説明

車両用灯具

【課題】回路構成を複雑化することなく、光源から発せられる光の放射状態を制御でき、光を有効利用できる車両用灯具を提供する。
【解決手段】光源11から車外に面した透光部15に至るまでの光の光学経路上に反射調光部材19を配設し、反射調光部材は、相対向する一対の透明基板41,43間に反射調光層45を有し、少なくとも一方の透明基板の対向面に透明電極層43aを備え、これに印加される電圧変化に伴って反射調光部材の光の透過率および反射率が調整可能であり、印加電圧を変化させて反射調光部材の光の透過率および反射率を調整して光の放射状態を制御する制御部21を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドライト、ウィンカー、ストップランプ、テールランプおよびフォグランプなどの車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドライトやストップランプなどの車両用灯具では、光源から発せられる光の放射状態が制御されている。車両用灯具の光放射状態の制御方法としては、たとえば、ヘッドライトにおけるハイビームとロービームの切替えの場合、ハイビーム用およびロービーム用にそれぞれ専用のライトを設けてこれらのライトの点灯状態を切替える方法や、ハイビームおよびロービームの共用ライト内に光源としてハイビーム用バルブとロービーム用バルブとを設けて2つのバルブの点灯状態を切替える方法、あるいは2つのバルブを設ける代わりに、ハイビーム用およびロービーム用の2つのフィラメントを備えた単一のバルブを設ける方法などがある。
【0003】
また、別の制御方法として、印加電圧の変化に伴って入射光の散乱状態が変化する高分子液晶を用いて、ハイビームとロービームの切替えを行う方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−222073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両用灯具の光放射状態の制御方法では、ハイビームとロービームの切替えに複数のライトや、複数のバルブあるいは複数のフィラメントを備えたバルブを必要とし、各バルブや各フィラメントをオンオフするための回路構成が複雑化するという問題を招いている。
【0005】
また、特許文献1のように高分子液晶を用いた制御方法では、複数のライト、バルブあるいはフィラメントを要しないので回路構成は複雑にはならないが、ロービームに設定した場合に、ハイビームに設定した場合にのみ光を透過する部分の受ける光が吸収されたり、あるいは散乱光として処理されたりしてしまい、フィラメントから発せられる光の全てを利用できず、効率が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて創案されたものであり、回路構成を複雑化することなく、光源から発せられる光の放射状態を制御することができ、光を有効利用することができる車両用灯具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る車両用灯具は、光源から発せられた光を車外に面した透光部を介して車外へ照射する車両用灯具であって、前記光源から前記透光部に至るまでの光の光学経路上に、前記光源から発せられた光の少なくとも一部を遮るように反射調光部材を配設し、該反射調光部材は、相対向する一対の透明基板間に反射調光層を有し、少なくとも一方の透明基板の対向面に透明電極層を備え、反射調光部材に印加される電圧変化に伴って該反射調光部材の光の透過率および反射率が調整可能であり、前記反射調光部材に印加する電圧を変化させて該反射調光部材の光の透過率および反射率を調整し、前記透光部を介して車外に照射される光の放射状態を制御する制御部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように構成された本発明に係る車両用灯具によれば、光源から透光部に至るまでの光の光学経路上に配設した反射調光部材に印加する電圧を制御部にて変化させることにより、該反射調光部材の光の透過率および反射率を調整して車外に照射される光の放射状態を制御し得るので、回路構成を複雑化することなく、光源から発せられる光の放射状態を制御することができ、光を有効利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明に係る車両用灯具の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は本発明の一実施形態に係る車両用灯具の断面図である。