説明

車両用回転電機の冷却装置

【課題】車両用回転電機の冷却装置において、簡易な構造で、車両が傾斜した道路を走行する場合であっても、その状況に応じて冷却性能を確保する。
【解決手段】冷却装置28は、回転電機10の上部に設けられ、冷媒が流れる2重配管構造の冷媒配管30を備える。内側配管32は、この配管内を流れる冷媒を外側配管34内へ向けて吐き出す内側吐出孔36を有するとともに、回転電機10との相対位置が一定になるように配置される。外側配管34は、内側吐出孔36から吐き出される冷媒を回転電機10に向けて吐き出す外側吐出孔40を、回転軸方向20に沿って口径が異なるように複数有するとともに、配管長さ方向における内側配管32との相対位置が、車両の傾きに応じて可動するように設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用回転電機の冷却装置に関し、特に回転電機を冷媒により冷却する冷却構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、回転自在なロータと、ロータの周囲に配置されるステータとを有する。ステータは、コイルを有し、このコイルに電流が流れることにより回転磁界が発生する。この回転磁界とロータとの間に働く電磁的作用により、ロータが回転する。
【0003】
一般的に、回転電機は、この回転電機の駆動により発熱する。回転電機が発熱して温度が上昇すると、回転電機の運転効率が低下してしまう。そこで、冷媒により回転電機を冷却する例がある。
【0004】
下記特許文献1には、回転電機の上部に、その回転軸方向に沿って配置された冷却油パイプと、冷却油パイプに冷却油を供給するオイルポンプとを有する回転電機の冷却装置が記載されている。冷却油パイプは、回転電機のコイルエンドの上部に位置するように形成された吐出孔を有し、この吐出孔から吐き出される冷却油がコイルエンドに供給されて、回転電機が冷却される。
【0005】
下記特許文献2には、回転電機の上部に配置された冷媒通路を有する回転電機の冷却構造が記載されている。冷媒通路は、ステータコイルの上部に位置するように形成された吐出孔を有し、この吐出孔から吐き出される冷媒がステータコイルに供給されて、回転電機が冷却される。そして、冷媒通路は、吐出孔より上流側に通路の断面を絞る絞り部を有する。この絞り部は、冷媒通路を流れる冷媒の速度を増大させるので、絞り部を通過する異物に慣性力が生じる。この慣性力により、異物が吐出孔を通過して下流側へと流れ、吐出孔から吐き出されることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−115650号公報
【特許文献2】特開2011−91956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の回転電機の冷却装置においては、回転電機の上部に、冷媒が流れる冷媒配管が設けられ、この冷媒配管の孔から吐き出される冷媒が回転電機の発熱領域、例えばコイルエンドに供給されて、回転電機が冷却される。しかし、このよう構成では、回転電機を搭載する車両が傾斜した道路を走行する場合、冷媒配管の孔から吐き出される冷媒の流量が変化してしまい冷却性能が安定しないという問題がある。さらに、登坂路の走行時においては、回転電機の負荷が増大して発熱も増加することから、平地走行時に冷媒配管の孔から吐き出される冷媒の量では、回転電機を十分に冷却することができないという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、簡易な構造で、車両が傾斜した道路を走行する場合であっても、その状況に応じて冷却性能を確保することができる車両用回転電機の冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、回転自在なロータと、ロータの周囲に配置されるステータと、を備える回転電機を冷媒によって冷却する車両用回転電機の冷却装置において、回転電機の上部に設けられ、冷媒が流れる冷媒配管を備え、冷媒配管は、内側配管と外側配管とからなる2重配管構造を有し、内側配管は、この配管内を流れる冷媒を外側配管内へ向けて吐き出す内側吐出孔を有するとともに、回転電機との相対位置が固定されるように設けられ、外側配管は、内側吐出孔から吐き出される冷媒を回転電機に向けて吐き出す外側吐出孔を、回転軸方向に沿って口径が異なるように複数有するとともに、配管長さ方向における内側配管との相対位置が、車両の傾きに応じて可動するように設けられることを特徴とする。
【0010】
また、車両前方を上方にした車両の傾きが大きくなるにつれて、口径がより大きい外側吐出孔から回転電機に向けて冷媒を吐き出すように、外側配管が内側配管に対して移動することができる。
【0011】
また、内側配管は、内側吐出孔より上流側に、その配管の冷媒流路面積を絞る絞り部を有することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用回転電機の冷却装置によれば、簡易な構造で、車両が傾斜した道路を走行する場合であっても、その状況に応じて冷却性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る車両用回転電機の冷却装置の構成を示す断面図である。
