説明

車両用ブレーキ液圧装置

【課題】発生可能最大圧力値を低減することができ、ブレーキ系統の各部品を小型化及び軽量化するとともに、ブレーキ系統の製造コストを低減することができる車両用ブレーキ液圧装置を提供することを課題とする。
【解決手段】車両用ブレーキ液圧装置1Aであって、マスタシリンダM1は、シリンダ穴21を有するシリンダボディ20と、シリンダ穴21に内挿された加圧用ピストン30と、加圧用ピストン30を非作動時の位置に復帰させる復帰用付勢部材40と、加圧用ピストン30とブレーキ操作子L1との間に介設された吸収用付勢部材50と、を備え、マスタシリンダM1内のブレーキ液圧が、予め設定された設定値よりも大きい値になったときに、吸収用付勢部材50が圧縮されるように、吸収用付勢部材50に初期押圧力が付与されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ブレーキ液圧制御装置としては、マスタシリンダと車輪ブレーキとを接続する液路が形成された基体と、基体に設けられたリザーバに貯留されたブレーキ液を吸入して液路に吐出するポンプと、車輪ブレーキに作用するブレーキ液圧を制御する制御部と、を備えているものがある。
【0003】
ここで、図4に示すように、運転者のブレーキ操作子に対する過大入力などによって、車両のブレーキ系統に発生する可能性があるブレーキ液圧の最大値(以下、「発生可能最大圧力値」という)P2は、車両の制動性能を確保するために設定されたブレーキ液圧の設定値P1を大幅に超えている。そして、車両のブレーキ系統では、発生可能最大圧力値P2に対応させて、各部品を高強度かつ高性能に設計している。そのため、ブレーキ系統の各部品の小型化や軽量化が困難であるとともに、ブレーキ系統の製造コストが高くなっている。
【0004】
そこで、マスタシリンダで発生したブレーキ液圧に応じて、リザーバ内のピストンの移動量を制限し、制御部がポンプを作動させたときに、ポンプがリザーバから吸い上げるブレーキ液量を制限することで、車輪ブレーキに対して必要以上にブレーキ液圧が作用しないように構成された車両用ブレーキ液圧制御装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−230640号公報(段落0045、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したように、リザーバ内のピストンの移動量を制限した構成では、通常のブレーキ制御のように、マスタシリンダで発生したブレーキ液圧がそのまま車輪ブレーキに伝達されるため、ポンプが作動しない場合には、発生可能最大圧力値P2が大きくなる可能性がある。
【0007】
本発明では、前記した問題を解決し、発生可能最大圧力値を低減することができ、ブレーキ系統の各部品を小型化及び軽量化するとともに、ブレーキ系統の製造コストを低減することができる車両用ブレーキ液圧装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、ブレーキ操作子と、車輪ブレーキに通じる液路に接続されたマスタシリンダと、を備え、前記ブレーキ操作子に入力された押圧力が前記マスタシリンダに伝達されることで、前記液路にブレーキ液圧を発生させる車両用ブレーキ液圧装置であって、前記マスタシリンダは、有底のシリンダ穴を有するシリンダボディと、前記シリンダ穴に内挿された加圧用ピストンと、前記加圧用ピストンと前記シリンダ穴の底面と間に介設され、前記加圧用ピストンを非作動時の位置に復帰させる復帰用付勢部材と、前記加圧用ピストンと前記ブレーキ操作子との間に介設された吸収用付勢部材と、を備え、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が、予め設定された設定値よりも大きい値になったときに、前記吸収用付勢部材が圧縮されるように、前記吸収用付勢部材に初期押圧力が付与されていることを特徴としている。
【0009】
この構成では、マスタシリンダ内のブレーキ液圧が設定値よりも大きくなった場合には、そのブレーキ液圧によって吸収用付勢部材が圧縮される。これにより、設定値よりも大きいブレーキ液圧は吸収用付勢部材に吸収されるため、発生可能最大圧力値を低減することができる。
また、本発明の吸収用付勢部材は、マスタシリンダに設けられているため、通常のブレーキ制御のように制御部がブレーキ液圧を機械的に増圧しない場合でも、発生可能最大圧力値を低減することができる。
したがって、本発明では、発生可能最大圧力値を低減することができ、ブレーキ系統の各部品の強度や性能を抑えることができるため、各部品を小型化及び軽量化するとともに、ブレーキ系統の製造コストを低減することができる。
