説明

車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材

【課題】衝撃エネルギ吸収性に優れ、かつ軽量で製造コストの低減が可能な車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材を提供する。
【解決手段】バンパビーム2とバンパフェース7との間に配置される衝撃吸収材10において、頂面12及び前部上面13と前部下面14とを有する前部衝撃吸収部11と、前部上面13の後端に連続し後端縁22bにバンパビーム2の前面3に当接する上側フランジ24が形成された後部上面22及び前部下面13の後端に連続し後端縁25bにバンパビーム2の前面3に当接する下側フランジ27が形成された後部下面25を有する後部衝撃吸収部21を備え、後部上面22及び後部下面25にそれぞれ複数の上側ビード23及び下側ビード26を形成する。頂面12に衝撃荷重が付与される初期段階における初期抗力が急激に立ち上がることなく潰れ変形して変形ストロークの増大が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材に関し、特に車幅方向に延在するバンパビームの前面とバンパフェースとの間に車幅方向に延在して配置される樹脂製の衝撃吸収材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の衝撃吸収バンパは、車両が外部の物体や歩行者と接触した際に、衝撃の緩和を図り、車体の損傷を防ぐ役割を果たす。一方、近年歩行者保護に重点を置いたバンパが開発されるようになり、歩行者に与えるダメージを極力抑えることがバンパに要求されるようになった。即ち、衝撃吸収バンパには、比較的速い速度で歩行者と接触した場合であっても、歩行者の脚部が回復不可能な状態となるほどのダメージを与えることのない衝撃エネルギ吸収性が要求される。
【0003】
この種の衝撃吸収バンパは、例えば、図12に断面を示すように車体前部に配置されて車幅方向に延在する強度部材となるバンパビーム101と、バンパビーム101の前面101aに沿って車幅方向に配置される衝撃吸収材102と、衝撃吸収材102を被覆するバンパフェース103とを主要部として形成される。衝撃吸収材102はポリプロピレン等の発泡樹脂によって形成され、バンパフェース103はポリウレタン或いはポリプロピレン等の樹脂によって形成される。
【0004】
ここで、ポリプロピレン等の発泡樹脂からなる衝撃吸収材102の衝撃に対する変形抗力は、発泡樹脂の発泡倍率と衝撃吸収材102の変形ストローク量とによってほぼ決定され、特に発泡樹脂の発泡倍率が低い場合に初期抗力が急激に立ち上がりかつ過大となる傾向がある。また、衝撃吸収材102の変形過程の中間域における変形抗力の設定、即ちエネルギ吸収性の調整が困難であり、所望の要求衝撃エネルギ吸収性が達成できず、歩行者の脚部の保護が十分にできないことが懸念される。この発泡樹脂からなる衝撃吸収材102による変形抗力と変形ストロークとの相関の一例を図14に示す「F−S(荷重−変形ストローク)相関図」に破線aで示す。
【0005】
この初期抗力の急激な立ち上がりを抑制する対策として、特許文献1に開示されるバンパが知られている。この特許文献1のバンパは、図13に断面図を示すように、車幅に延在するバンパビーム111とバンパフェース113との間に発泡樹脂によって形成される衝撃吸収材112が配置される衝撃吸収バンパにおいて、衝撃吸収材112のバンパビーム111の前面111aに当接する後面に車幅方向に連続する溝状の凹部112aと突出部112bを交互に複数形成して、物体や歩行者の脚部と接触した際にその衝撃荷重により突出部112bを圧縮変形或いは座屈変形させて初期抗力の急激な立ち上がり及び増大を抑制する。
【0006】
また、特許文献2には、バンパと車体との間に、段差を介して小径管部と大径管部を連結して形成された金属パイプ等による衝撃吸収材を配置し、バンパが衝撃を受けた際に小径管部が大径管部に押し込まれる変形過程での段差の捲れ込みによって衝撃エネルギを吸収する車両の衝撃吸収装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−82957号公報
【特許文献2】特開2003−160011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1によると、衝撃吸収材112を形成する発泡樹脂の発泡倍率が比較的低い場合であっても物体や歩行者の脚部と接触した際に、その衝撃荷重によりバンパビーム111の前面111aに当接する衝撃吸収材112の突出部112bを圧縮変形させることにより初期抗力の急激な立ち上がり及び増大がある程度抑制できる。
【0009】
