説明

車両用防眩装置

【課題】眩惑状態ではない場合に不必要に遮光することなく、運転者が眩惑を感じる場合にのみ遮光することが可能な車両用防眩装置を提供する。
【解決手段】
車両用防眩装置6は、運転者の目を撮像する撮像手段1と、撮像手段1の出力画像から運転者の瞳孔の位置および領域を検出する瞳孔検出手段2と、瞳孔検出手段2が検出した瞳孔およびその周辺の眼球からの反射光の位置を検出する反射光検出手段3と、眩惑を引起す光源からの入射光を遮光または減衰させる遮光手段5と、検出された瞳孔の位置および領域と反射光の位置とに基づいて遮光手段5を制御する制御手段4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用防眩装置、特に、運転者の瞳孔に入射する眩光を検出し、遮光または減光する車両用防眩装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等の運転者の目に入射する眩光を自動的に検出し、遮蔽または減衰させる防眩装置として、眩光の発生源である太陽と運転者の瞳孔の位置を結んだ直線上に遮光物を置くように構成したものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、運転者の目の位置を検出し、検出された目の位置の明るさ(眼球の周囲の明るさ)から眩惑状態を判断するように構成した車両用減光装置が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−153135号公報
【特許文献2】特開2007−76396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の防眩装置は、眩光の発生源である太陽の位置情報を求めるために、時刻および車両の位置、車両の向きなどの情報を必要とし、このためにGPSアンテナや、方位センサを備えなければならず、構造が複雑になるという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載の車両用減光装置は、眩光の光源に関する情報は必要としないが、運転者の目の位置の明るさで眩惑状態かどうか判断するため、眩惑状態ではない場合にも減光してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたものであり、車内に設置した撮像手段から得られた画像情報のみで、眩惑状態を的確に判断して光源からの眩光を遮断または減衰できる車両用防眩装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用防眩装置は、車両の運転者の視界の中で眩惑を引起す光源から、運転者の目への入射光を遮光または減衰させる遮光手段と、運転者の少なくとも目を撮像する少なくとも1台の撮像手段と、撮像手段により撮像された画像を解析し、運転者の目の瞳孔に入射する入射光がある場合には、入射光を遮光または減衰させるように、遮光手段を制御する画像解析制御手段とを備えることを特徴としている。
【0009】
画像解析制御手段は、撮像手段により撮像された画像を解析する際に、入射光が運転者の瞳孔の上で反射した反射光がある場合に、運転者は眩惑状態にあると判断する。
【0010】
以上の構成により、運転者が眩惑を感じる場合にのみ、遮光するように制御することができる。
【0011】
また、撮像手段は、光源の方向と一致する方向に設置するのが好適である。この構成により、運転者の眼球に入射光があるか否かを正確に判断することができる。
【0012】
さらに、撮像手段が複数台設置されている場合には、複数台の撮像手段により撮像された画像を解析して、運転者の顔の向きを検出する顔向き検出手段と、検出された顔の向きによって、顔の正面を撮像している1台の撮像手段を選択する選択手段とをさらに備えるのが好適である。この構成により、運転者の顔の向きに応じて、眩惑を感じる状態かどうかを判断することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防眩装置によれば、撮像手段により撮像された運転者の目の画像を解析し、運転者の瞳孔に入射する入射光のみを遮光または減衰させるので、少ない情報に基づいて、眩惑状態ではない場合に不必要に入射光を遮光または減衰することなく、運転者が眩惑を感じる場合にのみ遮光または減衰することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施例における車両用防眩装置の概略ブロック図である。
【図2】防眩装置が車両に設けられた状態を示す図である。
【図3】第1の実施例における入射光を説明する模式図である。
【図4】眼球上への風景の映り込みを説明する図であり、(A)は風景を、(B)は風景の目への映り込みを示している。
【図5】運転者の眼球の撮像画面を示す図である。
