説明

車両用動力伝達装置

【課題】第1ベアリングが第2ベアリングに対して径方向に重ねて配設される場合であっても、潤滑不足に起因して第1ベアリングの耐久性が低下するのを抑制することができる車両用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】パーキングロックギヤ84の第1ベアリング76側の一面においてそれに対向する部分には、第2ベアリング82を潤滑するためにそれを通過して第2ベアリング82とパーキングロックギヤ84との間隙内に至り遠心力により外周側へ向かう潤滑油を第1ベアリング76へ導くための円環状の内周側案内突部146が設けられていることから、第1ベアリング76にはそれが高速で回転する場合であっても第2ベアリング82の潤滑に用いられた潤滑油が十分に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置に備えられた動力伝達部材を回転可能に支持するベアリングの耐久性を高めるための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速機や差動歯車装置などを有して構成され、エンジンや電動機などの駆動源から出力される駆動力を車軸に伝達するための車両用動力伝達装置が知られている。例えば、特許文献1に記載されたものがそれである。上記変速機や差動歯車装置には、例えば、車体などに固定される非回転のケースにベアリングなどを介して軸心まわりに回転可能にそれぞれ支持されるギヤや回転軸などの複数の動力伝達部材が備えられている。そして、変速機や差動歯車装置は、それら複数の動力伝達部材を順次介して駆動力を伝達するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−39179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のような車両用動力伝達装置においては、車両搭載性を高めること等を目的としてその全長を短縮するために、前記複数の動力伝達部材のうち同心に設けられた一対の動力伝達部材の軸端部を互いに径方向に重ねて配設し、それらを回転可能に支持する一対のベアリングを互いに径方向に重ねて配設することが考えられる。言い換えれば、車両用動力伝達装置には、非回転の支持壁の内周側において第1ベアリングを介して回転可能に支持された円筒状の軸端部を有する第1動力伝達部材と、その円筒状の軸端部により前記第1ベアリングと径方向において重なる第2ベアリングを介して内側に支持されて前記第1動力伝達部材に対して同心且つ相対回転可能な第2動力伝達部材とが備えられることが考えられる。
【0005】
ここで、上記第2ベアリングには、その内周側から潤滑油を供給することで十分な量の潤滑油が供給されるが、その第2ベアリングを通過した潤滑油は遠心力により外周側へ飛ばされるために、第2ベアリングの外周側に重ねて配設された上記第1ベアリングには、その内周側からは十分な量の潤滑油が供給され難い。これに対して、第1ベアリングには、その外周側から潤滑油を供給することが考えられるが、特に高速で第1ベアリングが回転する場合には外周側から潤滑油を供給してもはじかれてしまうために十分な量の潤滑油が供給され難い。そのため、第1ベアリングの耐久性が低下する可能性があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、第1ベアリングが第2ベアリングに対して径方向に重ねて配設される場合であっても、潤滑不足に起因して第1ベアリングの耐久性が低下するのを抑制することができる車両用動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) 非回転の支持壁の内周側に第1ベアリングを介して回転可能に支持された円筒状の軸端部を有する第1動力伝達部材と、その円筒状の軸端部により前記第1ベアリングと径方向において重なる第2ベアリングを介して内側に支持されて前記第1動力伝達部材に対して同心且つ相対回転可能な第2動力伝達部材とを備える車両用動力伝達装置であって、(b) 前記第2動力伝達部材は、その軸心方向において前記第2ベアリングに所定間隔を隔てて外周側に突設された円板状のギヤ部を備え、(c) そのギヤ部の前記第1ベアリングに対向する部分には、前記第2ベアリングを潤滑するためにそれを通過して前記第2ベアリングと前記ギヤ部との間隙内に至り遠心力により外周側へ向かう潤滑油を前記第1ベアリングへ導くための円環状の内周側案内突部が設けられていることにある。
【0008】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記第2動力伝達部材の内周側案内突部は、前記第1ベアリングの外輪が嵌め着けられる前記支持壁の内周端部よりも内周側において、前記ギヤ部の前記第1ベアリングに対向する部分から前記内周端部の前記ギヤ部側の一端面よりも前記第1ベアリング側へ突き出していることにある。
【0009】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項2にかかる発明において、前記支持壁の内周端部の前記ギヤ部側の一端部には、内周側へ突き出して前記第1ベアリングへ潤滑油を導くための外周側案内突部が形成されていることにある。
【0010】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれか1にかかる発明において、(a) 前記軸心上に配設された電動機の出力回転を減速する減速機、およびその減速機の出力回転を左右一対の車軸へ分配する差動歯車装置を備え、(b) 前記第1動力伝達部材は、前記減速機を構成する複数の回転要素のいずれか1であり、(c) 前記第2動力伝達部材は、前記電動機の出力軸に相対回転不能に設けられた前記減速機の入力軸であることにある。
【0011】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1にかかる発明において、前記ギヤ部は、パーキングロックギヤであることにある。