しかし、突出部112bは車幅方向に連続する薄肉状に形成されることから、物体や歩行者との接触による衝撃荷重により突出部112bが圧縮変形する過程において仮想線で示すように急激な座屈変形の発生が懸念される。圧縮変形する過程で突出部112bに急激な座屈変形が発生すると、変形抗力が急激に低下して所期の衝撃エネルギ吸収性が得られず、物体や歩行者の脚部を十分に保護できずダメージ与える事態を誘発することが懸念される。この急激な座屈変形を伴う変形抗力と変形ストロークとの相関を図14に示す「F−S(荷重−変形ストローク)相関図」に一点鎖線bで示す。また、変形過程の中間域における変形抗力の設定が困難であり、所望の要求衝撃エネルギ吸収性が達成できないおそれがある。また、発泡樹脂で構成された衝撃吸収部材は比較的重量が大きく、かつ発泡成形による衝撃吸収材の製造コストの増大が懸念される。
【0010】
特許文献2によると、衝撃吸収材が段差を介して連結された小径管部と大径管部によって構成され、小径管部が大径の管部に押し込まれる変形過程で衝撃エネルギを吸収することから、初期抗力が急激に立ち上がりかつ過大となると共に変形過程の中間域における変形抗力の設定が困難で所望の要求衝撃エネルギ吸収性が達成できず、歩行者の脚部を十分に保護できないおそれがある。また、金属パイプからなる衝撃吸収材は比較的重量が大きく、かつ成形加工が厄介で製造コストの増大が懸念される。
【0011】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、衝撃エネルギ吸収性に優れ、かつ軽量で製造コストの低減が可能な車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する請求項1に記載の車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材は、車幅方向に延在するバンパビームの前面とバンパフェースとの間に車幅方向に延在して配置される樹脂製の車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材において、車幅方向に延在する頂面及び該頂面の上縁及び下縁からそれぞれ湾曲して連続する前部上面と前部下面とを有する断面略U字状で車幅方向に連続する前部衝撃吸収部と、前端縁が上記前部上面の後端に連続し後端縁に上記バンパビームの前面に当接する当接部が形成された後部上面及び該後部上面と対向すると共に前端縁が上記前部下面の後端に連続し後端縁に上記バンパビームの前面に当接する当接部が形成された後部下面を有する後部衝撃吸収部とを備え、前方から入力される衝撃荷重に対する抗力が上記前部衝撃吸収部より上記後部衝撃吸収部が大きく設定されたことを特徴とする。
【0013】
これにより、頂面に衝撃荷重が付与される初期段階において前部衝撃吸収部の前部上面及び前部下面が緩やかに潰れ変形して初期抗力が急激に立ち上がることなく、更に、前部衝撃吸収部の変形後における変形過程の中間段階においては、潰れ変形した前部衝撃吸収部を介して入力される荷重によって後部衝撃吸収部の後部上面及び後部下面が緩やかに潰れ変形して急激な変形抗力が抑制されて変形ストロークの増大が得られ、良好な衝撃エネルギ吸収性が確保される。従って、歩行者と接触した場合であっても歩行者の脚部へのダメージが極めて軽減できる。
【0014】
また、衝撃吸収材が略U字状で車幅方向に連続する中空断面形状の樹脂製で比較的軽量に構成でき、バンパの軽量化が得られ、かつ生産性に優れた射出成形や圧縮空気圧成形等による成形が容易で製造コストの低減が期待できる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1の車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材において、上記後部上面は、該後部上面の前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する下方が開放されて上方に突出する断面U字状乃至C字状の複数の上側ビードが車幅方向に連続形成された波板形状であって、上記後部下面は、該後部下面の前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する上方が開放されて下方に突出する断面U字状乃至C字状の複数の下側ビードが車幅方向に連続形成された波板形状であることを特徴とする。
【0016】
