説明

車両用衝撃吸収具及び車両用バンパ装置

【課題】製造工数の増加を抑制しつつ、衝撃エネルギーを好適に吸収することができる車両用衝撃吸収具及び車両用バンパ装置を提供する。
【解決手段】クラッシュボックス13は、軸線方向に滑らかに延びる面で構成される内壁面21aを有する筒状の衝撃吸収部21と、衝撃吸収部21のバンパリインホース側の開口端を閉塞して該バンパリインホースに取着されるバンパ側取付部22と、衝撃吸収部21のサイドメンバ側の開口端から張り出して該サイドメンバに取着される車体側取付部23と、衝撃吸収部21に設けられ該衝撃吸収部21の軸線方向における一部の範囲の板厚を薄肉化する溝部31と、バンパ側取付部22に設けられ、バンパリインホースから軸線方向に離隔するように設定された初期ピーク荷重抑制部34とを一体的に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用衝撃吸収具及び車両用バンパ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用衝撃吸収具としてのクラッシュボックスとして種々のものが提案されている。例えば特許文献1に記載されたクラッシュボックスは、アルミニウム合金の鍛造材からなり、軸線方向に一定断面となる筒状の衝撃吸収部、該衝撃吸収部の一方の開口端を閉塞するバンパ側取付部及び衝撃吸収部の他方の開口端から張り出すフランジ状の車体側取付部を一体的に備えて構成される。
【0003】
また、特許文献2に記載されたクラッシュボックスも、アルミニウム合金の鍛造材からなり、軸線方向に一定断面となる筒状の衝撃吸収部、該衝撃吸収部の一方の開口端を閉塞するバンパ側取付部及び衝撃吸収部の他方の開口端から軸方向に延設された筒状の車体側取付部を一体的に備えて構成される。
【0004】
一方、特許文献3に記載されたクラッシュボックスは、アルミニウム合金の押出材からなる筒状の衝撃吸収部、該衝撃吸収部の一方の開口端を閉塞する平板状のバンパ側取付部及び衝撃吸収部の他方の開口端を閉塞する平板状の車体側取付部を備えて構成される。そして、これら衝撃吸収部、バンパ側取付部及び車体側取付部は、例えば溶接にて結合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−225394号公報
【特許文献2】特開2005−1462号公報
【特許文献3】特開2005−271858号公報
【特許文献4】特開2001−198659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1、2では、鍛造による材料取りや形状の自由度に自ずと制約を受けることになる。特に、衝撃吸収時の圧縮変形を安定化させるために衝撃吸収部に設けられるビード状の脆弱部は、鍛造工程で成形することができないため、その後にプレス工程等が必要になると推定される。従って、製造工数の増加、ひいてはコストの増加を余儀なくされる。
【0007】
一方、特許文献3に記載されたクラッシュボックスは、衝撃吸収部、バンパ側取付部及び車体側取付部の3分割構造であり、これらを結合するための溶接工程が必要になる。従って、製造工数の増加、ひいてはコストの増加を余儀なくされる。また、衝撃吸収部は、押出材であることから、軸線方向に一定断面となる形状に限定される。
【0008】
なお、例えば特許文献4では、鋳造によるクラッシュボックスの成形に適用し得るアルミニウム合金材が提案されている。このアルミニウム合金材は、共晶組成に近いAl−Si系合金であって鋳造性に優れるものの、Srの添加が省略されていることで、共晶Si相の微細化が不十分となりやすく、成形品(クラッシュボックス)の延性(靱性)が低下する可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、製造工数の増加を抑制しつつ、衝撃エネルギーを好適に吸収することができる車両用衝撃吸収具及び車両用バンパ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、アルミニウム合金からなり、車両幅方向に延びるバンパリインホースの端部において、該バンパリインホースと車両前後方向に延びるサイドメンバとの間に介在される車両用衝撃吸収具において、軸線方向に滑らかに延びる面で構成される内壁面を有し、軸線方向に圧縮変形して衝撃エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部と、前記衝撃吸収部の前記バンパリインホース側の開口端を閉塞して該バンパリインホースに取着される第1取付部と、前記衝撃吸収部の前記サイドメンバ側の開口端から張り出して該サイドメンバに取着される第2取付部と、前記衝撃吸収部に設けられ、該衝撃吸収部の軸線方向における一部の範囲の板厚を薄肉化する脆弱部と、前記第1取付部に設けられ、前記バンパリインホースから軸線方向に離隔するように設定された初期ピーク荷重抑制部とを一体的に備えたことを要旨とする。