【0010】
前記したブレーキ液圧装置において、前記吸収用付勢部材と前記ブレーキ操作子との間には、吸収用ピストンが介設されており、前記吸収用ピストンに形成された突出部の先端部は、前記加圧用ピストンの端面に形成された有底の挿通穴に対して摺動可能に挿入され、前記吸収用付勢部材は前記突出部の周囲に配設されていることが望ましい。この構成では、吸収用ピストンを安定した状態で摺動させることができる。
【0011】
前記したブレーキ液圧装置において、前記吸収用ピストンには、前記シリンダ穴を塞ぐ保護部材が取り付けられており、前記吸収用付勢部材は、前記保護部材内に収容されていることが望ましい。
【0012】
この構成では、シリンダ穴の防塵用に設けられた保護部材内に吸収用付勢部材を収容することで、シリンダ穴内のスペースを有効に利用しているため、シリンダ穴内に吸収用付勢部材を設けても、シリンダ穴の長さを抑えることができる。
【0013】
前記課題を解決するため、本発明の他の構成としては、ブレーキ操作子と、車輪ブレーキに通じる液路に接続されたマスタシリンダと、を備え、前記ブレーキ操作子に入力された押圧力が前記マスタシリンダに伝達されることで、前記液路にブレーキ液圧を発生させる車両用ブレーキ液圧装置であって、前記マスタシリンダは、有底のシリンダ穴を有するシリンダボディと、前記シリンダ穴に内挿された加圧用ピストンと、前記加圧用ピストンと前記シリンダ穴の底面との間に介設され、前記加圧用ピストンを非作動時の位置に復帰させる復帰用付勢部材と、を備え、前記ブレーキ操作子は、有底の取付穴を有する入力部材と、一端が前記加圧用ピストンに当接し、他端が前記取付穴に挿入されている軸部材と、前記軸部材の他端と前記取付穴の底面との間に介設された吸収用付勢部材と、を備え、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が、予め設定された設定値よりも大きい値になったときに、前記吸収用付勢部材が圧縮されるように、前記吸収用付勢部材に初期押圧力が付与されていることを特徴としている。
【0014】
この構成では、マスタシリンダ内のブレーキ液圧が設定値よりも大きくなった場合には、そのブレーキ液圧によって吸収用付勢部材が圧縮される。これにより、設定値よりも大きいブレーキ液圧は吸収用付勢部材に吸収されるため、発生可能最大圧力値を低減することができる。
また、本発明の吸収用付勢部材は、ブレーキ操作子に設けられているため、通常のブレーキ制御のように制御部がブレーキ液圧を機械的に増圧しない場合でも、発生可能最大圧力値を低減することができる。
したがって、本発明では、発生可能最大圧力値を低減することができ、ブレーキ系統の各部品の強度や性能を抑えることができるため、各部品を小型化及び軽量化するとともに、ブレーキ系統の製造コストを低減することができる。また、吸収用付勢部材をブレーキ操作子に設けることで、既存のマスタシリンダを利用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用ブレーキ液圧装置によれば、発生可能最大圧力値を低減することができ、ブレーキ系統の各部品を小型化及び軽量化するとともに、ブレーキ系統の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一実施形態のブレーキ液圧装置を示した側断面図である。
【図2】第二実施形態のブレーキ液圧装置を示した側断面図である。
【図3】第二実施形態のブレーキ液圧装置の他の構成を示した側断面図である。
【図4】ブレーキ系統におけるブレーキ液圧の発生状況を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の各実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
各実施形態の説明において、同一の構成要素に関しては同一の符号を付し、重複した説明は省略するものとする。
【0018】
(第一実施形態)
図1に示す第一実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1Aは、マスタシリンダM1と車輪ブレーキとを接続する液路を有するブレーキ系統に設けられている。また、ブレーキ系統は、車輪ブレーキに作用するブレーキ液圧を制御する制御部を備えており、制御部が車輪ブレーキに付与するブレーキ液圧を適宜制御することによって、車輪ブレーキのアンチロックブレーキ制御や連動ブレーキ制御が可能になっている。
