説明

車両用衝突緩和装置

【課題】車両用衝突緩和装置がブレーキアシスト制御機能及び自動ブレーキ制御機能を備える場合に、後続車両との衝突を回避、あるいは少なくとも衝突による衝撃を緩和する。
【解決手段】衝突予測時間TTCとそれぞれ比較される、警報基準時間、ブレーキアシスト基準時間、及び自動ブレーキ基準時間について、警報基準時間を、ブレーキアシスト基準時間以上であって、自動ブレーキ基準時間よりも長く設定した。衝突予測時間TTCが、警報基準時間を下回ると、自車両の運転者に前方障害物との衝突のおそれがあることを警報するとともに、後続車両の運転者に自車両が急減速する可能性が高いことを警報する。これにより、運転者のブレーキ操作による制動力を増大させるブレーキアシスト制御、もしくは、自動ブレーキ制御によって自車両が急減速される状況において、原則、その急減速が行われるよりも早いタイミングで、後続車両への警報を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が前方障害物と衝突する可能性が生じたときに、運転者のブレーキ操作によって発生する制動力を増大させるブレーキアシスト制御を行うとともに、運転者のブレーキ操作が無くとも、自動的に制動力を発生させる自動ブレーキ制御を行う車両用衝突緩和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、障害物との衝突の可能性が高くなったとき、自動的に制動を行うオートブレーキ制御回路を備えた車両用衝突防止装置が開示されている。このオートブレーキ制御回路では、障害物との衝突の可能性が高いことを判定するために、車速に応じて設定される第1基準距離と、その障害物との実際の距離として検出された検出距離とを比較し、検出距離が第1基準距離よりも短くなると、自動的にブレーキを作動させる。さらに、オートブレーキ制御回路は、第1基準距離よりも長く設定される第2基準距離と検出距離とを比較し、検出距離が第2基準距離よりも短くなると、ブレーキをポンピング作動させつつ、後方の車両に向けての警報器を用いて、自動的なブレーキ作動の開始を報知する。
【0003】
このように、障害物との衝突回避のための自動制動の実行にあたり、後方車両に向けての警報器を前もって作動させることにより、衝突回避のための自動制動時に、後方車両との衝突が生じることを極力回避しようとしている。
【特許文献1】特開平4−362452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、オートブレーキ制御回路がブレーキをポンピング作動させるのと同時に、後方車両への警報も実行することにより、後方車両との衝突を回避できる可能性を高めることができる。
【0005】
しかしながら、近年では、前方障害物との衝突の可能性が生じたときに、運転者のブレーキ操作による制動力を増大させて、衝突の回避を図るブレーキアシスト制御機能を備える車両も増加しつつある。このブレーキアシスト制御が実行された場合、運転者のブレーキ操作による制動力が増大されるので、車両は急減速することが多い。従って、ブレーキアシスト制御が実行されるときにも、後続車両との衝突の可能性が高くなる。
【0006】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、ブレーキアシスト制御機能及び自動ブレーキ制御機能を備える場合に、後続車両との衝突を回避すること、あるいは少なくとも衝突による衝撃を緩和することが可能な車両用衝突緩和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の車両用衝突緩和装置は、
自車両の進行方向前方の所定範囲において、前方障害物との距離を検出する距離検出手段と、
自車両と前方障害物との相対速度を検出する相対速度検出手段と、
前方障害物との距離及び相対速度に基づいて、自車両と前方障害物との衝突タイミングまでの衝突予測時間を算出する衝突予測時間算出手段と、
衝突予測時間が、所定の警報基準時間を下回ったときに、自車両の運転者に対して前方障害物との衝突のおそれがあることを警報する警報手段と、
衝突予測時間が、警報基準時間以下に設定されたブレーキアシスト基準時間を下回ったときに、運転者のブレーキ操作による制動力を増大させるブレーキアシスト手段と、
