説明

車両用ホイール部吹き出し抑制装置

【課題】簡素で低コストな構成で高速走行時の空力性能を向上させることができる車両用ホイール部吹き出し抑制装置を得る。
【解決手段】車体下方の中央部側には車両前後方向を長手方向とするチューブ12が配設されている。また、車輪の周囲にはホイールハウス16に沿ってシャッタ18が半径方向へ移動可能に配設されている。シャッタ18を開閉するエアシリンダ20は連結部材22及びホース36を介してチューブ12に接続されている。従って、停車時にはシャッタ18は付勢力で開放位置に保持され、高速走行時にはチューブ12に動圧Pが発生してその動圧Pがエアシリンダ20に伝達されてシャッタ18が閉止され、ホイールハウス16側からの気流の吹き出しが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速走行時にホイールハウスやホイールといったホイール部からの吹き出しを抑制するための車両用ホイール部吹き出し抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、フェンダ部に略車両上下方向へ移動可能なホイールアーチフェアリングを設け、低速走行時にはホイールアーチフェアリングを格納状態とし、高速走行時にはホイールアーチフェアリングを使用状態とすることにより、オフロード等の走行性を確保しつつ、高速走行時における空気抵抗を低減させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開平8−318876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記先行技術による場合、車速及び操舵角等をセンサで検出し、その検出信号に基づいてコントローラがモータの駆動を制御する電子制御方式であるため、装置が複雑化すると共にコストアップを招くという問題があった。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、簡素で低コストな構成で高速走行時の空力性能を向上させることができる車両用ホイール部吹き出し抑制装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明に係る車両用ホイール部吹き出し抑制装置は、ホイールハウスに沿って設けられ、ホイールハウスからの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイールハウスからの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能とされたシャッタと、少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して前記シャッタを閉止するシャッタ駆動手段と、を有することを特徴としている。
【0006】
請求項2記載の本発明に係る車両用ホイール部吹き出し抑制装置は、ホイールの開口部に設けられ、ホイール開口部からの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイールの開口部からの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能とされたシャッタと、少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して前記シャッタを閉止するシャッタ駆動手段と、を有することを特徴としている。
【0007】
請求項3記載の本発明に係る車両用ホイール部吹き出し抑制装置は、ホイールハウスに沿って設けられ、ホイールハウスからの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイールハウスからの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能とされた第1のシャッタと、ホイール開口部に設けられ、ホイール開口部からの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイール開口部からの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能に設けられた第2のシャッタと、少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して前記第1のシャッタ及び前記第2のシャッタを閉止するシャッタ駆動手段と、を有することを特徴としている。
【0008】
請求項4記載の本発明に係る車両用ホイール部吹き出し抑制装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記シャッタ駆動手段は、シャッタと連結され当該シャッタを開放位置と閉止位置との間で移動させる駆動手段と、車体下方側に設けられると共に前記駆動手段と連通され、走行時に車体下方に生じた動圧を駆動手段に伝達する動圧伝達手段と、を含んで構成されている、ことを特徴としている。
【0009】