図示するように、本実施形態では、車両用灯具10としてヘッドライトを例示している。このヘッドライト10は、光源11としてのバルブと、バルブ11から発せられた光Lを車両前方へ向けて反射する反射板13と、反射板13にて反射された光Lの車外への出射部である透光部15と、バルブ11から透光部15に至るまでの光の光学経路上に配設された反射調光部材19と、反射調光部材19を制御する制御部21(図2および図3参照)とを備えて構成されている。上記透光部15にはレンズとカバーとの機能を兼ね備えたレンズカバー(透明カバー部材)17が設けられ、レンズカバー17の内面側に反射調光部材19が配設されている。
【0011】
本実施形態では、光源であるバルブ11として、ハロゲンバルブ等のシングルフィラメントバルブを採用しているが、これに限るものではなく、フィラメントを有しない水銀灯等の高圧放電灯(HID)を用いてもよい。
【0012】
反射板13には、その鏡面(反射面)が放物面である1焦点タイプのものや、鏡面が楕円面である2焦点タイプのものなど、公知の種々の凹面鏡を用いることができる。反射板13は、バルブ11の外周面から発せられた光Lを車両前方へ向けて反射することにより、バルブ11から発せられる光Lに指向性をもたせるためや、レンズカバー17の内面側に配設された反射調光部材19の反射率が高い場合に該調光部材19から反射された光Lを更に反射して車外に放出するために備えられている。
【0013】
本実施形態では、反射板13として1焦点タイプの凹面鏡を採用しており、その焦点に光源としてのバルブ11が設置されている。したがって、バルブ11から発せられた光Lは、反射板13にて反射されることによりほぼ平行光となって車両前方へ照射されるようになっている。なお、反射板13として2焦点タイプの凹面鏡を用いる場合には、たとえば、2焦点のうちの反射板13側に位置する第1の焦点にバルブ11を設置し、バルブ11から発せられた光Lが反射板13によって第2の焦点に集光された後、所定の凸レンズを透過することによりほぼ平行光となって車両前方へ向けて出射するように構成する。
【0014】
図2は反射調光部材19の一構成例を示す断面図である。反射調光部材19は、図2に示すように、相対向する面にインジウム錫酸化物(ITO)等の透明電極層41a,43aが形成され、透明樹脂フィルム等によって形成される一対のシート状の透明基板41,43と、これらの透明基板41,43間に挟み込まれた反射調光層45とで構成されている。反射調光層45は、マグネシウム−ニッケル合金層45a、触媒層45b、プロトン伝導性電解質層45cおよびプロトン蓄積層45dを備えている。なお、反射調光部材19は、マグネシウム−ニッケル合金層45aを設けている側がバルブ側となるように配置されることが望ましい。
【0015】
図3は反射調光部材19の別の構成例を示す断面図である。図3では、相対向する面のうち、マグネシウム−ニッケル合金層45aの無い側のみにITO等の透明電極層43aが形成され、透明樹脂フィルム等によって形成される一対のシート状の透明基板41,43と、これらの透明基板41,43間に挟み込まれた反射調光層45とから、反射調光部材19が構成されている。反射調光層45は、図2と同様にマグネシウム−ニッケル合金層45a、触媒層45b、プロトン伝導性電解質層45cおよびプロトン蓄積層45dを備えている。
【0016】
反射調光層45は、上述したようにマグネシウム−ニッケル合金層45aを含んでおり、波長300nmから2500nmの光が、透過率の高い(50%以上)状態から、透過率が実質的に0%で反射率が70%を超える鏡状態までの変化が可能である。必要に応じて、高い反射率を有し低い透過率の光透過状態から、光を全反射させて反射板13へ戻す鏡状態までの間で制御される。
【0017】
この反射調光層45は、プロトン蓄積層45dにプロトンが存在してマグネシウム−ニッケル合金層45aに存在しない状態では反射率が80%以上と高く、透過率が低い。反対に、プロトン蓄積層45dからマグネシウム−ニッケル合金層45aにプロトンを移動させてマグネシウム−ニッケル合金層45aを水素化した場合には透過率が高くなる。以上のプロトンの移動は、反射調光部材19への印加電圧の向きを変えることにより制御可能である。
【0018】
