説明

車両用空調制御装置

【課題】 ブロアファンの風量制御をコンプレッサの作動停止に対応して適切に実行して、車両用空調装置に於ける省動力化或いは燃費改善を達成する車両用空調制御装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の冷凍サイクルにより車室内の冷房を実行する車両用空調装置のための空調制御装置は、コンプレッサの停止中に於いて、エバポレータの通過後の空気温度と車室内温度とに基づいてブロアファンの風量の増減調節をする風量調節手段を有し、コンプレッサ又はブロアファンの作動時間又は仕事量を節約して、空調装置に於ける省動力化及び燃費改善を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用の空調装置の分野に係り、より詳細には、車両用空調装置のブロアファン(送風機)の制御に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用空調装置に於いて、車室内の冷房が実行される場合には、コンプレッサ、コンデンサ、膨張弁、エバポレータ等からなる冷凍サイクルを実行するシステムを作動し、エバポレータに対してブロアファンにて送風し、車室内に冷気が吹出される。特に、システム内の冷媒ガスを圧縮して循環するコンプレッサは、車両のエンジン又は駆動ユニットの駆動出力軸に連結され回転駆動されるので、省動力化、燃費の改善や加速性能の向上の目的で、所定の条件に於いてコンプレッサの一時的な作動停止又は仕事量の低減が実行される。典型的には、コンプレッサは、エバポレータの温度が目標温度値又は目標温度範囲まで低減すると、作動が停止され、エバポレータの温度が上昇すると、再作動されるといった間歇的な作動制御が為される。例えば、エバポレータの過冷却を抑制すべく、エバポレータの温度に応じてコンプレッサの動作時間を制御する例は、特許文献1に記載されている。また、車両の加速時に加速性能を向上すべく、コンプレッサの作動停止を実行する制御の例が、特許文献2−4等に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−99073
【特許文献2】特開平5−58151
【特許文献3】特開2004−249897
【特許文献4】特開2005−289215
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両用空調装置のブロアファンの作動は、車室温度、外気温度及び/又は日射量に基づいて制御されているので、車両の走行中、ブロアファンの風量、即ち、作動量は、車室温度等が変化しない限り変化されない。かかる制御態様に於いて、上記の如くコンプレッサの作動が停止されると、エバポレータの温度上昇に伴って車室温度が上昇し、ブロアファンの風量が増大されることとなる。そうすると、車室内の快適性の影響は少ないが、コンプレッサの再作動が早まり、コンプレッサの作動停止時間が短くなって、その分、コンプレッサのエネルギー消費量が増大することとなる。また、ブロアファンの風量制御が車室温度等のみによる場合、コンプレッサの作動開始に対するブロアファンの風量制御の応答は遅いので、風量が比較的高い状況が継続することとなる。これらの現象は、省動力化、燃費改善の観点から好ましくない。
【0005】
かくして、本発明の一つの目的は、ブロアファンの風量制御をコンプレッサの作動停止に対応して適切に実行して、車両用空調装置に於ける省動力化或いは燃費改善を達成する車両用空調制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の課題は、冷凍サイクルにより車室内の冷房を実行する車両用空調装置のための空調制御装置であって、コンプレッサの停止中に於いて、エバポレータの通過後の空気温度と車室内温度とに基づいてブロアファンの風量の増減調節をする風量調節手段を有する装置によって達成される。
【0007】
上記の構成によれば、コンプレッサの停止中に於いては、車両用空調装置のブロアファンの風量が、車室内温度だけではなく、エバポレータの通過後の空気温度を参照して制御されることとなる。そうすると、結果として、コンプレッサの停止中の車室内温度の上昇が抑制され、コンプレッサ又はブロアファンにより消費されるエネルギー量の低減が図られることとなる。例えば、一つの態様として、コンプレッサの停止中に於いて車室内温度とエバポレータの通過後の空気温度とがそれぞれ目標温度値又は目標温度範囲にあるときには、ブロアファンの風量が一時的に低減されてよい。そうすると、エバポレータの通過後の空気温度の上昇が鈍くなり、コンプレッサの作動開始を遅らせ、コンプレッサの作動停止期間が延長されることとなる。また、もう一つの態様として、コンプレッサの停止中に於いて車室内温度とエバポレータの通過後の空気温度とがそれぞれ目標温度値又は目標温度範囲にあるときには、ブロアファンの風量が一時的に増大されてよい。そうすると、エバポレータの通過後の空気温度が上昇しやすくなってコンプレッサの作動開始が早まるが、車室内温度が低下することとなるので、ブロアファンの風量がコンプレッサの作動開始後も低減される。上記の本発明の風量制御によれば、該制御を実行しない場合に比して、コンプレッサの作動停止期間の延長或いはブロアファンの風量低減が達成され、コンプレッサ又はブロアファンの消費エネルギーの節約が達成されることとなる。