請求項1記載の本発明によれば、ホイールハウスに沿ってシャッタが設けられており、このシャッタをシャッタ駆動手段によって少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して閉止させるようにしたので、例えば、以下のような空力性能を実現することが可能となる。
【0010】
一例として、停車時にはシャッタを開放位置に保持し、高速走行時には車体下方に発生した動圧を利用してシャッタを閉止位置に保持する。このようにすることにより、フロントバンパで剥離した空気流がホイールハウスから吹き出すのを抑制又は抑止することができるため、フロントバンパで剥離された空気流は車体側面に沿って速い速度(流速)で車両後方側へと流れていく。このため、車両を背面視で見た場合の車両の両側面(車体の左側面及び右側面)と上下面(ラッゲージドア上面及び車体フロア下面)とで空気流の流速差が縮まり、車両後方側において両サイドの空気流と上下の空気流との間にせん断力が発生するのを抑制することができる。空気流間のせん断力の発生を抑制できると、渦流の発生を抑制することができるため、車体後部に作用する圧力損失を低減することができる。これにより、車両後方側において車体後部を車両後方側へ引っ張る力が減少し、抗力抵抗値を向上させることができる。
【0011】
しかも、本発明によれば、少なくとも高速走行時に車体下方を通る空気流の動圧を利用してシャッタを閉止させる構成であるため、モータ等を使った複雑な構造にならず、低コストで構成を成立させることができる。
【0012】
請求項2記載の本発明によれば、ホイールの開口部に沿ってシャッタが設けられており、このシャッタをシャッタ駆動手段によって少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して閉止させるようにしたので、例えば、以下のような空力性能を実現することが可能となる。
【0013】
一例として、停車時にはシャッタを開放位置に保持し、高速走行時には車体下方に発生した動圧を利用してシャッタを閉止位置に保持する。このようにすることにより、フロントバンパで剥離した空気流がホイールの開口部から吹き出すのを抑制又は抑止することができるため、フロントバンパで剥離された空気流は車体側面に沿って速い速度(流速)で車両後方側へと流れていく。このため、車両を背面視で見た場合の車両の両側面(車体の左側面及び右側面)と上下面(ラッゲージドア上面及び車体フロア下面)とで空気流の流速差が縮まり、車両後方側において両サイドの空気流と上下の空気流との間にせん断力が発生するのを抑制することができる。空気流間のせん断力の発生を抑制できると、渦流の発生を抑制することができるため、車体後部に作用する圧力損失を低減することができる。これにより、車両後方側において車体後部を車両後方側へ引っ張る力が減少し、抗力抵抗値を向上させることができる。
【0014】
しかも、本発明によれば、少なくとも高速走行時に車体下方を通る空気流の動圧を利用してシャッタを閉止させる構成であるため、モータ等を使った複雑な構造にならず、低コストで構成を成立させることができる。
【0015】
請求項3記載の本発明によれば、請求項1に記載されたシャッタを第1のシャッタとして備えていると共に、請求項2に記載されたシャッタを第2のシャッタとして備えており、シャッタ駆動手段によって少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して第1のシャッタ及び第2のシャッタを閉止することとしたので、請求項1に記載された発明の作用と請求項2に記載された発明の作用の双方が得られる。つまり、高速走行時にホイールハウスからの吹き出しとホイールの開口部からの吹き出しの両方を抑制又は抑止することができる。
【0016】
請求項4記載の本発明によれば、車体下方側に設けられた動圧伝達手段によって、走行時に車体下方に生じた動圧が駆動手段に伝達される。駆動手段では、伝達された動圧を利用してシャッタを開放位置と閉止位置との間で移動させる。
【0017】
このように本発明では、シャッタ駆動手段がシャッタを開閉移動させる駆動手段と走行時の動圧伝達用の動圧伝達手段とを含んで構成されているため、構成的には非常にシンプルなものにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、請求項1記載の車両用ホイール部吹き出し抑制装置は、ホイールハウスに沿って設けられ、ホイールハウスからの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイールハウスからの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能とされたシャッタと、少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用してシャッタを閉止するシャッタ駆動手段と、を有するので、高速走行時にフロントバンパで剥離された空気流を車体側面に沿って速い速度で車両後方側へ流すことができ、その結果、モータ等の複雑な構成によらず、簡素で低コストな構成で高速走行時の空力性能を向上させることができるという優れた効果を有する。
【0019】