衝突予測時間が、警報基準時間よりも短く設定された自動ブレーキ基準時間を下回ったとき、自動的に制動力を発生させる自動ブレーキ手段と、を備えた車両用衝突緩和装置であって、
警報手段は、衝突予測時間が警報基準時間を下回ったことに基づいて、ブレーキアシスト手段が、運転者のブレーキ操作による制動力を増大させるのと同時期以前であって、かつ自動ブレーキ手段が自動的に制動力を発生させる前に、自車両の後方を走行する後続車両に対して、自車両が前方障害物との衝突回避のために急減速する可能性が高いことを警報することを特徴とする。
【0008】
つまり、請求項1では、警報を行うための警報基準時間を、ブレーキアシスト制御を行うためのブレーキアシスト基準時間以上であって、自動的に制動力を発生させる自動ブレーキ制御を行なうための自動ブレーキ基準時間よりも長く設定した。そして、衝突タイミングまでの衝突予測時間が、警報基準時間を下回ると、自車両の運転者に対して前方障害物との衝突のおそれがあることを警報するとともに、後続車両に対して自車両が急減速する可能性が高いことを警報することとした。
【0009】
これにより、前方障害物と衝突するおそれが生じて、運転者のブレーキ操作による制動力を増大させるブレーキアシスト制御、もしくは、自動ブレーキ制御によって自車両が急減速される状況において、原則、その急減速が行われるよりも早いタイミングで、後続車両への警報を行うことが可能となる。
【0010】
なお、警報手段は、後続車両への警報を、専用の警報機を用いて行っても良いが、自車両に予め装備されているハザードランプ(請求項2)やブレーキランプ(請求項3)を用いて行っても良い。
【0011】
請求項4に記載したように、ブレーキアシスト基準時間は、警報基準時間を越えない範囲で、自車両と前方障害物との相対速度に応じて変化するように設定されても良い。具体的には、相対速度が大きくなるほど、ブレーキアシスト基準時間が長くなるように設定する。自車両と前方障害物との相対速度が大きくなるほど、その前方障害物との衝突を回避するために、より早いタイミングでブレーキアシスト制御を開始することが好ましいためである。このように、ブレーキアシスト基準時間を相対速度に応じて変化するように設定する場合であっても、警報基準時間を超えない範囲に設定することにより、ブレーキアシスト制御の開始時期と同時期以前に後続車両への警報を行うことができる。
【0012】
請求項5に記載したように、ブレーキアシスト手段は、衝突予測時間が、ブレーキアシスト基準時間に達した時点で、運転者のブレーキ操作が行われた場合に、即座に制動力が発生するようにブレーキ装置をスタンバイ状態に設定することが好ましい。これにより、運転者のブレーキ操作から制動力が発生するための時間を短縮することができるので、前方障害物との衝突を回避する可能性を高めることができる。なお、ブレーキ装置のスタンバイ状態としては、マスタシリンダ圧の事前生成、ホイールシリンダ圧の事前生成、ブレーキパッドとホイールシリンダピストンとの間の隙間を事前に詰めておくことなどが該当する。さらに、ブレーキ装置がブレーキアシストを行うためのブレーキ圧を生成するポンプを備える場合には、このポンプの事前駆動も含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面に基づいて説明する。図1は、実施形態による車両用衝突緩和装置の全体構成を示すブロック図である。
【0014】
図1において、車両用衝突緩和装置10は、自車両が先行車両などの前方障害物と衝突する可能性が生じたかを判定するのに必要な情報を得るために各種のセンサを備えている。具体的には、本車両用衝突緩和装置10は、レーダセンサ1、ヨーレートセンサ2、車速センサ3、及びブレーキセンサ4を備える。
【0015】
レーダセンサ1としては、例えば、自車両の前方の所定角度範囲を走査するようにレーザビームを照射するとともに、その反射レーザビームを受光することによって、前方障害物までの距離や方位を検出するレーザレーダセンサを用いることができる。その他にも、レーダセンサ1として、ミリ波の送受信結果に基づいて、前方障害物までの距離、方位や、前方障害物との相対速度を検出可能なミリ波センサを用いたり、カメラ及び画像処理装置によって、カメラによって撮像した車両前方の画像から前方障害物との距離等を認識するようにしたものであっても良い。
