説明

車両用液圧マスタシリンダのリザーバ

【課題】ダイヤフラムプレートを省略して軽量化や組み立て性の向上を図ることができると共に、外部に作動液が漏れることを防止できる車両用液圧マスタシリンダのリザーバを提供する。
【解決手段】シリンダボディ2の上部にリザーバ本体3bを一体形成し、リザーバ本体3bの上部口縁3cにダイヤフラム8を介してキャップ10を被着する。キャップ10はリザーバ本体内部と外部とを連通する連通孔10cを備えると共に、該連通孔10cの上部を覆うカバー体9を取り付ける。カバー体9に、大気連通路9dを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リザーバ本体の上部口縁にダイヤフラムを介してキャップを被着した車両用液圧マスタシリンダのリザーバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用液圧マスタシリンダのリザーバは、リザーバ本体の上部口縁に被着するキャップとの間に、リザーバ本体内の作動液の液面に追従するダイヤフラムと、該ダイヤフラムの上側を覆うダイヤフラムプレートとを介装し、前記キャップとダイヤフラムとダイヤフラムプレートとに挿通した止めねじをリザーバ本体の上部口縁に螺着することによって、前記キャップとダイヤフラムとダイヤフラムプレートとをリザーバ本体に取り付けていた。さらに、ダイヤフラムプレートには通気孔が、キャップには大気連通路がそれぞれ形成され、ダイヤフラムの上部側を大気に連通した状態とし、ダイヤフラムが作動液の液面に追従しやすいように形成されていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−51031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上述の特許文献1に示されたような車両用液圧マスタシリンダのリザーバでは、軽量化や組み立て性の向上を図るために、ダイヤフラムプレートを省略することが試みられている。しかし、ダイヤフラムプレートを省略すると、ダイヤフラムの分子間から作動液が透過するため、リザーバの傾きによりダイヤフラムの上面側に染み出した作動液が外部に漏れる虞があった。
【0005】
そこで本発明は、ダイヤフラムプレートを省略して軽量化や組み立て性の向上を図ることができると共に、外部に作動液が漏れることを防止できる車両用液圧マスタシリンダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、リザーバ本体の上部口縁にダイヤフラムを介してキャップを被着した車両用液圧マスタシリンダのリザーバにおいて、前記キャップは前記リザーバ本体内部と外部とを連通させる連通孔が形成されると共に、該連通孔の上部を覆うカバー体が取り付けられ、該カバー体に大気連通路が設けられることを特徴としている。前記カバー体は、合成樹脂で形成しても良く、前記大気連通路は、前記カバー体の外縁部下面に形成されることができる。また、前記カバー体は、前記キャップに対する回り止め構造を備えることもでき、さらに前記キャップは、前記連通孔の近傍に液溜めとなる凹部を備えていても良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両用液圧マスタシリンダのリザーバによれば、キャップの略中央に形成した連通孔の上部をカバー体で覆うことから、ダイヤフラムプレートを省略しても、ダイヤフラムの上部に染み出した作動液が外部に漏れることを抑えることができる。また、リザーバは、上部口縁部にダイヤフラムを載置し、その上部に、カバー体を装着したキャップを載置して取付ボルトを螺着すれば良く、従来のように、キャップとダイヤフラムとの間にダイヤフラムプレートを介装させることがないので、組み立て性が向上する。さらに、ダイヤフラムプレートを省略して、キャップに、連通孔を覆うことが可能な小さなサイズのカバー体を装着すれば良いことから、液圧マスタシリンダの軽量化を図ることもできる。また、カバー体には大気連通路が設けられていることにより、該大気連通路と前記連通孔とを介してダイヤフラムの上部に大気が連通し、ダイヤフラムを作動液の液面に良好に追従させることができる。
【0008】
さらに、カバー体を合成樹脂で形成したことにより、軽量化を図ることができ、また、大気連通路は、前記カバー体の外縁部下面に形成されることにより、大気連通路を簡単に形成することができる。さらに、カバー体はキャップに対する回り止め構造を備えていることにより、キャップへの取付性が向上する。
【0009】
また、キャップの連通孔の近傍に、液溜めとなる凹部を設けることにより、キャップに形成した連通孔から作動液が漏れることがあっても、漏れた作動液を前記凹部に溜めておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態例を示す車両用液圧マスタシリンダの断面正面図である。
