説明

車載レーダー装置および車載レーダー装置用レドーム

【課題】レーダー本体前面のカバー表面に水膜が付着しても、レーダー性能の低下を抑制できる車載レーダー装置を提供する。
【解決手段】電波を対象物に向けて電波を送信する送信手段(図示なし)と、対象物で反射された反射電波を受信する受信手段(図示なし)と、送信手段が送信する送信電波と受信手段が受信する受信電波とから対象物を検知し、対象物までの距離や相対速度を計測する検知・計測手段(図示なし)と、送信手段、受信手段および検知・計測手段を収納する筐体101と、筐体101の電波送信方向の前面に配置され、筐体101内の収納物を保護するカバー102とを備えたレーダー装置において、カバー102は、電波送信方向の外表面全体に毛細管現象により水が導かれる凹構造の溝104が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車載用に好適なレーダー装置あるいはこれに搭載されるレドームに関するものであり、特に、降雨や結露などで形成される水膜によるレーザー性能の低下を防げる車載レーダー装置あるいは車載レーダー装置用のレドーム関するものである。
【背景技術】
【0002】
レドーム(radome:レーダードームの略であって、レーダーアンテナ保護用のドームのこと)に付着した水膜や汚れからの反射レベルに基づいて、これら(即ち、付着した水膜や汚れ)の有無を検出するレーダー装置としては、特開平10−282229号公報(特許文献1)に示されたFMレーダー装置がある。
特許文献1には、ビート信号の低周波成分を低域通過フィルタで抽出し、抽出した低周波成分をA/D変換器でAD変換し、高速フーリエ変換器で高速フーリエ変換を施して、レーダーレドームに汚れが付着していない状態での低周波成分の記憶された周波数スペクトルデータと入力された低周波成分の周波数スペクトルデータを比較し、汚れが付着したことを検出するFMレーダー装置が記載されている。
【0003】
一般に、レーダーの前面に付着物が存在する場合、付着物からの反射波を検出し、システムフェールとするか、あるいは、付着物の反射波を検出して、本来検出すべき物体からの反射波と分離することによりS/Nを向上させて検出性能の低下を防ぐ、といった手法がとられる。
【特許文献1】特開平10−282229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
付着物が水であって、レーダー前面に水膜として存在する場合は、水膜の界面における反射や水自身による電波の吸収によって、送信電波および受信電波のいずれも著しい減衰が生じるため、レーダー性能そのものに多大な影響を与える。
【0005】
また、車載レーダー装置は、予防安全装置として用いられるため、電波の減衰に起因した性能低下を理由にして、レーダーを用いたシステムがフェールとなることは、ドライバーの使用機会を減少させることになる。
特に、重大事故に陥りやすい雨天時にシステムが使えない状態は、可能な限り無くすることがユーザーニーズであり、社会ニーズでもある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、レーダー本体前面のカバー表面や車両側レドーム表面に水膜が付着しても、特別な水膜検出機能を備える必要なく、レーダー性能の低下を抑制できる車載レーダー装置あるいは車載レーダー装置用レドームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車載レーダー装置は、電波を対象物に向けて送信する送信手段と、上記対象物で反射された反射電波を受信する受信手段と、上記送信手段が送信する送信電波と上記受信手段が受信する受信電波とから上記対象物を検知し、上記対象物までの距離や相対速度を計測する検知・計測手段と、上記送信手段、上記受信手段および上記検知・計測手段を収納する筐体と、上記筐体の電波送信方向の前面に配置され、上記筐体内の収納物を保護するカバーとを備えたレーダー装置において、上記カバーは、電波送信方向の外表面全体に毛細管現象により水が導かれる凹構造の溝が設けられているものである。
【0008】
また、本発明に係る車載レーダー装置用レドームは、電波を対象物に向けて送信する送信手段と、上記対象物で反射された反射電波を受信する受信手段と、上記送信手段が送信する送信電波と上記受信手段が受信する受信電波とから上記対象物を検知し、上記対象物までの距離や相対速度を計測する検知・計測手段と、上記送信手段、上記受信手段および上記検知・計測手段を収納する筐体と、上記筐体の電波送信方向の前面に配置され、上記筐体内の収納物を保護するカバーとを備えた車載レーダー装置の前方に搭載される車載レーダー装置用レドームであって、