【0019】
車両用ブレーキ液圧装置1Aは、ブレーキ操作子L1と、車輪ブレーキに通じる液路に接続されたマスタシリンダM1と、を備えており、ブレーキ操作子L1に入力された押圧力がマスタシリンダM1に伝達されることで、液路にブレーキ液圧が発生する。
【0020】
マスタシリンダM1は、有底のシリンダ穴21を有するシリンダボディ20と、シリンダ穴21に内挿された加圧用ピストン30と、加圧用ピストン30とシリンダ穴21の底面21aとによってシリンダ穴21内に区画された液圧室22と、液圧室22内に収容された復帰用付勢部材40と、加圧用ピストン30とブレーキ操作子L1との間に介設された吸収用ピストン50と、加圧用ピストン30と吸収用ピストン50との間に介設された吸収用付勢部材60と、を備えている。
【0021】
シリンダボディ20は、上部にリザーバ23が形成されており、下部にはシリンダ穴21が形成されている。
シリンダ穴21は、シリンダボディ20の一方の側面に形成された開口部21bから、シリンダボディ20の他方の側面に向けて横方向に延ばされた円形断面の穴部であり、底面21aには液路に通じる送出口21cが貫通している。
【0022】
リザーバ23は、シリンダボディ20の上部に形成された箱状のリザーバ本体23aを備えており、リザーバ本体23aの上面開口部に、ダイヤフラム23b、ダイヤフラムプレート23c及びリザーバキャップ23dが内側から外側に向けて順に取り付けられることで、リザーバ本体23aの上面開口部が閉塞されている。リザーバ本体23a内に貯留されたブレーキ液は、リザーバ本体23aの底部に形成されたリリーフ孔23e及び供給孔23fを通じてシリンダ穴21内に補給される。
【0023】
加圧用ピストン30は、シリンダ穴21に内挿された円形断面の軸部材であり、先端部31がシリンダ穴21の底面21a側に配置されている。加圧用ピストン30の基端面32cの中心部には、有底の挿通穴32dが形成されている。
加圧用ピストン30の先端部31及び基端部32の外周面には、取付溝31a,32aが全周に亘って形成されており、各取付溝31a,32aには環状のカップシール31b,32bが嵌め込まれている。このカップシール31b,32bは、その外周縁部がシリンダ穴21の内周面に接することで、シリンダ穴21内を液密に区分するシール部材である。
また、シリンダ穴21の開口部21b側の内周面に形成された係止溝にはC形状のクリップ24が係止されており、加圧用ピストン30の基端面32cがクリップ24に当接することで、シリンダ穴21に対する加圧用ピストン30の抜け止めが構成されている。
【0024】
液圧室22は、加圧用ピストン30とシリンダ穴21の底面21aとによってシリンダ穴21内に区画された空間であり、送出口21cを通じてブレーキ系統の液路に連通しており、加圧用ピストン30が底面21a側に移動したときには、液圧室22内のブレーキ液が送出口21cを通じて液路内に排出される。
【0025】
復帰用付勢部材40は、液圧室22内に収容されたコイルばねであり、復帰用付勢部材40の先端側は、シリンダ穴21の底面21aに当接し、基端側は加圧用ピストン30の先端部に外嵌されている。
この復帰用付勢部材40は、シリンダ穴21内で底面21a側に移動した加圧用ピストン30を、非作動時の位置(加圧用ピストン30の基端面32cがクリップ24に当接している位置)に復帰させる弾性力を有している。
また、復帰用付勢部材40は、ブレーキ操作子L1に設定値以下(通常入力域)の押圧力が入力され、その押圧力が加圧用ピストン30に伝達されたときに、加圧用ピストン30が復帰用付勢部材40の弾性力に抗して底面21a側に移動するように、ばね定数が設定されている。
【0026】
吸収用ピストン50は、円形断面の軸部材であり、加圧用ピストン30とブレーキ操作子L1との間に介設されている。吸収用ピストン50の先端面50aの中心部には、突出部51が形成されている。
突出部51の先端部は、加圧用ピストン30の基端面に形成された挿通穴32dに対して摺動可能に挿入されている。
突出部51の基端側の部位の外周面には、摺動溝51aが全周に亘って形成されており、突出部51の基端側の部位は、先端部よりも外径が小さくなっている。突出部51の摺動溝51aには、C形状のクリップ51bが外嵌されており、このクリップ51bは、摺動溝51a内で突出部51の軸方向に摺動自在となっている。
【0027】
吸収用付勢部材60は、加圧用ピストン30の基端部32と吸収用ピストン50の先端面50aとの間に介設されており、吸収用ピストン50の突出部51の摺動溝51aの周囲に配設されている。吸収用付勢部材60の基端部は吸収用ピストン50の先端面50aに当接し、先端部はクリップ51bに当接している。これにより、クリップ51bの先端側の面は、吸収用付勢部材60の付勢力によって、加圧ピストン30の基端面に当接している。
