説明

車両

【課題】倒立制御停止直後から所定時間、能動重量部に推力を付加して移動させ、その重心移動により車体を特定方向に傾斜させることによって、緊急停止時を含む倒立制御停止時に、確実に車体を特定方向に傾斜させることができ、車体固定式のストッパを車体の片側のみに取り付けるだけでよく、車両を軽量・小型化することができ、使い勝手がよく、かつ、安全に使用することができるようにする。
【解決手段】回転可能に車体に取り付けられた駆動輪12と、前記車体に対して移動可能に取り付けられた能動重量部と、前記駆動輪12に与える駆動トルク及び前記能動重量部の位置を制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、該車両制御装置は、前記車体の姿勢制御の停止直後から所定時間、前記能動重量部に推力を付加して前記能動重量部を車体に対して移動させ、前記車体を特定方向に傾斜させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関する技術が提案されている。例えば、同軸上に配設された2つの駆動輪を有し、乗員の重心移動による車体の姿勢変化を感知して駆動する車両、球体状の単一の駆動輪に取り付けられた車体の姿勢を制御しながら移動する車両等の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この場合、センサで車体のバランスや動作の状態を検出しながら、倒立制御を行って、車両を移動させる。また、乗員が降車するときや車両の電源を遮断したときには、倒立制御を停止するのと同時にストッパを作動させ、該ストッパを接地させることによって車体の姿勢を維持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−291799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両においては、可動式のストッパを車両の前後に取り付ける必要があり、これにより、構成が複雑化するとともに、車両の軽量化及び低コスト化の妨げとなる。そこで、車体固定式のストッパを車両のいずれか一方側に取り付け、乗員が降車するときには、乗員が降車しやすい方向に車体を傾けて、車体に固定されたストッパを路面に接地させることが考えられる。
【0006】
しかし、倒立制御の停止時に、車体が逆方向に傾斜する可能性がある。例えば、センサ、ECU(Electronic Control Unit)、バッテリ等の故障によって、車体の姿勢制御を緊急停止させた場合、車体を倒立状態に維持することや車体を特定方向に必ず傾斜させることは困難である。そこで、緊急停止時に車体が逆方向に傾斜した場合に備えて、エアバッグ等の転倒防止装置を取り付けることもできるが、そもそも、逆方向への傾斜は乗員に不安感を与え、エアバッグ等の転倒防止装置の交換やメンテナンスには労力と費用を要する。
【0007】
また、正しい傾斜方向に車体が傾斜した場合であっても、その勢いが強すぎると、ストッパが路面に接触したときの衝撃を乗員が不快に感じるだけでなく、ストッパの接地点を回転中心として車体が更に傾斜する可能性がある。
【0008】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、倒立制御停止直後から所定時間、能動重量部に推力を付加して移動させ、その重心移動により車体を特定方向に傾斜させることによって、緊急停止時を含む倒立制御停止時に、確実に車体を特定方向に傾斜させることができ、車体固定式のストッパを車体の片側のみに取り付けるだけでよく、車両を軽量・小型化することができ、使い勝手がよく、かつ、安全に使用することができる車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明の車両においては、回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、前記車体に対して移動可能に取り付けられた能動重量部と、前記駆動輪に与える駆動トルク及び前記能動重量部の位置を制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、該車両制御装置は、前記車体の姿勢制御の停止直後から所定時間、前記能動重量部に推力を付加して前記能動重量部を車体に対して移動させ、前記車体を特定方向に傾斜させる。
【0010】
本発明の他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記車体の姿勢制御の停止直後からの時間に応じて、前記能動重量部に付加する推力の大きさを決定する。
【0011】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記時間の経過とともに前記能動重量部に付加する推力を減少させ、該推力の最終値を、前記能動重量部を前記特定方向と反対方向に移動させる負の値とする。
【0012】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記推力を制御する推力制御手段と、前記車体の傾斜角を保持する推力値を前記推力制御手段に指令する第1推力指令手段と、前記車体を特定方向へ傾斜させる推力値を前記推力制御手段に指令する第2推力指令手段と、前記車体の姿勢制御の停止からの経過時間を取得する時間取得手段と、前記能動重量部に推力を付加するタイムスケジュールに関するパラメータを決定するパラメータ決定手段とを備え、前記第1推力指令手段からの指令値を前記推力制御手段が前記所定時間受信しないと、前記第2推力指令手段は、前記パラメータと前記経過時間とによって推力値を決定して前記推力制御手段に指令する。
【0013】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記パラメータは前記能動重量部に付加する推力の初期値、付加時間及び増加率である。
【0014】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記推力を制御する推力制御手段と、前記車体の傾斜角を保持する推力値を前記推力制御手段に指令する第1推力指令手段と、前記車体を特定方向へ傾斜させる推力値を前記推力制御手段に指令する第2推力指令手段と、前記能動重量部の位置を取得する位置取得手段と、前記能動重量部に付加する推力に関するパラメータを決定するパラメータ決定手段とを備え、前記第1推力指令手段からの指令値を前記推力制御手段が前記所定時間受信しないと、前記第2推力指令手段は、前記パラメータと前記能動重量部の位置とによって推力値を決定して前記推力制御手段に指令する。
【0015】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記パラメータは前記能動重量部の目標位置及び前記能動重量部に付加する推力の付加時間である。
【0016】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記パラメータは前記車体の姿勢制御の実行時に決定される。
【0017】
本発明の更に他の車両においては、さらに、能動重量部の重量を取得する重量取得手段を更に備え、前記パラメータ決定手段は、前記重量取得手段によって取得された前記能動重量部の重量によって前記パラメータを補正する。
【0018】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車体の姿勢制御の停止後に前記推力制御手段に電力を供給する蓄電手段を更に有する。
【0019】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、起動直後に前記蓄電手段に電力を供給し、停止直前に前記蓄電手段から電力を回収する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の構成によれば、緊急停止時を含む姿勢制御の停止時に、確実に車体を特定方向に傾斜させることができ、小型で軽量で安価な倒立型の車両を提供することができる。