これによると、後部上面を前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する下方が開放された断面U字状乃至断面C字状で上方に突出する複数の上側ビードが車幅方向に連続形成された波板形状に形成し、後部下面を前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する上方が開放された断面U字状乃至断面C字状で下方に突出する複数の下側ビードが車幅方向に連続形成された波板形状に形成する簡単な構成で後部上面及び後部下面の前方から入力される衝撃荷重に対する抗力が確保でき、容易に前部衝撃吸収部より後部衝撃部の抗力を大きく設定することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1の車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材において、上記後部上面は、該後部上面の前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する下方が開放されて上方に突出する断面V字状の複数の上側ビードが車幅方向に連続形成された三角波板形状であって、上記後部下面は、該後部下面の前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する上方が開放されて下方に突出する断面V字状の複数の下側ビードが車幅方向に連続形成された三角波板形状であることを特徴とする。
【0018】
これによると、後部上面を前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する下方が開放されて上方に突出する断面V字状の複数の上側ビードが車幅方向に連続形成された三角波板形状に形成し、後部下面を前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する上方が開放されて下方に突出する断面V字状の複数の上側ビードが車幅方向に連続形成された三角波板形状に形成する簡単な構成で前方から入力される衝撃荷重に対する抗力が前部衝撃吸収部より後部衝撃部を大きく設定することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1の車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材において、上記後部上面及び後部下面の一方が当該前端縁から当接部に連続するビードが車幅方向に連続形成され、他方が平坦面状であることを特徴とする。
【0020】
これによると、衝撃荷重の入力方向に対応して後部上面と後部下面の変形抗力を異ならせることができ、衝撃荷重が入力された際の衝撃吸収材の傾倒等の挙動が制限されて衝撃吸収材による良好な衝撃エネルギ吸収性が確保できる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によると、頂面に衝撃荷重が付与される初期段階において前部上面及び前部下面によって形成された前部衝撃吸収部が緩やかに潰れ初期抗力が急激に立ち上がることなく、前部衝撃吸収部の変形後における中間段階においては、後部衝撃部の後部上面及び後部下面が緩やかに潰れ変形して急激な変形抗力が抑制されて変形ストロークの増大が得られ、良好な衝撃エネルギ吸収性が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施の形態に係る車両用衝撃吸収バンパの概要を示す要部斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】衝撃吸収材の一部破断斜視図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】衝撃荷重入力に伴う衝撃吸収材の潰れモードを模式的に示し図である。
【図7】F−S(荷重−変形ストローク)相関図である。
【図8】G−S(加速度−変形ストローク)相関図である。
【図9】第2実施の形態に係る車両用吸収バンパの概要を示す要部斜視図である。
【図10】衝撃吸収材の一部破断斜視図である。
【図11】図10のX−X線断面図である。
【図12】従来の車両用衝撃吸収バンパの概要を示す断面図である。
【図13】従来の車両用衝撃吸収バンパの概要を示す断面図である。
【図14】F−S(荷重−変形ストローク)相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施の形態)
以下、本発明における車両用衝撃吸収用バンパの衝撃吸収材の第1実施の形態を図1乃至図8を参照して説明する。なお、各図において矢印Fは車両前方方向を示し、矢印Wは車幅方向を示す。
【0024】
図1は、車両用吸収バンパ1の概要を示す要部斜視図、図2は図1のII−II線断面図である。衝撃吸収バンパ1は、車体前部に配置されて車幅方向に延在するバンパビーム2と、バンパ1の外表面を形成するバンパフェース7と、バンパビーム2の前面3に沿って車幅方向に延在してバンパフェース7によって被覆される衝撃吸収材10と備えている。
【0025】
