説明

車体の後部構造

【課題】車両の後突により生じた車体の塑性変形についての修理が、容易かつ安価にできるようにする。
【解決手段】車体の後部構造は、左右一対のサイドメンバ3,3の各後端部に架設されるロアバックパネル4と、各サイドメンバ3の後端部側から後方に向かって突出する左右一対のクラッシュボックス18,18と、両クラッシュボックス18,18に架設されるクロスメンバ19とを備える。ロアバックパネル4とクロスメンバ19とのそれぞれ車両1の幅方向における中途部同士を、車両1の前後方向で互いに近接配置する。クロスメンバ19に対し後方から衝撃力Fが与えられたとき、この衝撃力Fによりクラッシュボックス18が塑性変形することにより前方移動したクロスメンバ19の中途部がロアバックパネル4の中途部に圧接して、このロアバックパネル4を塑性変形させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両サイドメンバの各後端部に架設されるロアバックパネルと、リヤバンパ用補強部材など、上記ロアバックパネルの後方に配置されるクロスメンバとを備えた車体の後部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車体の後部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車体の後部構造は、左右一対のサイドメンバと、これら両サイドメンバの各後端部に架設されるロアバックパネルと、上記各サイドメンバの後端部側から後方に向かって突出する左右一対のクラッシュボックスと、上記ロアバックパネルの後方に配置され、上記両クラッシュボックスに架設されるクロスメンバとを備えている。
【0003】
ここで、上記車両に対しその後方から何らかの物体が衝突(後突)し、上記クロスメンバに対し後方から衝撃力が与えられたとする。この場合、このクロスメンバを介し上記クラッシュボックスに伝達された上記衝撃力により、このクラッシュボックスは塑性変形することとされている。そして、この塑性変形により、上記衝撃力に基づくエネルギーが吸収されて、車両に与えられる衝撃力が緩和される。
【0004】
【特許文献1】特開2006−69279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記車両の後突時において、軽、小型車両等車両寸法に制限がある等の車両において、クラッシュボックスの長さが十分に確保できない場合、このクラッシュボックスの塑性変形のみでは、上記衝撃力に基づくエネルギーは十分には吸収されないことがある。この場合、上記衝撃力により上記サイドメンバが塑性変形させられたり、上記ロアバックパネルの上方のドア開口を開閉するバックドアが塑性変形させられたりするおそれを生じる。そして、このような塑性変形が生じた場合であって、この車両の使用を続けようとする場合には、上記クラッシュボックスの交換などの修理に加え、上記サイドメンバやバックドアについての修理が必要となる。
【0006】
ここで、上記サイドメンバは車体の骨格部材であり、また、バックドアは車体の機能、外観上重要なものである。このため、これらサイドメンバやバックドアの修理に際しては、これらを原形に精度よく復帰させることが要求される。しかし、このような修理は手間を要して煩雑であると共に、高価ともなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の後突により生じた車体の塑性変形についての修理が、容易かつ安価にできるようにすることである。
【0008】
請求項1の発明は、左右一対のサイドメンバ3,3と、これら両サイドメンバ3,3の各後端部に架設されるロアバックパネル4と、上記各サイドメンバ3の後端部側から後方に向かって突出する左右一対のクラッシュボックス18,18と、上記ロアバックパネル4の後方に配置され、上記両クラッシュボックス18,18に架設されるクロスメンバ19とを備えた車体の後部構造において、
上記ロアバックパネル4とクロスメンバ19とのそれぞれ車両1の幅方向における中途部同士を、車両1の前後方向で互いに近接配置し、上記クロスメンバ19に対し後方から衝撃力Fが与えられたとき、この衝撃力Fにより上記クラッシュボックス18が塑性変形することにより前方移動した上記クロスメンバ19の中途部が上記ロアバックパネル4の中途部に圧接して、このロアバックパネル4を塑性変形させるようにしたことを特徴とする車体の後部構造である。
【0009】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0010】
本発明による効果は、次の如くである。