【0011】
同構成によれば、例えば車両衝突により、前記バンパリインホース側から軸圧縮荷重が加わると、前記衝撃吸収部が軸線方向に圧縮変形して衝撃エネルギーを吸収する。このとき、前記衝撃吸収部に前記脆弱部が設けられていることで、前記衝撃吸収部の前記圧縮変形を促進することができ、衝撃エネルギーを円滑に吸収することができる。また、前記第1取付部は、前記初期ピーク荷重抑制部において前記バンパリインホースから軸線方向に離隔している。従って、車両衝突により前記バンパリインホース側から軸圧縮荷重が加わる初期の段階では、前記衝撃吸収部へと伝達される前記軸圧縮荷重は、前記初期ピーク荷重抑制部を除いた前記第1取付部の一部の範囲に集中することになる。これにより、前記衝撃吸収部が軸線方向に圧縮変形しやすくなるため、車両衝突初期のピーク荷重をその分、抑制することができる。また、車両用衝撃吸収具はアルミニウム合金製であり、且つ、前記衝撃吸収部が軸線方向に滑らかに延びる面で構成される内壁面を有するため、例えばダイカスト工法による鋳造時にスライド型(中子型)の型抜き方向を軸線方向に一致させることで、鋳造による一度の工程で車両用衝撃吸収具を製造することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用衝撃吸収具において、前記第1取付部の車両幅方向内側における前記衝撃吸収部との接続部位を該衝撃吸収部の外形に沿って肉盛りした肉盛り部を備えたことを要旨とする。
【0013】
車両衝突の状態によっては、前記バンパリインホース側から前記第1取付部を介して前記衝撃吸収部へと伝達される荷重によって、座屈に先立って前記衝撃吸収部が車両幅方向内側の開口端から裂開することが本出願人により実験的に確認されている。この場合、前記衝撃吸収部における衝撃エネルギーの吸収が不十分になることがある。同構成によれば、車両衝突により前記バンパリインホース側から前記第1取付部へと伝達される軸圧縮荷重は、前記肉盛り部において堅固に支えられて前記衝撃吸収部の車両幅方向内側の開口端へと伝達されることで、座屈に先立って当該開口端から前記衝撃吸収部が裂開して衝撃エネルギーの吸収不足に陥ることを抑制できる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両用衝撃吸収具において、前記衝撃吸収部から車両幅方向に突設されて前記第2取付部に連結され、該第2取付部に対する前記衝撃吸収部の連結部位を補強するリブを備えたことを要旨とする。
【0015】
同構成によれば、前記リブにより、前記第2取付部に対する前記衝撃吸収部の連結部位が補強されることで、前記第2取付部側を支点する前記衝撃吸収部の車両幅方向への倒れ(横倒れ)を抑制することができる。これにより、前記衝撃吸収部をより確実に軸線方向に圧縮変形させることができ、衝撃エネルギーをより確実に吸収することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用衝撃吸収具において、前記脆弱部は、前記第1取付部の前記バンパリインホースとの当接面と平行に延在し、軸線方向に沿って前記衝撃吸収部の板厚を徐変する溝部であることを要旨とする。
【0017】
同構成によれば、前記溝部(脆弱部)は、前記第1取付部の前記バンパリインホースとの当接面と平行に延在し、軸線方向に沿って前記衝撃吸収部の板厚を徐変することで、該衝撃吸収部の強度を徐変する。従って、前記バンパリインホース側から軸圧縮荷重が加わる際、前記衝撃吸収部は、前記溝部において円滑に前記圧縮変形が促進されることで、衝撃エネルギーの吸収性能をより安定化することができる。特に、前記溝部は、前記第1取付部の前記バンパリインホースとの当接面と平行に延在することで、仮に該当接面が軸線方向に直交する面に対し傾斜していたとしても、前記溝部において前記衝撃吸収部を円滑に前記圧縮変形させることができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用衝撃吸収具において、Al−Si系合金にSrを添加した材料からなることを要旨とする。
同構成によれば、車両用衝撃吸収具の材料となるアルミニウム合金材として、Al−Si系合金を採用したことで、その鋳造性を向上することができる。また、このAl−Si系合金にSrを添加したことで、成形品(車両用衝撃吸収具)の延性(靱性)を向上することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、前記バンパリインホースと、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用衝撃吸収具とを備えた車両用バンパ装置であることを要旨とする。