バンパビーム2は、剛性に優れた鋼板製であって、車幅方向に長尺な略矩形の前面3、上面4、下面5及び後面6を有する略中空矩形断面形状で車幅方向に延在すると共に、両端が図示しない車幅方向に延在する左右サイドメンバ等の車体フレームの前端にブラケットを介して支持されている。また、前面3の上部3a及び下部3bに後述する衝撃吸収材10の上部係止部33及び下部係止部34と共に衝撃吸収材係止手段30を構成するスリット状の上部係止孔31及び下部係止孔32が車幅方向に離間して複数開口する。
【0026】
バンパフェース7は、ポリウレタン或いはポリプロピレン等の樹脂によって形成され、衝撃吸収材10は射出成形や圧縮空気圧成形等による成形が容易で生産性に優れ、製品形状精度が確保できるポリプロピレン等の樹脂によって形成されている。
【0027】
衝撃吸収材10について図3乃至図5を参照して詳細に説明する。図3は衝撃吸収材10の一部破断斜視図、図4は図3のIV−IV線断面図、図5は図3のV−V線断面図である。
【0028】
衝撃吸収材10は、衝撃吸収材10の前面を形成する断面円弧状の頂面12、この頂面12の上縁12a及び下縁12bからそれぞれ滑らか湾曲して後方に連続すると共に頂面12から離れるに従って互いに漸次離反する前部上面13と前部下面14を有する断面略U字状で車幅方向に連続する前部衝撃吸収部11と、前端縁22aが前部上面13の後端に連続する板状で後端縁22bにバンパビーム2の前面3における上部3aに沿って当接可能な当接部となる上側フランジ24が上方に折曲形成された後部上面22及び前端縁25aが前部下面14の後端に連続する板状で後端縁25bにバンパビーム2の前面3における下部3bに沿って当接可能な当接部となる下側フランジ27が下方に折曲形成された後部下面25を有して車幅方向に連続する後部衝撃吸収部21とが一体形成される。
【0029】
後部衝撃吸収部21の後部上面22及び後部下面25は前端縁22a、25a側から後端縁22b、25b側に移行するに従って漸次互いに離反するテーパ状で対向し、かつ後部上面22には、その前端縁22aから上側フランジ23に亘って前後方向に連続する下側が開放された断面U字状乃至C字状で上方に突出する上側ビード26が車幅方向全幅に亘って形成され、車幅方向の断面形状が図4に示すように波形となる波板形状に形成される。同様に後部下面25には、その前端縁25aから下側フランジ27に亘って前後方向に連続する上側が開放された断面U字状乃至C字状で下方に突出する下側ビード26が車幅方向全幅に亘って形成され、車幅方向の断面形状が図4に示すように波形となる波板形状に形成される。
【0030】
前部衝撃吸収部11及び後部衝撃吸収部21の両側はそれぞれ頂面12から後方、即ち前部衝撃吸収部11側から後部衝撃吸収部21側に移行するに従って徐々に離反して対向する平面状の側部29によって閉鎖される。また、上側フランジ24の上端から後方に突出してバンパビーム2の前面3に開口する上部係止孔31に挿入して係止可能なフック状の上部係止部33が車幅方向に離間して複数形成され、下側フランジ27の下端から後方に突出してバンパ2の前面3の開口する下部係止孔32に挿入して係止可能なフック状の下部係止部34が車幅方向に離間して複数形成される。この衝撃吸収材10は、後部上面22及び後部下面25に前後方向に連続する上側ビード23及び下側ビード26を形成することによって、前方から入力された衝撃荷重に対する抗力が前部衝撃吸収部11より後部衝撃吸収部21が大きく設定される。
【0031】
このように形成される襲撃吸収材10は、頂面12の上縁12aに連続形成される前部上面13及び後部上面22と、頂面12の下縁12bに連続形成される前部下面14及び後部下面25がそれぞれ頂面12から離れるに従って漸次離間する断面略U字状でかつ上側フランジ24と下側フランジ27が互いに離反する上方及び下方に折曲形成され、かつ下方が開放される断面U字状乃至C字状で前後方向に連続する上側ビード23が上側フランジ24に達し、上側が開放される断面U字状乃至C字状の下側ビード26が下側フランジ27に達することから、射出成形や圧縮空気圧成形等により成形する際の成形金型に抜け勾配が確保され、優れた生産性及び製品形状精度が確保できる。また、衝撃吸収材10が略U字状で車幅方向に連続する中空断面形状の樹脂製であり比較的軽量に構成できる。
【0032】
このように構成された衝撃吸収材10は、図1及び図2に示すように、各上部係止部32及び下部係止部33をバンパビーム2の前面3に開口する上部係止孔31及び下部係止孔32に前方から挿入して、上側フランジ23及び下側フランジ27をそれぞれバンパビーム2の前面3の上部3a及び下部3bに当接してバンパビーム2の前面3に車幅方向に延在した状態で、各上部係止部33及びが下部係止部34が上部係止孔31、下部係止孔32に係止してバンパビーム2の前面3に取り付けられる。
【0033】
