車体側部構造
【課題】衝突時の車体剛性を確保しつつ、車体の軽量化を図ることを可能にするとともに、車体剛性の向上を図ることを可能にする。
【解決手段】屈曲部32における内フランジと内壁との角部の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、フロントピラーロア部31における内フランジと内壁との角部の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、屈曲部32における内フランジと内壁との角部を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部32における外壁と外フランジとの角部を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定される。
【解決手段】屈曲部32における内フランジと内壁との角部の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、フロントピラーロア部31における内フランジと内壁との角部の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、屈曲部32における内フランジと内壁との角部を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部32における外壁と外フランジとの角部を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の側部を外方から覆うサイドパネルアウタを備えた車体側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体側部構造は、少なくとも1つのドア開口が形成されたサイドパネルアウタとサイドパネルインナとを閉断面をなすよう接合してなる。サイドパネルアウタをドア開口後方部位にて車両前後に分割するときに、サイドパネルアウタの前部が高張力鋼板(SPC590 板厚t=0.8〜1.6)にて形成され、サイドパネルアウタの後部が通常の普通鋼板(SPC270、板厚t0.6〜0.75)にて形成される。
【0003】
ここで、SPCは冷間圧延鋼板、SPC590は引張強度590N/mm2 (MPa)以上の冷間圧延鋼板(高張力鋼板)、SPC270は引張強度270N/mm2 以上の冷間圧延鋼板(普通鋼板)をいう。なお、引張強度340N/mm2 以上の鋼板が高張力鋼板、高張力鋼板以外の鋼板が普通鋼板と呼ばれる。
【0004】
この車体側部構造によれば、サイドパネルアウタの前部を高張力鋼板にすることによりリインフォースメント(補強材)を廃止して、車体側部構造の軽量化が可能である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−334957公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1の車体側部構造は、サイドパネルアウタの前部が高張力鋼板が用いられている。高張力鋼板は、引張強度が増大する程、硬く脆い性質がある。従って、特許文献1の車体側部構造では、プレス成形において、例えば、ルーフレールの側壁下方のドア上縁との見切り部の角部、や上方のルーフモール溝部の側壁の角部などの、断面角R形状が小さい部分に亀裂が発生する虞がある。
【0007】
衝突時の車体剛性を確保しつつ、車体側部構造を一層軽量化するためには、SPC590よりも引張強度の高い、例えばSPC980以上の高張力鋼板の採用が望まれる。この場合には、さらにプレス成形が困難となる。
【0008】
本発明は、衝突時の車体剛性を確保しつつ、車体の軽量化を図ることができるとともに、車体剛性の向上を図ることができる車体側部構造を提供することを課題とする。また、プレス成形時の成形性の向上を図ることができるとともに、プレス成形時の品質の安定を図ることができる車体側部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車体の側部を外方から覆うサイドパネルアウタを備えた車体側部構造において、サイドパネルアウタに、少なくともフロントピラーの下部を構成する略垂直に形成されたフロントピラーロア部と、サイドシルを構成する車体前後方向に延ばされたサイドシル部と、これらのサイドシル部及びフロントピラーロア部を略L字状に連結する屈曲部と、を備え、これらの屈曲部、サイドシル部及びフロントピラーロア部が、高張力鋼板の冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成され、ハット断面形状が、車体内側に形成され且つドア開口に沿わせて形成される内フランジと、この内フランジから車幅外方に向かう内壁と、この内壁から車幅外面に沿って形成される側壁と、この側壁から車幅内方に向かう外壁と、この外壁から垂下する外フランジと、からなり、屈曲部における内フランジと内壁との角部の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、フロントピラーロア部における内フランジと内壁との角部の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、屈曲部における内フランジと内壁との角部を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部における外壁と外フランジとの角部を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定されることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、屈曲部の断面深さを一定とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、サイドシル部に、凹みビード形状を付与することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、サイドシル部における外壁の傾斜角度を、屈曲部における外壁より緩やかに形成することを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、内壁と側壁との角部の断面視での半径は、屈曲部ではドアシールに沿った形状とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以下の効果を奏する。
請求項1に係る発明では、車体側部構造に、車体の側部を外方から覆うサイドパネルアウタを備える。
サイドパネルアウタに、少なくともフロントピラーの下部を構成する略垂直に形成されたフロントピラーロア部と、サイドシルを構成する車体前後方向に延ばされたサイドシル部と、これらのサイドシル部及びフロントピラーロア部を略L字状に連結する屈曲部と、を備える。
屈曲部、サイドシル部及びフロントピラーロア部が、高張力鋼板の冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成されたので、リインフォースメント(補強材)を廃止し、車体の軽量化を図ることができるとともに、車体剛性の向上を図ることができる。
さらに、ハット断面形状が、車体内側に形成され且つドア開口に沿わせて形成される内フランジと、この内フランジから車幅外方に向かう内壁と、この内壁から車幅外面に沿って形成される側壁と、この側壁から車幅内方に向かう外壁と、この外壁から垂下する外フランジと、からなり、屈曲部における内フランジと内壁との角部の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、フロントピラーロア部における内フランジと内壁との角部の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、屈曲部における内フランジと内壁との角部を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部における外壁と外フランジとの角部を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定されたので、ハット断面形状を構成する内壁、側壁及び外壁の断面における長さを断面長さとするときに、屈曲部における断面長さを、フロントピラーロア部における断面長さに近い値にすることができる。これにより、冷間プレス成形時の屈曲部への材料流れをスムーズにして屈曲部での亀裂を防止することができる。この結果、高張力鋼板を用いるサイドパネルアウタの屈曲部の冷間プレスが可能となり、車体強度の向上を図ることができる。
【0015】
