説明

車両用空調ダクトおよびその製造方法

【課題】軽量性、断熱性、剛性、耐衝撃性、温度および湿度の変化に対する耐久性に優れ、加えてフランジ部の見掛け密度を起立壁および片側壁の見掛け密度より高く形成して車両構成部材の内壁面に対する接着性を向上させた車両用空調ダクトを得る車両用空調ダクトおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】車両用空調ダクト1は、車両構成部材2の内壁面に接着することで通風流路3を形成するダクト構成部材4を備えてなる。ダクト構成部材4は起立壁5、5および片側壁6からなる半殻形状をなしている。起立壁5の端末には、車両構成部材2の内壁面に接着するフランジ部7が長手方向に沿って形成されている。ダクト構成部材4は発泡状態の熱可塑性樹脂からなり、フランジ部7の見掛け密度を起立壁5および片側壁6の見掛け密度より高くし成形してあるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるルーフサイド等の車両内装部材に取り付けてダクトを構成する車両用空調ダクトおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両におけるルーフパネルに取り付けてダクトを構成する発泡樹脂からなるダクト部材、およびそのダクト部材を発泡樹脂シートを用いて真空成形する方法は、特開2005−112199号公報に記載されている。また、ルーフダクトについては特開2001−196111号公報に、インストルメントパネルダクトについては特開平9−109733号公報にそれぞれ記載されている。
【0003】
前掲のダクト部材を発泡樹脂シートを用いて真空成形する方法にあっては、予め所定の大きさに裁断された熱可塑性樹脂シートの端部を把持したもとで電熱ヒータ等により加熱して軟化状態とし、この軟化した熱可塑性樹脂シートを金型の成形面に吸引密着させて成形する方法である。
【0004】
ところがこの成形方法を用いた場合、予め用意した常温の熱可塑性樹脂シートは成形時に電熱ヒーター等の輻射熱を照射して軟化状態とするため、特に発泡樹脂の場合にはシートの内部まで均一に溶融状態とすることが困難であり、溶融状態で押出しされたシートと比べて熱量が小さく、金型キャビティへの追随性が悪く、車両用ルーフダクト部材のように成形形態が複雑でしかも形状が大なるものの場合には成形精度の低下が避けられないなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−112199号公報
【特許文献2】特開2001−196111号公報
【特許文献3】特開平9−109733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、車両構成部材の内壁面に接着することで通風流路を形成するダクト構成部材で起立壁および片側壁からなる半殻形状をなし、起立壁の端末に、車両構成部材の内壁面に接着するフランジ部を長手方向に沿って形成してなる車両用空調ダクトを、熱可塑性発泡樹脂シートを溶融状態でシート状に押出して成形するシートブロー成形、または熱可塑性発泡樹脂を溶融状態で筒状に押出したパリソンをブロー成形することにより、形態が複雑で形状が大きいものであっても、高い精度をもって容易に成形することができ、軽量性、断熱性、剛性、耐衝撃性、温度および湿度の変化に対する耐久性に優れた、加えてフランジ部の見掛け密度を起立壁および片側壁の見掛け密度より高く形成して車両構成部材の内壁面に対する接着性を向上させた車両用空調ダクトを得ること目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両構成部材の内壁面に接着することで通風流路を形成するダクト構成部材で起立壁および片側壁からなる半殻形状をなし、起立壁の端末に、車両構成部材の内壁面に接着するフランジ部を長手方向に沿って形成してなる車両用空調ダクトであって、前記ダクト構成部材は発泡状態の熱可塑性樹脂からなり、前記フランジ部の見掛け密度を起立壁および片側壁の見掛け密度より高くしたことを特徴とする車両用空調ダクトである。
【0008】
また本発明は、車両構成部材の内壁面に接着することで通風流路を形成するダクト構成部材で起立壁および片側壁からなる半殻形状をなし、起立壁の端末に、車両構成部材の内壁面に接着するフランジ部を長手方向に沿って形成してなる車両用空調ダクトの製造方法であって、押出機から溶融状態の熱可塑性発泡樹脂を押し出して分割金型間に配置し、次いで、前記分割金型を型締めして熱可塑性発泡樹脂を金型のキャビティに密着させて起立壁および片側壁を成形するとともに、前記分割金型の型締めにより金型の合わせ面で熱可塑性発泡樹脂を押し潰して気泡を押し潰して気泡が除去されたフランジ部を成形することを特徴とする車両用空調ダクトの製造方法である。
【0009】
