車両用緊急停止装置
【課題】運転者が運転操作を継続できない非常時に、運転者以外の乗員が即座に車両を緊急停止させることができるようにしながら、その緊急停止の指示が誤ってなされた場合には、車両の緊急停止動作を円滑に解除する。
【解決手段】車両用緊急停止装置100は、緊急停止スイッチ102を有し、この緊急停止スイッチ102が操作されたときに車両を緊急停止させる。ただし、このような緊急停止スイッチ102は、誤操作される可能性もあるので、運転者によって操作されるアクセルペダルの動作状態に基づき、車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを判断し、車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断された場合には、緊急停止スイッチ102の操作がなされたとしても、その緊急停止スイッチ102の操作に基づくブレーキの作動を停止させる。
【解決手段】車両用緊急停止装置100は、緊急停止スイッチ102を有し、この緊急停止スイッチ102が操作されたときに車両を緊急停止させる。ただし、このような緊急停止スイッチ102は、誤操作される可能性もあるので、運転者によって操作されるアクセルペダルの動作状態に基づき、車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを判断し、車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断された場合には、緊急停止スイッチ102の操作がなされたとしても、その緊急停止スイッチ102の操作に基づくブレーキの作動を停止させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急停止スイッチが操作されたときに、車両を停止させるべくブレーキを作動させる車両用緊急停止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述したような車両用緊急停止装置として、例えば特許文献1,2に開示されたものが知られている。
【0003】
このうち、特許文献1には、運転者が、身体異常等によって運転継続不可能となった場合、同乗者がエンジン停止操作を行なうことができるようにした自動車の緊急停止構造が記載されている。具体的には、一定の力を加えることにより、操舵ハンドルを助手席方向にスライド可能に設け、助手席の乗員により操舵ハンドルがスライドされたときにエンジンを停止させると同時にハザードランプを点灯させる。
【0004】
また、特許文献2には、自動車のダッシュボードなどに、非常停止レバー又はボタンを設置し、この非常停止レバー又はボタンが操作されたときに、ブレーキを作動させるとともに、クラッチの切断又はエンジンの停止を行いつつ、ブレーキランプ及びハザードランプを点灯する自動車非常停止装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−166893号公報
【特許文献2】特開2010−23818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の装置の場合、助手席以外の座席に乗車している乗員が、操舵ハンドルをスライドさせることは容易ではない。このため、運転者が運転を継続できないような非常事態が生じたときに、後部座席にしか乗員が乗車していない場合、緊急停止装置を活用して車両を緊急停止させることが困難になる。
【0007】
また、特許文献2の装置の場合には、非常停止レバーが設置されているので、運転者以外の乗員により、車両を緊急停止させることは比較的容易に行い得るが、その反面、非常停止レバーが誤操作される可能性が高くなる。そして、誤って非常停止レバーが操作された場合には、運転者が運転操作を継続しようとしても、車両が強制的に停止させられてしまうという問題がある。
【0008】
本願発明は、上述した点に鑑みてなされたもので、運転者が運転操作を継続できない非常時に、運転者以外の乗員が即座に車両を緊急停止させることができるようにしながら、その緊急停止の指示が誤ってなされた場合には、車両の緊急停止動作を円滑に解除することが可能な車両用緊急停止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、請求項1に記載の車両用緊急停止装置は、緊急停止スイッチが操作されたときに、車両を緊急停止させるべく、少なくともブレーキを作動させるものであって、車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを、当該運転者によって操作される操作部材の動作状態に基づき判断する判断手段と、判断手段によって、車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断されると、緊急停止スイッチの操作に基づくブレーキの作動を停止させる作動停止手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上述したように、請求項1に記載の車両用緊急停止装置は、緊急停止スイッチを有し、この緊急停止スイッチが操作されたときに車両を緊急停止させるように構成されている。従って、運転者が運転操作を継続できない非常時に、運転者以外の乗員が、緊急停止スイッチを用いて、容易に車両を緊急停止するよう指示することができる。ただし、このような緊急停止スイッチは、操作が容易である反面、子供のいたずらや荷物がぶつかるなどして、誤って操作される可能性も否定できない。そこで、請求項1に記載の車両用緊急停止装置では、運転者によって操作される操作部材の動作状態に基づき、車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを判断する。そして、車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断された場合には、緊急停止スイッチの操作がなされたとしても、その緊急停止スイッチの操作に基づくブレーキの作動を停止させるようにした。このため、緊急停止スイッチが操作されても、運転者が運転操作を継続できる状態であれば、緊急停止動作が解除され、運転者の意に反して車両が強制的に停止させられる事態の発生を回避することができる。
【0011】
請求項2に記載したように、判断手段は、車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルに対して、当該アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生させるアクセルペダルモータと、アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、を備え、アクセルペダルモータが、アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生したときに、その力に抗して、車両の運転者がアクセルペダルを踏込操作していることが踏込量検出手段によって検出されると、車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断することができる。アクセルペダルモータによる力に抗して、運転者が操作部材としてのアクセルペダルの踏込操作をしている場合、運転者は、車両を継続して運転する意思があり、かつ適切な運転操作を行ないうる状態と推測することができるためである。
【0012】
請求項3に記載したように、アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、車両の内燃機関への吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度を制御する開度制御手段を備え、この開度制御手段は、緊急停止スイッチが操作されたとき、スロットルバルブを閉じるように、スロットルバルブの開度を制御し、作動停止手段によりブレーキの作動が停止されると、スロットルバルブを、アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。
【0013】
上述したように、開度制御手段は、緊急停止スイッチが操作されたとき、スロットルバルブを閉じるように、スロットルバルブの開度を制御する。従って、作動停止手段によりブレーキの作動が停止された時点では、実際のスロットルバルブ開度は、アクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブ開度から大きく乖離した状態にある可能性が生じる。このような状態で、通常のスロットルバルブ制御を開始すると、スロットルバルブの開度が急激に増加し、車両が急加速する虞が生じる。そのような事態の発生を防止するため、ブレーキの作動が停止された時点から、スロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くようにすることが望ましい。
【0014】
具体的には、請求項4に記載したように、スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、この開度制御手段は、緊急停止スイッチが操作されたときのアクセルペダルの踏込量及びスロットルバルブの開度を記憶し、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上であり、かつ現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、記憶したスロットルバルブの開度を目標開度に設定し、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。
【0015】
現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上であり、かつ現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度と、実際のスロットルバルブの開度との間に、大きな乖離が生じている可能性がある。そこで、請求項4の発明では、このような場合に、本来の目標開度と実際の開度との中間にある、緊急停止スイッチが操作されたときに記憶したスロットルバルブの開度を、目標開度に設定してスロットルバルブの開度を制御することとした。これにより、実際のスロットルバルブの開度と、アクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度との乖離を徐々に減少させることができる。従って、実際のスロットルバルブの開度が、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで一気に開かれることがないので、車両の急加速を防止することができる。
【0016】
また、請求項5に記載したように、開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さい場合であって、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい、もしくは現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上であるとき、現在のアクセルペダルの踏込量に基づいてスロットルバルブの目標開度を設定し、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。
【0017】
現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい場合には、現在のスロットルバルブの開度と本来の目標開度との差の方が、記憶したスロットルバルブの開度との差よりも小さくなるためである。また、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、もはや記憶したスロットルバルブを目標開度とすることはできないためである。
【0018】
請求項6に記載したように、判断手段は、車両の運転者によって操舵されるステアリングホイールに対して、当該ステアリングホイールを回転駆動するための力を発生させるステアリングモータと、ステアリングホイールの操舵角度を検出する操舵角度検出手段と、を備え、ステアリングモータが、ステアリングホイールを回転駆動するための力を発生したときに、その力に抗して、車両の運転者がステアリングホイールを操舵していることが操舵角度検出手段によって検出されると、車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断するようにしても良い。請求項2の場合と同様に、ステアリングモータによる力に抗して、運転者が操舵部材としてのステアリングホイールの操舵を行なっている場合、運転者は、車両を継続して運転する意思があり、かつ適切な運転操作を行ないうる状態と推測することができるためである。
【0019】
請求項7に記載の発明の作用効果については、請求項2と同様であるため、説明を省略する。
【0020】
請求項8に記載したように、スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、開度制御手段は、緊急停止スイッチが操作されたときのスロットルバルブの開度を記憶し、その記憶したスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、その記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定し、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。
【0021】
記憶したスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さいとき、請求項4の場合と同じく、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度と、実際のスロットルバルブの開度との間に、大きな乖離が生じている可能性がある。そこで、請求項8の発明でも、本来の目標開度と実際の開度との中間にある、緊急停止スイッチが操作されたときに記憶したスロットルバルブの開度を、目標開度に設定してスロットルバルブの開度を制御する。これにより、実際のスロットルバルブの開度と、アクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度との乖離を徐々に減少させることができる。従って、実際のスロットルバルブの開度が、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで一気に開かれることがないので、車両の急加速を防止することができる。
【0022】
請求項9に記載したように、開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、現在のアクセルペダルの踏込量に基づいてスロットルバルブの目標開度を設定し、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、現在のスロットルバルブの開度を、本来のスロットルバルブの目標開度である、アクセルペダルの踏込量に応じた開度に近づけるためには、もはや記憶したスロットルバルブを目標開度とすることはできないためである。
【0023】
請求項10に記載したように、判断手段は、運転者により車両の変速機に対するシフト操作が行なわれたとき、車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断するようにしても良い。
【0024】
シフト操作は、手動変速機を備えた車両であれば、運転者が、クラッチペダルを踏み込んだり、シフトレバーを操作したりすることによって行なわれる。また、自動変速機を備えた車両であれば、運転者が、レンジを選択するセレクトレバーを操作することによって行なわれる。操作部材としてのクラッチペダル、シフトレバー、あるいはセレクトレバーを用いてシフト操作が行なわれた場合、運転者は、車両を継続して運転する意思があり、かつ適切な運転操作を行ないうる状態と推測することができる。
【0025】
請求項11に記載の発明の作用効果については、請求項2と同様であるため、説明を省略する。
【0026】
請求項12に記載したように、スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さい場合、車両を加速させるための目標加速度を算出し、車両の加速度が目標加速度となるように、スロットルバルブの開度を制御することが好ましい。運転者によってシフト操作が行われた場合、車両のトランスミッションにおける変速比が変化する。従って、単に、目標開度までスロットルバルブを徐々に開くようにすると、変化後の変速比によっては、車速の変化が緩慢になったり、迅速になったりする可能性がある。それに対して、上述のように、車両の加速度が目標加速度となるようにスロットルバルブの開度を制御すれば、スロットルバルブ開度を目標開度まで開くときに、変化後の変速比によらず、車両を速度の変化を安定させることができる。
【0027】
請求項13に記載したように、緊急停止スイッチが操作されたときに、それが有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定する判定手段を有し、判定手段によって有効なスイッチ操作であると判定されると、車両を緊急停止させるべく、ブレーキを作動させることが好ましい。このような判定手段を備えることで、誤って緊急停止スイッチが操作されたときに、緊急停止制御の実行を未然に防止することができる。
【0028】
判定手段が、有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定する具体的な態様として、請求項14〜16に記載の構成を採用することができる。
【0029】
すなわち、請求項14に記載の発明では、緊急停止スイッチは、車室内のシートに対応して設けられており、判定手段は、緊急停止スイッチが操作されたとき、対応するシートに乗員が着座しているか否かにより、有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定する。シートに乗員が着座していない場合には、シート上の荷物などにより、誤って緊急停止スイッチが操作された可能性が高いと考えられるためである。
【0030】
また、請求項15に記載の発明では、緊急停止スイッチは、車両の複数のシートに対応して、複数個設けられており、判定手段は、所定数以上のスイッチ操作があった場合に、有効なスイッチ操作と判定し、所定数未満のスイッチ操作しかない場合、無効なスイッチ操作と判定する。所定数以上のスイッチ操作がある場合には、実際に非常事態が発生した可能性が極めて高いとみなせる一方、所定数未満のスイッチ操作しかなされない場合には、誤ってスイッチ操作が行なわれた可能性が高いと考えられるためである。
【0031】