【0021】
請求項2の構成によれば、センサの計測値が不要であり、センサの状態に関わらず、姿勢の制御の停止後の安全性と快適性を保障することができる。
【0022】
請求項3の構成によれば、車体が傾斜する勢いを制限し、接地時の衝撃による快適性の低下を防ぐことができる。
【0023】
請求項4及び5の構成によれば、車体をより確実に特定方向に傾斜させることができる。
【0024】
請求項6及び7の構成によれば、より簡単で確実な方法で、車体を特定方向に傾斜させることができる。
【0025】
請求項8の構成によれば、車体の傾斜角が変化する最中に姿勢制御を停止した場合でも、車体を確実に特定方向に傾斜させることができる。
【0026】
請求項9の構成によれば、搭乗者や積載物の重量に依らず、車体を確実に特定方向に傾斜させることができる。
【0027】
請求項10及び11の構成によれば、電源の異常時や枯渇時においても、確実に車体を前方に傾斜させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車両の電源系システムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における車両の電力供給システムのリレーの制御に対応した状態を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における主制御ECUの走行及び姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施の形態における駆動輪制御ECUの駆動輪制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1の実施の形態における能動重量部推力指令値の変化を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態における能動重量部制御ECUの能動重量部制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態における主制御ECUの走行及び姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2の実施の形態における能動重量部制御ECUの能動重量部制御処理の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図、図3は本発明の第1の実施の形態における車両の電源系システムの構成を示すブロック図、図4は本発明の第1の実施の形態における車両の電力供給システムのリレーの制御に対応した状態を示す図である。
【0031】
図1において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の本体部11、駆動輪12、支持部13及び乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。図1に示される例において、車両10は右方向に前進し、左方向に後退することができる。
【0032】
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の軸は図1に示す平面に垂直な方向に存在し、駆動輪12はその軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
【0033】
また、車体の一部である本体部11は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。そして、本体部11には、能動重量部として機能する搭乗部14が、車両10の前後方向に本体部11に対して相対的に並進可能となるように、換言すると、車体回転円の接線方向に相対的に移動可能となるように、取り付けられている。
【0034】
ここで、能動重量部は、ある程度の質量を備え、本体部11に対して並進する、すなわち、前後に移動させることによって、車両10の重心位置を能動的に補正するものである。そして、能動重量部は、必ずしも搭乗部14である必要はなく、例えば、バッテリ等の重量のある周辺機器を並進可能に本体部11に対して取り付けた装置であってもよいし、ウェイト、錘(おもり)、バランサ等の専用の重量部材を並進可能に本体部11に対して取り付けた装置であってもよい。また、搭乗部14、重量のある周辺機器、専用の重量部材等を併用するものであってもよい。
【0035】
本実施の形態においては、説明の都合上、乗員15が搭乗する搭乗部14が能動重量部として機能する例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物が積載されていてもよい。前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、足置き部、座面部、背もたれ部及びヘッドレストを備え、図示されない移動機構を介して本体部11に取り付けられている。
【0036】
また、前記移動機構は、リニアガイド装置等の低抵抗の直線移動機構、及び、能動重量部アクチュエータとしての能動重量部モータ62を備え、該能動重量部モータ62によって搭乗部14を駆動し、本体部11に対して進行方向に前後させるようになっている。なお、能動重量部アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、リニアモータ等を使用することもできるが、ここでは、回転式の電気モータである能動重量部モータ62を使用するものとして説明する。
【0037】
リニアガイド装置は、例えば、本体部11に取り付けられている案内レールと、搭乗部14に取り付けられ、案内レールに沿ってスライドするキャリッジと、案内レールとキャリッジとの間に介在するボール、コロ等の転動体とを備える。そして、案内レールには、その左右側面部に2本の軌道溝が長手方向に沿って直線状に形成されている。また、キャリッジの断面はコ字状に形成され、その対向する2つの側面部内側には、2本の軌道溝が、案内レールの軌道溝と各々対向するように形成されている。転動体は、軌道溝の間に組み込まれており、案内レールとキャリッジとの相対的直線運動に伴って軌道溝内を転動するようになっている。なお、キャリッジには、軌道溝の両端をつなぐ戻し通路が形成されており、転動体は軌道溝及び戻し通路を循環するようになっている。
【0038】
また、リニアガイド装置は、該リニアガイド装置の動きを締結するブレーキ装置としての能動重量部ブレーキ63を備える。該能動重量部ブレーキ63は、電力供給時に開放されるもの、例えば、無励磁作動型の電磁ブレーキであることが望ましい。車両10が停車しているときのように搭乗部14の動作が不要であるときには、能動重量部ブレーキ63によって案内レールにキャリッジを固定することで、本体部11と搭乗部14との相対的位置関係を保持する。そして、動作が必要であるときには、能動重量部ブレーキ63を解除し、本体部11側の基準位置と搭乗部14側の基準位置との距離が所定値となるように制御される。
【0039】
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。なお、乗員15が操作して走行指令を入力することができる装置であれば、ジョイスティック31に代えて他の装置、例えば、ペダル、ハンドル、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を目標走行状態取得装置として使用することもできる。
【0040】
さらに、前記搭乗部14の足置き部には、固定式の姿勢制限手段としてのストッパ16が取り付けられている。なお、該ストッパ16は、足置き部と別個のものであってもよいが、一体的に形成されていることが望ましい。さらに、前記ストッパ16は、乗降時のみ突出して車体姿勢を保持する装置であってもよい。そして、倒立制御を停止した時には、前記ストッパ16の少なくとも一部、例えば、前端部が路面に接地することによって車体の姿勢角度を制限し、車体が所定角度以上に傾斜することを防止する。
