説明

車両用空調装置

【課題】温水式暖房装置の暖房能力不足をヒートポンプ装置の併用により補う車両用空調装置において、ヒートポンプ装置の効率向上を図る。
【解決手段】車室内へ吹き出される空調用空気を、燃料電池10の冷却水を熱源として加熱するヒータコア35と、ヒートポンプ装置100の暖房運転モードにおいて圧縮機41から吐出される冷媒により空調用空気を加熱する第1、第2加熱用室内器33、34とを備え、第1加熱用室内器33をヒータコア35の空調用空気流れ下流側に配置し、第2加熱用室内器34をヒータコア35の空調用空気流れ上流側に配置し、ヒートポンプ装置100の暖房運転モードでは、圧縮機41から吐出された冷媒が、第1加熱用室内器33を通過して第2加熱用室内器34へと流れるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素との電気化学反応により発電する燃料電池を走行用駆動源とする燃料電池車両に搭載され、燃料電池の冷却水を熱源とする温水式暖房装置を備えるとともに、温水式暖房装置の暖房能力不足をヒートポンプ装置の併用により補う車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置では暖房時に温水排熱源(エンジン等)からの温水(エンジン冷却水)を暖房用ヒータコアに循環させ、このヒータコアにて温水を熱源として空調空気を加熱する温水式暖房装置を備えている。
【0003】
ところが、走行用駆動源としてエンジンの代わりに燃料電池を使用する燃料電池車両においては、燃料電池の効率が高いため、温水(冷却水)の温度が十分上昇せず、温水暖房能力の不足が発生するという問題があった。
【0004】
これに対し、温水式暖房装置とヒートポンプ装置とを併用して空調用空気を加熱することで、温水暖房能力の不足を解消する車両用空調装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この車両用空調装置では、温水温度が高温の場合にはヒートポンプ装置の圧縮機を停止し、省動力化を図っている。
【特許文献1】特開2002−120546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の車両用空調装置では、燃料電池の冷却水温度が車室内吹出空気の目標吹出温度を下回っている場合には、冷却水を暖房熱源として利用することができないため、ヒートポンプ装置の効率が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、温水式暖房装置の暖房能力不足をヒートポンプ装置の併用により補う車両用空調装置において、ヒートポンプ装置の効率向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明では、車室内へ吹き出される空調用空気を、燃料電池(10)の冷却水を熱源として加熱するヒータコア(35)と、ヒートポンプ装置(100)の暖房運転モードにおいて圧縮機(41)から吐出される冷媒により空調用空気を加熱する第1、第2室内熱交換器(33、34)とを備え、第1室内熱交換器(33)は、ヒータコア(35)の空調用空気流れ下流側に配置されており、第2室内熱交換器(34)は、ヒータコア(35)の空調用空気流れ上流側に配置されており、ヒートポンプ装置(100)の暖房運転モードでは、圧縮機(41)から吐出された冷媒が、第1室内熱交換器(33)を通過して第2室内熱交換器(34)へと流れるようになっていることを特徴としている。
【0008】
このように、圧縮機(41)から吐出される冷媒と空調用空気とを熱交換させる第1、第2室内熱交換器(33、34)の間にヒータコア(35)を配置するとともに、圧縮機(41)から吐出される高温冷媒を、ヒータコア(35)の空調用空気流れ下流側にある第1室内熱交換器(33)から流すようにすることで、ヒータコア(35)により加熱された空調用空気を、第1室内熱交換器(33)において更に加熱することができる。したがって、燃料電池(10)の冷却水温度が車室内吹出空気の目標吹出温度を下回っている場合においても、燃料電池(10)の冷却水を暖房熱源として利用することができる。
【0009】