請求項16に記載の発明では、緊急停止スイッチは、車両の複数のシートに対応して、複数個設けられており、車両の乗員の操作により、複数個の緊急停止スイッチの各々について、スイッチ操作を有効にするか、無効にするかを事前に設定する設定手段を有し、判定手段は、設定手段によりスイッチ操作が有効に設定された緊急停止スイッチが操作されたとき、有効なスイッチ操作と判定し、スイッチ操作が無効に設定された緊急停止スイッチが操作されたときには、無効なスイッチ操作と判定する。例えば、シートに着座している乗員が子供である場合には、スイッチ操作を無効と設定することにより、いたずらなどで緊急停止スイッチが操作されても、緊急停止制御を実行せずに済むためである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態による車両用緊急停止装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】車両が走行している間に、緊急停止スイッチがオンされたときに実行される緊急停止制御処理を示すフローチャートである。
【図3】図2のフローチャートにおける走行中解除処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態による車両用緊急停止装置の全体構成を示す構成図である。
【図5】第2実施形態の車両用緊急停止装置により、緊急停止スイッチがオンされたときに実行される緊急停止制御処理を示すフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートにおける走行中解除処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
【図7】第3実施形態による車両用緊急停止装置の全体構成を示す構成図である。
【図8】第3実施形態の車両用緊急停止装置により、緊急停止スイッチがオンされたときに実行される緊急停止制御処理を示すフローチャートである。
【図9】図8のフローチャートにおける走行中解除処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
【図10】第4実施形態による車両用緊急停止装置の主要な構成を示す構成図である。
【図11】第4実施形態の車両用緊急停止装置において、緊急停止スイッチの操作による緊急停止要求の受付処理を示すフローチャートである。
【図12】第5実施形態の車両用緊急停止装置において、緊急停止スイッチを、作動禁止もしくは作動許可のいずれかに設定するための設定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による車両用緊急停止装置について説明する。図1は、本実施形態における車両用緊急停止装置100の全体構成を示す構成図である。本実施形態の車両用緊急停止装置100は、車両の走行中に、当該車両の乗員によって緊急停止スイッチが操作されたとき、ブレーキを作動させる緊急停止制御を実行する。さらに、運転者によるアクセルペダルの踏込操作に基づき、緊急停止スイッチが誤って操作されたとみなされる場合には、緊急停止制御を終了させる走行中解除処理を実行する。
【0034】
車両用緊急停止装置100は、電子制御装置(ECU)101を中心に構成されている。このECU101は、上述した緊急停止制御を実行するために各種の演算処理を行なうCPU、その演算処理のためのプログラムなどが記憶されたROM、演算処理に必要な情報を一時記憶するRAM等からなる周知の構成を有している。
【0035】
図1に示すように、ECU101には、上述した緊急停止制御及び走行中解除処理の実行に必要な情報を得るため、種々のセンサやスイッチからの検出信号が入力される。具体的には、ECU101には、緊急停止スイッチ102、車速センサ103、シフトポジションセンサ104、アクセルペダルセンサ106、及びスロットルバルブセンサ108からの信号が入力される。
【0036】
緊急停止スイッチ102は、車室内において車両の各シートに着座した乗員によって操作可能な適宜の位置にそれぞれ設置され、各シートの乗員によって対応する緊急停止スイッチ102が操作されたときに、緊急停止要求信号をECU101に対して出力する。なお、この緊急停止スイッチ102は、複数のシートの乗員に1つの緊急停止スイッチ102が共用されるように、車室内に設置しても良い。
【0037】
車速センサ103は、自車両の走行速度に応じた信号を検出して、ECU101に出力する。シフトポジションセンサ104は、変速機におけるシフト位置(レンジ位置)を示す信号をECU101に出力する。アクセルペダルセンサ106は、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれたときに、その踏込量に応じた信号を出力する。スロットルバルブセンサ108は、エンジンの吸気管に設けられ、エンジンへ導入される空気量を調節するスロットルバルブの開度に応じた信号を出力する。
【0038】
ECU101には、当該ECU101からの駆動信号によって駆動されるアクセルペダルモータ105、スロットルバルブモータ107、及びブレーキアクチュエータ109が接続されている。
【0039】
アクセルペダルモータ105は、車両の運転者によって踏込操作される操作部材としてのアクセルペダルに対して、当該アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生させる。アクセルペダルモータ105が発生する力は、運転者がアクセルペダルを踏み込もうと意図した際に、運転者がアクセルペダルに印加可能な力よりも小さい。従って、運転者は、アクセルペダルモータ105が駆動されても、その力に抗して、アクセルペダルを踏み込むことが可能である
スロットルバルブモータ107は、エンジンの吸気管に設けられたスロットルバルブを回転駆動して、その開度を調節するものである。すなわち、本実施形態では、いわゆるリンクレススロットルを採用している。ECU101は、原則として、スロットルバルブの開度が、運転者によるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、スロットルバルブモータ107を駆動してスロットルバルブの開度を調節する。ただし、車両の走行中に緊急停止スイッチ102が操作され、上述した緊急停止制御が実行されるときには、ECU101は、一旦はスロットルバルブを閉じるように、スロットルバルブの開度を制御する。
【0040】
なお、車両の走行速度を制御するために、スロットルバルブモータ107以外の速度調節装置を用いても良い。例えば、車両の駆動源がモータである場合には、速度調節装置として、そのモータの出力を制御するインバータを用いることができる。
【0041】
ブレーキアクチュエータ109は、例えば高圧のブレーキフルードを吐出するポンプと、そのブレーキフルードの圧力を調節しつつ各車輪のホイールシリンダに供給する電磁バルブなどから構成される。このブレーキアクチュエータ109は、ECU101からの駆動信号に従って作動し、各車輪のホイールシリンダに調圧されたブレーキフルードを与えることで、各車輪に制動力を発生させることが可能である。
【0042】
次に、上述した構成を有する車両用緊急停止装置において実行される緊急停止制御について、図2及び図3のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、図2及び図3のフローチャートに示す処理は、車両が走行している間、定期的に実行される。
【0043】
まず、図2のフローチャートのステップS210では、緊急停止スイッチ102が操作され、緊急停止要求信号が出力されたか否かを判定する。このとき、緊急停止スイッチ102から緊急停止要求信号が出力されたと判定されると、ステップS220の処理に進む。ステップS220では、緊急停止制御を開始する際の車両状態として、アクセルペダルの踏込量、及びスロットルバルブの開度を記憶する。
【0044】
続くステップS230では、アクセルペダルモータ105を駆動して、アクセルペダルに対して、アクセルペダルが踏み込まれていない状態に戻すための力を発生させる。従って、例えば運転者が身体の異常などにより、運転操作を継続することができない場合には、アクセルペダルは踏み込まれていない状態に復帰する。さらに、運転者のアクセルペダルの踏込量に係らず、一旦、スロットルバルブが閉じられるように、スロットルバルブモータ107を駆動する。同時に、ブレーキによる制動力を生じさせるように、ブレーキアクチュエータ109を駆動する。これにより、車両は、減速を開始することになる。
【0045】
続くステップS240では、上述したスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の駆動により、車両が停止したか否かを判定する。このとき、車両が停止したと判定すると、ステップS280の処理に進む。ステップS280では、変速機のシフト位置が、パーキング(P)に切り替えられたか否かを判定する。シフト位置がパーキングに切り換えられた場合には、車両は完全に停止しており安全が確保されたとみなし得る。従って、ステップS290に進んで、上述したアクセルペダルモータ105の駆動を終了し、さらにスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の制御モードを、通常制御に切り換える。
【0046】
一方、ステップS240において、車両はまだ停止していないと判定すると、ステップS250の処理に進む。ステップS250では、アクセルペダルセンサ106からの信号に基づき、現在のアクセルペダル踏込量を検出する。そして、ステップS260では、ステップS250にて検出したアクセルペダル踏込量に基づいて、運転者によるアクセルペダルの踏み返しが行なわれているか否かを判定する。つまり、アクセルペダルモータ105を駆動することで、アクセルペダルには、アクセルペダルが踏み込まれていない状態に戻すための力が加えられる。従って、運転者が運転操作を行い得ない場合には、アクセルペダルは、踏み込まれていない状態に復帰するはずである。しかしながら、ステップS250にて検出したアクセルペダル踏込量が、アクセルペダルが踏み込まれている状態であることを示していれば、運転者は、アクセルペダルモータ105が発生する力に抗して、アクセルペダルを踏み返していると判定することができる。
【0047】
ステップS260にて運転者がアクセルペダルを踏み返していると判定した場合には、緊急停止スイッチ102が誤って操作された可能性が高いため、ステップS270に進んで、緊急停止制御を解除するための、走行中解除処理を実行する。一方、ステップS260で、アクセルペダルを踏み返していないと判定した場合には、ステップS240の処理に戻り、車両が停止するまで、緊急停止制御を継続して実行する。
【0048】
ステップS270において実行される走行中解除処理について、図3のフローチャートに基づき詳細に説明する。
【0049】
まず、ステップS310では、スロットルバルブを閉じたまま、ブレーキアクチュエータ109の作動を停止させる。これにより、ブレーキアクチュエータ109の作動によって車両に生じていた制動力は消失する。
【0050】
続くステップS320では、現在のアクセルペダルの踏込量が、緊急停止スイッチ102の操作時に記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さいか否かを判定する。そして、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上である場合には、ステップS330の処理に進み、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい場合には、ステップS340の処理に進む。
【0051】
ここで、本実施形態では、緊急停止制御が開始されると、アクセルペダルモータ105が駆動され、アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻す力がアクセルペダルに加えられる。このため、緊急停止スイッチ102が誤って操作されたときに、運転者がアクセルペダルを踏み込んでいても、多少は、アクセルペダルの踏込量が減少する方向にアクセルペダルが移動する場合がある。そのような場合、ステップS320の判定において、現在のアクセルペダルの踏込量は、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さいとの判定がなされる。
【0052】
ステップS330では、現在のスロットルバルブの開度が、緊急停止スイッチ102の操作時に記憶したスロットルバルブの開度よりも小さいか否かが判定される。上述したように、緊急停止スイッチ102の操作により、一旦、スロットルバルブは閉じられる。従って、そのスロットルバルブの開度は、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さくなる。
【0053】
ステップS330の判定処理において、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度より小さいと判定した場合には、ステップS340の処理に進み、記憶したスロットルバルブの開度以上と判定した場合には、ステップS360の処理に進む。
【0054】
ステップS360では、記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定しつつ、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御する。スロットルバルブを徐々に開くようにするためには、例えば、スロットルバルブの回転速度に制限を設けたり、車両の速度を増速するときの加速度に制限を設けたりすれば良い。
【0055】
ここで、ステップS360の処理は、上述したように、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上であり、かつ現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合に実行される。この条件に該当する状態では、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度と、実際のスロットルバルブの開度との間に、大きな乖離が生じている可能性がある。そこで、本実施形態では、このような場合に、本来のスロットルバルブの目標開度と実際のスロットルバルブの開度との中間にある、緊急停止スイッチが操作されたときに記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定し、スロットルバルブの開度を制御することとした。これにより、実際のスロットルバルブの開度と、アクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度との乖離を徐々に減少させることができる。換言すれば、実際のスロットルバルブの開度が、アクセルペダルの踏込量に応じた本来の目標開度まで一気に開かれることがないので、車両の急加速を防止することができる。
【0056】
ステップS340では、現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度よりも小さいか否かを判定する。この目標スロットルバルブ開度は、運転者によるアクセルペダルの踏込量が大きくなるほど、目標スロットルバルブ開度も大きくなるように、原則として、アクセルペダル踏込量に基づいて決定される。走行中解除処理が開始された直後は、スロットルバルブは閉じられているので(ステップS310)、ステップS320における判定結果は「Yes」となり、ステップS350の処理が実行される。
【0057】
ステップS350では、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた目標スロットル開度をそのまま目標開度として設定しつつ、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御する。
【0058】
ここで、ステップS350の処理は、上述したように、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた目標スロットル開度よりも小さい場合であって、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さいか、もしくは現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上であるときに実行される。
【0059】
現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい場合には、現在のスロットルバルブの開度と、アクセルペダルの踏込量に応じた本来の目標開度との差の方が、記憶したスロットルバルブの開度との差よりも小さい。そのため、この場合には、記憶したスロットルバルブの開度ではなく、アクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブ開度を目標開度とするのである。また、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、現在のスロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた本来の目標開度に近づけるために、もはや記憶したスロットルバルブを目標開度として利用することはできない。そのため、この場合も、アクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブ開度を目標開度とするのである。
【0060】
ステップS350もしくはS360の処理の後に実行されるステップS370では、アクセルペダルモータ105の出力がまだ残っているか、すなわち、アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力がアクセルペダルに加えられているか否かを判定する。このとき、アクセルペダルモータ105の出力が残っていると判定した場合には、ステップS400に進んで、アクセルペダルモータ105の出力を徐々に低下させる。このようにアクセルペダルモータ105の出力を徐々に低下させる理由は、運転者によるアクセルペダルを踏み込む力とアクセルペダルモータ105が発生する力とがバランスしている状態から、一気にアクセルペダルモータ105による力を消失させると、運転者が意図しないにも係らず、アクセルペダルの踏込量が増加してしまう虞があるためである。
【0061】
また、ステップS340にて、現在のスロットル開度が目標スロットル開度以上となり、実際のスロットル開度が目標スロットル開度に達していれば、ステップS380にて、スロットルバルブの制御モードを通常制御とし、現在のアクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブの目標開度に一致するように、実際のスロットルバルブの開度を制御する。さらに、ステップS390にて、ステップS370と同様に、アクセルペダルモータ105の出力が残っているか否かを確認し、残っている場合には、ステップS400にて、徐々にアクセルペダルモータ105の出力を低下させる。
