説明

車両用ランプの曇り評価方法

【課題】車両用ランプの晴れ性を正確に確認でき、特にブリーザによる晴れ性の影響を正確に確認可能とする。
【解決手段】車両に搭載されたヘッドランプを加熱する加熱工程32と、加熱工程32後にヘッドランプを冷却する冷却工程34と、冷却工程34後に車両走行状態と同等の走行風をヘッドランプに当て、ヘッドランプの晴れ性を確認する非点灯走行工程35と、により構成された評価方法によりヘッドランプの曇り評価を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ランプの曇り評価方法に係り、詳しくはヘッドランプの曇りの晴れ性を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用ヘッドランプは、雨天時のような湿度の高い状態で急激に冷却されると、レンズに曇りが発生する虞がある。このようなヘッドランプの曇りは外観上好ましくないので、曇りを発生し難くするとともに、例え曇りが発生したとしても極力早めに解消されることが望まれる。
ヘッドランプの曇りに関しては、各種評価方法によって評価可能である。例えば、ヘッドランプを加熱した状態から、散水したり水蒸気を直接ヘッドランプ内に供給したりして曇りを発生させ、その後ヘッドランプを点灯して加熱することで、曇りが解消される様子を確認する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−123050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ヘッドランプには、内部の空間と外部とを連通する通気口となるブリーザが設けられている。このようなブリーザを介して内部の空間と外部とを空気が流通することで、ヘッドランプの曇りの発生し難さ(防曇性)や曇りの解消し易さ(晴れ性)が影響される。特に、車両走行状態では、走行風により発生する負圧によりブリーザからヘッドランプ内部の空気が排出されるので、車両停止時よりも晴れ性が向上する可能性がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された評価方法では、ヘッドランプ単体で晴れ性を評価しており、車両走行による影響を考慮しておらず、ブリーザによる影響を正確に反映させた評価が困難である。このような評価方法で評価されたヘッドランプは、晴れ性を確保するために、例えばあらかじめ曇りが発生し難くなるようにレンズに防曇コートを施す必要があり、部品コストの上昇を招いていた。
【0006】
本願発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、ブリーザによる影響を反映させて車両用ランプの晴れ性を正確に確認可能な車両用ランプの曇り評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するべく、請求項1の車両用ランプの曇り評価方法は、車両に搭載された車両用ランプを加熱する加熱工程と、加熱工程後に車両用ランプを冷却する冷却工程と、冷却工程後に車両走行状態環境下で晴れ性を確認する晴れ性確認工程と、により構成される。
また、請求項2の車両用ランプの曇り評価方法は、請求項1において、晴れ性確認工程時に車両用ランプを非点灯状態とすることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3の車両用ランプの曇り評価方法は、請求項1または2において、加熱工程と冷却工程との間に車両走行状態環境下で点灯する点灯走行工程を実行することを特徴とする。
また、請求項4の車両用ランプの曇り評価方法は、請求項1〜3のいずれか1項において、車両走行状態環境は、車両前方から車両用ランプに向けて送風機により送風を行なうことで実現することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の車両用ランプの曇り評価方法によれば、加熱工程後に冷却工程を実行することで、車両用ランプの曇り難さである防曇性を確認することができる。また、冷却工程後に晴れ性確認工程を行なうことで、車両用ランプの曇りの解消し易さである晴れ性を確認することができる。
特に、晴れ性確認工程において、車両走行状態環境下で晴れ性を確認するので、走行風による影響を反映した晴れ性を確認することができる。これにより、使用状況に即して評価される状況に近い状態で晴れ性を確認することが可能となり、特にブリーザの効果を正確に反映した評価を行なうことができる。
