説明

車輪用軸受装置

【課題】車輪用軸受装置の組立性を向上すると共に、所定のトルク伝達性能を長期間に亘って安定的に維持可能とする。
【解決手段】軸方向に延びる凸部35が設けられた継手外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入し、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37に凸部35により凹部を形成することで、凸部35と凹部の嵌合部位全域が密着する凹凸嵌合構造が構成される。また、継手外輪5の軸部12に設けたボルト孔13には、凹凸嵌合構造の構成後にボルト部材50が締結され、これによりハブ輪1と継手外輪5の分離が規制される。ボルト部材50としては、その座面50a1の外径をd1、その軸径をd2としたときに、2.3≦(d1/d2)2≦4.9の関係式を満たすものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において、車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受装置には、複列の転がり軸受を組み合わせて使用する第1世代と称される構造から、外方部材に車体取付フランジを一体に設けた第2世代に進化し、さらに、複列の転がり軸受の2つの内側軌道面のうち、一方を車輪取付フランジを有するハブ輪の外周に形成した第3世代、さらには、複列の転がり軸受の2つの内側軌道面のうち、一方をハブ輪の外周に形成すると共に、他方を等速自在継手の外側継手部材の外周に形成した第4世代まで開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第3世代と称される車輪用軸受装置の一例が記載されている。この車輪用軸受装置は、図15に示すように、外径方向に延びるフランジ151を有するハブ輪152と、このハブ輪152に外側継手部材153が固定される等速自在継手154と、ハブ輪152の外周側に配設される外方部材155とを備える。
【0004】
等速自在継手154は、外側継手部材153と、この外側継手部材153のマウス部157内に配設される内側継手部材158と、この内側継手部材158と外側継手部材153との間に配設されるボール159と、ボール159を保持する保持器160とを備える。また、内側継手部材158の中心孔の内周面には雌スプライン161が形成され、この中心孔に図示しないシャフトの端部に形成した雄スプラインが挿入される。内側継手部材158の雌スプライン161とシャフトの雄スプラインとを嵌合することで、内側継手部材158とシャフトがトルク伝達可能に結合される。
【0005】
ハブ輪152は、筒部163と前記フランジ151とを有し、フランジ151の外端面164(アウトボード側の端面)には、図示しないホイールおよびブレーキロータを装着するための短筒状のパイロット部165が突設されている。パイロット部165は、大径部165aと小径部165bとからなり、大径部165aにブレーキロータが外嵌され、小径部165bにホイールが外嵌される。
【0006】
筒部163のインボード側端部の外周面に嵌合部166が設けられ、この嵌合部166に転がり軸受の内輪167が嵌合されている。筒部163の外周面のフランジ151近傍には第1内側軌道面168が設けられ、内輪167の外周面に第2内側軌道面169が設けられている。また、ハブ輪152のフランジ151にはボルト装着孔162が設けられており、フランジ151にホイールおよびブレーキロータを固定するためのハブボルトがボルト装着孔162に装着される。
【0007】
転がり軸受の外方部材155は、その内周に複列の外側軌道面170,171を有すると共に、その外周にフランジ(車体取付フランジ)182を有する。外方部材155の第1外側軌道面170および第2外側軌道面171は、ハブ輪152の第1内側軌道面168および内輪167の第2内側軌道面169とそれぞれ対向し、これら軌道面間に転動体172が介装される。
【0008】
ハブ輪152の筒部163に外側継手部材153の軸部173が挿入される。軸部173の軸端部にはねじ部174が形成され、このねじ部174よりもインボード側の外径部に雄スプライン175が形成されている。また、ハブ輪152の筒部163の内径面に雌スプライン176が形成され、軸部173をハブ輪152の筒部163に圧入することで、軸部173側の雄スプライン175とハブ輪152側の雌スプライン176とが嵌合する。
【0009】
そして、軸部173のねじ部174にナット部材177が螺着され、ハブ輪152と外側継手部材153とが固定される。この際、ナット部材177の座面178と筒部163の外端面179とが当接し、マウス部157のアウトボード側の端面180と転がり軸受の内輪167の端面181とが当接する。これにより、ハブ輪152が内輪167を介してナット部材177とマウス部157とで挟持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−340311号公報