【図2】同じくキャップとカバー体の分解断面図である。
【図3】同じくキャップとカバー体の要部断面図である。
【図4】同じくキャップとカバー体の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本形態例の車両用液圧マスタシリンダ1は、バーハンドル車両のフロントブレーキ用で、シリンダボディ2の上部にリザーバ3が一体に形成されている。シリンダボディ2には、一端を開口した有底のシリンダ孔4が設けられ、該シリンダ孔4にはピストン5が移動可能に内挿され、ピストン作動子6によってピストン5をシリンダ孔4の底部方向へ押動し、液圧室7に液圧を発生させるようにしている。
【0012】
リザーバ3は、直方体状に形成され、貯液室3aに作動液を貯留するリザーバ本体3bと、該リザーバ本体3bの上部口縁3cに、ダイヤフラム8を介して被着されるカバー体9を備えたキャップ10とを有している。シリンダボディ2とリザーバ本体3bとは、鋳鉄やアルミニウム合金等によって一体に成形されており、シリンダ孔4と貯液室3aとをリリーフポート11とサプライポート12とで連通し、貯液室3a内の作動液をシリンダ孔4へ随時補給したり、シリンダ孔4内の作動液を貯液室3aへ還流できるようになっている。
【0013】
キャップ10は、硬質の合成樹脂で形成され、平面形状がリザーバ本体3bの上面と略同一形状に形成されている。キャップ10の外縁近傍の下面には矩形のガイドリブ10aが、中央部上面には矩形の防油リブ10bがそれぞれ突設されている。キャップ10の略中心位置で、前記防油リブ10bの内側には、キャップ10の内外に貫通する連通孔10cが形成されると共に、該連通孔10cの近傍には、カバー体9に設けた突部9aを係止する係止孔10dと、液溜めとなる凹部10eとが、前記連通孔10cを挟んで対称位置にそれぞれ形成され、係止孔10dは、下面に向けて漸次小径となる円錐状に形成されている。また、キャップ10の2箇所の隅部には、リザーバ本体3bの上部口縁3cにキャップ10を取り付ける取付ボルト(図示せず)を挿通するボルト挿通孔10f,10fが形成されている。
【0014】
カバー体9は、防油リブ10bの上面を覆う天井部9bと、防油リブ10bの外側に嵌合する側壁9cとを備え、天井部9bには、前記係止孔10dに係合する突部9aが突設され、側壁9cの下面には、カバー体9の内外に連通する複数の溝から成る大気連通路9dが形成されている。突部9aは中心部にスリット9eが形成されると共に、カバー体9をキャップ10に装着した時に、キャップ10の係止孔10dよりもキャップ10の下方に突出する係合部9fを備えている。係合部9fは先端側が縮径した円錐状に形成され、係止孔10dを通過する際はスリット9eにより縮径し、係止孔10dを通過した後には拡径して基端面9gがキャップ10の内面10gに当接し、カバー体9がキャップ10に係止される。また、スリット9eは、肉抜きにより形成しても良い。
【0015】
ダイヤフラム8は、合成ゴム等の可撓性部材料によって形成され、リザーバ本体3bの上部口縁3cに載置される外端のフランジ部8aと、該フランジ部8aの内側に設けられる蛇腹部8bと、該蛇腹部中央の下端内側に延設され、作動液の液面の変化に追従する平面部8cとを備えている。
【0016】
上述のように形成されたリザーバ3の組み立ては、まず、キャップ10の係止孔10dにカバー体9の突部9aを挿入すると共に、防油リブ10bの長辺とカバー体9の長辺側の側壁9cとを嵌合し、突部9aの係合部9fをキャップ内側に突出させ、基端面9gをキャップ10の内面10gに対向させて、カバー体9をキャップ10に取り付け、キャップ10とカバー体9とが一体となる。このとき、矩形の防油リブ10bの外側に矩形の側壁9cが嵌着されることにより、カバー体9の回り止めが図られ、防油リブ10bと側壁9cとが本発明の回り止め構造となる。
【0017】
次いで、ダイヤフラム8のフランジ部8aを上部口縁3cに載置し、その上に、キャップ10の外縁を載置し、ガイドリブ10aを貯液室3a内に挿入すると共に、取付ボルトをボルト挿通孔10f,10fから挿入し、上部口縁3cに螺着して、ダイヤフラム8のフランジ部8aをキャップ10の下面と上部口縁3cとの間に挟着する。この取り付けにより、キャップ10に形成した連通孔10cの周囲がカバー体9で覆われると共に、カバー体9に形成した大気連通路9dによって、カバー体9とキャップ10との間に形成される空間部E1と大気とが連通し、さらに、連通孔10cにより、空間部E1とダイヤフラム8の上部空間部E2とが連通することにより、上部空間部E2と大気とが連通する。
【0018】
