説明

車両用手摺り

【課題】独立して操作可能で、格納時に乗降口を塞ぐことなく使用時には外方へ余裕をもって延出できる車両用手摺りを提供する。
【解決手段】手摺り取り付けバー10などを介して手摺りアセンブリ20、20Aが車体側に固定される。手摺りアセンブリは、展開補助ユニット50の回転軸にパイプホルダを介して手摺りパイプ21を取り付けて構成され、手摺りパイプが室内で上下方向の縦姿勢である格納位置と、手摺りパイプ21の下部が乗降口5から室外へ延びる展開位置との間で回転可能とされ、格納位置と展開位置とでそれぞれ位置保持される。位置保持は回転軸に形成した位置設定穴にプランジャを嵌合させて行い、操作紐84を引いてプランジャを嵌合から外すことにより解除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や身障者などの乗降を容易にするための車両用手摺りに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高齢者や身障者などの車両乗降を容易にすることを目的にして、車両に設置され使用時に展開するようにした手摺りが提案されている。
このような車両用手摺りとして、例えば、特開2006−298282号公報には、折畳み多段ステップ装置と連携させた折畳み手摺装置が開示されている。
折畳み多段ステップ装置は、車両に固定した支持板上に回転可能に支持した一段目ステップを含んで四辺形リンクを形成し、これにそれぞれ四辺形リンクで順次に二段目ステップと三段目ステップを連結して構成され、折畳み手摺装置は、支持板から直立する支柱と三段目ステップにかかるリンクアームとを含んで形成した四辺形リンクに手摺パイプを固定して構成されている。これにより、多段ステップ装置が車室内から外方へ展開するのと連動して、手摺パイプが多段ステップの延びと略平行に外方へ延びる。
【0003】
さらに他の車両用手摺りとして、特開2007−90912号公報には、リング状のグリップ本体を水平面内で回転可能に支持する円筒状のベースを、車両の乗降口に縦方向に設けられたアシストグリップに取り付け、複数の回転位置でグリップ本体をロック手段で固定可能とした回転手摺りが開示されている。
【特許文献1】特開2006−298282号公報
【特許文献2】特開2007−90912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開2006−298282号公報に開示された手摺りは、多段ステップ装置と連動して展開されるものであり、独立して操作できるものではないので、多段ステップ装置を展開しなければ乗降に便な向きに延びず、有効に活用できない。
また逆に、手摺りは不要な場合であっても、手摺りを同時に展開しなければ多段ステップの使用もできないという不都合がある。
【0005】
また、特開2007−90912号公報に開示された手摺りはステップと関連なしに展開できるが、水平面内、すなわち地面と平行に回転させるものであるため、グリップ本体を支持するベースの取り付け位置が車室内に引っ込んでいると、乗降口から外方へ延び出る長さが十分に確保できないこととなる。延び出る長さを無理に大きく設定しようとすれば回転半径を大きくすることであるから、格納時に乗降口を塞いでしまうことになる。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑み、多段ステップなど他の装置との連携なしに独立して操作可能で、格納時に乗降口を塞ぐことなく使用時には外方へ余裕をもって延出できる車両用手摺りを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明は、手摺り棒の上部を車両の室内側に配置された回転軸に連結して、全部が室内に位置する格納位置と、下部が乗降口から室外へ延びる角度の展開位置の間で回転可能とするとともに、回転軸を上記格納位置および展開位置にそれぞれ対応する回転位置に保持する位置保持手段を有するものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、格納位置では手摺り棒が上下方向の縦姿勢となるから、乗降口を塞ぐことなく、また手摺り棒の下部を外方へ回転させるだけで、展開位置として手摺り棒が乗降口から室外へ延びた状態になり、独立して使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、スライドドアを備えた車両に適用した実施の形態を示す外観斜視図である。(a)はスライドドアを開いて示す手摺りの格納状態、(b)は使用状態である。
