説明

車載レーダ装置

【課題】外来ノイズによる影響が変化する環境下においてもレーダ性能を低下させることなく外来ノイズを低減して誤動作を抑制し、十分な測距精度を確保する。
【解決手段】演算装置6の信号処理部6aで送信パルスと時間相関を持つフレームデータに対して車速信号に従ったノイズ低減の積算平均処理を実施して測距信号のノイズを低減し、測距部6bで測距信号に基づいて障害物10までの距離を演算する。積算平均処理の反復回数は、送信パルス発生周期と反復回数の乗算値が距離分解能と車速とに基づく条件を満足するようブロック周期制御部6cによって制限され、外来ノイズの多い環境下においても、レーダ性能を低下させることなくノイズを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットに放射したレーダ電波の反射波を受信して測距を行う車載レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無線技術は、レーダのみならず、通信や放送など様々な用途で使用されている。それぞれの用途における無線機においては、必要な電波以外はノイズとして扱われ、このノイズの影響により所望の動作が阻害されたり、誤動作を引き起こしたりすることがある。また、それぞれの電波の強度は電波の用途や場所により異なり、ノイズの影響も場所により一定ではない。
【0003】
このようなノイズの影響を抑制する方法として、例えば特許文献1には、ノイズ信号に対して一定時間に所定の回数をサンプリングしてメモリに蓄え、その値を用いてノイズレベルを計算し、通信の適用範囲(距離)を限定する無線装置が開示されており、ノイズによる誤動作を防止することができる。
【特許文献1】特開平9−46247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているような誤動作防止のために適用範囲を限定する技術では、レーダ装置に適用した場合、レーダを使用する環境によって測距範囲が変化することになり、レーダの性能を大きく低下させる虞がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、外来ノイズによる影響が変化する環境下においてもレーダ性能を適切に確保した上で外来ノイズを低減して誤動作を抑制し、十分な測距精度を確保することのできる車載レーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明による車載レーダ装置は、車両に搭載され、ターゲットに放射した送信パルスの反射波を受信して測距を行う車載レーダ装置であって、所定の期間をブロック周期として設定し、該ブロック周期内の受信データを統計処理し、該送信パルスと時間相関を有しないノイズ信号を除去して時間相関を有する測距信号を抽出する信号処理部と、上記ブロック周期を、測距時の車速と距離分解能とに基づいて制御するブロック周期制御部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外来ノイズによる影響が変化する環境下においてもレーダ性能を適切に確保した上で外来ノイズを低減して誤動作を抑制することができ、十分な測距精度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図6は本発明の実施の一形態に係り、図1は車載レーダ装置の構成図、図2は信号処理のフローチャート、図3は反復回数設定処理のフローチャート、図4はノイズ無し環境下でのフレームデータを示す説明図、図5は積算平均処理のブロック化を示す説明図、図6はノイズ有り環境下での積算平均処理前後のフレームデータを示す説明図である。
【0009】
本発明による車載レーダ装置は、自動車等の車両に搭載され、障害物等のターゲットに対する測距を、パルスエコー方式すなわちパルス信号がターゲットから反射されて受信されるまでの時間差から距離を算出する方式で行うものである。特に、外来ノイズの影響を受けやすい微弱無線方式、例えば300MHz帯や3GHz帯を採用する場合に、レーダ性能の低下を回避して安定した測距精度を確保することができる。図1に示すように、本実施の形態におけるレーダ装置1は、パルス状のレーダ波を放射する送信アンテナ2と、障害物10からの反射波を受信する受信アンテナ3とを備えている。
【0010】
このレーダ装置1の主要機能部は、主として、送信パルスを生成して送信アンテナ2に出力する送信回路4、受信アンテナ3からの信号を取り込み、デジタル化したフレームデータとして出力する受信回路5、送信回路4へ送信パルスを生成するためのクロック信号を出力すると共に、受信回路5から出力されるフレームデータを処理して測距を行う演算装置6から構成されている。演算装置6は、マイクロコンピュータ等から構成され、図示しない車両の制御装置にインターフェース(I/F)回路7を介して接続され、車両の制御装置から車速データを取得する。
