車輪の転舵装置
【課題】車輪を転舵させるに際し、車輪がサスペンション装置のアーム等、車輪および車体間に位置する部材に干渉するために車輪を大転舵角で転舵できないという問題を解消する。
【解決手段】車輪1を回転自在に軸支するハブ部材4に支持部8を連結する。支持部8を、車体側にリンク構造9,15で連結する。該リンク構造9,15が連結点11,12を中心に回動することにより車輪1を転舵する。転舵する際には前記リンク構造9,15により、車輪1の接地点が、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部「ヌ」を描くよう構成する。
【解決手段】車輪1を回転自在に軸支するハブ部材4に支持部8を連結する。支持部8を、車体側にリンク構造9,15で連結する。該リンク構造9,15が連結点11,12を中心に回動することにより車輪1を転舵する。転舵する際には前記リンク構造9,15により、車輪1の接地点が、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部「ヌ」を描くよう構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の旋回走行に必要となる車輪の転舵装置であって、特に、大きな転舵角で車輪を転舵させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者による操舵操作に基づき車輪を転舵させる車輪の転舵装置は一般的に、車輪を回転自在に軸支するハブ部材を、ハブ部材からみて車体側にあるアームの遊端に回動可能に連結する。さらに、このハブ部材には車幅方向に延在するコントロールロッドを連結する。そして、該コントロールロッドを車幅方向に進退動することによりハブ部材を連結点まわりに回動させ、車輪を転舵することが常套である。
【0003】
ところが、上記のような一般に広く知られた転舵装置では、車輪が連結点(キングピン軸)を中心として円弧状に回動するところ、車輪の転舵角を大きくするとアームに干渉するため、転舵角を大きくすることができない。
そこで、最大転舵角を180度以上まで可能にした、大転舵角で転舵可能な車輪の転舵装置としては従来、特許文献1および特許文献2に記載のごときものが知られている。
特許文献1および特許文献2に記載の車両用懸架装置につき、特許文献2の用語を用いて概略を説明する。車両上下方向に揺動可能な補助上部アームおよび下部アームの基端(車幅外方端)を車体に取り付ける。補助上部アームおよび下部アームの遊端(車幅外方端)には、車輪の外径よりもひと回り大きな円弧形状の弧状アームを連結する。弧状アームの中央頂部には、車輪操舵機構を介して、キングピン上端を回動可能に連結する。車両上下方向に延在するキングピンのキングピン下端には、車輪を回転自在に取り付け、該車輪を弧状アームの内周に収容する。これにより、これら弧状アームと、キングピンと、車輪とをばね下に懸架する。
【特許文献1】特開平5−124535号公報
【特許文献2】特開平6−64556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のような車両用懸架装置にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。
つまり弧状アームは車輪の外径よりも大きい部材であり、キングピンアームは車輪の半径よりも長い部材である。これらの大型部材を介して車輪を取り付けたことから、ばね下質量が大きくなるという弊害を生じる。また、これらのこれらの大型部材を懸架する補助上部アームや下部アームの重量化も回避することができない。特に、車輪のロードホイール内空領域にホイール輪駆動モータを設置するという構成では、ますますばね下質量が大きくなる。そうすると、車輪のバウンド時およびリバウンド時には、車両上下方向の振動を減衰させることが困難となって、乗り心地性能が悪化する。
【0005】
本発明は、上述の実情に鑑み、ばね下質量を増大させることなく、車輪を大きな転舵角で転舵可能に懸架し得る車輪の転舵装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため本発明による車輪の転舵装置は、請求項1に記載のごとく、
車輪を回転自在に軸支するハブ部材を、車体側にリンク構造で連結し、該リンク構造が連結点を中心に回動することにより前記車輪を転舵する車輪の転舵装置において、
前記リンク構造により、転舵する際には車輪の接地点が、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部を描くよう構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0007】
かかる本発明の構成によれば、リンク構造により、転舵する際には車輪の接地中心が、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部を描くよう構成したため、
車輪の転舵角を大きくするほど、車輪の位置が、非転舵状態における位置から車両前後方向に大きく離れる。したがって、転舵中の車輪がアームと干渉することを回避できて、従来のようにばね下質量を過大にすることなく、車輪の大転舵を成し得る。
また、本発明の工夫はハブ部材とアームとを連結するリンク構造にあることから、一般な転舵装置における上部アームや下部アームといったアーム部材を用いることが可能となり、特許文献1記載のごとき大型のアッパーアームやロワーアームを必要としない。したがって、ばね下重量の増大を回避して、乗り心地性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例になる車輪の転舵装置を示す平面図であり、左車輪が転舵していない直進状態を表す。図2は同実施例の正面図であり、車輪が転舵していない直進状態を表す。
車体の前方左側に取り付けられた車輪1は、外周部にタイヤ2を、中心部にロードホイール3を具える。車輪1はハブ部材4に回転自在に取り付けられている。図1には、これら車輪1およびハブ部材4について、車輪1の回転軸を含む水平面で切断した面を表す。また図2には、車輪1について、車輪1の回転軸を含む鉛直面で切断した面を表す。
【0009】
ハブ部材4の上部には、図2に示すように、略上下方向に延在するストラット5の下端を取り付ける。ストラット5の上端は図示しない車体に取り付けられている。これら上下端の取り付け部には、弾性部材を介挿し、取り付け部の折れ曲がりを許容する。