車体1の側面に開口し、スライドドア12によって開閉される乗降口5には、図示省略のシートが設置されるフロア2から一段下がったステップ部3が形成されている。なお、この乗降口には、床下からステップ部よりも下方に展開可能の折り畳みステップ4が設けられ、図1には当該折り畳みステップが使用状態に展開されている状態が示されている。
【0010】
乗降口5の開口の幅方向はフロントピラー6とリヤピラー7によって区画されており、左右のフロントピラー間には、運転席および助手席側空間とフロア側空間とを分離する隔壁8が所定の高さで設けられている。
隔壁8の上方には、同じく左右のフロントピラー間をつなぐ横バー9が設けられている。
【0011】
フロントピラー6近傍において、隔壁8と横バー9の間には、手摺り取り付けバー10が設けられている。すなわち、手摺り取り付けバー10は、隔壁8のフロア側空間に面した壁面8a近くを上下方向(垂直)に延びる直線部10aを備え、直線部の下端は隔壁8方向へ曲がった脚部10bのブラケット12により壁面8aに固定され、直線部10aより上部は横バー9方向への曲がり部10cとなって、その先端が下から垂直に横バ9ーに結合している。
手摺り取り付けバーの直線部10aに手摺りアセンブリ20が取り付けられる。
詳細は省くが、リヤピラー7にも直接、あるいは手摺り取り付けバー10と同様の取り付けバーを介して手摺りアセンブリ20Aが取り付けられる。これにより、手摺りアセンブリ20、20Aが乗降口5の各側縁近傍に配置されることになる。
【0012】
手摺りアセンブリ20、20Aはそれぞれ回転可能の手摺りパイプ21を含み、格納時は図1の(a)に示すように、手摺りパイプ21が垂直状態に保持され、使用時は(b)に示すように、手摺りパイプ21が上部を軸に回転して下部が乗降口5から車体外部へ延出する。
図1から明らかなように、フロントピラー6側の手摺り取り付けバー10に取り付けられる手摺りアセンブリ20と、リヤピラー7側に取り付けられる手摺りアセンブリ20Aは、互いに左右対称である。
【0013】
以下、手摺りアセンブリの詳細を、フロントピラー6側の手摺り取り付けバー10に取り付けられる手摺りアセンブリ20を例に説明する。
図2は手摺りアセンブリを示し、(a)はステップ部3に立った乗員から見た正面図、(b)は車外側から見た側面図である。
手摺りアセンブリ20は、手摺りパイプ21と、手摺りパイプ21を保持するパイプホルダ30と、パイプホルダ30を支持するとともに使用状態への展開時に補助力を与える展開補助ユニット50とを有する。
手摺りパイプ21は、とくに図2の(b)に示すように、直線状の本体部22と、その上端を手摺り取り付けバー10側(車体前方、すなわち乗降口の幅方向中央とは反対方向)へ曲げて形成した短管部23とからなり、本体部22の上端に近い部分をパイプホルダ30に支持されている。
【0014】
図3はパイプホルダと手摺りパイプの結合構造を示し、(a)は一部断面正面図、(b)は(a)におけるB−B部断面図、(c)は(a)におけるC−C部断面図、(d)は(a)におけるD−D部断面図である。
パイプホルダ30は手摺りパイプ21を貫通させるパイプ支持部31と、展開補助ユニット50への取り付け部35とからなっている。
パイプ支持部31は、金属製のパイプ基材24の径に整合する径の貫通穴32を有し、貫通穴32の開口端面にはそれぞれ貫通穴32よりも大径の凹部33が形成されている。パイプ支持部31両端の外周角部は滑らかなR(アール)などで面取りされている。
【0015】
貫通穴32に挿入したパイプ基材24は、図3の(b)に示すように、貫通穴側壁の外側からねじ込まれたボルト36によりパイプ支持部31に固定される。パイプ支持部31のボルト座面はボルト36のヘッドがパイプ支持部31外周面から突出しないように凹部25となっている。
