説明

車両配置方法および車両配置プログラム

【課題】 所定の区域内に配備された複数の車両について、規定された時間内にいずれかの車両が到達できる範囲を最適化することができる車両配置方法を提供する。
【解決手段】 順列または組合せに基づいて逐次的に発生される割り当てパターンに応じてそれぞれの車両に割り当てられた待機候補場所から各車両が所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を定める工程と、それぞれの車両について定められた到達範囲を合わせて所定数の車両全体で到達できる全体到達範囲を定める工程と、全体到達範囲に係る評価値の数量的最適化を実現する割り当てパターンを特定して当該割り当てパターンに従ってそれぞれの車両に待機場所を割り当てる工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地図上に設定された所定の数の待機候補場所のなかから、所定の数の車両についてそれぞれ待機場所を割り当てる車両配置方法および車両配置プログラムに係り、特に所定の区域内で使用される複数の緊急車両について、規定された時間内に全体として到達できる範囲の面積を最大化するように車両毎に待機場所を割り当てる車両配置方法および車両配置プログラムに関する。ここで、車両とは、消防車、救急車、警察車両、ガス・水道・電気等に係る修理車、血液輸送車その他の道路交通法における車両の定義に当てはまる車両を広く表す用語として用いるものとする。
【背景技術】
【0002】
従来において、所定の区域内で事故、火災、犯罪、停電、ガス漏れ等の緊急性のある事象(以下、緊急事象と称する)が発生した場合に、それら緊急事象に対応するように当該区域内に配備されている複数の車両のなかから、緊急事象が発生した現場に最も速く到達することができる車両を選定するシステムが開発されている。
【0003】
このようなシステムは、地図情報データベースを有していて、緊急事象の発生した住所等の情報から、その発生現場を地図上において特定する。また、GPSまたはPHS等を用いて各車両の位置を測定し、地図上において当該車両の位置を特定する。次に、道路情報に基づいて発生現場と各車両の現在位置との間の所要距離を算出し、さらには道路交通情報に基づいて当該距離を移動するのに要する旅行時間を算出する。
【0004】
算出結果を参照し、例えば、発生現場までの距離が最も短い車両、あるいは発生現場に到達するまでに要すると予測される旅行時間が最も短い車両を選定し、発生現場に急行するように指示を出す。また、車両毎に「待機中」、「移動中」または「処理中」等で表される現在状況を識別できるように構成することで、「待機中」の車両から優先的に発生現場に急行するように指示を出す。また、各車両が有している機能または車両に乗車しているスタッフの技能をランク付けして、所定の要件を満たす車両あるいはランクの高い車両から優先的に発生現場に急行するように指示を出す。
【0005】
上記システムについては、現実の事象に対応することを目的としてリアルタイムに応答するように構築されているばかりでなく、緊急事象を擬似的に発生させることで、緊急車両の運用シミュレーションを実行することが可能である。このような緊急車両の運用シミュレーションシステムについては、例えば特開2002−117477号公報に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−117477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
日本では、例えば市区町村等の行政区域毎に、当該区域を管轄する緊急車両を管理運営している。各区域においては、限られた数の緊急車両により、管轄区域内の任意の場所で発生する緊急事象に対して効率的に対処することが望まれている。然るに、上記のような緊急車両の運用シミュレーションシステムでは、管轄区域内の任意の発生現場に緊急車両が到達するまでに要する時間を算出できるのみで、いずれかの車両が規定された時間内に到達できる全体的な到達範囲を特定することができず、複数の車両がどの程度効率的に配置されているかを評価することができないという課題があった。
【0008】