反射調光層45を構成するマグネシウム−ニッケル合金層45a、触媒層45b、プロトン伝導性電解質層45cおよびプロトン蓄積層45dは、公知の材料や組成で形成することができる。触媒層45bとしてはパラジウムおよびパラジウム−金合金が、プロトン伝導性電解質層45cとしては酸化タンタルや酸化ジルコニウムが、プロトン蓄積層45dとしては酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブおよび酸化バナジウムを用いることができるが、これらに限定されない。各層45a,45b,45c,45dの形成方法としては、真空蒸着、イオンプレーティングおよびスパッタリングなどの公知の技術を用いることができる。
【0019】
このような構成を有する反射調光部材19は、適度な可撓性を有するシート状の部材であり、レンズカバー17の内面形状に沿うように内設され、印加電圧を変化させることによって入射光の透過率および反射率が調整可能となっている。すなわち、図2の構成例では反射調光部材19の透明電極層41a,43a、図3の構成例では透明電極層43aとマグネシウム−ニッケル合金層45aへの印加電圧を制御することにより、反射調光部材19の光の透過率および反射率を調整して、透光部15を介して車外へ照射される光の放射状態を制御することができる。印加電圧の制御は制御部21においてなされ、この制御部21には操作入力を行う入力部51が備えられている。
【0020】
この反射調光部材19には、図1に示すように、独立して光の透過率を調整可能な複数の調光領域、本実施形態では3つの調光領域A1,A2,A3が、該反射調光部材19を上下に複数分割するように設定されている。上側の調光領域A1およびA2は、透光部15を介して車外へ照射される光Lのうちの透光部15における上側領域15aを透過するハイビーム成分の光Lを遮るように設けられている。他方、下側の調光領域A3は、透光部15を介して照射される光Lのうちの透光部15における下側領域15bを透過するロービーム成分の光Lを遮るように設けられている。
【0021】
さらに、調光領域A1は、透光部15における上側領域15a内のさらに上部領域15cを透過する光Lを遮るように、すなわち、ハイビーム成分の光Lによって照明される照明領域内における上方の所定領域を照明する光Lを遮るようにして設けられている。ここで調光領域A1は、雨や雪が降っているときにヘッドライト10から照射された光Lが雨や雪に反射して視界不良となるのを防止するためのものであり、ハイビーム成分の光Lのうち、さらに上方の成分の光Lをカットするように設けられている。
【0022】
そして、反射調光部材19の各調光領域A1ないしA3の光の透過率および反射率を調整し、各調光部材A1ないしA3を透明状態と鏡状態との間で変化させることにより、各調光領域A1ないしA3が透明状態にあるときには、バルブ11から発せられた光Lが反射調光部材19内において実質的にロスされることなく、各調光領域A1ないしA3を介して車外へ照射される。他方、各調光領域A1ないしA3のいずれかが反射状態にあるときには、バルブ1から発せられた光Lが反射調光部材19の反射状態にある調光領域によって反射されて反射板13へと戻され、さらに反射板13にて反射されて透光部15から出射するようになっている。このように、反射調光部材19内において反射された光Lは、対向車や歩行者等に眩しさを感じさせないように透光部15から所定の方向へ向けて出射される。
【0023】
制御部21は、入力部51からの操作入力に基づき、反射調光部材19の各調光領域A1ないしA3に相当する透明電極層41a,43a間、あるいは透明電極層43aとマグネシウム−ニッケル合金層45a間への印加電圧を制御する。この印加電圧の制御によって、各調光領域A1ないしA3を遮光状態(鏡状態)と遮光解除状態(透明状態)との間で独立して切替えることができるようになっている。また、制御部21は、ヘッドライト10のオンオフ制御も行っている。
【0024】
入力部51は、運転席の周辺に備えられるヘッドライト10をオンオフするヘッドライトスイッチやディマースイッチ等の操作スイッチ群から構成される。入力部51のディマースイッチがロービームに設定された場合には、図1の反射調光部材19の調光領域A1,A2が鏡状態となる一方、調光領域A3が透明状態となる。これにより、バルブ11から発せられる光Lのうちハイビーム成分の光Lが調光領域A1,A2によって遮られ、バルブ1から発せられた光Lのうちロービーム成分の光L、および調光領域A1,A2で反射され更に反射板3で反射された光Lが、反射調光部材19の調光領域A3を透過して車外へと照射される。
【0025】
