説明

車両用電源分配システム

【課題】電源分配モジュールの発熱を低減し、設置位置の融通性を高めることが可能な車両用電源分配システムを提供する。
【解決手段】複数の電源分配モジュール11、及び通信線15を介して各電源分配モジュール11に接続される統合ECU16を備える。そして、統合ECU16より電装負荷18の駆動指令信号が与えられた場合には、MOSFET(Q1)をDC駆動させてリレーコイル34aに電圧を印加し、リレー接点35をオンとする。その後、MOSFET(Q1)を所定の電流値以上となるPWM制御に切り替えて、リレーコイル34aに印加する電圧を低減させ、リレーコイル34aに流れる電流値を減少させる。これにより、発熱量が低下するので、電源分配モジュール11を小型化でき、且つ、周囲温度が高い場所にも設置することができ、融通性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるバッテリより出力される電力を、車両に搭載される各負荷に分配する車両用電源分配システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される負荷が増加する中で、車両の適所に電源分配モジュールを複数設置し、各電源分配モジュールに設けた電磁リレーを用いて、各電源分配モジュールの近傍に設けられるモータやランプ等の電装負荷を駆動する電源分配システムが採用されている。このような電源分配システムの従来例として、例えば、特開平5−146080号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1では、車両の前部、中央部、後部にそれぞれ分配装置を設け、各分配装置に負荷を接続して電装負荷の駆動、停止を切り替える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−146080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された従来例では、電装負荷の駆動、停止を切り替えるための電磁リレーが発熱することにより、分配装置の温度が上昇するので放熱機能を持たせる必要があり、分配装置が大規模化するという問題が生じる。また、エンジンルームの近傍等、周囲温度が高い場所に分配装置を配置することができず、設置位置に制約が生じるという欠点がある。
【0006】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、電源分配モジュールの発熱を低減し、設置位置の融通性を高めることが可能な車両用電源分配システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、車両内に設けられるバッテリの出力電力を、電源線を介して車両内の複数箇所に設けられた電源分配モジュールに供給し、且つ、各電源分配モジュールに接続される各負荷への電力の供給、停止を切り替えて前記各負荷の駆動を制御する車両用電源分配システムにおいて、通信線を介して前記各電源分配モジュールと接続され、各負荷の駆動指令信号を出力する主制御手段(例えば、統合ECU)を備え、前記各電源分配モジュールは、前記負荷への電力の供給、停止を切り替える1個以上の電磁リレーと、前記駆動指令信号に基づいて、前記電磁リレーのリレーコイルに印加する電圧をPWM制御するPWM制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記PWM制御手段は、前記駆動指令信号が入力された際に、前記リレーコイルに直流電圧を印加し、その後、所定の電流値以上でPWM制御することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記各電源分配モジュールは、同一個数の前記電磁リレーを備え、且つ、同一個数のPWM制御手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両用電源分配システムでは、主制御手段から電源分配モジュールに負荷の駆動指令信号が出力された場合には、この負荷の駆動、停止を制御するための電磁リレーのリレーコイルに印加する電圧をPWM制御して、該電磁リレーコイルに流れる電流を低減する。従って、リレーコイルでの消費電力を低減することができ、車両の燃費向上に繋がる。また、リレーコイルでの発熱量を低減できるので、電源分配モジュール全体の発熱量を減少させることができる。その結果、電源分配モジュールを周囲温度の高い場所に置くことが可能となり、設置場所の融通性を高めることができる。
【0011】
更に、電源分配モジュールを小型化することができるので、従来は設置できなかったような狭い場所でも設置できる場合が有り、この点においても設置場所の融通性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用電源分配システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用電源分配システムに設けられる電源分配モジュールの詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両用電源分配システムに設けられる電源分配モジュールの、駆動指令信号、コイル印加電圧、コイル電流、及びリレー接点の状態を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車両用電源分配システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、この電源分配システム100は、複数の電源分配モジュール11(図では、4個の電源分配モジュール11a〜11d)を有し、各電源分配モジュール11(11a〜11d)は、電源線12を介してJ/B(ジャンクションボックス)13に接続され、更に、該J/B13は、電源線12を介してバッテリ14に接続されている。