吸収用付勢部材60は、圧縮状態で突出部51の周囲に配設されており、吸収用付勢部材60に初期押圧力が付与されている。
なお、吸収用付勢部材60の初期押圧力(吸収用付勢部材60のばね定数と初期圧縮量)は、液圧室22内のブレーキ液圧の値が設定値よりも大きくなった場合に、加圧用ピストン30と吸収用ピストン50とに挟まれて吸収用付勢部材60が圧縮される大きさに設定されている。
【0028】
また、吸収用ピストン50には、シリンダ穴21を塞ぐブーツ70(特許請求の範囲における「保護部材」)が取り付けられている。ブーツ70は、円筒状の柔軟なゴム部品であり、先端側の開口縁部70aはクリップ24の基端側に当接し、基端側の開口縁部70bは吸収用ピストン50の外周面の全周に亘って形成された取付溝50cに嵌め込まれている。このブーツ70は、吸収用ピストン50の移動に伴って、加圧用ピストン30と吸収用ピストン50との間で伸縮する。また、加圧用ピストン30と吸収用ピストン50との間に介設された吸収用付勢部材60は、ブーツ70内に収容されている。
【0029】
以上のように構成された車両用ブレーキ液圧装置1Aは、次のように動作して本発明の作用効果を奏する。
まず、ブレーキ操作子L1に入力された押圧力が設定値以下(通常入力域)の場合には、その押圧力は吸収用ピストン50から吸収用付勢部材60を介して加圧用ピストン30に伝達され、加圧用ピストン30がシリンダ穴21の底面21a側に移動することで、液圧室22内のブレーキ液が送出口21cを通じて、ブレーキ系統の液路に排出される。このように、ブレーキ操作子L1に入力された押圧力が設定値以下(通常入力域)の場合には、復帰用付勢部材40のみが収縮し、吸収用付勢部材60は収縮しない。
【0030】
運転者のブレーキ操作子L1に対する過大入力によって、液圧室22内のブレーキ液圧が設定値よりも大きい値になった場合や、運転者がブレーキ操作子L1に押圧力を入力した状態で、アンチロックブレーキ制御が作動し、ポンプによって液路内のブレーキ液圧が増圧されることで、液圧室22内のブレーキ液圧が設定値よりも大きい値になった場合には、既に収縮している復帰用付勢部材40に加えて、吸収用付勢部材60も初期押圧力の設定に応じて、加圧用ピストン30と吸収用ピストン50とに挟まれて圧縮される。これにより、設定値よりも大きい値のブレーキ液圧は吸収用付勢部材60に吸収されるため、発生可能最大圧力値を低減することができる。
【0031】
第一実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1Aによれば、液圧室22内のブレーキ液圧が設定値よりも大きくなった場合には、そのブレーキ液圧によって、吸収用付勢部材60が加圧用ピストン30と吸収用ピストン50とに挟まれて圧縮される。これにより、設定値よりも大きいブレーキ液圧は吸収用付勢部材60に吸収されるため、発生可能最大圧力値を低減することができる。
また、吸収用付勢部材60は、マスタシリンダM1に設けられているため、通常のブレーキ制御のように制御部がブレーキ液圧を機械的に増圧しない場合でも、発生可能最大圧力値を低減することができる。
したがって、車両用ブレーキ液圧装置1Aでは、発生可能最大圧力値を低減することができ、ブレーキ系統の各部品の強度や性能を抑えることができるため、各部品を小型化及び軽量化するとともに、ブレーキ系統の製造コストを低減することができる。
【0032】
また、吸収用ピストン50の突出部51が、加圧用ピストンの挿通穴32dに対して摺動可能に挿入されているため、吸収用ピストン50を安定した状態で摺動させることができる。
【0033】
また、シリンダ穴21の防塵用に設けられたブーツ70内に吸収用付勢部材60を収容することで、シリンダ穴21内のスペースを有効に利用しているため、シリンダ穴21内に吸収用付勢部材60を設けても、シリンダ穴21の長さを抑えることができる。
【0034】
以上、本発明の第一実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
例えば、第一実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1Aでは、吸収用付勢部材60と吸収用ピストン50との間に吸収用付勢部材60を介設しているが、吸収用ピストン50を設けることなく、吸収用付勢部材60とブレーキ操作子L1とを当接させ、ブレーキ操作子L1に入力された押圧力を吸収用付勢部材60に直接作用させてもよい。
