説明

車両用電装部品の制御装置

【課題】1種類以上の異常検出処理のうちの任意の処理の有効化または無効化を容易に設定することができる車両用電装部品の制御装置を提供する。
【解決手段】ガスセンサ2に接続されるセンサ制御装置1はROM12を有するマイクロコンピュータ10と、ROM12とは独立にEEPROM30を備える。ROM12には、1種類以上の異常判定処理を含む異常診断プログラムが記憶されている。EEPROM30には、異常判定処理の有効・無効を設定するフラグが記憶されている。フラグの状態は外部に接続されるPC3から容易に変更できる。CPU11は、異常判定処理の一連の処理を実行した後に、フラグの参照により、有効の場合に判定結果を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に取り付けられる電装部品の制御を行い、電装部品における異常発生の有無を診断する機能を備えた車両用電装部品の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、例えば、ガスセンサ、グロープラグ、温度センサなど、様々な電装部品が使用されている。これらの電装部品を制御する制御装置には、電装部品における異常発生の有無を診断する機能が搭載されている。
【0003】
異常診断のためのプログラムは、一般に、制御装置に搭載されるマイクロコンピュータ内のROMに、電子部品の制御用プログラムなどとともにインストールされている。また、制御装置が組み付けられる自動車のエンジンやその制御システムには様々な種類があり、エンジンや制御システムの種類によって、電装部品の使用形態(例えば印加電圧など)が異なる場合がある。異常診断プログラムは、エンジンや制御システムの種類にあわせて適切な仕様のものが設計されて、使用される。
【0004】
しかし、エンジンや制御システムの種類が異なるごとに専用の異常診断プログラムを作成するのでは、開発工数が増えて手間が掛かる。そこで、オブジェクト指向設計した異常診断プログラムをインストールした制御装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。すなわち、様々な種類のエンジンや制御システムに対応する最小構成単位のプログラム(異常診断機能)を設計しておき、インストール先のエンジンや制御システムに応じて必要なプログラムを組み合わせて、異常診断プログラムを作成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−97810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、自動車に制御装置が組み込まれた状態で、異常診断機能の作動確認や電装部品の耐久試験を行うことがあり、こうした試験では、特定の異常診断機能を一時的に停止させた状態で行われる場合がある。特許文献1では異常診断プログラムを制御装置のROMにインストールして提供するため、特定の異常診断機能を停止するには、該当する異常診断機能を削除した新たな組み合わせの異常診断プログラムを作成し、インストールし直す必要があった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、1種類以上の異常検出処理のうちの任意の処理の有効化または無効化を容易に設定することができる車両用電装部品の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施態様によれば、1種類以上の異常検出処理を含む複数の処理を実行し、車両に搭載される電装部品の駆動制御を行う車両用電装部品の制御装置であって、前記複数の処理が記憶された第1の記憶部と、前記第1の記憶部とは独立に設けられ、前記複数の処理に含まれる前記異常検出処理のうちの1種類以上について有効か無効かを判定するための判定子が記憶された第2の記憶部と、演算処理を行って前記複数の処理を実行する演算部であって、前記異常検出処理の実行の際に、前記第2の記憶部の前記判定子を参照し、有効と判定した前記異常検出処理の検出結果を取得する演算部と、を備える車両用電装部品の制御装置が提供される。
【0009】
