説明

車両用灯具のレンズカバー

【課題】射出成形用の金型の設計自由度が高く、金型の大型化、複雑化を伴うこともなく、且つ従来の設備で成形が可能な、薄型軽量化がなされ且つバリの発生が抑制された車両用灯具のレンズカバーを提供することにある。
【解決手段】本発明のレンズカバー10は、筐体20のシール溝21にシール材40を介して嵌合固定されるシールリブ13と、該シールリブ13からシール溝21を覆うように延びる水除けリブ14を有し、シールリブ13はレンズカバー10の意匠面11よりも肉厚を厚くし、水除けリブ14はシールリブ13よりも肉厚を薄くすると共にシールリブ側14aを先端側14bよりも肉厚を薄くした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具のレンズカバーに関するものであり、詳しくは、ポリカーボネート樹脂で形成される車両用灯具のレンズカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
薄肉の樹脂成形品を射出成形するにあたり、成形品にバリを生じさせない手法として、固定金型と可動金型との合わせ面(パーティング面)を金型の型締め方向と平行に設けることが提案されている。これにより、溶融成形樹脂の射出圧力により金型に型開き方向に向かう力が加わっても合わせ面には金型を引き離す方向に向かう力が加わることがなく、そのため、合わせ面におけるバリの発生を抑制することができるというものである(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−50472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のバリの発生を防止する手法は、金型に設ける合わせ面の位置が限定されるために金型設計の自由度に制約が加わり、金型の設計・製作に手間と時間がかかって金型作成コストが嵩むことになる。そのため、最終的には樹脂成形品の製造コストを上昇させる要因となる。
【0005】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、射出成形用の金型の設計自由度が高く、金型の大型化、複雑化を伴うこともなく、且つ従来の設備で成形が可能な、薄型軽量化がなされ且つバリの発生が抑制された車両用灯具のレンズカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、一端開口を有する透明のレンズカバーと、開口を有する筐体とが互いの開口端部同士がシール材を介して嵌合固定されると共に内部に光源が収容されてなる車両用灯具において、
前記レンズカバーは、前記光源からの光が外部に向けて透過する意匠面と該意匠面から立ち上がる環状の脚部からなり、
前記脚部の前記意匠面と反対側の開口端部は、前記筐体の開口端部に設けられた環状のシール溝に嵌合してシール材を介して固定されるシールリブと、該シールリブから前記シール溝を覆うように延びる環状の水除けリブを有しており、
前記シールリブは前記意匠面よりも肉厚が厚く、前記水除けリブは前記シールリブよりも肉厚が薄く且つ前記シールリブ側が先端側よりも肉厚が薄いことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記意匠面の肉厚は2.5mm未満であり、前記水除けリブは前記シールリブから1mmの長さ区間は肉厚が0.8mmであり、そこから先端までの2mmの長さ区間は肉厚が2.5mmであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のレンズカバーは、筐体のシール溝にシール材を介して嵌合固定されるシールリブと、該シールリブからシール溝を覆うように延びる水除けリブを有し、シールリブはレンズカバーの意匠面よりも肉厚を厚くし、水除けリブはシールリブよりも肉厚を薄くすると共にシールリブ側を先端側よりも肉厚を薄くした。
【0009】
これにより、レンズカバー成形用金型において、水除けリブの部分を成形するキャビティに充填される成形樹脂による型開き方向に向かう圧力が抑制され、従来のレンズカバーでは水除けリブの先端部にバリが発生したとされる射出圧力で成形しても、バリの発生を抑制することができる、という極めて優れた効果を奏するものである。
【0010】
その結果、射出成形用の金型の設計自由度が高く、金型の大型化、複雑化を伴うこともなく、且つ従来の設備で成形が可能な、薄型軽量化がなされ且つバリの発生が抑制された車両用灯具のレンズカバーの提供を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の一般的なレンズカバーの形状を示す説明図である。
【図2】図1のA−A線における金型の断面図である。
【図3】樹脂成形品の薄肉部の厚みと射出圧力との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の基になる従来のレンズカバーの説明図である。
【図5】図4のA部拡大図である。
【図6】本発明のレンズカバーを盛り込んだ図4のA部拡大図である。
【図7】図6で示す部分の成形金型の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図7参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0013】
本発明は、車両用灯具に用いられる従来のレンズカバーを基に、更にこれを薄型化すると共に従来薄型化に伴って発生していたバリを抑制する手法を提案するものである。