【0012】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至5のいずれか1にかかる発明において、前記第2動力伝達部材は、前記軸心方向において前記ギヤ部の両側で前記第2ベアリングと第3ベアリングとを介して回転可能に支持されていることにある。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記第2動力伝達部材に突設された円板状のギヤ部の前記第1ベアリングに対向する部分には、その第1ベアリングの内周側に配設された第2ベアリングを潤滑するためにそれを通過して第2ベアリングとギヤ部との間隙内に至り遠心力により外周側へ向かう潤滑油を前記第1ベアリングへ導くための円環状の内周側案内突部が設けられていることから、第1ベアリングにはそれが高速で回転する場合であっても第2ベアリングの潤滑に用いられた潤滑油が上記内周側案内突部によって十分に導かれるので、第1ベアリングが第2ベアリングに対して径方向に重ねて配設される場合であっても、潤滑不足に起因して第1ベアリングの耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0014】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記第2動力伝達部材の内周側案内突部は、前記第1ベアリングの外輪が嵌め着けられる前記支持壁の内周端部よりも内周側において、前記ギヤ部の前記第1ベアリングに対向する部分から前記内周端部の前記ギヤ部側の一端面よりも前記第1ベアリング側へ突き出していることから、第2ベアリングを通過して遠心力により外周側へ向かう潤滑油が、支持壁の内周端部とギヤ部との間隙から外周側へ排出されることなく前記内周側案内突部によって第1ベアリング側へ導かれるので、第2ベアリングへ供給される量と略同じ量の潤滑油を第1ベアリングへ供給することができる。
【0015】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記支持壁の内周端部の前記ギヤ部側の一端部には、内周側へ突き出して前記第1ベアリングへ潤滑油を導くための外周側案内突部が形成されていることから、第2ベアリングを通過して遠心力により外周側へ向かう潤滑油は、支持壁の内周端部とギヤ部との間隙側への移動が外周側案内突部により堰き止められるので、上記潤滑油が第1ベアリングへ供給されずに支持壁の内周端部とギヤ部との間隙内に至り外周側へ排出されるのを抑制することができる。そのため、第2ベアリングへ供給される量と略同じ量の潤滑油を第1ベアリングへ供給することができる。
【0016】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記軸心上に配設された電動機の出力回転を減速する減速機、および減速機の出力回転を左右一対の車軸へ分配する差動歯車装置を備え、前記第1動力伝達部材は、前記減速機を構成する複数の回転要素のいずれか1であり、前記第2動力伝達部材は、前記電動機の出力軸に相対回転不能に設けられた前記減速機の入力軸であることから、比較的に高速回転させられる電動機の後段に連結された減速機を構成する第1動力伝達装置と非回転の支持壁との間に設けられる第1ベアリングに対してその内周側から潤滑油が十分に供給されるので、比較的に相対回転差が大きい2つの部材間に設けられる第1ベアリングが第2ベアリングに対して径方向に重ねて配設される場合であっても、潤滑不足に起因して第1ベアリングの耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0017】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記ギヤ部は、パーキングロックギヤであることから、第1ベアリングへ潤滑油を供給するための特別な油路を新たに設ける必要はなく、既存の部材であるパーキングロックギヤに前記内周側案内突部を設けるだけで第1ベアリングへ潤滑油を十分に供給できるので、コストを削減することができる。
【0018】
また、請求項6にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記第2動力伝達部材は、前記軸心方向において前記ギヤ部の両側で前記第2ベアリングと第3ベアリングとを介して回転可能に支持されていることから、第2動力伝達部材の支持剛性を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例の車両用駆動装置を備える車両の駆動系の構成を概念的に示す図である。
【図2】図1に示す車両の後方から見た駆動系の構成を概念的に示す図である。
【図3】図1の車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図4】図1の車両用駆動装置の構成を具体的に示す縦断面図である。
【図5】図4の車両用駆動装置の一部を拡大して示す断面図である。
【図6】図5のVI矢視部を拡大して示す断面図である。
【図7】スナップリングの外周側に延設されていない第1円筒状端部を有する従来のデフケースを示す図であって、本実施例における図6に対応する図である。
【図8】図5のVIII矢視部を拡大して示す図である。
【図9】図5に示すオイルポンプをそれを含む周辺部材と共に拡大して示す断面図である。
【図10】ポンプボデー、ポンプカバー、ドライブギヤ、ドリブンギヤ、およびポンプ軸が有底円筒状ケースに固定される前に予め相互に組み付けられたものすなわちオイルポンプサブアッシーを、図9のX矢視方向に相当する方向から示す図である。
【図11】図10のXI-XI矢視部断面を示す断面図である。