【0008】
なお、上記の風量制御は、基本的には、コンプレッサの停止中に於いてのみ実行されてよい。コンプレッサの作動が復帰したときには、通常の態様にて車室内温度等に基づいて風量制御が実行されてよい。
【発明の効果】
【0009】
かくして、上記の本発明によれば、空調装置のブロアファンの風量制御が、車室内温度と共に、コンプレッサの作動状態とエバポレータの状態とを参照して為されることにより、コンプレッサ又はブロアファンの作動時間又は仕事量の節約が図られる。そして、これにより、空調装置に於ける省動力化及び燃費改善の効果が期待されることとなる。
【0010】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明による車両用空調装置の制御装置の構成をブロック図の形式で表した図である。
【図2】図2は、車両用空調装置に於ける車室内温度に対するブロワの風量の目標量の例をグラフの形式で表した図である。
【図3】図3は、本発明による車両用空調装置の制御装置の風量制御に於ける処理をフローチャートの形式で表した図である。
【図4】図4は、車両用空調装置に於けるコンプレッサの作動停止期間前後の車室内温度、ブロワ風量及びエバポレータ通過後の空気温度の時間変化を模式的に表した図である。(A)は、本発明による制御を実行しない場合の例であり、(B)は、本発明によるブロワ省電力制御を実行した場合の例であり、(C)は、本発明による車室内蓄冷制御を実行した場合の例である。
【符号の説明】
【0012】
10…空調用電子制御装置
12…車室内温度設定器
14…ブロワファンモーター制御装置
16…コンプレッサ用クラッチの制御装置
20…外気温度センサ
22…日射量センサ
24…車室内温度センサ
26…エバポレータ後空気温度センサ
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0014】
装置の構成
本発明の制御装置が適用される車両用空調装置(図示せず)は、冷凍サイクルを用いて車室内の冷房を実行する任意の空調装置であってよい。端的に述べれば、空調装置の冷凍サイクルを実現するシステムは、車両のエンジン又は駆動ユニットの駆動出力軸にクラッチを介して選択的に連結されて回転駆動されるコンプレッサと、コンプレッサからの高温高圧の冷媒ガスを受容して冷媒を液体に凝縮するコンデンサと、凝縮された冷媒液体から水分やゴミを除去するドライヤと、高圧冷媒液体を噴霧して低圧に曝す膨張弁と、冷媒液体を気化させるエバポレータと、エバポレータを通して空気を車室内へ吹き出すべく送風を行うブロワファンとからなる。
【0015】
上記の車両用空調装置の作動は、図1にブロック図の形式にて模式的に示された本発明による制御装置を実現する空調ECU(電子制御ユニット)10にて制御される。ECU10は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。ECU10には、運転者又は乗員による車室内の希望温度の設定を可能にする車室内温度設定器12からの希望設定温度と、外気温度センサ20からの外気温度と、日射量センサ22からの日射量と、車室内温度センサからの車室内温度と、エバポレータ通過後の空気温度を検出する温度センサ26からの温度(エバポレータ後空気温度)とが入力される。そして、ECU10は、これらの情報を用いて、記憶装置(図示せず)に記憶されたプログラムに従ってコンプレッサ用のクラッチの制御装置16に対して、クラッチの作動制御のための制御信号を送信し、これにより、エンジン又は駆動ユニットの駆動出力軸とコンプレッサの入力軸との選択的な作動連結状態が制御され、コンプレッサの作動又は停止が為される。また、ブロワファンについては、後述の態様にて風量制御が為されるべく、記憶装置に記憶されたプログラムに従ってECU10からブロワファンのモーターの制御装置14に対して制御信号が送信され、これにより、ブロワファンのモーターの回転数が制御されて風量の調節が為されることとなる。
【0016】
装置の作動
図1の制御装置に於いて、空調装置の作動が運転者又は乗員により指示されると、基本的には、コンプレッサ用のクラッチがエンジン又は駆動ユニットの駆動出力軸とコンプレッサの入力軸とを作動的に連結してコンプレッサを作動させてシステム内に於ける冷媒の循環を開始すると共に、ブロワファンモーターを回転して、車室内への送風が開始される。ここに於いて、コンプレッサの作動は、加速性能向上のための加速カット制御等が実行されない限りは、基本的には、エバポレータ通過後の空気温度に基づいて、希望設定温度に対応して適合により設定されるエバポレータ温度が目標値又は目標範囲まで低減すると、停止され、エバポレータ温度が目標値又は目標範囲よりも上昇すると、コンプレッサの作動が再開される。一方、ブロワファンの作動に於いては、基本的には、外気温度、日射量及び車室内温度に基づいて、車室内温度が希望設定温度となるように風量の増減が為される。より詳細には、例えば、図2中の実線にて描かれている如く、車室内温度と希望設定温度との差分(車室内温度−希望設定温度)に基づいて、差分が大きいときに、風量が増大され、車室内温度が希望設定温度に近づくと、風量が低減されるよう、ブロワファンモーターの回転が増減制御される。
