪軌道55aと、前記ハブ軸52又は内輪構成部材54の外周面の内輪軌道52a、54aとの間に転動自在に配設された複数の転動体56とを備えている。前記ハブホイール53の他端にはフランジ部57が形成されており、このフランジ部57に図示しないタイヤのホイールやブレーキディスクなどが取り付けられる。また、外輪55の外周面には、ハブユニット51を、車両の懸架装置に支持された車体側部材(図示せず)に取り付けるための固定フランジ58が形成されている。
【0004】
ハブユニット51には、等速ジョイント59を介して駆動軸60の回転駆動力が伝達される。この回転駆動力を伝達する一方法として、図5に詳細に示されるように、内輪構成部材54を固定するためのハブ軸端部のかしめ部61にスプライン歯部(サイドフェーススプライン)62を形成し、このスプライン歯部62と、等速ジョイント59の外輪63の端面に形成された歯部(サイドフェーススプライン)64とを噛み合わせる方法が知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−536737号公報
【特許文献2】特開2008−174178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜2に記載されたハブユニットでは、回転軸にほぼ直交する方向に延びる歯同士の噛み合いによって、等速ジョイントを介して回転駆動力がハブユニットに伝達される。
【0007】
本発明は、前述したサイドフェーススプラインにより回転駆動力が伝達されるハブユニットにおいて、ハブ軸端部のかしめ部に形成されるスプライン歯部の剛性を高め、ハブユニットの許容負荷トルクを大きくすることができる車両用ハブユニットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の車両用ハブユニットは、転動体を介して外輪の内方にハブホイールが配設されており、このハブホイールのハブ軸の端部に内輪構成部材がかしめ固定されているハブユニットであって、
前記ハブ軸のかしめ部には、ハブユニットに駆動力を伝達する等速ジョイント側の歯部と噛み合うスプライン歯部が形成されており、且つ、
前記スプライン歯部の内径側の歯底に凸部が形成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明の車両用ハブユニットでは、等速ジョイント側の歯部と噛み合うスプライン歯部の内径側の歯底に凸部が形成されているので、スプライン歯部を構成する歯の一枚一枚の剛性を高めることができる。これにより、歯と歯の噛み合いにより等速ジョイント側の回転トルクをハブユニットに伝達するに際し当該ハブユニットの許容負荷トルクを大きくすることができる。
【0010】
(2)前記(1)の車両用ハブユニットにおいて、前記凸部の高さを、前記等速ジョイント側の歯部の歯の上面との間に所定のクリアランスが形成される高さにすることが好ましい。この場合、所定のクリアランスを形成することにより、スプライン歯部と、等速ジョイント側の歯部とを噛み合わせた際に、当該スプライン歯部及び等速ジョイント側の歯部の製作公差を吸収することができ、歯部同士が干渉するのを防止することができる。
【0011】
(3)前記(2)の車両用ハブユニットにおいて、前記所定のクリアランスを0.5〜1mmとすることが好ましい。この場合、歯の製作交差を吸収しつつ、回転トルク伝達のための噛み合い部の面積をできるだけ大きくすることができる。
【0012】
(4)前記(1)〜(3)の車両用ハブユニットにおいて、前記凸部は、スプライン歯部と等速ジョイント側の歯部とが噛み合う噛み合い部よりも内径側に形成されていることが好ましい。この場合、回転トルクを伝達する噛み合い部の面積を低減させることなく、スプライン歯部の歯の剛性を高めることができる。
【0013】
(5)前記(1)〜(5)の車両用ハブユニットにおいて、前記スプライン歯部の歯の上面のうち内径側端部近傍の上面が、前記凸部の内径側斜面と面一にされていることが好ましい。この場合、面一にすることで、応力が集中するのを緩和することができ、歯の剛性及び耐久性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用ハブユニットによれば、ハブ軸端部のかしめ部に形成されるスプライン歯部の剛性を高め、ハブユニットの許容負荷トルクを大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の車両用ハブユニットの一実施の形態の断面説明図である。
【図2】図1に示される車両用ハブユニットのかしめ部端部の拡大説明図である。
【図3】ハブ軸端部をかしめるとともに当該端部にスプライン歯部を形成するための型の説明図である。