図2中、一点鎖線で示すストラット5の延在方向には、後述するリンク構造を配置する。これにより、車輪の転舵角が大きくない領域では、ストラット5の延在方向を回動中心として、ハブ部材4および車輪1が転舵する。
【0010】
ストラット5は、その上部にサスペンションスプリング6を、その下部にショックアブソーバ7を具える。サスペンションスプリング6は、接地面から車輪1に入力される衝撃を緩和する。ショックアブソーバ7は、バウンドおよびリバウンドに伴う上下方向振動を減衰させる。
【0011】
ハブ部材4の下部には、プレート状の支持部8を取り付ける。支持部8はハブ部材4と一体結合され、ロードホイール3の内空領域に位置する。
支持部8は非転舵状態では図1に示すように車両前後方向に延在し、その前端部は第1リンク9の一端と回動可能に連結する。また、その後端部は第2リンク15の一端と回動可能に連結する。
【0012】
第1リンク9の他端は、車体側の部材であるアーム10(ロアアームともいう)の車幅方向外端と回動可能に連結する。第2リンク15の他端も、アーム10の車幅方向外端と回動可能に連結する。このようにハブ部材4とアーム10との間を、第1リンク9および第2リンク15からなるリンク構造で機械的に連結する。アーム10の図示しない車幅方向内端は、上下方向揺動可能に軸支され、この車幅方向内端を基端とし、車幅方向外端を遊端として、車輪1(遊端)のバウンドおよびリバウンドを可能とする。
【0013】
第1リンク9は水平面を持ったプレート形状であり、その一端にあって支持部8の前端と連結する第3連結点13と、その他端にあって車体側のアーム10と連結する第1連結点11は、車両上下方向に延在する回転軸を有する。第2リンク15は、第1リンク9よりも長く、水平面を持ったプレート形状であり、その一端にあって支持部8の後端と連結する第4連結点14と、その他端にあって車体側のアーム10と連結する第2連結点12は、車両上下方向に延在する回転軸を有する。
したがって、ハブ部材4は第1リンク9および第2リンク15に対し、車両上下方向に延在する回転軸を中心に略水平面上で回動可能である。
【0014】
第1リンク9に設けた第1連結点11と第2連結点13との位置関係は、車輪1の非転舵状態では図1に示すように、車幅方向に位置する。また第2リンク15に設けた第2連結点12と第4連結点14との位置関係は、車輪1の非転舵状態では図1に示すように、おおよそ車両前後方向に位置するが、車両前方にある第2連結点12が車両後方にある第4連結点14よりもやや車幅内方に位置する。
【0015】
また非転舵状態では図1に示すように、第1連結点11および第2連結点13が、車幅方向に延在する車輪1の回転軸上に位置し、これに伴い第1リンク9の中心軸も車輪1の回転軸上に位置する。さらに、アーム10の中心軸も車輪1の回転軸上に位置する。
【0016】
第1リンク9の車幅内方端には、腕部19を結合する。腕部19の先端には車幅方向に延在するコントロールロッド16の一端を連結する。
コントロールロッド16の他端は、運転者が操作する操舵装置のラック部材17と連結する。運転者が操舵装置を操作すると、ラック部材17が図1矢の向き車幅方向に進退動し、コントロールロッド16も車幅方向に進退動して、第1リンク9を第1連結点11周りに回動させる。これにより、ハブ部材4および車輪1が転舵する。この様子については、図6〜図8に沿って後述する。
【0017】
図3は、上記及び図1、図2に示した実施例を、車幅内方からみた側面図である。ここで、アーム10およびコントロールロッド16は、車幅方向に直角な断面で表されている。
【0018】
これまで説明してきた図1〜図3に示す実施例ではストラット5を具えるが、この他にも図4の正面図に示す他の実施例のように、ストラット5に代えて上述したリンク構造をさらに設けることにより、ハブ部材4の上部および下部にそれぞれ上記リンク構造を具えたダブルウィッシュボーン型としてもよい。図4に示す実施例の場合、サスペンションスプリング6およびショックアブソーバ7を上側のアッパーアーム10と交差させ、ショックアブソーバ7の下端を下側のロアアーム10に連結する。
【0019】
また、ハブ部材として、車輪1を駆動するインホイール型のモータ18を設けてもよい。
モータ18は、車輪1の回転軸と同軸に出力軸(図示せず)を具えている。この出力軸は車輪1と結合する。略円筒形状であるモータ18の外径寸法は、中空円筒形状のロードホイール3の内周寸法よりも小さく、図3に示すように、モータ部5の半分をロードホイール3の内空領域に配置して、いわゆるインホイールモータ構造とする。モータ部5が力行運転すると、モータ部5の出力軸が回転し、車輪1を駆動する。
【0020】
図5は、上記及び図4に示した実施例を、車両上方からみた平面図である。理解を容易にする為、図5ではロアアーム10およびこれに連結したリンク構造を省略し、アッパーアーム10およびこれに連結したリンク構造を示す。
【0021】
なお、車体右側に取り付けられた車輪については図示しなかったが、上述した左車輪1の転舵装置と左右対称に、右車輪の転舵装置をも構成する。
【0022】
次に、上述した各実施例の転舵する様子について、図6〜図8に沿って説明する。
【0023】
図6は本実施例の転舵装置が転舵する様子を線図的に示す平面図である。図6中、数字符号8,9,15を付した位置は、非転舵状態の位置である。ここで第1リンク9は車幅方向に延在し、ハブ部材4の支持部8は車両前後方向に延在する。また、車輪1が路面と接地する接地点1cは、非転舵状態における車輪1の回転軸「ル」上、つまり一点鎖線で示す第1リンク9の中心軸上にある。なお、実際にはタイヤ2が圧縮変形して路面と面状に接地することから、接地点1cは当該接地面の中心(接地中心1cともいう)でもある。
非転舵状態における第1リンク9の位置をイの符号で示す。
【0024】
コントロールロッド16を進退動させ、第1リンク9を第1連結点11周りに回動させることにより、車輪1を旋回内輪として転舵する際には、第1リンク9の位置が符号イからロ、ハ、ニ、ホと連続的に変化する。また車輪1を旋回外輪として転舵する際には、符号イからへ、トと連続的に変化する。
【0025】
図6中、第1リンク9に着目すると、第1リンク9の車幅内方端(第1連結点11)がアーム10に回転支持されているので、第1リンク9の車幅外方端(第3連結点13)は円弧の軌跡「チ」を描く。
また第2リンク15に着目すると、第2リンク15の車両前方端(車幅内方端でもある第2連結点12)がアーム10に回転支持されているので、第2リンク15の車両後方端(車幅外方端でもある第4連結点14)は円弧の軌跡「リ」を描く。