【0062】
本実施形態では、緊急停止スイッチ102が操作させたときに、一旦、スロットルバルブを閉じるように、スロットルバルブの開度が制御される。従って、走行中解除処理において、ブレーキアクチュエータ109の作動が停止された時点では、実際のスロットルバルブ開度は、アクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブの目標開度から大きく乖離した状態にある可能性が高い。このような状態で、通常のスロットルバルブ制御を開始すると、スロットルバルブの開度が急激に増加し、車両が急加速する虞が生じる。それに対して、上述した走行中解除処理を実行することにより、ブレーキアクチュエータ109の作動が停止された時点から、スロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで徐々に開くことが可能になり、急加速の発生を確実に防止することができる。
【0063】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態による車両用緊急停止装置について説明する。なお、上述した第1実施形態による車両用緊急停止装置と同様の構成については、同じ参照番号を付与することにより、詳細な説明を省略する。
【0064】
図4は、本実施形態による車両用緊急停止装置200の全体構成を示す構成図である。本実施形態による車両用緊急停止装置200は、図4に示すように、アクセルペダルモータ105に代えて、ステアリングホイールを回転駆動する力を発生するステアリングモータ110を備えている点、及びステアリングホイールの操舵角に応じた信号を出力する操舵角センサ111を備えている点が、第1実施形態の車両用緊急停止装置100と異なっている。
【0065】
つまり、第1実施形態による車両用緊急停止装置では、緊急停止スイッチが操作されたときに、運転者によるアクセルペダルの踏み返しの有無により、運転者が運転操作を継続して実施可能か否かを判断した。それに対して、本実施形態による車両用緊急停止装置では、緊急停止スイッチが操作されたときに、ステアリングモータ110によりステアリングホイールを所定角度だけ回転させる力を発生させる。その際に、操作部材としてのステアリングホイールが、ステアリングモータ110が発生する力に従って所定角度回転すれば、運転者は運転操作を行い得ない状態であると判断する。一方、ステアリングホイールの操舵角が、所定角度回転したときの操舵角から乖離していれば、運転者は、ステアリングモータ110が発生する力に抗してステアリングホイールの操舵を行なっており、運転操作を継続して行ないえる状態であると判断する。
【0066】
以下、本実施形態の車両用緊急停止装置において実行される緊急停止制御について、図5及び図6のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0067】
まず、図5のフローチャートのステップS410では、図2のフローチャートのステップS210と同様に、緊急停止スイッチ102が操作され、緊急停止要求信号が出力されたか否かを判定する。続くステップS420では、緊急停止制御を開始する際の車両状態として、ステアリングの操舵角、及びスロットルバルブの開度を記憶する。
【0068】
そして、ステップS430では、運転者のアクセルペダルの踏込量に係らず、一旦、スロットルバルブが閉じられるように、スロットルバルブモータ107を駆動する。同時に、ブレーキによる制動力を生じさせるように、ブレーキアクチュエータ109を駆動する。これにより、車両は、減速を開始する。
【0069】
続くステップS440では、上述したスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の駆動により、車両が停止したか否かを判定する。このとき、車両が停止したと判定すると、ステップS500の処理に進む。ステップS500では、変速機のシフト位置が、パーキング(P)に切り替えられたか否かを判定する。シフト位置がパーキングに切り換えられた場合には、ステップS510に進んで、ステアリングモータ110の駆動を停止させ、さらにスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の制御モードを、通常制御に切り換える。
【0070】
一方、ステップS440において、車両はまだ停止していないと判定すると、ステップS450の処理に進む。ステップS450では、ステアリングモータ110により、ステアリングホイールを所定角度だけ回転させるための駆動量を算出する。そして、ステップS460では、算出された駆動量に従って、ステアリングモータ110を駆動する。
【0071】
なお、本実施形態では、緊急停止スイッチの操作時に、ステアリングホイールの操舵角を、ステアリングモータ110によって変化させるので、ステアリング装置として、ステアリングホイールと操舵機構とが切り離された、いわゆるステアリングバイワイヤーの構成を採用することが好ましい。このような構成を採用すれば、ステアリングモータ110によりステアリングホイールの操舵角を変化させても、実際の操舵機構へ影響を与えずに済む。この場合、ステアリングモータ110は、通常は、ステアリングホイールの操舵に対して反力を与える反力モータとして機能し、緊急停止スイッチの操作時にのみ、ステアリングホイールの操舵角を変化させる力を発生する。
【0072】
ただし、ステアリングホイールが操舵機構に機械的に連結された通常のステアリング装置を用いることも可能である。この場合には、操舵機構に影響を与えない、いわゆる遊びの範囲で、ステアリングホイールの操舵角を変化させれば良い。
【0073】
ステップS470では、操舵角センサ111による検出信号、及びステップS420にて記憶したステアリング操舵角に基づき、ステアリングホイールの実際の操舵角が、ステアリングモータ110が発生した力によって所定角度回転した場合の操舵角から乖離しているか否かを判定する。このとき、実際の操舵角が、所定角度回転した場合の操舵角から乖離していると判定されると、運転者は、ステアリングモータ110が発生する力に抗してステアリングホイールの操舵を行なっていることを示しており、緊急停止スイッチ102が誤って操作された可能性が高い。このため、ステップS480に進んで、ステアリングモータの駆動を停止させ、さらにステップS490に進んで、緊急停止制御を解除するため、走行中解除処理を実行する。一方、実際の操舵角が、所定角度回転した場合の操舵角に一致していると判定されると、ステップS440の処理に戻り、車両が停止するまで、緊急停止制御を継続して実行する。
【0074】
次に、ステップS490において実行される走行中解除処理について、図6のフローチャートに基づき詳細に説明する。
【0075】
まず、ステップS610では、図3のフローチャートのステップS310と同様に、スロットルバルブを閉じたまま、ブレーキアクチュエータ109の作動を停止させる。これにより、ブレーキアクチュエータ109の作動によって車両に生じていた制動力は消失する。
【0076】
続くステップS620では、現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度よりも小さいか否かを判定する。この目標スロットルバルブ開度は、第1実施形態の場合と同様に、原則として、アクセルペダル踏込量に基づいて決定される。走行中解除処理が開始された直後は、スロットルバルブは閉じられているので(ステップS610)、ステップS620における判定結果は「Yes」となり、ステップS630の処理が実行される。一方、現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度以上と判定された場合には、ステップS670の処理が実行される。
【0077】
ステップS630では、現在のスロットルバルブの開度が、緊急停止スイッチ102の操作時に記憶したスロットルバルブの開度よりも小さいか否かが判定される。そして、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度より小さいと判定した場合には、ステップS640の処理に進み、記憶したスロットルバルブの開度以上であると判定した場合には、ステップS650の処理に進む。
【0078】
ステップS640では、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた目標スロットルバルブ開度が、記憶したスロットルバルブ開度よりも小さいか否かが判定される。そして、目標スロットルバルブ開度が、記憶したスロットルバルブ開度よりも小さいと判定した場合には、ステップS650の処理に進み、記憶したスロットルバルブの開度以上であると判定した場合には、ステップS660の処理に進む。
【0079】
上述したステップS620〜S640の処理により、現在のスロットル開度、目標スロットルバルブ開度、及び記憶したスロットルバルブ開度に関する大小関係を判定することができる。そして、その大小関係が、目標スロットルバルブ開度>現在のスロットル開度>記憶したスロットル開度、又は記憶したスロットル開度>目標スロットル開度>現在のスロットル開度であれば、ステップS650にて、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた目標スロットル開度をそのまま目標開度として設定しつつ、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御する。また、その大小関係が、目標スロットル開度>記憶したスロットル開度>現在のスロットル開度であれば、ステップS660にて、記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定しつつ、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御する。さらに、その大小関係が、現在のスロットルバルブの開度≧目標スロットルバルブ開度であれば、ステップS670にて、スロットルバルブの制御モードを通常制御とし、現在のアクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブの目標開度に一致するように、実際のスロットルバルブの開度を制御する。
【0080】
このような走行中解除処理を実行することにより、第1実施形態の車両用緊急停止装置と同様に、ブレーキアクチュエータ109の作動が停止された時点から、スロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで徐々に開くことが可能になり、急加速の発生を確実に防止することができる。
【0081】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態による車両用緊急停止装置について説明する。なお、上述した第1実施形態の車両用緊急停止装置と同様の構成については、同じ参照番号を付与することにより、詳細な説明を省略する。
【0082】
図7は、本実施形態による車両用緊急停止装置300の全体構成を示す構成図である。本実施形態による車両用緊急停止装置300は、図7に示すように、クラッチペダルによるクラッチの連結、切断に応じた信号を出力するクラッチSW112を有している。そして、シフトポジションセンサ104及びクラッチSW112を用いて、運転者によりシフト操作が行なわれたことを検出すると、運転者は運転操作を継続して行いうる状態であると判断する。
【0083】
なお、本実施形態の車両用緊急停止装置は、手動変速機を備える車両に適用される例について示しているが、自動変速機を備える車両にも適用可能である。自動変速機を備える車両に適用する場合には、運転者によって走行レンジを切り換えるセレクトレバーが操作されたことをもってシフト操作が行なわれたと判定すれば良い。
【0084】
以下、本実施形態の車両用緊急停止装置において実行される緊急停止制御について、図8及び図9のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0085】
まず、図8のフローチャートのステップS710では、図2のフローチャートのステップS210と同様に、緊急停止スイッチ102が操作され、緊急停止要求信号が出力されたか否かを判定する。続くステップS720では、運転者のアクセルペダルの踏込量に係らず、一旦、スロットルバルブが閉じられるように、スロットルバルブモータ107を駆動する。同時に、ブレーキによる制動力を生じさせるように、ブレーキアクチュエータ109を駆動する。これにより、車両は、減速を開始する。
【0086】
続くステップS730では、上述したスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の駆動により、車両が停止したか否かを判定する。このとき、車両が停止したと判定すると、ステップS770の処理に進む。ステップS770では、変速機のシフト位置が、ニュートラル(N)又はパーキング(P)に切り替えられたか否かを判定する。シフト位置がニュートラル又はパーキングに切り換えられたと判定した場合には、ステップS780に進んで、スロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の制御モードを、通常制御に切り換える。
【0087】
一方、ステップS730において、車両はまだ停止していないと判定すると、ステップS740の処理に進む。ステップS740では、シフトポジションセンサ104及びクラッチSW112からの信号を読み込む。そして、ステップS750において、シフトポジションセンサ104及びクラッチSW112からの信号に基づいて、運転者が、操作部材としてのクラッチペダルやシフトレバーを用いてシフト操作(変速操作)を行ったか否かを判定する。運転者がシフト操作を行ったと判定した場合、緊急停止スイッチ102が誤って操作された可能性が高いため、ステップS760に進んで、緊急停止制御を解除するため、走行中解除処理を実行する。一方、運転者によるシフト操作が検出されない場合には、ステップS730の処理に戻り、車両が停止するまで、緊急停止制御を継続して実行する。
【0088】
次に、ステップS760において実行される走行中解除処理について、図9のフローチャートに基づき詳細に説明する。
【0089】
まず、ステップS810では、図3のフローチャートのステップS310と同様に、スロットルバルブを閉じたまま、ブレーキアクチュエータ109の作動を停止させる。これにより、ブレーキアクチュエータ109の作動によって車両に生じていた制動力は消失する。
【0090】
続くステップS820では、現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度よりも小さいか否かを判定する。この目標スロットルバルブ開度は、第1実施形態の場合と同様に、原則として、アクセルペダル踏込量に基づいて決定される。走行中解除処理が開始された直後は、スロットルバルブは閉じられているので(ステップS810)、ステップS820における判定結果は「Yes」となり、ステップS830の処理が実行される。
【0091】
ステップS830では、現在のスロットルバルブの開度を目標スロットルバルブ開度に近づける際に車両が加速することになるが、その加速時の目標加速度を算出する。そして、ステップS840では、その目標加速度を実現するためのスロットルバルブ開度を算出し、ステップS850において、実際のスロットルバルブ開度が、算出したスロットルバルブ開度に一致するようにスロットルバルブモータ107を駆動する。
【0092】
運転者によってシフト操作が行われた場合、車両の変速機における変速比が変化する。従って、単に、目標開度までスロットルバルブを徐々に開くようにすると、変化後の変速比によっては、車速の変化が緩慢になったり、逆に迅速になったりする場合がありえる。それに対して、上述のように、車両の加速度が目標加速度となるようにスロットルバルブの開度を制御すれば、スロットルバルブ開度を目標開度まで開くときに、変化後の変速比によらず、車両を速度の変化を安定させることができる。
【0093】
そして、ステップS820にて現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度以上と判定された場合に実行されるステップS860では、スロットルバルブの制御モードを通常制御とし、現在のアクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブの目標開度に一致するように、実際のスロットルバルブの開度を制御する。
【0094】
このような走行中解除処理を実行することにより、第1実施形態の車両用緊急停止装置と同様に、ブレーキアクチュエータ109の作動が停止された時点から、スロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで徐々に開くことが可能になり、急加速の発生を確実に防止することができる。
【0095】
(第4実施形態)
次に本発明の第4実施形態による車両用緊急停止装置について説明する。上述した第1実施形態〜第3実施形態では、緊急停止スイッチ102が操作されたときに、車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを、当該運転者によって操作される各種の操作部材の動作状態に基づき判断し、車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断すると、緊急停止スイッチの操作に基づくブレーキの作動を停止させた。
【0096】
本実施形態では、上述した第1実施形態〜第3実施形態とは異なり、緊急停止スイッチ102の操作が行なわれたときに、その緊急停止スイッチ102の操作が有効なものであるか、無効なものであるかを判定し、有効なスイッチ操作であると判定されると、緊急停止制御の開始トリガとして用いるようにしたものである。これにより、誤って緊急停止スイッチが操作された場合に、緊急停止制御の実行自体を未然に防止する可能性を高めることができる。
【0097】
なお、本実施形態において説明する内容は、上述した第1実施形態〜第3実施形態において、緊急停止スイッチ102が操作されたか否かの判定に適用可能なものである。すなわち、緊急停止スイッチ102による操作が有効であると判定された場合に、第1〜第3実施形態の車両用緊急停止装置において緊急停止制御を行い。操作が無効であると判定された場合には、第1〜第3実施形態の車両用緊急停止装置において緊急停止制御を行なわないようにする。
【0098】
図10は、第4実施形態による車両用緊急停止装置400において、緊急停止スイッチ102の操作が有効なものか、無効なものかを判定するために用いられる構成を示した構成図である。換言すると、図10においては、緊急停止制御を実行するために必要な構成は省略されている。
【0099】
図10に示すように、車両用緊急停止装置400は、着座センサ113、車室内カメラ114、ディスプレイ115、及びタッチパネル116を備えている。