このとき、第1室内熱交換器(33)では、ヒータコア(35)により予め加熱された空調用空気と、圧縮機(41)から吐出される高温冷媒との熱交換が行われるため、第1室内熱交換器(33)を通過した後の冷媒は十分な熱量をもっている。したがって、第1室内熱交換器(33)通過後の冷媒が流れる第2室内熱交換器(34)を、ヒータコア(35)の空調用空気流れ上流側に配設することで、ヒータコア(35)を通過する前の空調用空気を予め加熱することができる。これにより、圧縮機(41)から吐出される高温冷媒を暖房用熱源として効率良く利用することができるので、ヒートポンプ装置(100)の効率向上を図ることが可能となる。
【0010】
また、上記特徴の車両用空調装置において、ヒートポンプ装置(100)は、暖房運転モードの冷媒流路と、燃料電池(10)の暖機を行う暖機運転モードの冷媒通路とを切り替える冷媒流路切替手段(42)を有しており、暖機運転モードでは、圧縮機(41)から吐出された冷媒が、第1室内熱交換器(33)を介さずに第2室内熱交換器(34)に流れるようになっていてもよい。
【0011】
このように、暖機運転モードにおいて、ヒータコア(35)の空調空気流れ上流側にある第2室内熱交換器(34)に、圧縮機(41)から吐出された高温冷媒が第1室内熱交換器(33)を介さずに流れるようにすることで、第2室内熱交換器(34)によりヒータコア(35)を通過する前の空調用空気を加熱することができる。したがって、ヒータコア(35)において、第2室内熱交換器(34)により加熱された空調用空気と、燃料電池(10)の冷却水との熱交換を行い、冷却水を加熱することができるので、燃料電池(10)の暖機を行うことが可能となる。
【0012】
また、上記特徴の車両用空調装置において、燃料電池(10)の出口側の冷却水温度(Tw)を検出する温度検出手段(22)と、冷媒流路切替手段(42)の作動を制御する制御手段(70)とを備え、制御手段(70)は、冷却水温度(Tw)が予め定めた基準温度(Ts)以上になったとき、暖房運転モードの冷媒通路に切り替え、さらに、冷却水温度(Tw)が基準温度(Ts)を下回ったとき、暖機運転モードの冷媒通路に切り替えるようになっていてもよい。
【0013】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1〜図3により、本発明の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る車両用空調装置の全体構成図である。
【0015】
この車両用空調装置は、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池10を走行用駆動源とする車両に適用されている。本実施形態では、燃料電池10として固体高分子型燃料電池を用いており、基本単位となるセルが複数積層されて構成されている。なお、本発明は固体高分子型以外の燃料電池にも適用可能である。
【0016】
燃料電池10では、以下の水素と酸素の電気化学反応が起こり発電する。なお、水素が本発明の燃料ガスに相当し、酸素(空気)が本発明の酸化剤ガスに相当している。
【0017】
アノード(水素極)2H→4H+4e
カソード(酸素極)4H+O+4e→2H
全体 2H+O→2H
燃料電池10は発電効率確保のために運転中一定温度(例えば80℃程度)に維持する必要がある。このため、燃料電池10を冷却するための冷却システムが設けられている。冷却システムは、燃料電池10に冷却水を循環させる冷却水経路20、冷却水を循環させるウォータポンプ21、後述するヒータコア35を備えている。ヒータコア35は、燃料電池10から流出した冷却水(温水)を熱源として後述する空調ケース30内を流れる空調用空気を加熱する温水式暖房用熱交換器である。
【0018】
冷却水経路20における燃料電池10の出口側近傍には、燃料電池10から流出した冷却水温度Twを検出する冷却水温度センサ22が設けられている。この冷却水温度センサ22により冷却水温度を検出することで、燃料電池10の温度を間接的に検出することができる。なお、冷却水温度センサ22が、本発明の温度検出手段に相当している。
【0019】
また、車両用空調装置は、車室内に供給される空調用空気が流れる送風路を構成する空調ケース30を備えている。空調ケース30内には、送風機31、室内熱交換器(以下、室内器という)32〜34、ヒータコア35、エアミックスドア36が設けられている。室内器32〜34は、冷却用室内器32、第1加熱用室内器33および第2加熱用室内器34からなる。なお、第1加熱用室内器33が本発明の第1室内熱交換器に相当し、第2加熱用室内器34が本発明の第2室内熱交換器に相当している。
【0020】
