説明

車両用操舵装置

【課題】安価に転舵軸の回転を規制することができる車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】ハウジング5に挿通された転舵軸6が、第1の端部61、第2の端部62、および中間部63を有する。ハウジングに保持された第1のブッシュ71および第2のブッシュ72によって、転舵軸6の第1の端部61および第2の端部62を軸方向X1,X2に摺動可能にそれぞれ支持する。中間部63の中心軸線C3が、第1の端部61の中心軸線C1および第2の端部62の中心軸線C2から所定のオフセット量eだけオフセットされている。ボールナット33の中心軸線C4は、中間部63の中心軸線C3と一致している。ブッシュ71,72によって、転舵軸6の回り止めが達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のラックアンドピニオン式の電動パワーステアリング装置では、ラック軸の端部を軸方向に移動可能に支持するブッシュが、ラック軸の軸線に垂直であってラック歯のラックピッチ面にも垂直な方向には、ラック軸を拘束しないように、ブッシュの内周の断面が異形とされている(例えば特許文献1を参照)。具体的には、ブッシュは、上記ラックピッチ面に垂直な方向の径が、ラックピッチ面に平行な方向の径よりも大きくされた長孔に形成されている。
【0003】
特許文献1では、低負荷時には、ラックピッチ面に垂直な方向において、ブッシュがラック軸を拘束せず、したがって、ラック軸が、ピニオンとの噛み合い部と、ボールねじ機構の部分とで、2点支持される。また、据え切り時等の大負荷時には、ラックピッチ面に平行な方向において、ブッシュがラック軸を拘束し、したがって、ラック軸が、ピニオンとの噛み合い部と、ボールねじ機構の部分と、ブッシュとで、3点支持される。
【0004】
また、金属管素材からラック軸を形成するときに、ラック歯形成用のD形断面部の平坦部分が厚肉となる偏肉を実現するために、偏芯絞り加工を用いる偏肉金属管の製造方法が提案されている(例えば特許文献2,3を参照)。
また、タイヤからステアリング・ナックルを介してラックに伝達されるラジアル荷重およびスラスト荷重を弾性体を介して伝達するステアリング制御装置が提案されている(例えば特許文献4を参照)。
【0005】
また、ラック軸のツイスト運動を防止するために、ラック軸の一端側の支持面の軸心を、他端側の支持面の軸心に対して偏心させたラックピニオン式ステアリング装置が提案されている(例えば特許文献5を参照)。
また、ラック軸の外周を支持するガイドブッシュを、ボールナットの内周に、転がり軸受を介して支持した電動パワーステアリング装置が提案されている(例えば特許文献6を参照)。
【0006】
また、ラック軸をその軸線の方向に移動可能に支持するエンドブッシュが、上記軸線に垂直であってラック歯のピッチ面にも垂直な方向には、ラック軸を拘束しないように構成された電動パワーステアリング装置が提案されている例えば特許文献7を参照)。
また、ステアバイワイヤ用のボールねじを用いた電動アクチュエータが提案されている(例えば特許文献8を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−76541(第8〜9段落、第28〜29段落、第32〜33段落)
【特許文献2】特開2010−105031(要約)
【特許文献3】特許第4259854号公報
【特許文献4】特公平3−56944号公報〔図6(a)〜(c),第14頁第28欄第9行〜第16頁第32欄第42行〕
【特許文献5】特開2000−233759号公報
【特許文献6】特開2010−132060号公報
【特許文献7】特開2006−76541号公報
【特許文献8】特表2007−531489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、ラック歯とピニオン歯の噛み合い圧力によって、ラック軸を回り止めしている。特許文献1のブッシュは、長孔に形成するために製造コストが高くなるうえに、ラック軸の回転を規制する機能はない。