【図6】運転者の眼球からの光の反射を説明する図である。
【図7】ウィンドシールドまたはミラーの遮光部位を説明する図である。
【図8】第2の実施例における車両用防眩装置の概略ブロック図である。
【図9】第2の実施例の車両用防眩装置の動作を説明する図であり、(A)は運転者が前方を注視している場合を、(B)は運転者がサイドミラーを注視している場合を示す図である。
【図10】図9の車両用防眩装置の変形例の概略ブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の車両用防眩装置の実施例について、図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施例)
図1に示すように、本発明の第1の実施例における車両用防眩装置6は、運転者の目を撮像する撮像手段1と、撮像手段1の出力画像から運転者の瞳孔の位置および領域を検出する瞳孔検出手段2と、瞳孔検出手段2が検出した瞳孔およびその周辺の眼球からの反射光の位置を検出する反射光検出手段3と、眩惑を引起す光源からの入射光を遮光または減衰させる遮光手段5と、検出された瞳孔の位置および領域と反射光の位置とに基づいて遮光手段5を制御する制御手段4とを備えている。
【0017】
遮光手段5は、車両のウィンドシールドやミラーの表面に設けられ、ウィンドシールドまたはミラーの特定の部位だけを遮光または減衰することができるものであり、例えば調光ガラスで構成される。調光ガラスは、液晶シートがガラス板で挟まれており、電気的制御手段により液晶シートの任意部位の透過率を変えることができるものであり、透明から光を完全に遮断するまで調整することができる。
【0018】
撮像手段1は、例えばCCDカメラ(以下、単にカメラという)で構成される。カメラ1で撮像された画像は、瞳孔検出手段2、反射光検出手段3、および制御手段4を構成する画像解析制御装置(CPU)7に入力される。このようなカメラ1およびCPU7は、車内に設置される。カメラ1およびCPU7が、車内に搭載された状態を、図2に示す。ウィンドシールド8の内面に、遮光手段、例えば調光ガラス9が張合わされている。また、図示しないが、ルームミラー,サイドミラーの表面にも調光ガラスが張合わされている。
【0019】
車両の運転者に眩惑を引起す入射光には、図3に示すように、車両の前方から運転者10の目に入射する光11、後方からの光14がルームミラー13で反射して運転者10の目に入射する光、車両の後方または側方からの光15がサイドミラー12で反射して運転者10の目に入射する光などがある。
【0020】
このとき、運転者が入射光により眩惑を感じる状態か否かは、運転者の目の網膜に入射光が届くか否かで決る。網膜に入射光が届くには、瞳孔を通過しなければならない。
【0021】
ところで、運転者の眼球は涙で覆われているため、入射光の一部を反射する。例えば、図4(A)に示すように、太陽20と雲21と建物22とを含む晴れた日の車外の風景がある場合に、この風景が眼球上で反射すると、図4(B)に示すように、太陽や雲などの風景が運転者の目に映りこむ。図中、23は瞳を、24は瞳孔を示している。また、25は目に映りこんだ太陽を、26は目に映りこんだ雲を示している。
【0022】
眩惑を引起す強力な光源(例えば、上記した太陽)がある場合、光源から眼球への入射光は眼球上で反射される。眼球の角膜は球体の一部であるため、入射した光は特定の方向に強く反射される。
【0023】
このような反射光をカメラ1が捉えた場合には、カメラ1の撮像画面には、図5に示すように、運転者の眼球30の上に反射光に基づく明るい点(輝点)33が現れている。輝点33の位置は、眼球上での反射光の位置に相当している。眼球上での反射光の位置は、眼球上での入射光の位置でもある。このことは、カメラ1が撮像した画像から、入射光の位置と目の瞳孔の位置との関係が分かることを意味している。
【0024】
運転者は網膜に入射光が届くことで眩惑を感じるが、虹彩や白目の部分に入射光があたっても眩惑を感じることはない。従って、眼球30上での反射光、すなわち画面上での輝点33が、瞳孔24と少なくとも部分的に重なっていれば、入射光は瞳孔を通過して網膜まで届いており、運転者が眩惑状態にあると判断できる。瞳孔の大きさは、状況に応じて拡大したり縮小したりするので、入射光が瞳孔を通過したか否かは、瞳孔の開き具合、すなわち瞳孔の領域を撮像された画像から判断することが必要となる。
【0025】
瞳孔検出手段2は、瞳孔の位置および領域を検出するものであり、このような機能は、例えばCPU7に格納された画像解析プログラムで実現される。
【0026】
反射光検出手段3は、瞳孔検出手段2で検出された瞳孔およびその周辺領域での反射光の存在を検出するものであり、例えば、撮像された画像上で所定輝度以上の輝点があれば、反射光があると判断され、その位置が検出される。このような機能は、例えばCPU7に格納された画像解析プログラムで実現される。