【0011】
送信回路4は、演算装置6からのクロック信号を元にして送信パルスを生成し、この送信パルスによるレーダ電波を送信アンテナ2から周期的に放出する。受信回路5は、送信アンテナ2から放出されてターゲット(障害物)で反射された反射パルスと外来ノイズを受信パルスとして受信アンテナ3を介して取り込む。この受信回路5で取り込まれる受信パルスは、等価時間サンプリングにより処理される。すなわち、受信パルスは送信パルスに対してタイミングを少しずつ遅延させながらサンプルホールドされ、送信パルスと時間相関を持つフレームデータとして演算装置6に出力される。
【0012】
演算装置6は、送信パルスと時間相関を持つフレームデータに対して、車速信号に従ったノイズ低減の統計的処理(本実施の形態においては積算平均処理)を実施する信号処理部6a、信号処理部6aでノイズ低減処理された測距信号に基づいて障害物10までの距離を演算する測距部6b、信号処理部6aにおける積算平均処理に係る後述のブロック周期を制御するブロック周期制御部cを備えて構成されている。
【0013】
一般に、外来ノイズは、送信パルスに対して無相関なランダム信号であり、障害物を認識し、測距反応として観測できる変化とは無関係に信号上にのってくる。従って、信号処理部6aでノイズレベルに応じた反復回数の積算平均処理を行うことにより、送信パルス周期と時間的相関のある反射パルスに影響を与えることなく、時間相関のない外来ノイズを反復回数に応じて減少させることができ、結果として信号対雑音比であるS/N比を改善することができる。
【0014】
尚、本実施の形態における積算平均処理とは、同期加算処理ともいう。時間的に繰り返す信号において、繰り返しの周期に同期して標本信号の測定を行い、これを積算平均することを指す。具体的には、サンプリングした複数の受信パルスを、送信パルスのタイミングと同期して加算し、平均処理を行うことである。
【0015】
ここで、電波の進む速度は、光速である3.0×108m/secであり、通常必要とされる距離分解能、例えば距離分解能として10cm程度を例に取ると、電波が10cmの距離を進む時間は、0.33nsecである。従って、通常要求される分解能に相当する距離を電波が進む時間は車速と比較して十分に大きく、積算平均処理を行う過程において車両とターゲットとの距離は一定と見なすことができる。
【0016】
この場合、積算平均処理における反復回数を多くする程、S/N比は向上するが、反復回数を多くし過ぎると、車速の影響が大きくなって、積算平均処理を行う過程において車両とターゲットとの距離が一定とは見なせなくなる。このため、信号処理部6aの積算平均処理における反復回数kは、送信パルス発生周期Tpと反復回数kの乗算値Bfが、距離分解能Rと車速Vとに基づく以下の(1)式の条件を満足するよう、ブロック周期制御部6cによって制限される。
Bf≦R/V …(1)
【0017】
本実施の形態においては、積算平均処理の高速化のため、1つ以上のフレームデータをまとめて、1つのブロックとして扱う。送信パルス発生周期Tpと反復回数kとの乗算値Bfをブロック周期として、このブロック周期Bfが(1)式の条件を満足するよう、ブロック周期制御部6cによって可変制御される。これにより、外来ノイズの多い環境下においても、レーダ性能を適切に確保した上でノイズを低減することができる。
【0018】
すなわち、反復回数kは、以下の(1')式に示すとおり、車速Vと送信パルスの発生周期Tpとの乗算値で、距離分解能Rを除算した値以下に制限される。
k≦R/(V×Tp)…(1')
【0019】
つまり、車速が上がるとブロック周期は小さく(短く)なり、逆に車速が下がるとブロック周期は大きく(長く)なる。よって、積算平均処理を行う過程において、車両とターゲットとの距離がブロック周期の間に移動する距離を一定の範囲に留めることができる。これにより、車速の影響を小さくし、十分な測距精度を確保することができる。
【0020】
また、距離分解能を向上させる、すなわちより小さな距離まで識別できるようにすると、ブロック周期は小さく(短く)なり、逆に距離分解能を下げると、ブロック周期は大きく(長く)なる。よって、積算平均処理を行う過程において、車両とターゲットとの距離がブロック周期の間に移動する距離を一定の範囲に留めることができる。これにより、車両が距離分解能を過剰に超えて移動することを抑制し、十分な測距精度を確保することができる。