【0026】
そして、これら円弧の軌跡チ、リ上にある第3連結点13および第4連結点14は、支持部8の両端部でもあることから、支持部8も、位置イ〜トに応じて連続的に変化する。したがって、この支持部8と結合するハブ部材4も、このハブ部材4に軸支された車輪1も位置イ〜トに応じて連続的に変化し、接地中心1cは、図6中、太い二点鎖線のような軌跡ヌを描く。
この軌跡ヌは、図6に示すように、車両前後方向の長軸を具えた楕円の一部であって、非転舵状態で最も車幅外方を通り、転舵角が増大するにつれて車幅内方に向かう。
【0027】
本実施例では、車輪1の接地点が軌跡ヌに示すような車両前後方向に長い楕円の一部であることから、以下に説明する作用効果が得られる。
つまり、従来の転舵輪は、接地中心がキングピン軸を中心に円弧を描きながら転舵するため、転舵角を大きくすると、転舵輪が、ロアアーム等のサスペンション構成要素と干渉する。したがって、転舵角を大きくすることができなかった。
しかし、本実施例では、転舵により接地中心1cが円弧ではなく車両前後方向に長い楕円ヌを描くことから、転舵角が位置イからロ、ハ、ニ、ホと大きくなるに従い車輪1の車両前後方向移動量を大きくすることが可能になり、図6に示す車輪1の回転軸「ル」およびアーム10から離間することができる。したがって、車輪1がアーム10と干渉することがなく、車輪1の大転舵を可能とする。
【0028】
なお、楕円ヌの長軸および短軸の調整は、支持部8の長さと、第1リンク9の長さと、第2リンク15の長さと、第1連結点11および第2連結点12の相対位置関係と、を適宜設定すればよい。
【0029】
図6には、第1リンク9の位置ロ、ハ、ニ、ホに対応する第2リンク15の位置を図略しているため、上記位置ハおよび位置ホに対応する本実施例の転舵状態をより具体的に図7に示す。ここで図7(a)は位置イに対応する転舵状態を示し、図7(b)は位置ハに対応する転舵状態を示し、図7(c)は位置ホに対応する転舵状態を示す。
また図6には、第1リンク9の位置へ、トに対応する第2リンク15の位置を図略しているため、上記位置へに対応する本実施例の転舵状態をより具体的に図8に示す。ここで図8(a)は位置イに対応する転舵状態を示し、図8(b)は位置へに対応する転舵状態を示す。
【0030】
上述した車輪の転舵装置を車体の両側に具えた実施例につき説明する。
【0031】
図9は、車体21の両側にアーム10と、リンク構造9,15と、車輪1とをそれぞれ設け、左車輪1Lを左車輪専用のラック部材17Lで転舵し、右車輪1Rを右車輪専用のラック部材17Rで転舵する実施例を示す平面図である。左ラック部材17Lは左ピニオン20Lと噛合し、右ラック部材17Rは右ピニオン20Rと噛合し、これらピニオン20L、20Rは運転者が操作するステアリングホイール(図示せず)に応動して回転する。
通常の左旋回走行においては、左ラック部材17Lおよび右ラック部材17Rを共に右方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に左側に転舵する。また通常の右旋回走行においては、左ラック部材17Lおよび右ラック部材17Rを共に左方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に右側に転舵する。
【0032】
これに対し、車両を縦列駐車したり路肩に幅寄せしたりする場合には、図10に示すように、左ラック部材17Lを左方向に進動させる一方、右ラック部材17Rを右方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に90度まで大転舵する。
【0033】
このように図9〜図10に示す実施例ではラック部材17を左右夫々に具え、左車輪1Lと右車輪1Rとをこれらラック部材17L,17Rで個々に転舵するため、通常の旋回走行および縦列駐車等の大転舵走行の双方に対応することができる。
【0034】
次に、本発明の転舵装置を車体21の両側に具えた他の実施例につき説明する。
【0035】
図11は、左車輪1Lおよび右車輪1Rを共通するラック部材17Cで転舵する実施例を示す平面図である。このラック部材17Cは1個のピニオン20Cと噛合し、このピニオン20Cは運転者が操作するステアリングホイール(図示せず)に応動して回転する。
通常の左旋回走行においては、ラック部材17Cを右方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に左側に転舵する。また通常の右旋回走行においては、ラック部材17Cを左方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に右側に転舵する。
【0036】
これに対し、車両を縦列駐車したり路肩に幅寄せしたりする場合には、図12に示すように、ラック部材17Cを左方向に最大限進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に90度まで大転舵する。なお、図12に示す他、ラック部材17Cを右方向に最大限進動させても左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に90度まで大転舵することができる。
【0037】
このように図11〜図12に示す実施例では共通する1本のラック部材17Cを進退動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを転舵するため、運転者が操作する操舵装置の構成を簡易にすることが可能となり、コスト上有利にすることができる。
【0038】
ところで上記した本実施例では、車輪1を回転自在に軸支するハブ部材4を、車体側にリンク構造9,15で連結し、このリンク構造9,15が連結点11,12を中心に回動することにより車輪1を転舵する車輪の転舵装置において、リンク構造9,15により、転舵する際には車輪1の接地点が、図6に示すように車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部の軌跡ヌを描くよう構成したことから、
車輪1の転舵角を大きくするほど、車輪1の位置が、非転舵状態における位置(図6に示す車輪回転軸)から車両前後方向に大きく離れる。したがって、特許文献1,2記載の弧状アームやアッパーアームやロワーアームを用いることなく転舵中の車輪1がアーム10と干渉することを回避できて、ばね下質量を過大にしなくても、車輪の大転舵を成し得る。