1種類以上の異常検出処理のうち、判定子の参照によって有効と判定された異常検出処理による検出結果を取得することで、車両によって、あるいは状況に応じて適切な検出結果のみを得ることができる。つまり、判定子の参照によって無効と判定された異常検出処理については、演算部において当該異常検出処理が実行されることはない。また、異常検出処理が記憶される第1の記憶部と、判定子が記憶される第2の記憶部とが異なる(独立して設けられる)ため、所望する異常検出処理から検出結果を取得するには第2の記憶部の判定子の状態を変更すれば足りる。したがって、車両によって、あるいは状況に応じて検出結果の取得が望まれる異常検出処理が異なっても、第1の記憶部に記憶される複数の処理そのものを変更する必要がなく、よって第1の記憶部の記憶内容を変更する必要もない。処理の変更については処理を構成する技能が必要とされる場合があるが、判定子の状態を変更するのであれば技能を要せずとも容易に行うことができるので、状況に応じて適切な異常検出処理の検出結果を得ることができる。
【0010】
本発明の実施態様において、前記第1の記憶部は、少なくとも2種類以上の前記異常検出処理を記憶する一方、前記第2の記憶部は、前記異常検出処理の2種類以上のそれぞれについて有効か無効かを判定するための前記判定子を記憶しており、前記演算部は、前記異常検出処理のそれぞれの実行の際に、前記第2の記憶部の前記判定子を参照し、有効と判定した前記異常検出処理の検出結果を取得するとよい。
【0011】
第1の記憶部に2種類以上の異常検出処理を記憶させておき、第1の記憶部とは異なる第2の記憶部にて、それぞれの異常検出処理について有効か無効かを判定するための判定子を記憶させることにより、第1の記憶部の記憶内容を変更することなく、制御装置を使用するユーザーが要望する異常検出処理を実行させられることが可能となり、制御装置としての汎用性を高められる。
【0012】
また、本発明の実施態様において、2種類以上の前記異常検出処理には、少なくとも、前記第1の記憶部に対して、前記複数の処理を含む前記第1の記憶部のすべての記憶内容が正常であるか否かについて検証する第1検証処理と、前記制御装置と前記電装部品との電気的な接続を担う接続線に対して、短絡と断線との少なくとも一方の有無について検証する第2検証処理と、が含まれてもよい。
【0013】
異常検出処理が記憶される第1の記憶部に対して記憶内容を検証することと、接続線に対して短絡と断線との少なくとも一方の有無について検証することで、ソフトウェア面とハードウェア面との両面から、制御装置の動作の検証を行うことが可能な制御装置となるため、制御装置における異常診断処理の内容をユーザーが選択し易くなると共に制御装置自身の汎用性が高くなる。
【0014】
本発明の実施態様において、前記演算部は、一つの前記異常検出処理を実行する際に、その異常検出処理に含まれる一連の処理を実行した後、前記判定子の参照による判定を行って、有効と判定した場合に、前記一連の処理の結果を前記一つの異常検出処理の検出結果として取得してもよい。
【0015】
異常検出処理に含まれる一連の処理を実行した上で検出結果の取得を行うことで、判定子による有効または無効の設定によって異常検出処理による処理時間に大きな差異を生ずることがない。これにより、他の異常検出処理を含めた他の処理が実行されるタイミングや待ち時間に影響を生ずることがないので、一時的に判定子の状態の変更を行った場合に、それにあわせて処理のタイミング調整等をする必要が無く、判定子の設定を安易に行うことができ手間がかからない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】センサ制御装置1の電気的な構成を示すブロック図である。
【図2】EEPROM30の記憶エリアの概略的な構成を示す図である。
【図3】ROM異常判定処理のフローチャートである。
【図4】GND短絡異常判定処理のフローチャートである。
【図5】バッテリ短絡異常判定処理のフローチャートである。
【図6】断線異常判定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した車両用電装部品の制御装置の一実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されているセンサや装置などの構成、各種処理のフローチャート等は、特に特定的な記載がない限り、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0018】