【0100】
着座センサ113は、例えば、車両の各シートに設けられた荷重センサからなり、ECU101は、この荷重センサによる荷重信号に基づき、対応するシートに乗員が乗車しているか否かを判定することが可能となる。また、ECU101は、シートに加わる荷重の大きさや、その分布から、乗員が大人であるのか子供であるのかを判定することも可能となる。
【0101】
車室内カメラ114は、撮影範囲が車室内の各シートを網羅するように、車室内に設置される。この車室内カメラ114による撮影画像は、ECU101に出力され、ECU101は、その撮影画像に基づいて、車室内の各シートに乗員が着座しているか、着座している場合、その乗員が大人であるのか子供であるのかを判定する。このように、着座センサ113と車室内カメラ114は、いずれもシートに着座している乗員を検知するものであるため、いずれか一方のみを設けるようにしても良い。
【0102】
ディスプレイ115及びタッチパネル116は、車両の各シートごとに設けられた緊急停止スイッチ102に関して、事前に、各緊急停止スイッチ102の操作を有効とするか無効とするかを設定し、その設定状態を確認するために利用される。
【0103】
以下、本実施形態における、緊急停止スイッチの操作が有効なものであるか、無効なものであるかを判定するための処理である緊急停止要求受付処理について、図11のフローチャートに基づいて説明する。
【0104】
まず、ステップS910において、緊急停止スイッチの操作人数をカウントするカウンタを0にリセットする。続くステップS920では、操作が許可されている緊急停止スイッチ102の中の任意の緊急停止スイッチ102を選択し、その緊急停止スイッチ102が操作されたか否かを判定する。なお、緊急停止スイッチ102は、後述する図12に示すフローチャートにより、事前に、操作可能か、操作禁止のいずれかの状態に設定される。
【0105】
ステップS920にて、緊急停止スイッチ102が操作され、緊急停止要求信号が出力されたと判定した場合、ステップS930に進み、念のため、対応するシートに乗員(大人)が着座しているか否かを確認する。このとき、乗員(大人)が着座していないと判定した場合には、ステップS940の処理に進み、乗員(大人)が着座していると判定した場合には、ステップS950の処理に進む。ステップS940では、緊急停止スイッチ102からの緊急停止要求信号をクリアする。一方、ステップS950では、緊急停止スイッチの操作人数をカウントするカウンタを1だけカウントアップする。
【0106】
ステップS950の処理の後に実行されるステップS960では、緊急停止スイッチの操作人数をカウントするカウンタのカウント値が、所定数以上となったか否かを判定する。この際、所定数は、予め決定した数(1,2、…)であっても良いし、運転者以外の乗員数に基づき、例えば全乗員数の半数を所定数として決定しても良い。ステップS950の判定処理において、カウンタのカウント値が所定数未満であると判定した場合にはステップS970の処理に進み、所定数以上であると判定された場合にはステップS980の処理に進む。
【0107】
ステップS970では、操作が許可されている全緊急停止スイッチ102についてチェックが完了したか否かを判定し、未完了であれば、ステップS920の処理に戻り、完了していれば、図11のフローチャートに示す処理を終了する。
【0108】
また、ステップS980では、緊急停止スイッチ102の操作人数が所定数以上となったため、緊急停止スイッチ102の操作は有効なものであるとみなし、第1実施形態〜第3実施形態において説明したいずれかの緊急停止制御を実行する。なお、この場合、車両用緊急停止装置として、第1実施形態〜第3実施形態の構成をすべて備え、第1実施形態〜第3実施形態において説明した、いずれかの条件(操作部材の操作)が成立した場合に、その成立した条件に応じた緊急停止制御を実行するようにしても良い。
【0109】
このように、本実施形態においては、緊急停止スイッチ102が操作されたときに、それが有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定し、有効なスイッチ操作であると判定されると、緊急停止制御を実行する。このため、誤って緊急停止スイッチ102が操作されたときに、緊急停止制御の実行を未然に防止することができる。
【0110】
上述した実施形態では、特に、緊急停止スイッチ102が操作されたとき、対応するシートに乗員が着座しているか否かを確認し、乗員が着座している場合に、緊急停止スイッチ102の操作人数をカウントするカウンタのカウント値をカウントアップしている。換言すれば、シートに乗員が着座していない場合には、シート上の荷物などにより、誤って緊急停止スイッチ102が操作された可能性が高いため、緊急停止スイッチ102からの信号をクリアしている。従って、有効なスイッチ操作であるか無効なスイッチ操作であるかをより精度良く判定することができる。
【0111】
また、上述した実施形態では、操作が許可された緊急停止スイッチ102において、所定数以上のスイッチ操作があった場合に、有効なスイッチ操作と判定し、所定数未満のスイッチ操作しかない場合、無効なスイッチ操作と判定している。このため、バスなど多人数が乗車する車両などに好適に用いることができる。ただし、上述したように、所定数は1でも良く、また、その適用対象車両の大きさが限定されるわけではなく、小型車、普通車などの車両に適用しても良い。
【0112】
次に、図12のフローチャートを参照して、各緊急停止スイッチ102について、事前に、操作可能か、操作禁止のいずれかの状態に設定するための設定処理に関して説明する。なお、初期状態では、各緊急停止スイッチ102は、すべて操作許可状態、あるいは操作禁止状態に設定されている。
【0113】
まず、ステップS1010では、タッチパネル116からの信号及び着座センサ113(及び/又は車室内カメラ114)からの信号を読み込む。続くステップS1020では、タッチパネル116からの信号に基づいて、各緊急停止スイッチ102に関して順番に、緊急停止スイッチ102の設定指示が行なわれたか、又は対応するシートにおいて乗員の有無に変化があったかを判定する。設定指示がなく、また乗員の有無の変化も無い場合には、ステップS1090の処理に進み、全緊急停止スイッチに関してチェックが完了したか否かを判定し、未完了であればステップS1010に戻り、完了していれば、図12のフローチャートに示す処理を終了する。
【0114】
一方、ステップS1020において、緊急停止スイッチ102の設定指示が行われた、又は乗員の有無に変化があったと判定した場合には、ステップS1030に進んで、設定指示が「操作禁止」であるか(又は、すでに「操作禁止」に設定されているか)を判定する。このステップS1020の判定処理において「No」と判定された場合、ステップS1080の処理に進んで、処理対象となっている緊急停止スイッチ102を操作許可状態に設定する。一方、ステップS1020の判定処理において「Yes」と判定された場合、ステップS1040に進み、対象座席に乗員がいるか否かを確認する。乗員がいる場合には、ステップS1050において、ディスプレイ115を用いて、操作禁止状態に設定しても良いかを運転者に確認する。
【0115】
ステップS1060では、その運転者による応答内容に基づき、操作禁止で良いとの応答があった場合には、ステップS1070で、処理対象となっている緊急停止スイッチ102を操作禁止状態に設定し、操作許可にするとの応答があった場合には、ステップS1080において、処理対象となっている緊急停止スイッチ102を操作許可状態に設定する。
【0116】
このような設定処理を実行することにより、事前に、操作を有効とすべき緊急停止スイッチについては操作許可状態に設定し、操作を無効とすべき緊急停止装置は操作禁止状態に設定できる。例えば子供が着座しているシートや、乗員が着座していないシートに対応する緊急停止スイッチ102を操作禁止状態に設定し、大人が着座しているシートに対応する緊急停止スイッチ102だけを操作許可状態に設定することができる。このような設定を事前に行なうことができるので、子供のいたずらや荷物による誤操作などで緊急停止スイッチが操作されても、緊急停止制御を実行せずに済む。
【符号の説明】
【0117】
100 車両用緊急停止装置
101 ECU
102 緊急停止スイッチ
103 車速センサ
104 シフトポジションセンサ
105 アクセルペダルモータ
106 アクセルペダルセンサ
107 スロットルバルブモータ
108 スロットルバルブセンサ
109 ブレーキアクチュエータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急停止スイッチが操作されたときに、車両を停止させるべくブレーキを作動させる車両用緊急停止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述したような車両用緊急停止装置として、例えば特許文献1,2に開示されたものが知られている。
【0003】
このうち、特許文献1には、運転者が、身体異常等によって運転継続不可能となった場合、同乗者がエンジン停止操作を行なうことができるようにした自動車の緊急停止構造が記載されている。具体的には、一定の力を加えることにより、操舵ハンドルを助手席方向にスライド可能に設け、助手席の乗員により操舵ハンドルがスライドされたときにエンジンを停止させると同時にハザードランプを点灯させる。
【0004】
また、特許文献2には、自動車のダッシュボードなどに、非常停止レバー又はボタンを設置し、この非常停止レバー又はボタンが操作されたときに、ブレーキを作動させるとともに、クラッチの切断又はエンジンの停止を行いつつ、ブレーキランプ及びハザードランプを点灯する自動車非常停止装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−166893号公報
【特許文献2】特開2010−23818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の装置の場合、助手席以外の座席に乗車している乗員が、操舵ハンドルをスライドさせることは容易ではない。このため、運転者が運転を継続できないような非常事態が生じたときに、後部座席にしか乗員が乗車していない場合、緊急停止装置を活用して車両を緊急停止させることが困難になる。
【0007】
また、特許文献2の装置の場合には、非常停止レバーが設置されているので、運転者以外の乗員により、車両を緊急停止させることは比較的容易に行い得るが、その反面、非常停止レバーが誤操作される可能性が高くなる。そして、誤って非常停止レバーが操作された場合には、運転者が運転操作を継続しようとしても、車両が強制的に停止させられてしまうという問題がある。
【0008】
本願発明は、上述した点に鑑みてなされたもので、運転者が運転操作を継続できない非常時に、運転者以外の乗員が即座に車両を緊急停止させることができるようにしながら、その緊急停止の指示が誤ってなされた場合には、車両の緊急停止動作を円滑に解除することが可能な車両用緊急停止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、請求項1に記載の車両用緊急停止装置は、緊急停止スイッチが操作されたときに、車両を緊急停止させるべく、少なくともブレーキを作動させるものであって、車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを、当該運転者によって操作される操作部材の動作状態に基づき判断する判断手段と、判断手段によって、車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断されると、緊急停止スイッチの操作に基づくブレーキの作動を停止させる作動停止手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上述したように、請求項1に記載の車両用緊急停止装置は、緊急停止スイッチを有し、この緊急停止スイッチが操作されたときに車両を緊急停止させるように構成されている。従って、運転者が運転操作を継続できない非常時に、運転者以外の乗員が、緊急停止スイッチを用いて、容易に車両を緊急停止するよう指示することができる。ただし、このような緊急停止スイッチは、操作が容易である反面、子供のいたずらや荷物がぶつかるなどして、誤って操作される可能性も否定できない。そこで、請求項1に記載の車両用緊急停止装置では、運転者によって操作される操作部材の動作状態に基づき、車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを判断する。そして、車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断された場合には、緊急停止スイッチの操作がなされたとしても、その緊急停止スイッチの操作に基づくブレーキの作動を停止させるようにした。このため、緊急停止スイッチが操作されても、運転者が運転操作を継続できる状態であれば、緊急停止動作が解除され、運転者の意に反して車両が強制的に停止させられる事態の発生を回避することができる。
【0011】
請求項2に記載したように、判断手段は、車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルに対して、当該アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生させるアクセルペダルモータと、アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、を備え、アクセルペダルモータが、アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生したときに、その力に抗して、車両の運転者がアクセルペダルを踏込操作していることが踏込量検出手段によって検出されると、車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断することができる。アクセルペダルモータによる力に抗して、運転者が操作部材としてのアクセルペダルの踏込操作をしている場合、運転者は、車両を継続して運転する意思があり、かつ適切な運転操作を行ないうる状態と推測することができるためである。
【0012】
請求項3に記載したように、アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、車両の内燃機関への吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度を制御する開度制御手段を備え、この開度制御手段は、緊急停止スイッチが操作されたとき、スロットルバルブを閉じるように、スロットルバルブの開度を制御し、作動停止手段によりブレーキの作動が停止されると、スロットルバルブを、アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。
【0013】
上述したように、開度制御手段は、緊急停止スイッチが操作されたとき、スロットルバルブを閉じるように、スロットルバルブの開度を制御する。従って、作動停止手段によりブレーキの作動が停止された時点では、実際のスロットルバルブ開度は、アクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブ開度から大きく乖離した状態にある可能性が生じる。このような状態で、通常のスロットルバルブ制御を開始すると、スロットルバルブの開度が急激に増加し、車両が急加速する虞が生じる。そのような事態の発生を防止するため、ブレーキの作動が停止された時点から、スロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くようにすることが望ましい。
【0014】
具体的には、請求項4に記載したように、スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、この開度制御手段は、緊急停止スイッチが操作されたときのアクセルペダルの踏込量及びスロットルバルブの開度を記憶し、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上であり、かつ現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、記憶したスロットルバルブの開度を目標開度に設定し、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。
【0015】
現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上であり、かつ現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度と、実際のスロットルバルブの開度との間に、大きな乖離が生じている可能性がある。そこで、請求項4の発明では、このような場合に、本来の目標開度と実際の開度との中間にある、緊急停止スイッチが操作されたときに記憶したスロットルバルブの開度を、目標開度に設定してスロットルバルブの開度を制御することとした。これにより、実際のスロットルバルブの開度と、アクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度との乖離を徐々に減少させることができる。従って、実際のスロットルバルブの開度が、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで一気に開かれることがないので、車両の急加速を防止することができる。
【0016】
また、請求項5に記載したように、開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さい場合であって、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい、もしくは現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上であるとき、現在のアクセルペダルの踏込量に基づいてスロットルバルブの目標開度を設定し、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。
【0017】
現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい場合には、現在のスロットルバルブの開度と本来の目標開度との差の方が、記憶したスロットルバルブの開度との差よりも小さくなるためである。また、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、もはや記憶したスロットルバルブを目標開度とすることはできないためである。
【0018】