【0039】
上記した、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部とは、具体的には、非転舵状態で最も車幅外方を通り、転舵角が増大するにつれて車幅内方に向かうことから、
大転舵中は車輪1が車幅外方に突出することを軽減することができる。したがって、車両を路肩に寄せる際に有利となる。
【0040】
また本実施例では、リンク構造は第1リンク9と、該第1リンクよりも長い第2リンク15を具え、車輪1の非転舵状態で、図1等に示すように第1リンク9を車幅方向に延在させ、第1リンク9に斜交するよう第2リンク15を車両前後方向かつ車幅方向に配置し、該第2リンク15の車幅外方端14をハブ部材4の支持部8に連結し、第2リンク15の車幅内方端12を車体側のアーム10に連結したことから、
図6に示す軌跡ヌのように車輪1の転舵角を大きくするほど、車輪1の位置がアーム10の軸ルから車両前後方向に大きく離れ、転舵中の車輪1がアーム10と干渉することを回避できる。したがって、特許文献1、2のようにばね下質量を過大にしなくても、車輪の大転舵を成し得る。
【0041】
具体的には図1等に示すように、前記第2リンク15と前記車体側とを連結する第2連結点12を、前記第1リンク9と前記車体側とを連結する第1連結点11よりも、車両前方かつ車幅外方に配置し、車輪1の非転舵状態で、前記第2リンク15と前記ハブ部材4の支持部8とを連結する第4連結点14を、前記第1リンク9と前記ハブ部材4の支持部8とを連結する第3連結点13よりも、車両後方に配置したことから、
図6に示す軌跡ヌのように車輪1の転舵角を大きくするほど、車輪1の位置がアーム10の軸ルから車両前後方向に大きく離れ、転舵中の車輪1がアーム10と干渉することを回避できる。したがって、特許文献1、2のようにばね下質量を過大にしなくても、車輪の大転舵を成し得る。
【0042】
より具体的には図1等に示すように、前記第3連結点13および前記第4連結点間の距離14に相当する支持部8の長さを、前記第2リンク15よりも短く、前記第1リンク9よりも長くしたことから、
図6に示す軌跡ヌのように車輪1の転舵角を大きくするほど、車輪1の位置がアーム10の軸ルから車両前後方向に大きく離れ、転舵中の車輪1がアーム10と干渉することを回避できる。したがって、特許文献1、2のようにばね下質量を過大にしなくても、車輪の大転舵を成し得る。
【0043】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその主旨に逸脱しない範囲において種々変更が加えられうるものである。
例えば、本実施例では、図1に示す左車輪1の第2リンク15を、図1中右上から左下にかけて延在するよう配置したが、この他にも右下から左上にかけて延在するよう配置してもよい。また、リンク構造9,15の車体側を車両上下方向に揺動するアーム10の遊端に連結したが、この他の車体側メンバにも連結してよいこと勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施例になる車輪の転舵装置(非転舵状態)を、車両上方からみた状態を示す平面図である。
【図2】同転舵装置を、車両前方からみた状態を示す正面図である。
【図3】同転舵装置を、車幅内方からみた側面図である。
【図4】本発明の他の実施例になる車輪の転舵装置を、車両前方からみた状態を示す正面図である。
【図5】同転舵装置を、車両上方からみた状態を示す平面図である。
【図6】図1〜図5に示す転舵装置の車輪1接地中心の軌跡を示す平面図である。
【図7】同転舵装置において車輪を左向きに転舵させる場合の状態を示す平面図であって、(a)は直進走行中の非転舵状態(転舵角0度)を、(c)は大転舵の状態(転舵角約−90度)を、(b)はこれらの中間状態(転舵角約−45度)を示す。
【図8】同転舵装置において車輪を右向きに転舵させる場合の状態を示す平面図であって、(a)は直進走行中の非転舵状態(転舵角0度)を、(b)は右転舵の状態(転舵角約30度)を示す。
【図9】本発明の転舵装置を車体の両側に設けた実施例を示す平面図である。
【図10】同実施例において車輪が大転舵した状態を示す平面図である。
【図11】本発明の転舵装置を車体の両側に設けた他の実施例を示す平面図である。
【図12】同実施例において車輪が大転舵した状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 車輪
2 タイヤ
3 ロードホイール
4 ハブ部材
5 ストラット
6 サスペンションスプリング
7 ショックアブソーバ
8 ハブ部材の支持部
9 第1リンク
10 アーム
11 第1連結点
12 第2連結点
13 第3連結点
14 第4連結点
15 第2リンク
16 コントロールロッド
17 ラック部材
18 モータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の旋回走行に必要となる車輪の転舵装置であって、特に、大きな転舵角で車輪を転舵させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者による操舵操作に基づき車輪を転舵させる車輪の転舵装置は一般的に、車輪を回転自在に軸支するハブ部材を、ハブ部材からみて車体側にあるアームの遊端に回動可能に連結する。さらに、このハブ部材には車幅方向に延在するコントロールロッドを連結する。そして、該コントロールロッドを車幅方向に進退動することによりハブ部材を連結点まわりに回動させ、車輪を転舵することが常套である。
【0003】
ところが、上記のような一般に広く知られた転舵装置では、車輪が連結点(キングピン軸)を中心として円弧状に回動するところ、車輪の転舵角を大きくするとアームに干渉するため、転舵角を大きくすることができない。
そこで、最大転舵角を180度以上まで可能にした、大転舵角で転舵可能な車輪の転舵装置としては従来、特許文献1および特許文献2に記載のごときものが知られている。
特許文献1および特許文献2に記載の車両用懸架装置につき、特許文献2の用語を用いて概略を説明する。車両上下方向に揺動可能な補助上部アームおよび下部アームの基端(車幅外方端)を車体に取り付ける。補助上部アームおよび下部アームの遊端(車幅外方端)には、車輪の外径よりもひと回り大きな円弧形状の弧状アームを連結する。弧状アームの中央頂部には、車輪操舵機構を介して、キングピン上端を回動可能に連結する。車両上下方向に延在するキングピンのキングピン下端には、車輪を回転自在に取り付け、該車輪を弧状アームの内周に収容する。これにより、これら弧状アームと、キングピンと、車輪とをばね下に懸架する。