これらの機器は、空調用空気流れ上流側から送風機31、冷却用室内器32、エアミックスドア36、第2加熱用室内器34、ヒータコア35、第1加熱用室内器33の順で配置されている。冷却用室内器32、第1、第2加熱用室内器33、34は、後述するヒートポンプ装置100の冷媒循環経路40内に設けられており、冷媒と空調用空気との間で熱交換を行うように構成されている。ヒータコア35は、上述のように燃料電池10の冷却水経路20に設けられており、燃料電池10から流出した冷却水と空調用空気との間で熱交換を行うように構成されている。
【0021】
エアミックスドア36は、加熱用室内器33、34およびヒータコア35の上流側に設けられており、図示しない電気モータ等によって作動するように構成されている。エアミックスドア36は、車室内への吹出空気の温度調整手段であって、加熱用室内器33、34およびヒータコア35をバイパスするバイパス通路37を通過する冷風と加熱用室内器33、34およびヒータコア35を通過する温風との風量割合を調整して吹出空気の温度を調整する。このエアミックスドア36は、後述する制御装置70の出力信号によって開度制御が行われる。
【0022】
また、空調ケース30内のうち、第1加熱用室内器33の空気吹出直後の部位には、第1加熱用室内器33を通過した直後の空気の温度を検出する吹出温度センサ38が設けられている。
【0023】
また、車両用空調装置は、車室内へ送風される室内送風空気を加熱して車室内を暖房する暖房運転モードと、室内送風空気を冷却して車室内を冷房する冷房運転モードと、燃料電池10の暖機を行う暖機運転モードとを切替可能なヒートポンプ装置100を備えている。なお、以下、暖房運転モードおよび冷房運転モードを空調運転モードともいう。
【0024】
ヒートポンプ装置100には、冷媒が循環する冷媒循環経路40が設けられている。冷媒循環経路40は、内部に冷媒が封入された配管として構成されている。冷媒としては、例えばHFC−134aやCOなどを用いることができる。
【0025】
冷媒循環経路40の経路内には、冷媒を吸入し、圧縮して吐出する圧縮機41が設けられている。圧縮機41は、図示しない交流モータ等により駆動される電動圧縮機であって、モータ回転数を制御することにより吐出能力(吐出冷媒流量)を調整できる。本実施形態では、圧縮機41のモータ回転数調整手段としてインバータ(図示せず)を備えている。なお、圧縮機41として、吐出容量を可変することにより、その吐出能力を調整できる方式のものを用いてもよい。
【0026】
圧縮機41の吐出口側には、電気式四方弁42が接続されている。電気式四方弁42は、圧縮機41吐出口側と第1加熱用室内器33との間および第2加熱用室内器34と後述する第1膨張弁46との間を同時に接続する冷媒回路(図1の実線矢印で示す流路)と、圧縮機41吐出口側と第2加熱用室内器34との間および第1加熱用室内器33と第1膨張弁46との間を同時に接続する冷媒回路(図1の破線矢印で示す流路)とを切り替えるものである。
【0027】
そして、電気式四方弁42が、上記の如く、流路を切り替えることによって、空調運転モードの冷媒回路および暖機運転モードの冷媒回路が切り替えられる。したがって、電気式四方弁42は、本実施形態における冷媒流路切替手段である。この電気式四方弁42も後述する制御装置70の出力信号によって制御される。
【0028】
次に、図1の実線矢印で示す回路のように、空調運転モードにおける電気式四方弁42の下流側は、第1加熱用室内器33に接続されている。そして、第1加熱用室内器33の下流側は、逆止弁43を介して、第2加熱用室内器34に接続されている。第1、第2加熱用室内器33、34は、圧縮機41により圧縮され高温となった冷媒と送風機31により送風された空調用空気とを熱交換器させるものである。
【0029】
また、冷媒循環経路40には、第1加熱用室内器33および逆止弁43をバイパスさせるための第1バイパス経路44が設けられている。第1バイパス経路44には、第1バイパス経路44を開閉可能な第1シャット弁45が設けられている。そして、空調運転モード時には、第1シャット弁45を閉鎖して、冷媒が第1加熱用室内器33および逆止弁43を流れるようにし、暖機運転モード時には、第1シャット弁45を開放して、冷媒が第1バイパス経路44を流れるようにする。
【0030】
さらに、空調運転モードにおける第2加熱用室内器34の下流側は、電気式四方弁42を介して、冷媒を減圧、膨張させる第1膨張弁(減圧手段)46に接続されている。
【0031】