【図2】登坂走行により車両が傾斜した場合における図1の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る車両用回転電機の冷却装置の実施形態について、図を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両用回転電機の冷却装置の構成を示す断面図であり、車両の傾きがない状態を示す図である。図2は、登坂走行により車両が傾斜した場合における図1の要部を示す図である。なお、これらの図の左側が車両の前方であり、右側が車両の後方である。また、これらの図の上下方向Aは垂直方向であり、上側が車両の上方である。
【0015】
車両用回転電機(以降、単に「回転電機」と記す)10は、車両の原動機である。回転電機10は、ロータシャフト12に固定されるロータ14と、ロータ14を囲うように配置されるステータ16とを有する。回転電機10は、ケース18に収容される。
【0016】
ロータ14は、ロータシャフト12と同心の円筒状の磁性体であり、例えば積層鋼板を回転軸方向20に積層して構成される。積層鋼板には回転軸方向に延びる孔が形成され、この孔に永久磁石22が配置される。なお、永久磁石22は、積層鋼板の内部ではなく、積層鋼板の外周に配置することもできる。
【0017】
ロータシャフト12は、ケース18に設けられる軸受24により回転自在に支持される。ロータシャフト12は、回転電機10の出力を車両の駆動輪(図示せず)に伝達する出力シャフトである。また、ロータシャフト12の動力が、後述する冷媒を循環させるポンプ(図示せず)に伝達されてもよい。
【0018】
ステータ16は、ロータ14の周囲に空隙を空けて配置される。ステータ16には、このステータ16の内周側に突出し、周方向に所定の間隔を空けて配置される磁極(図示せず)を有する。この磁極の間の空間であるスロット(図示せず)には、導線を磁極に巻きつけて形成されるコイル26が配置される。図1には、ステータ16の両端において、スロット間を橋渡しするコイル26、すなわちコイルエンドが示される。このコイル26の通電により、ステータ16に回転磁界が発生し、この回転磁界に吸引される力が、永久磁石22を有するロータ14に発生して、ロータ14が回転する。
【0019】
一般的に、回転電機は、この回転電機の駆動により発熱する。回転電機が永久磁石型回転電機である場合、スタータのコイル及びロータに設けられる永久磁石などが発熱する。これらが発熱して温度が上昇すると、回転電機の運転効率が低下してしまう。この運転効率の低下を防ぐために、本実施形態の車両においては、冷媒、例えば潤滑油(ATF)により回転電機10を冷却する冷却装置28が設けられる。以下に、その冷却装置28について説明する。
【0020】
ケース18には、冷媒を循環させるポンプ(図示せず)が収容される。このポンプは、ロータシャフト12の回転と同期して廻る構成となっている。なお、本発明はこの構成に限定されず、ポンプが専用モータにより駆動する電動ポンプであってもよい。
【0021】
冷却装置28は、冷媒が流れる冷媒配管30を有する。冷媒配管30は、ケース18に収容され、回転電機10の上部に配置される。冷媒配管30は、内側配管32と外側配管34とからなる2重配管構造を有する。本実施形態においては、冷媒配管30は、回転軸方向20に沿って延びるように配置される。
【0022】
内側配管32は、外側配管34内に挿入され、回転電機10との相対位置が固定されるように配置される。内側配管32の一端(図示せず)はポンプに接続され、他端32aは閉塞されている。なお、本発明は、この構成に限定されず、他端32aが開放されていてもよい。
【0023】
また、内側配管32は、この配管内を流れる冷媒を外側配管34内へ向けて吐き出す内側吐出孔36を有する。本実施形態の内側吐出孔36は、図1に示されるように、垂直方向Aにおいてコイルエンド26の上方に位置するように形成される。なお、本発明はこの構成に限定されず、内側吐出孔36が、回転電機10の他の発熱領域の上方に位置するように形成されてもよい。
【0024】
また、内側配管32は、内側吐出孔36より上流側に、その配管の冷媒流路面積を絞る絞り部38を有する。この絞り部38は、内側配管32を流れる冷媒の速度を増大させるので、絞り部38を通過する冷媒に含まれる異物に慣性力が生じる。この慣性力により、異物が、絞り部38より下流側に形成されている内側吐出孔36から吐き出されずに通過して、さらに内側配管32の下流側へと流れる。つまり、絞り部38を設けることにより、異物が、内側吐出孔36から吐き出されることが防止される。このような異物の流出防止構造により、異物が回転電機10へ供給され、回転電機10を損傷してしまうことを防止することができる。
【0025】
外側配管34は、内側吐出孔36から吐き出される冷媒を回転電機10に向けて吐き出す外側吐出孔40を、回転軸方向20に沿って口径が異なるように複数有する。本実施形態においては、図1に示されるように、車両前方から後方に向けて徐々に口径が大きくなるように3つの外側吐出孔40a,40b,40cが順に並んでいる。これらの外側吐出孔40は、図1に示されるように、垂直方向Aにおいて回転電機10の上方に位置するように形成される。なお、本発明は外側吐出孔40の数3個に限定されず、2個または4個以上の異なる口径の孔が順に並んでいてもよい。また、本発明は外側吐出孔40の配置、すなわち、車両前方から後方に向けて徐々に口径が大きくなる配置に限定されず、複数の外側吐出孔40が、車両前方から後方に向けて徐々に口径が小さくなるように配置されてもよい。
【0026】