【特許文献1】特開平5−124535号公報
【特許文献2】特開平6−64556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のような車両用懸架装置にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。
つまり弧状アームは車輪の外径よりも大きい部材であり、キングピンアームは車輪の半径よりも長い部材である。これらの大型部材を介して車輪を取り付けたことから、ばね下質量が大きくなるという弊害を生じる。また、これらのこれらの大型部材を懸架する補助上部アームや下部アームの重量化も回避することができない。特に、車輪のロードホイール内空領域にホイール輪駆動モータを設置するという構成では、ますますばね下質量が大きくなる。そうすると、車輪のバウンド時およびリバウンド時には、車両上下方向の振動を減衰させることが困難となって、乗り心地性能が悪化する。
【0005】
本発明は、上述の実情に鑑み、ばね下質量を増大させることなく、車輪を大きな転舵角で転舵可能に懸架し得る車輪の転舵装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため本発明による車輪の転舵装置は、請求項1に記載のごとく、
車輪を回転自在に軸支するハブ部材を、車体側にリンク構造で連結し、該リンク構造が連結点を中心に回動することにより前記車輪を転舵する車輪の転舵装置において、
前記リンク構造により、転舵する際には車輪の接地点が、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部を描くよう構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0007】
かかる本発明の構成によれば、リンク構造により、転舵する際には車輪の接地中心が、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部を描くよう構成したため、
車輪の転舵角を大きくするほど、車輪の位置が、非転舵状態における位置から車両前後方向に大きく離れる。したがって、転舵中の車輪がアームと干渉することを回避できて、従来のようにばね下質量を過大にすることなく、車輪の大転舵を成し得る。
また、本発明の工夫はハブ部材とアームとを連結するリンク構造にあることから、一般な転舵装置における上部アームや下部アームといったアーム部材を用いることが可能となり、特許文献1記載のごとき大型のアッパーアームやロワーアームを必要としない。したがって、ばね下重量の増大を回避して、乗り心地性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例になる車輪の転舵装置を示す平面図であり、左車輪が転舵していない直進状態を表す。図2は同実施例の正面図であり、車輪が転舵していない直進状態を表す。
車体の前方左側に取り付けられた車輪1は、外周部にタイヤ2を、中心部にロードホイール3を具える。車輪1はハブ部材4に回転自在に取り付けられている。図1には、これら車輪1およびハブ部材4について、車輪1の回転軸を含む水平面で切断した面を表す。また図2には、車輪1について、車輪1の回転軸を含む鉛直面で切断した面を表す。
【0009】
ハブ部材4の上部には、図2に示すように、略上下方向に延在するストラット5の下端を取り付ける。ストラット5の上端は図示しない車体に取り付けられている。これら上下端の取り付け部には、弾性部材を介挿し、取り付け部の折れ曲がりを許容する。
図2中、一点鎖線で示すストラット5の延在方向には、後述するリンク構造を配置する。これにより、車輪の転舵角が大きくない領域では、ストラット5の延在方向を回動中心として、ハブ部材4および車輪1が転舵する。
【0010】
ストラット5は、その上部にサスペンションスプリング6を、その下部にショックアブソーバ7を具える。サスペンションスプリング6は、接地面から車輪1に入力される衝撃を緩和する。ショックアブソーバ7は、バウンドおよびリバウンドに伴う上下方向振動を減衰させる。
【0011】
ハブ部材4の下部には、プレート状の支持部8を取り付ける。支持部8はハブ部材4と一体結合され、ロードホイール3の内空領域に位置する。
支持部8は非転舵状態では図1に示すように車両前後方向に延在し、その前端部は第1リンク9の一端と回動可能に連結する。また、その後端部は第2リンク15の一端と回動可能に連結する。
【0012】
第1リンク9の他端は、車体側の部材であるアーム10(ロアアームともいう)の車幅方向外端と回動可能に連結する。第2リンク15の他端も、アーム10の車幅方向外端と回動可能に連結する。このようにハブ部材4とアーム10との間を、第1リンク9および第2リンク15からなるリンク構造で機械的に連結する。アーム10の図示しない車幅方向内端は、上下方向揺動可能に軸支され、この車幅方向内端を基端とし、車幅方向外端を遊端として、車輪1(遊端)のバウンドおよびリバウンドを可能とする。
【0013】
第1リンク9は水平面を持ったプレート形状であり、その一端にあって支持部8の前端と連結する第3連結点13と、その他端にあって車体側のアーム10と連結する第1連結点11は、車両上下方向に延在する回転軸を有する。第2リンク15は、第1リンク9よりも長く、水平面を持ったプレート形状であり、その一端にあって支持部8の後端と連結する第4連結点14と、その他端にあって車体側のアーム10と連結する第2連結点12は、車両上下方向に延在する回転軸を有する。
したがって、ハブ部材4は第1リンク9および第2リンク15に対し、車両上下方向に延在する回転軸を中心に略水平面上で回動可能である。
【0014】
第1リンク9に設けた第1連結点11と第2連結点13との位置関係は、車輪1の非転舵状態では図1に示すように、車幅方向に位置する。また第2リンク15に設けた第2連結点12と第4連結点14との位置関係は、車輪1の非転舵状態では図1に示すように、おおよそ車両前後方向に位置するが、車両前方にある第2連結点12が車両後方にある第4連結点14よりもやや車幅内方に位置する。
【0015】
また非転舵状態では図1に示すように、第1連結点11および第2連結点13が、車幅方向に延在する車輪1の回転軸上に位置し、これに伴い第1リンク9の中心軸も車輪1の回転軸上に位置する。さらに、アーム10の中心軸も車輪1の回転軸上に位置する。