本願発明は上記課題を解決するためになされたものであり、所定の区域内に配備された複数の車両について、規定された時間内にいずれかの車両が到達できる全体的な到達範囲を最適化することができる車両配置方法および車両配置プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の技術的課題を解決するために、本願発明に係る車両配置方法または車両配置プログラムは、順列または組合せに基づいて逐次的に発生される割り当てパターンに応じてそれぞれの車両に割り当てられた待機候補場所から各車両が所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を定める工程と、各車両に定められた到達範囲を合わせて所定数の車両全体で到達できる全体到達範囲を定める工程と、全体到達範囲に係る評価値の数量的最適化を実現する割り当てパターンを特定して当該割り当てパターンに従ってそれぞれの車両に待機場所を割り当てる工程とを有するようにしたものである。
【0010】
また、本願発明に係る車両配置方法または車両配置プログラムは、全体到達範囲に係る評価値として全体到達範囲の面積または全体到達範囲内の人口が与えられ、これら面積または人口を最大化する割り当てパターンに従って、それぞれの車両に待機場所を割り当てるようにしたものである。
【0011】
また、本願発明に係る車両配置方法または車両配置プログラムは、それぞれの車両に待機候補場所を割り当てる工程において、ある車両に割り当てられた待機候補場所が別の車両の到達範囲に含まれる場合には、当該割り当てパターンに係る演算を中止して、次の割り当てパターンに係る演算に移行するようにしたものである。
【0012】
また、本願発明に係る車両配置方法または車両配置プログラムは、車両毎に道路走行に係る属性データが設定され、それぞれの車両の到達範囲を定める工程において、車両毎に当該属性データに基づいて演算を実行して到達範囲を定めるようにしたものである。
【0013】
また、本願発明に係る車両配置方法または車両配置プログラムは、地図上に待機候補場所を設定する工程において、月日、曜日または時刻に応じて、設定される待機候補場所を変更するようにしたものである。
【0014】
また、本願発明に係る車両配置方法または車両配置プログラムは、1または複数の待機候補場所を特定する複数のデータを格納したデータベースから、所望のデータを選択することで、地図上に待機候補場所を設定するようにしたものである。
【0015】
また、本願発明に係る車両配置方法または車両配置プログラムは、地図上で区画された所定の区域からはみ出した領域を除外して、全体到達範囲の面積または全体到達範囲内の人口の演算を実行するようにしたものである。
【0016】
また、本願発明に係る車両配置方法または車両配置プログラムは、旅行時間を設定する工程と、順列または組合せに基づいて逐次的に発生される割り当てパターンに応じてそれぞれの車両に割り当てられた待機候補場所から各車両が所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を定める工程と、各車両に定められた到達範囲を合わせて所定数の車両全体で到達できる全体到達範囲を定める工程と、全体到達範囲の面積の最大化を実現する割り当てパターンを特定する工程と、全体到達範囲の面積が所定の閾値未満であれば旅行時間を増分する工程と、全体到達範囲の面積が所定の閾値以上であれば特定された割り当てパターンに従ってそれぞれの車両に待機場所を割り当てる工程とを有するようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、所定数の待機候補場所のなかから所定数の車両それぞれの待機場所を決定するに際して、順列または組合せに基づいて各車両に待機候補場所をそれぞれ割り当てる割り当てパターンを逐次的に発生させ、割り当てパターン毎に所定数の車両全体で到達できる全体到達範囲を定め、評価値に基づいて各割り当てパターンの全体到達範囲を評価するように構成したので、評価値を最大化する割り当てパターンを特定して、所定の区域内に配備された複数の車両について、全体到達領域を最適化できる車両の配置態様を求めることができるという効果を奏する。
【0018】
本願発明によれば、逐次的に発生されるそれぞれの割り当てパターンを評価する基準となる評価値として、全体到達範囲の面積または全体到達範囲内の人口を用いるように構成したので、全体到達範囲の面積を最大化できる車両の配置態様、あるいは全体到達範囲内の人口を最大化できる車両の配置態様を求めることができるという効果を奏する。
【0019】
本願発明によれば、ある車両に割り当てられた待機候補場所が別の車両の到達範囲に含まれる場合には、当該割り当てパターンに係る演算を中止するように構成したので、不要な演算処理を省略して最適解を得るまでの時間を短縮することができるという効果を奏する。
【0020】
本願発明によれば、車両毎に道路走行に係る属性データが設定され当該属性データに基づいて到達範囲に係る演算を実行するように構成したので、例えば車両毎に平均走行速度、走行可能ルート、制限速度等が異なっていたとしても、これらの属性データに基づいて所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を定めることが可能であり、各車両の特性に応じた到達範囲をそれぞれ求められ、全体到達範囲に係る算出精度が高くなり最適配置システムに対する信頼性を向上することができるという効果を奏する。