【0014】
電源分配モジュール11aは、車両前側のエンジンルーム17の右側に設けられ、電源分配モジュール11bは、エンジンルームの左側に設けられ、電源分配モジュール11cは、車両後側のトランクルームの右側に設けられ、電源分配モジュール11dは、車両後側のトランクルームの左側に設けられている。
【0015】
そして、電源分配モジュール11a,11bは、負荷線19を介して車両のヘッドランプ、ウィンカ用ランプ、ワイパ駆動用モータ等の各電装負荷18に接続され、これらの電装負荷18の駆動、停止を制御する。電源分配モジュール11c,11dは、負荷線19を介して車両のテールランプ、リヤワイパ駆動用モータ等の各電装負荷18に接続され、これらの電装負荷18の駆動、停止を制御する。
【0016】
また、各電源分配モジュール11a〜11dは、通信線15を介して統合ECU(主制御手段)16に接続され、該統合ECU16より送信される駆動指令信号に基づいて、各電装負荷18の駆動、停止を制御する。
【0017】
統合ECU16は、車両内に搭載される各電装負荷18を総括的に制御するものであり、信号線20を介して、車載される複数のスイッチ21(図では5個)、及び複数のセンサ22(図では2個)と接続され、各スイッチ21の操作信号、及び各センサ22の検出信号に基づいて、各電装負荷18の駆動指令信号を生成し、通信線15を介して各電源分配モジュール11a〜11dに送信する。
【0018】
図2は、電源分配モジュール11の詳細な構成を示すブロック図であり、以下、図2を参照して、電源分配モジュール11について説明する。なお、図1に示した4個の電源分配モジュール11a〜11dは、全て同一の構成を備えているので、これを電源分配モジュール11と示している。図2に示すように、電源分配モジュール11は、複数の電磁リレー33(図では、3個の電磁リレー33a,33b,33cを示している)を備えており、各電磁リレー33はリレー接点35(35a,35b,35c)、及びリレーコイル34(34a,34b,34c)を備えている。各リレー接点35の一端は、フューズFuを介して端子T1に接続され、他端はそれぞれ端子T3〜T5を介して電装負荷18(18a,18b,18c)にそれぞれ接続されている。また、端子T1は電源線12を介してJ/B13に接続されている。従って、電磁リレー33のオン、オフを切り替えることにより、各電装負荷18の駆動、停止を切り替えることができる。
【0019】
また、電源分配モジュール11は、クロック信号を出力するクロック回路31を備えている。更に、各電磁リレー33毎にPWMドライバ32(32a,32b,32c)を備えており、各PWMドライバ32は通信I/F36に接続され、該通信I/F36は、端子T2を介して通信線15に接続され、更に、この通信線15を介して統合ECU16に接続されている。なお、図2ではPWMドライバ32aのみを詳細に記載している。他のPWMドライバ32b,32cもPWMドライバ32aと同様の構成を備えている。
【0020】
通信I/F36は、統合ECU16より送信される各電磁リレー33毎のコイル電流設定信号s1、及び各電磁リレー33の駆動指令信号s2を受信し、各信号s1,s2を各PWMドライバ32(32a,32b,32c)に転送する。
【0021】
PWMドライバ32aは、電流検出回路42と、PWM信号生成部41、及びMOSFET(Q1)を備えている。MOSFET(Q1)は、リレーコイル34aに対して直列に接続されている。即ち、電源VB→リレーコイル34a→MOSFET(Q1)→グランドの順に接続される回路が形成されている。
【0022】
電流検出回路42は、コイル電流設定信号s1を受信すると共に、リレーコイル34aに流れる電流を検出し、この検出信号s3をPWM信号生成部41に出力する。PWM信号生成部41は、駆動指令信号s2が供給されると、クロック信号に基づいて、PWM信号を生成し、MOSFET(Q1)のゲートに出力する。
【0023】
次に、上述のように構成された本実施形態に係る電源分配システム100の作用を、図3に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0024】
まず、図3の時刻t1にて統合ECU16より、図2に示す電装負荷18aの駆動指令信号s2が送信されると(図3(a)参照)、この駆動指令信号s2は通信線15を介して電源分配モジュール11の通信I/F36にて受信される。そして、この駆動指令信号s2は、電装負荷18aを駆動するためのPWMドライバ32aに供給される。また、これと同時に、PWMドライバ32aには、電磁リレー33aのコイル電流設定信号s1が供給される。
【0025】
そして、PWM信号生成部41は、MOSFET(Q1)にDC駆動信号(常時オンとする直流駆動信号)を出力する。その結果、該MOSFET(Q1)がオンとなるので、図3(b)に示すようにリレーコイル34aには電圧VBが印加されることになる。
【0026】