一方、ラックピニオン式の車両用操舵装置において、ラック軸の端部の断面をD形断面とし、同じく、ブッシュの内周の断面をD形断面とし、これにより、ラック軸の回転規制を確実にすることが一般的に行われている。しかしながら、製造コストが高くなる。
【0009】
ところで、近年、ステアリングホイールと転舵輪との機械的な連結が断たれた、いわゆるステアバイワイヤ式の車両用操舵装置が提案されている。この種の車両用操舵装置では、上記のブッシュ等を用いて転舵軸の回転を規制する必要がある。
一方、産業車両や福祉車両においては、後輪を転舵するタイプの車両が多く、そのような車両では、所要の操舵角を確保するためには、転舵輪としての後輪を大きな転舵角で転舵する必要がある。このため、転舵軸が、路面反力による多大なラジアル荷重を受ける傾向にある。例えば、ステアバイワイヤ式の車両では、転舵軸に設けられたボールねじ機構やこれを駆動するアクチュエータが多大なラジアル荷重を受けて、耐久性が低下する。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、安価に転舵軸の回転を規制することができる車両用操舵装置を提供することである。また、本発明の他の目的は、転舵軸に負荷されるラジアル荷重の影響を抑制することができ耐久性に優れた車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、筒状のハウジング(5)と、第1の端部(61;161)および第2の端部(62;162)、並びに上記第1の端部および上記第2の端部間の中間部(63;163)を有し、上記ハウジングに挿通された転舵軸(6;106)と、上記転舵軸の中間部に設けられたねじ軸(32)と、上記ねじ軸にボール(34)を介して螺合したボールナット(33)と、上記ボールナットを回転駆動する電動モータ(21,22)と、上記ハウジングに保持され、上記転舵軸の上記第1の端部および上記第2の端部を軸方向に摺動可能にそれぞれ支持する第1のブッシュ(71;171)および第2のブッシュ(72;172)と、を備え、上記転舵軸の上記中間部の中心軸線(C3;C30)が、上記転舵軸の上記第1の端部の中心軸線(C1;C10)および上記第2の端部の中心軸線(C2;C20)からオフセットされており、上記ボールナットの中心軸線(C4)および上記転舵軸の上記中間部の中心軸線は、一致していることを特徴とする車両用操舵装置を提供する(請求項1)。
【0012】
本発明によれば、ブッシュによって支持された転舵軸の各端部の中心軸線が、上記中間部の中心軸線に対してオフセットされている。したがって、転舵軸の各端部やブッシュを、例えばD形断面等の異形の断面に形成せずとも、転舵軸の回転を例えば円形ブッシュ等の単純な形状のブッシュによって規制することができる。したがって、コスト安価に転舵軸の回転を確実に規制することができる。転舵軸の回り止めを達成する本発明は、ラックピニオン式の車両用操舵装置にも、また、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置にも適用可能である。
【0013】
また、操舵部材と上記転舵軸の機械的な連結が断たれている場合がある(請求項2)。ステアバイワイヤ式では、ラックピニオン式のように、ピニオンによって転舵軸であるラック軸の回転を規制することができないので、転舵軸の回り止めを達成する本発明を好適に適用することができる。
また、上記転舵軸の上記第1の端部の上記中心軸線(C10)および上記第2の端部の上記中心軸線(C20)が、上記転舵軸の上記中間部の上記中心軸線(C30)から、上下方向(Y1,Y2)の互いに逆向きにオフセットされていてもよい(請求項3)。
【0014】
この場合、転舵軸がボールナットから回転モーメントを受けるため、転舵軸の各端部が対応するブッシュに対して振れ回りしようとする。その結果、転舵軸の各端部が対応するブッシュを所定方向に押し、対応するブッシュからの反力が転舵軸の各端部に与えられる。転舵軸の端部が受けている他の外力に抗する力として、上記反力を利用することも可能となる。
【0015】