【0017】
上記の制御態様に於いて、既に触れた如く、コンプレッサの作動停止が為された際、ブロワファンの作動を車室内温度等に基づいて制御すると、車室内温度の上昇と共に(車両の走行環境は、通常、短期間には変化しないので、外気温度と日射量は殆ど変化しない。)、ブロワファンの風量が増大する。そうすると、エバポレータ温度の上昇が早くなり、(ブロワファンの風量の増大がなかった場合に比して)コンプレッサの作動停止期間が短くなるので、結局、ブロワファンとコンプレッサのエネルギー消費量が増大することとなる(図4(A)参照)。
【0018】
そこで、本発明の制御に於いては、コンプレッサの作動停止中については、車室内温度だけでなく、エバポレータ温度(エバポレータ通過後の空気温度を参照する。)も考慮に入れて、ブロワファンの風量制御が実行される。図3は、かかる本発明の制御装置のブロワファンの風量制御についての処理をフローチャートの形式にて表している。なお、同図の制御処理は、空調装置の作動中(運転者又は乗員により指示される)に於いて、記憶装置(図示せず)に記憶されたプログラムに従った空調ECU10の作動により反復して実行される。
【0019】
図3を参照して、ブロワファンの風量制御処理に於いては、コンプレッサが停止中か否か(ステップ10)、車室内温度が目標温度範囲内にあるか否か(ステップ20)、エバポレータ温度が目標温度範囲内にあるか否か(ステップ30)がそれぞれ判定される。既に触れた如く、コンプレッサは、エバポレータ温度が目標値又は目標範囲まで低減すると停止され、目標値又は目標範囲よりも上昇すると作動が再開される。車室内温度に対する目標温度範囲は、希望設定温度値又は希望設定温度を含む所定の範囲に設定される。エバポレータ温度に対する目標温度範囲は、車室内温度が希望設定温度となるように実験等による適合によって設定される。具体的には、エバポレータ温度に対する目標温度範囲は、希望設定温度を変数としたマップを用いて決定されてよい。なお、エバポレータ温度としては、上記の如く、エバポレータ通過後の空気温度が参照される。
【0020】
上記の一連の判定処理に於いて、コンプレッサが作動中であるか、車室内温度が目標温度範囲内にないか、或いは、エバポレータ温度が目標温度範囲内にないときには、ブロワファンの風量制御は、通常制御にて実行される(ステップ50)。即ち、図2中の実線αにて例示されている如き関係を用いて、車室内温度に対して目標風量が決定され、その風量を実現する回転数にてブロワファンモーターの回転作動が指示される。
【0021】
一方、コンプレッサが停止中であり、車室内温度が目標温度範囲内に在り、且つ、エバポレータ温度が目標温度範囲内に在るとき、通常制御とは異なる態様にて、風量制御が実行される(ステップ40)。通常制御とは異なる制御は、次の二つの態様のいずれかであってよい。
【0022】
第一の制御態様としては、ブロワファンの風量が、図2の一点鎖線βの如く、通常よりも低減される((a)ブロワ省動力制御)。そうすると、図4(B)に描かれている如く、エバポレータ温度の上昇が、通常制御の場合よりも緩やかとなり、これにより、コンプレッサの作動再開までの期間が延長され、その分、コンプレッサの消費エネルギーの節約が為されることとなる。
【0023】
通常制御とは異なる制御の第二の態様としては、ブロワファンの風量が、図2の点線γの如く、通常よりも増大される。そうすると、図4(C)に描かれている如く、エバポレータ温度の上昇が早まり、コンプレッサの作動再開が早まるが、車室内温度が低減されるので((b)車室内蓄冷制御)、コンプレッサの作動再開後のブロワファンの風量が通常制御の場合よりも低減され、その分、ブロワファンモーターの消費エネルギーの節約が為されることとなる。
【0024】
かくして、上記の構成によれば、車室内温度と共に、コンプレッサの作動状態とエバポレータの状態とを参照して、ブロアファンの風量制御を実行することにより、コンプレッサ又はブロアファンの作動時間又は仕事量の節約が為され、省動力化及び燃費改善が達成されることとなる。
【0025】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルにより車室内の冷房を実行する車両用空調装置のための空調制御装置であって、コンプレッサの停止中に於いて、エバポレータの通過後の空気温度と車室内温度とに基づいてブロアファンの風量の増減調節をする風量調節手段を有する装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−180053(P2012−180053A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45370(P2011−45370)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】