【図12】図11のオイルポンプサブアッシーが有底円筒状ケースに組み付けられる様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明の一実施例の車両用駆動装置10を備える車両12の駆動系の構成を概念的に示す図である。また、図2は、車両12の後方から見た駆動系の構成を概念的に示す図である。図1および図2において、車両12は、その前側および後側にそれぞれ設けられた左右一対の前輪14および後輪16と、車両12の前側において図2に示すように車体18にマウント部材20を介して固定され、左右一対のドライブシャフト(車軸)22を介して一対の前輪14を回転駆動する車両用駆動装置10とを備えている。
【0022】
上記車両用駆動装置10は、車両12の駆動源として機能して車両12に横置きされる電動機24を含む駆動部26と、その駆動部26の出力回転を減速しつつ左右一対のドライブシャフト22へ分配する動力伝達装置として機能するトランスアクスル部28とを備えている。上記電動機24は、例えば、車体18の上に配設されるインバータ30から供給される駆動電流によって作動させられる。車両12は、その前側に配設された電動機24によって駆動輪としての前輪14が回転駆動されるFF(フロントモーター・フロントドライブ)式の電気自動車である。
【0023】
図3は、図1の車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。また、図4は、車両用駆動装置10の構成を具体的に示す縦断面図である。図3および図4において、車両用駆動装置10は、3分割式のトランスアクスルケース32内に収容され且つ共通の軸心C1上に配設された電動機24、減速機34、および差動歯車装置36を備えている。前記駆動部26は主に電動機24を備えて構成され、前記トランスアクスル部28は主に減速機34および差動歯車装置36を備えて構成される。
【0024】
上記トランスアクスルケース32は、主として電動機24を収容する円筒状ケース38と、主として減速機34および差動歯車装置36を収容し、開口面40が円筒状ケース38の一方の開口面42と組み合わされて例えば図示しないボルトにより相互に締着された有底円筒状ケース44と、円筒状ケース38の他方の開口面46と組み合わされて例えば図示しないボルトにより相互に締着された円板状のケースカバー48とから成る。上記円筒状ケース38の有底円筒状ケース44側の端部には、その内周面から内周側に向けて一体に突設された円環板状の隔壁50が形成されている。また、円筒状ケース38の下側面に形成された開口部には、その開口を塞ぐようにオイルパン52が固定されている。このオイルパン52は、トランスアクスルケース32内を循環する潤滑油が円筒状ケース38の下部に環流する際にその潤滑油を受けるための油受けとして機能する。また、有底円筒状ケース44の開口面40には、円環板状の支持壁54が例えばボルト56等により固定されている。上記円筒状ケース38、有底円筒状ケース44、ケースカバー48、および支持壁54は、例えば、アルミニウム合金のダイカスト製である。
【0025】
電動機24は、円筒状ケース38に例えば図示しないボルトなどにより一体に固定されたステータ58と、そのステータ58の内周側に配設されたロータ60と、図1に示される前記車両12の右側に配設された一方のドライブシャフト22の外周側に設けられてロータ60が固定され、両端部が円筒状ケース38の隔壁50に嵌め着けられたモーターサイドベアリング62および例えばケースカバー48に設けられたベアリング63によってそれぞれ回転可能に支持された円筒状の出力軸64とを備えている。出力軸64は、前記インバータ30からステータ58に供給される駆動電流に応じて回転駆動される。このように構成される電動機24は、その後段に連結される減速機34の入力軸66に連結されてそれを回転駆動する。
【0026】
図5は、図4の車両用駆動装置10の一部を拡大して示す断面図である。図3および図5に示すように、減速機34は、前記一方のドライブシャフト22の外周側に設けられて電動機24の出力軸64に例えばスプライン嵌合により相対回転不能に連結された円筒状の入力軸(第2動力伝達部材)66と、その入力軸66の電動機24とは反対側すなわち差動歯車装置36側の軸端部68に例えばスプライン嵌合により相対回転不能に嵌合されたサンギヤS1と、小径部70および大径部72を有してその大径部72がサンギヤS1に噛み合わされたステップドピニオンP1と、そのステップドピニオンP1をピニオンシャフト74を介して自転可能に且つサンギヤS1まわりに公転可能に支持するキャリヤ(第1動力伝達部材)CA1と、サンギヤS1と同心且つ有底円筒状ケース44に相対回転不能に固定されてステップドピニオンP1の小径部70に噛み合わされたリングギヤR1とを備える遊星歯車式の減速機である。なお、キャリヤCA1は、減速機を構成する複数の回転要素のいずれか1に相当するものである。
【0027】
上記キャリヤCA1は、非回転の支持壁54の内周側に第1ベアリング76を介して軸心C1まわりに回転可能に支持された円筒状の軸端部78を有している。また、キャリヤCA1は、減速機34の後段に配設される差動歯車装置36のデフケース80に連結されており、減速機34の出力部材として機能する。このように構成される減速機34は、電動機24から入力軸66に入力された回転を減速して差動歯車装置36に出力する。
【0028】
上記入力軸66は、軸端部78により第1ベアリング76と径方向において重なる第2ベアリング82を介して内側に支持されてキャリヤCA1に対して同心且つ相対回転可能に設けられている。また、入力軸66は、軸心C1方向において第2ベアリング82に所定間隔を隔てて外周側に突設された円板状のパーキングロックギヤ(ギヤ部)84を備えている。また、入力軸66は、パーキングロックギヤ84の電動機24側が隔壁50に第3ベアリング86を介して回転可能に支持されており、軸心C1方向においてパーキングロックギヤ84の両側で第2ベアリング82と第3ベアリング86とを介して回転可能に支持されている。
【0029】