【0010】
請求項2の車両用ランプの曇り評価方法によれば、晴れ性確認工程において車両用ランプを非点灯とするので、昼間時での晴れ性を確認することができる。ランプ非点灯時では、点灯時より温度上昇が抑えられ、曇りが解消し難いので、晴れ性を厳しく評価することができる。
請求項3の車両用ランプの曇り評価方法によれば、加熱工程と冷却工程との間に走行状態で点灯する走行点灯工程を設けるので、車両用ランプ内の温度が上昇して走行停止後に曇りが発生しやすくなる。またランプ点灯時における晴れ性を確認することが可能となり、非点灯時の晴れ性と比較することができる。
【0011】
請求項4の車両用ランプの曇り評価方法によれば、送風機により車両用ランプに向けて送風を行なって走行状態環境とするので、室内や限られたスペースで、車両走行状態と同じ環境下にすることができ、車両用ランプの晴れ性を容易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る車両用ランプの曇り評価方法による評価対象としての車両のヘッドランプの一例の構造を示す断面図である。
【図2】本実施形態における車両用ランプの曇り評価方法による評価時の状態を示す説明図である。
【図3】本実施形態における車両用ランプの曇り評価方法における手順を示すステップ図である。
【図4】各評価方法での防曇性及び晴れ性の評価結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るランプ曇り評価方法による評価対象としての車両用ランプの構造の一例を示す断面図である。なお、図中矢印は、走行風の経路を示すものである。
本実施形態の評価対象となるヘッドランプ1(車両用ランプ)は、レンズ2、ケーシングユニット3、バルブ4、反射鏡5を含んで構成されている。
【0014】
ヘッドランプ1の内部にはケーシングユニット3とレンズ2とにより囲まれた空間6が形成されており、この空間6にバルブ4及び反射鏡5が収納されている。ヘッドランプ1は、レンズ2が車両前方側に位置するように車両10のボディ11に固定されており、バルブ4から発した光が直接あるいは反射鏡5により反射して車両前方側に配置されたレンズ2を通過し、車両前方を照射する構造となっている。
【0015】
ヘッドランプ1は、ボディ11内に収納されており、レンズ2のみ車両前方側で露出している。ケーシングユニット3の後壁には、内部の空間6と外部(ボディ11内の空間であるエンジンルーム12)とを連通する連通口であるブリーザ7が設けられている。ヘッドランプ1の内部の空間6は、ブリーザ7のみで外部と連通した閉塞された空間となっている。
【0016】
ヘッドランプ1の上下左右の壁面とボディ11との間には隙間13が設けられ、車両走行時にこの隙間13を通過して走行風が車両後方側のエンジンルーム12に導入される。そして、車両走行時に走行風がヘッドランプ1のケーシングユニット3の外壁に沿って後方に通過する際に、ケーシングユニット3の後方に負圧が発生して、ヘッドランプ1内の空間6からブリーザ7を通して空気が排出される。
【0017】
このように、ヘッドランプ1内の空間は、ブリーザ7を除き閉塞された空間であるので、外気温が急激に低下した際に、空間6内で結露し、レンズ2の内面に付着して曇りが発生する。特に、降雨時のように湿度の高い環境で曇り易くなる。
そして、バルブ4を点灯することでヘッドランプ1内の温度が上昇した場合には曇りが解消される。また、ブリーザ7を介してヘッドランプ1内の空間6と外部とで空気が流通し、温度差が解消された場合でも曇りが解消される。
【0018】
本実施形態の曇り評価方法は、ヘッドランプ1の曇り難さである防曇性と、曇ったヘッドランプ1の解消し易さである晴れ性とを評価する評価方法である。
図2は、本実施形態における曇り評価方法の実行時の設備を示す説明図である。
図2に示すように、本実施形態では、評価対象であるヘッドランプ1を車両10に取り付けた状態で評価を行なう。車両10の前方に送風機20を設置し、車両走行時における走行風と同等の風が車両10の前方から吹き付け可能となっている。更に、送風機20の前には、送風機20から排出した風が車両10に直接当たらないように、防風板21が移動可能に設置されている。
【0019】
図3は、本実施形態における車両用ランプの曇り評価方法における手順を示すステップ図である。(A)は本実施形態、(B)は従来例を示す。