【0041】
降車時における車体の傾斜方向、すなわち、車両10を停車させて乗員15が降車する際に車体を傾斜させる方向である降車方向は、前方又は後方のいずれであってもよいが、本実施の形態における車両10では、前記降車方向が前方であるものとして説明する。そして、降車時に倒立制御を停止すると、車体が前方に傾斜してストッパ16の前端部が路面に接地するので、車体の姿勢が安定し、乗員15は安全に降車することができる。
【0042】
また、車両システムは、図2に示されるように、車両制御装置20を有し、該車両制御装置20は主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23を備える。前記主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
【0043】
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
【0044】
また、主制御ECU21は、能動重量部制御ECU23、位置取得手段としての能動重量部センサ61、能動重量部モータ62及び能動重量部ブレーキ63とともに、能動重量部である搭乗部14の動作を制御する能動重量部制御システム60の一部として機能する。前記能動重量部センサ61は、エンコーダ等から成り、能動重量部移動状態計測装置として機能し、搭乗部14の移動状態を示す能動重量部位置及び/又は移動速度を検出し、主制御ECU21に送信する。すると、該主制御ECU21は、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信し、該能動重量部制御ECU23は、図3に示されるような能動重量部モータ動作回路64の動作を制御して、受信した能動重量部推力指令値に相当する入力電圧を能動重量部モータ62に供給させる。また、能動重量部制御ECU23は、受信した能動重量部推力指令値に相当する入力電圧を能動重量部ブレーキ63に供給する。そして、前記能動重量部モータ62は、入力電圧に従って搭乗部14を並進移動させる推力を搭乗部14に付与し、これにより、能動重量部アクチュエータとして機能する。また、前記能動重量部ブレーキ63は、入力電圧に従って搭乗部14を本体部11に対して移動不能に保持するブレーキ装置として機能する。なお、主制御ECU21は、倒立制御の停止直後に推力を付加して車体を特定方向としての前方に傾斜させる推力付加制御のためのパラメータを倒立制御実行中に能動重量部制御ECU23に送信する。
【0045】
さらに、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、能動重量部制御ECU23、車体傾斜センサ41、駆動モータ52、能動重量部モータ62及び能動重量部ブレーキ63とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、能動重量部推力指令値を能動重量部モータ62及び能動重量部ブレーキ63に送信する。
【0046】
さらに、能動重量部制御ECU23は、能動重量部モータ62に電力を供給するための電力供給システム70を制御する。該電力供給システム70は、図3に示されるように、バッテリから成る主電源72、キャパシタから成る蓄電手段73、コンバータを備える昇圧手段74、並びに、電力供給システム70内の電力回路を切り替える充電リレー71a、回収リレー71b及び付加制御リレー71cを備える。なお、前記充電リレー71a、回収リレー71b及び付加制御リレー71cを統合的に説明する場合には、リレー71として説明する。また、該リレー71の各々は、能動重量部制御ECU23からの動作信号受信時にはH側、未受信時にはL側に切り替わるものとする。
【0047】
そして、能動重量部制御ECU23は、充電リレー71a、回収リレー71b及び付加制御リレー71cを切り替えることにより、各制御の目的に応じた電力供給を実現する。具体的には、図4に示されるように、主電源72から蓄電手段73に充電する充電時、倒立制御を行うために主電源72からの電力を能動重量部モータ62に供給する倒立制御時、倒立制御の停止直後に推力を付加して車体を特定方向としての前方に傾斜させるために蓄電手段73からの電力を能動重量部モータ62に供給する推力付加制御時、及び、推力付加制御の後に蓄電手段73に蓄電されている電力を昇圧手段74を介して主電源72に回収する回収時の制御状態に応じて、充電リレー71a、回収リレー71b及び付加制御リレー71cを切り替える。
【0048】
なお、電力供給システム70の回路構成は、必ずしも図3に示されるようなものである必要はなく、同様の電力供給切替が可能であれば、他の回路構成であってもよい。
【0049】
さらに、主制御ECU21には、入力装置30のジョイスティック31から走行指令、及び、搭乗部14に配設された重量取得手段としての重量センサ81が検出した乗員15の重量を含む搭乗部14上の搭載物の重量、すなわち、搭載重量が入力される。そして、前記主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信する。
【0050】
また、本実施の形態においては、電力供給システム70のリレー71を能動重量部制御ECU23によって制御しているが、電源供給システム70が電力供給制御ECUを備え、該電力供給制御ECUが、能動重量部制御ECU23から送信された指令に基づいて、その指令を遂行するのに必要な状態になるようにリレー71を制御してもよい。
【0051】
なお、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と車体傾斜角速度とを決定してもよい。
【0052】
また、車両制御装置20は、機能の観点から、推力を制御する推力制御手段と、車体の姿勢制御に適した推力値を推力制御手段に指令する第1推力指令手段と、車体の特定方向への傾斜に適した推力値を推力制御手段に指令する第2推力指令手段と、車体の姿勢制御の停止からの経過時間を取得する時間取得手段と、搭乗部14に推力を付加するタイムスケジュールに関するパラメータを決定するパラメータ決定手段とを備える。
【0053】
次に、前記構成の車両10の動作について説明する。まず、主制御ECU21の走行及び姿勢制御処理の動作について説明する。
【0054】
図5は本発明の第1の実施の形態における主制御ECUの走行及び姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0055】
本実施の形態においては、状態量やパラメータを次のような記号によって表す。
θW :駆動輪回転角〔rad〕
θ1 :車体傾斜角(鉛直軸基準)〔rad〕
λS :搭乗部位置(能動重量部位置)〔m〕
g:重力加速度〔m/s2
W :駆動輪接地半径〔m〕
1 :車体慣性モーメント〔kgm2
1 :車体質量(搭乗部を含む)〔kg〕
S :搭乗部質量(搭載物を含む)〔kg〕
走行及び姿勢制御処理において、主制御ECU21は、まず、蓄電手段73への充電が完了するまで待機する(ステップS1)。具体的には、能動重量部制御ECU23からの充電完了信号を受信するまで待機する。

【0056】
続いて、主制御ECU21は、乗員15の操縦操作量を取得する(ステップS3)。具体的には、ジョイスティック31の操作量を取得する。さらに、主制御ECU21は、搭載重量を取得する(ステップS4)。具体的には、重量センサ81が検出した搭載重量を取得する。そして、主制御ECU21は、各アクチュエータの出力指令値を決定する(ステップS5)。具体的には、ジョイスティック31の操作量に対応した走行目標と各センサから取得した状態量に基づいて、車体姿勢と走行状態を制御する各アクチュエータの出力指令値を決定する。
【0057】