また、冷媒循環経路40には、第1膨張弁46をバイパスさせるための第2バイパス経路47が設けられている。第2バイパス経路47には、第2バイパス経路47を開閉可能な第2シャット弁48が設けられている。そして、暖房運転モード時には、第2シャット弁48を閉鎖して、冷媒が第1膨張弁46を流れるようにし、冷房運転モード時には、第2シャット弁48を開放して、冷媒が第2バイパス経路47を流れるようにする。
【0032】
さらに、空調運転モードにおける第1膨張弁46および第2バイパス経路47の下流側は、室外熱交換器(以下、室外器という)49に接続されている。室外器49は、内部を通過する冷媒と室外ファン(図示せず)により送風された室外空気とを熱交換させるものである。なお、室外ファンも後述する制御装置70の出力信号によって回転数制御される。
【0033】
さらに、空調運転モードにおける室外熱交換器49の下流側は、第3シャット弁51を介して、冷媒を減圧、膨張させる第2膨張弁(減圧手段)52に接続されている。そして、第2膨張弁52の下流側は、冷却用室内器32に接続されている。冷却用室内器32は送風機31によって送風された室内空気と冷媒を熱交換させる熱交換器であり、冷却用室内器32の下流側は圧縮機41の吸入口側に接続されている。送風機31は図示しないモータによって駆動される電動ファンである。なお、送風機31も後述する制御装置70の出力信号によって回転数制御される。
【0034】
また、冷媒循環経路40には、第3シャット弁51、第2膨張弁52および冷却用室内器32をバイパスさせるための第3バイパス経路53が設けられている。第3バイパス経路53には、第3バイパス経路53を開閉可能な第4シャット弁54が設けられている。そして、暖房運転モード時には、第3シャット弁51を閉鎖し、第4シャット弁54を開放して、冷媒が第3バイパス経路53を流れるようにし、冷房運転モード時には、第3シャット弁51を開放し、第4シャット弁54を閉鎖して、冷媒が第2膨張弁52および冷却用室内器32を流れるようにする。
【0035】
図2は、本実施形態に係る車両用空調装置に設けられた制御装置(ECU)70の入出力を示すブロック図である。図2に示すように、車両用空調装置には各種制御を行う制御手段としての制御装置70が設けられている。制御装置70は、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。
【0036】
制御装置70には、冷却水温度センサ22、吹出温度センサ38等の各種センサからのセンサ信号等が入力される。また、制御装置70は、演算結果に基づいて送風機31、エアミックスドア36、圧縮機41、電気四方弁42、第1〜第4シャット弁45、48、51、54等に制御信号を出力する。なお、本実施形態では、燃料電池システムの制御および空調制御を同一の制御装置70で制御しているが、それぞれ個別にECUを設けて異なるECU間で通信を行うようにしてもよい。
【0037】
さらに、制御装置70には、空調操作パネル60が接続され、この空調操作パネル60からの各種操作信号が入力される。具体的には、空調操作パネル60には、暖房運転モードおよび冷房運転モードのいずれか一方を選択的に切り替える冷暖房切替スイッチ61、車室内吹出空気の目標吹出温度Tsetを設定する温度設定スイッチ62等が設けられている。
【0038】
次に、本実施形態に係る車両用空調装置の運転モード切替処理について図3に基づいて説明する。図3は、制御装置70がROM等に格納されたプログラムにしたがって行う運転モード切替処理を示すフローチャートである。この切替処理は、図示しない車両の始動スイッチ(イグニッションスイッチ)が投入されるとスタートする。
【0039】
まず、冷却水温度センサ22で検出された冷却水温度Twが、予め定めた基準冷却水温度Ts以上か否かを判定する(S1)。この結果、冷却水温度Twが基準冷却水温度Ts以上でない場合は(S1:NO)、燃料電池10の暖機が必要であると診断し、暖機運転モードの制御を実行する(S2)。
【0040】
暖機運転モードでは、ステップS2で、電気式四方弁42を作動して冷媒流路を図1の破線矢印で示す回路側に切り替え、第1シャット弁45および第4シャット弁54を開弁し、第2シャット弁48および第3シャット弁51を閉弁する。具体的には、電気式四方弁42は、図1の破線で示すように、圧縮機41吐出口側と第2加熱用室内器34との間および第2加熱用室内器34と第1膨張弁46との間を同時に接続するように切り替える。したがって、圧縮機41から吐出された高温高圧の気相冷媒は電気式四方弁42を通過して第2加熱用室内器34へ流入する。
【0041】