【0011】
請求項1の発明は、左右一対のサイドメンバと、これら両サイドメンバの各後端部に架設されるロアバックパネルと、上記各サイドメンバの後端部側から後方に向かって突出する左右一対のクラッシュボックスと、上記ロアバックパネルの後方に配置され、上記両クラッシュボックスに架設されるクロスメンバとを備えた車体の後部構造において、
上記ロアバックパネルとクロスメンバとのそれぞれ車両の幅方向における中途部同士を、車両の前後方向で互いに近接配置し、上記クロスメンバに対し後方から衝撃力が与えられたとき、この衝撃力により上記クラッシュボックスが塑性変形することにより前方移動した上記クロスメンバの中途部が上記ロアバックパネルの中途部に圧接して、このロアバックパネルを塑性変形させるようにしている。
【0012】
このため、車両の後突などにより、上記したようにクロスメンバが衝撃力に基づき前方移動したときには、上記のように中途部同士が互いに近接している分、上記クロスメンバの前方移動のストロークにほぼ相応して上記ロアバックパネルが塑性変形することとなる。よって、ロアバックパネルに対しクロスメンバが後方に大きく離れていることに比べ、この発明によれば、上記ロアバックパネルに塑性変形がより確実に生じる。そして、上記ロアバックパネルとクラッシュボックスとの各塑性変形により、上記衝撃力に基づくエネルギーを、より効果的に吸収できて、車両に与えられる衝撃力が効果的に緩和される。
【0013】
この結果、車体の骨格部材であるサイドメンバや、車体の機能、外観上重要なバックドアが上記衝撃力により塑性変形させられる、ということが防止されることから、車両の後突により生じた車体の塑性変形についての修理は、容易かつ安価にできる。
【0014】
また、上記したように、衝撃力に基づくエネルギーを、より効果的に吸収できるため、上記クラッシュボックスをある程度小さい形状にさせることができる。よって、その分、車体についての意匠や設計の自由度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の車体の後部構造に関し、車両の後突により生じた車体の塑性変形についての修理が、容易かつ安価にできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0016】
即ち、車体の後部構造は、左右一対のサイドメンバと、これら両サイドメンバの各後端部に架設されるロアバックパネルと、上記各サイドメンバの後端部側から後方に向かって突出する左右一対のクラッシュボックスと、上記ロアバックパネルの後方に配置され、上記両クラッシュボックスに架設されるクロスメンバとを備える。
【0017】
上記ロアバックパネルとクロスメンバとのそれぞれ車両の幅方向における中途部同士を、車両の前後方向で互いに近接配置させる。上記クロスメンバに対し後方から衝撃力が与えられたとき、この衝撃力により上記クラッシュボックスが塑性変形することにより前方移動した上記クロスメンバの中途部が上記ロアバックパネルの中途部に圧接して、このロアバックパネルを塑性変形させるようにしている。
【実施例1】
【0018】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例1を添付の図1,2に従って説明する。
【0019】
図1,2において、符号1は自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両の進行方向の前方を示している。
【0020】
上記車両1の車体2は全体として板金製である。この車体2は、車両1の前後方向に延び、車体2の骨格部材とされる左右一対のサイドメンバ3,3と、車両1の幅方向に延び、上記両サイドメンバ3,3の各後端部に架設されるロアバックパネル4と、ほぼ水平方向に延び、上記両サイドメンバ3,3の上面に架設されると共に、その後端縁部が上記ロアバックパネル4の下部前面に突き合わせ結合(溶接)されるフロアパネル5とを備えている。そして、上記車体2の内部であって、上記フロアパネル5の上方空間が車室6とされている。上記ロアバックパネル4の上方が、上記車室6の内外を連通させるドア開口7とされ、このドア開口7はバックドア8により開閉可能に閉じられている。
【0021】
上記ロアバックパネル4は、それぞれ上下方向に延びて前後方向で互いに対面するインナ、アウタパネル9,10と、上下方向に延びてこれらインナ、アウタパネル9,10の後方に隣接するよう配置される補強パネル11とを備えている。これら各パネル9〜11の各上端縁部は互いに結合されて、ウェザーストリップ12が嵌着されている。また、上記各パネル9〜11の各下端縁部も互いに結合されている。