請求項2に係る発明では、屈曲部の断面深さを一定としたので、断面長さの変化を抑制することができる。これにより、プレス成形が容易となる。すなわち、屈曲部の断面深さを一定としたので、プレス成形時の成形性の向上を図ることができるとともに、プレス成形時の品質の安定を図ることができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、サイドシル部に、凹みビード形状を付与したので、サイドシル部の形状の安定化を図ることができる。これにより、プレス成形後のサイドシル部の変形を防止することができるとともに、屈曲部の形状を安定させることができる。
さらに、サイドシル部に、凹みビード形状を付与し、プレス成形後のサイドシル部の変形を防止することで、サイドパネルアウタの他の部分の形状安定化に寄与することができる。なお、サイドシル部の強度及び剛性の向上にも寄与する。
【0017】
請求項4に係る発明では、サイドシル部における外壁の傾斜角度を、屈曲部における外壁より緩やかに形成することで、材料の流れを改善し、屈曲部における外フランジのシワを抑制することができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、内壁と側壁との角部の断面視での半径は、屈曲部ではドアシールに沿った形状としたので、ドアシールが容易になるとともに、角部のRが緩やかになり、サイドパネルアウタの成形性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る車体側部構造を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示される車体側部構造のサイドパネルアウタの斜視図である。
【図3】図1に示される車体側部構造のサイドシルの断面図である。
【図4】図1に示される車体側部構造のフロントピラーの断面図である。
【図5】図1に示される車体側部構造のサイドパネルアウタの斜視図である。
【図6】図1に示される車体側部構造のサイドパネルアウタの側面図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】図6の8−8線断面図である。
【図9】図6の9−9線断面図である。
【図10】図7に示されたフロントピラーロア部の断面長さの説明図である。
【図11】図8に示された屈曲部の断面長さの説明図である。
【図12】図9に示されたサイドシル部の断面長さの説明図である。
【図13】成形前と成形後における周長差の検討図である。
【図14】本発明に係る車体側部構造の比較検討図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0021】
図1〜図4に示されたように、車体側部構造10は、車体の側面を覆うサイドパネルアウタ14と、このサイドパネルアウタ14のサイドシル部33を外方から覆うサイドシルガーニッシュ15と、を備える。
サイドパネルアウタ14は、サイドパネルインナ19と閉断面をなすように接合される。
サイドパネルインナ19は、サイドシルインナ21、フロントピラインナ27(フロントピラーロアインナ22を含む)、センタピラーインナ25、リヤピラーインナ26を有する。
【0022】
サイドパネルアウタ14は、サイドシルインナ21を車体外方から覆うサイドシル部33と、フロントピラーロアインナ22を車体外方から覆うフロントピラーロア部31と、センタピラーインナ25を車体外方から覆うセンタピラー部35と、リヤピラーインナ26を車体外方から覆うリヤピラー部36と、フロントピラーインナ27の傾斜部28及びルーフレールインナ29を車体外方から覆うルーフレール部37と、ルーフレール部37を内側から補強するルーフレールスチフナ38と、からなる。
【0023】
サイドシル部33は、車体前後方向に直線的に延ばされる。フロントピラーロア部31は、サイドシル部33の前端から略垂直に立ち上げられる。
サイドシル部33及びフロントピラーロア部31は、屈曲部32を介して一体的に形成される。すなわち、フロントピラーロア部31、屈曲部32及びサイドシル部33は、L字部材41を構成する。
【0024】
センタピラー部35は、サイドシル部33の中間から略垂直にI字状に延ばされる部材である。ルーフレール部37及びリヤピラー部36は、同一の材料で一体的に形成される複合部材42である。ルーフレールスチフナ38は、ルーフレール部37に沿わせて形成される。
【0025】
すなわち、サイドパネルアウタ14は、別体で形成されたL字部材41、複合部材42、センタピラー部35及びルーフレールスチフナ38が接合されて形成される。
【0026】
図3に示されたように、サイドシル16は、サイドパネルアウタ14のサイドシル部33と、このサイドシル部33が合わせられ、閉断面が形成されるサイドシルインナ21とからなる。サイドシル16には、サイドシル部33の側壁73及び外壁74を覆うサイドシルガーニッシュ15が設けられる。
【0027】
図4に示されたように、フロントピラーロア17は、サイドパネルアウタ14のフロントピラーロア部31と、このフロントピラーロア部31が合わされ閉断面が形成されるフロントピラーロアインナ22とからなる。
【0028】
図1〜図4に示されたように、車体側部構造10では、車体の前後方向に延ばされたサイドシルインナ21と、このサイドシルインナ21の先端から上方に立ち上げられたフロントピラーロアインナ22とを少なくとも備え、これらのフロントピラーロアインナ22及びサイドシルインナ21に車幅外方からサイドパネルアウタ14で覆われる。
【0029】
図5〜図6に示されるように、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31が一体的に形成されるL字部材41は、SPC980等、高張力鋼板の冷間圧延鋼板で形成される。
【0030】
SPCとは冷間圧延鋼板、SPC980は、引張強度980N/mm2 (MPa)を超える冷間圧延鋼板をいう。また、SPC590は、引張強度590N/mm2 以上の冷間圧延鋼板、SPC270は、引張強度270N/mm2 以上の冷間圧延鋼板をいう。
ところで、引張強度340N/mm2 以上の冷間圧延鋼板を高張力鋼板、引張強度270N/mm2 以上の冷間圧延鋼板は、高張力鋼板に対して普通鋼板と呼ばれる。
【0031】
ところで、高張力鋼板は、上記に示したように材料の引張強度は高い。すなわち、高張力鋼板を使用することで、製品の強度を高めることができる。これにより、従来使用していたスチフナを省いたり、材料の板厚を薄くすることで、製品の軽量化やコストの低減を図ることができる。サイドパネルアウタ内部にリインフォースメント(スチフナ)を設けれる場合には、車体重量の増加を招くことになる。
一方、高張力鋼板は、材料の延展性については普通鋼板に劣る。そのため、人が見るようなサイドパネルアウタなどの外観部は、デザイン上、曲げRが小さく設定される部位を有し、高張力鋼板は使用されなかった。主に、高張力鋼板は、サイドパネルアウタ内部のリインフォースメントに使用されていた。
【0032】
図5〜図12に示されたように、サイドパネルアウタ14のL字部材41は、フロントピラー18の下部を構成する略垂直に形成されたフロントピラーロア部(垂直部)31と、サイドシル16を構成する車体前後方向に延ばされたサイドシル部(水平部)33と、これらのサイドシル部33及びフロントピラーロア部31を略L字状に連結する屈曲部32と、を備える。
【0033】
屈曲部32、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31は、引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成される。
【0034】
すなわち、ハット断面形状(フロントピラーロア部31、屈曲部32及びサイドシル部33)は、車体内側に形成され且つドア開口44に沿わせて形成される内フランジ51,61,71と、内フランジ51,61,71から車幅外方に向かう内壁(内面)52,62,72と、この内壁52,62,72から車幅外面に沿って形成される側壁(側面部)53,63,73と、側壁53,63,73から車幅内方に向かう外壁(外面)54,64,74と、外壁54,64,74から垂下する外フランジ55,65,75と、から構成される。
【0035】
ここで、フロントピラーロア部31における、内フランジ51と内壁52との角部56の曲げR(断面視での半径)をFa、内壁52と側壁53との角部(稜線)57の曲げR(断面視での半径)をFb、側壁53と外壁54との角部(稜線)58の曲げR(断面視での半径)をFc、外壁54と外フランジ55との角部59の曲げR(断面視での半径)をFdとする。
【0036】
また、屈曲部32における、内フランジ61と内壁62との角部66の曲げR(断面視での半径)をKa、内壁62と側壁63との角部(稜線)67の曲げR(断面視での半径)をKb、側壁63と外壁64との角部(稜線)68の曲げR(断面視での半径)をKc、外壁64と外フランジ65との角部69の曲げR(断面視での半径)をKdとする。