【0027】
瞳孔検出手段2および反射光検出手段3からの情報は、制御手段4に入力される。制御手段4は、瞳孔の位置および領域と、反射光の位置とに基づいて、入射光の光源、すなわち眩光の光源の方向を判断する。制御手段4のこのような機能は、例えばCPU7に格納されたプログラムで実現される。
【0028】
制御手段4において、光源の方向は、次のようにして判断される。図6に示すように、眩光の光源(図示せず)からの入射光40が角膜41上のある点42で反射すると、この点42と角膜41の曲率から求まる中心点43とを結ぶ直線44に対して、この直線44と入射光40とがなす角度θと同じ角度で反射する。図中、反射光を45で示す。
【0029】
この反射光45をカメラ1が捉えると、カメラ1が出力する画像における輝点33の位置は、反射点42の位置に対応している。カメラ1の取付け位置は、予め分かっているので、制御手段4は、瞳孔24の位置、輝点33すなわち反射点42の位置、目の角膜の平均的な曲率から求まる中心点43の位置などから、反射点42への入射光40の方向を算出できる。入射光40の方向が分かれば、入射光の方向に眩光の光源があることになる。すなわち、眩光の光源の方向が求められる。
【0030】
このようにカメラ1は反射光を捉えることができる位置に設置することが必要であるが、運転者は正面やミラーを注視するときには、通常、その方向に顔を向けるので、ほぼ入射光の方向に光を反射することが多い。したがって、カメラ1を入射光の方向と一致する方向に設置するのが望ましい。このことは、眩光の光源の方向と一致する方向にカメラを設置することを意味している。
【0031】
眩光の光源の方向が分かれば、ウィンドシールドまたはミラーのどの特定の部分を、調光ガラス9によって遮光するかは、制御手段4により求めることができる。このような機能は、例えばCPU7に格納されたプログラムで実現される。
【0032】
また、運転者の瞳孔24からカメラ1までの距離情報が必要な場合には、平均的な角膜の直径と画像上の角膜の直径との比較で求めるか、あるいはカメラをステレオカメラとすることにより、制御手段4において求めることができる。このような機能は、例えばCPU7に格納されたプログラムで実現される。
【0033】
また、眩光の光源の方向を特定する手段として、図7(A)に示すように、調光ガラス9によって、ウィンドシールドまたはミラー50の遮光する部位52を時間的に移動させて、撮像された画像において瞳孔上の輝点33が消えたとき、部位52の位置を、制御手段4により眩光の光源51の方向として特定することもできる。
【0034】
さらに図7(B)に示すように、ウィンドシールドまたはミラー50を遮光する最初の部位53の領域を大きくして、図7(A)において説明したように、部位53を時間的に移動させて、光源51のおおよその位置を特定したあとに、特定された位置を含む部位内をさらに細かい部位に分割して、細かい部位55の遮光を調光ガラス9によって移動していく。画像において瞳孔上の輝点33が消えたときのウィンドシールドまたはミラー50上の部位の位置を、眩光の光源51の方向として特定することによって、正確な方向を求めることもできる。
【0035】
このような制御手段4における眩光の光源の方向の特定方法において、ウィンドシールドまたはミラー50の遮光部位の移動時間が十分に高速であれば、眩光が瞳孔に入射するのは瞬間であり、運転者に違和感を与えることはない。
【0036】
このように、本実施例における車両用防眩装置によれば、運転者が眩惑状態でない場合、すなわち眩光が瞳孔に入射しない場合は、目への入射光を不必要に遮光することなく、運転者が眩惑を感じる場合にのみ遮光することができる。
【0037】
なお、本実施例では、瞳孔の位置および領域を検出した後に、反射光の位置を検出しているが、これらを同時に処理してもよい。この場合には、図1の構成において、瞳孔検出手段2と反射光検出手段3とが1つの検出手段で構成される。
【0038】
(第2の実施例)
図8に示すように、本発明の第2の実施例における車両用防眩装置60は、複数の撮像手段1−1,1−2・・・と、各撮像手段1の出力画像から運転者の顔の向きを判断する顔向き検出手段61と、判断された顔の向きから、いずれか最適な撮像手段1の出力画像を選択する選択手段62とを備える点が、第1の実施例と異なる。その他の構成は、第1の実施例と同じであるので、第1の実施例と同じ構成要素には、同じ参照番号を付して示す。
【0039】
本実施例の場合、顔向き検出手段61,選択手段62,瞳孔検出手段2,反射光検出手段3,および制御手段4は、画像解析制御装置(CPU)7によって構成される。各手段の機能は、CPU7に格納されたプログラムで実現される。
【0040】
本実施例における車両用防眩装置60の動作を、図9を参照して説明する。
【0041】