【0022】
前後で隣り合う上記パネル9〜11により閉断面構造が形成され、これにより、上記ロアバックパネル4には大きい強度と剛性とが確保されている。具体的には、上記インナパネル9とアウタパネル10との各上部間に第1閉空間14が形成され、上記アウタパネル10と補強パネル11との間に第2閉空間15が形成され、上記第1閉空間14の断面積よりも上記第2閉空間15のそれが十分に大きくされている。
【0023】
上記車体2は、上記ロアバックパネル4の後方近傍に位置して車両1の幅方向に延び、上記ロアバックパネル4をその後方から覆うように設けられる樹脂製のリヤバンパ17を備えている。このリヤバンパ17は、上記ロアバックパネル4に不図示の支持具により支持されている。
【0024】
また、上記車体2は、上記各サイドメンバ3の後端部側から後方に向かって突出する左右一対のクラッシュボックス18,18と、上記ロアバックパネル4の後方、かつ、リヤバンパ17の前方に配置されて車両1の幅方向に延び、上記各クラッシュボックス18の後面に架設されるクロスメンバ19とを備えている。具体的には、上記各クラッシュボックス18は、上記各サイドメンバ3の後端部の後方における上記ロアバックパネル4の部位の後面から後方に向かって突出している。
【0025】
上記クロスメンバ19は、上下方向で互いに対面する上、下板22,23と、これら上、下板22,23の後端縁同士を互いに一体的に結合させる側板24と、上記上、下板22,23の各前端縁に一体的に形成される上下一対の外向きフランジ25,25とを備えている。
【0026】
上記ロアバックパネル4とクロスメンバ19とのそれぞれ車両1の幅方向における中途部同士が、車両1の前後方向で互いに近接配置されている。具体的には、上記クロスメンバ19の長手方向の中途部(中央部)を前方に延長させるものとして、このクロスメンバ19の前面に、延長部28が取り付けられている。この延長部28は、上下方向で互いに対面する上、下板29,30と、これら上、下板29,30の前端縁同士を互いに一体的に結合させ、上記ロアバックパネル4の補強パネル11の後方近傍に配置される側板31と、上記上、下板29,30の各後端縁に一体的に形成される上下一対の外向きフランジ32,32とを備えている。
【0027】
そして、上記クロスメンバ19の各外向きフランジ25と、延長部28の各外向きフランジ32とが互いに結合されて、上記クロスメンバ19に延長部28が取り付けられ、上記クロスメンバ19と延長部28とによって、強度と剛性の大きい閉断面構造が形成されている。この場合、ロアバックパネル4の中途部とクロスメンバ19の中途部である上記延長部28との間にはわずかの隙間34が設けられている。
【0028】
車両1の後突時であって、上記リヤバンパ17およびクロスメンバ19に対しその後方から衝撃力Fが与えられたとする。この場合、このクロスメンバ19を介し上記各クラッシュボックス18に伝達された上記衝撃力Fにより、これら各クラッシュボックス18は前方に向かって塑性変形する。また、これらクラッシュボックス18の塑性変形と、上記衝撃力Fによるクロスメンバ19の前方に向かう屈曲とにより、上記ロアバックパネル4に対し相対的に前方移動した上記クロスメンバ19の中途部である上記延長部28が上記ロアバックパネル4の中途部に圧接して、このロアバックパネル4の補強パネル11を塑性変形させることとされている(図2中二点鎖線)。
【0029】
このため、車両1の後突などにより、上記したようにクロスメンバ19が衝撃力Fに基づき前方移動したときには、上記のように中途部同士が互いに近接している分、上記クロスメンバ19の前方移動のストロークSにほぼ相応して上記ロアバックパネル4の補強パネル11が塑性変形することとなる。よって、ロアバックパネルに対しクロスメンバが後方に大きく離れていることに比べ、この構成によれば、上記ロアバックパネル4に塑性変形がより確実に生じる。そして、上記ロアバックパネル4と各クラッシュボックス18との各塑性変形により、上記衝撃力Fに基づくエネルギーを、より効果的に吸収できて、車両1に与えられる衝撃力Fが効果的に緩和される。
【0030】
この結果、車体2の骨格部材であるサイドメンバ3や、車体2の機能、外観上重要なバックドア8が上記衝撃力Fにより塑性変形させられる、ということが防止されることから、車両1の後突により生じた車体2の塑性変形についての修理は、容易かつ安価にできる。
【0031】
また、上記したように、衝撃力Fに基づくエネルギーを、より効果的に吸収できるため、上記クラッシュボックス18をある程度小さい形状にさせることができる。よって、その分、車体2についての意匠や設計の自由度が向上する。