具体的には、右方向(X2)から見てボールナットが右回り(Q2)に回転するときに伸び側となる転舵軸の端部(162)が、上方向(Y1)へオフセットされているとともに、縮み側となる転舵軸の端部(161)が、下方向(Y2)へオフセットされており、右方向から見てボールナットが右回りに回転するときに伸び側となる転舵軸の端部(162)が伸長したときに、当該端部は、対応するタイロッド(7B)から後方向(Z2)へのラジアル荷重(F21)を受けるとともに、対応するブッシュ(172)から上記ラジアル荷重に抗する反力(R2)を受けるように構成されていてもよい(請求項4)。
【0016】
この場合、ブッシュからの反力によって、転舵軸に負荷されるラジアル荷重の少なくとも一部を相殺して、転舵軸のラジアル負荷を軽減することができる。したがって、転舵軸に設けられたボールねじ機構やこれを駆動するアクチュエータに、多大なラジアル負荷が及ぼされることを防止することができ、耐久性を向上することができる。
また、上記転舵軸の上記第1の端部および上記第2の端部の外周(61a,62a;161a,162a)、並びに上記第1のブッシュおよび上記第2のブッシュの内周(71b,72b;171b,172b)は、円形である場合がある(請求項5)。これにより、実質的に転舵軸の端部およびブッシュを簡単な形状にでき、製造コストを確実に安価にすることができる。
【0017】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】転舵機構の概略平面図であり、(a)は車両の直進状態を示し、(b)は転舵輪の転舵角が所定値の状態を示し、(c)は転舵輪の転舵角が所定値を超えた状態を示している。
【図3】転舵軸と転舵軸を駆動する機構の概略断面図である。
【図4】(a)は図3の4a−4a線に沿う断面図であり、(b)は図3の4b−4b線に沿う断面図である。
【図5】本発明の別の実施の形態にかかる車両用操舵装置の要部の概略横断面図である。
【図6】図5の車両用操舵装置の要部の概略縦断面図である。
【図7】(a)は図6の7a−7a線に沿う断面図であり、左方向から見た断面図である。(b)は図6の7b−7b線に沿う断面図であり、右方向から見た断面図である。
【図8】転舵軸が右方向に移動するときに転舵軸に働く力を説明するための、転舵機構の模式的斜視図である。
【図9】転舵軸が左方向に移動するときに転舵軸に働く力を説明するための、転舵機構の模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施の形態の車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、本車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と転舵輪3との機械的な結合が解除された、いわゆるステアバイワイヤシステムを構成している。
操舵部材2の回転操作に応じて駆動される、例えばブラシレスの電動モータを含む転舵用アクチュエータ4の動作を、ハウジング5に支持された転舵軸6の車幅方向の直線運動に変換し、この転舵軸6の直線運動を舵取り用の左右の転舵輪3の転舵運動に変換することにより転舵が達成される。
【0020】
転舵用アクチュエータ4の駆動力(出力軸の回転力)は、転舵軸6に関連して設けられた運動変換機構(たとえば、ボールねじ機構)により、転舵軸6の第1軸方向X1(左方向)または第2軸方向X2(右方向)の直線運動に変換される。この転舵軸6の直線運動は、転舵軸6の各端部からそれぞれ突出して設けられたタイロッド7A,7Bに伝達され、対応するナックルアーム8A,8Bの回動を引き起こす。これにより、各ナックルアーム8A,8Bに支持された転舵輪3A,3Bの転舵が達成される。
【0021】
転舵軸6、タイロッド7A,7Bおよびナックルアーム8A,8Bなどにより、転舵輪3A,3Bを転舵するための転舵機構50が構成されている。転舵軸6を支持するハウジング5は、図示しないブラケット等を介して車体に固定されている。
図2(a),(b)および(c)は転舵機構50の概略平面図である。転舵輪3A,3Bが転舵されるときに、各ナックルアーム8A,8Bが向きを変える。すなわち、車両が直進状態にあって各転舵輪3A,3Bが、図2(a)に示すように、前方向Z1に向いているときに、各ナックルアーム8A,8Bは、対応するキングピン41A,41Bから車両の後方向Z2に延びる状態になる。