【図4】従来の車両用ハブユニットの一例の断面説明図である。
【図5】図1に示される車両用ハブユニットのかしめ部端部の拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の車両用ハブユニットの実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る車両用ハブユニット1の断面説明図であり、図2は、図1に示される車両用ハブユニットのかしめ部端部の拡大説明図である。
【0017】
車両用ハブユニット1は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するものであり、円筒状のハブ軸2を有するハブホイール3と、前記ハブ軸2の一端(図1において右側端部)にかしめ固定された内輪構成部材4と、前記ハブ軸2の径方向外方に配設された外輪5と、この外輪5の内周面の外輪軌道5a、5bと、前記ハブ軸2又は内輪構成部材4の外周面の内輪軌道2a、4aとの間に転動自在に配設された複数の転動体6とを備えている。複数の転動体6は、保持器20によって周方向に所定の間隔で保持されている。また、外輪5とハブホイール3との間に形成される環状空間には、当該環状空間を軸方向両端から封止するシール部材21が設けられている。
【0018】
前記ハブホイール3の他端(図1において左側端部)にはフランジ部7が形成されており、このフランジ部7に図示しないタイヤのホイールやブレーキディスクなどがボルトにより取り付けられる。また、外輪5の外周面には、ハブユニット1を、車両の懸架装置に支持された車体側部材(図示せず)に取り付けるための固定フランジ8が形成されている。
【0019】
ハブ軸2は、フランジ部7側に形成された大径部9と、この大径部9よりも小径であり且つ当該大径部9と段差部10を介して連続して形成された小径部11とを一体的に有している。そして、大径部9の外周面に外輪5の外輪軌道5aに対応する内輪軌道2aが形成されている。
【0020】
内輪構成部材4は、ハブ軸2の小径部11の外周面に嵌め込まれた後、当該小径部11の端部がかしめられてかしめ部12が形成されることによって、段差部10とかしめ部12との間に固定される。
【0021】
ハブユニット1には等速ジョイント30を介して駆動軸31の駆動力が伝達される。本実施の形態における等速ジョイント30は、バーフィールド型の等速ジョイントであり、駆動軸31の一端に一体的に連結された内輪32と、この内輪32の外方に配設された外輪33と、内輪32と外輪33との間に配設された複数のボール34と、これら複数のボール34を保持する保持器35とを備えている。
【0022】
等速ジョイント30の外輪33は、椀形状の外輪筒部33aと、この外輪筒部33aの端面の中心部から突設された外輪軸部33bとを備えており、この外輪軸部33bには、軸方向に沿って孔部36が形成されている。そして、この孔部36の内周面には雌ねじが形成されている。先端部に雄ねじ37が形成されたキャップボルト38によってハブユニット1と等速ジョイント30が接続される。
【0023】
ハブ軸2の端部のかしめ部12の端面にはスプライン歯部13が形成されており、前記かしめ部12と対向する外輪筒部33aの端面にも歯部14が形成されている。スプライン歯部13と歯部14との噛み合いにより、駆動軸31の回転駆動力が等速ジョイント30を介してハブユニット1に伝達される。
【0024】
スプライン歯部13の歯13aの数は37であり、隣接する歯13a間の各歯底13bには対向する歯部14側に突出する凸部15が形成されている。この凸部15は、スプライン歯部13の内径側の歯底13b、より詳細には、スプライン歯部13の歯13aと外輪筒部33aの歯部14の歯14aとの噛み合い部16(図2において斜線で示す部分)よりも実質的に内径側の歯底13bに形成されている。このような凸部15を形成することで、スプライン歯部13を構成する歯13aの一枚一枚の剛性を高めることができ、これにより、ハブユニット1の許容負荷トルクを大きくすることができる。例えば、歯数が37のスプライン歯部について実験をしたところ、凸部15を形成した場合は、形成しない場合に比べて最大主応力を約14%、せん断応力を約24%低減させることができた。
【0025】
凸部15の表面を含む、スプライン歯部13の歯底13bと、これに対向する外輪筒部33aの歯部14の歯14aの上面14cとの間には所定のクリアランスC1が設けられている。一方、スプライン歯部13の歯13aの上面13cと、これに対向する外輪筒部33aの歯部14の歯底14bとの間にも所定のクリアランスC2が設けられている。
【0026】