図6は、図5のVI矢視部を拡大して示す断面図である。図6に示すように、サンギヤS1は、それの差動歯車装置36側において入力軸66の軸端部68の外周面に形成された円環状のスナップリング溝88に嵌め着けられた円環状のスナップリング90により差動歯車装置36側への相対移動が阻止されている。本実施例のサンギヤS1は、はすば歯車から成り、例えば、車両12が後進するように電動機24から駆動力が出力されるとき又は電動機24が回生制御されるとき等において、差動歯車装置36側へ相対移動させられるようなスラスト力が作用するようになっているが、そのような場合であってもスナップリング90により差動歯車装置36側への相対移動が阻止される。
【0030】
図5に示すように、前記差動歯車装置36は、2分割式のデフケース80と、そのデフケース80内の軸心C1上において相対向する一対のサイドギヤ92と、それらサイドギヤ92間において周方向の等間隔に配設されて一対のサイドギヤ92にそれぞれ噛み合う3つのピニオン94とを備えて構成され、軸心C1方向において入力軸66の電動機24とは反対側に隣接して設けられている。
【0031】
上記デフケース80は、軸心C1方向の電動機24側に配設された円筒状の第1デフケース96と、その第1デフケース96の電動機24とは反対側に配設され、第1デフケース96と組み合わされて例えば図示しないボルトにより相互に締着された円筒状の第2デフケース98から成り、軸心C1まわりに回転可能に設けられている。
【0032】
上記第1デフケース96は、図6に示すように、入力軸66の軸端部68およびそれに嵌め着けられたスナップリング90の外周側に延設された第1円筒状端部(円筒状端部)100を備えている。この第1円筒状端部100は、それとスナップリング90との間に形成される円環状の隙間の径方向距離t1が所定値すなわちスナップリング溝88の溝深さt2よりも小さくなるように形成されている。ここで、スナップリング90には、入力軸66が回転させられることにより外周側へ向かう遠心力が作用し、また、例えば電動機24からの後進駆動力の出力時または電動機24の回生制御時などにサンギヤS1がスラスト力によって差動歯車装置36側へ付勢されることにより、差動歯車装置36側へのスラスト力が作用する。このため、スナップリング90は、外周側および差動歯車装置36側へ変形させられる可能性があるが、スナップリング溝88から完全に抜け出す前に第1円筒状端部100の内周面に当接するので、その抜け出しが防止されている。
【0033】
因みに、図7は、スナップリング90の外周側に延設されていない第1円筒状端部101を有する従来のデフケース102を示す図である。図7に示すように、デフケース102では、第1円筒状端部101とスナップリング90との間に形成される円環状の隙間の径方向距離t3がスナップリング溝88の溝深さt2よりも大きく設定されている。そのため、スナップリング90が外周側および差動歯車装置36側へ変形させられるとスナップリング溝88から抜けてしまう可能性があった。
【0034】
図6に戻って、軸心C1方向において、入力軸66の軸端部68の外周面と第1円筒状端部100の内周面との間に形成される円環状の隙間には、その隙間を油密に封止するオイルシール103が設けられている。本実施例のオイルシール103は、上記隙間の径方向の間隔が狭い(小さい)ために比較的簡易的な構造を有して構成され、第1円筒状端部100の内周面に嵌め着けられる例えば金属製の円環状の芯金104と、その芯金104の内周側に固着された例えば合成樹脂製の封止部材(リップ)106とを備えて構成されている。なお、前記径方向距離t1は、入力軸66と第1デフケース96とが径方向に相対移動させられてもスナップリング90が第1円筒状端部100に当接することにより、オイルシール103の径方向の予め定められた許容変形範囲を超えないように設定されている。上記許容変形範囲は、入力軸66と第1デフケース96との径方向の相対移動に追従してオイルシール103が変形させられても、オイルシール103から潤滑油が漏れないオイルシール103の径方向の変形範囲であり、予め実験的に求められる。そのため、入力軸66と第1デフケース96とが径方向に相対移動させられる場合には、オイルシール103の変形が許容変形範囲内であるときにスナップリング90が第1円筒状端部100に当接するようになっている。
【0035】
上述の軸端部68の外周面と第1円筒状端部100の内周面との間に形成される円環状の隙間は、後述の吐出油路126を構成して潤滑油が供給されるデフケース内部空間A1に連通されているが、第1円筒状端部100には、上記円環状の隙間の容積を小さくしてその隙間内に保持される潤滑油量を少なくする隙間減少部108が設けられている。そのため、上記円環状の隙間に潤滑油が保持された状態で第1デフケース96が回転したときに、オイルシール103が上記保持された潤滑油から受ける上記隙間とは反対側への付勢力が、隙間減少部108のない場合と比較して小さい。
【0036】
図3および図5に戻って、第1デフケース96は、前記キャリヤCA1と一体に設けられており、このキャリヤCA1および第1ベアリング76を介して軸心C1まわりに回転可能に支持されている。第1デフケース96には、キャリヤCA1を通じて減速機34の出力回転が入力される。第1デフケース96は、差動歯車装置36の入力部材でもある。また、第1デフケース96には、後述のオイルポンプ120のピニオン156を回転駆動するための外周歯110が円周方向に連続的に形成されている。
【0037】
上記第2デフケース98は、有底円筒状ケース44の円環板状の底壁112の内周側にデフサイドベアリング114を介して軸心C1まわりに回転可能に支持されている。また、第2デフケース98は、第1デフケース96とは反対側に突き出して後述の潤滑油供給装置118の一部を構成する円環状溝136および第2吐出油路138が設けられた第2円筒状端部116を備えている。
【0038】