パイプ支持部の貫通穴32から露出したパイプ基材24の外周は、両端までゴムまたは樹脂製のクッション層26でカバーされて手摺りパイプ21を形成している。
【0016】
パイプ支持部31の凹部33の径はパイプ基材24をカバーするクッション層26の外形に整合させてあり、クッション層26は凹部33内に延びているので、パイプ支持部31の上下両端においてパイプ基材24は外部から見えない。また、クッション層26とパイプ支持部31間の段差が小さくなるので、クッション層16上を滑らせた手が引っかかることもない。
【0017】
取り付け部35は、パイプ支持部31の長手方向中間部から貫通穴32の軸に対して直角方向に延び、その厚み中心線が貫通穴32の軸を通って、当該軸と平行な平板状を呈している。
そして、取り付け部35は、図3の(a)に示す展開補助ユニット50の軸心Pに整合させた中心点の上下2箇所にボルト穴37を備え、図3の(c)に示すように、ボルト40により後述する回転軸60に結合される。ボルト穴37は、展開補助ユニット50と反対側に大径の凹部38を備え、その底壁がボルト40の座面となる。
取り付け部35はまた、図3の(d)に示すように、左右2箇所に展開補助ユニット50側へ向けた突起39を備えている。
【0018】
手摺りパイプ21の上下両端には、図2に示すように、手摺りパイプのクッション層26の径よりわずかに大きい最大径を有するエンドキャップ27が取り付けられている。
図4に断面を拡大して示すように、エンドキャップ27はその軸部28をパイプ基材24に挿入され、パイプ基材24を貫通して外側から軸部28にねじ込まれたビス29によりパイプ基材24に固定される。ビス29は沈頭タイプでヘッドがパイプ基材24の外周面から突出しないようになっている。ビス29のヘッドはパイプ基材24をカバーするクッション層26によって隠される。
【0019】
図5は展開補助ユニットの構成を示す縦断面図、図6は図5におけるE−E部の拡大断面図である。
展開補助ユニット50は、ケース51に回転軸60を支持し、回転軸に回転力を付与するコイルスプリング43を収納して構成される。
ケース51は基本形が筒状で、その側壁の底部にスプリング収納部56と取り付けボス部85を備えている。スプリング収納部56と取り付けボス部85については後述する。
回転軸60は、ケース51内に収納される軸部61と、これに続いてケースの外部に露出する前端のフランジ部62とを備え、軸部のフランジ部62から遠い後端側に近い部位に小径部63を有し、後端にはボス部64を有している。
なお、展開補助ユニット50については、乗降口5を乗降する乗員に向いた側を前側、反対を後側とする。
【0020】
ケース51の前端には軸部61のフランジ部62側を支持するベアリング52が前側から圧入され、ケースの後端側には軸部61の後端側を支持するベアリング53が後側から圧入される。
フランジ部62の端面には、先の図3の(c)、(d)に示したように、パイプホルダ30における取り付け部35のボルト穴37に整合するねじ穴65と、突起39に整合する受け穴66とが軸線を中心として設けられている。
ケース51の内壁と回転軸の小径部63との間に形成されるスペースにコイルスプリング43が配置されている。コイルスプリング43は一端はケース51の側壁に形成した溝54(図6も参照)に係止され、他端は回転軸の軸部61に形成した溝67に係止されて、トーショナルスプリングとして機能する。
【0021】
図6に示すように、軸部61には、小径部63とフランジ部62間の区間において、それぞれ径方向の位置設定穴70(70a、70b、70b)が周方向3ヶ所に開口して設けられている。位置設定穴70は回転軸60の軸方向においてすべて同一位置にあり、隣接する位置設定穴70a、70b間の角度は、手摺りパイプ21の格納位置と展開位置間の角度と同一に設定されている。
ここで、展開補助ユニット50を手摺り取り付けバー10に取り付けた姿勢において、中央の位置設定穴70aが真下を向くように設定される。そして、手摺りパイプ21の展開位置における角度は、フロア2からステップ部3、折り畳みステップ4、そして地面へ降りる乗員の移動線にそった下向き傾斜となるように設定される。
【0022】
