説明

車両用計器

【課題】必要とする情報の入手先として複数の候補が存在する場合に、適切な候補を自動的に選択可能にすると共に、制御上の処理の負担の増大を防止する。
【解決手段】計測値を表示する表示部11と、第1の信号入力部24と、第2の信号入力部25と、第1の情報および第2の情報のうちいずれか一方を選択し選択された情報の計測値を前記表示部に表示する計測値選択制御部10と、前記計測値選択制御部における前記第1の情報または第2の情報の選択状態を表す選択情報D2と所定の選択切替処理の未処理状態か否かを表す未処理情報D1とを保持する不揮発性情報記憶部21と、前記未処理情報D1が未処理状態の時に限り、前記選択切替処理を実行しその結果を前記選択情報に反映すると共に前記未処理情報を処理済みに更新する選択情報決定部10とを備え、1回だけ選択の自動切替を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの計測値を表す情報を表示する車両用計器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車に搭載される計器板ユニットには、スピードメータ、タコメータ、油圧計、水温計、燃料残量計など様々な計器が備わっている。通常、これらの計器は、それぞれ該当する車両に搭載されているセンサが出力する電気信号を読み取ることにより計測値を取得しその計測値を表示する。
【0003】
また、近年の車両には様々な種類の複数の電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)が搭載されており、これらが車両上の通信ネットワークで互いに接続されている場合が多い。従って、計器板ユニットは必要な計測値の情報を他の電子制御ユニットから取得することもできる。
【0004】
しかし、実際の車両に搭載される電子制御ユニットの種類や数は、車両の車種、グレード、仕向地等の違いに応じて様々に変化する。従って、計器板ユニットの構成についても、それを搭載する車両の車種、グレード、仕向地等の違いに応じて様々なバリエーションを用意しておかなければならない。
【0005】
そこで、例えば特許文献1に開示された従来技術においては、計器板ユニットのバリエーションと各計器の情報供給手段との対応関係を、この文献中の図8に示されているようなテーブルに予め登録している。このテーブルの情報を参照することにより、車両のバリエーションと、この計器板ユニットのバリエーションとを対応付けることができ、1種類の計器板ユニットを様々な種類の車両に搭載可能になる。
【0006】
具体的には、車両用計器がそれに接続されたセンサと、CAN通信網を介して接続された電子制御ユニットとの少なくとも一方から目的の情報を取得できる場合に、センサの出力と、通信で得られる情報のいずれを選択するのかを、CAN通信で得られる信号によって決定する。つまり、車両用計器は車両側の電子制御ユニットが出力する制御信号に従って、情報の入手先を、センサ出力またはCAN通信に切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−195216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術のように、車両用計器が必要とする情報の入手先の選択を他の電子制御ユニットからの指示によって切り替える場合には、車両用計器が単独で動作することはできない。つまり、車両に実際に搭載された1つ又は複数の電子制御ユニットと車両用計器とを組み合わせシステムを構成した状態において、予め定めた動作を行うように、1つの電子制御ユニットに車両用計器を制御するための機能を必ず組み込まなければならない。そのため、車両に搭載する電子制御ユニット等のバリエーションに制約が生じる。
【0009】
勿論、車両用計器が単独で動作するように構成することも可能である。その場合は、予め割り当てられた複数の候補(例えばセンサ出力とCAN通信)のいずれも情報の入手先として選択できるように、それぞれの候補について適切な情報の取得が可能かどうかの監視および判定を行って自動的に選択することが想定される。
【0010】
しかし、車両用計器が上記のような処理によってそれ自身で情報の入手先を決定する場合には、複数の候補の中から情報の入手先の選択状態が確定するまでに時間のかかる処理を行う必要がある。特に、車両に搭載される計器板ユニットの場合には、スピードメータ、タコメータ、油圧計、水温計、燃料残量計など様々な計器のそれぞれについて情報の入手先を決める必要があり、選択の完了までに時間がかかる。
【0011】
また、車両に搭載される計器板ユニットの場合には、イグニッションスイッチがオンになる毎に(電源が投入される毎に)上記の処理を行ってから通常の表示状態に移行することになるので、表示を開始できるまでの所要時間が長くなる。