【0021】
本願発明によれば、月日、曜日または時刻に応じて車両を待機させることが可能な待機候補場所の数や位置を変更するように構成したので、例えば賃貸契約のパーキングスペースが所定の時間帯では開放されているが夜間は閉鎖されている場合等のように待機候補場所の利用事情に応じて、それぞれの時間帯毎に最適な車両配置を実現することができるという効果を奏する。
【0022】
本願発明によれば、1または複数の待機候補場所を特定する複数のデータを格納したデータベースから所望のデータを選択することで地図上に待機候補場所を設定するように構成したので、種々の観点から予め複数組の待機候補場所の組合せをデータベースに登録しておけば、所望の配置態様に合致する待機候補場所の組合せを選択するのみで、地図上において待機候補場所を簡単に設定することが可能となり、ユーザの利便性を向上することができるという効果を奏する。
【0023】
本願発明によれば、地図上で区画された所定の区域からはみ出した領域を除外して、全体到達範囲の面積または全体到達範囲内の人口の演算を実行するように構成したので、管轄する行政区域等の区域を地図上で特定することにより、当該区域のみを対象とした最適な車両配置を実現することができるという効果を奏する。
【0024】
本願発明によれば、全体到達範囲の面積が所定の閾値未満であれば旅行時間を増分して全体到達範囲を再度計算する構成としたので、対象区域の面積に対して車両数が少ない場合でも、車両の配置が最適であることを担保できるように充分に大きな全体到達範囲を得られるから、対象区域内のより広い範囲を考慮しての最適な車両配置を実現することができるという効果を奏する。また、旅行時間毎に全体到達範囲を把握することが可能となるから、対象区域内のそれぞれの領域について、いずれかの車両が到達する旅行時間を概ね特定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本願発明による車両配置方法および車両配置プログラムの好適な実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
図1および図2は、この発明の第1の実施例の車両配置方法を示すフローチャートである。第一に、演算対象となる区域を地図上で特定する(ステップS1)。図3は、本願発明で使用される地図データの例を示す図である。図において、太線で囲まれた区域Rが車両配置の最適化を行う対象区域となる。この区域の設定については、例えば市区町村等の地区名を入力することで、自動的に設定されるように構成してもよく、またマウス等のポインティングデバイスを用いてユーザが任意に設定するように構成してもよい。
【0027】
処理対象の区域が特定されれば、当該区域内の各道路について、道路に沿った全区間に係る道路交通情報を設定する(ステップS2)。道路は交差点や建造物等の基準地点により区画され、基準地点と基準地点との間の区間毎に制限速度、渋滞状況、事故や工事等に起因する交通規制状況等に係る道路交通情報を設定する。このような道路交通情報については、道路交通情報データベースから区間毎に逐次データを読み出すことで設定するのが好ましい。また、道路交通情報通信システムに接続することで、渋滞状況等の情報についてはリアルタイムに変更する構成としてもよい。さらに、地図上でユーザが任意の区間を指定して、当該区間に係る属性情報を入力できる構成としてもよい。図4は、道路交通情報表示画面の例を示す図である。図において、各区間に付記された数字は、車両の平均走行速度を示している。太線で示された区間は、ポインティングデバイス等を用いてユーザにより指定された区間であり、新たに属性情報を変更することが可能である。
【0028】
道路交通情報が設定されれば、対象区域に配備される車両に関する情報を入力する(ステップS3)。第一に車両の台数を入力し、台数が特定されれば車両毎に、最高速度、走行可能区間(ルート)、区間毎の制限速度等の道路走行に係る属性情報を入力する。なお、この属性情報の入力については、車両毎に個別に入力する構成としてもよく、また全車両共通に同一の属性情報を与える構成としてもよい。さらに、車両を幾つかにグループに分けて、グループ毎に属性情報を入力する構成としてもよい。
【0029】