図5に戻って、ケース51の側壁底部には、当該位置設定穴70に嵌合可能にプランジャ80が出没するプランジャ穴55が設けられている。
プランジャ穴55を囲んで、ケース51外壁には筒状のスプリング収納部56が設けられている。プランジャ80はその軸方向中間位置にストッパフランジ81を備え、ストッパフランジ81をプランジャ穴55の開口周縁に着座させた状態で、先端(上端)が位置設定穴70内に進入して嵌合する。ストッパフランジ81とスプリング収納部56の開口部に嵌めこんだクリップ57との間にスプリング58が設けられ、プランジャ80は常時位置設定穴70への進入方向に付勢されている。
スプリング収納部56から下方の突出したプランジャ80の下端には孔82が設けられ、その孔に通したリング83を介して操作紐84が連結されている。
【0023】
つぎに、回転軸60の軸部61の後端には、ボス部64で芯合わせしてスペーサ72と位置規制プレート73とがボルト67で固定されている。
位置規制プレート73の外径はケース51の内壁に接触しない程度にわずかに小さく設定されている。
図7に示すように、位置規制プレート73の周縁には切り欠き74が設けられ、ケース51の側壁底部には外部からストッパピン76がねじ込まれて、その先端部が当該切り欠き74に臨んでいる。ストッパピン76の先端部には、筒状の弾性体リング77が嵌めこまれている。
【0024】
切り欠き74の範囲は、手摺りパイプ21の格納位置と展開位置間の角度に対応しており、格納位置(プランジャ80が回転軸60の中央の位置設定穴70aに嵌合)において切り欠きの周方向における一方の立ち上がり壁74aとストッパピン76との間隙が弾性体リング77の自由状態における厚みよりもわずかに小さく、展開位置(プランジャ80が中央の位置設定穴を挟むいずれかの位置設定穴70bに嵌合)において切り欠きの周方向における他方の立ち上がり壁74bとストッパピン76との間隙が弾性体リング77の自由状態における厚みよりもわずかに小さくなるように設定されている。
【0025】
これにより、格納位置と展開位置のそれぞれにおいて、ストッパピン76に嵌めこまれた弾性体リング77はストッパピン76と切り欠きの立ち上がり壁74aまたは74bとの間に挟まれて圧縮されるため、反力として弾性体リング77を圧縮している立ち上がり壁74aまたは74bがストッパピン76から離間する回転方向に回転軸60を付勢する。したがって、プランジャ80と位置設定穴70あるいはプランジャ穴55の各壁面の間にガタがあっても、互いに押し合う状態となってガタが吸収されることになる。
【0026】
なお、図5に示すように、スペーサ72はその外径がベアリング53のアウタレース53aに届かない値に設定されている。これにより、位置規制プレート73の外径がベアリングのアウタレース53aと同レベルであっても、スペーサ72によって位置規制プレート73がベアリング53から離間しているので、位置規制プレート73とベアリングのアウタレース53aが接触することはない。
ケース51の後端にはエンドプレート59が取り付けられ、位置規制プレート73やストッパピン76の先端等は外部に露出しない。
【0027】
スプリング収納部56の後側(位置規制プレート73が設けられる側)には、取り付けボス部85が設けられている。取り付けボス部85は四角形平面の底面86を有するブロック状で、図8に示すように、底面の4隅にねじ孔87を有している。底面86にはまた、2つのねじ孔87の間に上述のストッパピン76のヘッドが着座する切り欠き凹部88が形成され、ヘッドが底面86から突出しないようになっている。
【0028】
手摺り取り付けバー10には水平な上壁91を備えるブラケット90が車体後方へ向けて延びている。図7にはこのブラケットへの展開補助ユニット50の取付け構造も示してある。
すなわち、ブラケット90の上壁91にはケース51の取り付けボス部85のねじ孔87に対応するボルト穴92が設けられている。
展開補助ユニット50は、取り付けボス部85を上壁91に載せて、ボルト穴92およびねじ孔87を用いてボルト93で結合することによりブラケット90に固定され、該ブラケット90を介して手摺り取り付けバー10に取り付けられる。
【0029】