【0016】
ヨーレートセンサ2は、自車両が進行方向を変化したときに、自車両に発生するヨーレート(自車両の鉛直方向を軸とした角速度)を検出するものである。このヨーレートセンサ2によって検出されたヨーレートに基づいて、自車両の進行方向を推定することができる。その推定される進行方向において、最も近い距離に存在する前方障害物を対象として、衝突の可能性が生じたか否かが判定される。なお、自車両の進行方向の推定は、ステアリングホイールの操舵角を検出するステアリングセンサの検出信号を用いて行っても良い。
【0017】
車速センサ3は、自車両の走行速度を検出するものである。車速センサ3によって検出された走行速度は、本車両用衝突緩和装置10による制御の実行の要否を判断するために用いられたり、レーダセンサ1としてレーザレーダセンサを採用した場合に、自車両と前方障害物との速度差である相対速度を算出するために用いられたりする。なお、自車両の速度が十分に低下している場合には、前方障害物との衝突を回避すべく、運転者のブレーキ操作をアシストしたり、自動的にブレーキを作動させることは不要である。このため、本車両用衝突緩和装置10は、自車両の走行速度が所定速度(例えば10km/h)以上であるときのみ制御を実行するようになっている。
【0018】
ブレーキセンサ4は、運転者によるブレーキペダルの操作量や操作速度など、運転者によるブレーキ操作の度合いを示す信号を出力するものである。このブレーキセンサ4の出力信号に基づいて、運転者がそのブレーキ操作によって達成しようとしている要求減速度が所定の演算式に従って算出される。なお、ブレーキセンサ4は、運転者によるブレーキ操作によって発生するブレーキフルード圧を検出するものであっても良い。
【0019】
上述した各種のセンサ1〜4によって出力される検出信号は、衝突緩和コントローラ5に入力される。衝突緩和コントローラは、入力された検出信号に基づいて、前方障害物との衝突の可能性を判定し、衝突する可能性が生じたと判定した場合には、その衝突を回避したり、少なくともその衝撃を緩和すべく、ブレーキアクチュエータ6に制御信号を出力することにより、プリクラッシュブレーキアシスト制御やプリクラッシュ自動ブレーキ制御(以下、単にブレーキアシスト制御、自動ブレーキ制御という)を実行する。ブレーキアクチュエータ6は、衝突緩和コントローラ5からの制御信号に従って作動し、自車両の各車輪に制動力を発生させる。
【0020】
警報器7は、前方障害物と衝突するおそれがあるときに、その旨を自車両の運転者に警報するブザーやランプと、自車両の後方を走行する後続車両の運転者に対して、自車両が衝突回避のために急制動を行う可能性が高いことを警報するランプとを含む。後続車両の運転者に対して警報を行うランプとしては、専用のランプを設けてもよいが、自車両に装備されている既存のランプを用いても良い。例えば、ハザードランプを点滅させたり、ブレーキランプを点灯又は点滅させることにより、後続車両の運転者に対して、自車両に緊急事態が発生し、自車両が急減速する可能性があることを警報することができる。
【0021】
衝突緩和コントローラ5が実行するブレーキアシスト制御においては、例えば運転者のブレーキ操作に対応する要求減速度に1より大きな所定数を乗じることによって、要求減速度を増幅し、その増幅された減速度を達成するための制動力を発生するように、ブレーキアクチュエータ6に制御信号を出力する。これにより、前方障害物との衝突の可能性が生じた場合には、運転者が行ったブレーキ操作に対応する制動力よりも大きな制動力を発生することができる。また、自動ブレーキ制御は、前方障害物との衝突回避が困難になった場合に実行されるもので、運転者によるブレーキ操作が行われていなくとも、自車両が所定の目標減速度で減速するように自動的に制動力を発生させ、少なくとも衝突時の衝撃の緩和を図るものである。
【0022】
なお、実際には、衝突緩和コントローラ5が、要求加速度や目標加速度から目標車速を算出し、自車両の速度がその目標車速に一致するように制御される。このような速度制御を通じて、自車両の減速度が要求加速度や目標加速度に近似するようになる。
【0023】
次に、衝突緩和コントローラ5において実行される制御処理について、図2のフローチャートに基づいて説明する。