車両情報が入力されれば、設定された車両を待機させる場所の候補となる待機候補場所を地図上において設定する(ステップS4)。図3において、四角いマークで示されるC1〜C12の地点は、設定された待機候補場所を示すものである。待機候補場所の設定については、マウス等のポインティングデバイスを用いて、ユーザが任意に設定できる構成とする。また、配置対象となる車両の車種、用途等に応じて待機候補場所をリストアップしてグループ化するとともに、予め複数組の待機候補場所のデータをデータベースに登録しておいて、データベースから所望のデータを読み出すことで待機候補場所を設定する構成としてもよい。また、データベースからデータを読み出すことで設定された待機候補場所に対して、ユーザがポインティングデバイスを用いて待機候補場所を追加できるように構成してもよい。なお、待機候補場所としては、車両の通常配備場所に加えて、公共機関が管理している施設、パーキングスペース、バス車庫等があげられ、施設によっては利用できる期間または時間帯が制限されていることがある。そこで、待機候補場所の設定については、月日、曜日または時刻に応じて変更するようにしてもよい。データベースに登録する際にも、月日、曜日または時刻毎にデータを類別して、時間情報をインデクスとして最適なデータを読み出せる構成とするのが好ましい。
【0030】
待機候補場所が設定されて、待機候補場所の総数Mおよび車両の総数Nが確定すれば、それぞれの車両に対して待機候補場所を割り当てる割り当てパターンの総数を算出する(ステップS5)。車両毎に属性データが異なり、所定の旅行時間内に到達できる到達範囲が異なるような場合には、各車両に対して待機候補場所を順列として逐次的に割り当てる。この場合割り当てパターンの総数は、M!/(M−N)!となる。例えば、図3のように待機候補場所数が12で、車両数が4である場合には、順列によるパターン総数は、12!/8!=11880となる。また、例えば車両がすべて同じ車種で、所定の旅行時間内に到達できる到達範囲がどの車両でも同じであるような場合には、各車両に対して待機候補場所を組合せとして逐次的に割り当てる。この場合、割り当てパターンの総数は、M!/{(M−N)!*N!}となる。例えば待機候補場所数が12で車両数が4である場合には、組合せによるパターン総数は、12!/(8!*4!)=495となる。
【0031】
パターン総数が算出されれば、パターン番号の初期値として0を設定し、全体到達範囲に係る評価値の最大値として0を設定する(ステップS6)。全体到達範囲に係る評価値としては、全体到達範囲の面積、全体到達範囲内の人口等が考えられる。この実施の形態では、全体到達範囲に係る評価値として、全体到達範囲の面積を用いるものとする。
【0032】
パターン番号および面積最大値(評価最大値)の初期値が設定されれば、パターン番号を1増分する(ステップS7)。新たなパターン番号が設定されれば、当該パターン番号に応じて、各車両に対して割り当てられる待機候補場所を特定する(ステップS8)。例えば、図3のように待機候補場所数が12で、車両数が4である場合には、パターン番号1では、第1,第2,第3および第4の車両に対して、待機候補場所C1,C2,C3およびC4がそれぞれ割り当てられる。以下では、各車両に対する待機候補場所の割り当てパターンを(C1,C2,C3,C4)のように表すものとする。
【0033】
各車両に対して待機候補場所が割り当てられれば、車両毎に、車両の属性データおよび道路交通情報等を基にして、所定の旅行時間で待機候補場所から到達できる到達範囲を求める(ステップS9)。この到達範囲は、例えば、車両に対して割り当てられた待機候補場所から延びる道路に沿って車両が走行できるあらゆるルートを検索し、所定の旅行時間内に到達できる道路上の全ての地点を内包する閉ループとして与えられる。図3において、A2は待機候補場所C2から所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を示し、A5は待機候補場所C5から所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を示している。図に示されるように、到達範囲は単純な円形となるものではなく、敷設された道路の態様や交通状況に応じて複雑な形態をとる。なお、到達範囲を求める際の基準となる旅行時間については、消防車、救急車、警察車両、ガス・水道・電気等に係る修理車、血液輸送車その他の車両のそれぞれの用途に基づいて適宜設定される。
【0034】