入力部51のディマースイッチがハイビームに設定された場合には、図4に示すように、反射調光部材19の調光領域A3が鏡状態となる一方、調光領域A1,A2が透明状態となる。これにより、バルブ1から発せられた光Lのうちロービーム成分の光Lが調光領域A3によって遮られ、バルブ1から発せられた光Lのうちハイビーム成分の光L、および調光領域A3で反射され更に反射板13で反射された光Lが、反射調光部材19の調光領域A1,A2を透過して車外へと照射される。そして、ヘッドライト10がオフのときには、反射調光部材19の全体の領域A1,A2,A3が鏡状態になる。
【0026】
なお、ここでは、ハイビーム設定時に調光領域A3を鏡状態とし、ロービーム成分の光Lをカットするように構成したが、ハイビーム設定時に調光領域A3を透明状態とし、ロービーム成分の光Lもハイビーム成分の光Lとともに車外へ照射するように構成してもよい。また、ハイビーム成分の光Lが通過する透光部15の上側領域15aだけでなく、ロービーム成分の光Lが通過する透光部15の下側領域15bをも遮るようにして反射調光部材19を設けたが、透光部15の上側領域15aだけを遮るように反射調光部材19を設けてもよい。
【0027】
また、入力部51には、反射調光部材19の調光領域A1を制御するための入力手段として、ワイパーの作動を指示するための操作スイッチ、あるいは雨や雪を検知するために車外に設けられる雪雨検知器が含まれている。そして、ハイビーム照射時にワイパーが作動しているとき、あるいは雪雨検知器により雨や雪が降っていることが検知されるときには、図5に示すように、制御部21によって反射調光部材19の調光領域A1が不透明状態(遮光状態)となり、ハイビームに相当する光Lのうち上方の成分がカットされるようになっている。なお、ここでは、反射調光部材19の調光領域A1が、ワイパーの作動等に連動して自動的に不透明状態となるように設定したが、入力部51に設けられる操作スイッチにより手動で切替えるように構成してもよい。
【0028】
さらに、入力部51には、車両の移動状態または停止状態を検知可能な車速センサ等の走行状態検知手段が含まれている。ヘッドライト10がオンしているときに、この走行状態検知手段によって車両が移動中であることが検知されると、上述の各状況に応じて反射調光部材19の各調光領域A1ないしA3の透明状態、鏡状態の制御が行われる。他方、走行状態検知手段により車両が停止中であることが検知されると、反射調光部材19の全ての調光領域A1ないしA3が鏡状態になり、バルブ11から発せられた光Lの全体が反射調光部材19によって効果的に遮蔽されるようになっている。これによって、信号待ち等で停止しているときに、歩行者等への配慮のためにヘッドライト10をわざわざオフしなくとも、自動的にヘッドライトが実質的にオフ状態に切り替わるので、利便性を向上させることができる。あるいは、鏡状態と透明状態との中間的な状態に切り替わるように構成ことにより、バルブ11から発せられた光Lが反射調光部材19を介して弱い光として適度に出射するので、対向車や歩行者に自車の存在を認識させることができ、安全性を向上させることができる。
【0029】
本実施形態では、反射調光部材19を上下に3分割するように3つの調光領域A1ないしA3を設定したが、さらに多数に分割して、4つ以上の調光領域を設定してもよい。これによって、荷物の搭載等による水平方向に対する車両の傾き角度の変化などに対応してハイビームおよびロービームの照射方向(照射領域)を調整するなど、ヘッドライト10の照射光のきめ細かな調整を行うことができる。たとえば、図6に示す平面構成例のように、レンズカバー17の左右方向において、反射調光部材19を複数に分割して、左右に分割された上側の調光領域B1、B2および下側の調光領域B3のような領域を設定してもよい。
【0030】
次に、レンズカバー17の内側に配設した反射調光部材19の面方向における反射状態または透明状態の変化のさせ方について説明する。図7は、登り坂走行時にヘッドライトを点灯させる場合の反射調光部材の面方向における反射状態または透明状態の変化のさせ方を示す説明図である。図8は、降り坂走行時にヘッドライトを点灯させる場合の反射調光部材の面方向における反射状態または透明状態の変化のさせ方を示す説明図である。
【0031】