【0012】
現実的には、車両用計器が情報の入手先の切替を必要とする機会はほとんどない。すなわち、該当する車両用計器を実際に搭載する車両のバリエーションが決まった後で、このバリエーションに合わせて車両用計器が情報の入手先を1回決定すれば、その後で選択状態を切り替える必要はない。このように使用頻度の低い機能であるにもかかわらず、情報の入手先の切替機能を持たせることは重要である。しかし、この機能が処理上の大きな負担になってしまう。
【0013】
更に、同じ情報の入手先である複数の候補のそれぞれが情報を実際に出力しているような環境においては、車両用計器が表示中に情報の入手先を勝手に切り替える可能性があり、その場合は表示内容が急激に変化するため、不具合が生じているような違和感をユーザに与えかねない。
【0014】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、必要とする情報の入手先として複数の候補が存在する場合に、適切な候補を自動的に選択可能にすると共に、制御上の処理の負担の増大を防止することが可能な車両用計器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両用計器は、下記(1)〜(5)を特徴としている。
(1) 少なくとも1つの計測値を表す情報を表示する車両用計器であって、
特定の測定対象について、計測値を表示する表示部と、
前記測定対象の計測値に相当する、第1の情報を入力するための第1の信号入力部と、
前記測定対象の計測値に相当する、第2の情報を入力するための第2の信号入力部と、
前記第1の情報および第2の情報のうちいずれか一方を選択し、選択された情報の計測値を前記表示部に表示する計測値選択制御部と、
前記計測値選択制御部における前記第1の情報または第2の情報の選択状態を表す選択情報と、所定の選択切替処理の未処理状態か否かを表す未処理情報とを保持する不揮発性情報記憶部と、
前記未処理情報が未処理状態の時に限り、前記選択切替処理を実行し、その結果を前記選択情報に反映すると共に前記未処理情報を処理済みに更新する選択情報決定部と、
を備える、
こと。
(2) 上記(1)に記載の車両用計器であって、
前記選択情報決定部は、前記第1の情報および第2の情報の少なくとも一方がパルス信号として入力される場合に、所定時間以内に複数のパルスを検出した時に限り有効なパルス信号として認識し該当する情報を選択する、
こと。
(3) 上記(1)に記載の車両用計器であって、
前記選択情報決定部は、前記第1の情報および第2の情報の少なくとも一方がパルス信号として入力される場合に、検出されるパルスの周期が予め定めた条件を満たす時に限り有効なパルス信号として認識し該当する情報を選択する、
こと。
(4) 上記(1)に記載の車両用計器であって、
前記選択情報決定部は、前記第1の情報または第2の情報の計測値が所定値以下の場合に限り、該当する情報を選択し前記選択切替処理を終了する、
こと。
(5) 上記(1)に記載の車両用計器であって、
前記選択情報決定部は、前記選択切替処理を実行する際に、前記表示部を非表示状態に制御する、
こと。
【0016】
上記(1)の構成の車両用計器によれば、所定の初期状態の時に限り、前記未処理情報が未処理状態であるため前記選択切替処理が実行され、前記第1の情報または第2の情報の選択状態を切り替えることができる。また、前記選択切替処理を1回実行した後は前記未処理情報が処理済みになるため、それ以降は前記選択切替処理が実行されることはなく、処理の負担が増大しない。
上記(2)の構成の車両用計器によれば、前記選択情報決定部がパルス状の単発性のノイズを有効なパルス信号として誤認識するのを防ぐことができ、複数の候補の中から適切な候補を自動選択することが可能になる。
上記(3)の構成の車両用計器によれば、実際に入力されるパルスの周期が所定の範囲内にある時に限り、前記第1の情報または第2の情報の選択状態を切り替えることができる。従って、複数の候補の中から適切な候補を自動選択することが可能になる。
上記(4)の構成の車両用計器によれば、入力される計測値が大きい時に先端状態が切り替わるのを防止できる。これにより、切替の際に、表示値が急激に変化することがなくなり、ユーザに違和感を与えることもなくなる。
上記(5)の構成の車両用計器によれば、選択状態の切替が完了する前に、無効な値が計測値として誤表示されるのを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両用計器によれば、必要とする情報の入手先として複数の候補が存在する場合に、適切な候補の自動選択が可能になり、制御上の処理の負担の増大を防止することも可能になる。