同構成によれば、製造工数の増加を抑制しつつ、衝撃エネルギーを好適に吸収することができる車両用バンパ装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、製造工数の増加を抑制しつつ、衝撃エネルギーを好適に吸収することができる車両用衝撃吸収具及び車両用バンパ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)(b)(c)(d)は、本発明の一実施形態を示す斜視図、正面図、側面図及び平面図。
【図2】同実施形態を模式的に示す断面図。
【図3】同実施形態を示す平面図。
【図4】本発明の変形形態を示す平面図。
【図5】本発明の変形形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図3は、自動車などの車両のフロント部分に適用される本実施形態に係る車両用バンパ装置を示す平面図である。同図に示されるように、車両幅方向両側には、例えば金属板からなり、断面略四角形の中空構造を有して車両前後方向に延びる一対のサイドメンバ11が配設されている。これらサイドメンバ11は、ボデーの一部を構成する。なお、各サイドメンバ11の前端には、該サイドメンバ11の開口部を閉塞する態様で、例えば金属板からなる略四角形のブラケット12が溶接にて固着されている。
【0023】
各ブラケット12の前面には、アルミニウム合金の鋳造材からなり、車両前後方向に延びる車両用衝撃吸収具としてのクラッシュボックス13が取着される。なお、本実施形態では、アルミニウム合金材として、Al−Si系合金にSrを添加したものが採用されている。
【0024】
各クラッシュボックス13は、軸線方向に圧縮変形(いわゆる蛇腹変形)して衝撃エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部21と、該衝撃吸収部21の先端側(前端側)の開口端を閉塞する第1取付部としてのバンパ側取付部22と、衝撃吸収部21の基端側(後側)の開口端からフランジ状に張り出してブラケット12(サイドメンバ11)に取着される第2取付部としての車体側取付部23とを一体的に備える。なお、バンパ側取付部22は、その幅方向中央部が尖鋭となる略三角屋根形状を呈している。そして、バンパ側取付部22の当該中央部よりも車両幅方向外側の先端面(前端面)は、車両幅方向外側に向かうに従い車両後側に向かうように傾斜して取付面22aを形成する。
【0025】
各クラッシュボックス13のバンパ側取付部22には、車両幅方向に延在するバンパリインホース16の各端部が結合されている。このバンパリインホース16は、例えば長手方向に略一定断面形状を有するアルミニウム合金製の押出材からなり、車両幅方向に直線状に延びる直線部17を有するとともに、該直線部17の各先端に連続して車両幅方向外側に向かうに従い車両後側に向かうように傾斜された傾斜部18を有する。直線部17及び傾斜部18の境界位置が車両幅方向で対称に配置されることはいうまでもない。各傾斜部18は、クラッシュボックス13の車両前側に対向配置されており、その傾斜角度は、前記取付面22aの傾斜角度に合致するように設定されている。従って、バンパリインホース16の端部及びクラッシュボックス13は、これら傾斜部18及び取付面22aの当接位置で結合されている。つまり、クラッシュボックス13は、バンパリインホース16(傾斜部18)とサイドメンバ11(ブラケット12)との間に介在されている。
【0026】
次に、クラッシュボックス13の構造について更に説明する。図1(a)(b)(c)(d)はそれぞれ、クラッシュボックス13を示す斜視図、正面図、側面図及び平面図である。同図に示されるように、前記衝撃吸収部21は、正面視(横断面形状)において、上下方向に並設された略C字状の上壁部26及び下壁部27と、上下方向に延在してこれら上壁部26及び下壁部27の縮開された開口端同士を接続する一対の連結壁部28とを有して、全体として略8字又は略瓢箪形の略十六角形状をなす。衝撃吸収部21は、基本的にその板厚が略一定になるように成形されている。
【0027】
なお、上壁部26及び下壁部27は、衝撃吸収部21の軸線方向に沿って基端側(車両後端側)に向かうに従い、徐々に拡開されるように前記軸線方向に対し傾斜している。そして、衝撃吸収部21の内壁面21aは、軸線方向に滑らかに延びる面(軸線方向の一部のみに段差や傾斜が存在しない面)で構成されている。これは、ダイカスト工法によるクラッシュボックス13の鋳造時に、軸線方向に沿って車体側取付部23側からスライド型(中子型)を円滑に型抜きするためである。衝撃吸収部21の内壁面21aが、正面視(横断面形状)において略8字又は略瓢箪形状を呈することはいうまでもない。