上記車載レーダー装置用レドームは、その表面あるいは裏面に請求項1〜5のいずれか1項に記載の凹部構造の溝が設けられているものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明よる車載レーダー装置では、筐体の電波送信方向の前面に配置され、筐体内の収納物を保護するカバーは、電波送信方向の外表面全体に毛細管現象により水が導かれる凹構造の溝が設けられているので、降雨等のためにカバーの外表面に水滴が付着した場合でも、毛細管現象により溝に水滴が引き込まれる。
従って、カバーの外表面に水膜が出来ないエリアを生成でき、水膜に影響されない送受信が可能になり、水膜によるレーダー性能の低下を抑制することができる。
【0010】
また、この発明よる車載レーダー装置用レドムームは、車載レーダー装置の前方に搭載され、その表面あるいは裏面に毛細管現象により水が導かれる凹構造の溝が設けられているので、降雨等のためにレドームの表面に水滴が付着した場合でも、毛細管現象により溝に水滴が引き込まれる。
従って、レドームの表面に水膜が出来ないエリアを生成でき、水膜に影響されない送受信が可能になり、レーダー性能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施の形態について説明する。
なお、各図間において、同一符号は、同一あるいは相当のものであることを表す。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による車載レーダー装置(単に、レーダー装置とも略す)の構造を説明するための図である。
図1において、101はミリ波レーダー筐体(即ち、ミリ波の電波を利用したレーダー装置の筐体)を示し、102は電波送信方向のケーシングであるカバー、103は送信電波の偏波面である。
また、104は、カバー102の電波送信方向の外表面全体において互いに平行に設けられた複数の溝であり、溝104は送信電波の偏波面103に垂直に刻まれている。
なお、図1(a)は本実施の形態による車載レーダー装置の全体外観構成を概念的に示す斜視図、図1(b)は溝104の部分拡大図である。
【0012】
図2は、図1におけるA−A断面図を表しており、201は溝104の凸部、202は溝104の凹部を示す。
図2において、凹部202の幅は、毛細管現象が発生する幅に設定され、凸部201の幅は水滴が溜まらない程度の幅に設定される。
凸部201および凹部202の幅は、いずれも小さければ小さいほど効果が大きい。
つまり、凸部201の幅が小さいほど凸部201に溜まる水滴は少なく、凹部202の幅が小さいほど毛細管現象が顕著に現れる。
【0013】
本実施の形態では、一般的な雨滴の径が1mm〜3mmであることを考慮し、1mmの雨滴がカバー102のどの位置に当たっても、雨滴が凸部201では水膜にならず、凹部202において毛細管現象により雨滴が引き込まれるように、凸部201おび凹部202の幅を0.5mmと設定している。
なお、本構成においては、毛細管現象によって引き込まれる力が大きいほど効率的であるので、水とカバー102との接触角は、毛細管現象が生じる限界である90deg以下となるカバー材料を選定することが前提となる。
【0014】
図3は、本実施の形態によるレーダー装置において、表面張力によって水滴が溝に引き込まれる様子を説明するための図である。
図3を用いて、水滴がカバー102の外表面上に付着した場合の振る舞いについて説明する。
図3(a)は、凹凸を設けた(即ち、溝104を設けた)カバー102の外表面上に水滴が付着したときの模式図である。図において、301は、付着した水滴を示す。
この水滴301は、ケーシング材料(即ち、カバー102の材料)で決まる接触角θまで広がるため、図3(b)のように凹部202の角を回りこむように広がり、水の表面張力を“T”とした時、Tcosθの力で凹部202の中へ引き込まれる力が発生する。
【0015】
この結果、凹部202において、毛細管現象により、図3(c)に示すように水滴301が引き込まれ、凸部201の表面から水滴を除外することが出来る。
この様に水滴301が振舞うため、雨天を想定した場合、すべての溝の凹部202には水が溜まっているが、凸部201の表面には水は溜まっていない状況になる。
従って、送信電波あるいは受信電波は、溝の凹部202においては反射や減衰などを生じるが、水滴が付着していない溝の凸部201においては、雨量に関わらず、安定した送受信が可能となる。
【0016】
