説明

車線分離標

【課題】車線分離標における反射材の損耗や破損を大幅に低減できるようにする。
【解決手段】柱本体11の水平断面を多角形の形状とし,多角形を構成する各辺である柱面部11bが,柱本体11の内側に向かって湾曲した面(内R)となるように形成する。各柱角部11aの間の柱面部11bに,反射シート13を貼付する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,道路のセンター・外側,あるいは分岐部・交差点回りなど,車線境界の明示や視線誘導を目的として設置される車線分離標に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車線の分離などの車の誘導に用いられる車線分離標として,従来,図6に示すようなものが用いられている。図6は,従来の可倒式車線分離標の例を示す図である。図6において,(A)は車線分離標30の正面図,(B)は車線分離標30の平面図,(C)は車線分離標30に貼付される反射シート33を示す図である。
【0003】
車線分離標30は,路面に設置される台座(ベース)32の上に円筒形の柱本体31が突き立った形状をしており,柱本体31には,図6(C)に示すような帯状の反射シート33が一定間隔で巻かれている。
【0004】
柱本体31は,材料としてポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の軟質合成樹脂が使用されているので屈曲耐性に優れており,車のタイヤで踏みつけられても柔軟に屈曲変形し,タイヤの加重がなくなれば自ずと復元する。
【0005】
この種の車線分離標では耐久性が課題であり,特に反射シート等の反射材の反射性能が劣化しないで長期間の使用に耐え得ることが重要となっている。車線分離標における反射材の反射性能をできるだけ落とさないようにして,耐久性を向上させる方法としては,従来,次のような構造を持つものが考えられている。
【0006】
〔従来例1〕:車線分離標の円柱状のポストに反射材を貼り,その表面に保護用の層を設けて,車両の接触などにより反射材が車両に直接当たらない構造とする。
【0007】
〔従来例2〕:車線分離標の円柱状のポストの上から,腰みのタイプの防塵手段を被せる構造とする。
【0008】
〔従来例3〕:車線分離標の断面が楕円状のポストに,縦型にレール状のリブ(突起)を設けることで,車両が接触あるいは踏みつけた際に,反射材部分に車両が直接当たりにくい構造とする(特許文献1参照)。
【0009】
〔従来例4〕:車線分離標の反射面を有するポストを,熱収縮性フィルムの収縮皮膜によって覆う構造とする(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−9623号公報
【特許文献2】特開2009−179966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した従来例1のように,反射材の表面に保護用の層を設ける方法は,反射材の損耗,破れなどには効果があるが,表面層に車が接触したりすると表面層が汚れるため,汚れの防止効果が小さいという問題がある。
【0012】
また,従来例2のように,円柱状のポストの上から被せるタイプの防塵手段を用いた場合,車両の接触で簡単に壊れてしまうため,高速道路のトンネル内など,排ガス汚れが溜まりやすい一部の環境下でしか使われていないのが現状である。
【0013】
また,従来例3のように,断面が楕円のポストに縦方向にレール状のリブ(突起)を設ける構造のものは,直接車両が接触することによる汚れや反射材の破損については円柱タイプと比較すると一定の軽減が可能であるが,リブとリブの間の面が外側に凸状に形成されているため,タイヤに強く踏みつけられたような場合に充分な効果が得られない場合がある。また,排ガスなどの付着を防ぐ効果はない。
【0014】
また,従来例4のように,ポストを熱収縮性フィルムの収縮皮膜によって覆うものは,車両の接触によって収集皮膜が破れたような場合に,収集皮膜の破損部分が汚く見えてしまい,また塵埃なども付着しやすく,収集皮膜を交換するにも手間がかかるという問題がある。
【0015】
ところで,排ガスなどの汚れの付着を防ぐ方法として,光触媒などのセルフクリーニング機能を持つものが知られており,特定用途の製品に利用されている。しかし,光触媒のフィルムあるいはコーティングは表面硬度が高くないため,直接車両が接触あるいは擦る可能性がある車線分離標等の用途では機能の維持ができないという課題がある。
【0016】
以上のように,従来の車線分離標は,道路の路面上に設置することが多いため,次のような問題点がある。
イ) 通行車両の接触や踏付けなど,バンパーやタイヤが接触することによる汚れによって,反射材の反射性能が劣化するが,これに対する対策がまだ充分とは言えない。
ロ) 同じ理由により反射材の損耗,破損が生じやすい。
ハ) 排ガスや埃などの付着による間接的な汚れによって,反射材の性能が劣化することを光触媒のセルフクリーニング機能を用いて抑止しようとした場合に,その機能を長期間にわたって維持するための対策が必要である。
【0017】
本発明は,上記課題の解決を図り,反射材の損耗や破損を大幅に低減でき,また,光触媒等を用いた場合にもその機能の維持が可能な構造を持つ車線分離標を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は,上記課題を解決するため,車線分離標を次のように構成する。