【特許文献2】特開2009−56869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来では、前記したように、外側継手部材153とハブ輪152は、軸部173に設けられた雄スプライン175をハブ輪152に設けられた雌スプライン176に圧入することで結合される。このため、軸部173及びハブ輪152の両者にスプライン加工を施す必要があってコスト高となる。また、圧入時には、軸部173の雄スプライン175とハブ輪152の雌スプライン176との凹凸を合わせる必要がある。この際、歯面合わせで圧入すれば、歯面がむしれ等によって損傷するおそれがある。また、大径合わせで圧入すれば、円周方向のガタが生じ易い。円周方向のガタがあると、回転トルクの伝達性に劣ると共に異音が発生するおそれがある。このように、スプライン嵌合によってハブ輪152と軸部173とを結合する場合、圧入時の歯面の損傷、及び使用時のガタの発生という問題があり、両者を同時に回避することは困難であった。
【0012】
また、車輪用軸受装置の補修等を行う場合に、ハブ輪と外側継手部材とが結合されたままの状態では補修困難となるおそれがある。そのため、軸受部分と継手部分とを個別に補修可能とするには、ハブ輪と外側継手部材とを分離可能とすることが望まれ、また、両者の分離後には、両者を再結合(再組立)可能とする必要がある。
【0013】
以上に鑑み、本願の出願人は、特許文献2に開示された車輪用軸受装置を提案している。詳しくは、外側継手部材の軸部又はハブ輪の孔部の何れか一方に設けられた軸方向に延びる凸部を他方に圧入することで他方に凹部を形成し、凸部と凹部の嵌合部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したものである。この凹凸嵌合構造の構成時には、上記他方に予めスプライン部を形成しておく必要がないことから、生産性を向上することができる。また、圧入時の歯面の損傷を回避することができるので、安定した嵌合状態を維持することができる。また、上記の凹凸嵌合構造では、径方向および円周方向でガタが生じる隙間が形成されないので、安定したトルク伝達が可能であると共に異音の発生が防止される。しかも軸部が孔部に対して隙間無く密着し、トルク伝達部位の強度が向上するので、嵌合部長さを短くして軸受装置を軸方向にコンパクト化することができる。
【0014】
さらに、上記の凹凸嵌合構造は、軸部に設けたボルト孔からボルト部材を取り外した状態で軸方向の引き抜き力を付与することによって分離可能とされているため、良好な補修作業性(メンテナンス性)が担保されている。また、補修後には、外側継手部材の軸部をハブ輪の孔部に圧入することによって上記の凹凸嵌合構造を再構成することができる。凹凸嵌合構造の再構成(ハブ輪と外側継手部材の再結合)は、軸部に設けたボルト孔にボルト部材をねじ込むことで行うことができる。そのため、凹凸嵌合構造の再構成時には、圧入用のプレス機等、大掛かりな設備を使用する必要がなくなる。従って、自動車整備工場等の現場においても、車輪用軸受装置の点検、補修等を容易に行うことが可能となる。
【0015】
しかしながら、特許文献2に記載された車輪用軸受装置にも改良の余地がある。一例を挙げると、ハブ輪と外側継手部材の締結および再結合に用いるボルト部材は、これを構成する各部のサイズが不適切であると、当該軸受装置の組立性が低下する、当該軸受装置の各部に不当な応力集中が生じてトルク伝達性能や耐久寿命に悪影響を及ぼす等の不具合を招来する。それにも関わらず、特許文献2では、ハブ輪に対するボルト部材の挿通性を担保すべく、ハブ輪の孔部の孔径とボルト部材の軸径との寸法関係について言及されているに過ぎない。
【0016】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、この種の車輪用軸受装置で用いるボルト部材の最適化を図り、これにより、組立性の向上を図ると共に、所定のトルク伝達性能を長期間に亘って安定的に維持可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために創案された本発明に係る車輪車軸受装置は、内周に複列の軌道面を有する外方部材と、車輪に取り付けられるハブ輪を含み、外周に前記軌道面に対向する複列の軌道面を有する内方部材と、外方部材と内方部材の軌道面間に介在した複列の転動体とを有する車輪用軸受と、外側継手部材を有する等速自在継手とを備えるものであって、外側継手部材の軸部とハブ輪の孔部のうち、何れか一方に設けられた軸方向に延びる凸部を他方に圧入し、他方に凸部により凹部を形成することで凸部と凹部との嵌合部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成すると共に、外側継手部材の軸部にボルト孔を設け、このボルト孔にねじ込んだボルト部材でハブ輪と外側継手部材とを締結し、ボルト部材を取り外した状態での軸方向の引き抜き力付与により凹凸嵌合構造の分離が許容されるものにおいて、ボルト部材として、その座面外径をd1、その軸径をd2としたときに、2.3≦(d1/d2)2≦4.9の関係式を満たすものを用いることを特徴とする。