図1に示す、センサ制御装置1は、自動車等の車両に取り付けられる電装部品としてのガスセンサ2の駆動制御を担う装置である。ガスセンサ2の例としては、酸素センサ、全領域空燃比センサ、NOxセンサ等が挙げられる。本実施の形態では、ジルコニア等からなる固体電解質体を一対の電極で挟んで形成される2つのセルを有する検出素子25を備える全領域空燃比センサ(酸素濃度に応じてリニアに変化する信号を出力するセンサ)を、ガスセンサ2の例として説明する。なお、車両用の電装部品としては、ガスセンサ以外にも、尿素水濃度センサ、温度センサなどのセンサ類や、グロープラグ、インジェクタ等を例に挙げることができる。
【0019】
センサ制御装置1は、自動車のECU(電子制御装置)のマイクロコンピュータ6から入力される信号を受けて起動を開始し、ガスセンサ2への駆動制御(通電制御)を実行する。また、ガスセンサ2から得られた出力に基づき酸素濃度を算出して、マイクロコンピュータ6に出力する。
【0020】
センサ制御装置1は、マイクロコンピュータ10、EEPROM30、通信回路部20、異常検出回路部40、制御回路部50等を備える。マイクロコンピュータ10は、公知のCPU11、ROM12、RAM13を備える。CPU11は、ガスセンサ2の駆動を制御するため、後述する異常診断プログラムを含む、各種プログラムを実行する。ROM12には、これらの各種プログラムや初期値等が記憶されている。RAM13には、プログラムの実行に使用される各種変数やフラグ、カウンタ等が一時的に記憶される。また、上記のEEPROM30、通信回路部20、異常検出回路部40、制御回路部50は、それぞれマイクロコンピュータ10に接続されている。
【0021】
EEPROM30は公知の構成からなる書き換え可能な記憶装置である。図2に示すように、EEPROM30には、故障診断設定データ記憶エリア31が設けられている。故障診断設定データ記憶エリア31には、後述する異常診断プログラムにおいて参照される各種フラグが記憶されている。具体的に、故障診断設定データ記憶エリア31には、ROM異常フラグ、GND(グランド)短絡異常フラグ、バッテリ短絡異常フラグ、断線異常フラグ等が記憶されている。さらにEEPROM30には、図示外の各種の記憶エリアが設けられている。
【0022】
通信回路部20は、外部(ECU)のマイクロコンピュータ6に接続され、マイクロコンピュータ6との間で信号の入出力を行うための回路部である。また、通信回路部20は、ECU5の外部から接続されるPC(パーソナルコンピュータ)3との間で、CAN(Controller Area Network)によるシリアル通信を制御する。マイクロコンピュータ10は、通信回路部20を介してPC3と通信することができ、詳細は後述するが、PC3からの指示に基づき、EEPROM30の記憶内容の書き換えが行われる。
【0023】
制御回路部50は、ガスセンサ2の駆動制御を行うための回路部である。制御回路部50は、ガスセンサ2の検出素子25にポート21および配線22を介して接続され、検出素子25に駆動電流を流す。検出素子25は周囲の酸素濃度に応じてセルを流れる電流の大きさが変化し、制御回路部50は、セルに流れる電流を検出抵抗(図示外)で電圧値に変換する。そして、その電圧値はマイクロコンピュータ10に入力され、マイクロコンピュータ10にて、予め設定されたマップあるいは計算式を用いて酸素濃度値が算出され、算出された酸素濃度値がECUのマイクロコンピュータ6に出力される。なお、図1では、理解を容易にするために検出素子25に接続されるポート21および配線22を1つのみ記載しているが、実際には、複数のポートおよび配線を介してガスセンサ2は、制御回路部50および後述する異常検出回路部40に接続されている。
【0024】
異常検出回路部40は、ガスセンサ2の検出素子25への通電経路上の短絡や断線等の異常を検出する回路である。異常検出回路部40は、センサ制御装置1とガスセンサ2とを接続する配線22が接続されるポート21に接続されている。また、制御回路部50でガスセンサ2への駆動電流を流す回路(図示外)にも接続されている。検出素子25への通電経路上においてバッテリ(図示外)やグランドへの短絡、断線または導通不良などの異常が生ずると、検出素子25や制御回路部50において電圧値に異常が生ずる。例えば、ガスセンサ2の端子(図示外)間で短絡が生じ、検出素子25への通電経路上でバッテリとの短絡が生ずれば、バッテリ電圧がかかるポート21の電位が上昇する。同様に、検出素子25への通電経路上においてグランドへの短絡が生ずれば、ポート21の電位はグランド電位に下降する。異常検出回路部40は、ポート21(実際には複数のポートそれぞれ)の電位(電圧値)を検出して、マイクロコンピュータ10のCPU11に出力する。また、異常検出回路部40は、制御回路部50内で、検出素子25への通電経路上において断線または導通不良(断線等)が生じたか否かを検出するための断線検出回路(図示外)を含む。異常検出回路部40は、検出素子25への通電経路上における断線等を検出したら、CPU11に断線検出信号を出力する。