図3(A)に示すように、本実施形態では、ソーク工程31、加熱工程32、点灯走行工程33、冷却工程34、非点灯走行工程35(晴れ性確認工程)の順番に曇り評価方法が行なわれる。
【0020】
ソーク工程31では、ヘッドランプ1を非点灯とし、車両10のエンジンを停止させた状態で、送風機20から車速数km相当の送風を行ない、所定時間(数時間程度)維持する。本工程では、防風板21を送風機20の前から取り外す。これにより、本工程では、ヘッドランプ1内の空間6の湿度と外部とを一致させる調湿が行なわれる。車速数km相当の風を当てるのは、ヘッドランプ1内の湿度を外部と一致させることを促進させるためである。
【0021】
加熱工程32では、ヘッドランプ1点灯、エンジン運転(アイドル運転)で所定時間(数十分程度)維持する。なお、本工程においても設備環境維持のため送風機から車速数km相当の送風を行なうが、防風板21を送風機20の前に設置することで、ヘッドランプ1への送風は規制される。これにより、本工程では、ヘッドランプ1内の温度を上昇させ、後述する冷却工程における防曇性の確認のための準備が促進される。また、本工程では、ヘッドランプ1の曇り面積を確認することで、点灯熱曇りに対する防曇性を確認することができる。なお、点灯熱曇りは、ヘッドランプ1点灯初期において点灯時の熱によりヘッドランプ1内の水分が蒸発して発生するものである。
【0022】
点灯走行工程33では、ヘッドランプ1点灯、エンジン運転(アイドル運転)の状態で、送風機20から通常走行時相当の送風を行ない、所定時間(数十分程度)維持する。そして、所定時間経過後にヘッドランプ1の曇り面積を確認することで、走行風によってレンズ2が冷却されることによる曇りの発生とヘッドランプ1点灯による曇りの解消とを合わせた結果を確認することができる。
【0023】
冷却工程34では、ヘッドランプ1非点灯、エンジン停止の状態で、ヘッドランプ1のレンズ2に散水する。散水する時間は数分とする。また、防風板21を送風機20の前に設置することで、ヘッドランプ1への送風は規制する。このように、レンズ2に水が掛けられて冷却され、レンズ2に曇が発生するが、その曇り面積を確認することで、水掛け曇りに対する防曇性を確認することができる。
【0024】
非点灯走行工程35では、ヘッドランプ1非点灯、エンジン運転(アイドル運転)の状態で、送風機20から通常走行時相当の送風を行ない、所定時間(数十分程度)維持する。そして、所定時間経過後にヘッドランプ1の曇り面積を確認することで、走行風による曇りの解消度合を示す晴れ性を確認することができる。
以上のように、ヘッドランプ1の評価を行なうことで、本実施形態では、冷却工程34においてヘッドランプ1の曇り難さを示す防曇性が確認されるとともに、その後の非点灯走行工程35において曇りの解消度合いを示す晴れ性が確認される。
【0025】
なお、従来技術としては、例えば図3(B)に示すように、上記ソーク工程31及び加熱工程32の後に、点灯走行工程33を行なわず、冷却工程34を行なう。そして、冷却工程34の次に晴れ性確認工程として点灯工程36を行なう。
点灯工程36では、ヘッドランプ1点灯、エンジン運転(アイドル運転)の状態で、所定時間(数十分程度)経過後の曇り面積を確認する。なお、本工程では、送風機20からヘッドランプ1への送風を規制する。したがって、本工程では、ヘッドランプ1点灯に伴う温度上昇による晴れ性を確認することができる。
【0026】
図4は、防曇性及び晴れ性の評価結果の一例を示すグラフである。
図4では、ブリーザ7にチューブを使用したものと、ブリーザ7をキャップで閉塞したものの2つをサンプルとして、上記2つの評価方法で防曇性及び晴れ性を夫々評価し、その評価結果を示している。図中(A)は本実施形態であり、図中(B)は図2の(B)に示す従来の評価方法である。
【0027】
図4に示すように、従来の評価方法(B)では2つのサンプルの間で防曇性及び晴れ性の差が少なく、これに対し本実施形態の評価方法(A)では防曇性及び晴れ性のいずれも差が大きく認められる。よって、従来技術より本実施形態の評価方法が防曇性及び晴れ性をより正確に確認することが可能となる。特に、晴れ性について、従来の評価方法では2つのサンプル間で差が少ないのに対して、本実施形態では大幅に大きな差を確認することができる。
【0028】
このように、本実施形態の評価方法では、車両10のヘッドランプ1の防曇性及び晴れ性、特に晴れ性を正確に確認することが可能となる。
