説明

車両用照明灯具

【課題】ヘッドランプ用配光パターンに対してレーンマーク照射用配光パターンを重畳的に形成し得るように構成された車両用照明灯具において、レーンマークの視認性を十分に高める。
【解決手段】路肩側のレーンマークLM1を照射するレーンマーク照射用配光パターンPAを、ロービーム用配光パターンPLに対して重畳的に形成する灯具構成とする。その際、このレーンマーク照射用配光パターンPAを形成するための付加灯具ユニットからは青色光が照射される構成とし、これによりレーンマークLM1の視認性を十分に高める。このような構成は、視野全体が白色光で照射されている状態で、周辺視野が青色光で照射されると、この周辺視野の輝度が中心視野の輝度と同じであっても、周辺視野の視認性が大幅に向上するという知見に基づいて得られたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ヘッドランプ用配光パターンに対してレーンマーク照射用配光パターンを重畳的に形成し得るように構成された車両用照明灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ヘッドランプ用配光パターンとして、ロービーム用配光パターンあるいはこれに加えてハイビーム用配光パターンを選択的に形成するように構成された灯具ユニットを備えた車両用照明灯具が知られている。
【0003】
その際「特許文献1」には、ヘッドランプ用配光パターンを形成するための基本灯具ユニットのほかに、ヘッドランプ用配光パターンにおける遠方路肩部分の明るさを補強する付加配光パターンを形成するための付加灯具ユニットを備えた車両用照明灯具が記載されている。
【0004】
一方「特許文献2」には、ヘッドランプ用配光パターンを形成するための基本灯具ユニットのほかに、運転者の周辺視により視認される車両周辺領域の明るさを補強する付加配光パターンを形成するための付加灯具ユニットを備えた車両用照明灯具が記載されている。その際、この「特許文献2」には、車両周辺領域を照射する光よりも短波長成分を多く含む光で車両前方遠方を照射することが好ましいことについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−59317号公報
【特許文献2】特開2009−125444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、その付加灯具ユニットによって形成される付加配光パターンにより、車両前方路面のレーンマーク(すなわち車両走行レーンを仕切るための白線)を照射することが可能となる。
【0007】
しかしながら、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、その基本灯具ユニットおよび付加灯具ユニットの光源がいずれもハロゲンバルブであるため、レーンマークを照射するための付加配光パターンをヘッドランプ用配光パターンに重畳させて形成した場合においても、その光量増大分だけしかレーンマークの視認性を高めることができない、という問題がある。
【0008】
一方、上記「特許文献2」に記載された車両用照明灯具においても、その付加灯具ユニットによって形成される付加配光パターンにより、車両前方路面のレーンマークを照射することが可能となる。
【0009】
しかしながら、この「特許文献2」に記載された車両用照明灯具においては、ヘッドランプ用配光パターンおよび付加配光パターンがいずれも同種の光で形成され、あるいは、ヘッドランプ用配光パターンの方が付加配光パターンよりも短波長成分を多く含む光で形成される構成となっているので、レーンマークの視認性を高めることができない、という問題がある。
【0010】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ヘッドランプ用配光パターンに対してレーンマーク照射用配光パターンを重畳的に形成し得るように構成された車両用照明灯具において、レーンマークの視認性を十分に高めることができる車両用照明灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、付加灯具ユニットの構成に工夫を施すことにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0012】
すなわち、本願発明に係る車両用照明灯具は、