イ) 柱本体(ポスト)の水平断面を,従来の正円(円柱)または楕円ではなく,多角形の形状とする。多角形としては,五角形ないし八角形(五角形,六角形,七角形,八角形)が好適である。
ロ) 上記多角形を構成する各辺が,内側にR(曲線)を切るように,所謂「逆R」となるようにする。なお,各辺の中央付近が谷部となるように,各辺を内側に向かって屈曲させてもよい。
ハ) 上記「逆R」となった各辺に反射材を貼り付ける。
【0019】
また,次のようにしてもよい。
ニ) 上記多角形を構成する各辺の多角形頂点側に近い部分の肉厚が,各辺の中央部分の肉厚より大きくなるようにする。例えば,各辺の多角形頂点側に近い部分の肉厚が,各辺の中央部分の肉厚の2倍から5倍程度になるように柱本体を形成する。ここで,辺と辺とが接合する部分の内側面が滑らかな円弧状の曲面になるように構成するとさらに好ましい。
【0020】
また,次のようにすると,さらに効果的な車線分離標となる。
ホ) 反射材あるいは本体ポスト全体に,セルフクリーニング機能を有する光触媒のフィルムあるいはコーティングを施す。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車線分離標は,本体ポールの断面が多角形であり,多角形の各辺が内側向きに湾曲(または屈曲)している。このため,辺と辺をつなぐ角部分(多角形の頂点部分)が辺より突起した形となる。したがって,車両が本体ポールに接触した際に,車両はまず角部分に当たり,内側に湾曲した辺部分には接触しにくくなる。これにより,辺に貼付けられた反射材は従来よりも汚れにくくなり,また損傷しにくくなる。
【0022】
さらに,光触媒を反射材あるいは本体ポール全体にフィルムで貼り付けるか,またはコーティング(塗布)することにより,光触媒が持つ紫外線反応あるいは超親水性の特性によるセルフクリーニング機能により,表面についた汚れを落とす効果がある。光触媒は,表面硬度が高くなく,一般に何らかの物体が接触して圧力がかかった場合に損耗が激しいが,本発明に特有の構造により車両等が接触しにくくなるため,耐久性が向上する。
【0023】
また,多角形状の辺の端部分を辺の中央部分よりも肉厚にすることにより,車両衝突時に発生する引張り(伸び)方向の強度が向上する。同様に,繰り返し折り曲げに対する復元力の向上も見込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態である車線分離標の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態である車線分離標の正面図,上面図および貼付される反射シートを示す図である。
【図3】本発明の一実施形態である車線分離標の水平断面を示す図である。
【図4】本発明の他の一実施形態である車線分離標の水平断面を示す図である。
【図5】柱本体がタイヤに踏まれた場合の従来の車線分離標と本発明の一実施形態である車線分離標の作用の違いを示す図である。
【図6】従来の車線分離標の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下,本発明の実施の形態について,図を用いて説明する。
【0026】
図1は本発明の一実施形態である車線分離標の斜視図である。また,図2(A)は本発明の一実施形態である車線分離標の正面図,図2(B)は上面図であり,図2(C)は車線分離標に貼付される反射シートの例を示している。
【0027】
車線分離標10は,柱本体11と台座12とからなる。柱本体11は,水平断面が多角形の形状となっている。図において,11aは柱角部,11bは柱面部,13は反射シートを表している。反射シート13は,図2(C)に示すような縦長短冊状の反射材で構成され,各柱角部11aの間の柱面部11bに貼付される。
【0028】
図3(A)は,図2(A)の車線分離標10をa−a′で切断した切断面を示している。この例では柱本体11の断面が六角形の形状となっており,内部は中空である。なお,柱本体11の断面は,六角形に限らず,少なくとも五角形以上の多角形であれば同様の効果を有する。
【0029】
柱面部11bは,図3(A)に示すように,柱本体11の内側に向かって湾曲した面となっている。このように,多角形形状の各辺について,内側にRを切ることにより,多角形の角にあたる部分(柱角部11a)が突起する形となる。これにより,車両が衝突した際に,バンパーやタイヤは,まずこの柱角部11aに当たることになる。その後,断面は衝撃により変形するが,内側にRを切った柱面部11b(反射シート13を貼った面)は,反射材が施された面が外側にRを有する場合に比べて,バンパーやタイヤに当たりにくく,汚れや破損を大幅に軽減できる。
【0030】
この特徴から,本実施形態では,反射シート13に対して,光触媒のフィルムあるいはコーティングを施す際の課題,すなわち,光触媒のフィルムあるいはコーティングは表面硬度が高くないため,直接車両が接触あるいは擦る可能性がある車線分離標等の用途では機能の維持ができないという課題を解決している。
【0031】
図3(B),(C)は,柱本体11の切断面の一部を拡大した図である。本実施形態では,柱本体11の外側に反射シート13を貼付し,その上を光触媒14のフィルムでカバーしている。反射シート13または柱本体11において反射シート13を貼付している部分の全体に対して,光触媒14をコーティイング(塗布)してもよい。