また、車両10のドライバにとって、ヘッドランプ1に水掛曇りが発生しても、例えば雨天走行時に曇りが発生しても気づかないかもしくは発生そのものに違和感を抱くことは少ないと考えられるが、曇りの発生後に長時間経過しても特に長時間走行しても曇が解消されない方が違和感を覚える。これに対し、本実施形態では、上記のように走行時の晴れ性を正確に確認することが可能となるので、実際のドライバの判断状況に即した評価方法となる。
【0029】
また、本実施形態では、晴れ性を確認する非点灯走行工程35において、非点灯状態とするので、外観上問題となり易い昼間時での晴れ性を正確に確認することができる。
また、加熱工程32と冷却工程34との間に点灯走行工程33を設けたので、上記のように夜間走行時の晴れ性も確認することができる。更に非点灯走行工程35での曇り面積と比較することで、ヘッドランプ1の点灯時のブリーザ7の通気性と非点灯時のブリーザの通気性を比較することが可能となる。
【0030】
以上のように本実施形態によってヘッドランプ1を評価することで、防曇性及び晴れ性を正確に評価することができるので、ヘッドランプ1、特にブリーザ7を適切に設定することが可能となる。よって、曇りの発生防止のために必要以上に防曇性を向上させる必要がなく、例えばレンズ2への防曇コートを廃止してヘッドランプ1のコストを低下させることが可能となる。
【0031】
また、本実施形態では、冷却工程34において、水掛け後直ぐにレンズ2の曇り面積を計測するのではなく、所定時間(数分)経過後に曇り面積を計測する。このように、所定時間経過後に曇り面積を計測することで、曇りの発生が落ち着いたところで曇り面積を計測することになり、計測時のバラツキを抑制してより正確に防曇性を確認することが可能となる。
【0032】
なお、本実施形態において、図2(A)中2点鎖線で示すように、非点灯走行工程35の後に加熱工程37を追加してもよい。
この追加された加熱工程37では、加熱工程32のようにヘッドランプ1点灯、エンジン回転運転(アイドル運転)で所定時間(数十分程度)維持する。これにより、本工程では、ヘッドランプ1の曇り面積を確認することで、点灯熱曇りに対する防曇性を確認することができる。本工程では、非点灯走行工程35において晴れ性を確認した後で曇り面積を確認するので、点灯熱曇りに対する防曇性をより正確に確認することができる。
【0033】
なお、以上の実施形態における各種設定時間、送風機20からの風量、冷却工程34で冷却用に用いる水量等の条件は、評価対象のヘッドランプ1やその搭載車両、あるいは気温等の計測環境に応じて適宜設定してもよい。
また、本実施形態では、車両のヘッドランプを評価対象としているが、サイドランプ等の他の車両用ランプについても評価可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 ヘッドランプ
10 車両
20 送風機
32 加熱工程
33 点灯走行工程
34 冷却工程
35 非点灯走行工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された車両用ランプを加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後に前記車両用ランプを冷却する冷却工程と、
前記冷却工程後に車両走行状態環境下で晴れ性を確認する晴れ性確認工程と、により構成された車両用ランプの曇り評価方法。
【請求項2】
前記晴れ性確認工程において前記車両用ランプを非点灯状態とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用ランプの曇り評価方法。
【請求項3】
前記加熱工程と前記冷却工程との間に前記車両走行状態環境下で点灯する点灯走行工程を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ランプの曇り評価方法。
【請求項4】
前記車両走行状態環境は、車両前方から送風機により前記車両用ランプに向けて送風を行なうことで実現されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用ランプの曇り評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−107981(P2012−107981A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256832(P2010−256832)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】