車両毎の到達範囲が求められれば、対象区域内に配備された複数の車両全体で、所定の旅行時間内に到達できる全体到達範囲を求める(ステップS10)。図5は、全体到達範囲を説明する図である。図5において、Rは対象区域を示し、C1〜C38は待機候補場所を示している。この例では、車両数を4とし、待機候補場所の割り当てパターンを(C12,C10,C32,C29)とする。A1は、待機候補場所C12に割り当てられた第1の車両の到達範囲を示す。A2は、待機候補場所C10に割り当てられた第2の車両の到達範囲を示す。A3は、待機候補場所C32に割り当てられた第3の車両の到達範囲を示す。A4は、待機候補場所C29に割り当てられた第4の車両の到達範囲を示す。異なる到達範囲間の重なりの部分を含めて、各到達範囲A1,A2,A3およびA4を合わせた全体的な範囲を全体到達範囲として求める。なお、図5では、便宜上、到達範囲を円形で表しているが、実際には図3に示されたように複雑な形態をとる。
【0035】
全体到達範囲が定まれば、全体到達範囲の面積を求める(ステップS11)。到達範囲A1と到達範囲A2との重なりの領域をP12とし、到達範囲A1と到達範囲A3との重なりの領域をP13とし、到達範囲A3と到達範囲A4との重なりの領域をP34とする。また、到達範囲A1において対象区域Rからはみ出した領域をS1とし、到達範囲A2において対象区域Rからはみ出した領域をS2とし、到達範囲A4において対象区域Rからはみ出した領域をS4とする。全体到達範囲の面積は、到達範囲A1の面積と到達範囲A2の面積と到達範囲A3の面積と到達範囲A4の面積との和から、領域P12の面積と領域P13の面積と領域P34の面積と領域S1の面積と領域S2の面積と領域S4の面積との和を引くことにより求められる。
【0036】
ここでは、評価値が面積の場合について説明しているが、例えば評価値が全体到達範囲内の人口である場合にも、同様に、到達範囲内の人口の合計から重なり領域の人口の合計とはみ出し領域の人口の合計とを引くことで、全体到達範囲内の人口を求めることができる。なお、全体到達範囲内の人口を求める際には、通常、人口分布に係るデータを集積した人口情報データベースを使用する。また、時間帯別に車両の待機候補場所を変更できる場合には、時間帯別の人口分布のデータを取得することができる時間帯別人口情報データベースを用いることで、より正確な人口を求めることが可能となる。
【0037】
全体到達範囲の面積が求められれば、当該面積が面積最大値より大きいか否かを判定する(ステップS12)。面積最大値より大きい場合には、面積最大値として当該面積を設定するとともに、最適割り当て情報を更新する(ステップS13)。図5の例において、全体到達範囲の面積が面積最大値より大きければ、最適割り当て情報として、新たに割り当てパターン(C12,C10,C32,C29)を登録する。
【0038】
次に、パターン番号がパターン総数に等しいか否かを判定する(ステップS14)。パターン番号がパターン総数に等しくなければ、処理をステップS7に復帰させる。また、パターン番号がパターン総数に等しければ、全パターンについての全体到達範囲に係る評価が完了したことを意味するので、最適割り当て情報に基づいて、各車両に対して待機場所を割り当てる(ステップS15)。例えば図5の例が面積最大値を与える場合には、最適割り当て情報として与えられる割り当てパターン(C12,C10,C32,C29)に基づいて、第1の車両が待機場所C12に配置され、第2の車両が待機場所C10に配置され、第3の車両が待機場所C32に配置され、第4の車両が待機場所C29に配置されることとなる。
【0039】
なお、ステップS9において、車両の到達範囲を求める過程で、ある車両に割り当てられた待機候補場所が別の車両の到達範囲に含まれるような場合には、その割り当てパターンに係る演算を中止して、処理をステップS7に移行し、次の割り当てパターンに係る処理を実行するように構成してもよい。このように構成することで、最適な割り当てパターンではないとの蓋然性が高い割り当てパターンについては、適宜当該割り当てパターンに係る演算を省略することにより、全体的な演算時間の短縮を図ることができる。
【0040】
本願発明の第1の実施例に係る車両配置方法は上記のように構成されるので、所定の区域内に配備された複数の車両について、車両全体で所定の旅行時間内に到達することが可能な範囲として与えられる全体到達範囲の面積または全体到達範囲内の人口を最大化することができる最適な車両配置を求めることができる。また、各車両に対して個別に属性情報を設定できるようにしたので、各車両の特性に応じた到達範囲がそれぞれ個別に求められて、最適配置システムの信頼性を向上することができる。また、月日、曜日または時刻に応じて待機候補場所の設定を変更するようにしたので、対象区域の土地利用状況に応じて、それぞれの時間帯について最適な車両配置を実現することができる。また、データベースに登録された複数の待機候補場所データから所望のデータを選択することで、待機候補場所を設定できるようにすることで、ユーザの利便性を向上できる。また、到達範囲において対象区域からはみ出した領域については、面積や人口等の評価値の演算から除外するようにしたので、例えば行政区域等の対象区域のみについてより最適な車両配置を実現することができる。