【0024】
まず、ステップS100では、レーダセンサ1及びヨーレートセンサ2からの検出信号に基づいて、自車両が進行する方向において、自車両に対して最も近い位置に存在する前方障害物を選択する。次に、ステップS110では、ステップS100において選択された前方障害物を対象として、警報制御、ブレーキアシスト制御、自動ブレーキ制御を実行することが必要であるか否か、すなわち、本車両用衝突緩和装置10の作動が必要であるか、及び、必要である場合には、いずれの制御を行うべきかを決定する。このステップS110における作動判定処理に関して、後に詳細に説明する。
【0025】
ステップS110において、車両用衝突緩和装置10の作動が必要であって、実行すべき制御が決定されると、その決定された制御を行うための制御処理が、ステップS120において実行される。具体的には、ステップS120では、ステップS110にて決定された制御により達成すべき減速度に、車両の減速度を一致させるように、ブレーキアクチュエータ6に制御信号を出力する。その他にも、ステップS110において警報制御が必要であると判定された場合には、その警報を実行するための制御信号を警報器7に出力したりする。
【0026】
次に、ステップS110における作動判定処理の詳細を示す図3のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS200では、上述した自車両の走行速度などに基づいて、本装置の作動条件が成立しているか否か判定する。この判定処理において作動条件が成立していないと判定された場合、ステップS230の処理に進む。一方、作動条件が成立していると判定された場合、ステップS210の処理に進む。
【0027】
ステップS210では、前方障害物と衝突すると予測される衝突タイミングまでの時間である衝突予測時間TTC(time to collision)を演算する。本車両用衝突緩和装置10では、前方障害物との衝突の危険が生じて、警報制御、ブレーキアシスト制御、及び自動ブレーキ制御などの制御を実行する必要があるか否かは、この衝突予測時間TTCに基づいて判断する。衝突予測時間TTCは、レーダセンサ1によって検出された前方障害物までの距離を、その前方障害物と自車両との相対速度で除算することにより算出される。
【0028】
このようにして算出された衝突予測時間TTCに対して、警報制御を行うための警報基準時間、ブレーキアシスト制御を実行するためのブレーキアシスト基準時間、さらに自動ブレーキ制御を実行するための自動ブレーキ基準時間等が予め定められている。算出された衝突予測時間TTCは各々の基準時間と比較される(図3のステップS220,S250,及びS270参照)。衝突予測時間TTCがそれらの基準時間を下回った場合に、警報制御、ブレーキアシスト制御、自動ブレーキ制御をそれぞれ実行することが必要であることを示す各制御の作動フラグがオンされる(ステップS240、S260、及びS280)。
【0029】
衝突予測時間TTCが警報基準時間を下回ったと判定されたときには、ステップS240に示すように、警報作動フラグ及び後続車両警報フラグがともにオンとなる。これらのフラグのオン状態に基づいて、上述した図2のフローチャートのステップS120の制御処理において、自車両の運転者及び後続車両の運転者に対してそれぞれ警報が発せられる。この警報制御は、例えば、警報フラグがオフからオンに変化したときに、所定時間の間、実行される。
【0030】
なお、作動条件が成立しない場合や、衝突予測時間TTCが警報基準時間よりも長いと判定された場合に、実行されるステップS230では、各種の作動フラグがオフされる。
【0031】
ここで、本車両用衝突緩和装置10において、衝突予測時間TTCと対比される各基準時間について、図4に示すグラフを参照して説明する。図4に示すように、本車両用衝突緩和装置10において、基準時間として、計4種類の基準時間が設定されている。なお、各基準時間は、自車両と前方障害物との相対速度に応じて変化する特性を有している。これら各基準時間の変化特性を示すため、図4では、各基準時間に関して、相対速度に応じて変化する基準時間を結んだラインとして示している。
【0032】
まず、自動ブレーキ制御に関する基準時間ライン(自動ブレーキ1基準時間ライン、自動ブレーキ2基準時間ライン)について説明する。