【0018】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施形態の車両用計器のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に示した装置の主要な処理を示すフローチャートである。
【図3】図3は、図2に示した入力設定処理の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の車両用計器に関する具体的な実施の形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0021】
<装置の構成>
本実施形態における車両用計器のハードウェア構成例が図1に示されている。図1に示した車両用計器100は、自動車などの車両のインストルメントパネルに配置される計器板ユニットとして利用することを想定して構成してある。
【0022】
図1に示すように、この車両用計器100は、マイクロコンピュータ10、速度計表示部11、回転計表示部12、燃料残量計表示部13、水温計表示部14、モータドライバ15、16、距離計表示部17、照明用光源18、ウォーニング表示部19、不揮発性記憶部21、電源回路22、インタフェース23〜26、操作スイッチ27、FUELセンダ28および信号入力回路29を備えている。
【0023】
マイクロコンピュータ10は、図1に示すように読み出し専用メモリ10a、ランダムアクセスメモリ10b、CAN通信回路10c、A/D変換回路10dを内蔵しており、更に制御可能な様々な入出力ボートを有している。このマイクロコンピュータ10は、読み出し専用メモリ10a上に予め保持されているプログラムを実行し、車両用計器100に必要とされる機能を実現するための各種処理を行う。
【0024】
速度計表示部11、回転計表示部12、燃料残量計表示部13、および水温計表示部14は、それぞれ車両の走行速度(SPEED)、エンジン回転速度(REV)、燃料残量(FUEL)、冷却水温度(TEMP)の測定値を表示するために備わっている。
【0025】
本実施形態においては、速度計表示部11、回転計表示部12、燃料残量計表示部13、および水温計表示部14は、図示しないがそれぞれ目盛り板、指針、指針を駆動する電気モータ、指針の位置を検出するセンサなどを有している。
【0026】
速度計表示部11および回転計表示部12は、モータドライバ15を介してマイクロコンピュータ10と接続され、燃料残量計表示部13および水温計表示部14は、モータドライバ16を介してマイクロコンピュータ10と接続されている。
【0027】
距離計表示部17は、車両の積算走行距離を表示するオドメータおよび特定区間の走行距離を表示するトリップメータの数値を表示するために備わっている。距離計表示部17は、数値の表示が可能な液晶表示器(LCD)で構成してあり、マイクロコンピュータ10の出力ポートと接続されている。
【0028】
照明用光源18は、速度計表示部11、回転計表示部12、燃料残量計表示部13、水温計表示部14、および距離計表示部17の表示内容が運転者から見やすくなるよう照明する光源である。この照明用光源18は、マイクロコンピュータ10の出力ポートと接続された複数の発光ダイオード(LED)により構成されている。
【0029】
ウォーニング表示部19は、車両各部の故障や異常な状態の発生を運転者に警告するために利用される表示部である。ウォーニング表示部19は、複数の発光ダイオードで構成されている。これらの発光ダイオードは、個別に点灯/消灯を制御できるように、それぞれマイクロコンピュータ10の独立した出力ポートと接続されている。
【0030】
不揮発性記憶部21は、マイクロコンピュータ10のアクセスによりデータの書き込み及び読み出しが可能なメモリであり、電源からの電力供給が停止した状態でも記憶されたデータを保持することができる。本実施形態では、不揮発性記憶部21としてEEPROMを採用しているが、例えばフラッシュメモリを利用しても良い。
【0031】
電源回路22は、車両側の電源(バッテリー等)から供給される直流電圧(+B)に基づき、車両用計器100内部のマイクロコンピュータ10等の回路が必要とする安定化された直流電圧(Vcc)やリセット信号を生成する。
【0032】
車両側から供給されるイグニッション信号(IGN+)は、インタフェース23を介してマイクロコンピュータ10の入力ポートP1に入力される。インタフェース23は、入力されるイグニッション信号をマイクロコンピュータ10の処理に適した信号に変換する。
【0033】
インタフェース24は、車両用計器100のマイクロコンピュータ10を車両側の通信ネットワーク(CAN:Controller Area Network)と接続する。車両側のCAN通信ネットワークには、エンジン用電子制御装置(ECU)など様々な制御装置が接続されるのが一般的である。従って、車両用計器100をこのCAN通信ネットワークに接続することにより、車両側の各種電子制御装置からマイクロコンピュータ10が車速、エンジン回転速度など様々な情報を入手することも可能になる。