【実施例2】
【0041】
次に、この発明の第2の実施例について説明する。この第2の実施例では、配備される車両数に対して対象区域の面積が広く、そのために各到達範囲間に重なりが存在せず全体到達範囲が各到達範囲の単純な和となるような場合を想定している。このような場合には、全体到達範囲の面積が最大になる車両割り当てが必ずしも最適な割り当てパターンとはならないことも考えられる。そこで、全体到達範囲が対象区域のなかで所定の割合以上の領域を占めることを、最適評価を実行するうえでの要件とすることとした。図6および図7は、この発明の第2の実施例の車両配置方法を示すフローチャートである。図6および図7において、図1および図2と同一符号は同一の処理内容を示すものであり、その説明を省略する。
【0042】
ステップS5においてパターン総数が算出されれば、旅行時間の初期値としてTを設定する。また、車両の配置が最適であることを担保するためには、対象区域内において全体到達範囲の占める面積が、対象区域の面積に対して所定の割合以上であることが必要であるものと想定する。そこで、全体到達範囲が有すべき面積の下限値を表す面積閾値としてXを設定する(ステップS21)。ステップS9では、旅行時間Tに基づいて、各車両に係る到達範囲を求める。
【0043】
また、ステップS14において全割り当てパターンについての全体到達範囲の評価が完了すれば、面積最大値が面積閾値Xよりも大きいか否かを判定する(ステップS22)。面積最大値が面積閾値よりも大きければ、対象区域内の充分に広い領域について評価が為されたことになり、最適割り当て情報に基づいて、各車両に対して待機場所を割り当てる。また、面積最大値が面積閾値以下であれば、全体到達範囲の占める面積が増加するように、旅行時間Tを所定時間だけ増分して(ステップS23)、処理をステップS6に復帰する。
【0044】
本願発明の第2の実施例に係る車両配置方法は上記のように構成されるので、車両数が少ない場合でも、旅行時間を適宜増分することで、全体到達範囲を充分に大きくすることができるから、対象区域内のより広い領域を考慮した最適な車両配置を実現することができる。また、旅行時間毎に全体到達範囲を把握することが可能となるから、対象区域内のそれぞれの領域について、いずれかの車両が到達することができる旅行時間を概ね特定することが可能となる。
【0045】
図8は、本願発明の車両配置方法を実現するシステムの例を示す図である。図8において、1は車両の属性情報や道路交通情報に基づいた到達範囲の算出等の演算処理を実行するCPU、2は車両配置プログラムのロード領域としてまた演算処理のワークスペース等として使用されるRAM、3は車両配置プログラムや各種データが記憶される大容量記憶装置、4はインターネット等の通信ネットワークに接続されて各種データを送受信する通信制御部、5は属性情報等を入力するキーボード、6は地図上における位置の特定等を実行するマウス、7は各構成要素を電子的に接続するデータバスである。
【0046】
図8に示されたシステムは、例えばパーソナルコンピュータやワークステーションとして実現することが可能である。図1および図2に記載されたフローチャートあるいは図6および図7に記載されたフローチャートに表されたアルゴリズムを実現するプログラムは、例えば大容量記憶装置3に格納され、実行時にRAM2にロードされる。また、大容量記憶装置3には、地図情報データベース、道路情報データベース、道路交通情報データベース、人口情報データベース等が構築される。また、通信ネットワークに接続される道路交通情報通信システムセンタから、通信制御部4を介して渋滞情報等をリアルタイムに入力して、データベース内のデータを随時更新するような構成としてもよい。また、上記の各種データベースについては、管理センタにおいて一括管理する方式として、通信制御部4を介して、管理センタとの間でデータの送受信を実施することで、車両の最適配置に係る解析を実行する構成としてもよい。
【0047】
なお、上記の実施例1および実施例2により説明される車両配置方法および車両配置プログラムは、本願発明を限定するものではなく、例示することを意図して開示されているものである。本願発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載により定められるものであり、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において種々の設計的変更が可能である。例えば、対象区域内において、所定の区画毎に新たな待機候補場所を多数設けてシミュレーションを実行することにより、得られた最適配置情報から次に建設する予定の施設について、建築場所の指針を得ることができる。