請求項2記載の車両用ホイール部吹き出し抑制装置は、ホイールの開口部に設けられ、ホイール開口部からの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイールの開口部からの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能とされたシャッタと、少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用してシャッタを閉止するシャッタ駆動手段と、を有するので、高速走行時にフロントバンパで剥離された気流を車体側面に沿って速い速度で車両後方側へ流すことができ、その結果、モータ等の複雑な構成によらず、簡素で低コストな構成で高速走行時の空力性能を向上させることができるという優れた効果を有する。
【0020】
請求項3記載の本発明に係る車両用ホイール部吹き出し抑制装置は、ホイールハウスに沿って設けられ、ホイールハウスからの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイールハウスからの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能とされた第1のシャッタと、ホイール開口部に設けられ、ホイール開口部からの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイール開口部からの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能に設けられた第2のシャッタと、少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して第1のシャッタ及び第2のシャッタを閉止するシャッタ駆動手段と、を有するので、高速走行時にホイールハウスからの吹き出しとホイールの開口部からの吹き出しの両方を抑制又は抑止することができ、その結果、高速走行時の空力性能をより一層向上させることができるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項4記載の本発明に係る車両用ホイール部吹き出し抑制装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の発明において、シャッタ駆動手段は、シャッタと連結され当該シャッタを開放位置と閉止位置との間で移動させる駆動手段と、車体下方側に設けられると共に駆動手段と連通され、走行時に車体下方に生じた動圧を駆動手段に伝達する動圧伝達手段と、を含んで構成されているので、非常にシンプルな構成にすることができ、その結果、車両重量の増加抑制、燃費向上等の様々な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図1〜図6を用いて、本発明に係る車両用ホイール部吹き出し抑制装置の実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0023】
図1及び図2には、車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置10の全体構成の概略図(図1は停車時、図2は高速走行時)が示されている。また、図3には、車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置10の要部を一部抜き出して拡大した側面図が示されている。さらに、図4(A)、(B)、(C)には、高速走行時の空気流の流れを矢印で表現した正面図、斜め上方から見た斜視図、背面図がそれぞれ示されている。
【0024】
これらの図に示されるように、車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置10は、システム的には車体下方に車両前後方向に沿って配置されたチューブ12と、前輪14A、後輪14Bの外周面とホイールハウス16との間の隙間24に開閉可能に設けられた複数のシャッタ18と、各シャッタ18に対応してそれぞれ設けられてシャッタ18を半径方向へ移動可能に保持するエアシリンダ20と、このエアシリンダ20とチューブ12とを繋ぐホース等の連結部材22と、を主要部として構成されている。
【0025】
なお、上記構成の内、エアシリンダ20、ピストン28、ピストンロッド30及び圧縮コイルスプリング34が請求項4記載の駆動手段に相当し、チューブ12、連結部材22及び後述するホース36が請求項4記載の動圧伝達手段に相当する。
【0026】
以下、各構成要素について説明していく。
【0027】
チューブ12は、例えば金属製の円管等によって構成されており、内部は空洞とされている。このチューブ12が左右の前輪14Aの間で車両前後方向を長手方向として配置されることにより、図2に示される如く、走行時に速度に応じて発生した空気流Fの一部fがチューブ12内を通っていき、動圧が加わるようになっている。なお、チューブ12は、円管以外に角管等であってもよい。
【0028】
シャッタ18は、側面視でホイールハウス16の全周に亘って円弧状に並ぶように配列されている。図1に図示されたシャッタ18の位置が「開放位置」であり、このときにはホイールハウス16と前輪14A、後輪14Bとの間の隙間24は開放されている。また、図2に図示されたシャッタ18の位置が「閉止位置」であり、このときにはホイールハウス16と前輪14A、後輪14Bとの間の隙間24は閉止されている。