前記一対のサイドギヤ92のうち電動機24側のサイドギヤ92には、その内周側に前記一方のドライブシャフト22の軸端部が例えばスプライン嵌合により相対回転不能に連結されている。また、前記一対のサイドギヤ92のうち電動機24とは反対側のサイドギヤ92には、その内周側に他方のドライブシャフト22の軸端部が例えばスプライン嵌合により相対回転不能に連結されている。上記一方のドライブシャフト22は、例えば入力軸66の内周面により軸心C1まわりの回転可能に支持されており、また、上記他方のドライブシャフト22は、第2デフケース98の第2円筒状端部116の内周面により軸心C1まわりの回転可能に支持されている。
【0039】
このように構成される差動歯車装置36は、減速機34により回転駆動されることで軸心C1上に配設された一対のドライブシャフト22にそれらの回転差を許容しつつ駆動力を伝達する。
【0040】
図3に示すように、車両用駆動装置10は、上述のように構成される電動機24、減速機34、および差動歯車装置36の例えばギヤの噛合部位や相対回転する2つの部材間などの各潤滑部位に対して潤滑油を供給するための潤滑油供給装置118を備えている。この潤滑油供給装置118は、有底円筒状ケース44の前記底壁112の内側の底面に固定された内接歯車型のオイルポンプ120と、オイルパン52に貯留された潤滑油をストレーナ122を介してオイルポンプ120まで導くための吸入油路124と、その吸入油路124を介してオイルポンプ120に吸入されて加圧された潤滑油を上記各潤滑部位へ導くために途中で複数に分岐する吐出油路126とを備えて構成される。
【0041】
図5に示すように、上記吸入油路124は、円筒状ケース38の下側面の開口部およびオイルパン52により形成される潤滑油貯溜空間A2にストレーナ122を通じて連通されると共に、円筒状ケース38の一方の開口面42に開口する第1吸入油路128と、その第1吸入油路128に対向して有底円筒状ケース44の開口面40に開口して第1吸入油路128に連通されると共に、有底円筒状ケース44の底壁112の内側に形成された嵌合凹部130の底面に開口してオイルポンプ120のポンプ室132に連通された第2吸入油路134とから構成される。この吸入油路124は、図5中に破線の矢印Bで示すように潤滑油貯溜空間A2からストレーナ122、第1吸入油路128、および第2吸入油路134を介してオイルポンプ120へ潤滑油を供給する。
【0042】
前記吐出油路126は、嵌合凹部130の底面に開口してオイルポンプ120のポンプ室132に連通されると共に第2デフケース98の第2円筒状端部116の外周面に形成された円環状溝136に連通された図示しない第1吐出油路と、上記円環状溝136と、円環状溝136とデフケース内部空間A1とを連通させるために第2円筒状端部116に形成された第2吐出油路138と、デフケース内部空間A1と、入力軸66と前記一方のドライブシャフト22との間に形成されて上記デフケース内部空間A1に連通された円筒状空間A3とを、備えて構成されている。
【0043】
図8は、図5のVIII矢視部を拡大して示す図である。図8に示すように、吐出油路126は、入力軸66に例えば周方向の等間隔に径方向に貫通して複数設けられ、円筒状隙間A3に連通されると共にサンギヤS1の内周面と入力軸66の外周面との間に形成される第1円環状空間A4に連通された複数(図8には1つしか図示されていない)の油孔140と、上記第1円環状空間A4と、その第1円環状空間A4に連通されると共に第2ベアリング82の内輪に当接されたサンギヤS1の端面に例えば周方向の等間隔に径方向に貫通して形成され、第2ベアリング82へ潤滑油を供給可能な複数(図8には1つしか図示されていない)の油溝142と、前記軸心C1方向において第1ベアリング76、軸端部78、および第2ベアリング82とパーキングロックギヤ84との間に形成され、第2ベアリング82から潤滑油を排出可能且つ第1ベアリング76へ潤滑油を供給可能な第2円環状空間A5とを、さらに備えて構成されている。
【0044】
吐出油路126は、図5中に破線の矢印Dで示すように、オイルポンプ120のポンプ室132から前記第1吐出油路、円環状溝136、第2吐出油路138、およびデフケース内部空間A1を介して円筒状空間A3へ潤滑油を供給する。また、図5中に破線の矢印Dで示すと共に図8中に破線の矢印D1で示すように、円筒状空間A3から油孔140、第1円環状空間A4、および油溝142を介して第2ベアリング82へ潤滑油を供給する。また、図5中に破線の矢印Dで示すと共に図8中に破線の矢印D2乃至D3で示すように、第2ベアリング82から第2円環状空間A5を介して第1ベアリング76へ潤滑油を供給する。また、第1ベアリング76へ供給された潤滑油は、図5中に破線の矢印Dで示すと共に図8中に破線の矢印D4で示すように外周側へ排出される。
【0045】
図8に示すように、パーキングロックギヤ84の第1ベアリング76側の一面においてそれに対向する部分には、第1ベアリング76の外輪が嵌め着けられる前記支持壁54の内周端部144よりも内周側において、パーキングロックギヤ84の第1ベアリング76側の一面においてそれに対向する部分から内周端部144のパーキングロックギヤ84側の端面よりも第1ベアリング76側へ一体に突き出す円環状の内周側案内突部146が設けられている。内周側案内突部146は、内径が第1ベアリング76側へ向かうほど連続的に大きくなる第1テーパ状内周面148を備えている。この内周側案内突部146は、図中に破線の矢印D2で示すように、第2ベアリング82を潤滑するためにそれを通過して第2円環状空間A5内に至り遠心力により外周側へ向かう潤滑油を、第1テーパ状内周面148に沿って第1ベアリング76側へ導くためのものである。
【0046】