【0048】
また、緊急事象が発生して、1または複数の車両が発生現場に急行している場合、勤務時間が終了した場合等では、待機状態にある車両の数が変わることになり、待機状態にある車両のみを対象として新たな最適配置に係るシミュレーションを実行する。このシミュレーションの結果、従前と待機場所が変わる車両については、待機場所を変更するように当該車両に対して指示を出す構成としてもよい。図9は、車両移動情報表示画面の例を示す図である。図に示されるように、車両の待機場所が変更される場合には、変更対象の車両と新たな待機場所とが地図上に示される。また、リアルタイムに渋滞状況等に係る道路交通情報を入力して、所定の時間間隔で最適配置に係るシミュレーションを実行する。このシミュレーションの結果、従前と待機場所が変わる車両については、待機場所を変更するように当該車両に対して指示を出す構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本願発明の適用例としては、消防車、救急車、警察車両、ガス・水道・電気等に係る修理車、血液輸送車等の緊急車両に関する車両最適配置に限られるものでなく、タクシー等のサービス業や運輸関連事業で使用される車両に関する車両最適配置等に広く適用できるものである。本願発明を用いることにより、所定の区域を複数の車両で管轄するシステムにおいて、車両の最適配置を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第1の実施例の車両配置方法を示すフローチャートである。
【図2】第1の実施例の車両配置方法を示すフローチャートである。
【図3】本願発明で使用される地図データの例を示す図である。
【図4】道路交通情報表示画面の例を示す図である。
【図5】全体到達範囲を説明する図である。
【図6】第2の実施例の車両配置方法を示すフローチャートである。
【図7】第2の実施例の車両配置方法を示すフローチャートである。
【図8】本願発明の車両配置方法を実現するシステムの例を示す図である。
【図9】車両移動情報表示画面の例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
S1:対象区域設定工程、S2:道路交通情報設定工程、S3:車両情報入力工程、S4:待機候補場所設定工程、S5:パターン総数算出工程、S6:初期値設定工程、S7:パターン番号増分工程、S8:待機候補場所割り当て工程、S9:到達範囲算出工程、S10:全体到達範囲算出工程、S11:評価値算出工程、S12:評価値比較工程、S13:最適割り当て情報更新工程、S14:パターン番号比較工程、S15:待機場所割り当て工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図上に設定された所定の数の待機候補場所のなかから、所定の数の車両についてそれぞれの待機場所を割り当てる車両配置方法において、
配置対象となる車両の情報を入力するとともに地図上に待機候補場所を設定する第1の工程と、
それぞれの車両に待機候補場所を割り当てる第2の工程と、
それぞれの車両について、割り当てられた待機候補場所から所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を定める第3の工程と、
該第3の工程においてそれぞれの車両について定められた到達範囲を合わせて所定数の車両全体で到達できる全体到達範囲を定める第4の工程と、
所定の数の車両に対して、所定の数の待機候補場所のなかから順列または組合せに基づいてそれぞれ待機候補場所を割り当てるようにして、前記第2の工程から前記第4の工程の処理を繰り返し実行し、全体到達範囲に係る評価値の数量的最適化を実現する割り当てパターンを特定して、当該割り当てパターンに従ってそれぞれの車両に待機場所を割り当てる第5の工程とを有する車両配置方法。
【請求項2】
全体到達範囲に係る評価値として全体到達範囲の面積または全体到達範囲内の人口が与えられ、全体到達範囲の面積または全体到達範囲内の人口を最大化する割り当てパターンに従って、それぞれの車両に待機場所を割り当てることを特徴とする請求項1に記載の車両配置方法。
【請求項3】
第2の工程において、ある車両に割り当てられた待機候補場所が、別の車両の到達範囲に含まれる場合には、当該割り当てパターンに係る演算を中止して、次の割り当てパターンに係る演算に移行することを特徴とする請求項1に記載の車両配置方法。
【請求項4】
車両毎に道路走行に係る属性データが設定され、第3の工程において、車両毎に当該属性データに基づいて演算を実行して到達範囲を定めることを特徴とする請求項1に記載の車両配置方法。