曲げR(断面視での半径)をKbは、二点鎖線で示すドアシール43に沿わせた半径に設定した。
【0037】
さらに、サイドシル部33における、内フランジ71と内壁72との角部76の曲げR(断面視での半径)をSa、内壁72と側壁73との角部(稜線)77の曲げR(断面視での半径)をSb、側壁73と外壁74との角部(稜線)78の曲げR(断面視での半径)をSc、外壁74と外フランジ75との角部の曲げR(断面視での半径)をSdとする。
【0038】
一例としてFa=R18(半径18mm)に設定され、Ka=R24(半径24mm)に設定され、Sa=R15(半径15mm)に設定される。なお、Fa=R18、Ka=R24及びSa=R15の値は、それぞれ±20%を許容範囲として考えられる。
また、Fb=Kb=Sb=R18(半径18mm)、一定に形成される。Fc=Kc=Sc=R18(半径18mm)一定に形成される。Fd=Kd=Sd=R18(半径18mm)一定に形成される。
【0039】
すなわち、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の断面視での半径を屈曲部断面半径(曲げR)Ka、フロントピラーロア部31における内フランジ51と内壁52との角部56の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径(曲げR)Faとするときに、屈曲部断面半径(曲げR)Ka及びフロントピラーロア部断面半径(曲げR)Faの関係がKa≧4/3Faに形成される。
【0040】
屈曲部32では、材料を積極的に流入させたい部分である。従って、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の曲げR(Ka=R24)を、フロントピラーロア部31の曲げR(Fa=R18)や、サイドシル部33の曲げR(Sa=R15)よりも大きく設定した。これにより、屈曲部32への材料流れを容易にして、内フランジ61と内壁62との角部66、内壁62と側壁63との角部(稜線)67、側壁63と外壁64との角部(稜線)68及び外壁64と外フランジ65との角部69の亀裂を防止するとともに、内フランジ61の亀裂や外フランジ65のフランジシワも同時に抑制する。
【0041】
図5に示されたように、サイドシル部33の内壁72の高さを、サイドシル部33の断面幅Dsとするときに、Dsは一定に形成される。一例としてDs=61mmに形成される。Dsの値は、±30%を許容範囲として考えられる。
【0042】
サイドシル部33の断面深さを一定にしてフロントピラーロア部31に繋げることで、キレツの発生しやすい屈曲部32への材料流れを容易にし、且つ後述する断面長さの変化を抑制する。これにより、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31が一体的に形成されるL字部材41の、SPC980等、高張力鋼板の冷間圧延鋼板での成形が可能となる。
【0043】
図10〜図12に示されたように(図7〜図9も参照)、フロントピラーロア部31における、内壁52、側壁53、外壁54を構成する板材の中心の長さ(曲げ半径Fa〜Fdを含む)f1〜f7の合計を断面長さ(断面展開長さ)L1とする。また、屈曲部32における、内壁62、側壁63、外壁64を構成する板材の中心の長さ(曲げ半径Ka〜Kdを含む)k1〜k7の合計を断面長さ(断面展開長さ)L2とする。さらに、サイドシル部33における、内壁72、側壁73、外壁74を構成する板材の中心の長さ(曲げ半径Sa〜Sdを含む)s1〜s7の合計を、断面長さ(断面展開長さ)L3とする。
【0044】
このときに、本発明に係る車体側部構造10では、断面長さ(断面展開長さ)L1〜L3をほぼ一定に近づけるようにした。
屈曲部32の断面深さDk(図5参照)を一定とした。先に示したサイドシル部33の断面深さDsとの関係はDs≒Dkである。
【0045】
また、フロントピラーロア部31における側壁53と外壁54とのなす角度を傾斜角度θF、屈曲部32における側壁63と外壁64とのなす角度を傾斜角度θK、サイドシル部33における側壁73と外壁74とのなす角度を傾斜角度θSとする。このときに、傾斜角度θF、θK、θSの関係は、θF>θK>θSに形成される。
【0046】
すなわち、サイドシル部33の外壁74は、フロントピラーロア部31及び屈曲部32における外壁54,64に比べて傾斜が緩やかに形成される。
【0047】
さらに、サイドシル部33の側壁73には凹みビード83が形成される。これは、サイドシル部33の断面長さ(断面展開長さ)を、フロントピラーロア部31及び屈曲部32に近づけるための配慮と、サイドシル部33の形状の安定性を保つための配慮である。
【0048】
なお、図3に示されたように、サイドシル部33の側壁73にはサイドシルガーニッシュ15を取付けるので、凹みビード83を隠すことができる。
【0049】
図6に示されたように、側面視で屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の半径を内周半径Na、側面視で屈曲部32における外壁64と外フランジ65との角部69の半径を外周半径Gaとする。一例として、Na=R150(半径150mm)に設定され、Ga=R100(半径100mm)に設定される。Na=R150及びGa=R100の値は、それぞれ±20%を許容範囲と考えられる。
【0050】
すなわち、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部32における外壁64と外フランジ65との角部69を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定される。
【0051】
これにより、屈曲部32における断面長さ(断面展開長さ)L2を角度A1の範囲で緩やかに変化できるようにした。屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の曲げR(Ka=24)を、フロントピラーロア部31の曲げR(Fa=R18)や、サイドシル部33の曲げR(Sa=R15)よりも大きく設定したことと相まって、材料の流れを促進することができる。これにより、屈曲部32のフランジシワや亀裂を抑制することができる。
【0052】
図13(a)に示されるように、ブランク材91は、矩形の板材の一つのコーナに、所定の半径Rkにて円弧形状の切り欠き部92を形成したものである。ブランク材91の円弧形状の円周の長さを周長B1とするときに、周長B1はB1=2πRkで表せる。ブランク材91の円弧形状の切り欠き部92に沿わせて図13(b)に、所定深さd1の絞り成形を施した絞り加工後の製品94が示される。例えば、円弧形状の切り欠き部92の半径の移動量がEとする場合に、絞り加工後の円弧状の切り欠き部93の半径はRk+Eで表せる。従って、絞り加工後の円弧形状の円周の長さを周長B2とするときに、周長B2はB2=2π(Rk+E)で表せる。
【0053】
例えば、Eが実測値で50mmのときに、Rkを100に設定すると、成形前の周長B1はB1=2π×100、成形後の周長B2はB2=2π×150となり、成形後に周長は50%変化する。Rを200に設定すると、成形前の周長B1はB1=2π×200、成形後の周長B2はB2=2π×250となり、成形後に周長は25%の変化でおさまる。すなわち、初期のR値が大きい方が、成形前後での周長差を小さくすることができると考えられる。
【0054】
以上の検討結果から、本願の車体側部構造10では、図6に示されたように、側面視で屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の半径を内周半径Naを、Na=R150(半径150mm)に設定した。
【0055】
図14(a)に比較例のL字部材(アウタサイドパネル)200が示される。比較例のL字部材(アウタサイドパネル)200は、サイドシル部203及びフロントピラーロア部201が一体的に形成される。L字部材200は、SPC270(引張強度270N/mm2 以上の冷間圧延鋼板)等で成形される従来構造のL字部材の金型を用いて、SPC980(引張強度980N/mm2 以上の冷間圧延鋼板)を使用してプレス形成された試作サンプルである。
【0056】
SPC980を用いて、従来構造のL字部材(サイドパネルアウタ)の金型を使用してプレス成形する。このL字部材200は、ハット断面形状で稜線を含む4つ断面R部204a〜204dを有し、それぞれ周長に沿って同一曲げRとして設計されている。先にも説明したように、SPC980は延性が低いのでプレス成形時に、屈曲部202の内側における断面R部204の材料流れが抑制される。
【0057】