【0025】
本実施の形態のセンサ制御装置1では、上記したように、外部からCANによる通信を介して接続されるPC3をオペレータが操作することによって、EEPROM30の記憶内容を書き換えることができる。具体的には、EEPROM30の故障診断設定データ記憶エリア31に記憶された各種フラグのそれぞれのON・OFFの状態が、PC3の操作によって変更される。故障診断設定データ記憶エリア31の各フラグは、異常診断プログラムに含まれる、個々の異常判定処理の実行に際して参照される。以下、異常診断プログラムについて、説明する。
【0026】
異常診断プログラムは、上記したように、センサ制御装置1のマイクロコンピュータ10のROM12に記憶されており、ガスセンサ2の駆動を制御するための各種プログラムのうちの一つとして実行される。異常診断プログラムは、センサ制御装置1によってガスセンサ2の駆動を制御する上で起こりうる異常状態を診断する各種の異常判定処理を含む。本実施の形態では、異常診断プログラムに含まれる様々な異常判定処理のうち、図3〜図6に示す、4種類の異常判定処理を例に、異常診断プログラムの動作について説明する。
【0027】
なお、各異常判定処理は、図示しない、異常診断プログラムのメイン処理からコールされて実行される。メイン処理は、センサ制御装置1の駆動中は繰返し実行され、各異常判定処理が繰返しコールされる。また、異常診断プログラムの各処理は、マイクロコンピュータ10のCPU11によりに実行される。以下、異常診断プログラムにおける各異常判定処理のフローチャートの各ステップを「S」と略記する。
【0028】
まず、図3に示す、ROM異常判定処理について説明する。ROM異常判定処理は、マイクロコンピュータ10のROM12の記憶内容が正常であるか否かを、CRC(巡回冗長検査)値の確認(CRC方式)により判定する処理である。あらかじめ、ROM12に各種プログラム等が正しく記憶された後に算出されるCRC値が、CRC期待値として求められ、CRC値の検証の際に参照される。なお、CRC期待値は、ROM12のCRCの対象外となる記憶エリアに記憶されてもよいし、あるいはCRC期待値がROM12に記憶されることによって変動するCRC値をあらかじめ加味したCRC期待値が求められ、ROM12に記憶されてもよい。
【0029】
メイン処理(図示外)からROM異常判定処理がコールされると、まず、ROM12のCRC値の計算が完了しているかについて、確認が行われる(S11)。CRC値の計算がまだ開始されていない場合、あるいは計算途中である場合には(S11:NO)、CRC計算処理が行われ(S12)、CRC値の計算の開始または継続がなされ、メイン処理に戻る。
【0030】
ROM異常判定処理がメイン処理から繰返しコールされるうちに、ROM12のCRC値の計算が完了した場合には(S11:YES)、EEPROM30の故障診断設定データ記憶エリア31に記憶された、ROM異常フラグが参照される。ROM異常フラグの状態が無効に設定されている場合(フラグがOFFの場合)には(S13:NO)、算出されたCRC値が如何なる値であっても、ROM12の記憶内容が正常であるか否かについての判定は行われない。この場合、他の処理にROM異常判定処理の判定結果が影響しないように、ROM12が正常であるとみなされて(S15)、メイン処理に戻る。
【0031】
一方、ROM異常フラグの状態が有効に設定されている場合(フラグがONの場合)には(S13:YES)、CRC値がCRC期待値と同じであるか否かが確認される(S14)。CRC値がCRC期待値と同値であれば(S14:YES)、ROM12の記憶内容は正常であると判定され(S15)、メイン処理に戻る。しかし、CRC値がCRC期待値と異なれば(S14:NO)、ROM12の記憶内容に異常が生じたと判定され(S16)、メイン処理に戻る。S15またはS16においてなされたROM異常の判定結果はRAM13の所定の記憶エリアに記憶され、CPU11の実行する他のプログラムにおいて参照される。
【0032】