【0035】
また、第一実施形態のブレーキ操作子L1は、バーハンドルタイプの車両のブレーキレバーであるがブレーキペダルでもよい。さらに、第一実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1Aは自動車のブレーキ系統に適用することもできる。
【0036】
(第二実施形態)
第二実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1Bは、図2に示すように、ブレーキ操作子L2と、車輪ブレーキに通じる液路に接続されたマスタシリンダM2と、を備えており、ブレーキ操作子L2に入力された押圧力がマスタシリンダM2に伝達されることで、ブレーキ系統の液路にブレーキ液圧が発生する。
第二実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1Bは、ブレーキ操作子L2に吸収用ピストン80及び吸収用付勢部材90を設けている点が、前記した第一実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1A(図1参照)と異なっている。
【0037】
マスタシリンダM2は、有底のシリンダ穴21を有するシリンダボディ20と、シリンダ穴21に内挿された加圧用ピストン30と、加圧用ピストン30とシリンダ穴21の底面21aとによってシリンダ穴21内に画成され、液路に通じる送出口21cが形成された液圧室22と、液圧室22内に収容され、加圧用ピストン30を非作動時の位置に復帰させる復帰用付勢部材40と、を備えている。
【0038】
加圧用ピストン30は、シリンダ穴21に内挿された円形断面の軸部材であり、先端部31がシリンダ穴21の底面21a側に配置されている。加圧用ピストン30の先端部31及び基端部32の外周面に形成された取付溝31a,32aには、環状のカップシール31b,32bが嵌め込まれている。
また、加圧用ピストン30の基端面32cの中心部には、半球面形状の底面を有する挿通穴32dが形成されている。
なお、シリンダ穴21の開口部21b側の内周面に形成された係止溝にはC形状のクリップ24が係止されており、加圧用ピストン30の基端面32cがクリップ24に当接することで、シリンダ穴21に対する加圧用ピストン30の抜け止めが構成されている。
【0039】
ブレーキ操作子L2は、有底の取付穴102を有する入力部材100と、基端部112が取付穴102に挿入され、先端部111が加圧用ピストン30に当接している軸部材110と、軸部材110の基端部112と取付穴102の底面102aとの間に介設された吸収用ピストン80と、吸収用ピストン80の先端部81と取付穴102の底面102aとの間に介設された吸収用付勢部材90と、を備えている。
【0040】
入力部材100は、バーハンドルタイプの車両のブレーキレバーであり、回動基部が車両のフレームに回動自在に支持されており、回動基部101に有底の取付穴102が形成されている。
取付穴102は円形断面の穴部であり、マスタシリンダM2のシリンダ穴21の開口部21bに対向するように開口部102bが形成されている。また、取付穴102の底面102aの中心部には有底の小径穴部102cが形成されている。
【0041】
軸部材110は、円形断面の軸部材であり、先端部111は半球面形状に形成されている。軸部材110の先端部111は、マスタシリンダM2の加圧用ピストン30の挿通穴32dの内面に面接触している。したがって、軸部材110は、加圧用ピストン30の基端面32cに対して傾動自在となっている。
【0042】
また、軸部材110には、シリンダ穴21を塞ぐブーツ70が取り付けられている。ブーツ70の先端側の開口縁部70aはクリップ24の基端側に当接し、基端側の開口縁部70bは軸部材110の軸方向の中間部に外嵌されている。このブーツ70は、軸部材100の移動に伴って、加圧用ピストン30と軸部材110との間で伸縮する。
【0043】
軸部材110の基端部112は、ブレーキ操作子L2の取付穴102に挿入されており、球状の当接部材112aが取り付けられている。当接部材112aは、取付穴102内を軸方向に摺動自在となっている。
【0044】
吸収用ピストン80は、ブレーキ操作子L2の取付穴102に内挿された円形断面の軸部材であり、先端部81、中間部83及び基端部82が形成され、先端部81及び基端部82は中間部83よりも拡径されている。吸収用ピストン80の先端面81aの中心部には、軸部材110に取り付けられた当接部材112aが面接触する窪み部81bが形成されている。この窪み部81bの内面は、当接部材112aの外面に対応させて球面の一部となっている。したがって、軸部材110は、吸収用ピストン80の先端面81aに対して傾動自在となっている。