【請求項5】
第1の工程において、月日、曜日または時刻に応じて、設定される待機候補場所を変更することを特徴とする請求項1に記載の車両配置方法。
【請求項6】
第1の工程において、1または複数の待機候補場所を特定する複数のデータを格納したデータベースから、所望のデータを選択することで、地図上に待機候補場所を設定することを特徴とする請求項1に記載の車両配置方法。
【請求項7】
地図上で区画された所定の区域からはみ出した領域を除外して、全体到達範囲の面積または全体到達範囲内の人口の演算を実行することを特徴とする請求項2に記載の車両配置方法。
【請求項8】
地図上に設定された所定の数の待機候補場所のなかから、所定の数の車両についてそれぞれの待機場所を割り当てる車両配置方法において、
配置対象となる車両の情報を入力するとともに地図上に待機候補場所を設定する第1の工程と、
旅行時間を設定する第2の工程と、
それぞれの車両に待機候補場所を割り当てる第3の工程と、
それぞれの車両について、割り当てられた待機候補場所から所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を定める第4の工程と、
該第4の工程においてそれぞれの車両について定められた到達範囲を合わせて所定数の車両全体で到達できる全体到達範囲を定める第5の工程と、
所定の数の車両に対して、所定の数の待機候補場所のなかから順列または組合せに基づいてそれぞれ待機候補場所を割り当てるようにして、前記第3の工程から前記第5の工程の処理を繰り返し実行し、全体到達範囲の面積の最大化を実現する割り当てパターンを特定する第6の工程と、
全体到達範囲の面積が所定の閾値未満であれば、旅行時間を増分して前記第3の工程に復帰する第7の工程と、
全体到達範囲の面積が所定の閾値以上であれば、前記第6の工程で特定された割り当てパターンに従ってそれぞれの車両に待機場所を割り当てる第8の工程とを有する車両配置方法。
【請求項9】
地図上に設定された所定の数の待機候補場所のなかから、所定の数の車両についてそれぞれの待機場所を割り当てる車両配置プログラムにおいて、
配置対象となる車両の情報を入力するとともに地図上に待機候補場所を設定する第1のステップと、
それぞれの車両に待機候補場所を割り当てる第2のステップと、
それぞれの車両について、割り当てられた待機候補場所から所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を定める第3のステップと、
該第3のステップにおいてそれぞれの車両について定められた到達範囲を合わせて所定数の車両全体で到達できる全体到達範囲を定める第4のステップと、
所定の数の車両に対して、所定の数の待機候補場所のなかから順列または組合せに基づいてそれぞれ待機候補場所を割り当てるようにして、前記第2のステップから前記第4のステップの処理を繰り返し実行し、全体到達範囲に係る評価値の数量的最適化を実現する割り当てパターンを特定して、当該割り当てパターンに従ってそれぞれの車両に待機場所を割り当てる第5のステップとを有して構成される車両配置プログラム。
【請求項10】
地図上に設定された所定の数の待機候補場所のなかから、所定の数の車両についてそれぞれの待機場所を割り当てる車両配置プログラムにおいて、
配置対象となる車両の情報を入力するとともに地図上に待機候補場所を設定する第1のステップと、
旅行時間を設定する第2のステップと、
それぞれの車両に待機候補場所を割り当てる第3のステップと、
それぞれの車両について、割り当てられた待機候補場所から所定の旅行時間内に到達できる到達範囲を定める第4のステップと、
該第4のステップにおいてそれぞれの車両について定められた到達範囲を合わせて所定数の車両全体で到達できる全体到達範囲を定める第5のステップと、
所定の数の車両に対して、所定の数の待機候補場所のなかから順列または組合せに基づいてそれぞれ待機候補場所を割り当てるようにして、前記第3のステップから前記第5のステップの処理を繰り返し実行し、全体到達範囲の面積の最大化を実現する割り当てパターンを特定する第6のステップと、
全体到達範囲の面積が所定の閾値未満であれば、旅行時間を増分して前記第3のステップに復帰する第7のステップと、
全体到達範囲の面積が所定の閾値以上であれば、前記第6のステップで特定された割り当てパターンに従ってそれぞれの車両に待機場所を割り当てる第8のステップとを有して構成される車両配置プログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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