本発明においては、フランジ部の車両構成部材の内壁面に接着する面に長手方向に沿って突条または凹溝を形成することが好適である。金型の合わせ面で熱可塑性発泡樹脂を押し潰して形成されるフランジ部は、発泡倍率を低下させて起立壁および片側壁より見掛け密度を高くする。起立壁および片側壁の見掛け密度は、空調ダクトとして機能と強度、形状保持のための剛性を考慮すると0.18〜0.35g/cm3とするのが適切である。そして、フランジ部の見掛け密度をDf、起立壁および片側壁の見掛け密度をDwとすれば、1.5Dw<Df<5.0Dwとするのが、フランジ部の気密性、平滑性、寸法安定性および強度性の向上に大きく寄与するものとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、形態が複雑で形状が大きいものであっても、高い精度をもって容易に成形することができ、軽量性、断熱性、剛性、耐衝撃性、温度および湿度の変化に対する耐久性に優れ、加えてフランジ部の見掛け密度を起立壁および片側壁の見掛け密度より高く形成して車両構成部材の内壁面に対する接着性を向上させた車両用空調ダクトを得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る車両用空調ダクトの一部を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る車両用空調ダクトを車両のルーフに備えた態様を一部破断して示す自動車の側面図である。
【図3】本発明に係る車両用空調ダクトを車両のルーフに備えるものとした態様の斜視図および破断線円内の拡大断面図である。
【図4】本発明に係る車両用空調ダクトを車両のルーフに備えた態様を示す斜視図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】図4のB−B断面図である。
【図7】本発明に係る車両用空調ダクトの製造方法の一例を示す断面図および破線円内の拡大図であって、分割金型内に熱可塑性樹脂樹脂シートを配置した工程を示している。
【図8】図7に示す次工程であって、分割金型を閉じた工程を示す断面図である。
【図9】図8に示す次工程であって、熱可塑性発泡樹脂シートを一方の金型のキャビティに真空吸引させるとともに他方の金型のキャビティから圧力流体を導入して車両用空調ダクトを真空・圧空成形する工程を示す断面図である。
【図10】図9に示す次工程であって、分割金型を開いて成形された車両用空調ダクトを取り出す工程を示す断面図および破線楕円内の拡大図である。
【図11】本発明に係る車両用空調ダクトの製造方法の他の成形態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1ないし図6において、1は車両用空調ダクトである。この車両用空調ダクト1は車両構成部材2の内壁面に接着することで通風流路3を形成する断面が略コ字状のダクト構成部材4を備えてなるものであり、ダクト構成部材4は起立壁5および片側壁6からなる半殻形状をなしている。そして、起立壁5の端末には、ルーフトリム、ピラートリム、インストルメントパネル等の車両構成部材2の内壁面に接着するフランジ部7が長手方向に沿って形成されている。ダクト構成部材4は発泡状態の熱可塑性樹脂からなり、フランジ部7の見掛け密度を起立壁5および片側壁6の見掛け密度より高くし成形してあるものである。また、フランジ部7には、その車両構成部材2の内壁面に接着する面に長手方向に沿って複数条の凹溝8が形成されている。この凹溝8は図3において破線矢印で指し示すように突条8aであってもよい。
【0013】
図2、図3、図4および図6には、本発明に係る車両用空調ダクトを車両のルーフパネルに備えた態様を例示している。すなわち、ダクト構成部材4は、車両におけるルーフパネル9のルーフトリム10の内面の所定位置に取り付けてルーフにおける空調ダクト11を構成するが、ダクト構成部材4はそのフランジ部7の接着面をホットメルト接着剤によってルーフパネル9のルーフトリム10に接着する。フランジ部7の接着面は凹溝8を形成した凹凸面をなしているので、それに沿ってホットメルト接着剤を塗布しやすく、高い接着強度および気密性をもってルーフパネル9のルーフトリム10に対してダクト部材4が取り付けられる。なお、12は空調空気吹き出し口である。
【0014】
図7ないし図10において、13,14は分割金型であって、13はその一方の金型、14は他方の金型である。15は一方の金型13のキャビティ、16は他方の金型14のキャビティである。17は真空吸引室、18は吸引孔、19は圧力流体導入孔である。一方の金型13のキャビティ15は吸引孔18により真空吸引室17に通じている。他方の金型14のキャビティ6には圧力導入孔19が開口している。20はフランジ成形部、21はピンチオフ部である。23は熱可塑性発泡脂シートである。フランジ成形部20は、その車両内装部材に対する接着面を成形する側に接着強度および気密性を高めるための凹凸形状に形成する凹凸部24を設けてある。
【0015】
熱可塑性発泡樹脂シート23は、Tダイ(図示せず)より溶融状態で押し出された熱可塑性発泡樹脂を一対のローラ25、25によって挟圧されて形成され、分割金型13、14内に垂下させた状態で配置される(図7)。この工程においては熱可塑性発泡樹脂シート23の厚み、肉厚分布などを調整することができる。次いで分割金型13,14を閉じて熱可塑性発泡樹脂シート13をフランジ部20、ピンチオフ部21、凹凸部24を有する金型合わせ面で挟み(図8)、気泡を除去するとともに一方の金型13のキャビティ15から吸引孔18を通じて真空吸引室17に真空吸引することにより、熱可塑発泡性樹脂シート23を一方の金型13のキャビティ15に吸着させてそのキャビティ15の形状に沿った形状に成形するとともに、他方の金型14のキャビティ16に圧力導入孔19から圧力流体を導入してダクト構成部材4を成形する(図9)。また、フランジ成形部20で押し潰して気泡を除去する場合、金型の型締め力を調節することで気泡を除去する割合を調整することが可能であり、これによりダクト構成部材4のフランジ部7の見かけ密度を調整することができる。ここで、見かけ密度は起立壁5、片側壁6、フランジ部7の各3点からサンプル片を切り出し、各サンプル片の重量をサンプル片の体積で除した値を各々算術平均して各部位の見かけ密度とする。