そして、内周端部144のパーキングロックギヤ84側の端部には、内周側案内突部146の第1ベアリング76側の端面よりもパーキングロックギヤ84側へ一体に突き出しつつ内周側へ一体に突き出す円環状の外周側案内突部150が設けられている。この外周側案内突部150および前記内周側案内突部146は、遠心力により外周側へ向かう潤滑油の進行方向すなわち径方向に互いに重なるように外周側および内周側に配設されている。また、外周側案内突部150は、内径が第1ベアリング76側へ向かうほど連続的に大きくなる第2テーパ状内周面152を備えている。この外周側案内突部150は、図中に破線の矢印D3で示すように、内周側案内突部146により第1ベアリング76側へ導かれた後に遠心力により外周側へ向かう潤滑油を第2テーパ状内周面152に沿って第1ベアリング76側へ導くためのものである。また、外周側案内突部150は、内周側案内突部146により第1ベアリング76側へ導かれた後に遠心力により外周側へ向かう潤滑油がパーキングロックギヤ84と内周端部144との間に向かうのを堰き止めるためのものとしても機能する。
【0047】
例えばエンジンなどに比較して高速回転させられる電動機24の後段に連結された減速機34を構成するキャリヤCA1を回転可能に支持する第1ベアリングには、上記内周側案内突部146および外周側案内突部150により内周側から潤滑油が十分に導かれる。
【0048】
図5に戻って、吐出油路126には、上記の他にも、例えば、電動機24へ潤滑油を供給するための油路や減速機34の各回転要素のギヤの噛合部位へ潤滑油を供給するための油路などが設けられている。
【0049】
図9は、図5に示すオイルポンプ120をそれを含む周辺部材と共に拡大して示す断面図である。図9に示すように、オイルポンプ120は、有底円筒状ケース44の嵌合凹部130の底面に対向して凹設されることにより、その底面に開口する第2吸入油路(吸入油路)134および前記第1吐出油路に接続されるポンプ室132を有する短円筒状のポンプボデー154と、ポンプボデー154を貫通して設けられつつそのポンプボデー154により回転可能に支持され、第1デフケース96に設けられた外周歯110に噛み合うピニオン156が一端部に相対回転不能に嵌合されたポンプ軸158と、ポンプ軸158と同心に設けられつつそのポンプ軸158の他端部に相対回転不能に嵌合され、そのポンプ軸158が外周歯110およびピニオン156を介して第1デフケース96により回転駆動されることによりポンプ軸158と共に軸心C1に平行な軸心C2まわりに回転駆動する外歯車型のドライブギヤ(ロータ)160と、そのドライブギヤ160に噛み合わされつつ軸心C2から偏心した軸心C3まわりに回転可能にポンプ室132内に嵌め入れられた内歯車型のドリブンギヤ(ロータ)162と、環状凹部130内においてポンプボデー154と有底円筒状ケース44の底壁112との間に配設され、ドライブギヤ160およびドリブンギヤ162がポンプ室132から抜出不能にポンプボデー154に固定されたポンプカバー164とを、備えている。上記ポンプボデー154およびポンプカバー164は、例えばアルミニウム合金のダイカスト製であり、ドライブギヤ160およびドリブンギヤ162は、例えば焼結(粉末冶金)により型成形される。ポンプカバー164は、ポンプボデー154のポンプ室132と嵌合凹部130の底面に開口する第2吸入油路134および前記第1吐出油路とをそれぞれ連通させる連通孔165を有しているが、上述のようにダイカスト製であるため、上記ポンプ室132と第2吸入油路134および前記第1吐出油路とを精度良く接続する。
【0050】
図10は、ポンプボデー154、ポンプカバー164、ドライブギヤ160、ドリブンギヤ162、およびポンプ軸158が有底円筒状ケース44に固定される前に予め相互に組み付けられたものすなわちオイルポンプサブアッシー166を、図9のX矢視方向に相当する方向から示す図である。なお、図5に示すオイルポンプ120は図10のV-V矢視部断面が示されており、図9に示すオイルポンプ120は図10のIX-IX矢視部断面が示されている。また、図11は、図10のXI-XI矢視部断面を示す断面図である。図10または図11に示すように、ポンプボデー154およびポンプカバー164は、ポンプカバー164のポンプボデー154との第1組合面168に設けられた一対のピン圧入穴170に一端部がそれぞれ圧入され、ポンプボデー154のポンプカバー164との第2組合面172に上記一対のピン圧入穴170にそれぞれ対向して設けられた一対の位置決めピン穴174に他端部が隙間嵌めの状態でそれぞれ遊び嵌めされた一対の位置決めピン176により、軸心C2に直交する方向のある程度の相対的な位置決めが為されている。すなわち、位置決めピン176は、ポンプボデー154およびポンプカバー164を位置決めピン176と位置決めピン穴174との隙間の分だけ相対移動可能な状態で位置決めする。そして、ポンプカバー164には、嵌合凹部130の底面に対向して座ぐり付穴178が形成されており、ポンプボデー154およびポンプカバー164は、座ぐり付穴178の座ぐり深さよりも軸心方向の長さが短い頭部を有して座ぐり付穴178に上記頭部が隠れるように挿入されると共にポンプボデー154に形成された雌ねじ180に螺合された六角穴付ボルト(頭部付ボルト)182によって、相互に締着されている。この六角穴付ボルト182は、たとえ緩んでも有底円筒状ケース44の底壁112に当たることで脱落しないようになっている。
【0051】
図9に戻って、ポンプボデー154は、有底円筒状ケース44の底面に形成された円筒状内周面184を有する嵌合凹部130に嵌め入れられることにより、有底円筒状ケース44との軸心C2に直交する方向の相対的な位置決めが為されている。これにより、ポンプボデー154により回転可能に支持されたポンプ軸158と、有底円筒状ケース44によりデフサイドベアリング114を介して回転可能に支持されたデフケース80とが、相互に軸心C1に直交する方向に位置決めされている。
【0052】
なお、ポンプカバー164の外周面186は、ポンプカバー164がポンプボデー154に対して位置決めピン176と位置決めピン穴174との隙間に応じて相対移動する量に拘わらず、ポンプボデー154の円筒状外周面188よりも内周側に位置するように設定されている。これにより、ポンプカバー164の外周面186と嵌合凹部130の円筒状内周面184との間には、所定の環状の隙間が形成される。そのため、ポンプボデー154は、どの周方向位置においても円筒状外周面188が嵌合凹部130の円筒状内周面184と係合可能にその嵌合凹部130に嵌め入れられている。