【0032】
光触媒14は,酸化チタンの紫外線による反応で,「汚れ(有機物)を分解する性能」と,「超親水性により表面の汚れや油分を浮かして流す性能」がある。このような光触媒14のセルフクリーニング機能により,汚れ防止を実現することができる。前述のように,光触媒14は表面硬度が高くないため,従来,バンパーやタイヤが直接当たる(擦られる)用途では塗膜がすぐに削れてしまい,汚れ防止効果の維持が難しいということで,車両の接触が激しいことが多い車線分離標への用途はあまり考えられていなかったが,本実施形態は,車両のバンパーやタイヤが直接反射材(光触媒面)を擦ることがないので,防汚効果を長期間にわたって維持することができる。
【0033】
また,図3(C)に示すように,本実施形態の車線分離標10では,多角形を構成する各辺の端部分である柱角部11a付近の厚みt1,t2が,柱面部11bの中央部分の厚みt3よりも肉厚に形成される。なお,ここでは厚みt1,t2,t3は,多角形の中心方向に向かう線で計測した値を示しており,t1>t2>t3となっている。
【0034】
このように,多角形の角部分を各辺の面部分よりも肉厚に形成することにより,車両衝突時に発生する引張り(伸び)方向の強度が向上し,また,同様に繰り返し折り曲げに対する復元力の向上も見込めるようになる。
【0035】
さらに,本実施形態の車線分離標10では,図3(D)に示すように,辺と辺とが接合する部分の内側面が円弧状になるように,内側部分の面を曲面Rで構成している。このように角の内側にRを付けることにより,柱角部11a部分が肉厚となり,D−D′方向の圧力に対する断面方向の潰れに対して復元性を向上させ,また強度も向上させることができる。もし,図3(E)に示すように,辺と辺の接合部分の内側面に角度Sが生じていると,タイヤ等に踏み付けられた場合に,D−D′方向の圧力により断面方向に潰れが生じ,それに対する反発力が小さいので復元性が弱くなる。また,S部分への応力集中により,いわゆる「へたり」が生じやすくなり,復元性,耐久性が大きく損なわれることになる。本実施形態(図3(D))のように,柱角部11aの内側面にRを付けることにより,復元性,耐久性の向上が可能になる。
【0036】
図4は,本発明の他の一実施形態である車線分離標の水平断面の例を示している。前述した例では,図3(A)に示すように,柱面部11bが内側に向かって湾曲した面で構成されているが,図4に示すような断面となるように構成することもできる。図4の例では,辺の中央付近が谷部となるように,柱面部11bが内側に向かって屈曲している。なお,この例では屈曲点が一つの柱面部11bに対して一つであるが,複数あってもよい。このように構成しても,車両やタイヤの接触による反射材の汚れ・破損を従来よりも軽減することができる。
【0037】
図5に,柱本体がタイヤに踏まれた際における従来の車線分離標と本実施形態の車線分離標の例を示す。図5(A)は,従来の車線分離標30がタイヤ20に踏まれた場合の例を示しており,図5(B)は,本実施形態の車線分離標10がタイヤ20に踏まれた場合の例を示している。図5の比較からも明らかであるように,従来の一般的な車線分離標30では,面が外Rとなっているため,反射材の貼付面がタイヤ20に直接的に強く踏みつけられてしまうことになる。これに対し,本実施形態の車線分離標10では,反射材の貼付面が内Rもしくは内側に対して屈曲した面で形成されることにより,タイヤ20の接触する圧力は,柱角部11aの部分で強く,柱面部11bの部分で弱くなり,このため従来の車線分離標30に比べて,反射材の汚れや破損が大幅に軽減されることになる。
【符号の説明】
【0038】
10 車線分離標
11 柱本体
11a 柱角部
11b 柱面部
12 台座
13 反射シート
14 光触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座の上に,反射材が取り付けられた柱本体を直立させた構造を有する車線分離標において,
前記柱本体は,水平断面が多角形の形状で形成され,
前記多角形を構成する各辺が,前記柱本体の内側に向かって湾曲または屈曲した面で形成され,
前記多角形を構成する各辺の外側表面の少なくとも一部に,前記反射材が取り付けられた構造を有する
ことを特徴とする車線分離標。
【請求項2】
請求項1記載の車線分離標において,
前記多角形を構成する各辺の端部分における肉厚が,前記各辺の中央部分の肉厚よりも大きい
ことを特徴とする車線分離標。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の車線分離標において,
前記反射材の表面または前記多角形を構成する各辺の外側表面に,セルフクリーニング機能を有する光触媒のフィルムまたは光触媒のコーティングが施されている
ことを特徴とする車線分離標。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19173(P2013−19173A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153519(P2011−153519)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(599043781)エヌティーダブリュー株式会社 (3)
【Fターム(参考)】