このバンパビーム2の前面3に衝撃吸収材10が装着された状態で衝撃吸収材10をバンパフェース7によって被覆してバンパ1が形成され、バンパビーム2の両端がブラケットを介して左右のサイドメンバ等の車体フレームに取り付けられてバンパ1が車体前部に取り付けられる。
【0034】
次に、このように構成された衝撃吸収バンパ1の作用を図6乃至図8を参照して説明する。図6は、衝撃荷重入力に伴う衝撃吸収材10の潰れモードを模式的に示す図、図7はF−S(荷重−変形ストローク)相関図、図8はG−S(加速度−変形ストローク)相関図である。
【0035】
この衝撃バンパ1を備えた車両が、外部の物体や歩行者、例えば歩行者の脚部と接触し、前方からバンパ1に衝撃荷重が付与されると、バンパフェース7を経て図6(a)に示すように衝撃荷重Pが頂面12から衝撃吸収材10に入力される。
【0036】
衝撃荷重Pが入力されて衝撃吸収材10が前後方向に圧縮されると、頂面12及び前部上面13、前部下面14によって形成された前部衝撃吸収部11が、前後方向に連続する複数の上側ビード23及び下側ビード26が形成された波板形状の後部上面22及び後部下面25を有する後部衝撃吸収部25に対して変形抗力が小さく設定されることから、主に図6(b)に示すように頂面12の後退に伴って前部上面13及び前部下面14が潰れ変形し、この潰れ変形に伴って変形抗力が発生する。
【0037】
この衝撃吸収材10の前部衝撃吸収部11の潰れによる初期変形は、前部衝撃吸収部11が頂面12に前部上面13及び前部下面14が連続する断面略U字状で前部上面13及び前部下面14が均衡を維持しつつ順次潰れ変形して図7のF−S相関図に示すように荷重に対して緩やかに潰れ、初期抗力が急激に立ち上がることなく、図8にG−S相関図を示すよう初期加速度が抑制されて衝撃が緩和される。
【0038】
図6(c)に示すように前部衝撃吸収部11の潰れ変形が終了すると、この初期変形に続いて潰れ変形した前部衝撃吸収部11の後退に伴って主に図6(d)及び(e)に示すように後部衝撃吸収部25の後部上面22及び後部下面25が潰れ変形する。この後部上面22及び後部下面25の潰れ変形は、後部上面22及び後部下面25にそれぞれ波板形状に上部ビード23及び下部ビード26が分散形されることから、前部衝撃吸収部11から入力される荷重が広範囲に分散されて局部的な変形が抑制されて後部上面22及び後部下面25が均衡を維持しつつ順次潰れ変形して図7のF−S相関図に示すように荷重に対して緩やかに潰れ、かつ変形抗力が急激に増大することなく、図8にG−S相関図を示すよう加速度が抑制されて衝撃が緩和される。
【0039】
従って、上記の構成を備えた本実施の形態における衝撃吸収材10を備えたバンパ1によると、衝撃荷重が付与される初期段階において、前部衝撃吸収部11が緩やかに潰れ初期抗力が急激に立ち上がることなく、前部衝撃吸収部11の変形後における中間段階においては、前部衝撃吸収部11から入力される荷重が広範囲に分散されて局部的な変形が抑制されて緩やかに潰れ変形して急激な変形抗力が抑制されて変形ストロークの増大が得られ、良好な衝撃エネルギ吸収性が確保されて、歩行者と接触した場合であっても歩行者の脚部へのダメージが極めて軽減が期待できる。
【0040】
また、衝撃吸収材10が中空断面形状で比較的軽量に構成でき、バンパ1の軽量化が得られ、かつ衝撃吸収材10が生産性に優れた射出成形や圧縮空気圧成形等により容易に製品形状精度が確保でき、かつ製造コストの低減が期待できる。
【0041】
なお、仕様等に応じた要求衝撃エネルギ吸収性に応じて、前部衝撃吸収部11及び後部衝撃吸収部21の前後方向の長さや、後部上面22及び後部下面25に形成される上側リブ23、下側リブ25の大きさ、或いは衝撃吸収材10の厚さ等を適宜変更することで衝撃エネルギ吸収特性を設定変更することができる。
【0042】
更に、衝撃荷重の入力方向を考慮し、後部上面22に形成される上側リブ23と後部下面25に形成される下側リブ26を異なる形状にして波板形状を変えたり、或いは後部上面22に形成される上側リブ23または後部下面25に形成される下側リブ26の一方を省略して平坦面に形成して後部上面22と後部下面25の変形抗力を異ならせることもできる。これにより衝撃荷重が入力された際の衝撃吸収材10の傾倒等の挙動、即ち倒れが抑制されて衝撃吸収材10の前部衝撃吸収部11の良好な変形抗力による衝撃エネルギ吸収性が確保できる。
【0043】
(第2実施の形態)
本発明における車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材の第2実施の形態を図9乃至図11を参照して説明する。なお、各図9乃至図11において図1乃至図8と対応する部分には同一符号を付すことで該部の詳細な説明は省略する。
【0044】
図9は本実施の形態に係る車両用衝撃吸収バンパの概要を示す要部斜視図、図10は衝撃吸収部材10の一部破断斜視図、図11は図10のX−X線断面図である。
【0045】