図9は、本実施例における車両内の運転者を上方から見た図であり、2台のカメラ1−1,1−2を設置した状態を示している。カメラ1−1は、運転者10の前方に配置され、運転者が前方を注視した場合に運転者の顔正面を撮像する。カメラ1−2は、サイドミラー12の側に配置され、運転者がサイドミラー12を注視した場合に運転者の顔正面を撮像する。
【0042】
図9(A)に示すように、運転者10が前方を注視している場合、前方からの光11が運転者10の目に入射する。このとき、後方からの光14がサイドミラー12から反射しているが、運転者の目には入射していない。
【0043】
運転者10が前方を注視している場合は、前方からの光11が目に入射し、運転者の目の角膜で反射した光は、前方に戻る率が高い。従って、顔向き検出手段61は、カメラ1−1,1−2が撮像した運転者の顔の画像から、顔の正面を捉えているのはカメラ1−1であると判断し、選択手段62に指示する。
【0044】
選択手段62は、顔向き検出手段61からの指示に基づいて、カメラ1−1を選択して、カメラ1−1の撮像した画像を瞳孔検出手段2に出力する。以降の動作は、第1の実施例で説明した動作と同じである。
【0045】
また、図9(B)に示すように、運手者10がサイドミラー12を注視した場合は、前方からの光11よりも、後方からの光14がサイドミラー12で反射されてきた光が運転者の目に入射し、眩惑を引起す可能性が高い。この場合には、顔向き検出手段61および選択手段62によって、サイドミラー側に設置されたカメラ1−2を選択することになる。
【0046】
このように、本実施例における車両用防眩装置によれば、眩惑を引起す光源からの光線が、運転者の目に入射し角膜で反射された反射光をカメラで的確に捉え、撮像された画像を解析することによって、運転者の瞳孔に光線が入射しているか否かを判断し、眩惑状態ではない場合にウィンドシールドまたはミラーを不必要に遮光することなく、運転者が眩惑を感じる場合にのみ遮光することができる。
【0047】
なお、本実施例では、顔向き検出手段61の検出結果によりカメラの出力画像を選択しているが、各カメラに対して瞳孔検出および反射光検出を行った後に、選択を行ってもよい。図10に、その実施例を示す。撮像手段(カメラ)1−1,1−2・・・に対応して、瞳孔検出手段2−1,2−2・・・と、反射光検出手段3−1,3−2・・・とを備えている。選択手段63は、反射光検出手段3−1,3−2・・・の後段に設けられる。
以上の各実施例では、遮光手段の一例として、調光ガラスを用いたが、電気的に制御できる遮光手段であればいかなる種類のものであってもよく、例えば液晶シャッタを利用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の車両用防眩装置は、運転者が眩惑状態ではない場合に入射光を不要に遮光することなく、運転者が眩惑を感じる場合にのみ遮光することができ、車両の安全運行などに有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 撮像手段(カメラ)
2 瞳孔検出手段
3 反射光検出手段
4 制御手段
5 遮光手段
6,60 車両用防眩装置
7 画像解析制御装置(CPU)
9 調光ガラス
10 運転者
50 ウィンドシールドまたはミラー
61 顔向き検出手段
62 選択手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者の視界の中で眩惑を引起す光源から、運転者の目への入射光を遮光または減衰させる遮光手段と、
運転者の少なくとも目を撮像する少なくとも1台の撮像手段と、
前記撮像手段により撮像された画像を解析し、運転者の目の瞳孔に入射する入射光がある場合には、前記入射光を遮光または減衰させるように、前記遮光手段を制御する画像解析制御手段と、
を備える車両用防眩装置。
【請求項2】
前記画像解析制御手段は、前記撮像手段により撮像された画像を解析する際に、前記入射光が運転者の瞳孔の上で反射した反射光がある場合に、運転者は眩惑状態にあると判断する、請求項1に記載の車両用防眩装置。
【請求項3】
前記撮像手段は、前記光源の方向と一致する方向に設置される、請求項1または2に記載の車両用防眩装置。
【請求項4】
前記撮像手段が複数台設置されている場合には、前記複数台の撮像手段により撮像された画像を解析して、運転者の顔の向きを検出する顔向き検出手段と、
検出された顔の向きによって、顔の正面を撮像している1台の撮像手段を選択する選択手段とをさらに備え、
前記画像解析制御手段は、前記選択された撮像手段により撮像された画像を解析する、請求項1,2または3に記載の車両用防眩装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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