【0032】
また、前記したように、延長部28を上記クロスメンバ19とは別体として設け、このクロスメンバ19に結合している。
【0033】
このため、上記延長部28の大きさや形状を種々選択して上記クロスメンバ19に結合させる、ということが容易にできる。よって、上記衝撃力Fに基づくロアバックパネル4の塑性変形の変形量を所望量に調整することが容易にできて便利である。
【0034】
また、前記したように、ロアバックパネル4とクロスメンバ19との各中途部の間に隙間34を設けている。
【0035】
このため、車両1の走行時の振動により、上記ロアバックパネル4とクロスメンバ19との間で摩擦による異音が生じる、ということは防止される。
【0036】
なお、以上は図示の例によるが、上記衝撃力Fによるクロスメンバ19の屈曲は必須事項ではなく、この屈曲は生じなくてもよい。また、上記各クラッシュボックス18は、上記サイドメンバ3の後端部に直接取り付けてもよい。また、上記延長部28は、上記クロスメンバ19に一体的に形成してもよい。また、上記延長部28は、上記ロアバックパネル4の中途部を後方に延長するものとして、このロアバックパネル4の後面に結合してもよく、また、上記延長部28は、上記ロアバックパネル4の後面に一体的に形成してもよい。また、上記隙間34はなくてもよく、つまり、上記ロアバックパネル4の中途部とクロスメンバ19の延長部28とは互いに当接、もしくは連結されていてもよい。
【0037】
以下の図3は、実施例2を示している。この実施例2は、前記実施例1と構成、作用効果において多くの点で共通している。そこで、これら共通するものについては、図面に共通の符号を付してその重複した説明を省略し、異なる点につき主に説明する。また、これら実施例における各部分の構成を、本発明の目的、作用効果に照らして種々組み合せてもよい。
【実施例2】
【0038】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例2を添付の図3に従って説明する。
【0039】
図3において、上記クロスメンバ19の中途部が、前方に向かって平面視で台形状に突出するよう屈曲させられており、この屈曲部が上記延長部28とされている。そして、上記クロスメンバ19の中途部(延長部28)が上記ロアバックパネル4に近接配置させられている。
【0040】
このため、上記ロアバックパネル4とクロスメンバ19との各中途部を前後方向で互いに近接配置させることは、別体の延長部28を設けることなく達成される。よって、前記したような塑性変形の量を大きくするための車体2は、簡単な構成で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1を示し、車両の車体後部の簡略平面図である。
【図2】実施例1を示し、図1のII−II線矢視断面図である。
【図3】実施例2を示し、図1に相当する図である。
【符号の説明】
【0042】
1 車両
2 車体
3 サイドメンバ
4 ロアバックパネル
5 フロアパネル
6 車室
7 ドア開口
8 バックドア
9 インナパネル
10 アウタパネル
11 補強パネル
14 第1閉空間
15 第2閉空間
17 リヤバンパ
18 クラッシュボックス
19 クロスメンバ
28 延長部
34 隙間
F 衝撃力
S ストローク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のサイドメンバと、これら両サイドメンバの各後端部に架設されるロアバックパネルと、上記各サイドメンバの後端部側から後方に向かって突出する左右一対のクラッシュボックスと、上記ロアバックパネルの後方に配置され、上記両クラッシュボックスに架設されるクロスメンバとを備えた車体の後部構造において、
上記ロアバックパネルとクロスメンバとのそれぞれ車両の幅方向における中途部同士を、車両の前後方向で互いに近接配置し、上記クロスメンバに対し後方から衝撃力が与えられたとき、この衝撃力により上記クラッシュボックスが塑性変形することにより前方移動した上記クロスメンバの中途部が上記ロアバックパネルの中途部に圧接して、このロアバックパネルを塑性変形させるようにしたことを特徴とする車体の後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−96364(P2009−96364A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270557(P2007−270557)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】