【0033】
図4のグラフに示すように、自動ブレーキ制御に関する基準時間は、衝突の危険度に応じて目標加速度(減速度)を段階的に設定すべく、自動ブレーキ1基準時間ライン、自動ブレーキ2基準時間ラインとして、複数設定されている。この内、自動ブレーキ2基準時間ラインは、運転者の制動及び操舵操作により衝突回避可能な物理的限界に基づいて定められている。
【0034】
運転者が最も強くブレーキペダルを踏み込んで制動操作を行ったとしても、車両は最大でも0.8G〜1G程度の減速度でしか減速することができない。このように、車両の減速度には物理的な限界があるので、相対速度がゼロから大きくなるにつれて、その相対速度差を解消して、前方障害物との衝突を回避するために必要な時間は長くなる。このため、自動ブレーキ2基準時間ラインは、相対速度が0km/hから大きくなるにつれて、基準時間が徐々に長くなるように定められている。
【0035】
ただし、基準時間が徐々に長くなると、いずれ、その基準時間において、運転者による操舵操作によって衝突回避が可能になる。この運転者の操舵操作による衝突回避は、相対速度の大きさに係らず、ほぼ一定時間で行い得る。従って、自動ブレーキ2基準時間ラインは、相対速度が約35km/h以上の範囲において一定の時間に定められている。
【0036】
上述したように、自動ブレーキ2基準時間ラインは、運転者の制動及び操舵操作により衝突回避可能な物理的限界に基づいて定められる。従って、算出される衝突予測時間TTCが、この自動ブレーキ2基準時間ラインの基準時間よりも短くなった場合には、衝突回避、もしくは少なくとも衝突による衝撃を緩和するために、ほぼ最大減速度に近い減速度(例えば0.8G)を目標減速度として、自動ブレーキ制御が実行される。
【0037】
上述したように、衝突予測時間TTCが自動ブレーキ2基準時間ラインを下回ると、車両は最大減速度に近い減速度で減速されることになる。ただし、自動ブレーキ2基準時間ラインは、衝突回避可能な物理的な限界に基づいて定められているので、それよりも早いタイミングで、自動ブレーキ制御を開始することにより、衝突を回避する可能性を高めることができる。また、車両が全くブレーキのかけられていない状況から、いきなり最大減速度に近い減速度で減速されることは、車両の減速度の変化も急激となりすぎる場合もある。
【0038】
そのため、図4に示すように、特に、運転者の操舵操作によって衝突回避を行うべく自動ブレーキ2基準時間が一定時間に定められた範囲において、自動ブレーキ2基準時間ラインよりも基準時間が長い自動ブレーキ1基準時間ラインが定められている。衝突予測時間TTCが、この自動ブレーキ1基準時間ラインを下回った場合には、自動ブレーキ2基準時間ラインを下回った場合よりも小さい減速度(例えば、0.5G)で減速するように、自動ブレーキ制御が実行される。従って、相対速度が高い場合には、まず自動ブレーキ1が実行され、その後、自動ブレーキ2が実行されることになる。このため、衝突回避の可能性を高めることができるとともに、車両に発生する減速度の変化を緩和することができる。
【0039】
なお、衝突予測時間TTCが自動ブレーキ1基準時間ラインを下回った時点で、既に運転者がブレーキ操作を行っている場合には、自動ブレーキ制御を実行せずに待機しても良い。自動ブレーキ1基準時間ラインは、上述した自動ブレーキ2基準時間ラインのように、衝突回避の物理的限界に基づいて定めされているわけではなく、既に運転者がブレーキ操作を実行していれば、敢えて自動ブレーキ制御を実行する必要はないためである
ただし、衝突予測時間TTCが自動ブレーキ2基準時間ラインを下回った場合には、運転者のブレーキ操作の実行の有無に係らず、自動ブレーキ制御を実行することが好ましい。衝突予測時間TTCが自動ブレーキ2基準時間ラインを下回ったときには、前方障害物との衝突の危険性が非常に高まった状況であるので、極力、高い減速度で車両を減速させることが好ましいためである。この場合、単に自動ブレーキ制御を優先的に実行しても良いし、ブレーキアシスト制御が実行されている場合には、そのブレーキアシスト制御による要求減速度と、自動ブレーキ制御における目標減速度とを比較して、より大きな減速度を選択してブレーキ制御を実行しても良い。
【0040】