次に、図4に示す、GND短絡異常判定処理について説明する。GND短絡異常判定処理は、ガスセンサ2の検出素子25への通電経路上においてグランドへの短絡が生じているか否かを判定する処理である。メイン処理からGND短絡異常判定処理がコールされると、異常検出回路部40によって検出されるポート21の電位(電圧値)が確認される(S21)。検出された電圧値が1.2V以上であれば(S21:NO)、検出素子25への通電経路上においてグランドへの短絡は生じていないと判定される。よって、異常検出継続時間としてカウントされるタイマがリセットされ(S22)、メイン処理に戻る。
【0033】
一方、検出されたポート21の電圧値が1.2V未満の場合(S21:YES)、検出素子25への通電経路上においてグランドへの短絡が生じていると判定される。異常検出継続時間をカウントするタイマに所定のカウント値が加算され(S23)、異常検出継続時間が1sec.未満の場合は(S24:NO)、メイン処理に戻る。メイン処理から繰返しGND短絡異常判定処理がコールされるたびに、S21で判定されるポート21の電圧値が、1.2V未満の状態に維持されれば、異常検出継続時間のタイマによるカウントは継続される。
【0034】
そして、ポート21の電圧値が1.2V未満の状態で1sec.以上が経過すれば(S24:YES)、EEPROM30の故障診断設定データ記憶エリア31に記憶された、GND短絡異常フラグが参照される。GND短絡異常フラグの状態が無効に設定されている場合(フラグがOFFの場合)には(S25:NO)、検出素子25への通電経路上においてグランドへの短絡は生じていないものとみなされ、そのままメイン処理に戻る。
【0035】
しかし、GND短絡異常フラグの状態が有効に設定されている場合(フラグがONの場合)には(S25:YES)、検出素子25への通電経路上においてグランドへの短絡が生じたと判定され(S26)、メイン処理に戻る。S26においてなされたGND短絡異常の判定結果はRAM13の所定の記憶エリアに記憶され、CPU11の実行する他のプログラムにおいて参照される。
【0036】
次に、図5に示す、バッテリ短絡異常判定処理について説明する。バッテリ短絡異常判定処理は、ガスセンサ2の検出素子25への通電経路上においてバッテリとの短絡が生じているか否かを判定する処理である。なお、バッテリ短絡異常判定処理の動作の詳細についてはGND短絡異常判定処理と同様であるので、ここでは、同一の処理についての説明は簡略化する。
【0037】
バッテリ短絡異常判定処理がコールされると、異常検出回路部40によって検出されるポート21の電圧値が確認される(S31)。検出された電圧値が「バッテリ電圧−1.2V」以下であれば(S31:NO)、検出素子25への通電経路上においてバッテリとの短絡は生じていないと判定され、異常検出継続時間(タイマ)がリセットされて(S32)、メイン処理に戻る。検出された電圧値が「バッテリ電圧−1.2V」より大きい場合(S31:YES)、バッテリとの短絡が生じていると判定され、異常検出継続時間が1sec.経過するまでタイマのカウントが継続される(S33、S34:NO)。
【0038】
そして、検出された電圧値が「バッテリ電圧−1.2V」より大きい状態で1sec.以上が経過すれば(S34:YES)、故障診断設定データ記憶エリア31のバッテリ短絡異常フラグが参照される。バッテリ短絡異常フラグの状態が無効に設定されている場合(フラグがOFFの場合)には(S35:NO)、バッテリとの短絡は生じていないものとみなされて、メイン処理に戻る。しかし、バッテリ短絡異常フラグの状態が有効に設定されている場合(フラグがONの場合)には(S35:YES)、検出素子25への通電経路上においてバッテリとの短絡が生じたと判定され(S36)、メイン処理に戻る。S36においてなされたバッテリ短絡異常の判定結果はRAM13の所定の記憶エリアに記憶され、CPU11の実行する他のプログラムにおいて参照される。
【0039】
次に、図6に示す、断線異常判定処理について説明する。断線異常判定処理は、ガスセンサ2の検出素子25への通電経路上において断線または導通不良が生じているか否かを判定する処理である。メイン処理から断線異常判定処理がコールされると、まず、断線検知処理が行われる(S41)。異常検出回路部40の断線検出回路(図示外)に駆動電流が流され、検出素子25への通電経路上における断線等の検出が行われる。断線検出回路から断線検出信号が出力されず、断線等が検出されなければ(S43:NO)、異常検出継続時間(タイマ)がリセットされ(S42)、メイン処理に戻る。
【0040】