続いて、主制御ECU21は、停止時能動重量部推力パラメータを決定する(ステップS6)。この場合、主制御ECU21は、パラメータ決定手段として機能し、各状態量から、停止時能動重量部推力パラメータとしての能動重量部推力初期値、能動重量部推力付加時間及び能動重量部推力増加率を決定する。まず、能動重量部推力初期値を下記の式によって取得する。
【0058】
【数1】

【0059】
また、能動重量部推力付加時間を下記の式によって取得する。
【0060】
【数2】

【0061】
θ1,shは車体傾斜角閾値で、δ<θ1,sh<θ1,Max である。なお、θ1,Max は最大車体傾斜角であり、ストッパ16が接地する車体傾斜角、すなわち、実際の接地角である。
【0062】
さらに、能動重量部推力増加率を下記の式によって取得する。
【0063】
【数3】

【0064】
また、前記実質車体傾斜角は次のように決定される。
【0065】
【数4】

【0066】
さらに、前記実質搭乗部位置は次のように決定される。
【0067】
【数5】

【0068】
なお、前記実質車体傾斜角及び実質搭乗部位置を決定する式における右辺第2項の正負の符号は、車両10が前進しているときには正、車両10が後進しているときには負とする。また、制動トルクの予測値には、以下の仮定(1)及び(2)の下で所定の値を予め与えておく。
(1)非常停止時に駆動輪12に摩擦ブレーキが作用する場合、性能予想値又は制御指令値であるブレーキトルクの値を与える。
(2)非常停止時に駆動輪12に摩擦ブレーキが作用しない場合、駆動モータ52の逆起電力や駆動輪12の転がり抵抗などを考慮して制動トルクに相当する値を与える。
【0069】
このように、本実施の形態においては、倒立制御停止後の付加推力に関するパラメータである停止時能動重量部推力パラメータを決定する。つまり、倒立制御実行時に、倒立制御停止後のパラメータをあらかじめ決定しておく。具体的には、主制御ECU21が倒立制御停止後のパラメータを決定しておく。このように、複雑な計算を主制御ECU21に委ねることで、能動重量部制御ECU23の負担の増加による能動重量部推力制御への悪影響、あるいは、高性能で高価な能動重量部制御ECU23を必要とすることを回避できる。そして、決定した値を倒立制御用の能動重量部推力指令値とともに、能動重量部制御ECU23へ逐次送信する。そのため、車体傾斜センサ41や主制御ECU21の故障時においても、その後の能動重量部推力付加量を適切な値に設定できる。
【0070】
また、倒立制御停止直前の車体傾斜状態に応じて、倒立制御停止時能動重量部推力パラメータを決定する。なお、パラメータは、初期値、付加時間及び増加率の3種、すなわち、能動重量部推力初期値、能動重量部推力付加時間及び能動重量部推力増加率の3種とする。
【0071】
まず、倒立制御停止直前の車体傾斜角と搭乗部位置に応じて、最初に付加する能動重量部推力の値である能動重量部推力初期値を決定する。なお、車体の後方傾斜時には、能動重量部推力初期値を正の値とし、搭乗部14を前方へ移動させることで車体の重心を前方へ移動させ、車体を前方傾斜へ移行させる。一方、車体の前方傾斜時には、能動重量部推力初期値を負の値とし、搭乗部14を後方へ移動させることで車体の重心を後方へ移動させ、前方傾斜速度の増加を抑える。また、搭乗部14が後方に位置する時には、能動重量部制御ECU23に能動重量部推力の指令値と停止時能動重量部推力パラメータを、駆動輪制御ECU22に駆動トルクの指令値を、それぞれ送信する能動重量部推力初期値を正の値とし、搭乗部14を前方へ移動させることで車体の重心を前方へ移動させ、車体の前方傾斜を促す。一方、搭乗部14が前方に位置する時には、能動重量部推力初期値を負の値とし、搭乗部14を後方へ移動させることで車体の重心を後方へ移動させ、車体の前方傾斜を抑える。
【0072】
また、倒立制御停止直前の車体姿勢に応じて、倒立制御停止後の能動重量部推力パラメータを決定する。具体的には、ストッパ16が路面に接触するまでの傾斜角の残余に関係する車体傾斜角残差、及び、ストッパ16が路面に接触するときの最適な搭乗部14の位置までの距離に関係する搭乗部位置残差に応じて、倒立制御停止後に能動重量部推力を付加する時間である能動重量部推力付加時間を決定する。
【0073】
まず、車体が後方に傾いているときには、能動重量部推力付加時間を大きくする。一方、車体が前方に傾いているときには、能動重量部推力付加時間を小さくする。また、搭乗部14が前方に位置しているときには、能動重量部推力付加時間を小さくする。一方、搭乗部14が後方に位置しているときには、能動重量部推力付加時間を大きくする。さらに、車体の傾斜に要する時間と搭乗部14の移動に要する時間とを比較し、長い方を能動重量部推力付加時間とする。
【0074】
また、付加する能動重量部推力の最終値が負の値になるように、付加する能動重量部推力の時間変化率である能動重量部推力増加率を決定する。これにより、車体姿勢に応じた適切な能動重量部推力付加によって、倒立制御停止時の安全性と快適性を保障できる。
【0075】
なお、車体傾斜角が所定の閾値よりも大きく、かつ、搭乗部14が所定の位置よりも前方に位置する場合には、能動重量部推力を付加しない。ストッパ16が接地する傾斜角である最大車体傾斜角よりも小さい値である車体傾斜角閾値に対して、車体傾斜角が同閾値以上であること、及び、ストッパ16が接地するときの最適な搭乗部14の位置である搭乗部位置閾値に対して、搭乗部位置が同閾値以上であることを共に満たす場合、能動重量部推力付加時間を零とする。これにより、無駄な能動重量部推力の付加、及び、それに伴うエネルギの浪費を回避する。
【0076】
さらに、パラメータの決定時に必要な車体傾斜角及び搭乗部位置として、その他の影響を加味した実質車体傾斜角及び実質搭乗部位置の値を用いる。具体的には、車体傾斜角速度に基づいて、実質車体傾斜角の値を決定する。まず、車体の前方への傾斜速度が大きいほど、実質車体傾斜角の値を増加させる。また、車体の後方への傾斜速度が大きいほど、実質車体傾斜角の値を減少させる。これにより、車体傾斜角が変化する最中に倒立制御を停止した場合でも、安全性や快適性を保障できる。
【0077】
また、搭乗部移動速度に基づいて、実質搭乗部位置の値を決定する。まず、搭乗部14の前方への移動速度が大きいほど、実質搭乗部位置の値を増加させる。また、搭乗部14の後方への移動速度が大きいほど、実質搭乗部位置の値を減少させる。これにより、搭乗部14の位置が変化する最中に倒立制御を停止した場合でも、安全性や快適性を保障できる。
【0078】
さらに、倒立制御停止時における車両10の減速に伴う慣性力の影響を考慮する。まず、予測される車両10の減速度と減速時間に基づいて、実質車体傾斜角と実質搭乗部位置を補正する。また、車両速度又は駆動輪回転角速度に基づいて、減速時間を決定する。車両速度が高いほど、車両10が停止するまでの時間が長く、車体傾斜に大きな影響を及ぼすと判断する。このように、緊急停止後の慣性力を考慮することで、より高精度に傾斜状態を制御できる。
【0079】
さらに、搭載重量に応じて、倒立制御停止後に付加する能動重量部推力を補正する。すなわち、重量センサ81によって取得した搭載重量に応じて、停止時能動重量部推力パラメータを決定する。これにより、任意の乗員15や積載物に対して、倒立制御停止時の安全性や快適性を確実に保障できる。
【0080】
なお、本実施の形態においては、各種慣性の影響を考慮して能動重量部推力パラメータを決定しているが、さらに、他の影響を考慮してもよい。例えば、搭乗部14の重心位置を取得する重心位置取得手段を備え、その取得値に応じて能動重量部推力の付加量を決定してもよい。また、路面の形状を取得する路面形状取得手段を備え、その取得値、例えば、路面勾(こう)配の値に応じて能動重量部推力パラメータを修正してもよい。
【0081】