すなわち、フロントピラーロア部201の内側から、屈曲部202の内側へ向け材料流れが抑制される。L字部材(アウタサイドパネル)200では、屈曲部202の内フランジ205と内壁211との角部(断面R部)204dの内周RuがR132(実施例の内周NaはR150に設定)、外周RsがR50である。内フランジ205と内壁211との角部(断面R部)204dの内周Ruが実施例の内周Naに比べ小さいため、成形の前後での周長差は大きい。よって、内フランジ205の内側でのフランジキレツ206が発生した。さらに、断面深さが一定でないため屈曲部202での周方向の凸部分断面長さの変化が大きく、断面R部204a〜204dの小さいことと合わさり、材料流れが阻害されフランジシワ209や亀裂207,208が発生した。
【0058】
図14(b)に示されたように、実施例の車体側部構造10では、屈曲部32、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31が、引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成される。また、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成される。内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定される。
【0059】
実施例の車体側部構造10では、屈曲部32、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31が、引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成されたので、リインフォースメント(補強材)を廃止し、車体の軽量化を図ることができるとともに、車体剛性の向上を図ることができる。
【0060】
さらに、ハット断面形状が、車体内側に形成され且つドア開口44に沿わせて形成される内フランジ51,61,71と、内フランジ51,61,71から車幅外方に向かう内壁(内面)52,62,72と、この内壁52,62,72から車幅外面に沿って形成される側壁(側面部)53,63,73と、側壁53,63,73から車幅内方に向かう外壁(外面)54,64,74と、外壁54,64,74から垂下する外フランジ55,65,75と、からなり、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、フロントピラーロア部31における内フランジ51と内壁52との角部56の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部32における外壁64と外フランジ65との角部69を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定されたので、例えば、ハット断面形状を構成する内壁52,62,72、側壁53,63,73及び外壁54,64,74の断面における長さを断面長さL1,L2,L3とするときに、屈曲部32における断面長さL2を、フロントピラーロア部31における断面長さL1に近い値にすることができる。
【0061】
これにより、冷間プレス成形時の屈曲部32への材料流れをスムーズにして屈曲部32での亀裂を防止することができる。この結果、高張力鋼板を用いるサイドパネルアウタ14の屈曲部32の冷間プレスが可能となり、車体強度の向上を図ることができる。
【0062】
また、屈曲部32の断面深さDkを一定としたので、断面長さの変化を抑制することができる。これにより、プレス成形が容易となる。すなわち、屈曲部32の断面深さDkを一定としたので、プレス成形時の成形性の向上を図ることができるとともに、プレス成形時の品質の安定を図ることができる。
【0063】
サイドシル部33に、凹みビード(形状)83を付与したので、サイドシル部33の形状の安定化を図ることができる。これにより、プレス成形後のサイドシル部33の変形を防止することができるとともに、屈曲部32の形状を安定させることができる。
【0064】
さらに、サイドシル部33に、凹みビード(形状)83を付与し、プレス成形後のサイドシル部33の変形を防止することで、サイドパネルアウタ14の他の部分の形状安定化に寄与することができる。なお、サイドシル部33の強度及び剛性の向上にも寄与する。
【0065】
サイドシル部33における外壁74の傾斜角度θSを、屈曲部32における外壁64より緩やかに形成することで、材料の流れを改善し、屈曲部32における外フランジ65のシワを抑制することができる。
【0066】
車体側部構造10では、内壁62と側壁33との角部の断面視での半径Kbは、屈曲部32ではドアシールに沿った形状としたので、ドアシールが容易になるとともに、角部のRが緩やかになり、サイドパネルアウタの成形性の向上を図ることができる。
【0067】
尚、本発明に係る車体側部構造10は、図2に示すように、フロントピラーロア部31と、サイドシル部33と、これらのサイドシル部33及びフロントピラーロア部31に連続的に形成される屈曲部32に、引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板が用いられたが、これに限るものではなく、他の部分にも引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板を用いることを妨げるものではない。
【0068】
本発明に係る車体側部構造10は、図3に示すように、サイドシル部33の内壁72及び外壁74に凹みビード83形状を付与したが、これに限るものではなく、サイドシル部33の他の部分に凹みビード形状を付与するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る車体側部構造は、車体の前後方向に延ばされたサイドシルインナと、このサイドシルインナの先端から上方に立ち上げられたフロントピラーインナとを少なくとも備え、これらのフロントピラーインナ及びサイドシルインナに車幅外方から覆うサイドパネルアウタを備えた乗用車への適用に好適である。
【符号の説明】
【0070】
10…車体側部構造、14…サイドパネルアウタ、16…サイドシル、18…フロントピラー、31…フロントピラーロア部、32…屈曲部、33…サイドシル部、51,61,71…内フランジ、52,62,72…内壁、53,63,73…側壁、54,64,74…外壁、55,65,75…外フランジ、56…角部、66…角部、69…角部、83…凹みビード、Fa…フロントピラーロア部断面半径、Ga…外周半径、Ka…屈曲部断面半径、Na…内周半径、θS…傾斜角度。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の側部を外方から覆うサイドパネルアウタを備えた車体側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体側部構造は、少なくとも1つのドア開口が形成されたサイドパネルアウタとサイドパネルインナとを閉断面をなすよう接合してなる。サイドパネルアウタをドア開口後方部位にて車両前後に分割するときに、サイドパネルアウタの前部が高張力鋼板(SPC590 板厚t=0.8〜1.6)にて形成され、サイドパネルアウタの後部が通常の普通鋼板(SPC270、板厚t0.6〜0.75)にて形成される。
【0003】
ここで、SPCは冷間圧延鋼板、SPC590は引張強度590N/mm2 (MPa)以上の冷間圧延鋼板(高張力鋼板)、SPC270は引張強度270N/mm2 以上の冷間圧延鋼板(普通鋼板)をいう。なお、引張強度340N/mm2 以上の鋼板が高張力鋼板、高張力鋼板以外の鋼板が普通鋼板と呼ばれる。
【0004】
この車体側部構造によれば、サイドパネルアウタの前部を高張力鋼板にすることによりリインフォースメント(補強材)を廃止して、車体側部構造の軽量化が可能である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−334957公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1の車体側部構造は、サイドパネルアウタの前部が高張力鋼板が用いられている。高張力鋼板は、引張強度が増大する程、硬く脆い性質がある。従って、特許文献1の車体側部構造では、プレス成形において、例えば、ルーフレールの側壁下方のドア上縁との見切り部の角部、や上方のルーフモール溝部の側壁の角部などの、断面角R形状が小さい部分に亀裂が発生する虞がある。
【0007】
衝突時の車体剛性を確保しつつ、車体側部構造を一層軽量化するためには、SPC590よりも引張強度の高い、例えばSPC980以上の高張力鋼板の採用が望まれる。この場合には、さらにプレス成形が困難となる。
【0008】