一方、異常検出回路部40の断線検出回路から断線検出信号が出力された場合には(S43:YES)、異常検出継続時間(タイマ)に所定のカウント値が加算され(S44)、異常検出継続時間が1sec.未満の場合は(S45:NO)、メイン処理に戻る。断線検出信号の出力が継続された状態であれば(S41,S43:YES)、異常検出継続時間が1sec.経過するまでタイマのカウントが継続される(S44、S45:NO)。
そして、断線検出信号の出力が継続された状態のまま1sec.以上が経過すれば(S45:YES)、EEPROM30の故障診断設定データ記憶エリア31に記憶された、断線異常フラグが参照される。断線異常フラグの状態が無効に設定されている場合(フラグがOFFの場合)には(S46:NO)、検出素子25への通電経路上において断線等は生じていないものとみなされ、そのままメイン処理に戻る。
【0041】
しかし、断線異常フラグの状態が有効に設定されている場合(フラグがONの場合)には(S46:YES)、検出素子25への通電経路上において断線等が生じたと判定され(S47)、メイン処理に戻る。S47においてなされた断線異常の判定結果はRAM13の所定の記憶エリアに記憶され、CPU11の実行する他のプログラムにおいて参照される。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態のセンサ制御装置1によれば、異常診断プログラムに含まれる1種類以上の異常判定処理(異常検出処理)のうち、フラグの参照によって有効と判定された異常判定処理による判定結果(検出結果)を取得することで、車両によって、あるいは状況に応じて適切な判定結果のみを得ることができる。つまり、判定子の参照によって無効と判定された異常検出処理については、CPU11においてその異常検出処理が実行されることはない。また、異常判定処理が記憶されるROM12と、フラグが記憶されるEEPROM30とが異なる(独立して設けられる)ため、所望する異常判定処理から判定結果を取得するにはEEPROM30のフラグの状態を変更すれば足りる。したがって、車両によって、あるいは状況に応じて判定結果の取得が望まれる異常判定処理が異なっても、ROM12に記憶される異常診断プログラム自体を作り直す必要がなく、よってROM12の記憶内容を書き換える必要もない。異常診断プログラムを作り直すにはプログラミング技術が必要とされる場合があるが、フラグの状態を変更するのであればプログラミング技術を要せずとも容易に行うことができるので、状況に応じて適切な異常判定処理の判定結果を得ることができる。さらに2種類以上の異常判定処理を対象とすれば、制御装置を使用するユーザーが要望する異常検出処理を実行させられることが可能となり、制御装置としての汎用性を高められる。
【0043】
また、ROM12に記憶させる異常判定処理として、ROM12に対して記憶内容を検証することと、ガスセンサ2への通電経路に対して短絡と断線との少なくとも一方の有無について検証することの少なくとも2種類を記憶させることで、ソフトウェア面とハードウェア面との両面から、センサ制御装置1の動作の検証を行うことが可能なセンサ制御装置1となるため、センサ制御装置1における異常診断処理の内容をユーザーが選択し易くなると共にセンサ制御装置1自身の汎用性が高いものとなる。
【0044】
異常判定処理に含まれる一連の処理を実行した上で判定結果の取得を行うことで、フラグによる有効または無効の設定によって異常判定処理による処理時間に大きな差異を生ずることがない。これにより、他の異常判定処理を含めた他の処理が実行されるタイミングや待ち時間に影響を生ずることがないので、一時的にフラグの状態の変更を行った場合に、それにあわせて処理のタイミング調整等をする必要が無く、フラグの設定を安易に行うことができ手間がかからない。
【0045】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、各種の変形が可能である。例えば、異常検出回路部40は、ポート21の電位(電圧値)を検出したが、電圧値の比較回路を含み、ポート21の電圧値が正常な範囲を逸脱した場合に、CPU11に異常を報知する信号を出力してもよい。
【0046】
EEPROM30の記憶内容の書き換えを行う装置としてPC3は一例に過ぎず、CPUを備える装置のみならず、アナログ電気回路やスイッチ等により、フラグ設定ができるようにしてもよい。また、CANによる通信は一例であり、任意のプロトコルによる通信によって、EEPROM30の記憶内容の書き換えが行われてもよい。EEPROM30は一例であり、フラッシュメモリ等、書き換え可能な不揮発性メモリであればよい。あるいは、メモリ装置の代わりに、アナログスイッチ等の組み合わせにより、同等の機能を実現してもよい。