【0022】
また、図2(b)に示すように、転舵軸6が第1軸方向X1(左方向)に移動して、転舵輪3Aの転舵角が所定値になったときに、ナックルアーム8Aは、転舵軸6と平行な状態になる。
また、図2(b)に示す状態から図2(c)に示す状態へと、転舵軸6がさらに第1軸方向X1(左方向)に移動して、転舵輪3Aの転舵角が上記所定値を超えたときに、ナックルアーム8Aが、キングピン41Aから車両の前側に向かって延びる状態となる。
【0023】
図示していないが、転舵軸6が第2軸方向X2(右方向)に移動して、転舵輪3Bの転舵角が所定値になったときに、ナックルアーム8Bは、転舵軸6と平行な状態になる。また、図示していないが、転舵軸6がさらに第2軸方向X2(右方向)に移動して、転舵輪3Bの転舵角が所定値を超えたときに、ナックルアーム8Bが、キングピン41Bから車両の前方向Z1に向かって延びる状態となる。
【0024】
操舵部材2は、車体に対して回転可能に支持された回転シャフト9に連結されている。この回転シャフト9には、操舵部材2に操作反力を与えるための反力用アクチュエータ10が付設されている。反力用アクチュエータ10は、回転シャフト9と一体の出力シャフトを有するブラシレスモータ等の電動モータを含む。
回転シャフト9の操作部材2とは反対側の端部には、例えば渦巻きばね等からなる弾性部材11が車体との間に結合されている。この弾性部材11は、反力用アクチュエータ10が操舵部材2にトルクを付加していないときに、その弾性力によって、操舵部材2を直進操舵位置に復帰させる。
【0025】
操舵部材2の操作入力値を検出するために、回転シャフト9に関連して、操舵部材2の操舵角δh を検出するための操舵角センサ12が設けられている。また、回転シャフト9には、操舵部材2に加えられた操舵トルクTを検出するためのトルクセンサ13が設けられている。一方、転舵軸6に関連して、転舵輪3の転舵角δW (タイヤ角)を検出するための転舵角センサ14が設けられている。
【0026】
これらのセンサの他にも、車速Vを検出する車速センサ15と、車体60の上下加速度GZ を検出する悪路状態検出センサとしての上下加速度センサ16と、車両の横加速度Gy を検出する横加速度センサ17と、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ18とが設けられている。
上記のセンサ類12〜18の各検出信号は、マイクロコンピュータを含む構成の電子制御ユニット(ECU)からなる車両制御手段としての制御装置19に入力されるようになっている。
【0027】
制御装置19は、操舵角センサ12によって検出された操舵角δh および車速センサ15によって検出された車速Vに基づいて、目標転舵角を設定し、この目標転舵角と転舵角センサ14によって検出された転舵角δW との偏差に基づいて、駆動回路20Aを介し、転舵用アクチュエータ4を駆動制御(転舵制御)する。
一方、制御装置19は、センサ類12〜18が出力する検出信号に基づいて、操舵部材2の操舵方向と逆方向の適当な反力が発生されるように、駆動回路20Bを介して、反力用アクチュエータ10を駆動制御(反力制御)する。
【0028】
図3を参照して、転舵軸6の途中部は、筒状のハウジング5内に挿入されている。ハウジング5は、第1の端部51と、第2の端部52と、第1の端部51および第2の端部52の間に配置された中間部53とを有している。
ハウジング5の中間部53における内周面5aとハウジング5内に挿入された転舵軸6との間に、転舵用アクチュエータとしての第1および第2の電動モータ21,22と、これら電動モータ21,22の出力回転を転舵軸6の軸方向移動に変換する運動変換機構としてのボールねじ機構23とが配置されている。
【0029】
転舵軸6は、第1の端部61と、第2の端部62と、第1の端部61および第2の端部62間に配置された中間部63とを有している。転舵軸6の第1の端部61は、ハウジング5の第1の端部51の軸受保持孔54に保持された第1のブッシュ71によって、第1軸方向X1および第2軸方向X2に摺動可能に支持されている。転舵軸6の第2の端部62は、ハウジング5の第2の端部52の軸受保持孔55に保持された第2のブッシュ72によって、第1軸方向X1および第2軸方向X2に移動可能に支持されている。転舵軸6の第1の端部61および第2の端部62は、それぞれ、対応するボールジョイント40A,40Bを介して対応するタイロッド7A,7Bに接続されている。