また、本実施の形態においては、能動重量部推力パラメータとして初期値、付加時間及び増加率を与えることで、その後の能動重量部推力の計算に要する処理量を最小としているが、他のパラメータで能動重量部推力付加のタイムスケジュールを定義してもよい。例えば、いずれかの値に代えて最終値を与えてもよい。また、本実施の形態では、3種のパラメータ値を車体姿勢に応じて変化させているが、その一部を定数としてもよい。このとき、能動重量部制御ECU23側でそれらの定数が定義されてもよい。
【0082】
さらに、本実施の形態においては、非線形の関数によって実質車体傾斜角や実質搭乗部位置を決定しているが、線形近似した簡単な関数によって決定してもよい。また、非線形の関数をマップとして具備し、それを用いて決定してもよい。
【0083】
続いて、主制御ECU21は、各ECUに各データを送信する(ステップS7)。具体的には、能動重量部制御ECU23に能動重量部推力の指令値と停止時能動重量部推力パラメータを、駆動輪制御ECU22に駆動トルクの指令値を、それぞれ、送信する。
【0084】
続いて、主制御ECU21は、倒立制御不可であるか否か、すなわち、倒立制御の継続が不可能であるか否かを判断する(ステップS8)。具体的には、車体傾斜センサ41等の制御に必要な要素の状態を診断し、異常状態を検出する。そして、倒立制御不可でない場合、すなわち、倒立制御の継続が可能である場合、主制御ECU21は、センサから各状態量を取得し、それ以降の動作を所定の時間間隔(例えば、100〔μm〕毎)で繰り返し実行する。
【0085】
また、倒立制御不可である場合、すなわち、倒立制御の継続が不可能である場合、主制御ECU21は停止し(ステップS9)、走行及び姿勢制御処理が終了する。この場合、主制御ECU21はすべての処理動作を停止する。そのため、倒立制御、及び、各ECUへのデータ送信も停止する。すると、後述のように、能動重量部制御ECU23は、能動重量部推力の指令値を取得することができず、推力付加制御に移行する。
【0086】
次に、駆動輪制御ECU22の駆動輪制御処理の動作について説明する。
【0087】
図6は本発明の第1の実施の形態における駆動輪制御ECUの駆動輪制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0088】
駆動輪制御処理において、駆動輪制御ECU22は、まず、トルク指令を取得したか否かを判断する(ステップS11)。つまり、主制御ECU21から送信される駆動トルクの指令値の取得に成功したか否かを判断する。なお、所定時間、駆動トルクの指令値を取得できなかった場合、取得失敗と判断する。
【0089】
そして、トルク指令を取得した場合、すなわち、主制御ECU21から送信される駆動トルクの指令値の取得に成功した場合、駆動輪制御ECU22は、駆動トルクを制御する(ステップS12)。つまり、取得した駆動トルクの指令値を実現するように、駆動モータ52の駆動回路の電圧を制御する。そして、再度トルク指令を取得したか否かを判断し、それ以降の動作を所定の時間間隔(例えば、100〔μm〕毎)で繰り返し実行する。
【0090】
また、トルク指令を取得したか否かを判断してトルク指令を取得しなかった場合、すなわち、主制御ECU21から送信される駆動トルクの指令値の取得に失敗した場合、駆動輪制御ECU22は停止し(ステップS13)、駆動輪制御処理が終了する。この場合、駆動輪制御ECU22はすべての処理動作を停止する。
【0091】
次に、能動重量部制御ECU23の能動重量部制御処理の動作について説明する。
【0092】
図7は本発明の第1の実施の形態における能動重量部推力指令値の変化を示す図、図8は本発明の第1の実施の形態における能動重量部制御ECUの能動重量部制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0093】
能動重量部制御処理において、能動重量部制御ECU23は、まず、蓄電手段73、すなわち、キャパシタを充電する(ステップS21)。具体的には、充電リレー71aに動作信号を送信し、蓄電手段73を充電する。そして、所定の蓄電量又は電圧に達するまで充電した後、動作信号を停止する。
【0094】
続いて、能動重量部制御ECU23は、推力指令を取得したか否かを判断する(ステップS22)。つまり、主制御ECU21から送信される能動重量部推力の指令値の取得に成功したか否かを判断する。なお、所定時間、能動重量部推力の指令値を取得できなかった場合、取得失敗と判断する。
【0095】
そして、推力指令を取得した場合、すなわち、主制御ECU21から送信される能動重量部推力の指令値の取得に成功した場合、能動重量部制御ECU23は、能動重量部推力を制御する(ステップS23)。つまり、取得した能動重量部推力の指令値を実現するように、能動重量部モータ動作回路64の電圧を制御する。
【0096】
さらに、能動重量部制御ECU23は、パラメータを取得する(ステップS24)。つまり、主制御ECU21から能動重量部推力の指令値と共に送信される停止時能動重量部推力パラメータを取得する。そして、再度推力指令を取得したか否かを判断し、それ以降の動作を所定の時間間隔(例えば、100〔μm〕毎)で繰り返し実行する。
【0097】
また、推力指令を取得したか否かを判断して推力指令を取得しなかった場合、すなわち、主制御ECU21から送信される能動重量部推力の指令値の取得に失敗した場合、能動重量部制御ECU23は、推力付加制御に移行する。そのため、主制御ECU21からの停止信号を受信するシステムを用いる場合には対応できないケースである主制御ECU21に異常が発生したケースや、主制御ECU21と能動重量部制御ECU23との間の通信異常が発生したケースにも、確実に対応できる。したがって、幅広いフェイル条件について、その異常状態を簡単に、かつ、確実に検知することができる。
【0098】
そして、推力付加制御に移行すると、能動重量部制御ECU23は電源をキャパシタに変更する(ステップS25)。具体的には、付加制御リレー71cに動作信号を送信し、電力供給源をキャパシタ、すなわち、蓄電手段73に切り替える。
【0099】
本実施の形態においては、倒立制御停止後の付加推力に必要な電力を主電源72とは別の蓄電手段73によって賄うようになっている。このように、倒立制御停止後は、倒立制御実行時とは別の電源を使用することによって、バッテリから成る主電源72の異常時や枯渇時においても、確実に車体を前方に傾斜させることができる。また、蓄電手段73として、低容量で高出力を発生可能な特徴を持つキャパシタを使用するので、大きな出力が必要な場合でも、確実に車体を前方に傾斜させることができる。そして、倒立制御の停止前に主電源72であるバッテリを用いてキャパシタを充電するので、蓄電手段73の充電管理が不要であり、安全で使い勝手のよい車両10を提供できる。また、必要な能動重量部推力付加の終了後には、キャパシタの電力を回収する。なお、回収時に昇圧手段74を動作させることで、エネルギの回収率を高める。これにより、エネルギ消費量を気にすることなく、非常時に備えた十分な電力量を用意できる。また、能動重量部推力の付加に伴う回生エネルギを主電源72であるバッテリに回収できる。
【0100】
なお、本実施の形態においては、切替接点によるリレー71を用いているが、他のリレーを用いてもよい。例えば、停止制御リレーとして、オーバーラップ機構を備えるMBB(Make Before Brake)接点によるリレーを用いることで、電源切替時に生じる一時的な電力遮断を回避してもよい。また、コンデンサ等を用いて、瞬間的な電圧低下を低減させてもよい。
【0101】
また、本実施の形態においては、倒立制御停止の原因に関わらず、必ず蓄電手段73のエネルギを使用しているが、主電源72であるバッテリの異常や枯渇時以外の場合には、バッテリの電力を用いてもよい。これにより、昇圧時のエネルギ損失量を低減できる。
【0102】
さらに、本実施の形態においては、蓄電手段73であるキャパシタに残ったエネルギを回収しているが、廃棄してもよい。これにより、昇圧手段74や回収リレー71bが不要になり、より簡素で安価な電力供給システム70を実現できる。