【0028】
上壁部26の上側の各角部をなす壁部26aには、衝撃吸収部21の軸線方向に沿って並設された複数(3つ)のビード状の脆弱部としての溝部31が形成されている。同様に、下壁部27の下側の各角部をなす壁部27aにも、複数(3つ)のビード状の溝部31が形成されている。これら溝部31は、全体として衝撃吸収部21のバンパ側取付部22寄りに、衝撃吸収部21の圧縮変形の周期に合わせて配置されている。
【0029】
また、各溝部31は、バンパ側取付部22のバンパリインホース16との当接面(取付面22a)と平行に延在している。従って、衝撃吸収部21は、各溝部31の位置(軸線方向における一部の範囲)で、該溝部31の凹み分だけその板厚が薄肉化されている。特に、各溝部31は、略三角形状に凹むことで、軸線方向に沿って衝撃吸収部21の板厚を徐変する。すなわち、図2の断面図に模式的に示すように、衝撃吸収部21は、溝部31の最深部31aに対しその軸線方向おける前後の板厚が溝部31の範囲で比例的に増加する。これら溝部31は、衝撃吸収部21の圧縮変形の起点となって、該圧縮変形をより安定化させるためのものである。
【0030】
また、上壁部26の車両幅方向内側においてその下側の角部には、車両幅方向内側に向かうに従い下側に向かうように斜めに突設された略三角板状のリブ32が形成されている。このリブ32は、衝撃吸収部21の軸線方向に沿ってその全長に亘って延在して車体側取付部23に繋がっており、軸線方向において該車体側取付部23から離隔する先端に向かって尖鋭になるように成形されている。同様に、下壁部27の車両幅方向内側においてその上側の角部には、車両幅方向内側に向かうに従い上側に向かうように斜めに突設された略三角板状のリブ32が形成されている。これらリブ32は、上下方向に並設されている。各リブ32は、車体側取付部23に対する衝撃吸収部21の連結部位を補強するためのものである。
【0031】
前記バンパ側取付部22は、取付面22aの直交方向に貫通する複数(4つ)のボルト挿通孔33を有する。バンパ側取付部22(クラッシュボックス13)は、傾斜部18ともども各ボルト挿通孔33に挿通されるボルト(図示略)のねじ軸がナットに螺合することで傾斜部18に締結される。
【0032】
また、バンパ側取付部22は、その幅方向中央部から車両幅方向内側に向かうに従い車両後側に向かうように、即ち取付面22aに対し逆向きに傾斜する斜面状の初期ピーク荷重抑制部34を有する。従って、バンパ側取付部22は、初期ピーク荷重抑制部34において、取付面22aが当接する傾斜部18(バンパリインホース16)から軸線方向に離隔することで、該傾斜部18との間に間隙C(図1(d)参照)を形成する。これは、例えば車両衝突によりバンパリインホース16側から軸圧縮荷重が加わる初期の段階で、衝撃吸収部21へと伝達される当該軸圧縮荷重を取付面22a側(初期ピーク荷重抑制部34を除いたバンパ側取付部22の一部の範囲)に集中させるためである。これにより、衝撃吸収部21が軸線方向に圧縮変形しやすくなって、車両衝突初期の衝撃吸収時おけるピーク荷重が抑制される。
【0033】
さらに、バンパ側取付部22は、車両幅方向内側における衝撃吸収部21との接続部位を該衝撃吸収部21の外形に沿って肉盛りした肉盛り部35を有する。この肉盛り部35は、車両幅方向内側における衝撃吸収部21の外形に沿って車両幅方向内側に突出されるとともに、該突出部分が軸線方向に厚肉化されてなる。従って、例えば車両衝突によりバンパリインホース16側からバンパ側取付部22へと伝達される軸圧縮荷重は、肉盛り部35において堅固に支えられて衝撃吸収部21の車両幅方向内側の開口端へと伝達される。これにより、座屈に先立って車両幅方向内側の開口端から衝撃吸収部21が裂開して衝撃エネルギーの吸収不足に陥ることが抑制される。
【0034】
前記車体側取付部23は、衝撃吸収部21の四方に張り出しており、その四隅を板厚方向(軸線方向)に貫通する複数(4つ)のボルト挿通孔36を有する。車体側取付部23(クラッシュボックス13)は、ブラケット12ともども各ボルト挿通孔36に挿通されるボルト(図示略)のねじ軸がナットに螺合することでブラケット12(サイドメンバ11)に締結される。
【0035】