本発明は、衝突時の車体剛性を確保しつつ、車体の軽量化を図ることができるとともに、車体剛性の向上を図ることができる車体側部構造を提供することを課題とする。また、プレス成形時の成形性の向上を図ることができるとともに、プレス成形時の品質の安定を図ることができる車体側部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車体の側部を外方から覆うサイドパネルアウタを備えた車体側部構造において、サイドパネルアウタに、少なくともフロントピラーの下部を構成する略垂直に形成されたフロントピラーロア部と、サイドシルを構成する車体前後方向に延ばされたサイドシル部と、これらのサイドシル部及びフロントピラーロア部を略L字状に連結する屈曲部と、を備え、これらの屈曲部、サイドシル部及びフロントピラーロア部が、高張力鋼板の冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成され、ハット断面形状が、車体内側に形成され且つドア開口に沿わせて形成される内フランジと、この内フランジから車幅外方に向かう内壁と、この内壁から車幅外面に沿って形成される側壁と、この側壁から車幅内方に向かう外壁と、この外壁から垂下する外フランジと、からなり、屈曲部における内フランジと内壁との角部の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、フロントピラーロア部における内フランジと内壁との角部の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、屈曲部における内フランジと内壁との角部を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部における外壁と外フランジとの角部を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定されることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、屈曲部の断面深さを一定とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、サイドシル部に、凹みビード形状を付与することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、サイドシル部における外壁の傾斜角度を、屈曲部における外壁より緩やかに形成することを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、内壁と側壁との角部の断面視での半径は、屈曲部ではドアシールに沿った形状とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以下の効果を奏する。
請求項1に係る発明では、車体側部構造に、車体の側部を外方から覆うサイドパネルアウタを備える。
サイドパネルアウタに、少なくともフロントピラーの下部を構成する略垂直に形成されたフロントピラーロア部と、サイドシルを構成する車体前後方向に延ばされたサイドシル部と、これらのサイドシル部及びフロントピラーロア部を略L字状に連結する屈曲部と、を備える。
屈曲部、サイドシル部及びフロントピラーロア部が、高張力鋼板の冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成されたので、リインフォースメント(補強材)を廃止し、車体の軽量化を図ることができるとともに、車体剛性の向上を図ることができる。
さらに、ハット断面形状が、車体内側に形成され且つドア開口に沿わせて形成される内フランジと、この内フランジから車幅外方に向かう内壁と、この内壁から車幅外面に沿って形成される側壁と、この側壁から車幅内方に向かう外壁と、この外壁から垂下する外フランジと、からなり、屈曲部における内フランジと内壁との角部の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、フロントピラーロア部における内フランジと内壁との角部の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、屈曲部における内フランジと内壁との角部を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部における外壁と外フランジとの角部を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定されたので、ハット断面形状を構成する内壁、側壁及び外壁の断面における長さを断面長さとするときに、屈曲部における断面長さを、フロントピラーロア部における断面長さに近い値にすることができる。これにより、冷間プレス成形時の屈曲部への材料流れをスムーズにして屈曲部での亀裂を防止することができる。この結果、高張力鋼板を用いるサイドパネルアウタの屈曲部の冷間プレスが可能となり、車体強度の向上を図ることができる。
【0015】
請求項2に係る発明では、屈曲部の断面深さを一定としたので、断面長さの変化を抑制することができる。これにより、プレス成形が容易となる。すなわち、屈曲部の断面深さを一定としたので、プレス成形時の成形性の向上を図ることができるとともに、プレス成形時の品質の安定を図ることができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、サイドシル部に、凹みビード形状を付与したので、サイドシル部の形状の安定化を図ることができる。これにより、プレス成形後のサイドシル部の変形を防止することができるとともに、屈曲部の形状を安定させることができる。
さらに、サイドシル部に、凹みビード形状を付与し、プレス成形後のサイドシル部の変形を防止することで、サイドパネルアウタの他の部分の形状安定化に寄与することができる。なお、サイドシル部の強度及び剛性の向上にも寄与する。
【0017】
請求項4に係る発明では、サイドシル部における外壁の傾斜角度を、屈曲部における外壁より緩やかに形成することで、材料の流れを改善し、屈曲部における外フランジのシワを抑制することができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、内壁と側壁との角部の断面視での半径は、屈曲部ではドアシールに沿った形状としたので、ドアシールが容易になるとともに、角部のRが緩やかになり、サイドパネルアウタの成形性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る車体側部構造を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示される車体側部構造のサイドパネルアウタの斜視図である。
【図3】図1に示される車体側部構造のサイドシルの断面図である。
【図4】図1に示される車体側部構造のフロントピラーの断面図である。
【図5】図1に示される車体側部構造のサイドパネルアウタの斜視図である。
【図6】図1に示される車体側部構造のサイドパネルアウタの側面図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】図6の8−8線断面図である。
【図9】図6の9−9線断面図である。
【図10】図7に示されたフロントピラーロア部の断面長さの説明図である。
【図11】図8に示された屈曲部の断面長さの説明図である。
【図12】図9に示されたサイドシル部の断面長さの説明図である。
【図13】成形前と成形後における周長差の検討図である。
【図14】本発明に係る車体側部構造の比較検討図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0021】
図1〜図4に示されたように、車体側部構造10は、車体の側面を覆うサイドパネルアウタ14と、このサイドパネルアウタ14のサイドシル部33を外方から覆うサイドシルガーニッシュ15と、を備える。
サイドパネルアウタ14は、サイドパネルインナ19と閉断面をなすように接合される。
サイドパネルインナ19は、サイドシルインナ21、フロントピラインナ27(フロントピラーロアインナ22を含む)、センタピラーインナ25、リヤピラーインナ26を有する。
【0022】
サイドパネルアウタ14は、サイドシルインナ21を車体外方から覆うサイドシル部33と、フロントピラーロアインナ22を車体外方から覆うフロントピラーロア部31と、センタピラーインナ25を車体外方から覆うセンタピラー部35と、リヤピラーインナ26を車体外方から覆うリヤピラー部36と、フロントピラーインナ27の傾斜部28及びルーフレールインナ29を車体外方から覆うルーフレール部37と、ルーフレール部37を内側から補強するルーフレールスチフナ38と、からなる。
【0023】
サイドシル部33は、車体前後方向に直線的に延ばされる。フロントピラーロア部31は、サイドシル部33の前端から略垂直に立ち上げられる。