次に、ブレーキアシスト基準時間ラインは、運転者が、通常のブレーキ操作を行った場合であって、そのブレーキ操作による制動力がブレーキアシスト制御により増大されたとき、前方障害物との衝突回避が可能なラインとして設定されている。
【0041】
特に、ブレーキアシスト基準時間ラインは、上述した自動ブレーキ1基準時間ラインや自動ブレーキ2基準時間ラインとは異なり、相対速度が大きい範囲(約40km/h以上)においても、相対速度が増加するにつれて基準時間が徐々に大きくなるように設定されている。これにより、相対速度が高くなるほど、より早いタイミングでブレーキアシスト制御が開始されるので、相対速度が高くなったときでも、運転者の通常のブレーキ操作によって前方障害物との衝突を回避できるようになる。この結果、運転者が、強く早いブレーキ操作ではなく、通常のブレーキ操作を行うのみで、ブレーキアシスト制御により前方障害物との衝突を回避するのに必要な制動力を発生することができる。
【0042】
また、図4に示す警報基準時間ラインは、自車両が前方障害物と衝突する危険が高まりつつあることを、自車両及び後続車両の運転者に警報するためのものである。衝突予測時間TTCが、警報基準時間ラインを下回った場合には、警報器7によって、前方障害物との衝突の危険が高まりつつあることが警報音等によって自車両の運転者に報知される。さらに、自車両の後続車両に対しても、自車両が前方障害物との衝突を回避するために急減速を行う可能性があることが報知される。
【0043】
ここで、このような警報基準時間ラインが定められている場合、ブレーキアシスト基準時間ラインが、この警報基準時間ラインを超えることは好ましくない。本車両用衝突緩和装置10におけるブレーキアシスト制御では、運転者が通常のブレーキ操作を行っただけで、そのブレーキ操作による制動力が増幅される。従って、何らの報知もなく、ブレーキアシスト制御を開始すると、運転者に違和感を生じさせてしまうことがある。そのため、図4に示すように、ブレーキアシスト基準時間ラインは、警報基準時間ラインを超えないように設定される。これにより、上述した不具合の発生を防止できる。さらに、後続車両の運転者に対しても、自車両がブレーキアシスト制御により急減速を開始する同時期以前に、その旨を警報することができる。
【0044】
このようにして、車両用衝突緩和装置10は、衝突予測時間TTCを各種の基準時間ラインと比較することにより、実行すべき制御を決定するのである。
【0045】
上述したように、本実施形態による車両用衝突緩和装置10では、自車両の運転者や後続車両の運転者に対して警報を行うための警報基準時間ラインを、ブレーキアシスト制御を行うためのブレーキアシスト基準時間以上であって、自動的に制動力を発生させる自動ブレーキ制御を行なうための自動ブレーキ基準時間よりも長く設定した。そして、衝突予測時間TTCが、警報基準時間ラインを下回ると、自車両の運転者に対して前方障害物との衝突のおそれがあることを警報するとともに、後続車両の運転者に対しても自車両が急減速する可能性が高いことを警報することとしたもしくは、自動ブレーキ制御によって自車両が急減速される状況において、原則、その急減速が行われるよりも早いタイミングで、後続車両への警報を行うことが可能となる。従って、後続車両の運転者は、自車両がブレーキアシスト制御又は自動ブレーキ制御による急減速が開始されても、ブレーキ操作などにより車速を十分に低下することができ、後続車両の自車両への追突の防止を図ることができる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変形が可能である。
【0047】
例えば、上述した実施形態では、各基準時間を、自車両と前方障害物との相対速度に応じて変化するように設定したが、各基準時間は一定の時間に設定されても良い。この場合には、警報基準時間が最も長く、ブレーキアシスト基準時間、及び自動ブレーキ基準時間がそれよりも短い時間に設定される。
【0048】