以上説明したように、本実施の形態による車載レーダー装置は、電波を対象物に向けて送信する送信手段(図示なし)と、対象物で反射された反射電波を受信する受信手段(図示なし)と、送信手段が送信する送信電波と受信手段が受信する受信電波とから対象物を検知し、対象物までの距離や相対速度を計測する検知・計測手段(図示なし)と、送信手段、受信手段および検知・計測手段を収納する筐体101と、筐体101の電波送信方向の前面に配置され、筐体101内の収納物を保護するカバー102とを備えたレーダー装置において、カバー102は、電波送信方向の外表面全体に毛細管現象により水が導かれる凹構造の溝104が設けられている。
従って、カバー102の外表面全体に付着する水滴は、毛細管現象によって凹構造の溝104に引き込まれ、カバー102の外表面の水膜によるレーダー性能の低下を抑制する
ことができる。
【0017】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2による車載レーダー装置の特徴的な動作を説明するための模式図である。
前述の実施の形態1では、雨天を想定した場合の水滴の振る舞いについて説明したが、本実施の形態では、晴天時の場合について考える。
図4は、レーダー装置前面のケーシング部(即ち、カバー102)の断面図であり、水滴がカバー102の外表面に付着していない状況における電波の透過状態を示している。
図4において、401は溝の凹部202を透過する電波、402は溝の凸部201を透過する電波を表している。
図4中の電波401および電波402は、カバー102を透過する電波の波長変化を模式的に表している。
【0018】
ケーシング部材(カバー102)の中を透過する電波の波長は、ケーシング部材の材料の比誘電率εgとした時、1/√εgだけ空気中の波長に比べて短くなる。
なお、“√εg”は、“(εg)1/2”と同一である。
従って、電波401と電波402では、材料内を透過する距離をそれぞれ適切に選ばない限り、ケーシング部(カバー)102の出口であるa面において、互いに位相が異なることに起因して、干渉、減衰し、最悪の場合は互いに打ち消しあうことが想定される。
【0019】
ここで、電波の減衰を防ぐためには、a面における位相を揃えることが必須となる。
a面における電波の位相を揃えるためには、ケーシング部材の外(即ち、カバー102の凹部202)を透過して進行する電波401の振動数とケーシング部材の中(即ち、カバー102の凸部201)を透過して進行する電波402の振動数の差が整数となるように、溝の深さを選べばよい。
今、空気中の電波の波長をλ、ケーシング部材(カバー102)の比誘電率をεgとした時、ケーシング部材の中を進行する電波の波長λgは、
λg = λ/√εg ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
となる。
【0020】
溝の深さを“L”とした時、この区間(即ち、溝の深さ“L”に相当する区間)におけるλの個数(振動数)とλgの個数(振動数)の差が、任意の整数nであればよいので、
L/λ−L/λg = n ・・・・・・・・・・・・・・ (2)
が成り立てばよい。
ここで、(1)式を(2)式に代入して整理すると、
L = nλ/(√εg−1) ・・・・・・・・・・・・ (3)
が得られる。
従って、(3)式を成立させるように深さLを選べば、送信電波、受信電波とも干渉、減衰を起こさず、レーダー性能の低下を防ぐことが出来る。
【0021】
さらに、水の誘電率をεrとし、水の中を進行する波長をλrとした時、任意の整数mを用いて、
L/λ−L/λr = m ・・・・・・・・・・・・・・・ (4)
即ち、
L = mλ/(√εr−1)・・・・・・・・・・・・・・・ (5)
であるから、(3)式と(5)式を同時に成り立たせるようにnとmを選ぶことにより、晴天時、雨天時とも、電波が進行する場所が異なることに起因する減衰、レーダー性能の低下を抑制することが出来る。
【0022】
ただし、(3)式、(5)式は最適値演算であり、実際の使用条件においては、nとmは厳密な整数とする必要はなく、目標とされるレーダー性能の許容レベルまで緩和することが可能である。
例えば、一般的に使用波長λの1/4以下までのズレであれば、レーダー装置の性能に大きな影響は無いとされる。
従って、(3)式(5)式において任意の整数とλが乗算であるので、λが±1/4まで許容できるとするならば、この許容幅を任意の整数の幅に置き換えると、nおよびmは、いずれも任意の整数±1/4まで許容できることになる。
もちろん、許容幅は目標性能によって決まるものであるから、実設計上必要な幅を設定すればよい。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態による車載レーダー装置では、カバー102を構成する材料の比誘電率をεg、任意の整数をnとした時、凹部構造の溝の深さLを、
L = nλ/(√εg−1))
とすることによって、晴天時における電波の減衰を理論上ゼロにすることができる。
【0024】
実施の形態3.