【0047】
異常判定処理において参照される各フラグの設定は、本実施の形態では、個々のフラグに対しON・OFFの設定を行うこととしたが、例えば、フラグ設定のプリセットパターンを何種類か提供し、任意のパターンの選択によるフラグ設定が行われるようにしてもよい。本実施の形態の場合、各フラグのON・OFFをビット単位で指定することになるが、例えば、パターン選択による場合は、所望するフラグパターンが記憶されたアドレスを指定する記憶エリアの書き換えを行うだけで、フラグ設定を行うことができる。
【0048】
ROM異常判定処理では、CRC方式によるROM12の記憶内容の検証が行われたが、検証方法はCRC方式に限られず、パリティチェック方式やチェックサム方式など、公知の他の方式によるものであってもよい。
【0049】
なお、本実施の形態においては、ROM12が「第1の記憶部」に相当し、EEPROM30が「第2の記憶部」に相当する。ガスセンサ2が「電装部品」に相当し、センサ制御装置1が「制御装置」に相当する。CPU11が「演算部」に相当する。さらに、EEPROM30のフラグが「判定子」に相当する。また、S14でROM12のCRC値がCRC期待値と同値であるかを検証するCPU11の処理が、「第1検証処理」に相当する。S24、S34またはS45で、異常検出継続時間の1sec.以上の経過によって、短絡または断線等の異常の発生の有無を検証するCPU11の処理が、「第2検証処理」に相当する。
【符号の説明】
【0050】
1 センサ制御装置
2 ガスセンサ
10 マイクロコンピュータ
11 CPU
12 ROM
30 EEPROM
31 故障診断設定データ記憶エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の異常検出処理を含む複数の処理を実行し、車両に搭載される電装部品の駆動制御を行う車両用電装部品の制御装置であって、
前記複数の処理が記憶された第1の記憶部と、
前記第1の記憶部とは独立に設けられ、前記複数の処理に含まれる前記異常検出処理のうちの1種類以上について有効か無効かを判定するための判定子が記憶された第2の記憶部と、
演算処理を行って前記複数の処理を実行する演算部であって、前記異常検出処理の実行の際に、前記第2の記憶部の前記判定子を参照し、有効と判定した前記異常検出処理の検出結果を取得する演算部と、
を備えることを特徴とする車両用電装部品の制御装置。
【請求項2】
前記第1の記憶部は、少なくとも2種類以上の前記異常検出処理を記憶する一方、前記第2の記憶部は、前記異常検出処理の2種類以上のそれぞれについて有効か無効かを判定するための前記判定子を記憶しており、前記演算部は、前記異常検出処理のそれぞれの実行の際に、前記第2の記憶部の前記判定子を参照し、有効と判定した前記異常検出処理の検出結果を取得することを特徴とする請求項1に記載の車両用電装部品の制御装置。
【請求項3】
2種類以上の前記異常検出処理には、少なくとも、
前記第1の記憶部に対して、前記複数の処理を含む前記第1の記憶部のすべての記憶内容が正常であるか否かについて検証する第1検証処理と、
前記制御装置と前記電装部品との電気的な接続を担う接続線に対して、短絡と断線との少なくとも一方の有無について検証する第2検証処理と、
が含まれることを特徴とする請求項2に記載の車両用電装部品の制御装置。
【請求項4】
前記演算部は、一つの前記異常検出処理を実行する際に、その異常検出処理に含まれる一連の処理を実行した後、前記判定子の参照による判定を行って、有効と判定した場合に、前記一連の処理の結果を前記一つの異常検出処理の検出結果として取得することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用電装部品の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−68198(P2012−68198A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215145(P2010−215145)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】