第2加熱用室内器34に流入した冷媒は送風機31より送風された室内空気と熱交換して凝縮する。したがって、第2加熱用室内器34は冷媒を放熱させて凝縮させる放熱器(凝縮器)として作用する。そして、送風機31より送風された空気は、第2加熱用室内器34において加熱され、第2加熱用室内器34の直ぐ下流側にあるヒータコア35へ向かって吹き出す。これにより、ヒータコア35内を流れる冷却水が加熱されるため、燃料電池10の暖機が行われる。
【0042】
また、第2加熱用室内器34から流出した冷媒は、第1膨張弁46において減圧された後、室外器49に流入して、室外ファン(図示せず)により送風された室外空気と熱交換して蒸発する。暖機運転モードでは、第3シャット弁51が閉鎖状態となっているとともに、第4シャット弁54が開放状態となっているので、室外器49から流出した冷媒は、再び圧縮機41に吸入される。
【0043】
したがって、室外器49は冷媒に吸熱させて蒸発させる蒸発器として作用する。このように、暖機運転モードでは、図1の破線矢印方向に冷媒が流れるサイクルを構成し、室外器49を蒸発器として作用させ、第2加熱用室内器34を放熱器として作用させるとともに、第2加熱用室内器34において加熱された空気によりヒータコア35内を流れる冷却水を加熱させることで、燃料電池10の暖機を行っている。
【0044】
一方、冷却水温度Twが基準冷却水温度Ts以上である場合は(S1:YES)、燃料電池10の暖機は不要であると診断し、冷暖房切替スイッチ61が冷房運転モード側になっているか、あるいは、暖房運転モード側になっているかを判定する(S2)。この結果、冷暖房切替スイッチ61が冷房運転モード側になっている場合は、冷房運転モードの制御を実行する(S4)。
【0045】
冷房運転モードでは、ステップS4で、電気式四方弁42を作動して冷媒流路を図1の実線矢印で示す回路側に切り替え、第1シャット弁45および第4シャット弁54を閉弁し、第2シャット弁48および第3シャット弁51を開弁する。さらに、エアミックスドア35を全閉状態として、送風機31により送風された空気が第1〜第3加熱用室内器33〜35を通過しないようにする。具体的には、電気式四方弁42は、図1の実線で示すように、圧縮機41吐出口側と第1加熱用室内器33との間および第2加熱用室内器34と第1膨張弁46との間を同時に接続するように切り替える。したがって、圧縮機41から吐出された高温高圧の気相冷媒は電気式四方弁42を通過して第1加熱用室内器33へ流入する。
【0046】
冷房運転モードでは、送風機31により送風された空気が第1、第2加熱用室内器33、34を通過しないようになっているので、第1、第2加熱用室内器33、34は単なる冷媒通路として機能する。そのため、圧縮機41から吐出された冷媒は送風空気と熱交換されることなく、第2バイパス経路47を通過して室外器49へ流入する。
【0047】
室外器49に流入した冷媒は、室外ファン(図示せず)より送風された室外空気と熱交換して凝縮する。したがって、室外器49は冷媒を放熱させて凝縮させる凝縮器として作用する。
【0048】
室外器49から流出した液相冷媒は、第2膨張弁52において減圧される。第2膨張弁52において減圧された冷媒は、冷却用室内器32に流入し送風機31により送風された室内空気と熱交換して蒸発する。したがって、冷却用室内器32は冷媒に吸熱させて蒸発させる蒸発器として作用する。そして、送風機31より送風された空気が冷却用室内器32において冷却されて室内へ吹き出し、室内の冷房が行われる。
【0049】
そして、冷却用室内器32から流出した冷媒は、再び圧縮機41に吸入される。このように、冷房運転モードでは、図1の実線矢印方向に冷媒が流れるサイクルを構成し、室外器49を凝縮器として作用させ、冷却用室内器32を蒸発器として作用させて、室内空気の冷房を行っている。
【0050】
一方、ステップS3で、冷暖房切替スイッチ61が暖房運転モード側になっている場合は、暖房運転モードの制御を実行する(S5)。
【0051】
暖房運転モードでは、ステップS5で、電気式四方弁42を作動して冷媒流路を図1の実線矢印で示す回路側に切り替え、第1シャット弁45、第2シャット弁48および第3シャット弁51を閉弁し、第4シャット弁54を開弁する。具体的には、電気式四方弁42は、図1の実線で示すように、圧縮機41吐出口側と第1加熱用室内器33との間および第2加熱用室内器34と第1膨張弁46との間を同時に接続するように切り替える。したがって、圧縮機41から吐出された高温高圧の気相冷媒は電気式四方弁42を通過して第1加熱用室内器33へ流入する。さらに、第1加熱用室内器33から流出した冷媒は、第2加熱用室内器34へ流入する。すなわち、暖房運転モードでは、第1加熱用室内器33は、第2加熱用室内器34より冷媒流れ上流側に配置されている。