上述の構造を有したケーシング手段(即ち、カバー102)において、実施の形態1では毛細管現象を用いた水膜の除去について、実施の形態2では毛細管現象で引き込む溝の深さについて述べたが、本実施の形態では、その溝の方向について述べる。
本実施の形態において、溝の方向を考える場合、その最悪条件、即ち、全ての溝に毛細管現象により水が入り込んでいる状態の場合を例にして説明する。
この状態は、レーダー装置内部の電波送信部(送信手段)から見た場合、その送信方向に誘電体のスリットがあると解釈できる。
従って、「送信電波の効率的な透過」という視点で考えた場合、水の吸収以外の減衰要素(反射、錯乱)を最も小さくするように溝の方向を選ぶ必要がある。
【0025】
ここで、一般的に水は誘電体であるものの、その誘電率が大きい上、実際の自然環境における雨滴を考えた場合には、不純物も多く含まれており、大きな抵抗体であると解釈しておく方が自然である。
不純物を含む水であることを念頭に考えると、送信電波の偏波面と溝が平行状態にある場合には、偏波面は電界で表されているので、溝中の水分表面にいくらかの電位差が現れ、いくらかの反射波が存在することが想定される。
逆に、送信電波の偏波面が溝に対して垂直である場合には、上記電位差は発生でき無いため、反射波が少なくなることが期待できる。
従って、溝の向きと偏波面は、互いに垂直であることが望ましく、設計時には、レーダーの偏波面に対して垂直になるように溝を構成した方が、効率的に電波を透過するという視点で都合が良い。
【0026】
以上説明したように、本実施の形態においては、凹構造の溝の向きを、送信電波の偏波面に垂直とすることによって、溝に引き込んだ水(水滴)による電波の減衰を最小限に抑制することができる。
【0027】
実施の形態4.
図5は、実施の形態4による車載レーダー装置を説明するための図であり、カバーの外表面に付着した水滴に働く力関係を表した図である。
前述した溝104の構成において、さらに効率よく凹部202に水を引き込むためには、凸部201で水滴を引っ張る力を小さくし、凹部202で水滴を引っ張る力を大きくしてやればよい。
即ち、凸部201の表面における水滴との接触角をθ1、凹部202における水滴との接触角をθ2とした場合、図5に示すように、Tcosθ1<Tcosθ2となるようにすれば良いことがわかる。
従って、θ1>θ2であるから、凸部201の接触角θ1を大きくし、凹部202の接触角θ2を小さくすれば良く、その差が大きいほど効果が高いことがわかる。
【0028】
凸部201の表面において水滴との接触角θ1を大きくすることは、凸部201の表面に疎水性あるいは撥水性を持たせることによって実現できる。
また、凹部202において接触角θ2を小さくすることは、凹部202に親水性を持たせてやれば実現できる。
これらの実現は、例えば、ケーシング手段(カバー102)の材料が樹脂であるとすると、撥水性および親水性のいずれも、コーティング剤の塗布や表面改質によって容易に実現できる。
【0029】
以上説明したように、本実施の形態による車載レーダー装置では、凹構造の溝の内側には親水性処理を施し、凹構造の溝と溝の間の凸部上面には撥水性処理を施しているので、
さらに効果的に水滴を溝に引き込むことができる。
【0030】
実施の形態5.