サイドシル部33及びフロントピラーロア部31は、屈曲部32を介して一体的に形成される。すなわち、フロントピラーロア部31、屈曲部32及びサイドシル部33は、L字部材41を構成する。
【0024】
センタピラー部35は、サイドシル部33の中間から略垂直にI字状に延ばされる部材である。ルーフレール部37及びリヤピラー部36は、同一の材料で一体的に形成される複合部材42である。ルーフレールスチフナ38は、ルーフレール部37に沿わせて形成される。
【0025】
すなわち、サイドパネルアウタ14は、別体で形成されたL字部材41、複合部材42、センタピラー部35及びルーフレールスチフナ38が接合されて形成される。
【0026】
図3に示されたように、サイドシル16は、サイドパネルアウタ14のサイドシル部33と、このサイドシル部33が合わせられ、閉断面が形成されるサイドシルインナ21とからなる。サイドシル16には、サイドシル部33の側壁73及び外壁74を覆うサイドシルガーニッシュ15が設けられる。
【0027】
図4に示されたように、フロントピラーロア17は、サイドパネルアウタ14のフロントピラーロア部31と、このフロントピラーロア部31が合わされ閉断面が形成されるフロントピラーロアインナ22とからなる。
【0028】
図1〜図4に示されたように、車体側部構造10では、車体の前後方向に延ばされたサイドシルインナ21と、このサイドシルインナ21の先端から上方に立ち上げられたフロントピラーロアインナ22とを少なくとも備え、これらのフロントピラーロアインナ22及びサイドシルインナ21に車幅外方からサイドパネルアウタ14で覆われる。
【0029】
図5〜図6に示されるように、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31が一体的に形成されるL字部材41は、SPC980等、高張力鋼板の冷間圧延鋼板で形成される。
【0030】
SPCとは冷間圧延鋼板、SPC980は、引張強度980N/mm2 (MPa)を超える冷間圧延鋼板をいう。また、SPC590は、引張強度590N/mm2 以上の冷間圧延鋼板、SPC270は、引張強度270N/mm2 以上の冷間圧延鋼板をいう。
ところで、引張強度340N/mm2 以上の冷間圧延鋼板を高張力鋼板、引張強度270N/mm2 以上の冷間圧延鋼板は、高張力鋼板に対して普通鋼板と呼ばれる。
【0031】
ところで、高張力鋼板は、上記に示したように材料の引張強度は高い。すなわち、高張力鋼板を使用することで、製品の強度を高めることができる。これにより、従来使用していたスチフナを省いたり、材料の板厚を薄くすることで、製品の軽量化やコストの低減を図ることができる。サイドパネルアウタ内部にリインフォースメント(スチフナ)を設けれる場合には、車体重量の増加を招くことになる。
一方、高張力鋼板は、材料の延展性については普通鋼板に劣る。そのため、人が見るようなサイドパネルアウタなどの外観部は、デザイン上、曲げRが小さく設定される部位を有し、高張力鋼板は使用されなかった。主に、高張力鋼板は、サイドパネルアウタ内部のリインフォースメントに使用されていた。
【0032】
図5〜図12に示されたように、サイドパネルアウタ14のL字部材41は、フロントピラー18の下部を構成する略垂直に形成されたフロントピラーロア部(垂直部)31と、サイドシル16を構成する車体前後方向に延ばされたサイドシル部(水平部)33と、これらのサイドシル部33及びフロントピラーロア部31を略L字状に連結する屈曲部32と、を備える。
【0033】
屈曲部32、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31は、引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成される。
【0034】
すなわち、ハット断面形状(フロントピラーロア部31、屈曲部32及びサイドシル部33)は、車体内側に形成され且つドア開口44に沿わせて形成される内フランジ51,61,71と、内フランジ51,61,71から車幅外方に向かう内壁(内面)52,62,72と、この内壁52,62,72から車幅外面に沿って形成される側壁(側面部)53,63,73と、側壁53,63,73から車幅内方に向かう外壁(外面)54,64,74と、外壁54,64,74から垂下する外フランジ55,65,75と、から構成される。
【0035】
ここで、フロントピラーロア部31における、内フランジ51と内壁52との角部56の曲げR(断面視での半径)をFa、内壁52と側壁53との角部(稜線)57の曲げR(断面視での半径)をFb、側壁53と外壁54との角部(稜線)58の曲げR(断面視での半径)をFc、外壁54と外フランジ55との角部59の曲げR(断面視での半径)をFdとする。
【0036】
また、屈曲部32における、内フランジ61と内壁62との角部66の曲げR(断面視での半径)をKa、内壁62と側壁63との角部(稜線)67の曲げR(断面視での半径)をKb、側壁63と外壁64との角部(稜線)68の曲げR(断面視での半径)をKc、外壁64と外フランジ65との角部69の曲げR(断面視での半径)をKdとする。
曲げR(断面視での半径)をKbは、二点鎖線で示すドアシール43に沿わせた半径に設定した。
【0037】
さらに、サイドシル部33における、内フランジ71と内壁72との角部76の曲げR(断面視での半径)をSa、内壁72と側壁73との角部(稜線)77の曲げR(断面視での半径)をSb、側壁73と外壁74との角部(稜線)78の曲げR(断面視での半径)をSc、外壁74と外フランジ75との角部の曲げR(断面視での半径)をSdとする。
【0038】
一例としてFa=R18(半径18mm)に設定され、Ka=R24(半径24mm)に設定され、Sa=R15(半径15mm)に設定される。なお、Fa=R18、Ka=R24及びSa=R15の値は、それぞれ±20%を許容範囲として考えられる。
また、Fb=Kb=Sb=R18(半径18mm)、一定に形成される。Fc=Kc=Sc=R18(半径18mm)一定に形成される。Fd=Kd=Sd=R18(半径18mm)一定に形成される。
【0039】
すなわち、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の断面視での半径を屈曲部断面半径(曲げR)Ka、フロントピラーロア部31における内フランジ51と内壁52との角部56の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径(曲げR)Faとするときに、屈曲部断面半径(曲げR)Ka及びフロントピラーロア部断面半径(曲げR)Faの関係がKa≧4/3Faに形成される。
【0040】
屈曲部32では、材料を積極的に流入させたい部分である。従って、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の曲げR(Ka=R24)を、フロントピラーロア部31の曲げR(Fa=R18)や、サイドシル部33の曲げR(Sa=R15)よりも大きく設定した。これにより、屈曲部32への材料流れを容易にして、内フランジ61と内壁62との角部66、内壁62と側壁63との角部(稜線)67、側壁63と外壁64との角部(稜線)68及び外壁64と外フランジ65との角部69の亀裂を防止するとともに、内フランジ61の亀裂や外フランジ65のフランジシワも同時に抑制する。
【0041】
図5に示されたように、サイドシル部33の内壁72の高さを、サイドシル部33の断面幅Dsとするときに、Dsは一定に形成される。一例としてDs=61mmに形成される。Dsの値は、±30%を許容範囲として考えられる。
【0042】
サイドシル部33の断面深さを一定にしてフロントピラーロア部31に繋げることで、キレツの発生しやすい屈曲部32への材料流れを容易にし、且つ後述する断面長さの変化を抑制する。これにより、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31が一体的に形成されるL字部材41の、SPC980等、高張力鋼板の冷間圧延鋼板での成形が可能となる。
【0043】
図10〜図12に示されたように(図7〜図9も参照)、フロントピラーロア部31における、内壁52、側壁53、外壁54を構成する板材の中心の長さ(曲げ半径Fa〜Fdを含む)f1〜f7の合計を断面長さ(断面展開長さ)L1とする。また、屈曲部32における、内壁62、側壁63、外壁64を構成する板材の中心の長さ(曲げ半径Ka〜Kdを含む)k1〜k7の合計を断面長さ(断面展開長さ)L2とする。さらに、サイドシル部33における、内壁72、側壁73、外壁74を構成する板材の中心の長さ(曲げ半径Sa〜Sdを含む)s1〜s7の合計を、断面長さ(断面展開長さ)L3とする。
【0044】
このときに、本発明に係る車体側部構造10では、断面長さ(断面展開長さ)L1〜L3をほぼ一定に近づけるようにした。