回転軸60のフランジ部62には、先の図3の(c)、(d)に示したように、パイプホルダ30の取り付け部35が取り付けられる。すなわち、フランジ部62の受け穴66に取り付け部35の突起39を嵌め込んで回転方向の位置決めを行うとともに、取り付け部35のボルト穴37からフランジ部62のねじ穴65にボルト40をねじ込むことにより、パイプホルダ30は展開補助ユニット50に連結される。
これにより、展開補助ユニット50を手摺り取り付けバー10に取り付けた状態において、手摺りパイプ21の本体部22を垂直にした格納位置で、プランジャ80は回転軸60の中央の位置設定穴70aに嵌合する一方、手摺りパイプ21の下端側を乗降口5から外方へ延出させた展開位置では、プランジャ80が隣接する側方の位置設定穴70bに嵌合するものとなる。
【0030】
つぎに、展開補助ユニット50における回転軸60を回転させるコイルスプリング43の設定について説明する。
コイルスプリング43は手摺りパイプ21の展開位置から格納位置への移動による回転軸60の回転により撓みを増し、格納位置ではねじり方向の復元力を蓄えた状態にある。したがって、中央の位置設定穴70aとプランジャ80の嵌合が外れると、回転軸60は復元力に付勢されて回転し、手摺りパイプ21は展開位置へ向けて回転することになる。
【0031】
ここで、展開位置に対応する側方の位置設定穴70bにプランジャ80が嵌合する角度まで回転軸60が回転しても、コイルスプリング43は自由状態まで戻らず、まだ0でない復元力を残しているようにまず設定される。
そしてさらに、プランジャ80が中央の位置設定穴70aと側方の位置設定穴70bの間、すなわち格納位置と展開位置の中間位置に達したとき、コイルスプリング43の復元力と手摺りパイプ21の自重による回転モーメントが釣り合うように設定されている。
なお、ここで格納位置と展開位置の中間位置とは、格納位置から展開位置までの角度変化量の1/2の点に限定されるものではなく、格納位置と展開位置を除くその間の任意の位置を設定することができる。
【0032】
以上のように構成された手摺りは、図9に実線で示すように、まず手摺りパイプ21が垂直の格納位置(A)にあり、スライドドア12を開いたあと、使用しようとする場合には、使用者本人あるいは介護者が展開補助ユニット50から垂れ下がっている操作紐84を下方に引く。これにより、図10の(a)に示すように、回転軸60の中央の位置設定穴70aに嵌合していたプランジャ80が、当該中央の位置設定穴70aから抜ける。
プランジャ80との嵌合が外れた回転軸60はコイルスプリング43の復元力によって回転を開始し、回転軸60にパイプホルダ30を介して連結された手摺りパイプ21はその下端が乗降口5の外方へ向かうように、回転軸60の軸心P(図9参照)を中心にして回転する。
【0033】
そして、手摺りパイプ21が、図9に仮想線で示すように、格納位置と展開位置の中間位置(B)に達すると、上述のようにコイルスプリング43の復元力と手摺りパイプ21の自重による回転モーメントが釣り合う。
ここでは、図10の(b)に示すように、回転軸60は中央の位置設定穴70aと側方の位置設定穴70bの間の軸部外周面がプランジャ80に対向している。
復元力と回転モーメントが釣り合うことにより、手摺りパイプ21の回転速度が0(ゼロ)になるので、手摺りパイプ21が衝撃的に展開位置へ移動して使用者を驚かすことはない。
この中間位置でもまだ復元力による補助が有効なため、軽い力で手摺りパイプ21に手を添えることにより、容易に手摺りパイプ21を展開位置へもっていくことができる。
【0034】
手摺りパイプ21が図9に破線で示す展開位置(C)に達すると、回転軸60の側方の位置設定穴70bがプランジャ穴55に整合するので、図10の(c)に示すように、プランジャ80が当該位置設定穴70bに嵌合する。したがってこの後は手を放しても手摺りパイプ21は展開位置に保持される。
【0035】
展開位置において手摺りパイプ21は車室内から室外へ乗降口をまたがって延びるから、高齢者や脚の不自由な乗員でもこの手摺りパイプ21を移動補助として容易に乗降が可能となる。
なお、この展開位置において、位置規制プレート73の切り欠き74の立ち上がり壁74bがストッパピン76に嵌めこまれた弾性体リング77を圧縮するので、展開位置保持の間、手摺りパイプ21にガタの発生が抑えられる。したがって、使用者は安心して手摺りに頼ることができる。