【0052】
第1、第2加熱用室内器33、34に流入した冷媒は送風機31より送風された室内空気と熱交換して凝縮する。したがって、第1、第2加熱用室内器33、34は冷媒を放熱させて凝縮させる放熱器(凝縮器)として作用する。そして、送風機31より送風された空気は、第1、第2加熱用室内器33、34およびヒータコア35において加熱されて車室内へ吹き出し、車室内の暖房が行われる。
【0053】
また、第2加熱用室内器34から流出した冷媒は、第1膨張弁46において減圧された後、室外器49に流入して、室外ファン(図示せず)により送風された室外空気と熱交換して蒸発する。暖房運転モードでは、第3シャット弁51が閉鎖状態となっているとともに、第4シャット弁54が開放状態となっているので、室外器49から流出した冷媒は、再び圧縮機41に吸入される。
【0054】
したがって、室外器49は冷媒に吸熱させて蒸発させる蒸発器として作用する。このように、暖房運転モードでは、図1の実線矢印方向に冷媒が流れるサイクルを構成し、室外器49を蒸発器として作用させ、第1、第2加熱用室内器33、34を放熱器として作用させて、室内空気の暖房を行っている。
【0055】
次に、冷却水温度センサ22で検出された冷却水温度Twが、車室内吹出空気の目標吹出温度Tset+5℃を上回っているか否かを判定する(S6)。すなわち、このステップS6では、燃料電池10の出口側の冷却水温度Twが、目標吹出温度Tsetに対して、予め定めた基準温度(本実施形態では5℃)以上高くなっているか否かを判定する。
【0056】
この結果、冷却水温度Twが目標吹出温度Tset+5℃を上回っている場合は(S6:YES)、ヒータコア35による温水暖房のみで車室内を十分暖房できると診断し、ヒータコア35による温水暖房のみで車室内を暖房する(S7)。
【0057】
すなわち、ステップS7では、ヒートポンプ装置100の圧縮機41への電源供給を遮断し、圧縮機41を停止状態とする。また、ウォータポンプ21を作動させてヒータコア35に温水を循環させるとともに、送風機31を作動させてヒータコア35に空調用空気を送風する。これにより、空調用空気がヒータコア35で加熱され、温風となって車室内へ吹き出す。
【0058】
そして、エアミックスドア36の開度によりヒータコア35を通過する温風とバイパス通路37を通過する冷風との風量割合を調整して、車室内への吹出空気温度を調整することができる。
【0059】
一方、冷却水温度センサ22で検出された冷却水温度Twが、目標吹出温度Tset+5℃を上回っていない場合は(S6:NO)、ヒータコア35による温水暖房のみでは車室内を十分暖房できないと診断し、上記ヒータコア35による温水暖房に加えて、ヒートポンプ装置100による暖房運転モードを設定する(S8)。
【0060】
すなわち、ステップS8では、圧縮機41を起動するとともに、電気式四方弁42を図1の実線矢印で示す回路側に切り替え、第1シャット弁45、第2シャット弁48および第3シャット弁51を閉弁し、第4シャット弁54を開弁し、前述の暖房運転モードを起動する。
【0061】
この場合、エアミックスドア36を、バイパス通路37を全閉する最大暖房位置MHに保持、固定する。これにより、ヒータコア35による温水暖房能力を車室内暖房のために最大限利用できる。そして、ヒートポンプ装置100の圧縮機41の回転数制御により、加熱用室内器33、34側の暖房能力を制御することにより、車室内への吹出空気温度を制御できる。
【0062】
以上説明したように、圧縮機41から吐出される冷媒と空調用空気とを熱交換させる第1、第2加熱用室内器33、34の間にヒータコア35を配置するとともに、第1加熱用室内器33を第2加熱用室内器34より冷媒流れ上流側に配置して、圧縮機41から吐出される高温冷媒をヒータコア35の空調用空気流れ下流側にある第1加熱用室内器33へ流すようにすることで、ヒータコア35により加熱された空調用空気を、第1加熱用室内器33において更に加熱することができる。したがって、燃料電池10出口側の冷却水温度Twが車室内吹出空気の目標吹出温度Tsetを下回っている場合においても、冷却水を暖房熱源として利用することができる。
【0063】