まず、登り坂の走行時にヘッドライト10を点灯させる場合には、ロービーム設定時において、図1の遮光する上側の調光領域A2を下側へ拡大して下側の調光領域A3の面積を縮める。図6の平面構成例に適用する場合には、図7(A)に示すように、上側の調光領域B1およびB2の下部に遮光部B4を設けて下側の調光領域B3を縮める。他方、ハイビーム設定時には、図1の透光する上側の調光領域A1、A2のうち、少なくとも上部の調光領域A1を遮光する。図6の平面構成例に適用する場合には、図7(B)に示すように、上側の調光領域B1およびB2の上部に遮光部B4を設けてB1およびB2の領域を縮める。登り坂では反対車線を降り走行してくる車両に対してヘッドライト10が眩しい状態になり易い。これは、登り坂に沿ってヘッドライト10が上向きになってしまうので、透光する下側の調光領域A3における上部成分の光Lが平坦な道を走行する場合よりも上方へ向いてしまい、反対車線を下り走行する車両の運転手の目に入り易くなるからである。かかる操作は自動のみならず、手動でも調整し得ることが望ましい。
【0032】
また、降り坂の走行時にヘッドライト10を点灯させる場合には、ロービーム設定時において、図1の遮光する上側の調光領域A2を上側へ縮めて下側の調光領域A3の面積を拡大する。図6の平面構成例に適用する場合には、図8(A)に示すように、上側の調光領域B1およびB2の面積を縮めて、下側の調光領域B3の上部に透光部B5を設ける。他方、ハイビーム設定時には、図1の透光する上側の調光領域A2を下側へ拡大して下側の調光領域A3の面積を縮める。図6の平面構成例に適用する場合には、図8(Bb)に示すように、下側の調光領域B3を縮めて上側の調光領域B1およびB2の下部に透光部B5を設ける。降り坂では透光する下側の調光領域B3における上部成分の光が平坦な道を走行する場合よりも下方へ向いてしまい、遠方の視界確保が平坦な道よりも困難になるからである。かかる操作は自動のみ成らず、手動でも調整し得ることが望ましい。
【0033】
さらに、後部席、トランクルームや荷台等の荷物スペースに大きな荷重がかかって車両前部が上方へ向いたような状態になった場合には、登り坂を走行する場合と同様の操作を行う。すなわち、ロービーム設定時には、図1の遮光する上側の調光領域A2を下側へ拡大して下側の調光領域A3の面積を縮める。図6の平面構成例に適用する場合には、図7(A)と同様に、上側の調光領域B1およびB2の下部に遮光部B4を設けて下側の調光領域B3を縮める。他方、ハイビーム設定時には、図1の透光する上側の調光領域A1、A2のうち、少なくとも上部領域A1を遮光する。図6の平面構成例に適用する場合には、図7(B)と同様に、上側の調光領域B1およびB2の上部に遮光部B4を設けてB1およびB2の領域を縮める。これは、登り坂を走行する場合と同様に、ヘッドライト10が上向きになってしまうためである。かかる操作は自動のみならず、手動でも調整し得ることが望ましい。
【0034】
以上のように構成された本実施形態の車両用灯具によれば、光源11から透光部15に至るまでの光の光学経路上に配設された反射調光部材19の各調光領域A1ないしA3を透明状態と鏡状態との間で切替えることにより、ヘッドライト10の光源11として単一のシングルフィラメントバルブを用いて、ハイビームとロービームの切替えを行うことができる。
【0035】
また、ハイビーム照射時に、ワイパーが作動しているとき、あるいは雪雨検知器により雨や雪が降っていることが検知されるときには、反射調光部材19の調光領域A1が不透明状態となりハイビームに相当する光Lのうち上方の成分がカットされるようになっているので、ヘッドライトの光Lが雨や雪に反射して視界不良になるのを防止することができる。
【0036】
さらに、ヘッドライト10がオフであるときには、反射調光部材19の全体の調光領域A1,A2,A3が鏡状態となるので、外部からレンズカバー17を通してバルブ11等の内部構造が透けて見えるのを防止することができ、車両の外観のデザイン性を向上させることができる。
【0037】
なお、上記の実施形態では、車両用灯具10としてヘッドライドを適用した例について説明したが、フォグランプやウィンカーなどの他の車両用灯具について適用することを妨げるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る車両用灯具は、光源から透光部に至るまでの光の光学経路上に反射調光部材を配設するという簡単な構成であるので、ヘッドライト、ウィンカー、ストップランプ、テールランプおよびフォグランプなどの自動車用灯具のみならず、電車や船舶などの灯具にも広く適用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用灯具の断面図である。
【図2】本実施形態の車両用灯具に用いられる反射調光部材の一構成例を示す断面図である。
【図3】本実施形態の車両用灯具に用いられる反射調光部材の別の構成例を示す断面図である。
【図4】本実施形態のヘッドライトのハイビーム設定時の状態を示す説明図である。