【0053】
図12は、オイルポンプサブアッシー166が有底円筒状ケース44に組み付けられる様子を示す図である。図12に示すように、オイルポンプサブアッシー166は、組付性を考慮して開口が上向きになるように配置された有底円筒状ケース44の嵌合凹部130に対して図中矢印Eで示すように嵌め入れられる。このとき、ドリブンギヤ162およびドライブギヤ160は、ポンプカバー164がボルト182によってポンプボデー154に締結されているので、そのポンプカバー164によりポンプ室132からの脱落が防止されるようになっている。そして、オイルポンプサブアッシー166は、六角穴付ボルト190がポンプボデー154およびポンプカバー164を厚み方向に貫通して周方向に複数設けられた複数の貫通穴192にそれぞれ挿入されて、それら貫通穴192に対向して嵌合凹部130の底面にそれぞれ形成された複数の雌ねじ194にそれぞれ螺合されることによって、有底円筒状ケース44に固定される。オイルポンプ120は、ポンプボデー154、ドライブギヤ160、ドリブンギヤ162、ポンプ軸158、およびポンプカバー164が予め相互に組み付けられたオイルポンプサブアッシー166の状態で有底円筒状ケース44に取り付けられる。
【0054】
そして、ポンプ軸158にピニオン156が嵌め入れられて、差動歯車装置36および減速機34が所定の順序により有底円筒状ケース44に組み付けられる。図5に示すように、オイルポンプ120およびリングギヤR1を含む部材が組み付けられた状態においては、ピニオン156は、その軸心C2方向において隣接して配設されたリングギヤR1によりポンプ軸158からの抜け止めが為される。リングギヤR1は、トランスアクスルケース内に配設された減速機を構成する部材である。
【0055】
上述のように、本実施例の動力伝達装置としてのトランスアクスル部28によれば、パーキングロックギヤ(ギヤ部)84の第1ベアリング76に対向する部分には、第2ベアリング82を潤滑するためにそれを通過して第2ベアリング82とパーキングロックギヤ84との間隙内に至り遠心力により外周側へ向かう潤滑油を第1ベアリング76へ導くための円環状の内周側案内突部146が設けられていることから、第1ベアリング76にはそれが高速で回転する場合であっても第2ベアリング82の潤滑に用いられた潤滑油が内周側案内突部146によって十分に導かれるので、第1ベアリング76が第2ベアリング82に対して径方向に重ねて配設される場合であっても、潤滑不足に起因して第1ベアリングの耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0056】
また、本実施例のトランスアクスル部28によれば、内周側案内突部146は、第1ベアリング76の外輪が嵌め着けられる支持壁54の内周端部144よりも内周側において、パーキングロックギヤ84の第1ベアリング76側の一面においてそれに対向する部分から内周端部144のパーキングロックギヤ84側の端面よりも第1ベアリング76側へ一体に突き出していることから、第2ベアリング82を通過して遠心力により外周側へ向かう潤滑油が、支持壁54の内周端部144とパーキングロックギヤ84との間隙から外周側へ排出されることなく内周側案内突部146によって第1ベアリング76側へ導かれるので、第2ベアリング82へ供給される量と略同じ量の潤滑油を第1ベアリング76へ供給することができる。
【0057】
また、本実施例のトランスアクスル部28によれば、支持壁54の内周端部144のパーキングロックギヤ84側の一端部には、内周側案内突部146の第1ベアリング76側の端面よりもパーキングロックギヤ84側へ一体に突き出しつつ内周側へ一体に突き出す円環状の外周側案内突部150が形成されていることから、第2ベアリング82を通過して遠心力により外周側へ向かう潤滑油は、支持壁54の内周端部144とパーキングロックギヤ84との間隙側への移動が外周側案内突部150により堰き止められるので、上記潤滑油が第1ベアリング76へ供給されずに支持壁54の内周端部144とパーキングロックギヤ84との間隙内に至り外周側へ排出されるのを抑制することができる。そのため、第2ベアリング82へ供給される量と略同じ量の潤滑油を第1ベアリング76へ供給することができる。
【0058】
また、本実施例のトランスアクスル部28によれば、第1ベアリング76は、電動機24の出力回転を減速するための減速機34の回転要素の1つであるキャリヤCA1と非回転の支持壁54との間に設けられることから、比較的に相対回転差が大きいキャリヤCA1と支持壁54との間に設けられる第1ベアリング76に対してその内周側から潤滑油が十分に供給されるので、第1ベアリング76が第2ベアリング82に対して径方向に重ねて配設される場合であっても、潤滑不足に起因して第1ベアリング76の耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0059】
また、本実施例のトランスアクスル部28によれば、内周側案内突部146は、パーキングロックギヤ84の第1ベアリング76側の一面においてそれに対向する部分に一体に設けられたものであることから、第1ベアリング76へ潤滑油を供給するための特別な油路を新たに設ける必要がなく、既存の部材(パーキングロックギヤ84)の形状を変更するだけで第1ベアリング76の潤滑性が高められるので、コストを削減することができる。
【0060】
また、本実施例のトランスアクスル部28によれば、入力軸66は、軸心C1方向においてパーキングロックギヤ84の両側で第2ベアリング82と第3ベアリング86とを介して回転可能に支持されていることから、入力軸66の支持剛性を十分に確保することができる。
【0061】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0062】