ヘッドランプ用配光パターンを形成するための基本灯具ユニットと、レーンマーク照射用配光パターンを上記ヘッドランプ用配光パターンに重畳させて形成するための付加灯具ユニットと、を備えた車両用照明灯具において、
上記付加灯具ユニットが、青色光または青色光を含む混色光を照射するように構成されている、ことを特徴とするものである。
【0013】
上記「基本灯具ユニット」は、ヘッドランプ用配光パターンを形成するように構成されているが、その際、この「ヘッドランプ用配光パターン」として、少なくともロービーム用配光パターンを形成する機能を有していれば、ロービーム用配光パターンを形成するための機能のみを有するものであってもよいし、他の配光パターン(例えばハイビーム用配光パターン)をロービーム用配光パターンと選択的に形成する機能を有するものであってもよい。
【0014】
上記「レーンマーク照射用配光パターン」とは、車両前方路面のレーンマークを照射するための配光パターンを意味するものであり、その際、照射対象となるレーンマークは、路肩側のレーンマークであってもよいし、対向車線側のレーンマークであってもよいし、これら両方のレーンマークであってもよい。
【0015】
上記「付加灯具ユニット」は、青色光または青色光を含む混色光を照射するように構成されたものであれば、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0016】
上記「青色光」とは、主波長が490nm以下の可視光を意味するものであり、より好ましくは、主波長が485nm以下の可視光を意味するものである。
【0017】
上記「青色光を含む混色光」において、この混色光に含まれる青色光以外の色光は特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0018】
上記構成に示すように、本願発明に係る車両用照明灯具は、ヘッドランプ用配光パターンに対してレーンマーク照射用配光パターンを重畳的に形成し得る構成となっているが、レーンマーク照射用配光パターンを形成するための付加灯具ユニットが、青色光または青色光を含む混色光を照射するように構成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0019】
すなわち、従来より、明所視から薄明視を経て暗所視に移行するに従って、最大視感度が得られる波長が短波長側へずれることが、プルキンエシフトとして知られている。これは中心視野(すなわち注視点の近傍領域)における視感度に関するものであるが、周辺視野(すなわち周辺視領域)においても同様の現象が生じることが、本願発明の発明者らの実験研究により知見として得られた。具体的には、視野全体が白色光で照射されている状態で、周辺視野が青色光または青色光を含む混色光で照射されると、この周辺視野の輝度が中心視野の輝度と同じであっても、周辺視野の視認性が大幅に向上することが、知見として得られた。
【0020】
本願発明は、このような知見に基づき、レーンマーク照射用配光パターンを形成するための付加灯具ユニットとして、青色光または青色光を含む混色光を照射する構成を採用したものであり、これによりレーンマークの視認性を高めることができる。しかも、レーンマークは一般に白線であるので、このレーンマークが青色光または青色光を含む混色光で照射されることにより、レーンマークの視認性を一層高めることができる。
【0021】
このように本願発明によれば、ヘッドランプ用配光パターンに対してレーンマーク照射用配光パターンを重畳的に形成し得るように構成された車両用照明灯具において、レーンマークの視認性を十分に高めることができる。
【0022】
上記構成において、青色光を含む混色光に含まれる青色光以外の色光が特に限定されないことは上述したとおりであるが、青色光と赤色光との混色光とすれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0023】
すなわち、赤色光は人間の肌に対する反射率が高いので、この赤色光が青色光と混色されることにより、レーンマークだけでなく歩行者の視認性も高めることができる。ここで「赤色光」とは、主波長が600nm以上の可視光を意味するものであり、より好ましくは、主波長が620nm以上の可視光を意味するものである。
【0024】
上記構成において、付加灯具ユニットの光源として、青色光または青色光を含む混色光を発光する発光素子(例えば発光ダイオード等)を用いるようにすれば、簡易な構成により、レーンマーク照射用配光パターンを青色光または青色光を含む混色光で形成することが可能となる。