【図5】本実施形態のヘッドライトのハイビーム設定時におけるハイビーム光の上方成分をカットした状態を示す説明図である。
【図6】本実施形態のヘッドライトにおける反射調光部材の平面的構成を示す概略図である。
【図7】登り坂走行時にヘッドライトを点灯させる場合の反射調光部材の面方向における反射状態または透明状態の変化のさせ方を示す説明図である。
【図8】降り坂走行時にヘッドライトを点灯させる場合の反射調光部材の面方向における反射状態または透明状態の変化のさせ方を示す説明図である。
【符号の説明】
【0040】
10 車両用灯具、
11 バルブ(光源)、
13 反射板、
15(15a,15b) 透光部、
17 レンズカバー、
19 反射調光部材、
21 制御部、
41,43 透明基板、
41a,43a 透明電極層、
45 反射調光層、
45a マグネシウム−ニッケル合金層、
45b 触媒層、
45c プロトン伝導性電解質層、
45d プロトン蓄積層、
A1,A2,A3 調光領域、
B1,B2,B3,B4,B5 調光領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から発せられた光を車外に面した透光部を介して車外へ照射する車両用灯具であって、
前記光源から前記透光部に至るまでの光の光学経路上に、前記光源から発せられた光の少なくとも一部を遮るように反射調光部材を配設し、
該反射調光部材は、相対向する一対の透明基板間に反射調光層を有し、少なくとも一方の透明基板の対向面に透明電極層を備え、前記反射調光部材に印加される電圧変化に伴って該反射調光部材の光の透過率および反射率が調整可能であり、
前記反射調光部材に印加する電圧を変化させて該反射調光部材の光の透過率および反射率を調整し、前記透光部を介して車外に照射される光の放射状態を制御する制御部を備えていることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記反射調光層は、前記反射調光部材に印加される電圧変化に伴って光の透過率および反射率を変化させるマグネシウム−ニッケル合金層を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記反射調光部材に印加される電圧変化に伴って、前記マグネシウム−ニッケル合金層に水素を吸蔵、放出させて光学特性を変化させ、前記反射調光部材の光の透過率および反射率を調整することを特徴とする請求項2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記車両用灯具はヘッドライトであり、前記ヘッドライトは、光源からヘッドライトの透光部に至るまでの光の光学経路上に前記反射調光部材を備え、前記制御部は前記反射調光部材の光の透過率および反射率の制御により、ハイビームとロービームの切替えが可能であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用灯具。
【請求項5】
ロービームの設定において、前記制御部により前記反射調光部材の少なくとも一部の光の透過率および反射率が調整され、前記反射調光部材のハイビームの場合にのみ光を透過する部分が光源から発せられた光を反射して、反射した光をさらに反射板で反射させてロービームの光として車外に放出することを特徴とする請求項4に記載の車両用灯具。
【請求項6】
ハイビームの設定において、前記制御部により前記反射調光部材の少なくとも一部の光の透過率および反射率が調整され、前記反射調光部材のロービームの場合にのみ光を透過する部分が光源から発せられた光を反射して反射板に戻し、さらに反射板に反射させてハイビームの光として車外に放出することを特徴とする請求項4に記載の車両用灯具。
【請求項7】
前記反射調光部材は、前記透光部に設けられた透明カバー部材の内面側に配設されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両用灯具。
【請求項8】
前記反射調光部材には、独立して光の透過率を調整可能な複数の分割された調光領域が設定されており、前記制御部は、各調光領域の光の透過率および反射率を個別に制御可能であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−227202(P2007−227202A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47808(P2006−47808)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】