請求項6に記載したように、判断手段は、車両の運転者によって操舵されるステアリングホイールに対して、当該ステアリングホイールを回転駆動するための力を発生させるステアリングモータと、ステアリングホイールの操舵角度を検出する操舵角度検出手段と、を備え、ステアリングモータが、ステアリングホイールを回転駆動するための力を発生したときに、その力に抗して、車両の運転者がステアリングホイールを操舵していることが操舵角度検出手段によって検出されると、車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断するようにしても良い。請求項2の場合と同様に、ステアリングモータによる力に抗して、運転者が操舵部材としてのステアリングホイールの操舵を行なっている場合、運転者は、車両を継続して運転する意思があり、かつ適切な運転操作を行ないうる状態と推測することができるためである。
【0019】
請求項7に記載の発明の作用効果については、請求項2と同様であるため、説明を省略する。
【0020】
請求項8に記載したように、スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、開度制御手段は、緊急停止スイッチが操作されたときのスロットルバルブの開度を記憶し、その記憶したスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、その記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定し、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。
【0021】
記憶したスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さいとき、請求項4の場合と同じく、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度と、実際のスロットルバルブの開度との間に、大きな乖離が生じている可能性がある。そこで、請求項8の発明でも、本来の目標開度と実際の開度との中間にある、緊急停止スイッチが操作されたときに記憶したスロットルバルブの開度を、目標開度に設定してスロットルバルブの開度を制御する。これにより、実際のスロットルバルブの開度と、アクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度との乖離を徐々に減少させることができる。従って、実際のスロットルバルブの開度が、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで一気に開かれることがないので、車両の急加速を防止することができる。
【0022】
請求項9に記載したように、開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、現在のアクセルペダルの踏込量に基づいてスロットルバルブの目標開度を設定し、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御することが好ましい。現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、現在のスロットルバルブの開度を、本来のスロットルバルブの目標開度である、アクセルペダルの踏込量に応じた開度に近づけるためには、もはや記憶したスロットルバルブを目標開度とすることはできないためである。
【0023】
請求項10に記載したように、判断手段は、運転者により車両の変速機に対するシフト操作が行なわれたとき、車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断するようにしても良い。
【0024】
シフト操作は、手動変速機を備えた車両であれば、運転者が、クラッチペダルを踏み込んだり、シフトレバーを操作したりすることによって行なわれる。また、自動変速機を備えた車両であれば、運転者が、レンジを選択するセレクトレバーを操作することによって行なわれる。操作部材としてのクラッチペダル、シフトレバー、あるいはセレクトレバーを用いてシフト操作が行なわれた場合、運転者は、車両を継続して運転する意思があり、かつ適切な運転操作を行ないうる状態と推測することができる。
【0025】
請求項11に記載の発明の作用効果については、請求項2と同様であるため、説明を省略する。
【0026】
請求項12に記載したように、スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さい場合、車両を加速させるための目標加速度を算出し、車両の加速度が目標加速度となるように、スロットルバルブの開度を制御することが好ましい。運転者によってシフト操作が行われた場合、車両のトランスミッションにおける変速比が変化する。従って、単に、目標開度までスロットルバルブを徐々に開くようにすると、変化後の変速比によっては、車速の変化が緩慢になったり、迅速になったりする可能性がある。それに対して、上述のように、車両の加速度が目標加速度となるようにスロットルバルブの開度を制御すれば、スロットルバルブ開度を目標開度まで開くときに、変化後の変速比によらず、車両を速度の変化を安定させることができる。
【0027】
請求項13に記載したように、緊急停止スイッチが操作されたときに、それが有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定する判定手段を有し、判定手段によって有効なスイッチ操作であると判定されると、車両を緊急停止させるべく、ブレーキを作動させることが好ましい。このような判定手段を備えることで、誤って緊急停止スイッチが操作されたときに、緊急停止制御の実行を未然に防止することができる。
【0028】
判定手段が、有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定する具体的な態様として、請求項14〜16に記載の構成を採用することができる。
【0029】
すなわち、請求項14に記載の発明では、緊急停止スイッチは、車室内のシートに対応して設けられており、判定手段は、緊急停止スイッチが操作されたとき、対応するシートに乗員が着座しているか否かにより、有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定する。シートに乗員が着座していない場合には、シート上の荷物などにより、誤って緊急停止スイッチが操作された可能性が高いと考えられるためである。
【0030】
また、請求項15に記載の発明では、緊急停止スイッチは、車両の複数のシートに対応して、複数個設けられており、判定手段は、所定数以上のスイッチ操作があった場合に、有効なスイッチ操作と判定し、所定数未満のスイッチ操作しかない場合、無効なスイッチ操作と判定する。所定数以上のスイッチ操作がある場合には、実際に非常事態が発生した可能性が極めて高いとみなせる一方、所定数未満のスイッチ操作しかなされない場合には、誤ってスイッチ操作が行なわれた可能性が高いと考えられるためである。
【0031】
請求項16に記載の発明では、緊急停止スイッチは、車両の複数のシートに対応して、複数個設けられており、車両の乗員の操作により、複数個の緊急停止スイッチの各々について、スイッチ操作を有効にするか、無効にするかを事前に設定する設定手段を有し、判定手段は、設定手段によりスイッチ操作が有効に設定された緊急停止スイッチが操作されたとき、有効なスイッチ操作と判定し、スイッチ操作が無効に設定された緊急停止スイッチが操作されたときには、無効なスイッチ操作と判定する。例えば、シートに着座している乗員が子供である場合には、スイッチ操作を無効と設定することにより、いたずらなどで緊急停止スイッチが操作されても、緊急停止制御を実行せずに済むためである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態による車両用緊急停止装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】車両が走行している間に、緊急停止スイッチがオンされたときに実行される緊急停止制御処理を示すフローチャートである。
【図3】図2のフローチャートにおける走行中解除処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態による車両用緊急停止装置の全体構成を示す構成図である。
【図5】第2実施形態の車両用緊急停止装置により、緊急停止スイッチがオンされたときに実行される緊急停止制御処理を示すフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートにおける走行中解除処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
【図7】第3実施形態による車両用緊急停止装置の全体構成を示す構成図である。
【図8】第3実施形態の車両用緊急停止装置により、緊急停止スイッチがオンされたときに実行される緊急停止制御処理を示すフローチャートである。
【図9】図8のフローチャートにおける走行中解除処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
【図10】第4実施形態による車両用緊急停止装置の主要な構成を示す構成図である。
【図11】第4実施形態の車両用緊急停止装置において、緊急停止スイッチの操作による緊急停止要求の受付処理を示すフローチャートである。
【図12】第5実施形態の車両用緊急停止装置において、緊急停止スイッチを、作動禁止もしくは作動許可のいずれかに設定するための設定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による車両用緊急停止装置について説明する。図1は、本実施形態における車両用緊急停止装置100の全体構成を示す構成図である。本実施形態の車両用緊急停止装置100は、車両の走行中に、当該車両の乗員によって緊急停止スイッチが操作されたとき、ブレーキを作動させる緊急停止制御を実行する。さらに、運転者によるアクセルペダルの踏込操作に基づき、緊急停止スイッチが誤って操作されたとみなされる場合には、緊急停止制御を終了させる走行中解除処理を実行する。
【0034】
車両用緊急停止装置100は、電子制御装置(ECU)101を中心に構成されている。このECU101は、上述した緊急停止制御を実行するために各種の演算処理を行なうCPU、その演算処理のためのプログラムなどが記憶されたROM、演算処理に必要な情報を一時記憶するRAM等からなる周知の構成を有している。
【0035】
図1に示すように、ECU101には、上述した緊急停止制御及び走行中解除処理の実行に必要な情報を得るため、種々のセンサやスイッチからの検出信号が入力される。具体的には、ECU101には、緊急停止スイッチ102、車速センサ103、シフトポジションセンサ104、アクセルペダルセンサ106、及びスロットルバルブセンサ108からの信号が入力される。
【0036】
緊急停止スイッチ102は、車室内において車両の各シートに着座した乗員によって操作可能な適宜の位置にそれぞれ設置され、各シートの乗員によって対応する緊急停止スイッチ102が操作されたときに、緊急停止要求信号をECU101に対して出力する。なお、この緊急停止スイッチ102は、複数のシートの乗員に1つの緊急停止スイッチ102が共用されるように、車室内に設置しても良い。
【0037】
車速センサ103は、自車両の走行速度に応じた信号を検出して、ECU101に出力する。シフトポジションセンサ104は、変速機におけるシフト位置(レンジ位置)を示す信号をECU101に出力する。アクセルペダルセンサ106は、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれたときに、その踏込量に応じた信号を出力する。スロットルバルブセンサ108は、エンジンの吸気管に設けられ、エンジンへ導入される空気量を調節するスロットルバルブの開度に応じた信号を出力する。
【0038】
ECU101には、当該ECU101からの駆動信号によって駆動されるアクセルペダルモータ105、スロットルバルブモータ107、及びブレーキアクチュエータ109が接続されている。
【0039】
アクセルペダルモータ105は、車両の運転者によって踏込操作される操作部材としてのアクセルペダルに対して、当該アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生させる。アクセルペダルモータ105が発生する力は、運転者がアクセルペダルを踏み込もうと意図した際に、運転者がアクセルペダルに印加可能な力よりも小さい。従って、運転者は、アクセルペダルモータ105が駆動されても、その力に抗して、アクセルペダルを踏み込むことが可能である
スロットルバルブモータ107は、エンジンの吸気管に設けられたスロットルバルブを回転駆動して、その開度を調節するものである。すなわち、本実施形態では、いわゆるリンクレススロットルを採用している。ECU101は、原則として、スロットルバルブの開度が、運転者によるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、スロットルバルブモータ107を駆動してスロットルバルブの開度を調節する。ただし、車両の走行中に緊急停止スイッチ102が操作され、上述した緊急停止制御が実行されるときには、ECU101は、一旦はスロットルバルブを閉じるように、スロットルバルブの開度を制御する。
【0040】
なお、車両の走行速度を制御するために、スロットルバルブモータ107以外の速度調節装置を用いても良い。例えば、車両の駆動源がモータである場合には、速度調節装置として、そのモータの出力を制御するインバータを用いることができる。
【0041】
ブレーキアクチュエータ109は、例えば高圧のブレーキフルードを吐出するポンプと、そのブレーキフルードの圧力を調節しつつ各車輪のホイールシリンダに供給する電磁バルブなどから構成される。このブレーキアクチュエータ109は、ECU101からの駆動信号に従って作動し、各車輪のホイールシリンダに調圧されたブレーキフルードを与えることで、各車輪に制動力を発生させることが可能である。
【0042】
次に、上述した構成を有する車両用緊急停止装置において実行される緊急停止制御について、図2及び図3のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、図2及び図3のフローチャートに示す処理は、車両が走行している間、定期的に実行される。
【0043】
まず、図2のフローチャートのステップS210では、緊急停止スイッチ102が操作され、緊急停止要求信号が出力されたか否かを判定する。このとき、緊急停止スイッチ102から緊急停止要求信号が出力されたと判定されると、ステップS220の処理に進む。ステップS220では、緊急停止制御を開始する際の車両状態として、アクセルペダルの踏込量、及びスロットルバルブの開度を記憶する。
【0044】
続くステップS230では、アクセルペダルモータ105を駆動して、アクセルペダルに対して、アクセルペダルが踏み込まれていない状態に戻すための力を発生させる。従って、例えば運転者が身体の異常などにより、運転操作を継続することができない場合には、アクセルペダルは踏み込まれていない状態に復帰する。さらに、運転者のアクセルペダルの踏込量に係らず、一旦、スロットルバルブが閉じられるように、スロットルバルブモータ107を駆動する。同時に、ブレーキによる制動力を生じさせるように、ブレーキアクチュエータ109を駆動する。これにより、車両は、減速を開始することになる。
【0045】
続くステップS240では、上述したスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の駆動により、車両が停止したか否かを判定する。このとき、車両が停止したと判定すると、ステップS280の処理に進む。ステップS280では、変速機のシフト位置が、パーキング(P)に切り替えられたか否かを判定する。シフト位置がパーキングに切り換えられた場合には、車両は完全に停止しており安全が確保されたとみなし得る。従って、ステップS290に進んで、上述したアクセルペダルモータ105の駆動を終了し、さらにスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の制御モードを、通常制御に切り換える。
【0046】
一方、ステップS240において、車両はまだ停止していないと判定すると、ステップS250の処理に進む。ステップS250では、アクセルペダルセンサ106からの信号に基づき、現在のアクセルペダル踏込量を検出する。そして、ステップS260では、ステップS250にて検出したアクセルペダル踏込量に基づいて、運転者によるアクセルペダルの踏み返しが行なわれているか否かを判定する。つまり、アクセルペダルモータ105を駆動することで、アクセルペダルには、アクセルペダルが踏み込まれていない状態に戻すための力が加えられる。従って、運転者が運転操作を行い得ない場合には、アクセルペダルは、踏み込まれていない状態に復帰するはずである。しかしながら、ステップS250にて検出したアクセルペダル踏込量が、アクセルペダルが踏み込まれている状態であることを示していれば、運転者は、アクセルペダルモータ105が発生する力に抗して、アクセルペダルを踏み返していると判定することができる。
【0047】
ステップS260にて運転者がアクセルペダルを踏み返していると判定した場合には、緊急停止スイッチ102が誤って操作された可能性が高いため、ステップS270に進んで、緊急停止制御を解除するための、走行中解除処理を実行する。一方、ステップS260で、アクセルペダルを踏み返していないと判定した場合には、ステップS240の処理に戻り、車両が停止するまで、緊急停止制御を継続して実行する。
【0048】
ステップS270において実行される走行中解除処理について、図3のフローチャートに基づき詳細に説明する。
【0049】
まず、ステップS310では、スロットルバルブを閉じたまま、ブレーキアクチュエータ109の作動を停止させる。これにより、ブレーキアクチュエータ109の作動によって車両に生じていた制動力は消失する。
【0050】
続くステップS320では、現在のアクセルペダルの踏込量が、緊急停止スイッチ102の操作時に記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さいか否かを判定する。そして、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上である場合には、ステップS330の処理に進み、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい場合には、ステップS340の処理に進む。
【0051】