【0025】
上記構成において、基本灯具ユニットの光源がハロゲンバルブである場合には、放電バルブ等を光源とする場合に比して、色温度が低い白色光が照射されて、やや黄色味を帯びたヘッドランプ用配光パターンが形成され、これによりレーンマークの視認性がやや低下するので、レーンマーク照射用配光パターンを青色光または青色光を含む混色光で形成することが特に効果的である。
【0026】
上記構成において、レーンマーク照射用配光パターンの輝度が高くなりすぎると、青味が強くなり、自車ドライバに違和感を与えてしまうこととなる。したがって、レーンマーク照射用配光パターンの最大輝度を、ヘッドランプ用配光パターンにおけるレーンマーク照射用配光パターンとの重複部分の最大輝度に対して、10%以下の値に設定することが好ましく、8%以下の値に設定することがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具を示す正面図
【図2】上記車両用照明灯具から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンおよびレーンマーク照射用配光パターンを透視的に示す図
【図3】本願発明のために行った基礎実験の結果を示すグラフ
【図4】本願発明のために行った本実験に用いた二分視野装置を示す正面図
【図5】上記本実験の結果を示すグラフ(その1)
【図6】上記本実験の結果を示すグラフ(その2)
【図7】上記本実験の結果を示すグラフ(その3)
【図8】本願発明のために行った応用実験の結果を表で示す図
【図9】上記応用実験の結果を色度図を用いて示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0029】
図1は、本実施形態に係る車両用照明灯具10を示す正面図である。
【0030】
同図に示すように、この車両用照明灯具10は、素通し状の透光カバー12とランプボディ14とで形成される灯室内に、基本灯具ユニット20と付加灯具ユニット30とが、これらを囲むエクステンションパネル16と共に収容された構成となっている。
【0031】
基本灯具ユニット20は、パラボラ型の灯具ユニットであって、光源としてのH4ハロゲンバルブ22と、このH4ハロゲンバルブ22からの光を前方へ反射させるリフレクタ24とを備えた構成となっている。
【0032】
そして、この基本灯具ユニット20は、そのリフレクタ24の反射面24aにおいて、H4ハロゲンバルブ22のロービーム用フィラメントまたはハイビーム用フィラメントからの光を、前方へ向けて拡散光または偏向光として反射させ、これによりロービーム用配光パターンとハイビーム用配光配光パターンとを選択的に形成し得るようになっている。
【0033】
付加灯具ユニット30は、直射型の灯具ユニットであって、光源としての発光素子32と、この発光素子32からの光を前方へ偏向出射させるレンズ34とを備えた構成となっている。その際、発光素子32は、青色光を発光する発光ダイオードで構成されており、その主波長は470nm程度に設定されている。
【0034】
そして、この付加灯具ユニット30は、そのレンズ34において、発光素子32の発光チップ32aからの光を、前方へ向けて拡散偏向光として出射させ、これによりレーンマーク照射用配光パターンを形成するようになっている。
【0035】
図2は、車両用照明灯具10から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンPLおよびレーンマーク照射用配光パターンPAを透視的に示す図である。
【0036】
なお、同図においては、便宜上、片側1車線の左側通行の道路における自車走行レーンの左右中央に、車両用照明灯具10が配置されているものとして、車両前方路面ならびにロービーム用配光パターンPLおよびレーンマーク照射用配光パターンPAを示している。この状態では、自車走行レーンの左側に位置する路肩側のレーンマークLM1と、自車走行レーンの右側に位置するセンタラインのレーンマークLM2とが、灯具正面方向の消点であるH−Vから左右斜め下方に等角で延びており、そして、対向車線側のレーンマークLM3は、センタラインのレーンマークLM2よりもかなり水平に近い角度でH−Vから右斜め下方に延びている。
【0037】