【0016】
次いで分割金型13、14内でダクト構成部材4の冷却後、分割金型13、14を開いてダクト構成部材4を離型して外周のバリ26を切除するが、ダクト構成部材4のフランジジ部7、7の外周には薄肉溝状のバリ切り取り案内溝27が分割金型13、14のピンチオフ部21によって形成されるので、バリ26の切除を容易かつ的確に行うことができる(図10)。
【0017】
本発明に係る車両用ルーフダクト部材の成形方法は、図11に示すように、熱可塑性発泡樹脂を溶融状態で押出ヘッド28から筒状に押出した熱可塑性発泡樹脂パリソン29を分割金型30、30間に配置し、次いで、分割金型30、30を閉じてダクト構成部材をブロー成形することができる。なお、ブロー成形によりダクト構成部材を成形すると、それを閉じるように片側壁6と対向する不要な壁面が形成されるので、後工程でそのバリを切除して完成した態様のダクト構成部材とする。
【0018】
本発明の車両用空調ダクトの製造方法においては、Tダイから押し出される溶融状態の熱可塑性発泡樹脂シート23、または押出ヘッド28から押し出される溶融状態の熱可塑性発泡樹脂パリソン29の押出速度が設定される。すなわち、アキュムレータに接続される押出機の押出能力は樹脂成形品の大きさにより適宜選択することが可能であるが、100kg/時以上であることが成形サイクルを短縮させる観点から好ましい。また、ドローダウンの発生を防止する観点からTダイからの熱可塑性発泡樹脂シート23、または押出ヘッド28からの熱可塑性発泡樹脂パリソン29の押出し工程は40秒以内、さらに好ましくは30秒以内に完了する必要がある。このため、アキュムレータのアキュム室に貯留された熱可塑性樹脂はTダイまたは押出ヘッド28のスリットの開口から1cm2当り50kg/時以上、好ましくは60kg/時以上で押出されるようにする。
【符号の説明】
【0019】
1 車両用空調ダクト
2 車両構成部材
3 通風流路
4 ダクト構成部材
5 起立壁
6 片側壁
7 フランジ部
8 凹溝
8a 突条
9 ルーフパネル
10 ルーフトリム
11 空調ダクト
12 空調空気吹き出し口
13、14 分割金型
15 キャビティ
16 キャビティ
17 真空吸引室
18 吸引孔
19 圧力導入孔
20 フランジ成形部
21 ピンチオフ部
23 熱可塑性発泡脂シート
24 凹凸部
25、25 一対のローラ
26 バリ
27 バリ切り取り案内溝
28 押出ヘッド
29 熱可塑性発泡樹脂パリソン
30、30 分割金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両構成部材の内壁面に接着することで通風流路を形成するダクト構成部材で起立壁および片側壁からなる半殻形状をなし、
起立壁の端末に、車両構成部材の内壁面に接着するフランジ部を長手方向に沿って形成してなる車両用空調ダクトであって、
前記ダクト構成部材は発泡状態の熱可塑性樹脂からなり、
前記フランジ部の見掛け密度を起立壁および片側壁の見掛け密度より高くした
ことを特徴とする車両用空調ダクト。
【請求項2】
フランジ部には、その車両構成部材の内壁面に接着する面に長手方向に沿って突条または凹溝を形成してあることを特徴とする請求項1記載の車両用空調ダクト。
【請求項3】
車両構成部材の内壁面に接着することで通風流路を形成するダクト構成部材で起立壁および片側壁からなる半殻形状をなし、
起立壁の端末に、車両構成部材の内壁面に接着するフランジ部を長手方向に沿って形成してなる車両用空調ダクトの製造方法であって、
押出機から溶融状態の熱可塑性発泡樹脂を押し出して分割金型間に配置し、
次いで、前記分割金型を型締めして熱可塑性発泡樹脂を金型のキャビティに密着させて起立壁および片側壁を成形するとともに、
前記分割金型の型締めにより金型の合わせ面で熱可塑性発泡樹脂を押し潰して気泡を押し潰して気泡が除去されたフランジ部を成形する
ことを特徴とする車両用空調ダクトの製造方法。
【請求項4】
金型の合わせ面は、フランジ部に突条または凹溝を形成する成形面をなしていて、フランジ部の車両構成部材の内壁面に接着する面に長手方向に沿って突条または凹溝を形成することを特徴とする請求項3記載の車両用空調ダクトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−31751(P2011−31751A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180170(P2009−180170)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】