【0030】
転舵軸6の第1の端部61の中心軸線C1および第2の端部62の中心軸線C2が、転舵軸6の中間部63の中心軸線C3から所定のオフセット量eだけオフセットされている。中心軸線C3に対して中心軸線C1がオフセットする方向と、中心軸線C3に対して中心軸線C2がオフセットする方向は、図3に示すように、同方向であってもよいし、また、異なる方向、例えば反対方向にオフセットしていてもよい(図示せず)。
【0031】
図4に示すように、各ブッシュ71,72の外周71a,72aは、断面円形であり、ハウジング5の対応する軸受保持孔54,55の内周54a,55aに一致している。各ブッシュ71,72の内周71b,72bは、断面円形であり、転舵軸6の対応する端部61,62の外周61a,62aに一致している。
転舵用アクチュエータ4を構成する第1の電動モータ21および第2の電動モータ22は、ハウジング5内に、軸方向X1,X2に並んで配置されている。第1の電動モータ21は、ハウジング5の内周面5aに固定された第1のステータ24を備えており、第2の電動モータ22は、ハウジング5の内周面5aに固定された第2のステータ25を備えている。第1の電動モータ21および第2の電動モータ22は、転舵軸6の周囲を取り囲む共通の筒状のロータ26を有している。
【0032】
ロータ26は、転舵軸6の周囲を取り囲む筒状のロータコア27と、ロータコア27の外周面27aに同伴回転可能に嵌合された第1および第2の永久磁石28,29とを有している。第1の永久磁石28および第2の永久磁石29は、軸方向X1,X2に並んで配置されている。第1の永久磁石28は第1のステータ24に対向し、第2の永久磁石29は第2のステータ25に対向している。
【0033】
ハウジング5は、第1および第2の軸受30,31を介して、ロータ26の軸方向の両端部を回転可能に支持している。具体的には、ロータコア27は軸方向に関して第1および第2の端部271,272を有している。ハウジング5は、第1の軸受30を介して、ロータコア27の第1の端部271を回転可能に支持している。また、ハウジング5は、第2の軸受31を介して、ロータコア27の第2の端部272を回転可能に支持している。第1の軸受30および第2の軸受31の各外輪は、ハウジング5に対する軸方向移動が規制され、また、第1の軸受30および第2の軸受31の各内輪は、ロータコア27に対する軸方向移動が規制されている。これにより、ハウジング5に対するロータコア27の軸方向移動が規制されている。
【0034】
ボールねじ機構23は、転舵軸6の一部に形成されたねじ軸32と、ねじ軸32の周囲を取り囲み、上記ロータコア27と同伴回転するボールナット33と、列をなす多数のボール34とを備えている。上記ボール34は、ボールナット33の内周に形成された螺旋状のねじ溝35(雌ねじ溝)と、ねじ軸32の外周に形成されたらせん状のねじ溝36(雄ねじ溝)との間に介在している。
【0035】
ボールナット33は、ロータコア27の内周面27bに同伴回転可能に嵌合されている。また、ボールナット33とロータコア27の軸方向相対移動が規制されている。具体的には、ロータコア27の内周面27bに形成された凹部37(凹部37の底)に、ボールナット33が同伴回転可能に嵌合されている。ボールナット33の中心軸線C4は、転舵軸6の中間部63の中心軸線C3に一致している。
【0036】
ボールナット33の軸方向の第1および第2の端部331,332が、それぞれ、凹部37の対応する内壁面371,372に当接している。これにより、ロータコア27に対するボールナット33の軸方向移動が規制されている。一方、前述したように、ハウジング5に対するロータコア27の軸方向移動が第1および第2の軸受30,31を介して規制されている。したがって、ハウジング5に対するボールナット33の軸方向移動が規制されることになる。
【0037】