同図に示すように、ロービーム用配光パターンPLは、左配光のロービーム配光パターンであって、その上端縁に水平カットオフラインCL1および斜めカットオフラインCL2からなるカットオフラインを有している。その際、水平カットオフラインCL1は、H−Vを通る鉛直線であるV−V線に対して対向車線側に形成されており、一方、斜めカットオフラインCL2は、水平カットオフラインCL1とV−V線との交点から自車線側へ向けて斜め上方に立ち上がる(例えば15°で立ち上がる)ように形成されている。そして、水平カットオフラインCL1と斜めカットオフラインCL2との交点であるエルボ点Eは、H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。
【0038】
このロービーム用配光パターンPLは、H4ハロゲンバルブ22を光源とする基本灯具ユニット20からの照射光により形成されるので(すなわち放電バルブ等を光源とする場合に比して色温度が低い白色光により形成されるので)、やや黄色味を帯びた配光パターンとなる。
【0039】
一方、レーンマーク照射用配光パターンPAは、ロービーム用配光パターンPLにおけるエルボ点Eに対して左斜め下方近傍の位置から、左斜め下方へ向けてやや細長く延びる略スポット状の配光パターンであって、ロービーム用配光パターンPLに重畳させた状態で形成されるようになっている。そして、このレーンマーク照射用配光パターンPAは、3つのレーンマークLM1、LM2、LM3のうち路肩側のレーンマークLM1を照射するように形成されている。
【0040】
このレーンマーク照射用配光パターンPAは、青色光を発光する発光素子32を光源とする付加灯具ユニット30からの照射光により形成されるので、青色の配光パターンとなる。その際、このレーンマーク照射用配光パターンPAは、その最大輝度が、ロービーム用配光パターンPLにおけるレーンマーク照射用配光パターンPAとの重複部分の最大輝度に対して10%以下の値(例えば5%程度の値)に設定されている。したがって、ロービーム用配光パターンPLとレーンマーク照射用配光パターンPAとの重複部分は、それ以外の部分よりも多少青味がかって見えるものの、これにより自車ドライバに違和感を与えてしまうおそれはない。
【0041】
以下、本実施形態に係る車両用照明灯具10の構成を採用するに至った実験研究の内容について説明する。
【0042】
本願発明の発明者らは、以下に述べる実験研究の結果、視野全体が白色光で照射されている状態において、周辺視野が青色光または青色光を含む混色光で照射されると、この周辺視野の輝度が中心視野の輝度と同じであっても、周辺視野の視認性が大幅に向上することを知見として得た。
【0043】
この実験研究は、基礎実験、本実験および応用実験の3段階の実験を通して行われたものである。以下、その各々について説明する。
【0044】
1.基礎実験(単色光についての色刺激と認識率・認識時間との関係の確認実験)
【0045】
(1)実験目的
薄明視環境下において、視対象(例えばレーンマークや歩行者等)に応じた認識しやすい照明光の波長分布を検討するため、単色光について、その色刺激と認識率および認識時間との関係を調べた。
【0046】
(2)実験方法
灰色のスクリーンに対して、プロジェクタランプから白色光を照射した状態で、このスクリーンに、複数種類の色光でランドルト環(すなわちアルファベットの「C」の文字の形)を4ケ所に描写し、このとき各ランドルト環の向きをランダムに設定した。そして、これら各ランドルト環の向きを被験者に回答させ、その認識率(ランドルト環の向きの正答率)およびその認識に要する時間を測定した。
【0047】
その際、薄明視環境を創出するため、プロジェクタランプからの照射光により、背景輝度を0.3cd/m^2(=平方メートル)に設定した。
【0048】
また、ランドルト環を描写するための色光として、青色光、緑色光、黄色光および赤色光の4種類の単色光と、白色光とを用いた。
【0049】
実験は3人の被験者により行った。
【0050】
(3)実験結果
図3に実験結果を示す。
【0051】
同図(a)は、スクリーン上におけるランドルト環とその背景とのコントラストの大小と、その認識率との関係を示すグラフである。また、同図(b)は、上記コントラストの大小と、その認識時間との関係を示すグラフである。
【0052】
(4)知見
同図(a)のグラフから、白色光、緑色光および黄色光の場合には、コントラストが小さくなると認識率が急激に低下するのに対して、青色光および赤色光の場合には、コントラストが小さくなっても認識率がほとんど低下しないこと、および、青色光の場合には特に認識率が高いことが分かった。
【0053】