このように形成されたリザーバ3は、大気連通路9dと連通孔10cとにより、大気とダイヤフラム8の上部空間部E2とが連通していることにより、ダイヤフラム8の平面部8cを作動液の液面に良好に追随させることができる。また、キャップ10に形成した連通孔10cは、カバー体9で覆われると共に、連通孔10cの周囲には防油リブ10bが突設されていることから、ダイヤフラム8の上部に染み出した作動液が、連通孔10cを介してカバー体9の大気連通路9dから外部に漏れることを防止できる。さらに、連通孔10cの近傍に、液溜めとなる凹部10eが設けられていることから、連通孔10cから漏出した作動液を凹部10eに溜めることができ、大気連通路9dから外部に漏れることをより確実に防止することができる。
【0019】
また、従来のように、ダイヤフラムプレートをキャップ10とダイヤフラム8との間に介装させる必要がなくなるので、リザーバ3の組み立て性が向上すると共に、カバー体9は連通孔10cを覆うことのできる小さいサイズで良いことから、液圧マスタシリンダ1の軽量化を図ることもできる。さらに、凹部10eの下面と突部9aの先端面とが、キャップ10の内面10gよりも下方に突出していることから、ダイヤフラム8の平面部8cが内面10gに密着して連通孔10cを塞ぐことを防止できる。また、連通孔10cの上面がカバー体9の天井部9bで覆われると共に、連通孔10cの周囲には防油リブ10bが配置されていることにより、大気連通路9dや連通孔10cを介して貯液室3a側に、雨水等の異物が侵入する虞がない。
【0020】
さらに、キャップ10とカバー体9とを合成樹脂で形成したことにより、液圧マスタシリンダ1をさらに軽量化をすることができ、また、大気連通路9dは、カバー体9の外縁部下面に形成されることから、大気連通路9dを簡単に形成することができる。さらに、カバー体9は、キャップ10に形成した矩形の防油リブ10bの外側に、矩形の側壁9cが嵌着されることから、簡単な構造でカバー体9の回り止めが図られ、カバー体9を所定の位置に確実に取り付けることができ、カバー体9のキャップへの取付性が向上する。
【0021】
尚、本発明のリザーバは直方体状に形成されるものに限らず円筒状でも良く、リザーバ本体の形状に対応したキャップの形状に応じて、カバー体を円形や楕円形に形成することもできる。また、カバー体の回り止め構造も、キャップとカバー体とに形成したリブを当接させるものや、カバー体に回り止め用のピンを突設し、キャップに前記ピンの挿通孔を形成するもの等、任意である。さらに、液圧マスシリンダは、上述の形態例に限らず、シリンダボディの上部に別体のリザーバを設けたものでも良く、タンデムタイプのものでも良い。
【符号の説明】
【0022】
1…液圧マスタシリンダ、2…シリンダボディ、3…リザーバ、3a…貯液室、3b…リザーバ本体、3c…上部口縁、4…シリンダ孔、5…ピストン、6…ピストン作動子、7…液圧室、8…ダイヤフラム、8a…フランジ部、8b…蛇腹部、8c…平面部、9…カバー体、9a…突部、9b…天井部、9c…側壁、9d…大気連通路、9e…スリット、9f…係合部、9g…基端面、10…キャップ、10a…ガイドリブ、10b…防油リブ、10c…連通孔、10d…係止孔、10e…凹部、10f…ボルト挿通孔、10g…内面、11…リリーフポート、12…サプライポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバ本体の上部口縁にダイヤフラムを介してキャップを被着した車両用液圧マスタシリンダのリザーバにおいて、前記キャップは前記リザーバ本体内部と外部とを連通させる連通孔が形成されると共に、該連通孔の上部を覆うカバー体が取り付けられ、該カバー体に大気連通路が設けられることを特徴とする車両用液圧マスタシリンダのリザーバ。
【請求項2】
前記カバー体は、合成樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用液圧マスタシリンダのリザーバ。
【請求項3】
前記大気連通路は、前記カバー体の外縁部下面に形成されることを特徴とする請求項2記載の車両用液圧マスタシリンダのリザーバ。
【請求項4】
前記カバー体は、前記キャップに対する回り止め構造を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用液圧マスタシリンダのリザーバ。
【請求項5】
前記キャップは、前記連通孔の近傍に液溜めとなる凹部を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の車両用液圧マスタシリンダのリザーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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