【0021】
尚、或るターゲットに対する測距に際しては、送信パルス発生周期は一定であり、その場合のブロック周期の可変は、ノイズ低減の積算平均処理における反復回数を可変することを意味する。
【0022】
また、反復回数kは整数である方が処理が簡潔になるため好ましい。ただし、特に整数に限る必然性はない。反復回数kが(1)式の条件を満足する限り、kが整数でなく、例えば小数で処理しても問題はない。
【0023】
更に、演算装置6は、希望信号の周波数と比較して高い周波数成分のノイズに対して、フレームデータの取得時に移動平均処理を行い、高周波数ノイズを低減するようにしている。この移動平均の最大数は、サンプリング時間Tsにおけるフレームデータ数Nfの移動平均量Dmの積算値が以下の(2)式に示す関係を満足するように、距離分解能Rと車速Vとに基づいて定められる。
Dm×Ts×Nf≦R/V …(2)
【0024】
次に、演算装置6の測距機能に係るソフトウエア処理について、図2に示す信号処理のフローチャート、図3に示す反復回数設定処理のフローチャートを用いて説明する。
【0025】
図2に示す信号処理では、先ず、最初のステップS1において、フレームデータを評価信号として取得し、ステップS2で、このフレームデータを評価してノイズの有無を判断する。具体的には、図4に示すように、フレームデータ内に遅延処理により無変化部を設け、この無変化部の反応強度の変化量を評価してノイズの有無を判断する。
【0026】
図4はノイズ無し環境下におけるフレームデータを示しており、図中の横軸は距離に対応する時間を示し、縦軸は反応強度を示している。ノイズが無い場合には、フレームデータの無変化部の反応強度には変化が無く、ノイズが有る場合、無変化部の反応強度が変化する。
【0027】
そして、ステップS2において、フレームデータの無変化部に変化が無い場合には、ステップS3へ進んでフレームデータの無変化部に続く測距信号を取得し、ステップS4で、測距信号の反応強度を評価することにより測距を行う。この測距処理では、送信アンテナ2から送信パルスを出力した時間を基準として、その送信パルスが目標物で反射して受信アンテナ3で受信されるまでの時間(パルス走行時間)を、測距信号の反応強度が所定の閾値を超えるまでの時間で計測し、以下の(3)式に従って距離Lを算出する。
L=c×Tr/2 …(3)
但し、c :光速(3.0×108m/sec)
Tr:送信パルスから受信パルスまでのパルス走行時間
【0028】
一方、ステップS2において、フレームデータの無変化部に反応強度の変化が有った場合には、ノイズ有りと判断してステップS5へ進む。ステップS5では、ノイズレベル評価のための積算平均処理の繰り返し反復回数を、図3のフローチャートに示す反復回数設定処理により、予め設定したノイズレベルの段階に応じて設定する。そして、ステップS6の測距信号の取得からステップS7の反復回数確認のループを経て反復回数分のフレームデータを取得し、積算平均処理により時間相関のないランダムノイズを除去した後、ステップS8で測距反応を計算する。このステップS8における測距処理は、前述したステップS4と同様である。
【0029】
本実施の形態においては、積算平均処理の高速化のためにフレームをブロックとして扱っており、図3の反復回数設定処理においては、前述の(1)式の条件による反復回数の制限内で、ノイズレベルに応じた回数を設定するようにしている。
【0030】
具体的には、反復回数設定処理では、先ず、最初のステップS11でフレームデータの無変化部の反応強度の変化量Δを計算し、次に、ステップS12で変化量Δがレベル1の閾値Z1を超えているか否かを調べる。その結果、Δ≦Z1の場合には、ステップS13で積算平均処理の反復回数を21回に設定する。
【0031】
一方、ステップS12においてΔ>Z1の場合には、ステップS12からステップS14へ進んで変化量Δがレベル2の閾値Z2を超えているか否かを調べ、Δ≦Z2の場合、ステップS15で反復回数を22回に設定する。Δ>Z2の場合には、同様の処理でノイズレベルに応じた反復回数を設定し、最終的に最大となるノイズレベルnに達したとき(ステップS16_n)、ステップS16_n+1で反復回数を2n回に設定する。
【0032】
すなわち、図5に示すように、例えば8ビットのフレームデータを1ブロックとする場合、外来ノイズのレベルがレベル1以下である場合には、積算平均処理を行うことなく1ブロックのフレームデータを用いて測距を行い、ノイズレベルがレベル2の場合には、最初のフレームデータを2ビットずつシフトした22(=4)個のブロックのフレームデータを積算して平均処理を行う。更に、ノイズレベルがレベル4の場合には、24(=16)個のブロックで積算平均処理を行い、ノイズレベルnの場合、2n個のブロックで積算平均処理を行うことで、ノイズを低減する。このときの積算平均処理の反復回数2nは、レーダ装置1の距離分解能Rと車速Vとによる制限を受ける。例えば、(1)式の条件を満足する最大の整数値、或いはそれ以下の整数値が反復回数として設定される。