【0036】
つぎに、手摺りパイプ21を格納する場合は、再度操作紐84を引く。これにより、回転軸60の側方の位置設定穴70bに嵌合していたプランジャ80が当該位置設定穴70bから抜ける。以下、展開する場合と逆の推移となる。
プランジャ80との嵌合が外れると手摺りパイプ21は自重で格納位置方向への回転を開始するが、展開位置と格納位置の中間位置に達すると、コイルスプリング43の復元力が増して手摺りパイプ21の自重による回転モーメントと釣り合う。
このあとは、手を添えて手摺りパイプ21を格納位置までもっていく。
【0037】
手摺りパイプ21が格納位置に達すると、回転軸60の中央の位置設定穴70aがプランジャ穴55に整合するので、プランジャ80が当該位置設定穴70aに嵌合する。したがってこの後は手を放しても手摺りパイプ21は格納位置に保持される。
この格納位置においても、位置規制プレート73の切り欠き74の立ち上がり壁74aがストッパピン76に嵌めこまれた弾性体リング77を圧縮するので、展開位置保持の間、手摺りパイプ21にガタの発生はない。
【0038】
手摺りアセンブリ20Aは、前述のように手摺りアセンブリ20と左右対称である。
回転軸60は、格納位置に対応する中央の位置設定穴70aを挟んだ両側に展開位置に対応する位置設定穴70b、70bを備えているから、手摺りアセンブリ20、20A間で共用できる。
一方、格納位置から展開位置への手摺りパイプ21(したがって回転軸60)の回転方向が異なるのみであるから、展開補助ユニット50にトーショナルスプリングとしてコイルスプリング43とは逆巻きのコイルスプリングに交換するだけでよい。
【0039】
本実施の形態では、手摺りパイプ21が発明における手摺り棒に該当し、コイルスプリング43がトーショナルスプリングに該当している。
そして、ケース51のスプリング収納部56に保持されスプリング58で付勢されたプランジャ80が格納位置および展開位置で回転軸60の位置設定穴70に嵌合する構成が、位置保持手段を形成している。
また、回転軸60に固定された位置規制プレート73における切り欠き74の立ち上がり壁74a、74bが、格納位置および展開位置でストッパピン76に嵌めこまれた弾性体リング77を圧縮する構成が、位置規制手段を形成している。
【0040】
実施の形態は以上のように構成され、手摺り取り付けバー10などを介して車体側に固定されるケース51に支持されて車両の室内側に配置された回転軸60に手摺りパイプ21の上部を連結して、手摺りパイプ全部が室内に位置する格納位置と、手摺りパイプの下部が乗降口5から室外へ延びる角度の展開位置の間で回転可能とするとともに、ケースの壁から突出するプランジャ80を回転軸60の周面に設けた位置設定穴70に嵌合させることにより上記格納位置および展開位置にそれぞれ対応する回転位置に回転軸60を保持するものとした。これにより、格納位置では手摺りパイプ21が上下方向の縦姿勢となるから、乗降口5を塞ぐことなく、また手摺りパイプ21の下部を外方へ回転させるだけで、展開位置として手摺りパイプ21が乗降口から室外へ延びた状態になり、独立して使用可能である。
【0041】
プランジャ80は、ケース51の壁を貫通して、位置設定穴70に嵌合する方向にスプリング58で付勢されてケースに保持され、プランジャ80につないだ操作紐84をスプリング58の付勢力に抗して引き下ろすことにより位置設定穴70への嵌合から外れるので、展開あるいは格納の操作開始がきわめて簡単である。
【0042】
格納位置から展開位置までの回転範囲に対応する切り欠き74を備える位置規制プレート73が回転軸60に固定され、切り欠きの立ち上がり壁74a、74bが、格納位置および展開位置でストッパピン76に嵌めこまれた弾性体リング77を圧縮する構成としているので、回転軸60は格納位置または展開位置において、他方の位置方向へ付勢され、この結果、ガタの発生が抑えられる。
【0043】