また、本実施形態の外側配管34は、配管長さ方向における内側配管32との相対位置が、車両の傾きに応じて可動するように設けられる。外側配管34を可動させる可動部は、周知の技術、例えばアクチュエータとすることができ、アクチュエータが、車両の傾きを検出するセンサに基づいて外側配管34を動かす。このように外側配管34が動くことにより、内側吐出孔36から吐き出された冷媒が通る外側吐出孔40を変えることができる。つまり、外側配管34の動作により、外側吐出孔40のいずれか一つを内側吐出孔36の下方に位置させることで、それを冷媒が通る外側吐出孔40に設定することができる。このように冷媒が通る外側吐出孔40を変更可能にすることにより、そこから吐き出される冷媒の流量も調整することができる。その結果、車両の傾斜に基づいて、冷媒流量を最適に調整し、回転電機10を効果的に冷却することができる。
【0027】
具体的には、車両前方を上方にした車両の傾きが大きくなるにつれて、口径がより大きい外側吐出孔40から回転電機10に向けて冷媒を吐き出すように、外側配管34が内側配管32に対して移動する。図2は、登坂走行により車両が傾斜した場合において、移動した外側配管34の状態を示す図である。このように、登坂走行時、車両の傾きに基づいて外側配管34が車両後方側に移動することで、冷媒が、より口径が大きい外側吐出孔40cから回転電機10に向けて吐き出される。このような動作により、登坂路の走行時において、回転電機10の負荷が増大して発熱も増加した場合、回転電機10に供給される冷媒の流量は、その冷媒が通る外側吐出孔40の開口面積の増大により多くなるので、回転電機10を十分に冷却することができるようになる。
【0028】
また、このとき、外側吐出孔40cと、内側吐出孔36とが垂直方向Aに並ぶように、外側配管34を移動させることが好適である。これにより、内側吐出孔36から吐き出される冷媒は、外側配管34内に留まり下流側に流れることなく、効率よく回転電機10へ向けて供給されるので、回転電機10の冷却性能を確保することができる。
【0029】
一方、上記の車両の傾きが小さくなるにつれて、口径がより小さい外側吐出孔40から回転電機10に向けて冷媒を吐き出すように、外側配管34が内側配管32に対して移動する。例えば、車両が登坂走行から平地走行になる場合、そのような車両の傾きに基づいて外側配管34が車両前方側に移動することで、冷媒が、より口径が小さい外側吐出孔40aから回転電機10に向けて吐き出される。このような動作により、平地走行時においては、回転電機10に供給される冷媒の流量は、その冷媒が通る外側吐出孔40の開口面積の縮小により少なくすることができ、余剰分は、外側配管40の下流側へ流れ、再びポンプへと戻される。
【0030】
本実施形態の冷却装置28によれば、車両が傾斜した道路を走行する場合、回転電機10に供給される冷媒の流量が増大するので、発熱量が増大する回転電機10に対する冷却性能の安定化を図ることができる。
【0031】
本実施形態においては、回転電機10が永久磁石型モータである場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されず、回転電機10が、他の種類、例えば誘導巻線型またはリラクタンス型であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
10 車両用回転電機、12 ロータシャフト、14 ロータ、16 ステータ、18 ケース、20 回転軸方向、22 永久磁石、24 軸受、26 コイル(コイルエンド)、28 冷却装置、30 冷媒配管、32 内側配管、34 外側配管、36 内側吐出孔、38 絞り部、40 外側吐出孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在なロータと、
ロータの周囲に配置されるステータと、
を備える回転電機を冷媒によって冷却する車両用回転電機の冷却装置において、
回転電機の上部に設けられ、冷媒が流れる冷媒配管を備え、
冷媒配管は、内側配管と外側配管とからなる2重配管構造を有し、
内側配管は、この配管内を流れる冷媒を外側配管内へ向けて吐き出す内側吐出孔を有するとともに、回転電機との相対位置が固定されるように設けられ、
外側配管は、内側吐出孔から吐き出される冷媒を回転電機に向けて吐き出す外側吐出孔を、回転軸方向に沿って口径が異なるように複数有するとともに、配管長さ方向における内側配管との相対位置が、車両の傾きに応じて可動するように設けられる、
ことを特徴とする車両用回転電機の冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用回転電機の冷却装置において、
車両前方を上方にした車両の傾きが大きくなるにつれて、口径がより大きい外側吐出孔から回転電機に向けて冷媒を吐き出すように、外側配管が内側配管に対して移動する、
ことを特徴とする車両用回転電機の冷却装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用回転電機の冷却装置において、
内側配管は、内側吐出孔より上流側に、その配管の冷媒流路面積を絞る絞り部を有する、
ことを特徴とする車両用回転電機の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−90454(P2013−90454A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228972(P2011−228972)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】