【0033】
以上により、図6に示すように、ノイズ成分Snz1が載った測距信号S1やノイズ成分Snz2が載った測距信号S2に対して積算平均処理が実施され、ランダムな外来ノイズ成分Snz1,Snz2を相殺・低減した測距信号S3を得ることができ、安定した測距精度を確保することができる。しかも、測距信号に重畳したノイズのレベルを判断して車速に適応した最適な処理で外来ノイズの影響を低減するため、レーダ反応の誤動作を防止することができる。
【0034】
尚、上述の実施の形態では送信アンテナ2と受信アンテナ3が別に設定されているが、両者がひとつになった送受信アンテナを用いたレーダ装置にも適用可能である。また、上述の実施の形態では300MHz帯や3GHz帯の微弱無線方式によるパルスエコー方式のレーダ(パルスレーダ)を開示しているが、他の周波数帯域を利用したレーダ装置にも適用可能である。また、パルスレーダ以外にも、時間的に繰り返す信号を送出するレーダ装置にも適用可能である。また、上述の実施の形態では受信パルスのサンプリングに等価時間サンプリングを用いているが、通常のサンプリングも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】車載レーダ装置の構成図
【図2】信号処理のフローチャート
【図3】反復回数設定処理のフローチャート
【図4】ノイズ無し環境下でのフレームデータを示す説明図
【図5】積算平均処理のブロック化を示す説明図
【図6】ノイズ有り環境下での積算平均処理前後のフレームデータを示す説明図
【符号の説明】
【0036】
1 レーダ装置
4 送信回路
5 受信回路
6 演算装置
6a 信号処理部
6b 測距部
6c ブロック周期制御部
Bf ブロック周期
R 距離分解能
V 車速

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、ターゲットに放射した送信パルスの反射波を受信して測距を行う車載レーダ装置であって、
所定の期間をブロック周期として設定し、該ブロック周期内の受信データを統計処理し、該送信パルスと時間相関を有しないノイズ信号を除去して時間相関を有する測距信号を抽出する信号処理部と、
上記ブロック周期を、測距時の車速と距離分解能とに基づいて制御するブロック周期制御部と
を備えたことを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項2】
上記ブロック周期内の受信データに対する統計処理を積算平均処理とし、この積算平均処理の反復回数を、上記車速と上記送信パルスの発生周期との乗算値で上記距離分解能を除算した値以下に制限することを特徴とする請求項1記載の車載レーダ装置。
【請求項3】
上記受信データを移動平均処理し、この移動平均処理の処理量を上記車速と上記距離分解能とに基づいて制限することを特徴とする請求項1又は2記載の車載レーダ装置。
【請求項4】
上記受信データに遅延処理を行って測距反応により変化を生じない領域を先頭部分に作成し、該先頭部分の領域における信号強度に基づいて上記ノイズ信号を評価することを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載の車載レーダ装置。
【請求項5】
上記積算平均処理の反復回数を、上記ノイズ信号のレベルに応じて設定することを特徴とする請求項2〜4の何れか一に記載の車載レーダ装置。
【請求項6】
上記送信パルスの発生周期毎に得られる受信データを1ブロックとして扱い、上記反復回数に渡るブロック間で上記積算平均処理を行うことを特徴とする請求項2〜5の何れか一に記載の車載レーダ装置。
【請求項7】
上記所定の期間は、上記送信パルスの発生周期の整数倍であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一に記載の車載レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−107309(P2010−107309A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278605(P2008−278605)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】