屈曲部32の断面深さDk(図5参照)を一定とした。先に示したサイドシル部33の断面深さDsとの関係はDs≒Dkである。
【0045】
また、フロントピラーロア部31における側壁53と外壁54とのなす角度を傾斜角度θF、屈曲部32における側壁63と外壁64とのなす角度を傾斜角度θK、サイドシル部33における側壁73と外壁74とのなす角度を傾斜角度θSとする。このときに、傾斜角度θF、θK、θSの関係は、θF>θK>θSに形成される。
【0046】
すなわち、サイドシル部33の外壁74は、フロントピラーロア部31及び屈曲部32における外壁54,64に比べて傾斜が緩やかに形成される。
【0047】
さらに、サイドシル部33の側壁73には凹みビード83が形成される。これは、サイドシル部33の断面長さ(断面展開長さ)を、フロントピラーロア部31及び屈曲部32に近づけるための配慮と、サイドシル部33の形状の安定性を保つための配慮である。
【0048】
なお、図3に示されたように、サイドシル部33の側壁73にはサイドシルガーニッシュ15を取付けるので、凹みビード83を隠すことができる。
【0049】
図6に示されたように、側面視で屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の半径を内周半径Na、側面視で屈曲部32における外壁64と外フランジ65との角部69の半径を外周半径Gaとする。一例として、Na=R150(半径150mm)に設定され、Ga=R100(半径100mm)に設定される。Na=R150及びGa=R100の値は、それぞれ±20%を許容範囲と考えられる。
【0050】
すなわち、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部32における外壁64と外フランジ65との角部69を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定される。
【0051】
これにより、屈曲部32における断面長さ(断面展開長さ)L2を角度A1の範囲で緩やかに変化できるようにした。屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の曲げR(Ka=24)を、フロントピラーロア部31の曲げR(Fa=R18)や、サイドシル部33の曲げR(Sa=R15)よりも大きく設定したことと相まって、材料の流れを促進することができる。これにより、屈曲部32のフランジシワや亀裂を抑制することができる。
【0052】
図13(a)に示されるように、ブランク材91は、矩形の板材の一つのコーナに、所定の半径Rkにて円弧形状の切り欠き部92を形成したものである。ブランク材91の円弧形状の円周の長さを周長B1とするときに、周長B1はB1=2πRkで表せる。ブランク材91の円弧形状の切り欠き部92に沿わせて図13(b)に、所定深さd1の絞り成形を施した絞り加工後の製品94が示される。例えば、円弧形状の切り欠き部92の半径の移動量がEとする場合に、絞り加工後の円弧状の切り欠き部93の半径はRk+Eで表せる。従って、絞り加工後の円弧形状の円周の長さを周長B2とするときに、周長B2はB2=2π(Rk+E)で表せる。
【0053】
例えば、Eが実測値で50mmのときに、Rkを100に設定すると、成形前の周長B1はB1=2π×100、成形後の周長B2はB2=2π×150となり、成形後に周長は50%変化する。Rを200に設定すると、成形前の周長B1はB1=2π×200、成形後の周長B2はB2=2π×250となり、成形後に周長は25%の変化でおさまる。すなわち、初期のR値が大きい方が、成形前後での周長差を小さくすることができると考えられる。
【0054】
以上の検討結果から、本願の車体側部構造10では、図6に示されたように、側面視で屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の半径を内周半径Naを、Na=R150(半径150mm)に設定した。
【0055】
図14(a)に比較例のL字部材(アウタサイドパネル)200が示される。比較例のL字部材(アウタサイドパネル)200は、サイドシル部203及びフロントピラーロア部201が一体的に形成される。L字部材200は、SPC270(引張強度270N/mm2 以上の冷間圧延鋼板)等で成形される従来構造のL字部材の金型を用いて、SPC980(引張強度980N/mm2 以上の冷間圧延鋼板)を使用してプレス形成された試作サンプルである。
【0056】
SPC980を用いて、従来構造のL字部材(サイドパネルアウタ)の金型を使用してプレス成形する。このL字部材200は、ハット断面形状で稜線を含む4つ断面R部204a〜204dを有し、それぞれ周長に沿って同一曲げRとして設計されている。先にも説明したように、SPC980は延性が低いのでプレス成形時に、屈曲部202の内側における断面R部204の材料流れが抑制される。
【0057】
すなわち、フロントピラーロア部201の内側から、屈曲部202の内側へ向け材料流れが抑制される。L字部材(アウタサイドパネル)200では、屈曲部202の内フランジ205と内壁211との角部(断面R部)204dの内周RuがR132(実施例の内周NaはR150に設定)、外周RsがR50である。内フランジ205と内壁211との角部(断面R部)204dの内周Ruが実施例の内周Naに比べ小さいため、成形の前後での周長差は大きい。よって、内フランジ205の内側でのフランジキレツ206が発生した。さらに、断面深さが一定でないため屈曲部202での周方向の凸部分断面長さの変化が大きく、断面R部204a〜204dの小さいことと合わさり、材料流れが阻害されフランジシワ209や亀裂207,208が発生した。
【0058】
図14(b)に示されたように、実施例の車体側部構造10では、屈曲部32、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31が、引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成される。また、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成される。内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定される。
【0059】
実施例の車体側部構造10では、屈曲部32、サイドシル部33及びフロントピラーロア部31が、引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成されたので、リインフォースメント(補強材)を廃止し、車体の軽量化を図ることができるとともに、車体剛性の向上を図ることができる。
【0060】
さらに、ハット断面形状が、車体内側に形成され且つドア開口44に沿わせて形成される内フランジ51,61,71と、内フランジ51,61,71から車幅外方に向かう内壁(内面)52,62,72と、この内壁52,62,72から車幅外面に沿って形成される側壁(側面部)53,63,73と、側壁53,63,73から車幅内方に向かう外壁(外面)54,64,74と、外壁54,64,74から垂下する外フランジ55,65,75と、からなり、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、フロントピラーロア部31における内フランジ51と内壁52との角部56の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、屈曲部断面半径Ka及びフロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、屈曲部32における内フランジ61と内壁62との角部66を車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、屈曲部32における外壁64と外フランジ65との角部69を車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定されたので、例えば、ハット断面形状を構成する内壁52,62,72、側壁53,63,73及び外壁54,64,74の断面における長さを断面長さL1,L2,L3とするときに、屈曲部32における断面長さL2を、フロントピラーロア部31における断面長さL1に近い値にすることができる。
【0061】
これにより、冷間プレス成形時の屈曲部32への材料流れをスムーズにして屈曲部32での亀裂を防止することができる。この結果、高張力鋼板を用いるサイドパネルアウタ14の屈曲部32の冷間プレスが可能となり、車体強度の向上を図ることができる。
【0062】