【0045】
吸収用ピストン80の基端部82は、取付穴102の底面102aに形成された小径穴部102cに対して摺動自在に挿入されている。
また、吸収用ピストン80の中間部83には、C形状のクリップ84が外嵌されており、このクリップ84は中間部83に対して軸方向に摺動自在となっている。
【0046】
吸収用付勢部材90は、吸収用ピストン80の先端部81の基端側の面と、中間部83に外嵌されたクリップ84との間に介設されている。これにより、クリップ84の基端側の面は、吸収用付勢部材90の付勢力によって、取付穴82の底面102aに当接している。
吸収用付勢部材90は、圧縮状態で吸収用ピストン80の中間部83の周囲に配設されており、吸収用付勢部材90に初期押圧力が付与されている。
なお、吸収用付勢部材90の初期押圧力(吸収用付勢部材90のばね定数と初期圧縮量)は、液圧室22内のブレーキ液圧が設定値よりも大きくなった場合に、吸収用ピストン80の先端部81と取付穴102の底面102aとに挟まれて、吸収用付勢部材90が圧縮される大きさに設定されている。
【0047】
以上のように構成された車両用ブレーキ液圧装置1Bは、次のように動作して本発明の作用効果を奏する。
まず、ブレーキ操作子L2に入力された押圧力が設定値以下(通常入力域)の場合には、その押圧力は吸収用付勢部材90、吸収用ピストン80及び軸部材110を介して加圧用ピストン30に伝達され、加圧用ピストン30がシリンダ穴21の底面21a側に移動することで、液圧室22内のブレーキ液が送出口21cを通じて液路に排出される。このように、ブレーキ操作子L2に入力された押圧力が設定値以下(通常入力域)の場合には、復帰用付勢部材40のみが収縮し、吸収用付勢部材90は収縮しない。
【0048】
また、液圧室22内のブレーキ液圧が設定値よりも大きい値になった場合には、既に収縮している復帰用付勢部材40に加えて、吸収用付勢部材90も初期押圧力の設定に応じて、吸収用ピストン80の先端部81と取付穴102の底面102aとに挟まれて圧縮される。これにより、設定値よりも大きい値のブレーキ液圧は吸収用付勢部材90に吸収されるため、発生可能最大圧力値を低減することができる。
【0049】
第二実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1Bによれば、液圧室22内のブレーキ液圧が設定値よりも大きくなった場合には、そのブレーキ液圧によって、ブレーキ操作子L2の吸収用付勢部材90が、吸収用ピストン80の先端部81と取付穴102の底面102aに挟まれて圧縮される。これにより、設定値よりも大きいブレーキ液圧は吸収用付勢部材90に吸収されるため、発生可能最大圧力値を低減することができる。
また、吸収用付勢部材90は、ブレーキ操作子L2に設けられているため、通常のブレーキ制御のように制御部がブレーキ液圧を機械的に増圧しない場合でも、発生可能最大圧力値を低減することができる。
したがって、車両用ブレーキ液圧装置1Bでは、発生可能最大圧力値を低減することができ、ブレーキ系統の各部品の強度や性能を抑えることができるため、各部品を小型化及び軽量化するとともに、ブレーキ系統の製造コストを低減することができる。また、吸収用付勢部材90をブレーキ操作子L2に設けることで、既存のマスタシリンダM2を利用することができる。
【0050】
以上、本発明の第二実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
例えば、第二実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1Bでは、図2に示すように、軸部材110の両端部111,112に曲面を形成し、軸部材110を加圧用ピストン30及び吸収用ピストン80に対してそれぞれ傾動自在に当接させることで、加圧用ピストン30と吸収用ピストン80との間で押圧力を伝達しているが、図3に示す車両用ブレーキ液圧装置1Cのように、軸部材120の先端面121のみを曲面に形成してもよい。
この構成では、軸部材120の先端面121を加圧用ピストン30の基端面32cに当接させており、ブレーキ操作子L2の入力部材100に押圧力が入力され、入力部材100が傾動したときに、軸部材120の曲面121が加圧用ピストン30の基端面32cを転動するように構成されている。なお、軸部材120の基端面122は平坦に形成され、吸収用ピストン80の先端面81aに面接触している。