リレーコイル34aに電圧VBが印加されたことにより、リレーコイル34aに流れる電流が徐々に増加し、時刻t2で接点動作電流に達すると、リレー接点35aがオンとなり、電装負荷18aに電圧が供給されて該電装負荷18aが駆動する。その後、リレーコイル34aに流れる電流は増加し、一定の電流値となる。
【0027】
その後、PWM信号生成部41は、時刻t3にてMOSFET(Q1)をオフとする。その結果、図3(c)に示すように、リレーコイル34aに流れるが徐々に減少する。その後、図3(b)に示すように、時刻t4においてMOSFET(Q1)を所定の電流値以上でPWM制御する。その結果、図3(c)に示すように、リレーコイル34aに流れる電流は、電流設定値を下限として周期的に増減を繰り返す。この電流により、オン状態とされたリレー接点35aを、この状態に維持することができる。つまり、リレー接点35aをオンとするために必要な電流値と、オン状態とされたリレー接点35aのオン状態を維持するための電流値は相違するので、時刻t3でリレー接点がオンとされた後は、コイル印加電圧をPWM信号に切り替えることにより、リレー接点35aのオン状態を維持できる程度の電流値まで低減している。
【0028】
そして、時刻t5にて、統合ECU16より、停止を示す駆動指令信号が出力された場合には、PWM信号生成部41はPWM信号の出力を停止する。その結果、リレーコイル34の通電が停止して、リレー接点35aはオフとなる。
【0029】
このようにして、本実施形態に係る電源分配システム100では、統合ECU16より電装負荷18aの駆動指令信号が出力された場合には、初期的にMOSFET(Q1)をDC駆動させてリレーコイル34aを通電してリレー接点35aをオンとし、その後、MOSFET(Q1)をPWM駆動させることにより、リレー接点35aのオン状態を維持する。従って、電磁リレー33での電力消費量を低減することができ、車両の燃費を低減することができる。更に、リレーコイル34aにおける発熱を抑制でき、電源分配モジュール11全体の発熱量を低減できるので、該電源分配モジュール11を小型化することができ、また、車両のエンジンルーム近傍等、周囲温度が高い場所であっても設置することができる。従って、設置場所の制約を緩和でき、ワイヤハーネスの配索レイアウトの柔軟性を向上することができ、ひいては車両内スペースを有効に活用することができる。
【0030】
また、図1に示す複数の電源分配モジュール11(11a〜11d)を、全て同一規格のモジュールに統一すれば、電源分配モジュール11を標準化することができ、モジュールコストを削減することができる。更に、標準化した電源分配モジュール11の使用数を変更することにより、車両のグレートの違いによる負荷の増減に柔軟に対応することができる。
【0031】
更に、各電源分配モジュール11(11a〜11d)は、通信線15を介して統合ECU16と接続されているので、車両内の各位置に分散して配置された各電源分配モジュール11に対して、容易に信号伝送を行うことができる。
【0032】
以上、本発明の車両用電源分配システムを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、車両に搭載される電装負荷を駆動する電源分配モジュールの発熱を低減する上で極めて有用である。
【符号の説明】
【0034】
11(11a〜11d) 電源分配モジュール
12 電源線
13 J/B
14 バッテリ
15 通信線
16 統合ECU(主制御手段)
17 エンジンルーム
18 電装負荷
19 負荷線
20 信号線
21 スイッチ
22 センサ
31 クロック回路
32a〜32c PWMドライバ
33a〜33c 電磁リレー
34a〜34c リレーコイル
35a〜35c リレー接点
36 通信I/F
100 電源分配システム
s1 コイル電流設定信号
s2 駆動指令信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内に設けられるバッテリの出力電力を、電源線を介して車両内の複数箇所に設けられた電源分配モジュールに供給し、且つ、各電源分配モジュールに接続される各負荷への電力の供給、停止を切り替えて前記各負荷の駆動を制御する車両用電源分配システムにおいて、
通信線を介して前記各電源分配モジュールと接続され、各負荷の駆動指令信号を出力する主制御手段を備え、
前記各電源分配モジュールは、前記負荷への電力の供給、停止を切り替える1個以上の電磁リレーと、前記駆動指令信号に基づいて、前記電磁リレーのリレーコイルに印加する電圧をPWM制御するPWM制御手段とを備えたことを特徴とする車両用電源分配システム。
【請求項2】
前記PWM制御手段は、前記駆動指令信号が入力された際に、前記リレーコイルに直流電圧を印加し、その後、所定の電流値以上でPWM制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用電源分配システム。
【請求項3】
前記各電源分配モジュールは、同一個数の前記電磁リレーを備え、且つ、同一個数のPWM制御手段を備えることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の車両用電源分配システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−34550(P2012−34550A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174243(P2010−174243)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】