【0014】
まず、従来の一般的なレンズカバーの形状及び成形方法について図1及び図2を参照して説明する。図1はレンズカバーの正面図、図2は図1のA−A線における金型の断面図である。
【0015】
従来、車両用灯具に用いられるレンズカバー80は、熱可塑性のポリカーボネート樹脂を原材料とし、射出成形により製造される。
【0016】
射出成形は、固定金型(キャビティ金型)81と可動金型(コア金型)82が型締めされ、射出成形機で可塑化された原料(溶融成形樹脂)はノズルから固定金型81に注入口83を介して射出され、その後順次コールドランナー84及びゲート85を経てシールリブ86を成形するキャビティ87内に充填され、キャビティ87からさらに意匠面88を成形するキャビティ89内に充填されてレンズカバー80が成形される。
【0017】
このとき、型締めされた固定金型81と可動金型82に対しては、レンズカバー80の肉厚によっては最大180MPaの溶融成形樹脂の射出圧力が必要とされ、固定金型81と可動金型82の合わせ面90には互いの金型81、82を引き離す方向に向かう力が加わる。
【0018】
その結果、合わせ面90の隙間に溶融成形樹脂が浸入して樹脂成形品のバリとなると共に、型開き時に型から脱落して樹脂成形品に付着し、外観を損なうものとなる。樹脂成形品にバリが生じると後工程にバリ除去の工程を設ける必要があり、工数の増加による生産性の低下及び製造コストの上昇を招くことになる。
【0019】
ところで、ポリカーボネート樹脂の射出圧力は成形品の肉厚にほぼ反比例する。具体的には例えば、500mmの平板で肉厚が夫々4mm、3mm、2mm、1mmの成形品を成形する場合、溶融したポリカーボネート樹脂は粘性が高いために50MPa(肉厚4mm)〜180MPa(肉厚1mm)の射出圧力が必要とされ、肉厚1mmの成形品は肉厚4mmの成形品に対して3.6倍もの射出圧力が必要となる(図3(成形品の薄肉部の厚みと射出圧力との関係を示すグラフ)参照)。
【0020】
すると、射出圧力の増加に伴って合わせ面において互いの金型を引き離す方向に向かう力が増大し、成形品に対してバリの発生する確率が次第に高くなる。
【0021】
従来の一般的なレンズカバーでは、薄肉の部分(意匠面)88の肉厚が2.5mm〜3.5mmの範囲にありバリの発生は見られないが、そのままの形状で肉厚を2.5mm未満とすると成形品にバリが発生する。
【0022】
図4は、本発明の基になる従来のレンズカバー10と該レンズカバー10が装着された筐体20の断面図、図5は図4のA部拡大図である。
【0023】
図4より、筐体20にレンズカバー10が装着されて灯室30が形成され、灯室30内に光源35が収容されて車両用灯具1が形成されている。
【0024】
レンズカバー10は一端開口を有し、光源35からの光を外部に向けて透過する意匠面11と、該意匠面11から立ち上がる環状の脚部12を有しており、筐体20は開口を有すると共に開口端部に環状にシール溝21を設けている。また、図4からわかるように、レンズカバー10は金型から引き抜く際に、筐体20の中心軸Xに対して角度αの抜き勾配が必要とされる。そこで、レンズカバー10と筐体20の夫々の開口端部同士をシール材40を介して気密に嵌合固定するためには、レンズカバー10の開口端部を図5のようにすることが必要である。
【0025】
それは、筐体20のシール溝21に嵌合する、レンズカバー10の脚部12の先端部に設けられた環状のシールリブ13の厚み(D)を厚く成形し、シール溝21の内面21aにシールリブ13の外面13aが沿うように配置して均一な幅の隙間にシール材40を充填し、該シール材40を介して筐体20のシール溝21にレンズカバー10のシールリブ13を気密に嵌合固定するものである。これにより、両者間の良好な気密性を確保することができる。
【0026】
それと同時に、レンズカバー10には、灯具を車両に取り付けた状態において、走行中に車両前方から吹き付ける雨水等がシール溝21に侵入して気密性を損なわないようにシールリブ13から平板状に且つ環状に延びる水除けリブ14が設けられている。ちなみに、意匠面(薄肉の部分)11の肉厚は2.5mmから3.5mmの範囲にあり、シールリブ13の厚み(D)は5mm程度であり、水除けリブ14の厚みは2mm程度である。
【0027】
そこで、形状はこのままで意匠面11を2.5mm未満の薄肉としたレンズカバー10を射出成形で成形すると、レンズカバー10のシールリブ13は意匠面(薄肉の部分)11よりもかなり厚いために、成形時に金型のゲート付近に位置する、シールリブ13よりもかなり薄肉の水除けリブを形成する部分のキャビティに高い樹脂圧力がかかって金型に型開き方向に向かう力が加わり、バリを発生する要因となる。この時の射出圧力を180MPaとすると前記樹脂圧力は45MPaにもなる。
【0028】
そこで本発明では、従来のレンズカバーを薄型化したものを射出成形したときにバリが発生したとされる射出圧力で成形してもバリの発生を抑制することができるように、薄型化したレンズカバーの一部の形状を改良し、合わせ面の部分に加わる型開きの方向に向かう力を制御するものである。
【0029】
具体的には、図4に示すような従来のレンズカバー10の意匠面11の肉厚を2.5mm未満に薄肉化し、それと同時に開口端部を図6(図4のA部拡大図)のような形状とする。具体的には、シールリブ13を先端側が尖った楔形状(第1キャビティ部65a)とし、楔形状としたシールリブ13の意匠面11側に脚部12に対し直交する方向に延びた水除けリブ14を一体に形成し、水除けリブ14を固定金型(キャビティ金型)と可動金型(コア金型)で型締めされた金型の合わせ面に沿って延びる薄い肉厚部とした第1水除けリブ部11aと、第1水除けリブ部11aよりも脚部12から離れて位置し第1水除けリブ部11aよりも厚い肉厚とした第2水除けリブ部11bとからなる形状としたものである。