また、同図(b)のグラフから、黄色光以外の色光の場合には、コントラストの大小にかかわらず認識時間は略一定であること、および、青色光の場合には認識時間がやや短いことが分かった。
【0054】
2.本実験(混色光の擬純度弁別閾の測定実験)
【0055】
(1)実験目的
ヘッドランプでは、青色光や赤色光を単独で使うことは考えにくい。そこで、青色光を他の色光と混ぜて混色光とした場合の擬純度弁別閾の測定を行った。
【0056】
なお、白色光に単色光を徐々に加えたときに白色光との色の差を被験者が感じる検知限界を「純度弁別閾」というが、本実験においては、加える色光が混色光であるので「擬純度弁別閾」ということとする。
【0057】
(2)実験方法
1ルックス程度の明るさの暗室内において、灰色のスクリーンに対してプロジェクタランプから白色光を照射した状態で、このスクリーンの輝度(すなわち背景輝度)を、0.1、0.3、0.5cd/m^2の3段階に設定した。
【0058】
混色光として、青色光(Bl:405nm)、緑色光(Gr:523nm)、黄色光(Ye:572nm)、赤色光(Re:680nm)を、それぞれ2色ずつ混合したものを用いた。
【0059】
その際、混色割合として、以下の3種類を設定した。
(I)“輝度値”に着目し、各色光について輝度比1:1で混色したもの
(II)“明るさ感”に着目し、明度係数輝度比(すなわち、Re:Gr:Bl=1:4.59:0.06の輝度比)で混色したもの(Ye成分を除く)
(III) Ye成分の輝度を、Re、Gr、Bl各成分の輝度に対して、Re、Gr、Bl:Ye=1:4の輝度比で混色したもの
【0060】
実験は3人の被験者により、上記3段階の背景輝度で、上記(I) 〜(III) の各条件について行った。
【0061】
この実験は、図4に示すような二分視野装置100を用いて行った。
【0062】
この二分視野装置100は、左右1対の積分球102L、102Rの連結部分104にプリズム106が配置されることにより二分視野を構成しており、その左右1対のプリズム面106L、106Rが外部から観察できる構成となっている。そして、各積分球102L、102Rには、該積分球102L、102R内に白色光(具体的にはハロゲン光)を呈示する白色光源部108L、108Rがそれぞれ取り付けられている。また、右側の積分球102Rには、該積分球102R内に任意の色光を呈示するLED光源部110と、輝度を測定するための測定器112とが取り付けられている。
【0063】
この二分視野装置100においては、その二分視野の一方(積分球102L側)に、順応光となる低輝度の白色光を発生させるとともに、もう一方(積分球102R側)に、白色の基準光に色光を混合して刺激光を発生させ、これら白色光および刺激光を中央のプリズム106を使って合成することにより、二分視野を構成するようになっている。その際、この二分視野装置100は、二分視野の輝度(すなわち左右1対のプリズム面106L、106Rの輝度)が互いに等しくなるように自動調整される構成となっている。
【0064】
この実験は、次のような手順で行った。
【0065】
まず、実験開始前に、被験者に対して低照度環境下で30分間の暗順応を行わせた。
【0066】
次に、左右1対の積分球102L、102R(すなわち二分視野の両方の視野領域)に対して、等しい低輝度の白色光を呈示した。そして、プリズム106の左右1対のプリズム面106L、106Rを、50cm程度離れた正面位置から被験者に注視させた。
【0067】
この状態で、被験者自らの操作により、右側の視野領域(積分球102R)にのみ、混色された色光を加えさせ、両プリズム面106L、106R相互間における色の差を被験者が感じる検知限界(擬純度弁別閾)を自ら決定させ、この決定が行われた時点で、このとき加えた輝度を観測者により測定させた。
【0068】
(3)実験結果
図5〜7に実験結果を示す。
【0069】
図5は、混色割合(I)の場合、すなわち、Bl、Gr、Ye、Reの各色光について輝度比1:1で混色した場合の結果を示すグラフである。図6は、混色割合(II) の場合、すなわち、Re:Gr:Bl=1:4.59:0.06の輝度比で混色した場合の結果を示すグラフである。図7は、混色割合(III) の場合、すなわち、Re、Gr、Bl:Ye=1:4の輝度比で混色した場合の結果を示すグラフである。
【0070】
これら図5〜7の各々において、(a)は背景輝度0.1cd/m^2の場合、(b)は背景輝度0.3cd/m^2の場合、(c)は背景輝度0.5cd/m^2の場合の結果をそれぞれ示している。また、これら各場合において、3人の被験者の各々の結果を、A、B、Cのグラフでそれぞれ示している。