また、屈曲部32の断面深さDkを一定としたので、断面長さの変化を抑制することができる。これにより、プレス成形が容易となる。すなわち、屈曲部32の断面深さDkを一定としたので、プレス成形時の成形性の向上を図ることができるとともに、プレス成形時の品質の安定を図ることができる。
【0063】
サイドシル部33に、凹みビード(形状)83を付与したので、サイドシル部33の形状の安定化を図ることができる。これにより、プレス成形後のサイドシル部33の変形を防止することができるとともに、屈曲部32の形状を安定させることができる。
【0064】
さらに、サイドシル部33に、凹みビード(形状)83を付与し、プレス成形後のサイドシル部33の変形を防止することで、サイドパネルアウタ14の他の部分の形状安定化に寄与することができる。なお、サイドシル部33の強度及び剛性の向上にも寄与する。
【0065】
サイドシル部33における外壁74の傾斜角度θSを、屈曲部32における外壁64より緩やかに形成することで、材料の流れを改善し、屈曲部32における外フランジ65のシワを抑制することができる。
【0066】
車体側部構造10では、内壁62と側壁33との角部の断面視での半径Kbは、屈曲部32ではドアシールに沿った形状としたので、ドアシールが容易になるとともに、角部のRが緩やかになり、サイドパネルアウタの成形性の向上を図ることができる。
【0067】
尚、本発明に係る車体側部構造10は、図2に示すように、フロントピラーロア部31と、サイドシル部33と、これらのサイドシル部33及びフロントピラーロア部31に連続的に形成される屈曲部32に、引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板が用いられたが、これに限るものではなく、他の部分にも引張強度980N/mm2 を超える冷間圧延鋼板を用いることを妨げるものではない。
【0068】
本発明に係る車体側部構造10は、図3に示すように、サイドシル部33の内壁72及び外壁74に凹みビード83形状を付与したが、これに限るものではなく、サイドシル部33の他の部分に凹みビード形状を付与するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る車体側部構造は、車体の前後方向に延ばされたサイドシルインナと、このサイドシルインナの先端から上方に立ち上げられたフロントピラーインナとを少なくとも備え、これらのフロントピラーインナ及びサイドシルインナに車幅外方から覆うサイドパネルアウタを備えた乗用車への適用に好適である。
【符号の説明】
【0070】
10…車体側部構造、14…サイドパネルアウタ、16…サイドシル、18…フロントピラー、31…フロントピラーロア部、32…屈曲部、33…サイドシル部、51,61,71…内フランジ、52,62,72…内壁、53,63,73…側壁、54,64,74…外壁、55,65,75…外フランジ、56…角部、66…角部、69…角部、83…凹みビード、Fa…フロントピラーロア部断面半径、Ga…外周半径、Ka…屈曲部断面半径、Na…内周半径、θS…傾斜角度。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側部を外方から覆うサイドパネルアウタを備えた車体側部構造において、
前記サイドパネルアウタは、少なくともフロントピラーの下部を構成する略垂直に形成されたフロントピラーロア部と、サイドシルを構成する車体前後方向に延ばされたサイドシル部と、これらのサイドシル部及びフロントピラーロア部を略L字状に連結する屈曲部と、を備え、
これらの屈曲部、サイドシル部及びフロントピラーロア部は、高張力鋼板の冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成され、
前記ハット断面形状は、前記車体内側に形成され且つドア開口に沿わせて形成される内フランジと、この内フランジから車幅外方に向かう内壁と、この内壁から車幅外面に沿って形成される側壁と、この側壁から車幅内方に向かう外壁と、この外壁から垂下する外フランジと、からなり、
前記屈曲部における前記内フランジと前記内壁との角部の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、前記フロントピラーロア部における前記内フランジと前記内壁との角部の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、
前記屈曲部断面半径Ka及び前記フロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、
前記屈曲部における前記内フランジと内壁との角部を前記車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、前記屈曲部における前記外壁と前記外フランジとの角部を前記車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、
内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定されることを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記屈曲部の断面深さを一定とすることを特徴とする請求項1記載の車体側部構造。
【請求項3】
前記サイドシル部に、凹みビード形状を付与することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体側部構造。
【請求項4】
前記サイドシル部における前記外壁の傾斜角度を、前記屈曲部における前記外壁より緩やかに形成することを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の車体側部構造。
【請求項5】
前記内壁と前記側壁との角部の断面視での半径は、前記屈曲部ではドアシールに沿った形状とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の車体側部構造。
【請求項1】
車体の側部を外方から覆うサイドパネルアウタを備えた車体側部構造において、
前記サイドパネルアウタは、少なくともフロントピラーの下部を構成する略垂直に形成されたフロントピラーロア部と、サイドシルを構成する車体前後方向に延ばされたサイドシル部と、これらのサイドシル部及びフロントピラーロア部を略L字状に連結する屈曲部と、を備え、
これらの屈曲部、サイドシル部及びフロントピラーロア部は、高張力鋼板の冷間圧延鋼板でハット断面形状に形成され、
前記ハット断面形状は、前記車体内側に形成され且つドア開口に沿わせて形成される内フランジと、この内フランジから車幅外方に向かう内壁と、この内壁から車幅外面に沿って形成される側壁と、この側壁から車幅内方に向かう外壁と、この外壁から垂下する外フランジと、からなり、
前記屈曲部における前記内フランジと前記内壁との角部の断面視での半径を屈曲部断面半径Ka、前記フロントピラーロア部における前記内フランジと前記内壁との角部の断面視での半径をフロントピラーロア部断面半径Faとするときに、
前記屈曲部断面半径Ka及び前記フロントピラーロア部断面半径Faの関係がKa≧4/3Faに形成され、
前記屈曲部における前記内フランジと内壁との角部を前記車幅外方から見たときの半径を内周半径Na、前記屈曲部における前記外壁と前記外フランジとの角部を前記車幅外方から見たときの半径を外周半径Gaとするときに、
内周半径Na及び外周半径Gaの関係がNa≧3/2Gaに設定されることを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記屈曲部の断面深さを一定とすることを特徴とする請求項1記載の車体側部構造。
【請求項3】
前記サイドシル部に、凹みビード形状を付与することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体側部構造。
【請求項4】
前記サイドシル部における前記外壁の傾斜角度を、前記屈曲部における前記外壁より緩やかに形成することを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の車体側部構造。
【請求項5】
前記内壁と前記側壁との角部の断面視での半径は、前記屈曲部ではドアシールに沿った形状とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の車体側部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−195103(P2011−195103A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66759(P2010−66759)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]