ここで、本実施形態では、緊急停止制御が開始されると、アクセルペダルモータ105が駆動され、アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻す力がアクセルペダルに加えられる。このため、緊急停止スイッチ102が誤って操作されたときに、運転者がアクセルペダルを踏み込んでいても、多少は、アクセルペダルの踏込量が減少する方向にアクセルペダルが移動する場合がある。そのような場合、ステップS320の判定において、現在のアクセルペダルの踏込量は、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さいとの判定がなされる。
【0052】
ステップS330では、現在のスロットルバルブの開度が、緊急停止スイッチ102の操作時に記憶したスロットルバルブの開度よりも小さいか否かが判定される。上述したように、緊急停止スイッチ102の操作により、一旦、スロットルバルブは閉じられる。従って、そのスロットルバルブの開度は、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さくなる。
【0053】
ステップS330の判定処理において、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度より小さいと判定した場合には、ステップS340の処理に進み、記憶したスロットルバルブの開度以上と判定した場合には、ステップS360の処理に進む。
【0054】
ステップS360では、記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定しつつ、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御する。スロットルバルブを徐々に開くようにするためには、例えば、スロットルバルブの回転速度に制限を設けたり、車両の速度を増速するときの加速度に制限を設けたりすれば良い。
【0055】
ここで、ステップS360の処理は、上述したように、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上であり、かつ現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合に実行される。この条件に該当する状態では、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度と、実際のスロットルバルブの開度との間に、大きな乖離が生じている可能性がある。そこで、本実施形態では、このような場合に、本来のスロットルバルブの目標開度と実際のスロットルバルブの開度との中間にある、緊急停止スイッチが操作されたときに記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定し、スロットルバルブの開度を制御することとした。これにより、実際のスロットルバルブの開度と、アクセルペダルの踏込量に応じた本来のスロットルバルブの目標開度との乖離を徐々に減少させることができる。換言すれば、実際のスロットルバルブの開度が、アクセルペダルの踏込量に応じた本来の目標開度まで一気に開かれることがないので、車両の急加速を防止することができる。
【0056】
ステップS340では、現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度よりも小さいか否かを判定する。この目標スロットルバルブ開度は、運転者によるアクセルペダルの踏込量が大きくなるほど、目標スロットルバルブ開度も大きくなるように、原則として、アクセルペダル踏込量に基づいて決定される。走行中解除処理が開始された直後は、スロットルバルブは閉じられているので(ステップS310)、ステップS320における判定結果は「Yes」となり、ステップS350の処理が実行される。
【0057】
ステップS350では、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた目標スロットル開度をそのまま目標開度として設定しつつ、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御する。
【0058】
ここで、ステップS350の処理は、上述したように、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた目標スロットル開度よりも小さい場合であって、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さいか、もしくは現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上であるときに実行される。
【0059】
現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい場合には、現在のスロットルバルブの開度と、アクセルペダルの踏込量に応じた本来の目標開度との差の方が、記憶したスロットルバルブの開度との差よりも小さい。そのため、この場合には、記憶したスロットルバルブの開度ではなく、アクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブ開度を目標開度とするのである。また、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、現在のスロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた本来の目標開度に近づけるために、もはや記憶したスロットルバルブを目標開度として利用することはできない。そのため、この場合も、アクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブ開度を目標開度とするのである。
【0060】
ステップS350もしくはS360の処理の後に実行されるステップS370では、アクセルペダルモータ105の出力がまだ残っているか、すなわち、アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力がアクセルペダルに加えられているか否かを判定する。このとき、アクセルペダルモータ105の出力が残っていると判定した場合には、ステップS400に進んで、アクセルペダルモータ105の出力を徐々に低下させる。このようにアクセルペダルモータ105の出力を徐々に低下させる理由は、運転者によるアクセルペダルを踏み込む力とアクセルペダルモータ105が発生する力とがバランスしている状態から、一気にアクセルペダルモータ105による力を消失させると、運転者が意図しないにも係らず、アクセルペダルの踏込量が増加してしまう虞があるためである。
【0061】
また、ステップS340にて、現在のスロットル開度が目標スロットル開度以上となり、実際のスロットル開度が目標スロットル開度に達していれば、ステップS380にて、スロットルバルブの制御モードを通常制御とし、現在のアクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブの目標開度に一致するように、実際のスロットルバルブの開度を制御する。さらに、ステップS390にて、ステップS370と同様に、アクセルペダルモータ105の出力が残っているか否かを確認し、残っている場合には、ステップS400にて、徐々にアクセルペダルモータ105の出力を低下させる。
【0062】
本実施形態では、緊急停止スイッチ102が操作させたときに、一旦、スロットルバルブを閉じるように、スロットルバルブの開度が制御される。従って、走行中解除処理において、ブレーキアクチュエータ109の作動が停止された時点では、実際のスロットルバルブ開度は、アクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブの目標開度から大きく乖離した状態にある可能性が高い。このような状態で、通常のスロットルバルブ制御を開始すると、スロットルバルブの開度が急激に増加し、車両が急加速する虞が生じる。それに対して、上述した走行中解除処理を実行することにより、ブレーキアクチュエータ109の作動が停止された時点から、スロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで徐々に開くことが可能になり、急加速の発生を確実に防止することができる。
【0063】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態による車両用緊急停止装置について説明する。なお、上述した第1実施形態による車両用緊急停止装置と同様の構成については、同じ参照番号を付与することにより、詳細な説明を省略する。
【0064】
図4は、本実施形態による車両用緊急停止装置200の全体構成を示す構成図である。本実施形態による車両用緊急停止装置200は、図4に示すように、アクセルペダルモータ105に代えて、ステアリングホイールを回転駆動する力を発生するステアリングモータ110を備えている点、及びステアリングホイールの操舵角に応じた信号を出力する操舵角センサ111を備えている点が、第1実施形態の車両用緊急停止装置100と異なっている。
【0065】
つまり、第1実施形態による車両用緊急停止装置では、緊急停止スイッチが操作されたときに、運転者によるアクセルペダルの踏み返しの有無により、運転者が運転操作を継続して実施可能か否かを判断した。それに対して、本実施形態による車両用緊急停止装置では、緊急停止スイッチが操作されたときに、ステアリングモータ110によりステアリングホイールを所定角度だけ回転させる力を発生させる。その際に、操作部材としてのステアリングホイールが、ステアリングモータ110が発生する力に従って所定角度回転すれば、運転者は運転操作を行い得ない状態であると判断する。一方、ステアリングホイールの操舵角が、所定角度回転したときの操舵角から乖離していれば、運転者は、ステアリングモータ110が発生する力に抗してステアリングホイールの操舵を行なっており、運転操作を継続して行ないえる状態であると判断する。
【0066】
以下、本実施形態の車両用緊急停止装置において実行される緊急停止制御について、図5及び図6のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0067】
まず、図5のフローチャートのステップS410では、図2のフローチャートのステップS210と同様に、緊急停止スイッチ102が操作され、緊急停止要求信号が出力されたか否かを判定する。続くステップS420では、緊急停止制御を開始する際の車両状態として、ステアリングの操舵角、及びスロットルバルブの開度を記憶する。
【0068】
そして、ステップS430では、運転者のアクセルペダルの踏込量に係らず、一旦、スロットルバルブが閉じられるように、スロットルバルブモータ107を駆動する。同時に、ブレーキによる制動力を生じさせるように、ブレーキアクチュエータ109を駆動する。これにより、車両は、減速を開始する。
【0069】
続くステップS440では、上述したスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の駆動により、車両が停止したか否かを判定する。このとき、車両が停止したと判定すると、ステップS500の処理に進む。ステップS500では、変速機のシフト位置が、パーキング(P)に切り替えられたか否かを判定する。シフト位置がパーキングに切り換えられた場合には、ステップS510に進んで、ステアリングモータ110の駆動を停止させ、さらにスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の制御モードを、通常制御に切り換える。
【0070】
一方、ステップS440において、車両はまだ停止していないと判定すると、ステップS450の処理に進む。ステップS450では、ステアリングモータ110により、ステアリングホイールを所定角度だけ回転させるための駆動量を算出する。そして、ステップS460では、算出された駆動量に従って、ステアリングモータ110を駆動する。
【0071】
なお、本実施形態では、緊急停止スイッチの操作時に、ステアリングホイールの操舵角を、ステアリングモータ110によって変化させるので、ステアリング装置として、ステアリングホイールと操舵機構とが切り離された、いわゆるステアリングバイワイヤーの構成を採用することが好ましい。このような構成を採用すれば、ステアリングモータ110によりステアリングホイールの操舵角を変化させても、実際の操舵機構へ影響を与えずに済む。この場合、ステアリングモータ110は、通常は、ステアリングホイールの操舵に対して反力を与える反力モータとして機能し、緊急停止スイッチの操作時にのみ、ステアリングホイールの操舵角を変化させる力を発生する。
【0072】
ただし、ステアリングホイールが操舵機構に機械的に連結された通常のステアリング装置を用いることも可能である。この場合には、操舵機構に影響を与えない、いわゆる遊びの範囲で、ステアリングホイールの操舵角を変化させれば良い。
【0073】
ステップS470では、操舵角センサ111による検出信号、及びステップS420にて記憶したステアリング操舵角に基づき、ステアリングホイールの実際の操舵角が、ステアリングモータ110が発生した力によって所定角度回転した場合の操舵角から乖離しているか否かを判定する。このとき、実際の操舵角が、所定角度回転した場合の操舵角から乖離していると判定されると、運転者は、ステアリングモータ110が発生する力に抗してステアリングホイールの操舵を行なっていることを示しており、緊急停止スイッチ102が誤って操作された可能性が高い。このため、ステップS480に進んで、ステアリングモータの駆動を停止させ、さらにステップS490に進んで、緊急停止制御を解除するため、走行中解除処理を実行する。一方、実際の操舵角が、所定角度回転した場合の操舵角に一致していると判定されると、ステップS440の処理に戻り、車両が停止するまで、緊急停止制御を継続して実行する。
【0074】
次に、ステップS490において実行される走行中解除処理について、図6のフローチャートに基づき詳細に説明する。
【0075】
まず、ステップS610では、図3のフローチャートのステップS310と同様に、スロットルバルブを閉じたまま、ブレーキアクチュエータ109の作動を停止させる。これにより、ブレーキアクチュエータ109の作動によって車両に生じていた制動力は消失する。
【0076】
続くステップS620では、現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度よりも小さいか否かを判定する。この目標スロットルバルブ開度は、第1実施形態の場合と同様に、原則として、アクセルペダル踏込量に基づいて決定される。走行中解除処理が開始された直後は、スロットルバルブは閉じられているので(ステップS610)、ステップS620における判定結果は「Yes」となり、ステップS630の処理が実行される。一方、現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度以上と判定された場合には、ステップS670の処理が実行される。
【0077】
ステップS630では、現在のスロットルバルブの開度が、緊急停止スイッチ102の操作時に記憶したスロットルバルブの開度よりも小さいか否かが判定される。そして、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度より小さいと判定した場合には、ステップS640の処理に進み、記憶したスロットルバルブの開度以上であると判定した場合には、ステップS650の処理に進む。
【0078】
ステップS640では、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた目標スロットルバルブ開度が、記憶したスロットルバルブ開度よりも小さいか否かが判定される。そして、目標スロットルバルブ開度が、記憶したスロットルバルブ開度よりも小さいと判定した場合には、ステップS650の処理に進み、記憶したスロットルバルブの開度以上であると判定した場合には、ステップS660の処理に進む。
【0079】
上述したステップS620〜S640の処理により、現在のスロットル開度、目標スロットルバルブ開度、及び記憶したスロットルバルブ開度に関する大小関係を判定することができる。そして、その大小関係が、目標スロットルバルブ開度>現在のスロットル開度>記憶したスロットル開度、又は記憶したスロットル開度>目標スロットル開度>現在のスロットル開度であれば、ステップS650にて、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた目標スロットル開度をそのまま目標開度として設定しつつ、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御する。また、その大小関係が、目標スロットル開度>記憶したスロットル開度>現在のスロットル開度であれば、ステップS660にて、記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定しつつ、スロットルバルブの開度を目標開度まで徐々に開くように制御する。さらに、その大小関係が、現在のスロットルバルブの開度≧目標スロットルバルブ開度であれば、ステップS670にて、スロットルバルブの制御モードを通常制御とし、現在のアクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブの目標開度に一致するように、実際のスロットルバルブの開度を制御する。
【0080】
このような走行中解除処理を実行することにより、第1実施形態の車両用緊急停止装置と同様に、ブレーキアクチュエータ109の作動が停止された時点から、スロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで徐々に開くことが可能になり、急加速の発生を確実に防止することができる。
【0081】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態による車両用緊急停止装置について説明する。なお、上述した第1実施形態の車両用緊急停止装置と同様の構成については、同じ参照番号を付与することにより、詳細な説明を省略する。
【0082】
図7は、本実施形態による車両用緊急停止装置300の全体構成を示す構成図である。本実施形態による車両用緊急停止装置300は、図7に示すように、クラッチペダルによるクラッチの連結、切断に応じた信号を出力するクラッチSW112を有している。そして、シフトポジションセンサ104及びクラッチSW112を用いて、運転者によりシフト操作が行なわれたことを検出すると、運転者は運転操作を継続して行いうる状態であると判断する。
【0083】
なお、本実施形態の車両用緊急停止装置は、手動変速機を備える車両に適用される例について示しているが、自動変速機を備える車両にも適用可能である。自動変速機を備える車両に適用する場合には、運転者によって走行レンジを切り換えるセレクトレバーが操作されたことをもってシフト操作が行なわれたと判定すれば良い。
【0084】
以下、本実施形態の車両用緊急停止装置において実行される緊急停止制御について、図8及び図9のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0085】