【0071】
これら各グラフにおいて、横軸の「組合せ波長」は、6種類の組合せで混色された混色光を配置したものであり、また、縦軸の「加えた輝度」は、擬純度弁別閾に対応する輝度である。この輝度が小さいほど擬純度弁別閾が小さいこと、すなわち被験者の弁別能力が高いことを表わしている。
【0072】
(4)知見
図5〜7に示すグラフから、混色割合が上記(I)、(II) 、(III) のいずれの場合においても、青色光と他の色光とを混色すると、いずれの組合せの場合においても、青色光以外の色光同士を混色した場合に比して、擬純度弁別閾が大幅に小さくなることが分かった。
【0073】
その際、図6、7に示すグラフからは、青色光と他の色光とを混色した場合には、青色光の輝度比が小さくても、擬純度弁別閾が十分小さくなることが分かった。
【0074】
また、図6に示すグラフからは、青色光と混色する色光が赤色光の場合には、青色光と混色する色光が緑色光の場合に比して、擬純度弁別閾が小さくなることが分かった。
【0075】
さらに、図7に示すグラフからは、青色光と混色する色光が黄色光で、かつ、青色光の輝度比が小さい場合であっても、擬純度弁別閾が十分小さくなることが分かった。
【0076】
以上の知見から、次のことが考えられる。
【0077】
すなわち、白色光に青色光または青色光を含む混色光を混ぜると、たとえ少量であっても、レーンマークの視認性が向上する可能性がある。
【0078】
その際、白色光が黄色味を帯びている場合であっても、同様の可能性がある。
【0079】
また、青色光を含む混色光を採用する場合には、青色光と赤色光との混色光とすることが効果的である。
【0080】
このように青色光と赤色光との混色光とした場合には、人間の肌に対する反射率が高い赤色光が付加されることにより、歩行者の視認性も向上する可能性がある。
【0081】
3.応用実験(ヘッドランプへの応用可能性の確認実験)
【0082】
(1)実験目的
上記本実験の結果をヘッドランプの構成に反映させるに際して、レーンマークの視認性の向上効果を確認するための実験を行った。
【0083】
具体的には、ヘッドランプからの照射光に対して、レーンマーク照射光として青色光と赤色光との混色光を付加した場合において、付加する混色光の割合および混色光を構成する青色光と赤色光との混色比率の適正値を求めた。
【0084】
(2)実験方法
暗室において、レーンマークを左右2つ並べ、その各々をハロゲンランプ(具体的にはハロゲンバルブを光源とするフォグランプ)で照射した。
【0085】
この状態で、左側レーンマークには、発光ダイオードにより青色光(470nm)および赤色光(620nm)を付加的に照射し、左右のレーンマークの見え方を比較した。
【0086】
その際、混色光(青色光+赤色光)を加えた左側レーンマークについては、ベースのハロゲンランプからの照射光を減光し、右側レーンマークと輝度が同じになるようにした。
【0087】
付加する混色光(青色光+赤色光)の割合は、ハロゲンバルブを光源とするヘッドランプからの照射光の輝度に対して、17.2%、8.0%、4.5%の3段階の輝度に設定した。
【0088】
また、青色光と赤色光との混色比率は、25%刻みで、0%+100%、25%+75%、50%+50%、75%+25%、100%+0%の5種類に設定した。
【0089】
そして、このとき混色光(青色光+赤色光)が照射された左側レーンマークの色度を、右側レーンマークの色度と共に測定した。また、レーンマークの視認性の評価を、4人の被験者の各々の印象に基づく官能評価により行った。
【0090】
(3)実験結果
図8は、レーンマークの視認性の評価を、被験者4人分の印象として集計した結果を示す表である。被験者4人分の印象は、同図の表中の各枠内に記載したとおりである。
【0091】
また、図9は、レーンマークの色度と評価との関係を示す図である。被験者4人分の印象に基づくレーンマークの視認性の評価結果を、同図において大まかなエリア分けをして示した。
【0092】
(4)知見
図8の表に示すように、青色光と赤色光との混色比率により、また、ヘッドランプからの照射光に対する混色光の割合によって、被験者4人分の印象は異なったものとなった。
【0093】
そして、同表中において太枠で囲んだ部分(すなわち、青色光の比率が75%以上でかつ混色光の割合(色光割合)が4.5%または8.0%の場合、および、青色光の比率が25〜75%でかつ色光割合が8.0%の場合)に、周辺視野での視認性が特に向上することが分かった。