次に、本実施形態の動作について説明する。車両の衝突等により前方から衝撃が加えられると、この衝撃は、バンパリインホース16及び両クラッシュボックス13を介して両サイドメンバ11(ボデー)に伝達される。このとき、各クラッシュボックス13が圧縮変形することで、ボデー及び乗員へと伝達される衝撃を緩衝する。すなわち、各クラッシュボックス13の衝撃吸収部21は、バンパリインホース16側から軸圧縮荷重が加わることで、軸線方向に圧縮変形する。特に、バンパリインホース16側から軸圧縮荷重が加わる初期の段階では、初期ピーク荷重抑制部34(間隙C)の設定により衝撃吸収部21へと伝達される当該軸圧縮荷重が取付面22a側に集中されることで、衝撃吸収部21が軸線方向に圧縮変形しやすくなり、車両衝突初期のピーク荷重が抑制される。
【0036】
加えて、バンパリインホース16側からバンパ側取付部22へと伝達される軸圧縮荷重は、肉盛り部35において堅固に支えられて衝撃吸収部21の車両幅方向内側の開口端へと伝達されることで、座屈に先立つ当該開口端からの衝撃吸収部21の裂開が抑制される。従って、衝撃吸収部21(クラッシュボックス13)が衝撃エネルギーの吸収不足に陥る可能性が低減される。
【0037】
さらに、リブ32により、車体側取付部23に対する衝撃吸収部21の連結部位が補強されることで、車体側取付部23を支点する衝撃吸収部21の車両幅方向への倒れ(横倒れ)が抑制される。
【0038】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、衝撃吸収部21に溝部31が設けられていることで、衝撃吸収部21の圧縮変形を促進することができ、衝撃エネルギーを円滑に吸収することができる。また、バンパ側取付部22は、初期ピーク荷重抑制部34においてバンパリインホース16から軸線方向に離隔している。従って、車両衝突によりバンパリインホース16側から軸圧縮荷重が加わる初期の段階では、衝撃吸収部21が軸線方向に圧縮変形しやすくなるため、車両衝突初期のピーク荷重をその分、抑制することができる。また、クラッシュボックス13はアルミニウム合金製であり、且つ、衝撃吸収部21が軸線方向に滑らかに延びる面で構成される内壁面21aを有するため、例えばダイカスト工法による鋳造時にスライド型(中子型)の型抜き方向を軸線方向に一致させることで、鋳造による一度の工程でクラッシュボックス13を製造することができる。
【0039】
(2)本実施形態では、車両衝突によりバンパリインホース16側からバンパ側取付部22へと伝達される軸圧縮荷重は、肉盛り部35において堅固に支えられて衝撃吸収部21の車両幅方向内側の開口端へと伝達されることで、座屈に先立って当該開口端から衝撃吸収部21が裂開して衝撃エネルギーの吸収不足に陥ることを抑制できる。
【0040】
(3)本実施形態では、リブ32により、車体側取付部23に対する衝撃吸収部21の連結部位が補強されることで、車体側取付部23側を支点する衝撃吸収部21の車両幅方向への倒れ(横倒れ)を抑制することができる。これにより、衝撃吸収部21をより確実に軸線方向に圧縮変形させることができ、衝撃エネルギーをより確実に吸収することができる。
【0041】
(4)本実施形態では、溝部31は、バンパ側取付部22の取付面22a(バンパリインホース16との当接面)と平行に延在し、軸線方向に沿って衝撃吸収部21の板厚を徐変することで、該衝撃吸収部21の強度を徐変する。従って、バンパリインホース16側から軸圧縮荷重が加わる際、衝撃吸収部21は、溝部31において円滑に圧縮変形が促進されることで、衝撃エネルギーの吸収性能をより安定化することができる。特に、溝部31は、バンパ側取付部22の取付面22aと平行に延在することで、該取付面22aが軸線方向に直交する面に対し傾斜していたとしても、溝部31において衝撃吸収部21を円滑に圧縮変形させることができる。
【0042】
(5)本実施形態では、クラッシュボックス13を一部品化したことで、例えば溶接による結合部での強度低下を回避することができる。
(6)本実施形態では、ダイカスト工法による鋳造によってクラッシュボックス13を極めて簡易且つ安価に製造することができる。
【0043】
(7)本実施形態では、クラッシュボックス13の材料となるアルミニウム合金材として、Al−Si系合金を採用したことで、その鋳造性を向上することができる。また、このAl−Si系合金にSrを添加したことで、成形品(クラッシュボックス13)の延性(靱性)を向上することができる。
【0044】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・図4に示すように、バンパ側取付部22の幅方向中央部に形成された段差Sを介して、車両幅方向内側が車両後側にステップ状に陥没してなる初期ピーク荷重抑制部41を有するクラッシュボックス40であってもよい。このように変更しても、バンパ側取付部22は、初期ピーク荷重抑制部41において、取付面22aが当接する傾斜部18(バンパリインホース16)から軸線方向に離隔することで、該傾斜部18との間に間隙C1を形成する。なお、このクラッシュボックス40では、衝撃吸収部21の外形に沿う前述の肉盛り部(35)を割愛しているが、前記実施形態に準じて肉盛り部を設けてもよい。