【0034】
インタフェース25は、車両に搭載されたセンサから直接出力される速度パルス(車速パルス)の電気信号を入力し、ノイズ除去、波形整形などの処理を施してからマイクロコンピュータ10の入力ポートP3に出力する。
【0035】
一般的な車両においては、変速機の出力軸の回動を検出する車速センサが搭載されており、この車速センサが速度パルスの電気信号を出力する。変速機の出力軸が所定量回動する毎にパルスが現れるので、一定時間内のパルス数や、パルスの発生周期に基づいて車速(km/h)を把握することができる。
【0036】
この速度パルスは、車両用計器100以外に、車両に搭載された各種電子制御ユニットにも必要に応じて入力される。また、車両のバリエーションによっては、特定の電子制御ユニットのみに速度パルスが入力され、車両用計器100のインタフェース25が車速センサと接続されない場合もある。その場合は、CAN通信等のネットワークを経由して他の電子制御ユニットから車両用計器100が必要な車速の情報を入手する必要がある。
【0037】
インタフェース26は、車両に搭載されたセンサから直接出力されるエンジン回転数パルスの電気信号を入力し、ノイズ除去、波形整形などの処理を施してからマイクロコンピュータ10の入力ポートP4に出力する。
【0038】
一般的な車両においては、エンジンの駆動軸の回動を検出する回転センサが搭載されており、この回転センサがエンジン回転数パルスの電気信号を出力する。エンジンの駆動軸が所定量回動する毎にパルスが現れるので、一定時間内のパルス数に基づいて実際のエンジン回転速度(rpm)を把握することができる。
【0039】
このエンジン回転数パルスは、車両用計器100以外に、車両に搭載された各種電子制御ユニットにも必要に応じて入力される。また、車両のバリエーションによっては、特定の電子制御ユニットのみにエンジン回転数パルスが入力され、車両用計器100のインタフェース25がエンジンの回転センサと接続されない場合もある。その場合は、CAN通信等のネットワークを経由して他の電子制御ユニットから車両用計器100が必要なエンジン回転速度の情報を入手する必要がある。
【0040】
操作スイッチ27は、運転者が操作可能なスイッチであり、オドメータ/トリップメータの表示の切り替えや、トリップメータの表示値のリセットに利用される。この操作スイッチ27は、マイクロコンピュータ10の入力ポートP5と接続されている。
【0041】
信号入力回路29は、燃料残量を表す電気信号をマイクロコンピュータ10に入力するために備わっている。
一般的な車両においては、燃料タンク内に液面に応じて上下動するフロートと、このフロートの位置を検出するFUELセンダ28とが備わっている。図1に示す例では、FUELセンダ28がポテンショメータ(可変抵抗器)で構成される場合を想定しているので、信号入力回路29は燃料残量に相当するFUELセンダ28の抵抗値をアナログ電圧に変換してマイクロコンピュータ10のアナログ入力ポートP6に出力する。
【0042】
なお、車両のバリエーションによっては、FUELセンダ28を車両用計器100と接続せず、他の電子制御ユニットと接続する可能性も考えられる。その場合には、車両用計器100はCAN通信等のネットワークを経由して他の電子制御ユニットから燃料残量の情報を取得する必要がある。
【0043】
<装置の動作>
図1に示した車両用計器100の主要な処理の内容が図2に示されている。この処理は、マイクロコンピュータ10の動作によって実現される。図2に示す処理について以下に説明する。
【0044】
車両のエンジンキーの操作により車両用計器100に電力が供給されてマイクロコンピュータ10が起動すると、マイクロコンピュータ10は図2に示すステップS11から処理を開始する。
【0045】
ステップS11では、マイクロコンピュータ10は初回の処理か否かを自動的に識別する。本実施形態においては、初回処理の未処理状態か否かを表すデータ(あるいはフラグ)として割り当てた未処理情報D1が、不揮発性記憶部21上に設けてある。この未処理情報D1は、例えば車両用計器100の工場出荷時には「未処理」状態に初期化されている。
【0046】
従って、マイクロコンピュータ10はステップS11で不揮発性記憶部21上の未処理情報D1の内容を参照することにより、初回の処理か否かを把握する。そして、未処理情報D1が「未処理」状態、すなわち工場出荷後の初回の処理であれば次のステップS12に進み、「処理済み」状態であればステップS13に進む。
【0047】
ステップS12では、車両用計器100のマイクロコンピュータ10が表示のために必要とする各種情報の入手先を複数の候補の中から決定するための処理を行う。
【0048】