スプライン歯部13は、内輪構成部材4をハブ軸2の小径部11の外周面に嵌めこんだ後、当該小径部11の端部を型鍛造することにより、かしめ部12と同時に形成される。本実施の形態においては、図3に示される型40を、内輪構成部材4を嵌め込んだ側のハブホイール3の開口内に挿入し、当該型40を軸40a周りに所定の傾斜角で揺動させる通常の揺動かしめによりかしめ部12及びスプライン歯部13を形成することができる。その際、歯底に対応する型40の凸部40bの内径側には、スプライン歯部13の凸部15に対応する形状の凹部41が形成されている。型鍛造時に、この凹部41によってスプライン歯部13の凸部15が形成される。
【0027】
外輪筒部33aの歯部14もスプライン歯部13と同じく型鍛造により形成されるが、これら型鍛造における公差を吸収して、組み付け時に歯と歯が干渉しないように前記所定のクリアランスC1、C2が設けられている。このクリアランスC1、C2は、型鍛造の精度にもよるが、通常、0.5〜1mm程度である。
【0028】
また、スプライン歯部13の歯13aの帯状の上面13cのうち内径側端部近傍の上面13c1は、前記凸部15の内径側斜面15aと面一にされている。面一にすることで、応力が集中するのを緩和することができ、歯の剛性を高めることができる。
【0029】
また、本実施の形態では、スプライン歯部13の歯底13bに凸部15を形成することで歯の剛性を高めることができるが、このような凸部15を設けることで型40に負荷される応力を低減させることもできる。すなわち、図1〜2に示される実施の形態の場合、図4〜5に示される従来例と比べて、スプライン成形を最小限にして歯底の平坦部分の面積を小さくしているので、その分、型40の凸部40bへの負担を小さくすることができる。具体的に、スプライン歯部13を形成するのに必要な型加圧力を20%程度停電させることができ、また、型49に負荷される応力(最大応力部位における応力)を半分以下にすることができる。
【0030】
〔その他の変形例〕
本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内において種々の変形及び変更が可能である。例えば、前述した実施の形態では、ハブユニットの軸受として、複列のアンギュラー玉軸受が用いられているが、複列のころ軸受など他の軸受を用いることもできる。
【0031】
また、前述した実施の形態では、スプライン歯部の歯数を37としているが、他の歯数(例えば、31)であってもよい。
また、前述した実施の形態では、凸部の断面形状を波型としているが、半円形や台形など他の断面形状を採用することもできる。
また、前述した実施の形態は、ハブ軸の外周に内輪軌道が直接形成された第3世代構造であるが、ハブ軸に一対の内輪が圧入された第1又は第2世代構造であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1:ハブユニット、2:ハブ軸、3:ハブホイール、4:内輪構成部材、5:外輪、6:転動体、7:フランジ部、8:固定フランジ、9:大径部、10:段差部、11:小径部、12:かしめ部、13:スプライン歯部、14:歯部、15:凸部、16:噛み合い部、40:型、41:凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体を介して外輪の内方にハブホイールが配設されており、このハブホイールのハブ軸の端部に内輪構成部材がかしめ固定されているハブユニットであって、
前記ハブ軸のかしめ部には、ハブユニットに駆動力を伝達する等速ジョイント側の歯部と噛み合うスプライン歯部が形成されており、且つ、
前記スプライン歯部の内径側の歯底に凸部が形成されていることを特徴とする車両用ハブユニット。
【請求項2】
前記凸部の高さは、前記等速ジョイント側の歯部の歯の上面との間に所定のクリアランスが形成される高さにされている請求項1に記載の車両用ハブユニット。
【請求項3】
前記所定のクリアランスが0.5〜1mmである請求項2に記載の車両用ハブユニット。
【請求項4】
前記凸部は、スプライン歯部と等速ジョイント側の歯部とが噛み合う噛み合い部よりも内径側に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の車両用ハブユニット。
【請求項5】
前記スプライン歯部の歯の上面のうち内径側端部近傍の上面が、前記凸部の内径側斜面と面一にされている請求項1〜4のいずれかに記載の車両用ハブユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−46150(P2012−46150A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192540(P2010−192540)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】