【0094】
この太枠で囲んだ部分は、図9に示す色度図上においても高評価エリアとして把握することができた。この高評価エリアは、ECE規格で規定された白色の範囲内における青色光寄りの部分およびこの白色の範囲から青色光側に多少外れた部分までのエリアとなった。
【0095】
したがって、太枠で囲んだ部分の混色比率および色光割合の照射光でレーンマークを照射して、これによりレーンマークの色度が所定の色度範囲となるようにすれば、レーンマークの視認性を十分に高めることができるものと考えられる。
【0096】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0097】
本実施形態に係る車両用照明灯具10は、ロービーム用配光パターンPLに対してレーンマーク照射用配光パターンPAを重畳的に形成し得る構成となっているが、レーンマーク照射用配光パターンPAを形成するための付加灯具ユニット30は、上記知見に基づき、青色光を照射する構成が採用されているので、レーンマークLM1の視認性を十分に高めることができる。
【0098】
しかも、レーンマークLM1は一般に白線であるので、このレーンマークLM1が青色光で照射されることにより、レーンマークLM1の視認性を一層高めることができる。
【0099】
このように本実施形態によれば、ロービーム用配光パターンPLに対してレーンマーク照射用配光パターンPAを重畳的に形成し得るように構成された車両用照明灯具10において、レーンマークLM1の視認性を十分に高めることができる。
【0100】
特に本実施形態においては、付加灯具ユニット30の光源として、青色光を発光する発光素子32(具体的には青色発光ダイオード)が用いられているので、簡易な構成により、レーンマーク照射用配光パターンPAを青色光で形成することが可能となる。
【0101】
また本実施形態においては、基本灯具ユニット20の光源として、ハロゲンバルブ(具体的にはH4ハロゲンバルブ22)が用いられているので、放電バルブ等を光源とする場合に比して、色温度が低い白色光によりロービーム用配光パターンPLが形成されることとなる。このため、ロービーム用配光パターンPLはやや黄色味を帯びた配光パターンとなり、レーンマークLM1の視認性がやや低下することとなる。したがって、本実施形態のように、付加灯具ユニット30により、レーンマーク照射用配光パターンPAを青色光で形成することが特に効果的である。
【0102】
さらに本実施形態においては、レーンマーク照射用配光パターンPAの最大輝度が、ロービーム用配光パターンPLにおけるレーンマーク照射用配光パターンPAとの重複部分の最大輝度に対して、10%以下の値に設定されているので、レーンマーク照射用配光パターンPAの輝度が高くなりすぎて、青味が強くなり、自車ドライバに違和感を与えてしまうような事態が発生するのを未然に防止することができる。
【0103】
また、このように少量の青色光でレーンマークLM1の視認性向上効果が得られるので、ロービーム用配光パターンPLがやや黄色味を帯びているにもかかわらず、自車ドライバに違和感を与えてしまうおそれをなくすことができる。
【0104】
しかも、このように少量の青色光でレーンマークLM1の視認性向上効果が得られるので、発光素子32に電流制限抵抗を接続しただけの安価な灯具構成を採用することも可能となる。
【0105】
上記実施形態において、レーンマーク照射用配光パターンPAは、ロービーム用配光パターンPLが形成される際に、常に重畳的に形成されるようにしてよいことはもちろんであるが、レーンマークLM1等の視認性を高める必要があるときにだけ重畳的に形成されるようにしてもよい。
【0106】
上記実施形態においては、レーンマーク照射用配光パターンPAの最大輝度が、ロービーム用配光パターンPLにおけるレーンマーク照射用配光パターンPAとの重複部分の最大輝度に対して、10%以下の値に設定されているものとして説明したが、これを8%以下の値に設定されたものとすれば、自車ドライバに違和感を与えてしまうおそれを略確実に無くすことができる。
【0107】
上記実施形態においては、レーンマーク照射用配光パターンPAを形成するための付加灯具ユニット30が、青色光を照射する構成となっている場合について説明したが、青色光を含む混色光を照射する構成とした場合においても、上記実験研究の結果からも明らかなように、上記実施形態と略同様の作用効果を得ることができる。
【0108】