例えば、最新の車速の情報の入手先について、車両上のネットワークを経由して他の電子制御ユニットからCAN通信により取得する経路と、インタフェース25を介して所定のセンサから直接入力される速度パルスの信号に基づいて取得する経路とがある場合には、これらの候補のいずれかを入手先として選択することができる。
【0049】
また、最新のエンジン回転速度の情報の入手先について、車両上のネットワークを経由して他の電子制御ユニットからCAN通信により取得する経路と、インタフェース26を介して所定のセンサから直接入力されるエンジン回転数パルスの信号に基づいて取得する経路とがある場合には、これらの候補のいずれかを入手先として選択することができる。
【0050】
また、最新の燃料残量の情報の入手先についても、車両上のネットワークを経由して他の電子制御ユニットからCAN通信により取得する経路と、信号入力回路29を介してFUELセンダ28から直接入力されるアナログ信号電圧に基づいて取得する経路とがある場合には、これらの候補のいずれかを入手先として選択することができる。
【0051】
このような情報の入手先について、現在の選択状態を表す選択情報D2が不揮発性記憶部21上に設けてある。すなわち、選択情報D2は、車速の情報の入手先、エンジン回転速度の情報の入手先、燃料残量の情報の入手先等のそれぞれについて、複数の候補のいずれを選択しているかを表す。
【0052】
本実施形態においては、車速の情報の入手先として、車両上のネットワークを経由して他の電子制御ユニットからCAN通信により取得する第1の経路と、インタフェース25を介して所定のセンサから直接入力される速度パルスの信号に基づいて取得する第2の経路とが存在可能な構成を想定している。
【0053】
従って、不揮発性記憶部21が保持する選択情報D2の内容は、前記第1の経路により取得される第1の情報(CAN通信で得られる車速情報)と、前記第2の経路により取得される第2の情報(センサ出力のパルスに基づき算出される車速)の中でいずれを選択しているかを表している。また本実施形態では、工場出荷時の初期状態において、選択情報D2が前記第1の情報を選択した状態に割り当てられている。
【0054】
図2のステップS13では、マイクロコンピュータ10は所定の計器表示処理を実行する。すなわち、車速、エンジン回転速度、燃料残量、冷却水温度、各種警告情報(ウォーニング)、走行距離などのデータ収集を繰り返し、最新の計測結果を反映するように各部の表示を制御する。
【0055】
また、車速の情報を収集する際には、不揮発性記憶部21が現在保持している選択情報D2の内容に従って、上記の第1の情報または第2の情報を収集する。つまり、前記第1の情報の選択を表す情報が選択情報D2として保持されている場合は、車両上の通信ネットワークおよびインタフェース24を介してCAN通信回路10cに入力される情報の中から目的の車速情報を抽出しこれを取得して最新の計測値とする。また、前記第2の情報の選択を表す情報が選択情報D2として保持されている場合は、入力ポートP3に入力される速度パルスを監視して、一定時間内に現れたパルス数、あるいはパルスの発生周期に基づいて計算により車速を取得しこれを最新の計測値とする。
【0056】
<入力設定処理ルーチンの詳細説明>
図2に示した入力設定処理(S12)の詳細が図3に示されている。図3に示す処理について以下に説明する。
【0057】
ステップS21では、マイクロコンピュータ10は計器表示を非表示状態に切り替える。これにより、図3に示した入力設定処理を実行している間は、速度計表示部11、回転計表示部12、燃料残量計表示部13、水温計表示部14、距離計表示部17の表示が非表示状態になる。つまり、処理中に一時的に発生する可能性のある異常な計測値の表示を禁止する。
【0058】
ステップS22では、マイクロコンピュータ10は図3の処理を開始してからの経過時間を取得し、この経過時間を予め定めた時間Tmaxと比較する。この時間Tmaxは、目的の情報の入手先の決定にかかる所要時間の最大値に相当し、例えば10秒間に定められる。Tmaxの時間を経過してなければS22からS23に進み、経過した場合はステップS29に進む。
【0059】
ステップS23では、マイクロコンピュータ10はCAN通信回路10cを用いて車両のCAN通信ネットワークとの間で通信を行い、他の電子制御ユニットからの車速情報の取得を試みる。CAN通信のデータとして車速情報を取得できない場合はS23からS24に進み、車速情報を取得できた場合はS29に進む。
【0060】
ステップS24では、マイクロコンピュータ10は入力ポートP3の状態を監視して、速度パルスのパルス入力の有無を識別する。パルスを1つでも検出できた場合はS24からS25に進み、検出できない場合はS22に戻る。
【0061】