本実施の形態によれば、ボールナット33にボール34を介して螺合するねじ軸32が、転舵軸6の中間部63に形成されている。また、第1および第2のブッシュ71,72によって支持された転舵軸6の第1および第2の端部61,62の中心軸線C1,C2が、中間部63の中心軸線C3に対して、所定のオフセット量eだけオフセットされている。
【0038】
したがって、転舵軸6の各端部61,62の外周や各ブッシュ71,72の内周を、例えばD形断面等の異形の断面に形成せずとも、断面円形の単純な形状のブッシュ71,72等を用いて、転舵軸6の回転を確実に規制することができる。したがって、コスト安価に転舵軸6の回転を確実に規制することができる。
なお、中心軸線C3に対して中心軸線C1がオフセットする方向と、中心軸線C3に対して中心軸線C2がオフセットする方向とが、異なる方向に、例えば反対方向にオフセットされていてもよい(図示せず)。
【0039】
次いで、図5〜図8は本発明の別の実施の形態を示している。図5は車両用操舵装置1Aの概略横断面図であり、図6は車両用操舵装置1Aの概略縦断面図である。図7(a)は、図6の7a−7a線に沿う断面図であり、左方向から見た断面図である。図7(b)は、図6の7b−7b線に沿う断面図であり、右方向から見た断面図である。図8は、転舵機構の模式的斜視図である。
【0040】
横断面図である図5に示すように、転舵軸106の第1の端部161の中心軸線C10、転舵軸106の第2の端部162の中心軸線C20、および転舵軸106の中間部163の中心軸線C30の前後方向(前方向Z1,後方向Z2)の位置は一致している。
各ナックルアーム8A,8Bの一端は、縦方向に延びる対応するキングピン41A,41Bに固定されている。各ナックルアーム8A,8Bの他端は、対応するボールジョイント40A,40Bを介して、対応するタイロッド7A,7Bと接続されている。各転舵輪3A,3Bは、対応するキングピン41A,41Bを枢軸として操向可能に支持されている。
【0041】
一方、縦断面図である図6に示すように、第1の端部161の中心軸線C10および第2の端部162の中心軸線C20は、中間部163の中心軸線C30から、上下方向の互いに逆向きに相等しいオフセット量eでオフセットされている。具体的には、第1の端部161の中心軸線C10が、下方向Y2にオフセットされ、第2の端部162の中心軸線C20が、上方向Y1にオフセットされている。
【0042】
また、第1のブッシュ171は、転舵軸106の第1の端部161と同心であり、第2のブッシュ172は、転舵軸106の第2の端部162と同心である。転舵軸106の中間部163の中心軸線C30は、ボールナット33の中心軸線C4と一致している。
本実施の形態では、通例そうであるように、ねじ軸32が右ねじである。したがって、右方向(右側)から見てボールナット33が右回り(時計回り)に回転するときに伸び側となる転舵軸106の第2の端部162(右端部)が、図7(b)に示すように、転舵軸106の中間部163の中心軸線C30に対して、上方向Y1へオフセットされている。ただし、図7(b)は、右側から第1軸方向X1に沿って見た図である。
【0043】
また、右方向(右側)から見てボールナット33が右回り(時計回り)に回転するときに縮み側となる転舵軸106の第1の端部161(左端部)が、図7(a)に示すように、転舵軸106の中間部163の中心軸線C30に対して、下方向Y2へオフセットされている。ただし、図7(a)は、左側から第2軸方向X2に沿って見た図である。
第1のブッシュ171の外周171aおよび内周171bは円形であり、第2のブッシュ172の外周172aおよび内周172bは円形である。転舵軸106の第1の端部161の外周161aは、第1のブッシュ171の内周171bに沿わされており、転舵軸106の第2の端部162の外周162aは、第2のブッシュ172の内周172bに沿わされている。
【0044】
図8に示すように、右方向(右側)から見てボールナット33が右回りQ2(時計回り)に回転すると、伸び側となる転舵軸106の第2の端部162が第2軸方向X2(右方向)へ伸長する。このとき、第2の端部162は、タイロッド7Bからタイロッド7Bの軸方向に沿う軸力F2をボールジョイント40Bを介して受けるが、その軸力F2は、後方向Z2に向く成分としての、後方向Z2へのラジアル荷重F21を有している。すなわち、第2の端部162は、後方向Z2へのラジアル荷重F21を受ける。