【0045】
・図5に示すように、バンパ側取付部22に繋がる先端部(前端部)に設けられた薄肉部47aと、車体側取付部23に繋がる基端部(後端部)に設けられた厚肉部47bとで構成される筒状の衝撃吸収部47を有するクラッシュボックス46であってもよい。なお、衝撃吸収部47の内壁面48は、前記実施形態に準じて軸線方向に滑らかに延びる面で構成されている。つまり、衝撃吸収部47は、その外壁面の軸線方向中間部に形成された段差S1を介してその前後に脆弱部としての薄肉部47a及び厚肉部47bを形成する。このような衝撃吸収部47の成形は、ダイカスト工法による鋳造によって容易に行うことができる。
【0046】
・前記実施形態において、溝部31は、略半円形状又は略U字状に凹んでいてもよい。また、複数の溝部31は、衝撃吸収部21の軸線方向に沿って等間隔に並設されていてもよいし、任意の間隔に並設されていてもよい。さらに、複数の溝部31の個数も任意であり、例えば衝撃吸収部21の軸線方向に沿ってその全長に亘って並設されていてもよい。
【0047】
・本発明は、車両のリヤ部分に適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
11…サイドメンバ、13,41,46…クラッシュボックス(車両用衝撃吸収具)、16…バンパリインホース、21a,48…内壁面、21,47…衝撃吸収部、22…バンパ側取付部(第1取付部)、23…車体側取付部(第2取付部)、31…溝部(脆弱部)、32…リブ、34,41…初期ピーク荷重抑制部、35…肉盛り部、47a…薄肉部(脆弱部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなり、車両幅方向に延びるバンパリインホースの端部において、該バンパリインホースと車両前後方向に延びるサイドメンバとの間に介在される車両用衝撃吸収具において、
軸線方向に滑らかに延びる面で構成される内壁面を有し、軸線方向に圧縮変形して衝撃エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部と、
前記衝撃吸収部の前記バンパリインホース側の開口端を閉塞して該バンパリインホースに取着される第1取付部と、
前記衝撃吸収部の前記サイドメンバ側の開口端から張り出して該サイドメンバに取着される第2取付部と、
前記衝撃吸収部に設けられ、該衝撃吸収部の軸線方向における一部の範囲の板厚を薄肉化する脆弱部と、
前記第1取付部に設けられ、前記バンパリインホースから軸線方向に離隔するように設定された初期ピーク荷重抑制部とを一体的に備えたことを特徴とする車両用衝撃吸収具。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用衝撃吸収具において、
前記第1取付部の車両幅方向内側における前記衝撃吸収部との接続部位を該衝撃吸収部の外形に沿って肉盛りした肉盛り部を備えたことを特徴とする車両用衝撃吸収具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用衝撃吸収具において、
前記衝撃吸収部から車両幅方向に突設されて前記第2取付部に連結され、該第2取付部に対する前記衝撃吸収部の連結部位を補強するリブを備えたことを特徴とする車両用衝撃吸収具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用衝撃吸収具において、
前記脆弱部は、前記第1取付部の前記バンパリインホースとの当接面と平行に延在し、軸線方向に沿って前記衝撃吸収部の板厚を徐変する溝部であることを特徴とする車両用衝撃吸収具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用衝撃吸収具において、
Al−Si系合金にSrを添加した材料からなることを特徴とする車両用衝撃吸収具。
【請求項6】
前記バンパリインホースと、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用衝撃吸収具とを備えたことを特徴とする車両用バンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−30619(P2012−30619A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169651(P2010−169651)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)
【Fターム(参考)】