【0103】
続いて、能動重量部制御ECU23は、経過時間を取得する(ステップS26)。具体的には、倒立制御停止又は推力指令取得失敗からの経過時間を取得する。そして、能動重量部制御ECU23は、能動重量部推力指令値を決定する(ステップS27)。この場合、能動重量部制御ECU23は、第2推力指令手段として機能し、経過時間及び停止時能動重量部推力パラメータから、下記の式によって停止時能動重量部推力指令値を決定する。
【0104】
【数6】

【0105】
上記の式によって決定された停止時能動重量部推力指令値は、図7に示されるように、経過時間tに応じて変化する。
【0106】
このように、本実施の形態においては、倒立制御停止直後からの所定時間、能動重量部推力を付加して、車体を適切に傾斜させる。具体的には、経過時間のみに応じて、付加する能動重量部推力の値を変化させる。これにより、車体傾斜センサ41等のセンサの計測値が不要であり、センサの状態に関わらず、倒立制御停止後の安全性と快適性を保障できる。
【0107】
また、倒立制御停止直前に取得した停止時能動重量部推力パラメータに基づいて、能動重量部推力の与え方を決定する。つまり、倒立制御停止直前の車体傾斜状態等に応じて決定されたパラメータ値を用いる。このように、停止直前の状態を把握することで、より適切な能動重量部推力の付加を実現できる。
【0108】
さらに、能動重量部推力付加量を時間の線形関数として与える。このように、必要な推力値の変化を実現できる最も簡単な関数である線形関数を用いることで、能動重量部制御ECU23の演算負荷を最小にすることができるのとともに、能動重量部モータ62の電力負荷を滑らかにして蓄電手段73の電圧変動下における推力制御を容易にすることができる。
【0109】
さらに、能動重量部制御ECU23が、倒立制御停止時の能動重量部推力指令値を決定する。つまり、能動重量部制御ECU23自身が車体の姿勢制御に必要な能動重量部推力を算出し、その値に応じて能動重量部推力を制御する。そのため、車両システムの他の要素の状態に関わらず、能動重量部推力の制御を実行できる。このように、能動重量部移動型車両の倒立制御に不可欠な能動重量部制御システムをフェイルセーフ手段としても用いることで、フェイルセーフのために新たなECUやアクチュエータを追加することなく、倒立制御停止時の安全性を保障できる。
【0110】
なお、本実施の形態においては、単純な線形関数によって能動重量部推力指令値を決定しているが、より複雑な関数を用いてもよい。この場合、その関数を定義するのに最低限必要なパラメータを倒立制御実行時に主制御ECU21から取得する。
【0111】
続いて、能動重量部制御ECU23は、能動重量部推力を制御する(ステップS28)。つまり、決定した能動重量部推力指令値を実現するように能動重量部モータ動作回路64の電圧を制御する。続いて、能動重量部制御ECU23は、制御終了であるか否かを判断する(ステップS29)。この場合、停止時能動重量部推力パラメータによって決定される時間を経過すると、制御を終了する。つまり、経過時間がパラメータの1つである能動重量部推力付加時間以上であるとき、制御終了とみなす。
【0112】
そして、制御終了でない場合、能動重量部制御ECU23は、再度経過時間を取得し、それ以降の動作を所定の時間間隔(例えば、100〔μm〕毎)で繰り返し実行する。
【0113】
また、制御終了である場合、能動重量部制御ECU23は、ブレーキを作動させる(ステップS30)。具体的には、能動重量部ブレーキ63への電力供給を遮断し、該能動重量部ブレーキ63を作動させ、搭乗部14を本体部11に対して移動不能とする。これにより、推力付加の終了直後に、搭乗部14が車体の傾斜方向に加速することを防ぐことができ、倒立制御停止後の安全性と快適性を更に高めることができる。
【0114】
このように、本実施の形態においては、例えば、車両システムの異常時に、直ちに搭乗部14にブレーキをかけて停止させるのではなく、搭乗部14に適切な推力を付与し、適切な位置に移動させることで、車体を安全かつ快適に接地状態へ導いた後にブレーキを作動させる。
【0115】
続いて、能動重量部制御ECU23は、蓄電手段73であるキャパシタの電力を回収し(ステップS31)、能動重量部制御処理が終了する。この場合、能動重量部制御ECU23は、回収リレー71bに動作信号を送信し、キャパシタの電力を主電源72であるバッテリに回収する。なお、付加制御リレー71cへの動作信号を停止した後、キャパシタの電圧が所定の閾値を下回るまで、回収リレー71bに動作信号を送信し続ける。
【0116】
なお、本実施の形態においては、倒立制御停止に至った原因に関わらず上述の制御を実行するが、特定の原因による停止時に限って本制御を実行してもよい。例えば、主制御ECU21と能動重量部制御ECU23との間の通信異常時に限って本制御を実行してもよい。
【0117】
また、本実施の形態においては、倒立制御の継続が不可能になった場合に上述の制御を実行するが、倒立制御の継続が不要になった場合にも同様の制御を実行してもよい。例えば、搭乗部14に主電源投入切替手段を備え、乗員15が急な降車を希望した場合に、前記主電源投入切替手段によって主電源72を遮断することにより、乗員15の降車に適した車体姿勢に移行するようにしてもよい。これにより、降車を速やかに行うことが可能になり、利便性が向上する。
【0118】
このように、本実施の形態においては、倒立制御停止直後から所定時間、能動重量部推力を付加して、車体を特定方向に傾斜させるようになっている。具体的には、倒立制御停止直後からの時間に応じて、付加する能動重量部推力の大きさを決定する。また、搭乗部14を車体の特定方向(本実施の形態においては、前方)と同方向に回転させるような能動重量部推力の値を正とするとき、時間経過と共に付加する能動重量部推力を徐々に減少させる。そして、付加する能動重量部推力の最終値を負の値とする。
【0119】
また、倒立制御停止直前の車体傾斜状態に応じて、付加する能動重量部推力のタイムスケジュールに関するパラメータを決定する。該タイムスケジュールに関するパラメータは、初期値、付加時間及び増加率、すなわち、能動重量部推力初期値、能動重量部推力付加時間及び能動重量部推力増加率とする。なお、前記タイムスケジュールに関するパラメータは、倒立制御実行時に主制御ECU21によって決定される。また、重量センサ81を備え、取得した搭載重量の値に応じて付加する能動重量部推力を補正する。
【0120】
さらに、所定時間の能動重量部推力付加の後、能動重量部ブレーキ63によって、搭乗部14の相対位置を固定する。
【0121】
さらに、能動重量部制御ECU23によって、能動重量部推力を付加する。つまり、主制御ECU21からの能動重量部推力指令値を所定時間受信しないと、能動重量部制御ECU23は自身が第2推力指令手段として機能し、付加する能動重量部推力を決定する。なお、倒立制御では、主制御ECU21が第1推力指令手段として機能し、倒立制御に適した能動重量部推力値を能動重量部制御ECU23に指令する。
【0122】
さらに、倒立制御停止直後に能動重量部制御ECU23に電力を供給する蓄電手段73を備える。車両システムの起動直後に電力を蓄電手段73に供給し、正常終了直前に電力を回収する。
【0123】
これにより、小型で軽量で安価な倒立型の車両10を提供できる。緊急停止時を含む倒立制御停止時に、確実に車体を特定方向に傾斜させることができる。また、搭乗部移動型の倒立型車両に備わっている能動重量部制御システムを、特定方向傾斜手段に活用するので、車体固定式の片側ストッパであるストッパ16のみによって、安全な倒立型の車両10を実現できる。
【0124】
なお、本実施の形態においては、前方に車体を傾けた方が利便性や快適性が高いという前提で、特定方向を前方として、前方への傾斜を促す制御を実行しているが、特定方向を後方として、後方に傾けてもよい。例えば、車両10の前方にハンドルがあり、後方から搭乗する立ち乗り型の倒立型車両の場合、必ず後方に傾斜させることで、乗降時の利便性や快適性を高めることができる場合がある。