【0045】
また、ボールナット33が右方向(右側)から見て右回りQ2(時計回り)に回転するため、転舵軸106(具体的には、ねじ軸32のねじ溝36の軌道面)が、ボールナット33からボール34を介して、右方向(右側)から見て右回りのモーメント荷重M2を受ける。
図7(b)に示すように、転舵軸106の第2の端部162の中心軸線C20が、転舵軸106の中間部163の中心軸線C30(ボールナット33の中心軸線C4に一致)の上方向Y1に配置されているので、図7(b)および図8に示すように、モーメント荷重M2によって、転舵軸106の第2の端部162が、第2のブッシュ172を後方向Z2へ押す力G2を生ずる。この力G2を受けた第2のブッシュ172は、力G2に対して反力R2を生じる。すなわち、転舵軸106の第2の端部162は、第2のブッシュ172から前方向Z1への反力R2(反対荷重)を受ける。
【0046】
これにより、後方向Z2へのラジアル荷重F21の少なくとも一部が、第2のブッシュ172からの前方向Z1への反力R2(反対荷重)によって相殺される。その結果、転舵軸106のラジアル負荷が軽減される。したがって、転舵軸106に設けられたボールねじ機構23やこれを駆動する電動モータ21,22に、多大なラジアル負荷が及ぼされることを防止することができ、耐久性を向上することができる。
【0047】
一方、図9に示すように、ボールナット33が、左方向(左側)から見て右回り〔右方向(右側)から見て左回りQ1(反時計回り)に相当〕に回転すると、伸び側となる転舵軸106の第1の端部161が第1軸方向X1(左方向)へ伸長する。このとき、第1の端部161は、タイロッド7Aからタイロッド7Aの軸方向に沿う軸力F1をボールジョイント40Aを介して受けるが、その軸力F1は、後方向Z2に向く成分としての、後方向Z2へのラジアル荷重F11を有している。すなわち、第1の端部161は、後方向Z2へのラジアル荷重F11を受ける。
【0048】
また、ボールナット33が、左方向(左側)から見て右回り〔右方向(右側)から見て左回りQ1に相当〕に回転するため、転舵軸106(具体的には、ねじ軸32のねじ溝36の軌道面)が、ボールナット33からボール34を介して、左方向(左側)から見て右回り〔右方向(右側)から見て左回り〕のモーメント荷重M1を受ける。
図7(a)に示すように、転舵軸106の第1の端部161の中心軸線C10が、転舵軸106の中間部163の中心軸線C30(ボールナット33の中心軸線C4に一致)の下方に配置されているので、図7(a)および図9に示すように、モーメント荷重M1によって、転舵軸106の第1の端部161が、第1のブッシュ171を後方向Z2へ押す力G1を生ずる。この力G1を受けた第1のブッシュ171は、力G1に対して反力R1を生じる。すなわち、転舵軸106の第1の端部161は、第1のブッシュ171から前方向Z1への反力R1(反対荷重)を受ける。
【0049】
これにより、後方向Z2へのラジアル荷重F11の少なくとも一部が、第1のブッシュ171からの前方向Z1への反力R1(反対荷重)によって相殺される。その結果、転舵軸106のラジアル負荷が軽減される。したがって、転舵軸106に設けられたボールねじ機構23やこれを駆動する電動モータ21,22に、多大なラジアル負荷が及ぼされることを防止することができ、耐久性を向上することができる。
【0050】
本実施の形態では、ねじ軸32が右ねじである場合に則して説明したが、ねじ軸32が左ねじであってもよい。その場合、図示していないが、右側から見てボールナット32が右回りQ2に回転するときに伸び側となる転舵軸106の第1の端部161が、上方向Y1へオフセットされるとともに、縮み側となる転舵軸106の第2の端部162が、下方向Y2へオフセットされることになる。
【0051】