この場合において、青色光を含む混色光を、青色光と赤色光との混色光とすれば、人間の肌に対する反射率が高い赤色光により、レーンマークLM1だけでなく歩行者の視認性も高めることができる。なお、これを実現するための具体的な構成としては、例えば、発光素子32の構成として、青色光を発光する発光チップ32aに隣接して赤色光を発光する発光チップが配置された構成を採用することが可能である。
【0109】
上記実施形態においては、基本灯具ユニット20が、路肩側のレーンマークLM1を照射するレーンマーク照射用配光パターンPAを形成するように構成されているが、センタラインのレーンマークLM2あるいは対向車線側のレーンマークLM3を照射するレーンマーク照射用配光パターンを形成する構成とすることももちろん可能である。
【0110】
上記実施形態においては、ロービーム用配光パターンPLに対してレーンマーク照射用配光パターンPAを重畳的に形成する場合について説明したが、ハイビーム用配光パターンに対してレーンマーク照射用配光パターンPAを重畳的に形成するようにした場合においても、上記実施形態と略同様の作用効果を得ることができる。
【0111】
上記実施形態においては、基本灯具ユニット20の光源がH4ハロゲンバルブ22である場合について説明したが、放電バルブあるいは白色発光ダイオード等を光源とする場合においても、上記実施形態と略同様の作用効果を得ることができる。
【0112】
上記実施形態においては、左側通行で用いられる車両用照明灯具10の構成について説明したが、この車両用照明灯具10と左右対称の構成とすれば、これを右側通行に適したものとすることができる。
【0113】
なお、上記実施形態において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0114】
10 車両用照明灯具
12 透光カバー
14 ランプボディ
16 エクステンションパネル
20 基本灯具ユニット
22 H4ハロゲンバルブ
24 リフレクタ
24a 反射面
30 付加灯具ユニット
32 発光素子
32a 発光チップ
34 レンズ
100 二分視野装置
102L、102R 積分球
104 連結部分
106 プリズム
106L、106R プリズム面
108L、108R 白色光源部
110 LED光源部
112 測定器
CL1 水平カットオフライン
CL2 斜めカットオフライン
E エルボ点
LM1 路肩側のレーンマーク
LM2 センタラインのレーンマーク
LM3 対向車線側のレーンマーク
PA レーンマーク照射用配光パターン
PL ロービーム用配光パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドランプ用配光パターンを形成するための基本灯具ユニットと、レーンマーク照射用配光パターンを上記ヘッドランプ用配光パターンに重畳させて形成するための付加灯具ユニットと、を備えた車両用照明灯具において、
上記付加灯具ユニットが、青色光または青色光を含む混色光を照射するように構成されている、ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
上記青色光を含む混色光が、青色光と赤色光との混色光である、ことを特徴とする請求項1記載の車両用照明灯具。
【請求項3】
上記付加灯具ユニットの光源が、青色光または青色光を含む混色光を発光する発光素子である、ことを特徴とする請求項1または2記載の車両用照明灯具。
【請求項4】
上記基本灯具ユニットの光源が、ハロゲンバルブである、ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の車両用照明灯具。
【請求項5】
上記レーンマーク照射用配光パターンの最大輝度が、上記ロービーム用配光パターンにおける上記レーンマーク照射用配光パターンとの重複部分の最大輝度に対して、10%以下の値に設定されている、ことを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の車両用照明灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−124003(P2011−124003A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278211(P2009−278211)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】