このとき、第1加熱用室内器33では、ヒータコア35により予め加熱された空調用空気と、圧縮機41から吐出される高温冷媒との熱交換が行われるため、第1加熱用室内器33を通過した後の冷媒は十分な熱量をもっている。したがって、第1加熱用室内器33通過後の冷媒が流れる第2加熱用室内器34を、ヒータコア35の空調用空気流れ上流側に配設することで、ヒータコア35を通過する前の空調用空気を予め加熱することができる。これにより、圧縮機41から吐出される高温冷媒を暖房用熱源として効率良く利用することができるので、ヒートポンプ装置100の効率向上を図ることが可能となる。
【0064】
特に、燃料電池車両においては燃料電池10で発電された電気を駆動エネルギとしており、圧縮機41の駆動動力が航続距離に大きく影響する。したがって、ヒートポンプ装置100の効率向上を図ることで、燃料電池車両の航続距離を大きくすることが可能となる。
【0065】
また、暖機運転モードにおいて、ヒータコア35の空調空気流れ上流側にある第2加熱用室内器34に、圧縮機41から吐出された高温冷媒が第1加熱用室内器33を介さずに直接流れるようにすることで、第2加熱用室内器34によりヒータコア35を通過する前の空調用空気を加熱することができる。したがって、ヒータコア35において、第2加熱用室内器34により加熱された空調用空気と、燃料電池10の冷却水とを熱交換し、冷却水を加熱することができるので、燃料電池10の暖機を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用空調装置に設けられた制御装置(ECU)70の入出力を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態における制御装置70がROM等に格納されたプログラムにしたがって行う運転モード切替処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0067】
10…燃料電池、22…冷却水温度センサ(温度検出手段)、33…第1加熱用室内器(第1室内熱交換器)、34…第2加熱用室内器(第2室内熱交換器)、35…ヒータコア、41…圧縮機、42…電気式四方弁(冷媒流路切替手段)、70…制御装置(制御手段)、100…ヒートポンプ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池(10)を走行用駆動源とする車両に搭載される車両用空調装置であって、
車室内へ吹き出される空調用空気を、前記燃料電池(10)の冷却水を熱源として加熱するヒータコア(35)と、
ヒートポンプ装置(100)の暖房運転モードにおいて圧縮機(41)から吐出される冷媒により前記空調用空気を加熱する第1、第2室内熱交換器(33、34)とを備え、
前記第1室内熱交換器(33)は、前記ヒータコア(35)の空調用空気流れ下流側に配置されており、
前記第2室内熱交換器(34)は、前記ヒータコア(35)の空調用空気流れ上流側に配置されており、
前記ヒートポンプ装置(100)の前記暖房運転モードでは、前記圧縮機(41)から吐出された前記冷媒が、前記第1室内熱交換器(33)を通過して前記第2室内熱交換器(34)へと流れるようになっていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記ヒートポンプ装置(100)は、前記暖房運転モードの冷媒流路と、前記燃料電池(10)の暖機を行う暖機運転モードの冷媒通路とを切り替える冷媒流路切替手段(42)を有しており、
前記暖機運転モードでは、前記圧縮機(41)から吐出された前記冷媒が、前記第1室内熱交換器(33)を介さずに前記第2室内熱交換器(34)に流れるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記燃料電池(10)の出口側の冷却水温度(Tw)を検出する温度検出手段(22)と、
前記冷媒流路切替手段(42)の作動を制御する制御手段(70)とを備え、
前記制御手段(70)は、前記冷却水温度(Tw)が予め定めた基準温度(Ts)以上になったとき、前記暖房運転モードの冷媒通路に切り替え、さらに、前記冷却水温度(Tw)が前記基準温度(Ts)を下回ったとき、前記暖機運転モードの冷媒通路に切り替えるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−51475(P2009−51475A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222811(P2007−222811)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】