ステップS25では、マイクロコンピュータ10はステップS24でパルスを検出してからの経過時間を取得し、この時間と予め定めた時間T1とを比較する。この時間T1は、正常な連続するパルス列と、ノイズのような単発性のパルスとを区別するための閾値であり、例えば1秒間に定められる。時間T1を経過してなければS25からS26に進み、経過した場合はS22に戻る。
【0062】
ステップS26では、マイクロコンピュータ10はS24で検出したパルスに続く次のパルスの有無を識別する。すなわち、連続的に現れるパルス列が入力ポートP3に現れたか否かを識別する。パルスを検出した場合はS26からS27に進み、検出しない場合はS25に戻る。
【0063】
ステップS27では、マイクロコンピュータ10は入力ポートP3に入力された速度パルスのパルス周期の長さを計測し、この周期から車速の計測値を算出する。そして、この計測値を予め定めた閾値V1と比較する。この閾値V1は、情報入手先の選択の切替によって、急に大きな計測値が表示されるのを防止するために用いる。閾値V1の具体例としては、例えば10km/hに定めることが想定される。計測値がV1以下であればS27からS28に進み、V1を越える場合はS22に戻る。
【0064】
ステップS28では、マイクロコンピュータ10は車速の情報入手先として、入力ポートP3を選択する状態に切り替える。すなわち、不揮発性記憶部21に保持されている前述の選択情報D2の内容は、初期状態ではCAN通信により得られるデータを選択した状態であるが、選択情報D2の内容を書き換えて入力ポートP3の選択状態に変更する。
【0065】
ステップS29では、マイクロコンピュータ10は不揮発性記憶部21に保持されている前述の未処理情報D1の内容を更新し、処理済みの状態にする。
【0066】
ステップS30では、マイクロコンピュータ10は前述のステップS21で切り替えた計器表示の非表示状態を解除する。
【0067】
<全体の動作の説明>
工場出荷直後の初期状態の車両用計器100を車両に組み付けて車両用計器100の電源を投入すると、図2のステップS11において、未処理情報D1の内容が未処理状態なので、初回処理であるとみなされ、ステップS12の入力設定処理が実行される。
【0068】
これにより、インタフェース25の入力に速度パルスが入力されている状態であれば、車速情報の入手先の選択状態が「CAN通信によりデータを取得する経路」から「入力ポートP3の速度パルスに基づいて取得する経路」に自動的に切り替える。もしも、インタフェース25の入力に速度パルスが入力されていない状態であれば、ステップS12の入力設定処理を実行しても、選択状態は「CAN通信によりデータを取得する経路」のまま変化しない。
【0069】
また、ステップS12の入力設定処理を1回実行すると、ステップS29で未処理情報D1の内容が「処理済み」に書き換えられる。従って、その後で再び車両用計器100の電源が投入された時には、ステップS11からS13に進み、入力設定処理が実行されることはない。つまり、入力設定処理が実行されるのは1回のみである。
【0070】
また、ステップS13で最新の計測値を取得する際には、必要な情報の入手先を不揮発性記憶部21上の選択情報D2の内容により直ちに特定できるので、図3に示す処理のような時間のかかる処理を行う必要がなく、マイクロコンピュータ10の処理の負担が小さい。従って、電源が投入されてから計器表示が開始されるまでの所要時間を短縮することができ、実際の車速が変化してから計器の表示が更新されるまでの応答が早くなる。
【0071】
なお、前述の入力設定処理を既に実行し、未処理情報D1が「処理済み」になった後でも、何らかの理由で選択状態の切替のために、再び入力設定処理の実行が必要になる場合も考えられる。そのような時には、未処理情報D1を強制的に「未処理」状態に戻す必要がある。このような操作は、例えば不揮発性記憶部21の内容を手入力で直接書き換えるか、あるいは所定のコマンドをマイクロコンピュータ10に与えて、マイクロコンピュータ10の制御により未処理情報D1を初期状態に戻すことが想定される。
【0072】
<想定される変形例>
図3に示した入力設定処理では、車速の情報の入手先を決定する場合を想定しているが、同様の処理により、エンジン回転速度の情報、燃料残量の情報、冷却水温の情報などの入手先を複数の候補の中から決定することもできる。
【0073】
また、図3に示した入力設定処理では、車速情報の入手先として、初期状態でCAN通信のデータを選択している場合を想定しているが、初期状態で入力ポートP3を選択し、この状態からCAN通信のデータに選択状態を切り替えできるように処理を変更しても良い。
【0074】
また、図3に示した入力設定処理では、車速情報の入手先の複数の経路として、CAN通信による入力と、センサからのパルス入力とが存在可能な場合を想定しているが、違う経路の選択にこの処理を適用することも考えられる。例えば、燃料残量の信号を出力するセンサとしてアナログ信号を出力するセンサと、デジタル信号を出力するセンサとを選択できる場合に、アナログ信号を入力する経路と、デジタル信号を入力する経路とのいずれか一方を選択するように処理することが想定される。