【0029】
図3(A)、(B)に拡大して示されるように、各シャッタ18は側面視で円弧状に湾曲した形状を成している。シャッタ18の断面形状は一例としてL字状に形成されており、この場合、側部18Aが隙間24を閉止する閉止部として機能し、側部18Aの外周部18Bがエアシリンダ20との取付部として機能する。
【0030】
各シャッタ18には、軸方向が半径方向に一致するようにエアシリンダ20がそれぞれ配置されている。エアシリンダ20は内部中空とされており、大径部20Aと小径部20Bとによって構成されている。大径部20Aの内部にはピストン28が配置されており、これによりエアシリンダ20の大径部20Aの内部空間が二室に隔成されている。ピストン28の軸芯部にはピストンロッド30が立設されており、このピストンロッド30の先端部はエアシリンダ20の底壁部26を貫通してシャッタ18の外周部18Bに図示しない締結具等によって固定されている。なお、底壁部26の軸芯部にはピストンロッド30よりも大径とされたエア流通用の連通孔26が形成されており、動圧作用時にピストンロッド30の軸方向移動を可能としている。
【0031】
さらに、ピストンロッド30におけるエアシリンダ20の底壁部26とピストン28との間の部位には、(広義には引張コイルスプリング等の他のスプリングを含む付勢手段として把握される)圧縮コイルスプリング34が巻装されている。圧縮コイルスプリング34の一端部はエアシリンダ20の底壁部26に当接係止されており、他端部はピストン28の端面に当接係止されている。従って、圧縮コイルスプリング34は、ピストン28を常時底壁部26から離間する方向(図3(B)の矢印P方向と反対方向)へ押圧付勢しており、その結果、シャッタ18は停車時等の動圧が作用していないときには閉止位置に保持されるようになっている。
【0032】
上記複数のエアシリンダ20の小径部20Bはホイールハウス16に沿って半円形状に形成されたパイプ状の連結部材22によって相互に連通されている。そして、この連結部材22とチューブ12の後端部12Aとが、ホース36によって相互に連通されている。なお、連結部材22を設けない場合は、ホース36の後端部をエアシリンダ20の本数に合わせて分岐させて各々のエアシリンダ20の小径部20Bに接続すればよい。
【0033】
(作用・効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
【0034】
図1に示される状態が、車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置10の停車時の状態である。この状態のときには、チューブ12内に空気流が流れてこないので、チューブ12内に動圧は発生せず、従ってエアシリンダ20内へ動圧が伝達されることはない。よって、圧縮コイルスプリング34の付勢力によってピストン28が小径部20B側へ最大限ストロークしており、シャッタ18は開放位置に保持される。
【0035】
一方、この状態から車両走行時となり、特に高速走行時になると、図2に示されるように、左右の前輪14Aの間から気流Fが入り、その一部fがチューブ12内へ流れ込む。このため、チューブ12内に動圧が発生し、この動圧はPとなってエアシリンダ20内へ伝達される。このため、エアシリンダ20内のピストン28が動圧Pの作用方向(ホイールハウス16の半径方向内側)へ押圧され、圧縮コイルスプリング34の付勢力に抗して動圧Pの作用方向へ軸方向移動する。なお、このとき、エアシリンダ20のピストン28と底壁部26との間の室内のエアは、連通孔32からエアシリンダ20外へ排出される。そして、ピストンロッド30がフルストロークすると、シャッタ18が閉止位置に至り、図2図示状態となる。
【0036】
シャッタ18が閉止されると、ホイールハウス16と前輪14A、後輪14Bとの間の隙間24が塞がれる。このため、ホイールハウス16の隙間24からの吹き出しが抑制又は抑止され、フロントバンパ38で剥離された空気流Q1(図4(A)参照)は車体側面40に沿って速い速度(流速)で車両後方側へと流れていく(このときの気流の流れを図4(B)に矢印Q2で示す)。このため、車両を背面視で見た場合の車両の両側面と上下面とで空気流の流速差が縮まり、車両後方側において両サイドの気流と上下の気流との間にせん断力が発生するのを抑制することができる。空気流間のせん断力の発生を抑制できると、渦流の発生を抑制することができるため、車体後部42に作用する圧力損失を低減することができる。因みに、図4(C)に示される斜線部Rが圧力損失の高い領域であり、本実施形態の場合、両サイドの部分Sの圧力損失が減少されたことが解る。これにより、車両後方側において車体後部42を車両後方側へ引っ張る力が減少し、抗力抵抗値(Cd)を向上させることができる。
【0037】