まず、図8のフローチャートのステップS710では、図2のフローチャートのステップS210と同様に、緊急停止スイッチ102が操作され、緊急停止要求信号が出力されたか否かを判定する。続くステップS720では、運転者のアクセルペダルの踏込量に係らず、一旦、スロットルバルブが閉じられるように、スロットルバルブモータ107を駆動する。同時に、ブレーキによる制動力を生じさせるように、ブレーキアクチュエータ109を駆動する。これにより、車両は、減速を開始する。
【0086】
続くステップS730では、上述したスロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の駆動により、車両が停止したか否かを判定する。このとき、車両が停止したと判定すると、ステップS770の処理に進む。ステップS770では、変速機のシフト位置が、ニュートラル(N)又はパーキング(P)に切り替えられたか否かを判定する。シフト位置がニュートラル又はパーキングに切り換えられたと判定した場合には、ステップS780に進んで、スロットルバルブ及びブレーキアクチュエータ109の制御モードを、通常制御に切り換える。
【0087】
一方、ステップS730において、車両はまだ停止していないと判定すると、ステップS740の処理に進む。ステップS740では、シフトポジションセンサ104及びクラッチSW112からの信号を読み込む。そして、ステップS750において、シフトポジションセンサ104及びクラッチSW112からの信号に基づいて、運転者が、操作部材としてのクラッチペダルやシフトレバーを用いてシフト操作(変速操作)を行ったか否かを判定する。運転者がシフト操作を行ったと判定した場合、緊急停止スイッチ102が誤って操作された可能性が高いため、ステップS760に進んで、緊急停止制御を解除するため、走行中解除処理を実行する。一方、運転者によるシフト操作が検出されない場合には、ステップS730の処理に戻り、車両が停止するまで、緊急停止制御を継続して実行する。
【0088】
次に、ステップS760において実行される走行中解除処理について、図9のフローチャートに基づき詳細に説明する。
【0089】
まず、ステップS810では、図3のフローチャートのステップS310と同様に、スロットルバルブを閉じたまま、ブレーキアクチュエータ109の作動を停止させる。これにより、ブレーキアクチュエータ109の作動によって車両に生じていた制動力は消失する。
【0090】
続くステップS820では、現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度よりも小さいか否かを判定する。この目標スロットルバルブ開度は、第1実施形態の場合と同様に、原則として、アクセルペダル踏込量に基づいて決定される。走行中解除処理が開始された直後は、スロットルバルブは閉じられているので(ステップS810)、ステップS820における判定結果は「Yes」となり、ステップS830の処理が実行される。
【0091】
ステップS830では、現在のスロットルバルブの開度を目標スロットルバルブ開度に近づける際に車両が加速することになるが、その加速時の目標加速度を算出する。そして、ステップS840では、その目標加速度を実現するためのスロットルバルブ開度を算出し、ステップS850において、実際のスロットルバルブ開度が、算出したスロットルバルブ開度に一致するようにスロットルバルブモータ107を駆動する。
【0092】
運転者によってシフト操作が行われた場合、車両の変速機における変速比が変化する。従って、単に、目標開度までスロットルバルブを徐々に開くようにすると、変化後の変速比によっては、車速の変化が緩慢になったり、逆に迅速になったりする場合がありえる。それに対して、上述のように、車両の加速度が目標加速度となるようにスロットルバルブの開度を制御すれば、スロットルバルブ開度を目標開度まで開くときに、変化後の変速比によらず、車両を速度の変化を安定させることができる。
【0093】
そして、ステップS820にて現在のスロットルバルブの開度が、目標スロットルバルブ開度以上と判定された場合に実行されるステップS860では、スロットルバルブの制御モードを通常制御とし、現在のアクセルペダルの踏込量に応じたスロットルバルブの目標開度に一致するように、実際のスロットルバルブの開度を制御する。
【0094】
このような走行中解除処理を実行することにより、第1実施形態の車両用緊急停止装置と同様に、ブレーキアクチュエータ109の作動が停止された時点から、スロットルバルブの開度を、アクセルペダルの踏込量に応じた目標開度まで徐々に開くことが可能になり、急加速の発生を確実に防止することができる。
【0095】
(第4実施形態)
次に本発明の第4実施形態による車両用緊急停止装置について説明する。上述した第1実施形態〜第3実施形態では、緊急停止スイッチ102が操作されたときに、車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを、当該運転者によって操作される各種の操作部材の動作状態に基づき判断し、車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断すると、緊急停止スイッチの操作に基づくブレーキの作動を停止させた。
【0096】
本実施形態では、上述した第1実施形態〜第3実施形態とは異なり、緊急停止スイッチ102の操作が行なわれたときに、その緊急停止スイッチ102の操作が有効なものであるか、無効なものであるかを判定し、有効なスイッチ操作であると判定されると、緊急停止制御の開始トリガとして用いるようにしたものである。これにより、誤って緊急停止スイッチが操作された場合に、緊急停止制御の実行自体を未然に防止する可能性を高めることができる。
【0097】
なお、本実施形態において説明する内容は、上述した第1実施形態〜第3実施形態において、緊急停止スイッチ102が操作されたか否かの判定に適用可能なものである。すなわち、緊急停止スイッチ102による操作が有効であると判定された場合に、第1〜第3実施形態の車両用緊急停止装置において緊急停止制御を行い。操作が無効であると判定された場合には、第1〜第3実施形態の車両用緊急停止装置において緊急停止制御を行なわないようにする。
【0098】
図10は、第4実施形態による車両用緊急停止装置400において、緊急停止スイッチ102の操作が有効なものか、無効なものかを判定するために用いられる構成を示した構成図である。換言すると、図10においては、緊急停止制御を実行するために必要な構成は省略されている。
【0099】
図10に示すように、車両用緊急停止装置400は、着座センサ113、車室内カメラ114、ディスプレイ115、及びタッチパネル116を備えている。
【0100】
着座センサ113は、例えば、車両の各シートに設けられた荷重センサからなり、ECU101は、この荷重センサによる荷重信号に基づき、対応するシートに乗員が乗車しているか否かを判定することが可能となる。また、ECU101は、シートに加わる荷重の大きさや、その分布から、乗員が大人であるのか子供であるのかを判定することも可能となる。
【0101】
車室内カメラ114は、撮影範囲が車室内の各シートを網羅するように、車室内に設置される。この車室内カメラ114による撮影画像は、ECU101に出力され、ECU101は、その撮影画像に基づいて、車室内の各シートに乗員が着座しているか、着座している場合、その乗員が大人であるのか子供であるのかを判定する。このように、着座センサ113と車室内カメラ114は、いずれもシートに着座している乗員を検知するものであるため、いずれか一方のみを設けるようにしても良い。
【0102】
ディスプレイ115及びタッチパネル116は、車両の各シートごとに設けられた緊急停止スイッチ102に関して、事前に、各緊急停止スイッチ102の操作を有効とするか無効とするかを設定し、その設定状態を確認するために利用される。
【0103】
以下、本実施形態における、緊急停止スイッチの操作が有効なものであるか、無効なものであるかを判定するための処理である緊急停止要求受付処理について、図11のフローチャートに基づいて説明する。
【0104】
まず、ステップS910において、緊急停止スイッチの操作人数をカウントするカウンタを0にリセットする。続くステップS920では、操作が許可されている緊急停止スイッチ102の中の任意の緊急停止スイッチ102を選択し、その緊急停止スイッチ102が操作されたか否かを判定する。なお、緊急停止スイッチ102は、後述する図12に示すフローチャートにより、事前に、操作可能か、操作禁止のいずれかの状態に設定される。
【0105】
ステップS920にて、緊急停止スイッチ102が操作され、緊急停止要求信号が出力されたと判定した場合、ステップS930に進み、念のため、対応するシートに乗員(大人)が着座しているか否かを確認する。このとき、乗員(大人)が着座していないと判定した場合には、ステップS940の処理に進み、乗員(大人)が着座していると判定した場合には、ステップS950の処理に進む。ステップS940では、緊急停止スイッチ102からの緊急停止要求信号をクリアする。一方、ステップS950では、緊急停止スイッチの操作人数をカウントするカウンタを1だけカウントアップする。
【0106】
ステップS950の処理の後に実行されるステップS960では、緊急停止スイッチの操作人数をカウントするカウンタのカウント値が、所定数以上となったか否かを判定する。この際、所定数は、予め決定した数(1,2、…)であっても良いし、運転者以外の乗員数に基づき、例えば全乗員数の半数を所定数として決定しても良い。ステップS950の判定処理において、カウンタのカウント値が所定数未満であると判定した場合にはステップS970の処理に進み、所定数以上であると判定された場合にはステップS980の処理に進む。
【0107】
ステップS970では、操作が許可されている全緊急停止スイッチ102についてチェックが完了したか否かを判定し、未完了であれば、ステップS920の処理に戻り、完了していれば、図11のフローチャートに示す処理を終了する。
【0108】
また、ステップS980では、緊急停止スイッチ102の操作人数が所定数以上となったため、緊急停止スイッチ102の操作は有効なものであるとみなし、第1実施形態〜第3実施形態において説明したいずれかの緊急停止制御を実行する。なお、この場合、車両用緊急停止装置として、第1実施形態〜第3実施形態の構成をすべて備え、第1実施形態〜第3実施形態において説明した、いずれかの条件(操作部材の操作)が成立した場合に、その成立した条件に応じた緊急停止制御を実行するようにしても良い。
【0109】
このように、本実施形態においては、緊急停止スイッチ102が操作されたときに、それが有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定し、有効なスイッチ操作であると判定されると、緊急停止制御を実行する。このため、誤って緊急停止スイッチ102が操作されたときに、緊急停止制御の実行を未然に防止することができる。
【0110】
上述した実施形態では、特に、緊急停止スイッチ102が操作されたとき、対応するシートに乗員が着座しているか否かを確認し、乗員が着座している場合に、緊急停止スイッチ102の操作人数をカウントするカウンタのカウント値をカウントアップしている。換言すれば、シートに乗員が着座していない場合には、シート上の荷物などにより、誤って緊急停止スイッチ102が操作された可能性が高いため、緊急停止スイッチ102からの信号をクリアしている。従って、有効なスイッチ操作であるか無効なスイッチ操作であるかをより精度良く判定することができる。
【0111】
また、上述した実施形態では、操作が許可された緊急停止スイッチ102において、所定数以上のスイッチ操作があった場合に、有効なスイッチ操作と判定し、所定数未満のスイッチ操作しかない場合、無効なスイッチ操作と判定している。このため、バスなど多人数が乗車する車両などに好適に用いることができる。ただし、上述したように、所定数は1でも良く、また、その適用対象車両の大きさが限定されるわけではなく、小型車、普通車などの車両に適用しても良い。
【0112】
次に、図12のフローチャートを参照して、各緊急停止スイッチ102について、事前に、操作可能か、操作禁止のいずれかの状態に設定するための設定処理に関して説明する。なお、初期状態では、各緊急停止スイッチ102は、すべて操作許可状態、あるいは操作禁止状態に設定されている。
【0113】
まず、ステップS1010では、タッチパネル116からの信号及び着座センサ113(及び/又は車室内カメラ114)からの信号を読み込む。続くステップS1020では、タッチパネル116からの信号に基づいて、各緊急停止スイッチ102に関して順番に、緊急停止スイッチ102の設定指示が行なわれたか、又は対応するシートにおいて乗員の有無に変化があったかを判定する。設定指示がなく、また乗員の有無の変化も無い場合には、ステップS1090の処理に進み、全緊急停止スイッチに関してチェックが完了したか否かを判定し、未完了であればステップS1010に戻り、完了していれば、図12のフローチャートに示す処理を終了する。
【0114】
一方、ステップS1020において、緊急停止スイッチ102の設定指示が行われた、又は乗員の有無に変化があったと判定した場合には、ステップS1030に進んで、設定指示が「操作禁止」であるか(又は、すでに「操作禁止」に設定されているか)を判定する。このステップS1020の判定処理において「No」と判定された場合、ステップS1080の処理に進んで、処理対象となっている緊急停止スイッチ102を操作許可状態に設定する。一方、ステップS1020の判定処理において「Yes」と判定された場合、ステップS1040に進み、対象座席に乗員がいるか否かを確認する。乗員がいる場合には、ステップS1050において、ディスプレイ115を用いて、操作禁止状態に設定しても良いかを運転者に確認する。
【0115】
ステップS1060では、その運転者による応答内容に基づき、操作禁止で良いとの応答があった場合には、ステップS1070で、処理対象となっている緊急停止スイッチ102を操作禁止状態に設定し、操作許可にするとの応答があった場合には、ステップS1080において、処理対象となっている緊急停止スイッチ102を操作許可状態に設定する。
【0116】
このような設定処理を実行することにより、事前に、操作を有効とすべき緊急停止スイッチについては操作許可状態に設定し、操作を無効とすべき緊急停止装置は操作禁止状態に設定できる。例えば子供が着座しているシートや、乗員が着座していないシートに対応する緊急停止スイッチ102を操作禁止状態に設定し、大人が着座しているシートに対応する緊急停止スイッチ102だけを操作許可状態に設定することができる。このような設定を事前に行なうことができるので、子供のいたずらや荷物による誤操作などで緊急停止スイッチが操作されても、緊急停止制御を実行せずに済む。
【符号の説明】
【0117】
100 車両用緊急停止装置
101 ECU
102 緊急停止スイッチ
103 車速センサ
104 シフトポジションセンサ
105 アクセルペダルモータ
106 アクセルペダルセンサ
107 スロットルバルブモータ
108 スロットルバルブセンサ
109 ブレーキアクチュエータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急停止スイッチが操作されたときに、車両を緊急停止させるべく、少なくともブレーキを作動させる車両用緊急停止装置において、
前記車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを、当該運転者によって操作される操作部材の動作状態に基づき判断する判断手段と、
前記判断手段によって、前記車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断されると、前記緊急停止スイッチの操作に基づくブレーキの作動を停止させる作動停止手段と、を備えることを特徴とする車両用緊急停止装置。
【請求項2】
前記判断手段は、
前記車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルに対して、当該アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生させるアクセルペダルモータと、
前記アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、を備え、
前記アクセルペダルモータが、前記アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生したときに、その力に抗して、前記車両の運転者がアクセルペダルを踏込操作していることが前記踏込量検出手段によって検出されると、前記車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断することを特徴とする請求項1に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項3】
前記アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、
前記車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、前記車両の内燃機関への吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度を制御する開度制御手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたとき、前記スロットルバルブを閉じるように、前記スロットルバルブの開度を制御し、前記作動停止手段により前記ブレーキの作動が停止されると、前記スロットルバルブを、前記アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項2に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項4】
前記スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたときのアクセルペダルの踏込量及びスロットルバルブの開度を記憶し、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上であり、かつ現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、記憶したスロットルバルブの開度を目標開度に設定し、前記スロットルバルブの開度を前記目標開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項3に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項5】