本実施の形態における衝撃吸収バンパ1は、バンパビーム2、バンパフェース7、バンパビーム2の前面3に沿って車幅方向に延在してバンパフェース7によって被覆される衝撃吸収材10と備えている。なお、バンパビーム2及びバンパフェース7は第1実施の形態と同様であり、第1実施の形態と異なる衝撃吸収材10を主に説明する。
【0046】
衝撃吸収材10は、図10及び図11に示すように頂面12及び、この頂面12の上縁12a及び下縁12bからそれぞれ滑らか湾曲して後方に連続する前部上面13と前部下面14を有する断面略U字状で車幅方向に連続する前部衝撃吸収部11と、前端縁22aが前部上面13の後端に連続する板状で後端縁22bにバンパビーム2の前面3における上部3aに沿って当接可能な上側フランジ24が上方に折曲形成された後部上面22及び前端縁が前部下面14の後端に連続する板状で後端縁にバンパビーム2の前面3における下部3bに沿って当接可能な下側フランジ27が下方に折曲形成された後部下面25を有して車幅方向に連続する後部衝撃吸収部21とが一体形成される。
【0047】
後部衝撃吸収部21の後部上面22及び後部下面25は前端縁22a、25a側から後端縁22b、25b側に移行するに従って漸次互いに離反するテーパ状で対向し、かつ後部上面22には、その前端縁22aから上側フランジ23に亘って前後方向に連続する下側が開放された断面V字状で上方に突出する上側ビード35が車幅方向全幅に亘って形成され、車幅方向の断面形状が図11に示すように三角波板形状に形成される。同様に後部下面25には、その前端縁25aから下側フランジ27に亘って前後方向に連続する上側が開放された断面V字状で下方に突出する下側ビード36が車幅方向全幅に亘って形成され、車幅方向の断面形状が図11に示すように三角波板形状に形成される。前部衝撃吸収部11及び後部衝撃吸収部21の両側はそれぞれ頂面12から後方、即ち前部衝撃吸収部11側から後部衝撃吸収部21側に移行するに従って徐々に離反して対向する平面状の側部29によって閉鎖される。
【0048】
この衝撃吸収材10は、後部上面22及び後部下面25に前後方向に連続する断面V字状の上側ビード35、下側ビード36を形成することによって後部上面22及び後部下面25を断面形状を三角波板状に形成することで、前方から入力された衝撃荷重に対する抗力が前部衝撃吸収部21より後部衝撃吸収部25が大きく設定される。
【0049】
このように構成された衝撃吸収材10は、バンパビーム2の前面3に装着されると共に、バンパフェース7によって被覆してバンパ1が形成される。
【0050】
このように構成された衝撃吸収バンパ1は、この衝撃バンパ1を備えた車両が、外部の物体や歩行者、例えば歩行者の脚部と接触し、前方からバンパ1に衝撃荷重が付与されると、衝撃荷重Pが頂面12から衝撃吸収材10に衝撃荷重が入力されて衝撃吸収材10が前方向に圧縮されると、前部衝撃吸収部11が、前後方向に連続する複数の上側ビード35及び下側ビード36が形成された波板状の後部上面22及び後部下面25を有する後部衝撃吸収部25に対して変形抗力が低く設定されることから、頂面12の後退に伴って前部上面13及び前部下面14が潰れ変形し、初期抗力が急激に立ち上がることなく初期加速度が抑制されて衝撃が緩和される。
【0051】
更に、前部衝撃吸収部11の潰れ変形が終了すると、この初期変形に続いて潰れ変形した前部衝撃吸収部11の後退に伴って後部衝撃吸収部25の後部上面22及び後部下面25が潰れ変形する。この後部上面22及び後部下面25の潰れ変形は、後部上面22及び後部下面25にそれぞれ三角波板形状に上側ビード35及び下側ビード36が分散されることから、前部衝撃吸収部11から入力される荷重が広範囲に分散されて局部的な変形が抑制されて後部上面22及び後部下面25が均衡を維持しつつ順次緩やかに潰れ、かつ変形抗力が急激に増大することなく、衝撃が緩和される。
【0052】
従って、上記の構成を備えた本実施の形態における衝撃吸収材10を備えたバンパ1によると、衝撃荷重が付与される初期段階において、前部衝撃吸収部11が緩やかに潰れ初期抗力が急激に立ち上がることなく、前部衝撃吸収部11の変形後における中間段階においては、前部衝撃吸収部11から入力される荷重が広範囲に分散されて局部的な変形が抑制されて後部上面22及び後部下面25が均衡を維持しつつ順次緩やかに潰れ変形して急激な変形抗力が抑制されて変形ストロークの増大が得られ、良好な衝撃エネルギ吸収性が確保されて、歩行者と接触した場合であっても歩行者の脚部へのダメージが極めて軽減できる。
【0053】
更に、衝撃荷重の入力方向を考慮し、後部上面22に形成される上側ビード35と後部下面25に形成される下側ビード36を異なる形状にして三角波板形状を変えたり、或いは後部上面22に形成される上側ビード35または後部下面25に形成される下側ビード36の一方を省略して平坦面状に形成して後部上面22と後部下面25の変形抗力を異ならせることもできる。これにより衝撃荷重が入力された際の衝撃吸収材10の傾倒等の挙動、即ち倒れが抑制されて衝撃吸収材10の前部衝撃吸収部11の良好な変形抗力による衝撃エネルギ吸収性が確保できる。