【0016】
第1リンク9の車幅内方端には、腕部19を結合する。腕部19の先端には車幅方向に延在するコントロールロッド16の一端を連結する。
コントロールロッド16の他端は、運転者が操作する操舵装置のラック部材17と連結する。運転者が操舵装置を操作すると、ラック部材17が図1矢の向き車幅方向に進退動し、コントロールロッド16も車幅方向に進退動して、第1リンク9を第1連結点11周りに回動させる。これにより、ハブ部材4および車輪1が転舵する。この様子については、図6〜図8に沿って後述する。
【0017】
図3は、上記及び図1、図2に示した実施例を、車幅内方からみた側面図である。ここで、アーム10およびコントロールロッド16は、車幅方向に直角な断面で表されている。
【0018】
これまで説明してきた図1〜図3に示す実施例ではストラット5を具えるが、この他にも図4の正面図に示す他の実施例のように、ストラット5に代えて上述したリンク構造をさらに設けることにより、ハブ部材4の上部および下部にそれぞれ上記リンク構造を具えたダブルウィッシュボーン型としてもよい。図4に示す実施例の場合、サスペンションスプリング6およびショックアブソーバ7を上側のアッパーアーム10と交差させ、ショックアブソーバ7の下端を下側のロアアーム10に連結する。
【0019】
また、ハブ部材として、車輪1を駆動するインホイール型のモータ18を設けてもよい。
モータ18は、車輪1の回転軸と同軸に出力軸(図示せず)を具えている。この出力軸は車輪1と結合する。略円筒形状であるモータ18の外径寸法は、中空円筒形状のロードホイール3の内周寸法よりも小さく、図3に示すように、モータ部5の半分をロードホイール3の内空領域に配置して、いわゆるインホイールモータ構造とする。モータ部5が力行運転すると、モータ部5の出力軸が回転し、車輪1を駆動する。
【0020】
図5は、上記及び図4に示した実施例を、車両上方からみた平面図である。理解を容易にする為、図5ではロアアーム10およびこれに連結したリンク構造を省略し、アッパーアーム10およびこれに連結したリンク構造を示す。
【0021】
なお、車体右側に取り付けられた車輪については図示しなかったが、上述した左車輪1の転舵装置と左右対称に、右車輪の転舵装置をも構成する。
【0022】
次に、上述した各実施例の転舵する様子について、図6〜図8に沿って説明する。
【0023】
図6は本実施例の転舵装置が転舵する様子を線図的に示す平面図である。図6中、数字符号8,9,15を付した位置は、非転舵状態の位置である。ここで第1リンク9は車幅方向に延在し、ハブ部材4の支持部8は車両前後方向に延在する。また、車輪1が路面と接地する接地点1cは、非転舵状態における車輪1の回転軸「ル」上、つまり一点鎖線で示す第1リンク9の中心軸上にある。なお、実際にはタイヤ2が圧縮変形して路面と面状に接地することから、接地点1cは当該接地面の中心(接地中心1cともいう)でもある。
非転舵状態における第1リンク9の位置をイの符号で示す。
【0024】
コントロールロッド16を進退動させ、第1リンク9を第1連結点11周りに回動させることにより、車輪1を旋回内輪として転舵する際には、第1リンク9の位置が符号イからロ、ハ、ニ、ホと連続的に変化する。また車輪1を旋回外輪として転舵する際には、符号イからへ、トと連続的に変化する。
【0025】
図6中、第1リンク9に着目すると、第1リンク9の車幅内方端(第1連結点11)がアーム10に回転支持されているので、第1リンク9の車幅外方端(第3連結点13)は円弧の軌跡「チ」を描く。
また第2リンク15に着目すると、第2リンク15の車両前方端(車幅内方端でもある第2連結点12)がアーム10に回転支持されているので、第2リンク15の車両後方端(車幅外方端でもある第4連結点14)は円弧の軌跡「リ」を描く。
【0026】
そして、これら円弧の軌跡チ、リ上にある第3連結点13および第4連結点14は、支持部8の両端部でもあることから、支持部8も、位置イ〜トに応じて連続的に変化する。したがって、この支持部8と結合するハブ部材4も、このハブ部材4に軸支された車輪1も位置イ〜トに応じて連続的に変化し、接地中心1cは、図6中、太い二点鎖線のような軌跡ヌを描く。
この軌跡ヌは、図6に示すように、車両前後方向の長軸を具えた楕円の一部であって、非転舵状態で最も車幅外方を通り、転舵角が増大するにつれて車幅内方に向かう。
【0027】
本実施例では、車輪1の接地点が軌跡ヌに示すような車両前後方向に長い楕円の一部であることから、以下に説明する作用効果が得られる。
つまり、従来の転舵輪は、接地中心がキングピン軸を中心に円弧を描きながら転舵するため、転舵角を大きくすると、転舵輪が、ロアアーム等のサスペンション構成要素と干渉する。したがって、転舵角を大きくすることができなかった。
しかし、本実施例では、転舵により接地中心1cが円弧ではなく車両前後方向に長い楕円ヌを描くことから、転舵角が位置イからロ、ハ、ニ、ホと大きくなるに従い車輪1の車両前後方向移動量を大きくすることが可能になり、図6に示す車輪1の回転軸「ル」およびアーム10から離間することができる。したがって、車輪1がアーム10と干渉することがなく、車輪1の大転舵を可能とする。
【0028】
なお、楕円ヌの長軸および短軸の調整は、支持部8の長さと、第1リンク9の長さと、第2リンク15の長さと、第1連結点11および第2連結点12の相対位置関係と、を適宜設定すればよい。
【0029】
図6には、第1リンク9の位置ロ、ハ、ニ、ホに対応する第2リンク15の位置を図略しているため、上記位置ハおよび位置ホに対応する本実施例の転舵状態をより具体的に図7に示す。ここで図7(a)は位置イに対応する転舵状態を示し、図7(b)は位置ハに対応する転舵状態を示し、図7(c)は位置ホに対応する転舵状態を示す。
また図6には、第1リンク9の位置へ、トに対応する第2リンク15の位置を図略しているため、上記位置へに対応する本実施例の転舵状態をより具体的に図8に示す。ここで図8(a)は位置イに対応する転舵状態を示し、図8(b)は位置へに対応する転舵状態を示す。
【0030】
上述した車輪の転舵装置を車体の両側に具えた実施例につき説明する。
【0031】
図9は、車体21の両側にアーム10と、リンク構造9,15と、車輪1とをそれぞれ設け、左車輪1Lを左車輪専用のラック部材17Lで転舵し、右車輪1Rを右車輪専用のラック部材17Rで転舵する実施例を示す平面図である。左ラック部材17Lは左ピニオン20Lと噛合し、右ラック部材17Rは右ピニオン20Rと噛合し、これらピニオン20L、20Rは運転者が操作するステアリングホイール(図示せず)に応動して回転する。