また、ブレーキアシスト制御に関して、衝突予測時間TTCが、ブレーキアシスト基準時間に達した時点で、運転者のブレーキ操作が行われた場合に、即座に制動力が発生するようにブレーキ装置をスタンバイ状態に設定するようにしても良い。これにより、運転者のブレーキ操作から制動力が発生するための時間を短縮することができるので、前方障害物との衝突を回避する可能性を高めることができる。なお、ブレーキ装置のスタンバイ状態としては、マスタシリンダ圧の事前生成、ホイールシリンダ圧の事前生成、ブレーキパッドとホイールシリンダピストンとの間の隙間を事前に詰めておくことなどが該当する。さらに、ブレーキ装置がブレーキアシストを行うためのブレーキ圧を生成するポンプを備える場合には、このポンプの事前駆動も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施形態による車両用衝突緩和装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】車両用衝突緩和装置において実行される制御処理を示すフローチャートである。
【図3】図2のフローチャートにおける作動判定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図4】車両用衝突緩和装置による制御内容を決定するために、衝突予測時間と比較される各種の基準時間ラインを示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 レーダセンサ
2 ヨーレートセンサ
3 車速センサ
4 ブレーキセンサ
5 衝突緩和コントローラ
6 ブレーキアクチュエータ
7 警報器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の進行方向前方の所定範囲において、前方障害物との距離を検出する距離検出手段と、
前記自車両と前記前方障害物との相対速度を検出する相対速度検出手段と、
前記前方障害物との距離及び相対速度に基づいて、前記自車両と前記前方障害物との衝突タイミングまでの衝突予測時間を算出する衝突予測時間算出手段と、
前記衝突予測時間が、所定の警報基準時間を下回ったときに、前記自車両の運転者に対して前記前方障害物との衝突のおそれがあることを警報する警報手段と、
前記衝突予測時間が、前記警報基準時間以下に設定されたブレーキアシスト基準時間を下回ったときに、運転者のブレーキ操作による制動力を増大させるブレーキアシスト手段と、
前記衝突予測時間が、前記警報基準時間よりも短く設定された自動ブレーキ基準時間を下回ったとき、自動的に制動力を発生させる自動ブレーキ手段と、を備えた車両用衝突緩和装置であって、
前記警報手段は、前記衝突予測時間が前記警報基準時間を下回ったことに基づいて、前記ブレーキアシスト手段が前記運転者のブレーキ操作による制動力を増大させるのと同時期以前であって、かつ前記自動ブレーキ手段が自動的に制動力を発生させる前に、前記自車両の後方を走行する後続車両に対して、前記自車両が前記前方障害物との衝突回避のために急減速する可能性が高いことを警報することを特徴とする車両用衝突緩和装置。
【請求項2】
前記警報手段は、前記自車両のハザードランプを点滅させることにより、前記後続車両に急減速する可能性が高いことを警報することを特徴とする車両用衝突緩和装置。
【請求項3】
前記警報手段は、前記自車両のブレーキランプを点灯もしくは点滅させることにより、前記後続車両に急減速する可能性が高いことを警報することを特徴とする車両用衝突緩和装置。
【請求項4】
前記ブレーキアシスト基準時間は、前記警報基準時間を越えない範囲で、前記自車両と前記前方障害物との相対速度に応じて変化するように設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用衝突緩和装置。
【請求項5】
前記ブレーキアシスト手段は、前記衝突予測時間が、前記ブレーキアシスト基準時間に達した時点で、運転者のブレーキ操作が行われた場合に、即座に制動力が発生するようにブレーキ装置をスタンバイ状態に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用衝突緩和装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−307999(P2008−307999A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156819(P2007−156819)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】