【0125】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0126】
図9は本発明の第2の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【0127】
本実施の形態においては、倒立制御停止後の所定時間、搭乗部14の位置に応じて能動重量部推力を決定する。
【0128】
経過時間のみによる車体の姿勢制御は難しい。例えば、能動重量部推力の付加による搭乗部14の移動状態と車体の傾斜状態とをともに予測し、適切な能動重量部推力のタイムスケジュールを設定する必要がある。そのため、十分な安全性を保障するためには、制御系の設計や調整に時間とコストを要する場合がある。また、一般に、能動重量部制御ECU23は搭乗部14の位置を取得する手段を備える。すなわち、搭乗部14の移動機構と機械的に連結された能動重量部モータ62の回転状態等に基づき、推力制御を行うので、一般的なシステムにおいて、搭乗部14の位置情報を取得することが可能である。
【0129】
そこで、本実施の形態においては、能動重量部推力パラメータと搭乗部14の位置に応じて、付加する能動重量部推力を決定する。具体的には、取得した搭乗部14の位置に基づき、搭乗部14を目標位置に到達させるように能動重量部推力を与える。また、能動重量部推力パラメータは、搭乗部目標位置と推力付加時間とする。そして、能動重量部制御ECU23は、倒立制御実行時には能動重量部推力指令値を逐次取得して、それを実現するように推力制御を実行し、倒立制御停止時には直前に取得した位置指令値に基づいて、それを実現するように位置制御を実行する。
【0130】
これにより、より簡単で信頼性の高い倒立制御停止後の能動重量部推力付加制御を実行でき、その結果、より安全で安価な倒立型の車両10を提供することができる。
【0131】
図9に示されるように、本実施の形態においては、前記能動重量部センサ61は、検出した能動重量部位置及び/又は移動速度を主制御ECU21だけでなく、能動重量部制御ECU23にも送信する。その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0132】
次に、本実施の形態における車両10の動作について説明する。まず、主制御ECU21の走行及び姿勢制御処理の動作について説明する。
【0133】
図10は本発明の第2の実施の形態における主制御ECUの走行及び姿勢制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0134】
なお、走行及び姿勢制御処理を開始してから各アクチュエータの出力指令値を決定するまでの動作、すなわち、ステップS41〜S45の動作は、前記第1の実施の形態における図5に示されるステップS1〜S5の動作と同様であるので、その説明を省略する。
【0135】
そして、主制御ECU21は、各アクチュエータの出力指令値を決定した後、停止時能動重量部推力パラメータを決定する(ステップS46)。この場合、主制御ECU21は、パラメータ決定手段として機能し、各状態量から、停止時能動重量部推力パラメータとしての能動重量部目標位置及び能動重量部推力付加時間を決定する。まず、能動重量部目標位置を下記の式によって取得する。
【0136】
【数7】

【0137】
また、能動重量部推力付加時間を下記の式によって取得する。
【0138】
【数8】

【0139】
このように、本実施の形態においては、倒立制御停止後の付加推力に関するパラメータである停止時能動重量部推力パラメータを決定する。具体的には、倒立制御停止直前の車体姿勢に応じて、倒立制御停止後の能動重量部推力パラメータを決定する。なお、パラメータは、目標位置及び付加時間の2種、すなわち、能動重量部目標位置及び能動重量部推力付加時間の2種とする。
【0140】
まず、倒立制御停止直前の車体傾斜角に応じて、能動重量部目標位置を決定する。なお、車体の後方傾斜時には、能動重量部目標位置を正の値とし、搭乗部14を前方へ移動させることで車体の重心を前方へ移動させ、車体を前方傾斜へ移行させる。一方、車体の前方傾斜時には、能動重量部目標位置を負の値とし、搭乗部14を後方へ移動させることで車体の重心を後方へ移動させ、前方傾斜速度の増加を抑える。
【0141】
また、能動重量部目標位置と現在の位置との差に応じて、能動重量部推力を付加する時間を決定する。なお、能動重量部目標位置と現在の位置との差が大きい場合には、能動重量部推力の付加時間を大きくする。一方、能動重量部目標位置と現在の位置との差が小さい場合には、能動重量部推力の付加時間を小さくする。なお、車体の傾斜状態、すなわち、車体のストッパ16が路面に接触するまでの時間に関わらず、搭乗部14を目標位置まで移動させるのに要する時間だけ能動重量部推力を付加する。換言すれば、搭乗部14が目標位置付近に到達したら、車体の傾斜状態に関わらず能動重量部推力付加を終了する。これにより、エネルギ消費量を低減させると共に、制御の安定性を向上できる。
【0142】
パラメータの決定時に必要な車体傾斜角及び搭乗部位置として、その他の影響を加味した実質車体傾斜角及び実質搭乗部位置の値を用いる。具体的には、車体傾斜角速度に基づいて、実質車体傾斜角の値を決定する。車体の前方への傾斜速度が大きいほど、実質車体傾斜角の値を増加させる。また、車体の後方への傾斜速度が大きいほど、実質車体傾斜角の値を減少させる。これにより、車体の傾斜角が変化する最中に倒立制御を停止した場合でも、安全性や快適性を保障できる。
【0143】
また、倒立制御停止時における車両10の減速に伴う慣性力の影響を考慮する。予測される車両10の減速度と減速時間に基づいて、実質車体傾斜角と実質搭乗部位置を補正する。また、車両速度又は駆動輪回転角速度に基づいて、減速時間を決定する。車両速度が高いほど、車両10が停止するまでの時間が長く、車体傾斜に大きな影響を及ぼすと判断する。このように、緊急停止後の慣性力を考慮することで、より高精度に傾斜状態を制御できる。
【0144】
さらに、搭載重量に応じて、倒立制御停止後に付加する能動重量部推力を補正する。すなわち、重量センサ81によって取得した搭載重量に応じて、停止時能動重量部推力パラメータを決定する。これにより、任意の乗員15や積載物に対して、倒立制御停止時の安全性や快適性を確実に保障できる。
【0145】
なお、本実施の形態においては、各種慣性の影響を考慮して能動重量部推力パラメータを決定しているが、さらに、他の影響を考慮してもよい。例えば、搭乗部14の重心位置を取得する重心位置取得手段を備え、その取得値に応じて能動重量部推力の付加量を決定してもよい。また、路面の形状を取得する路面形状取得手段を備え、その取得値、例えば、路面勾配の値に応じて能動重量部推力パラメータを修正してもよい。
【0146】
また、本実施の形態においては、能動重量部推力パラメータとして目標位置及び付加時間を与えているが、他のパラメータに代えて、又は、他のパラメータを加えて能動重量部推力付加量の設定方法を定義してもよい。例えば、能動重量部制御ECU23が能動重量部推力の指令値を決定する際のフィードバックゲインを車体の状態に応じて補正し、この値をパラメータとして追加してもよい。また、パラメータ値の一部を定数としてもよい。このとき、能動重量部制御ECU23側でそれらの定数が定義されてもよい。
【0147】
さらに、本実施の形態においては、非線形の関数によって実質車体傾斜角を決定しているが、線形近似した簡単な関数によって決定してもよい。また、非線形の関数をマップとして具備し、それを用いて決定してもよい。
【0148】
続いて、主制御ECU21は、各ECUに各データを送信する(ステップS47)。なお、以降の動作、すなわち、ステップS47〜S49の動作は、前記第1の実施の形態における図5に示されるステップS7〜S9の動作と同様であるので、その説明を省略する。