【0075】
また、図1に示した車両用計器100は車両側の通信ネットワークとCAN通信で接続する場合を想定しているが、他の通信形式、例えばLIN、BEAN等の規格の通信を行うように変更しても良い。
【0076】
<車両用計器100の利点>
以上のように、車両用計器100は車速等の計測値の情報の入手先を、複数の候補の中から自動的に選択することができるので、複数種類の計器を個別に用意しておかなくても、様々なバリエーションの車両に対応できる。しかも、前述の入力設定処理を実行するのは工場出荷後の1回だけであり、車両用計器100が通常使用される状況では入力設定処理が実行されることはない。そのため、車両用計器100を制御するマイクロコンピュータ10の処理の負担が小さくなり、電源を投入してから計測値を表示開始するまでの起動所要時間が短縮され、計器表示の応答が遅くなることもない。
【0077】
また、車速等の計測値の情報の入手先を切り替える際には、図3のステップS27のように、計測値が所定以下の条件を満たす時に限り切り替えることにより、表示値が急激に変化するのを防止することができ、ユーザ等に違和感を与えることが無くなる。
【符号の説明】
【0078】
10 マイクロコンピュータ(計測値選択制御部,選択情報決定部)
10a 読み出し専用メモリ
10b ランダムアクセスメモリ
10c CAN通信回路
10d A/D変換回路
11 速度計表示部(表示部)
12 回転計表示部
13 燃料残量計表示部
14 水温計表示部
15,16 モータドライバ
17 距離計表示部
18 照明用光源
19 ウォーニング表示部
21 不揮発性記憶部(不揮発性情報記憶部)
22 電源回路
23 インタフェース
24 インタフェース(第1の信号入力部)
25 インタフェース(第2の信号入力部)
26 インタフェース
27 操作スイッチ
28 FUELセンダ
29 信号入力回路
100 車両用計器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの計測値を表す情報を表示する車両用計器であって、
特定の測定対象について、計測値を表示する表示部と、
前記測定対象の計測値に相当する、第1の情報を入力するための第1の信号入力部と、
前記測定対象の計測値に相当する、第2の情報を入力するための第2の信号入力部と、
前記第1の情報および第2の情報のうちいずれか一方を選択し、選択された情報の計測値を前記表示部に表示する計測値選択制御部と、
前記計測値選択制御部における前記第1の情報または第2の情報の選択状態を表す選択情報と、所定の選択切替処理の未処理状態か否かを表す未処理情報とを保持する不揮発性情報記憶部と、
前記未処理情報が未処理状態の時に限り、前記選択切替処理を実行し、その結果を前記選択情報に反映すると共に前記未処理情報を処理済みに更新する選択情報決定部と、
を備えることを特徴とする車両用計器。
【請求項2】
前記選択情報決定部は、前記第1の情報および第2の情報の少なくとも一方がパルス信号として入力される場合に、所定時間以内に複数のパルスを検出した時に限り有効なパルス信号として認識し該当する情報を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用計器。
【請求項3】
前記選択情報決定部は、前記第1の情報および第2の情報の少なくとも一方がパルス信号として入力される場合に、検出されるパルスの周期が予め定めた条件を満たす時に限り有効なパルス信号として認識し該当する情報を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用計器。
【請求項4】
前記選択情報決定部は、前記第1の情報または第2の情報の計測値が所定値以下の場合に限り、該当する情報を選択し前記選択切替処理を終了する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用計器。
【請求項5】
前記選択情報決定部は、前記選択切替処理を実行する際に、前記表示部を非表示状態に制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用計器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−95194(P2013−95194A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237656(P2011−237656)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】