これまでに述べた溝の構成では、一時的な降雨に対しては有効である。
しかし、毛細管現象によって引き込まれる水の総容量には上限があるため、この上限を超える連続的な雨滴が存在する場合には、上述の効果が持続できないことになる。
溝中の水が重力や走行風によって排水されることに期待することはできるが、そもそも毛細管現象は、溝の壁面に働く力によって生じているため、濡れようとする力が排水方向とは逆に働き、効率的に排出できない。
【0031】
図6は、全受差した実施の形態1による車載レーダー装置のカバー102の端部(周辺部)105の拡大図であり、カバー102周辺部の溝中の水に働いている力関係を表した図である。 注 この3行の記載は正しいですか。
本実施の形態による車載レーダー装置は、後述するように、主たるレーダー機能に影響を及ばさないエリアであるカバー102の外表面周辺部(即ち、カバー端部105)の溝幅を、主たるレーダー機能に影響を及ぼすエリア(即ち、カバー102の外表面周辺部を除くエリア)よりも大きくしたことを特徴とするものである。
【0032】
図6に示すように、毛細管現象により排水させないとする力601は、溝の3面(即ち、溝の両側壁面および底面)で働いており、残る一面には車両が走行することにより受ける走行風があたり、この風により排出しようとする力602が働き、さらに、重力による力603が働いているため、これに起因する摩擦力604が排水させない力として働き、水の質量で決まる力605が排水しようとする力として働く。
効率的に排水するためには、排水させないとする力を小さくし、排出しようとする力を大きくすれば良い。
ただし、重力の強さを大きくすることはできないので、その他のパラメータをコントロールすることが肝要となる。
【0033】
ここで、排水させないように働く力の内、溝の3面に働く力601は、毛細管現象の基本となる力なので、溝の幅を大きくすることで毛細管現象が成立しないようにすることが可能である。
これは、溝の幅を大きくするということが、その溝に存在する水の質量を大きくすることを意味するので、水の質量で決まる力605を大きくし、溝の3面に働く力601が変わらなくても、相対的にこの力601をキャンセルしていることになる。
【0034】
加えて、溝中の水に走行風があたる面積を大きくしていることにもなるので、さらに排出しようとする力を大きくすることが出来る。
ここで、レーダー装置全体の構造を振り返ってみると、図1において、カバー102の端部(周辺部)においては、一般的に電波の有効照射範囲外になっているため、この端部エリアの溝幅を広げることで、効率的に排水すればよいことになる。
【0035】
図7は、実施の形態6による車載リーダー装置の特徴的な構造を説明するための図であり、本実施の形態による車載リーダー装置におけるカバー102の端部105の拡大図である。
本実施の形態では、図7に示すように、主たるレーダー機能に影響を及ばさないエリアであるカバー102の端部(周辺部)105における溝の溝幅(即ち、凹部202の幅)702を、主たるレーダー機能に影響を及ぼすエリア(即ち、カバー102の外表面周辺部を除く中央部エリア)における溝幅701よりも大きくしている。
【0036】
これにより、走行風による排水を促すことが出来、その分溝中の水の体積が減少するので、連続的な降雨に対しても、毛細管現象により雨滴を溝中に引き込むことが出来る。
なお、溝幅を広げた部分の凹部において、水滴との接触角を大きくするよう表面を加工すれば、凹部の各面に働く力が小さくなるので、排水させないとする力が減り、走行風による排水効果はさらに向上する。
【0037】
以上説明したように、本実施の形態による車載レーダー装置においては、凹部構造の溝の幅は、カバー102の周辺部エリアの方がカバー102の周辺部以外のエリアよりも大きくするので、溝に引き込んだ水を効果的に排出することができる。
【0038】
実施の形態6.