したがって、図3に示す車両用ブレーキ液圧装置1Cでは、軸部材120の加工が簡単になっているため、製造コストを低減することができる。
【0051】
また、第二実施形態のブレーキ操作子L2は、バーハンドルタイプの車両のブレーキレバーであるがブレーキペダルでもよい。さらに、第二実施形態の車両用ブレーキ液圧装置1B(1C)は自動車のブレーキ系統に適用することもできる。
【符号の説明】
【0052】
1A 車両用ブレーキ液圧装置(第一実施形態)
1B 車両用ブレーキ液圧装置(第二実施形態)
1C 車両用ブレーキ液圧装置(第二実施形態の変形例)
L1 ブレーキ操作子(第一実施形態)
L2 ブレーキ操作子(第二実施形態)
M1 マスタシリンダ(第一実施形態)
M2 マスタシリンダ(第二実施形態)
20 シリンダボディ
21 シリンダ穴
21a シリンダ穴の底面
21c 送出口
22 液圧室
23 リザーバ
24 クリップ
30 加圧用ピストン
32d 挿通穴
40 復帰用付勢部材
50 吸収用ピストン
51 突出部
60 吸収用付勢部材
70 ブーツ
80 吸収用ピストン
90 吸収用付勢部材
100 入力部材
102 取付穴
110 軸部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作子と、車輪ブレーキに通じる液路に接続されたマスタシリンダと、を備え、前記ブレーキ操作子に入力された押圧力が前記マスタシリンダに伝達されることで、前記液路にブレーキ液圧を発生させる車両用ブレーキ液圧装置であって、
前記マスタシリンダは、
有底のシリンダ穴を有するシリンダボディと、
前記シリンダ穴に内挿された加圧用ピストンと、
前記加圧用ピストンと前記シリンダ穴の底面と間に介設され、前記加圧用ピストンを非作動時の位置に復帰させる復帰用付勢部材と、
前記加圧用ピストンと前記ブレーキ操作子との間に介設された吸収用付勢部材と、を備え、
前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が、予め設定された設定値よりも大きい値になったときに、前記吸収用付勢部材が圧縮されるように、前記吸収用付勢部材に初期押圧力が付与されていることを特徴とする車両用ブレーキ液圧装置。
【請求項2】
前記吸収用付勢部材と前記ブレーキ操作子との間には、吸収用ピストンが介設されており、
前記吸収用ピストンに形成された突出部の先端部は、前記加圧用ピストンの端面に形成された有底の挿通穴に対して摺動可能に挿入され、前記吸収用付勢部材は前記突出部の周囲に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧装置。
【請求項3】
前記吸収用ピストンには、前記シリンダ穴を塞ぐ保護部材が取り付けられており、
前記吸収用付勢部材は、前記保護部材内に収容されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧装置。
【請求項4】
ブレーキ操作子と、車輪ブレーキに通じる液路に接続されたマスタシリンダと、を備え、前記ブレーキ操作子に入力された押圧力が前記マスタシリンダに伝達されることで、前記液路にブレーキ液圧を発生させる車両用ブレーキ液圧装置であって、
前記マスタシリンダは、
有底のシリンダ穴を有するシリンダボディと、
前記シリンダ穴に内挿された加圧用ピストンと、
前記加圧用ピストンと前記シリンダ穴の底面との間に介設され、前記加圧用ピストンを非作動時の位置に復帰させる復帰用付勢部材と、を備え、
前記ブレーキ操作子は、
有底の取付穴を有する入力部材と、
一端が前記加圧用ピストンに当接し、他端が前記取付穴に挿入されている軸部材と、
前記軸部材の他端と前記取付穴の底面との間に介設された吸収用付勢部材と、を備え、
前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が、予め設定された設定値よりも大きい値になったときに、前記吸収用付勢部材が圧縮されるように、前記吸収用付勢部材に初期押圧力が付与されていることを特徴とする車両用ブレーキ液圧装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−208478(P2010−208478A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56730(P2009−56730)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】