【0054】
なお、本発明は上記各実施の形状に限定することなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば上記第1実施の形態では後部上面22及び後部下面25の断面形状を波板形状にし、第2実施の形態では後部上面22及び後部下面25の断面形状を三角波板形状に形成したが、後部上面22及び後部下面25の一方を波板形状にし、他方を三角波板形状にすることもできる。また、衝撃吸収材を車幅方向に連続する複数に分割配置することもできる。
【0055】
また、上記各実施の形態では衝撃吸収材係止手段30を、バンパビーム2に形成された上部係止孔31及び衝撃吸収材32に形成した上部係止部33、34により構成したが、クリップやボルト及びナット等他の構成により形成することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1 車両用吸収バンパ
2 バンパビーム
3 前面
7 バンパフェース
10 衝撃吸収材
11 前部衝撃吸収部
12 頂面
12a 上縁
12b 下縁
13 前部上面
14 前部下面
21 後部衝撃吸収部
22 後部上面
22a 前端縁
22b 後端縁
23 上側ビード
24 上側フランジ(当接部)
25a 前端縁
25b 後端縁
26 下側ビード
27 下側フランジ(当接部)
29 側面
35 上側ビード
36 下側ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延在するバンパビームの前面とバンパフェースとの間に車幅方向に延在して配置される樹脂製の車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材において、
車幅方向に延在する頂面及び該頂面の上縁及び下縁からそれぞれ湾曲して連続する前部上面と前部下面とを有する断面略U字状で車幅方向に連続する前部衝撃吸収部と、
前端縁が上記前部上面の後端に連続し後端縁に上記バンパビームの前面に当接する当接部が形成された後部上面及び該後部上面と対向すると共に前端縁が上記前部下面の後端に連続し後端縁に上記バンパビームの前面に当接する当接部が形成された後部下面を有する後部衝撃吸収部とを備え
前方から入力される衝撃荷重に対する抗力が上記前部衝撃吸収部より上記後部衝撃吸収部が大きく設定されたことを特徴とする車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材。
【請求項2】
上記後部上面は、該後部上面の前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する下方が開放されて上方に突出する断面U字状乃至C字状の複数の上側ビードが車幅方向に連続形成された波板形状であって、
上記後部下面は、該後部下面の前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する上方が開放されて下方に突出する断面U字状乃至C字状の複数の下側ビードが車幅方向に連続形成された波板形状であることを特徴とする請求項1に記載の車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材。
【請求項3】
上記後部上面は、該後部上面の前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する下方が開放されて上方に突出する断面V字状の複数の上側ビードが車幅方向に連続形成された三角波板形状であって、
上記後部下面は、該後部下面の前端縁から当接部に亘って前後方向に連続する上方が開放されて下方に突出する断面V字状の複数の下側ビードが車幅方向に連続形成された三角波板形状であることを特徴とする請求項1に記載の車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材。
【請求項4】
上記後部上面及び後部下面の一方が当該前端縁から当接部に連続するビードが車幅方向に連続形成され、他方が平坦面状であることを特徴とする請求項1に記載の車両用衝撃吸収バンパの衝撃吸収材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−51508(P2011−51508A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203323(P2009−203323)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】