【0030】
筐体20のシール溝21に嵌合するシールリブ13の厚み(E)を5mmとし、シールリブ13から3mmの長さで延びる水除けリブ14を設けた。水除けリブ11は、シールリブ13から長さ(L1)1mmまでの第1水除けリブ部11aの肉厚(d1)を0.8mmとし、その先の長さ(L2)2mmの第2水除けリブ部11bの肉厚(d2)を2.5mmとした。
【0031】
そこで、レンズカバー10を射出成形する場合、固定金型(キャビティ金型)50と可動金型(コア金型)60が型締めされた金型の前記開口端部を成形するキャビティ部分は図7のように設けられる。図7より、レンズカバー10の開口端部はキャビティ65で形成され、そのうち、シールリブ13、第1水除けリブ部14a及び第2水除けリブ部14bは夫々第1キャビティ部65a、第2キャビティ部65b及び第3キャビティ部65cで形成される。
【0032】
そして、第2キャビティ部65bと第3キャビティ部65cは夫々、第1キャビティ65aの深さ方向を向く面が同一面上にあり、この面が合わせ面70となっている。
【0033】
そこで、型締め金型50、60を80°に設定し、280°のポリカーボネート樹脂からなる溶融成形樹脂を180MPaの射出圧力で金型50、60に注入すると、射出注入された溶融成形樹脂は肉厚のシールリブ13を成形する第1キャビティ部65aに注入され、そこから薄肉の意匠面11を成形するキャビティ(図示せず)に流動すると同時に、第2キャビティ部65b及び第3キャビティ部65cに順次充填されて約3.9秒で全てのキャビティ65に充填される(射出時間3.9秒)。
【0034】
このとき、キャビティ65の先端部に位置する第3キャビ部65cは手前に位置する第2キャビ部65bよりも断面積が大きくなっており、第3キャビティ部65cには第2キャビティ部65bから、該第2キャビティ部65bを流動されて流速が増した成形樹脂が送出される。そのため、溶融成形樹脂によって第3キャビティ部65cが受ける型開き方向に向かう圧力は低減されたものとなる
【0035】
この時の具体的な圧力は37MPaであり、一方従来形状の水除けリブを形成するキャビティ部が受ける成形樹脂の圧力は上述したように45MPaであった。したがって、本発明の形状を有する水除けリブは従来の形状を有する水除けリブよりも18%も低い樹脂圧力で成形することができる。
【0036】
そのため、同様に薄型軽量化したレンズカバーを同様の射出圧力で射出成形したにも係わらず、従来のレンズカバーには水除けリブの先端部にバリが発生したのに対し、今回発明のレンズカバーにはバリが発生することはない。
【0037】
したがって、水除けリブを本発明の形状とすることは、薄型軽量化された樹脂成形品(レンズカバー)を射出成形するにあたって、従来の射出圧力で成形してもバリの発生を抑制することができる、という極めて優れた効果を奏するものである。
【0038】
その結果、射出成形用の金型の設計自由度が高く、金型の大型化、複雑化を伴うこともなく、且つ従来の設備で成形が可能な、薄型軽量化がなされ且つバリの発生が抑制された車両用灯具のレンズカバーの提供を可能にするものである。
【符号の説明】
【0039】
1… 車両用灯具
10… レンズカバー
11… 意匠面
12… 脚部
13… シールリブ
13a… 外面
14… 水除けリブ
14a… 第1水除けリブ部
14b… 第2水除けリブ部
20… 筐体
21… シール溝
21a… 内面
30… 灯室
35… 光源
40… シール材
50… 固定金型
60… 可動金型
65… キャビティ
65a… 第1キャビティ部
65b… 第2キャビティ部
65c… 第3キャビティ部
70… 合わせ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端開口を有する透明のレンズカバーと、開口を有する筐体とが互いの開口端部同士がシール材を介して嵌合固定されると共に内部に光源が収容されてなる車両用灯具において、
前記レンズカバーは、前記光源からの光が外部に向けて透過する意匠面と該意匠面から立ち上がる環状の脚部からなり、
前記脚部の前記意匠面と反対側の開口端部は、前記筐体の開口端部に設けられた環状のシール溝に嵌合してシール材を介して固定されるシールリブと、該シールリブから前記シール溝を覆うように延びる環状の水除けリブを有しており、
前記シールリブは前記意匠面よりも肉厚が厚く、前記水除けリブは前記シールリブよりも肉厚が薄く且つ前記シールリブ側が先端側よりも肉厚が薄いことを特徴とする車両用灯具のレンズカバー。
【請求項2】
前記意匠面の肉厚は2.5mm未満であり、前記水除けリブは前記シールリブから1mmの長さ区間は肉厚が0.8mmであり、そこから先端までの2mmの長さ区間は肉厚が2.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具のレンズカバー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−204313(P2012−204313A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70849(P2011−70849)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】