また、上記実施の形態では、本発明をステアバイワイヤ式の車両用操舵装置に適用したが、これに限らず、本発明を、ラックピニオン式の車両用操舵装置に適用してもよい。その他、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内で、種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0052】
1;1A…車両用操舵装置、2…操舵部材、3…転舵輪、4…転舵用アクチュエータ、5…ハウジング、5a…(ハウジングの)内周面、6;106…転舵軸、7…タイロッド、8…ナックルアーム、21…第1の電動モータ、22…第2の電動モータ、23…ボールねじ機構、32…ねじ軸、33…ボールナット、34…ボール、50…転舵機構、51…(ハウジングの)第1の端部、52…(ハウジングの)第2の端部、54,55…軸受保持孔、61;161…(転舵軸の)第1の端部、61a;161a…(第1の端部の)外周、62;162…(転舵軸の)第2の端部、62a;162a…(第2の端部の)外周、63;163…(転舵軸の)中間部、71;171…第1のブッシュ、71b;171b…(第1のブッシュの)内周、72;172…第2のブッシュ、72b;172b…(第2のブッシュの)内周、X1…第1軸方向(左方向)、X2…第2軸方向(右方向)、Y1…上方向、Y2…下方向、Z1…前方向、Z2…後方向、C1;C10…(転舵軸の第1の端部の)中心軸線、C2;C20…(転舵軸の第2の端部の)中心軸線、C3;C30…(転舵軸の中間部の)中心軸線、C4…(ボールナットの)中心軸線、e…オフセット量、F11,F21…ラジアル荷重、M1,M2…モーメント荷重、Q1…(右方向から見て)左回り、Q2…(右方向から見て)右回り、R1,R2…反力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジングと、
第1の端部および第2の端部、並びに上記第1の端部および上記第2の端部間の中間部を有し、上記ハウジングに挿通された転舵軸と、
上記転舵軸の中間部に設けられたねじ軸と、
上記ねじ軸にボールを介して螺合したボールナットと、
上記ボールナットを回転駆動する電動モータと、
上記ハウジングに保持され、上記転舵軸の上記第1の端部および上記第2の端部を軸方向に摺動可能にそれぞれ支持する第1のブッシュおよび第2のブッシュと、を備え、
上記転舵軸の上記中間部の中心軸線が、上記転舵軸の上記第1の端部の中心軸線および上記第2の端部の中心軸線からオフセットされており、
上記ボールナットの中心軸線および上記転舵軸の上記中間部の中心軸線は、一致していることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、操舵部材と上記転舵軸の機械的な連結が断たれている車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2において、上記転舵軸の上記第1の端部の上記中心軸線および上記第2の端部の上記中心軸線が、上記転舵軸の上記中間部の上記中心軸線から、上下方向の互いに逆向きにオフセットされている車両用操舵装置。
【請求項4】
右方向から見てボールナットが右回りに回転するときに伸び側となる転舵軸の端部が、上方向へオフセットされているとともに、縮み側となる転舵軸の端部が、下方向へオフセットされており、
右方向から見てボールナットが右回りに回転するときに伸び側となる転舵軸の端部が伸長したときに、当該端部は、対応するタイロッドから後方向へのラジアル荷重を受けるとともに、対応するブッシュから上記ラジアル荷重に抗する反力を受けるように構成されている車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項において、上記転舵軸の上記第1の端部および上記第2の端部の外周、並びに上記第1のブッシュおよび上記第2のブッシュの内周は、円形である車両用操舵装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−106720(P2012−106720A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200739(P2011−200739)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】