通常の左旋回走行においては、左ラック部材17Lおよび右ラック部材17Rを共に右方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に左側に転舵する。また通常の右旋回走行においては、左ラック部材17Lおよび右ラック部材17Rを共に左方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に右側に転舵する。
【0032】
これに対し、車両を縦列駐車したり路肩に幅寄せしたりする場合には、図10に示すように、左ラック部材17Lを左方向に進動させる一方、右ラック部材17Rを右方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に90度まで大転舵する。
【0033】
このように図9〜図10に示す実施例ではラック部材17を左右夫々に具え、左車輪1Lと右車輪1Rとをこれらラック部材17L,17Rで個々に転舵するため、通常の旋回走行および縦列駐車等の大転舵走行の双方に対応することができる。
【0034】
次に、本発明の転舵装置を車体21の両側に具えた他の実施例につき説明する。
【0035】
図11は、左車輪1Lおよび右車輪1Rを共通するラック部材17Cで転舵する実施例を示す平面図である。このラック部材17Cは1個のピニオン20Cと噛合し、このピニオン20Cは運転者が操作するステアリングホイール(図示せず)に応動して回転する。
通常の左旋回走行においては、ラック部材17Cを右方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に左側に転舵する。また通常の右旋回走行においては、ラック部材17Cを左方向に進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に右側に転舵する。
【0036】
これに対し、車両を縦列駐車したり路肩に幅寄せしたりする場合には、図12に示すように、ラック部材17Cを左方向に最大限進動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に90度まで大転舵する。なお、図12に示す他、ラック部材17Cを右方向に最大限進動させても左車輪1Lおよび右車輪1Rを同時に90度まで大転舵することができる。
【0037】
このように図11〜図12に示す実施例では共通する1本のラック部材17Cを進退動させて、左車輪1Lおよび右車輪1Rを転舵するため、運転者が操作する操舵装置の構成を簡易にすることが可能となり、コスト上有利にすることができる。
【0038】
ところで上記した本実施例では、車輪1を回転自在に軸支するハブ部材4を、車体側にリンク構造9,15で連結し、このリンク構造9,15が連結点11,12を中心に回動することにより車輪1を転舵する車輪の転舵装置において、リンク構造9,15により、転舵する際には車輪1の接地点が、図6に示すように車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部の軌跡ヌを描くよう構成したことから、
車輪1の転舵角を大きくするほど、車輪1の位置が、非転舵状態における位置(図6に示す車輪回転軸)から車両前後方向に大きく離れる。したがって、特許文献1,2記載の弧状アームやアッパーアームやロワーアームを用いることなく転舵中の車輪1がアーム10と干渉することを回避できて、ばね下質量を過大にしなくても、車輪の大転舵を成し得る。
【0039】
上記した、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部とは、具体的には、非転舵状態で最も車幅外方を通り、転舵角が増大するにつれて車幅内方に向かうことから、
大転舵中は車輪1が車幅外方に突出することを軽減することができる。したがって、車両を路肩に寄せる際に有利となる。
【0040】
また本実施例では、リンク構造は第1リンク9と、該第1リンクよりも長い第2リンク15を具え、車輪1の非転舵状態で、図1等に示すように第1リンク9を車幅方向に延在させ、第1リンク9に斜交するよう第2リンク15を車両前後方向かつ車幅方向に配置し、該第2リンク15の車幅外方端14をハブ部材4の支持部8に連結し、第2リンク15の車幅内方端12を車体側のアーム10に連結したことから、
図6に示す軌跡ヌのように車輪1の転舵角を大きくするほど、車輪1の位置がアーム10の軸ルから車両前後方向に大きく離れ、転舵中の車輪1がアーム10と干渉することを回避できる。したがって、特許文献1、2のようにばね下質量を過大にしなくても、車輪の大転舵を成し得る。
【0041】
具体的には図1等に示すように、前記第2リンク15と前記車体側とを連結する第2連結点12を、前記第1リンク9と前記車体側とを連結する第1連結点11よりも、車両前方かつ車幅外方に配置し、車輪1の非転舵状態で、前記第2リンク15と前記ハブ部材4の支持部8とを連結する第4連結点14を、前記第1リンク9と前記ハブ部材4の支持部8とを連結する第3連結点13よりも、車両後方に配置したことから、
図6に示す軌跡ヌのように車輪1の転舵角を大きくするほど、車輪1の位置がアーム10の軸ルから車両前後方向に大きく離れ、転舵中の車輪1がアーム10と干渉することを回避できる。したがって、特許文献1、2のようにばね下質量を過大にしなくても、車輪の大転舵を成し得る。
【0042】
より具体的には図1等に示すように、前記第3連結点13および前記第4連結点間の距離14に相当する支持部8の長さを、前記第2リンク15よりも短く、前記第1リンク9よりも長くしたことから、
図6に示す軌跡ヌのように車輪1の転舵角を大きくするほど、車輪1の位置がアーム10の軸ルから車両前後方向に大きく離れ、転舵中の車輪1がアーム10と干渉することを回避できる。したがって、特許文献1、2のようにばね下質量を過大にしなくても、車輪の大転舵を成し得る。
【0043】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその主旨に逸脱しない範囲において種々変更が加えられうるものである。
例えば、本実施例では、図1に示す左車輪1の第2リンク15を、図1中右上から左下にかけて延在するよう配置したが、この他にも右下から左上にかけて延在するよう配置してもよい。また、リンク構造9,15の車体側を車両上下方向に揺動するアーム10の遊端に連結したが、この他の車体側メンバにも連結してよいこと勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施例になる車輪の転舵装置(非転舵状態)を、車両上方からみた状態を示す平面図である。