図5には、比較のために、本実施形態に係る車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置10を備えていない車両の空力性能が模式化して現されている。図5(A)に示されるように、フロントバンパ38で剥離された気流Y1は車両後方側へ流れるが、このとき、ホイールハウス16と前輪14Aとの間の隙間24から車両幅方向外側へ空気流Y2の吹き出しがあるため、フロントバンパ38で剥離された空気流Y1は更に剥離方向へ押し出されて空気流Y3となって車両後方側へと流れていく(即ち、空気流の剥離が助長される)。この場合、空気流Y3の速度(流速)が遅くなるため、車両を背面視で見た場合の車両の両側面と上下面とで空気流の流速差が大きなり、車両後方側において両サイドの空気流と上下の空気流との間にせん断力が発生し易くなる。空気流間にせん断力が発生すると、渦流が発生するため、車体後部42に作用する圧力損失が増加する。これにより、車両後方側において車体後部42を車両後方側へ引っ張る力が本実施形態の場合よりも大きくなり、抗力抵抗値(Cd)が悪化傾向になる。因みに、図5(C)に示される斜線部R’が圧力損失が高い領域であり、本実施形態の場合には圧力損失が改善されたS(二重斜線部)をも含む全範囲となっていることが解る。
【0038】
しかも、本実施形態によれば、走行時に車体下方を通る空気流Fがもたらす動圧Pを利用してシャッタ18を開閉させる構成であるため、モータ等を使った複雑な構造にならず、低コストで構成を成立させることができる。
【0039】
以上より、本実施形態に係る車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置10によれば、モータ等の複雑な構成によらず、簡素で低コストな構成で高速走行時の空力性能を向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置10では、シャッタ18を開閉駆動させるためのシャッタ駆動手段が、車体下方側に配設されたチューブ12、ホース36、連結部材22、エアシリンダ20、ピストン28、ピストンロッド30、圧縮コイルスプリング34といった要素で構成されており、チューブ12で発生した動圧をそのまま利用してシャッタ18を開閉させることができる。その結果、構成が非常にシンプルになり、車両重量の増加抑制、燃費向上等の様々な効果が得られる。
【0041】
なお、燃費性能の向上効果は、本実施形態に係る車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置10を用いた場合の効果の中核を成す空力性能の向上によってももたらされる。
【0042】
(他の実施形態)
図6に示される実施形態では、ホイールハウス16側にシャッタ18を設けた前述した車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置10に加えて、ホイール52の開口部54を別のシャッタ56で開閉可能にする車両用ホイール開口部吹き出し抑制装置58を設けた点に特徴がある。各シャッタ56は略扇形状に形成されており、ホイール52の中心から放射状に配列されている。
【0043】
なお、シャッタ56の開閉動作及び駆動機構は、ホイールハウス16側のシャッタ18の場合と同様であるので、その説明は省略する。また、上記構成の内、シャッタ18が第1のシャッタに相当し、シャッタ56が第2のシャッタに相当する。
【0044】
上記構成によれば、停車時にはチューブ12に動圧が発生しないので、いずれのシャッタ18、56も圧縮コイルスプリング34の付勢力によって開放位置に保持される。
【0045】
一方、高速走行時には、チューブ12に発生した動圧がホース36を介して各エアシリンダ20に伝達されるので、双方のシャッタ18、56が同時に閉止位置まで移動される。これにより、ホイールハウス16と前輪14A、後輪14Bとの間の隙間24が閉塞されると共に、各ホイール52の開口部54も閉止される。従って、高速走行時にホイールハウス16の隙間24からの吹き出しとホイール52の開口部54からの吹き出しの両方を抑制又は抑止することができる。その結果、高速走行時の空力性能をより一層向上させることができる。
【0046】
〔本実施形態の補足説明〕
なお、前記他の実施形態では、ホイールハウス16側のシャッタ18とホイール52の開口部54のシャッタ56の双方を適用したが、これに限らず、ホイール52の開口部54のみにシャッタ56を設ける構成を採ってもよい。その場合においても、それに応じた空力性能の改善効果が得られる。
【0047】
また、上述した各実施形態では、動圧感知用にチューブ12を設置したが、これに限らず、空気流の流れから動圧の変化を感知可能な流体スイッチング機構であればすべて適用可能である。従って、例えば、エアシリンダ20の代わりに動圧の変化を感知してバルブの開閉を行うアクチュエータ等を用いてもよい。
【0048】
さらに、上述した各実施形態では、シャッタ18をホイールハウス16の略全周に配置したが、これに限らず、一部のみに設ける構成を採ってもよい。その場合においても、シャッタで塞がれた面積に応じた空力性能の向上は得られる。この点は、シャッタ56についても同様に当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施形態に係る車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置の全体構成を停車時の状態で示す概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置の全体構成を高速走行時の状態で示す概略構成図である。