手摺りパイプ21は、直線状の本体部22と、その上端を乗降口5の幅方向中央とは反対方向へ曲げて形成した短管部23とを有して、本体部が乗降口の開口面に垂直な回転面で回転するので、格納位置においては、上下方向の縦姿勢にある本体部22を車外から乗り込もうとするときの取っ手として利用することができ、車室内でもシートから立ち上がろうとする際に高い位置で水平に延びる短管部23を取っ手として利用することができる。また、短管部23は展開位置においてもシートから立ち上がろうとする乗員にさらに近づくので、最初に掴む取っ手として利用することができる。
【0044】
そして、回転軸60とケース51の間には、回転軸を格納位置から展開位置方向へ回転付勢するコイルスプリング43が設けられており、プランジャ80を回転軸の位置設定穴70aとの嵌合から解除すれば、手摺りパイプ21が自動的に展開位置方向へ動き出すので取り扱いが簡便である。
さらに、格納位置と展開位置の中間位置において、コイルスプリング43による展開位置方向への回転モーメントと手摺りパイプ21の自重による格納位置方向への回転モーメントが釣り合うように設定されているので、手摺りパイプ21は中間位置に向かって緩やかな動きとなり衝撃を招かない。
【0045】
手摺りパイプ21はパイプ基材24をクッション層26でカバーして構成され、パイプホルダ30を介して回転軸60に取り付けられ、パイプホルダ30は、パイプ基材24を挿通させる貫通穴32を備えるとともに、パイプ基材24をカバーするクッション層26の外径に整合する凹部33を該貫通穴の開口端に備えて、クッション層26はその端部を凹部33に差し込まれているので、パイプ基材24が露出して外観を損じるようなことなく、また、クッション層26とパイプ支持部31間の段差も小さくなって使用感を向上させる。
【0046】
フロントピラー6近傍とリヤピラー7回りにそれぞれ手摺りアセンブリ20、20Aが取り付けられることにより、乗降口5の両側縁に手摺りパイプ21が提供されるから、特段に乗降が楽となり、大きな安心感も得られる。
【0047】
なお、実施の形態では、手摺りアセンブリ20を隔壁8と横バー9の間に設けられた手摺り取り付けバー10に取り付けるものとしたが、直接、あるいはブラケットなどを介してフロントピラーに取り付けてもよい。
また、手摺りアセンブリを設置する乗降口が車体の側面に開口する例について説明したが、本発明はこれに限定されず、手摺りアセンブリはリヤゲートその他の部位にも設置できる。
実施の形態では手摺りパイプ21の展開位置を1つのみとしたが、回転軸60における位置設定穴70の数を増すことにより、複数の展開位置を設定でき、他段階の姿勢を任意に選択可能となる。
【0048】
さらに、手摺り棒として、金属製のパイプ基材24をクッション層26でカバーした手摺りパイプ21を用いたが、中空のパイプでなく中実材としてもよく、あるいは全体を樹脂製としてもよい。
手摺りパイプ21の位置保持におけるガタ防止のため、ストッパピン76に弾性体リング77を嵌めこむものとしたが、位置規制プレート73の切り欠き立ち上がり壁74a、74b側に弾性体を取り付けたり、あるいはストッパピンおよび立ち上がり壁双方に弾性体を取り付けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施の形態を示す外観斜視図である。
【図2】手摺りアセンブリを示す図である。
【図3】パイプホルダと手摺りパイプの結合構造を示す図である。
【図4】図2におけるA−A部の拡大断面図である。
【図5】展開補助ユニットの構成を示す縦断面図である。
【図6】図5におけるE−E部の拡大断面図である。
【図7】図5におけるF−F部の拡大断面図である。
【図8】図5におけるG−G矢視図である。
【図9】手摺りパイプの姿勢変化を示す説明図である。
【図10】プランジャと回転軸の位置設定穴との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 車体
2 フロア
3 ステップ部
4 折り畳みステップ
5 乗降口
6 フロントピラー
7 リヤピラー
8 隔壁
8a 壁面
9 横バー
10 手摺り取り付けバー
10a 直線部
10b 脚部
10c 曲がり部
12 スライドドア
20、20A 手摺りアセンブリ
21 手摺りパイプ
22 本体部
23 短管部
24 パイプ基材
25 凹部
26 クッション層
27 エンドキャップ
28 軸部