【図2】同転舵装置を、車両前方からみた状態を示す正面図である。
【図3】同転舵装置を、車幅内方からみた側面図である。
【図4】本発明の他の実施例になる車輪の転舵装置を、車両前方からみた状態を示す正面図である。
【図5】同転舵装置を、車両上方からみた状態を示す平面図である。
【図6】図1〜図5に示す転舵装置の車輪1接地中心の軌跡を示す平面図である。
【図7】同転舵装置において車輪を左向きに転舵させる場合の状態を示す平面図であって、(a)は直進走行中の非転舵状態(転舵角0度)を、(c)は大転舵の状態(転舵角約−90度)を、(b)はこれらの中間状態(転舵角約−45度)を示す。
【図8】同転舵装置において車輪を右向きに転舵させる場合の状態を示す平面図であって、(a)は直進走行中の非転舵状態(転舵角0度)を、(b)は右転舵の状態(転舵角約30度)を示す。
【図9】本発明の転舵装置を車体の両側に設けた実施例を示す平面図である。
【図10】同実施例において車輪が大転舵した状態を示す平面図である。
【図11】本発明の転舵装置を車体の両側に設けた他の実施例を示す平面図である。
【図12】同実施例において車輪が大転舵した状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 車輪
2 タイヤ
3 ロードホイール
4 ハブ部材
5 ストラット
6 サスペンションスプリング
7 ショックアブソーバ
8 ハブ部材の支持部
9 第1リンク
10 アーム
11 第1連結点
12 第2連結点
13 第3連結点
14 第4連結点
15 第2リンク
16 コントロールロッド
17 ラック部材
18 モータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転自在に軸支するハブ部材を、車体側にリンク構造で連結し、該リンク構造が連結点を中心に回動することにより前記車輪を転舵する車輪の転舵装置において、
前記リンク構造により、転舵する際には車輪の接地点が、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部を描くよう構成したことを特徴とする車輪の転舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪の転舵装置において、
前記楕円の一部は、非転舵状態で最も車幅外方を通り、転舵角が増大するにつれて車幅内方に向かうことを特徴とする車輪の転舵装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車輪の転舵装置において、
前記リンク構造は第1リンクと、該第1リンクよりも長い第2リンクを具え、
車輪の非転舵状態で、第1リンクを車幅方向に延在させ、第1リンクに斜交するよう第2リンクを車両前後方向かつ車幅方向に配置し、該第2リンクの車幅外方端をハブ部材に連結し、第2リンクの車幅内方端を車体側に連結したことを特徴とする車輪の転舵装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車輪の転舵装置において、
前記第2リンクと前記車体側とを連結する第2連結点を、前記第1リンクと前記車体側とを連結する第1連結点よりも、車両前方かつ車幅外方に配置し、
車輪の非転舵状態で、前記第2リンクと前記ハブ部材とを連結する第4連結点を、前記第1リンクと前記ハブ部材とを連結する第3連結点よりも、車両後方に配置したことを特徴とする車輪の転舵装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車輪の転舵装置において、
前記第3連結点および前記第4連結点間の距離を、前記第2リンクよりも短く、前記第1リンクよりも長くしたことを特徴とする車輪の転舵装置。
【請求項1】
車輪を回転自在に軸支するハブ部材を、車体側にリンク構造で連結し、該リンク構造が連結点を中心に回動することにより前記車輪を転舵する車輪の転舵装置において、
前記リンク構造により、転舵する際には車輪の接地点が、車両前後方向に長軸を有し車幅方向に短軸を有する楕円の一部を描くよう構成したことを特徴とする車輪の転舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪の転舵装置において、
前記楕円の一部は、非転舵状態で最も車幅外方を通り、転舵角が増大するにつれて車幅内方に向かうことを特徴とする車輪の転舵装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車輪の転舵装置において、
前記リンク構造は第1リンクと、該第1リンクよりも長い第2リンクを具え、
車輪の非転舵状態で、第1リンクを車幅方向に延在させ、第1リンクに斜交するよう第2リンクを車両前後方向かつ車幅方向に配置し、該第2リンクの車幅外方端をハブ部材に連結し、第2リンクの車幅内方端を車体側に連結したことを特徴とする車輪の転舵装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車輪の転舵装置において、
前記第2リンクと前記車体側とを連結する第2連結点を、前記第1リンクと前記車体側とを連結する第1連結点よりも、車両前方かつ車幅外方に配置し、
車輪の非転舵状態で、前記第2リンクと前記ハブ部材とを連結する第4連結点を、前記第1リンクと前記ハブ部材とを連結する第3連結点よりも、車両後方に配置したことを特徴とする車輪の転舵装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車輪の転舵装置において、
前記第3連結点および前記第4連結点間の距離を、前記第2リンクよりも短く、前記第1リンクよりも長くしたことを特徴とする車輪の転舵装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−320452(P2007−320452A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153633(P2006−153633)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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