【図3】(A)は停車時における車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置の要部を一部抜き出して拡大した側面図、(B)は(A)は高速走行時における車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置の要部を一部抜き出して拡大した側面図である。
【図4】(A)は本実施形態に係る車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置を用いた場合の高速走行時の空気流の流れを矢印で表現した正面図、(B)は斜め上方から見た斜視図、(C)は背面図である。
【図5】(A)は本実施形態に係る車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置を備えていない場合の高速走行時の空気流の流れを矢印で表現した正面図、(B)は斜め上方から見た斜視図、(C)は背面図である。
【図6】車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置及び車両用ホイール開口部吹き出し抑制装置を兼備した別の実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
10 車両用ホイールハウス吹き出し抑制装置(車両用ホイール部吹き出し抑制装置)
12 チューブ(動圧伝達手段)
14A 前輪
14B 後輪
16 ホイールハウス
18 シャッタ(第1のシャッタ)
20 エアシリンダ(駆動手段)
22 連結部材(動圧伝達手段)
24 隙間
28 ピストン(駆動手段)
30 ピストンロッド(駆動手段)
34 圧縮コイルスプリング(駆動手段)
36 ホース(動圧伝達手段)
52 ホイール
54 開口部
56 シャッタ(第2のシャッタ)
58 車両用ホイール開口部吹き出し抑制装置(車両用ホイール部吹き出し抑制装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールハウスに沿って設けられ、ホイールハウスからの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイールハウスからの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能とされたシャッタと、
少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して前記シャッタを閉止するシャッタ駆動手段と、
を有することを特徴とする車両用ホイール部吹き出し抑制装置。
【請求項2】
ホイールの開口部に設けられ、ホイール開口部からの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイールの開口部からの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能とされたシャッタと、
少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して前記シャッタを閉止するシャッタ駆動手段と、
を有することを特徴とする車両用ホイール部吹き出し抑制装置。
【請求項3】
ホイールハウスに沿って設けられ、ホイールハウスからの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイールハウスからの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能とされた第1のシャッタと、
ホイール開口部に設けられ、ホイール開口部からの走行風の吹き出しを許容する開放位置とホイール開口部からの走行風の吹き出しを抑制する閉止位置との間を移動可能に設けられた第2のシャッタと、
少なくとも高速走行時となった場合に車体下方を通る空気流の動圧を利用して前記第1のシャッタ及び前記第2のシャッタを閉止するシャッタ駆動手段と、
を有することを特徴とする車両用ホイール部吹き出し抑制装置。
【請求項4】
前記シャッタ駆動手段は、
シャッタと連結され当該シャッタを開放位置と閉止位置との間で移動させる駆動手段と、
車体下方側に設けられると共に前記駆動手段と連通され、走行時に車体下方に生じた動圧を駆動手段に伝達する動圧伝達手段と、
を含んで構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の車両用ホイール噴出し抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−327548(P2006−327548A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157925(P2005−157925)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】