前記開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さい場合であって、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい、もしくは現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上であるとき、現在のアクセルペダルの踏込量に基いて前記スロットルバルブの目標開度を設定し、前記スロットルバルブの開度を前記目標開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項4に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項6】
前記判断手段は、
前記車両の運転者によって操舵されるステアリングホイールに対して、当該ステアリングホイールを回転駆動するための力を発生させるステアリングモータと、
前記ステアリングホイールの操舵角度を検出する操舵角度検出手段と、を備え、
前記ステアリングモータが、前記ステアリングホイールを回転駆動するための力を発生したときに、その力に抗して、前記車両の運転者がステアリングホイールを操舵していることが前記操舵角度検出手段によって検出されると、前記車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断することを特徴とする請求項1に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項7】
前記アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、
前記車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、前記車両の内燃機関への吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度を制御する開度制御手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたとき、前記スロットルバルブを閉じるように、前記スロットルバルブの開度を制御し、前記作動停止手段により前記ブレーキの作動が停止されると、前記スロットルバルブを、前記アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項6に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項8】
前記スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたときのスロットルバルブの開度を記憶し、その記憶したスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、前記記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定し、前記スロットルバルブの開度を前記目標開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項7に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項9】
前記開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、現在のアクセルペダルの踏込量に基いて前記スロットルバルブの目標開度を設定し、前記スロットルバルブの開度を前記目標開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項8に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項10】
前記判断手段は、前記運転者により前記車両の変速機に対するシフト操作が行なわれたとき、前記車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断することを特徴とする請求項1に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項11】
前記アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、
前記車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、前記車両の内燃機関への吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度を制御する開度制御手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたとき、前記スロットルバルブを閉じるように、前記スロットルバルブの開度を制御し、前記作動停止手段により前記ブレーキの作動が停止されると、前記スロットルバルブを、前記アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項10に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項12】
前記スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、
前記開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さい場合、車両を加速させるための目標加速度を算出し、車両の加速度が目標加速度となるように、前記スロットルバルブの開度を制御することを特徴とする請求項11に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項13】
前記緊急停止スイッチが操作されたときに、それが有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定する判定手段を有し、
前記判定手段によって有効なスイッチ操作であると判定されると、車両を緊急停止させるべく、ブレーキを作動させることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項14】
前記緊急停止スイッチは、車室内のシートに対応して設けられており、前記判定手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたとき、対応するシートに乗員が着座しているか否かにより、有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定することを特徴とする請求項13に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項15】
前記緊急停止スイッチは、車両の複数のシートに対応して、複数個設けられており、
前記判定手段は、所定数以上のスイッチ操作があった場合に、有効なスイッチ操作と判定し、所定数未満のスイッチ操作しかない場合、無効なスイッチ操作と判定することを特徴とする請求項13に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項16】
前記緊急停止スイッチは、車両の複数のシートに対応して、複数個設けられており、
車両の乗員の操作により、前記複数個の緊急停止スイッチの各々について、スイッチ操作を有効にするか、無効にするかを事前に設定する設定手段を有し、
前記判定手段は、前記設定手段によりスイッチ操作が有効と設定された緊急停止スイッチが操作されたとき、有効なスイッチ操作と判定し、スイッチ操作が無効と設定された緊急停止スイッチが操作されたときには、無効なスイッチ操作と判定することを特徴とする請求項13に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項1】
緊急停止スイッチが操作されたときに、車両を緊急停止させるべく、少なくともブレーキを作動させる車両用緊急停止装置において、
前記車両の運転者が運転操作を行ないうる状態であるか否かを、当該運転者によって操作される操作部材の動作状態に基づき判断する判断手段と、
前記判断手段によって、前記車両の運転者が運転操作を行いうる状態であると判断されると、前記緊急停止スイッチの操作に基づくブレーキの作動を停止させる作動停止手段と、を備えることを特徴とする車両用緊急停止装置。
【請求項2】
前記判断手段は、
前記車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルに対して、当該アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生させるアクセルペダルモータと、
前記アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、を備え、
前記アクセルペダルモータが、前記アクセルペダルを踏み込まれていない状態に戻すための力を発生したときに、その力に抗して、前記車両の運転者がアクセルペダルを踏込操作していることが前記踏込量検出手段によって検出されると、前記車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断することを特徴とする請求項1に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項3】
前記アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、
前記車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、前記車両の内燃機関への吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度を制御する開度制御手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたとき、前記スロットルバルブを閉じるように、前記スロットルバルブの開度を制御し、前記作動停止手段により前記ブレーキの作動が停止されると、前記スロットルバルブを、前記アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項2に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項4】
前記スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたときのアクセルペダルの踏込量及びスロットルバルブの開度を記憶し、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量以上であり、かつ現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、記憶したスロットルバルブの開度を目標開度に設定し、前記スロットルバルブの開度を前記目標開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項3に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項5】
前記開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さい場合であって、現在のアクセルペダルの踏込量が、記憶したアクセルペダルの踏込量よりも小さい、もしくは現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度以上であるとき、現在のアクセルペダルの踏込量に基いて前記スロットルバルブの目標開度を設定し、前記スロットルバルブの開度を前記目標開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項4に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項6】
前記判断手段は、
前記車両の運転者によって操舵されるステアリングホイールに対して、当該ステアリングホイールを回転駆動するための力を発生させるステアリングモータと、
前記ステアリングホイールの操舵角度を検出する操舵角度検出手段と、を備え、
前記ステアリングモータが、前記ステアリングホイールを回転駆動するための力を発生したときに、その力に抗して、前記車両の運転者がステアリングホイールを操舵していることが前記操舵角度検出手段によって検出されると、前記車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断することを特徴とする請求項1に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項7】
前記アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、
前記車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、前記車両の内燃機関への吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度を制御する開度制御手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたとき、前記スロットルバルブを閉じるように、前記スロットルバルブの開度を制御し、前記作動停止手段により前記ブレーキの作動が停止されると、前記スロットルバルブを、前記アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項6に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項8】
前記スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたときのスロットルバルブの開度を記憶し、その記憶したスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ、現在のスロットルバルブの開度が、記憶したスロットルバルブの開度よりも小さい場合、前記記憶したスロットルバルブの開度を目標開度として設定し、前記スロットルバルブの開度を前記目標開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項7に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項9】
前記開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さく、かつ記憶したスロットルバルブの開度以上である場合、現在のアクセルペダルの踏込量に基いて前記スロットルバルブの目標開度を設定し、前記スロットルバルブの開度を前記目標開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項8に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項10】
前記判断手段は、前記運転者により前記車両の変速機に対するシフト操作が行なわれたとき、前記車両の運転者は運転操作を行いうる状態であると判断することを特徴とする請求項1に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項11】
前記アクセルペダルの踏込量を検出する踏込量検出手段と、
前記車両の運転者によって踏込操作されるアクセルペダルの踏込量に応じた開度となるように、前記車両の内燃機関への吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度を制御する開度制御手段を備え、
前記開度制御手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたとき、前記スロットルバルブを閉じるように、前記スロットルバルブの開度を制御し、前記作動停止手段により前記ブレーキの作動が停止されると、前記スロットルバルブを、前記アクセルペダルの踏込量に応じた開度まで徐々に開くように制御することを特徴とする請求項10に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項12】
前記スロットルバルブの開度を検出する開度検出手段を備え、
前記開度制御手段は、現在のスロットルバルブの開度が、現在のアクセルペダルの踏込量に応じた開度よりも小さい場合、車両を加速させるための目標加速度を算出し、車両の加速度が目標加速度となるように、前記スロットルバルブの開度を制御することを特徴とする請求項11に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項13】
前記緊急停止スイッチが操作されたときに、それが有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定する判定手段を有し、
前記判定手段によって有効なスイッチ操作であると判定されると、車両を緊急停止させるべく、ブレーキを作動させることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項14】
前記緊急停止スイッチは、車室内のシートに対応して設けられており、前記判定手段は、前記緊急停止スイッチが操作されたとき、対応するシートに乗員が着座しているか否かにより、有効なスイッチ操作であるか、無効なスイッチ操作であるかを判定することを特徴とする請求項13に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項15】
前記緊急停止スイッチは、車両の複数のシートに対応して、複数個設けられており、
前記判定手段は、所定数以上のスイッチ操作があった場合に、有効なスイッチ操作と判定し、所定数未満のスイッチ操作しかない場合、無効なスイッチ操作と判定することを特徴とする請求項13に記載の車両用緊急停止装置。
【請求項16】
前記緊急停止スイッチは、車両の複数のシートに対応して、複数個設けられており、
車両の乗員の操作により、前記複数個の緊急停止スイッチの各々について、スイッチ操作を有効にするか、無効にするかを事前に設定する設定手段を有し、
前記判定手段は、前記設定手段によりスイッチ操作が有効と設定された緊急停止スイッチが操作されたとき、有効なスイッチ操作と判定し、スイッチ操作が無効と設定された緊急停止スイッチが操作されたときには、無効なスイッチ操作と判定することを特徴とする請求項13に記載の車両用緊急停止装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−228954(P2012−228954A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98350(P2011−98350)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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