29 ビス
30 パイプホルダ
31 パイプ支持部
32 貫通穴
33 凹部
35 取り付け部
36、40 ボルト
37 ボルト穴
38 凹部
39 突起
43 コイルスプリング
50 展開補助ユニット
51 ケース
52、53 ベアリング
53a アウタレース
54、67 溝
55 プランジャ穴
56 スプリング収納部
57 クリップ
58 スプリング
59 エンドプレート
60 回転軸
61 軸部
62 フランジ部
63 小径部
64 ボス部
65 ねじ穴
66 受け穴
67 ボルト
70、70a、70b、70b 位置設定穴
72 スペーサ
73 位置規制プレート
74 切り欠き
74a、74b 立ち上がり壁
76 ストッパピン
77 弾性体リング
80 プランジャ
81 ストッパフランジ
82 孔
83 リング
84 操作紐
85 取り付けボス部
86 底面
87 ねじ孔
88 切り欠き凹部
90 ブラケット
91 上壁
92 ボルト穴
93 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の室内側に配置された回転軸に上部が連結され、全部が室内に位置する格納位置と、下部が乗降口から室外へ延びる角度の展開位置の間を回転可能な手摺り棒と、
前記回転軸を前記格納位置および展開位置にそれぞれ対応する回転位置に保持する位置保持手段とを有することを特徴とする車両用手摺り。
【請求項2】
前記回転軸が車体側に固定されるケースに支持され、
前記位置保持手段は、前記回転軸の周面に格納位置と展開位置にそれぞれ対応して設けられた位置設定穴と、前記ケースの壁から突出して回転軸の前記位置設定穴に選択的に嵌合するプランジャとを有することを特徴とする請求項1に記載の車両用手摺り。
【請求項3】
前記プランジャは前記ケースの壁を貫通して、前記位置設定穴に嵌合する方向にスプリングで付勢されて前記ケースに保持され、スプリングの付勢力に抗して抜き方向に操作することにより前記位置設定穴への嵌合から外れることを特徴とする請求項2に記載の車両用手摺り。
【請求項4】
前記回転軸の格納位置から展開位置までの回転範囲の一端において、回転軸を他端方向へ付勢する位置規制手段を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の車両用手摺り。
【請求項5】
前記手摺り棒の回転面は、乗降口の側縁近傍を通って当該乗降口の開口面に垂直に設定され、
手摺り棒は回転面上に延びる直線部と、該直線部の上端から乗降口の幅方向中央とは反対方向に延びる曲げ部とを有し、前記直線部の前記曲げ部近傍において前記回転軸に連結されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の車両用手摺り。
【請求項6】
前記回転軸とケースの間には、回転軸を格納位置から展開位置方向へ回転付勢するトーショナルスプリングが設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1に記載の車両用手摺り。
【請求項7】
前記トーショナルスプリングは、
該トーショナルスプリングによる展開位置方向への回転モーメントが、格納位置と展開位置の中間位置において、前記手摺り棒の自重による格納位置方向への回転モーメントと釣り合うように設定されていることを特徴とする請求項6に記載の車両用手摺り。
【請求項8】
前記手摺り棒はパイプ基材をクッション層でカバーして構成され、パイプホルダを介して前記回転軸に取り付けられ、
前記パイプホルダは、前記パイプ基材を挿通させる貫通穴を備えるとともに、パイプ基材をカバーする前記クッション層の外径に整合する凹部を該貫通穴の開口端に備えて、
前記パイプ基材は前記貫通穴挿通部分で前記パイプホルダに固定され、
前記クッション層はその端部を前記凹部に差し込まれていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1に記載の車両用手摺り。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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