【0149】
次に、能動重量部制御ECU23の能動重量部制御処理の動作について説明する。
【0150】
図11は本発明の第2の実施の形態における能動重量部制御ECUの能動重量部制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0151】
なお、能動重量部制御処理を開始してから経過時間を取得するまでの動作、すなわち、ステップS51〜S56の動作は、前記第1の実施の形態における図8に示されるステップS21〜S26の動作と同様であるので、その説明を省略する。
【0152】
そして、能動重量部制御ECU23は、経過時間を取得した後、能動重量部位置を取得する(ステップS57)。具体的には、能動重量部センサ61から能動重量部位置としての搭乗部位置λS を取得する。
【0153】
続いて、能動重量部制御ECU23は、能動重量部推力指令値を決定する(ステップS58)。この場合、能動重量部制御ECU23は、第2推力指令手段として機能し、能動重量部位置及び停止時能動重量部推力パラメータから、下記の式によって停止時能動重量部推力指令値を決定する。
【0154】
【数9】

【0155】
なお、係数KP 及びKI は、フィードバックゲインであり、極配置法等で決定した所定値をあらかじめ設定しておく。
【0156】
本実施の形態においては、倒立制御停止直後からの所定時間、能動重量部推力を付加して、車体を適切に傾斜させる。この場合、能動重量部センサ61によって取得した能動重量部位置に応じて、付加する能動重量部推力の値を変化させる。このように、実際の状態量を取得することで、倒立制御停止後の安全性と快適性を容易かつ確実に保障できる。
【0157】
また、倒立制御停止直前に取得した停止時能動重量部推力パラメータに基づいて、能動重量部推力の与え方を決定する。具体的には、倒立制御停止直前の車体姿勢等に応じて決定された能動重量部目標位置を用いる。このように、停止直前の状態を把握することで、より適切な能動重量部推力の付加を実現できる。
【0158】
さらに、能動重量部推力付加量を線形フィードバック制御則(PI制御)に従って与える。このように、簡単な制御則を用いることで、演算負荷を低減するのと共に、能動重量部モータ62の電力負荷を滑らかにして蓄電手段73の電圧変動下における推力制御を容易にする。
【0159】
なお、本実施の形態においては、能動重量部目標位置を一定値としているが、時間と共に変化させてもよい。例えば、時間経過と共に能動重量部目標位置を減少させることで、車体のストッパ16が接地する際の衝撃を軽減させてもよい。
【0160】
また、本実施の形態においては、能動重量部推力の付加時間を倒立制御停止直前にあらかじめ決定しているが、倒立制御停止後の状態に応じて決定してもよい。例えば、搭乗部14の実際の位置と目標位置との偏差が所定の閾値を下回ったら推力付加を終了させることで、搭乗部14の移動をより確実に遂行させてもよい。
【0161】
続いて、能動重量部制御ECU23は、能動重量部推力を制御する(ステップS59)。なお、以降の動作、すなわち、ステップS59〜S62の動作は、前記第1の実施の形態における図8に示されるステップS28〜S31の動作と同様であるので、その説明を省略する。
【0162】
このように、本実施の形態においては、能動重量部推力パラメータと搭乗部14の位置に応じて付加する能動重量部推力を決定するので、より簡単で信頼性の高い倒立制御停止後の能動重量部推力付加制御を実行でき、その結果、より安全で安価な倒立型の車両10を提供することができる。
【0163】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0165】
10 車両
12 駆動輪
14 搭乗部
20 車両制御装置
21 主制御ECU
23 能動重量部制御ECU
73 蓄電手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、
前記車体に対して移動可能に取り付けられた能動重量部と、
前記駆動輪に与える駆動トルク及び前記能動重量部の位置を制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、
該車両制御装置は、前記車体の姿勢制御の停止直後から所定時間、前記能動重量部に推力を付加して前記能動重量部を車体に対して移動させ、前記車体を特定方向に傾斜させることを特徴とする車両。
【請求項2】
前記車両制御装置は、前記車体の姿勢制御の停止直後からの時間に応じて、前記能動重量部に付加する推力の大きさを決定する請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記車両制御装置は、前記時間の経過とともに前記能動重量部に付加する推力を減少させ、該推力の最終値を、前記能動重量部を前記特定方向と反対方向に移動させる負の値とする請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記車両制御装置は、
前記推力を制御する推力制御手段と、
前記車体の傾斜角を保持する推力値を前記推力制御手段に指令する第1推力指令手段と、
前記車体を特定方向へ傾斜させる推力値を前記推力制御手段に指令する第2推力指令手段と、
前記車体の姿勢制御の停止からの経過時間を取得する時間取得手段と、
前記能動重量部に推力を付加するタイムスケジュールに関するパラメータを決定するパラメータ決定手段とを備え、
前記第1推力指令手段からの指令値を前記推力制御手段が前記所定時間受信しないと、前記第2推力指令手段は、前記パラメータと前記経過時間とによって推力値を決定して前記推力制御手段に指令する請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項5】
前記パラメータは前記能動重量部に付加する推力の初期値、付加時間及び増加率である請求項4に記載の車両。
【請求項6】
前記車両制御装置は、
前記推力を制御する推力制御手段と、
前記車体の傾斜角を保持する推力値を前記推力制御手段に指令する第1推力指令手段と、
前記車体を特定方向へ傾斜させる推力値を前記推力制御手段に指令する第2推力指令手段と、
前記能動重量部の位置を取得する位置取得手段と、
前記能動重量部に付加する推力に関するパラメータを決定するパラメータ決定手段とを備え、
前記第1推力指令手段からの指令値を前記推力制御手段が前記所定時間受信しないと、前記第2推力指令手段は、前記パラメータと前記能動重量部の位置とによって推力値を決定して前記推力制御手段に指令する請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両。
【請求項7】
前記パラメータは前記能動重量部の目標位置及び前記能動重量部に付加する推力の付加時間である請求項6に記載の車両。
【請求項8】
前記パラメータは前記車体の姿勢制御の実行時に決定される請求項4又は6に記載の車両。
【請求項9】
能動重量部の重量を取得する重量取得手段を更に備え、
前記パラメータ決定手段は、前記重量取得手段によって取得された前記能動重量部の重量によって前記パラメータを補正する請求項4〜8のいずれか1項に記載の車両。
【請求項10】
前記車体の姿勢制御の停止後に前記推力制御手段に電力を供給する蓄電手段を更に有する請求項4又は6に記載の車両。
【請求項11】
前記車両制御装置は、起動直後に前記蓄電手段に電力を供給し、停止直前に前記蓄電手段から電力を回収する請求項10に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−234828(P2010−234828A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81988(P2009−81988)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】