たとえば、前述の実施例において、第1ベアリング76は、支持壁54と減速機34のキャリヤCA1の軸端部78との間に設けられてそれらを回転可能に支持するものであり、また、第2ベアリング82は、キャリヤCA1の軸端部78と入力軸66との間に設けられてそれらを回転可能に支持するものであったが、それに限らず、その他の2つの部材間に設けられてそれらを支持するものであってもよい。要するに、第1ベアリング76と第2ベアリング82とが径方向に重ねて設けられていれば、本発明が適用され得る。
【0063】
また、前述の実施例において、内周側案内突部146は、パーキングロックギヤ84に一体に設けられていたが、例えば、別体で形成されてパーキングロックギヤ84に固設されてもよいし、第1ベアリング76に対して所定間隔を隔てて設けられるパーキングロックギヤ84とは別の部材に設けられてもよい。
【0064】
また、前述の実施例において、内周側案内突部146の内周面は、テーパ状に形成されていたが、例えば、円筒状や曲面状であってもよい。
【0065】
また、前述の実施例において、支持壁54の内周端部144に設けられた外周側案内突部150は、必ずしも設けられる必要はない。
【0066】
また、前述の実施例において、車両用駆動装置10は、電動機24、減速機34、および差動歯車装置36を備えて構成されていたが、それらを必ずしも備えていなくてもよい。例えば、電動機24に代えてエンジンの出力が減速機34へ入力されるように構成されてもよい。また、減速機34が備えられず、電動機24の出力が差動歯車装置36へ直接的に出力されるように構成されてもよい。また、差動歯車装置36が備えられなくてもよい。
【0067】
また、前述の実施例の車両12は、FF式のものであったが、例えばFR(フロントモーター・リヤドライブ)式やその他の駆動形式を採用する車両であってもよい。
【0068】
また、前述の実施例において、オイルポンプ120のポンプカバー164は、必ずしも備えられなくてもよい。
【0069】
また、前述の実施例において、第1デフケース96の第1円筒状端部100は、必ずしもスナップリング90の外周側に延設されていなくてもよい。
【0070】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
10:車両用駆動装置
22:ドライブシャフト(車軸)
24:電動機
28:トランスアクスル部(動力伝達装置)
34:減速機
36:差動歯車装置
54:支持壁
64:出力軸
66:入力軸(第2動力伝達部材)
76:第1ベアリング
78:円筒状の軸端部
82:第2ベアリング
84:パーキングロックギヤ
86:第3ベアリング
144:内周端部
146:内周側案内突部
150:外周側案内突部
C1:軸心
CA1:キャリヤ(第1動力伝達部材、複数の回転要素のいずれか1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非回転の支持壁の内周側に第1ベアリングを介して回転可能に支持された円筒状の軸端部を有する第1動力伝達部材と、該円筒状の軸端部により前記第1ベアリングと径方向において重なる第2ベアリングを介して内側に支持されて該第1動力伝達部材に対して同心且つ相対回転可能な第2動力伝達部材とを備える車両用動力伝達装置であって、
前記第2動力伝達部材は、その軸心方向において前記第2ベアリングに所定間隔を隔てて外周側に突設された円板状のギヤ部を備え、
該ギヤ部の前記第1ベアリングに対向する部分には、前記第2ベアリングを潤滑するためにそれを通過して該第2ベアリングと該ギヤ部との間隙内に至り遠心力により外周側へ向かう潤滑油を前記第1ベアリングへ導くための円環状の内周側案内突部が設けられていることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2動力伝達部材の内周側案内突部は、前記第1ベアリングの外輪が嵌め着けられる前記支持壁の内周端部よりも内周側において、前記ギヤ部の前記第1ベアリングに対向する部分から前記内周端部の前記ギヤ部側の一端面よりも前記第1ベアリング側へ突き出していることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記支持壁の内周端部の前記ギヤ部側の一端部には、内周側へ突き出して前記第1ベアリングへ潤滑油を導くための外周側案内突部が形成されていることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記軸心上に配設された電動機の出力回転を減速する減速機、および該減速機の出力回転を左右一対の車軸へ分配する差動歯車装置を備え、
前記第1動力伝達部材は、前記減速機を構成する複数の回転要素のいずれか1であり、
前記第2動力伝達部材は、前記電動機の出力軸に相対回転不能に設けられた前記減速機の入力軸であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用動力伝達装置。
【請求項5】
前記ギヤ部は、パーキングロックギヤであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の車両用動力伝達装置。
【請求項6】
前記第2動力伝達部材は、前記軸心方向において前記ギヤ部の両側で前記第2ベアリングと第3ベアリングとを介して回転可能に支持されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1の車両用動力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−174582(P2011−174582A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40535(P2010−40535)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】