車両にレーダーが搭載される際には、一般的にレーダーの保護、あるいは意匠的な意味合いから、車両に搭載された車載レーダー装置の前方にレドームが搭載される。
実施の形態1〜5で記載したカバー102の外表面に設けた溝の構造は、車載レーダー装置の前方に搭載されるレドームの前面あるいは裏面へ適用することも可能である。
【0039】
本実施の形態による車載レーダー装置用レドームは、電波を対象物に向けて送信する送信手段と、対象物で反射された反射電波を受信する受信手段と、送信手段が送信する送信電波と受信手段が受信する受信電波とから対象物を検知し、対象物までの距離や相対速度を計測する検知・計測手段と、送信手段、受信手段および検知・計測手段を収納する筐体と、筐体101の電波送信方向の前面に配置され、筐体101内の収納物を保護するカバー102とを備えた車載レーダー装置の前方に搭載される車載レーダー装置用レドーム(図示なし)であって、この車載レーダー装置用レドームは、その表面あるいは裏面に実施の形態1〜5のいずれかに記載の凹部構造の溝が設けられていることを特徴とする。
【0040】
従って、本実施の形態の形態による車載レーダー装置用レドームは、表面あるいは裏面に付着する膜によるレーダー性能の低下を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明は、電波送信方向の前面に配置されたカバーに降雨による水滴が付着しても、レーダー性能を低下させない車載レーダー装置の実現に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態1による車載レーダー装置の構造を説明するための図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】実施の形態1のレーダー装置において、表面張力によって水滴が溝に引き込まれる様子を説明するための図である。
【図4】実施の形態2による車載レーダー装置の特徴的な動作を説明するための模式図である。
【図5】実施の形態4による車載レーダー装置を説明するための図である。
【図6】図1に示したカバー端部105の拡大図である。
【図7】実施の形態6による車載リーダー装置の特徴的な構造を説明するための図で
【符号の説明】
【0043】
101 筐体 102 カバー 103 偏波面
104 溝 105 カバー端部 202 溝の凸部
202 溝の凹部 301 水滴
401 凸部を透過する電波 401 凹部を透過する電波
701 カバーの端部ではないエリアの溝の幅
702 カバーの端部における溝の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を対象物に向けて送信する送信手段と、
上記対象物で反射された反射電波を受信する受信手段と、
上記送信手段が送信する送信電波と上記受信手段が受信する受信電波とから上記対象物を検知し、上記対象物までの距離や相対速度を計測する検知・計測手段と、
上記送信手段、上記受信手段および上記検知・計測手段を収納する筐体と、
上記筐体の電波送信方向の前面に配置され、上記筐体内の収納物を保護するカバーとを備えたレーダー装置において、
上記カバーは、電波送信方向の外表面全体に毛細管現象により水が導かれる凹構造の溝が設けられていることを特徴とする車載レーダー装置。
【請求項2】
上記凹部構造の溝の深さLは、上記カバーを構成する材料の比誘電率をεg、任意の整数をnとした時、
L = nλ/(√εg−1))
であることを特徴とする請求項1に記載の車載レーダー装置。
【請求項3】
上記凹構造の溝の向きは、送信電波の偏波面に垂直であることを特徴とする請求項1または2に記載の車載レーダー装置。
【請求項4】
上記凹構造の溝の内側には親水性処理を施し、上記凹構造の溝と溝の間の凸部上面には撥水性処理を施していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車載レーダー装置。
【請求項5】
上記凹部構造の溝の幅は、上記カバーの周辺部エリアの方が上記カバーの周辺部以外のエリアよりも大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車載レーダー装置。
【請求項6】
電波を対象物に向けて送信する送信手段と、上記対象物で反射された反射電波を受信する受信手段と、上記送信手段が送信する送信電波と上記受信手段が受信する受信電波とから上記対象物を検知し、上記対象物までの距離や相対速度を計測する検知・計測手段と、上記送信手段、上記受信手段および上記検知・計測手段を収納する筐体と、上記筐体の電波送信方向の前面に配置され、上記筐体内の収納物を保護するカバーとを備えた車載レーダー装置の前方に搭載される車載レーダー装置用レドームであって、
上記車載レーダー装置用レドームは、その表面あるいは裏面に請求項1〜5のいずれか1項に記載の凹部構造の溝が設けられていることを特徴とする車載レーダー装置用レドーム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−107283(P2008−107283A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292496(P2006−292496)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】