【0018】
なお、本発明で言う凹凸嵌合構造は、上記のとおり凸部と凹部の嵌合部位全域が密着するものであるが、嵌合部位のごく一部領域に隙間が存在する場合がある。このような隙間は、凸部による凹部の形成過程で不可避的に生じるものであるから、このような隙間があったとしても「凸部と凹部の嵌合部位全域が密着する」という概念に含まれる。
【0019】
上記のように、本発明に係る車輪用軸受装置では、ボルト部材として、その座面外径をd1、その軸径をd2としたときに、2.3≦(d1/d2)2≦4.9の関係式を満たすものが用いられる。(d1/d2)2の値を小さくするには、座面外径d1を小さくする、あるいは軸径d2を大きくすれば良いが、座面外径d1をあまりに小さくすると、ハブ輪端面のうち、ボルト部材の座面と軸方向で対峙する領域で摩耗や圧痕が生じ易くなり、軸径d2を大きくするとボルト軸力が過大となる可能性がある。例えば、互いに対向するハブ輪の端面と外側継手部材の端面とを接触させる構造を採る場合にボルト軸力が過大となると、両者間の接触面圧が高くなり、両者が相対回転した場合等に異音(スティックスリップ音)が発生し易くなる。これらの問題は、(d1/d2)2の値を大きくすることで解消可能であると考えられるが、(d1/d2)2の値を大きくするには、座面外径d1を大きくする、あるいは軸径d2を小さくする必要がある。しかし、座面外径d1をあまりに大きくすると、頭部を受けるハブ輪の形状に制約が生じてハブ輪の設計自由度が低下する、組立性が悪化する、ボルト部材の締結トルク管理が難しくなる、等の不具合が生じ、また、軸径d2を小さくするとボルト軸力が低下する。従って、以上の諸事情を鑑みると、ボルト部材としては、2.3≦(d1/d2)2≦4.9の関係式を満たすものを用いるのが望ましい。これにより、上記の各種問題を解消することができることに加え、ボルト緩みによる締結力の低下、またこれに起因した凹凸嵌合構造への泥水等の侵入を可及的に防止することができる。
【0020】
外側継手部材の軸部に凸部を設けた場合には、この凸部の少なくとも圧入開始側の端部の硬度をハブ輪の孔部内径部よりも高くするのが望ましい。これにより軸部の剛性を向上させることができ、また、凸部のハブ輪の孔部内径部への食い込み性が増す。
【0021】
この場合、外側継手部材の軸部には、凸部の圧入によって凹部を形成することで生じるはみ出し部を収納するポケット部を設けることができる。ここで、はみ出し部は、凸部を圧入することによって形成された凹部の容積に相当する量の材料分であって、形成される凹部から押し出されたもの、凹部を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。ポケット部を設けることによって、はみ出し部をポケット部内に保持することができ、はみ出し部が装置外の車両内等へ入り込むような事態を防止することができる。またこの場合、はみ出し部をポケット部内に収納したままにすることができ、はみ出し部の除去処理を別途行う必要がなくなる。そのため、組立作業工数の減少を図ることができ、組立作業性の向上およびコスト低減を図ることができる。
【0022】
ハブ輪の孔部の内径面に凸部を設けた場合には、凸部の少なくとも圧入開始側の端部の硬度を外側継手部材の軸部の外径部よりも高くするのが望ましい。この場合、軸部側の熱硬化処理を行う必要がないので、外側継手部材の生産性を高めることができる。またこの場合、上記のポケット部はハブ輪の孔部に形成する。
【0023】
凸部を円周方向の複数箇所に設けた場合には、凸部の高さ方向の中間部において、凸部の周方向厚さを、隣接する凸部との間の溝幅よりも小さくするのが望ましい。この場合、隣接する凸部間の溝に入り込んだ相手側の肉が周方向で大きな厚さを有するため、前記肉のせん断面積を大きくすることができ、捩り強度の向上を図ることができる。しかも、凸部の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくすることができ、圧入性(凹凸嵌合の成形性)を向上することができる。凸部の高さ方向の中間部において、各凸部の周方向厚さの総和を隣接する凸部との間の溝幅の総和より小さくすることによっても同様の効果が得られる。
【0024】
内方部材は、ハブ輪と、ハブ輪のインボード側の端部外周に圧入される内輪とで構成することができ、この場合、ハブ輪の外周および内輪の外周にそれぞれ前記軌道面を形成することができる。これにより、車輪用軸受装置の軽量・コンパクト化を図ることができる。さらに、ハブ輪の端部を加締めることによって軸受に予圧を付与すれば、外側継手部材によって軸受に予圧を付与する必要がなくなる。そのため、軸受への予圧を考慮することなく外側継手部材の軸部を圧入することができ、ハブ輪と外側継手部材との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。
【0025】
互いに対向するハブ輪の端面と外側継手部材の端面とを接触させれば、軸方向の曲げ剛性が向上して耐久性に富む高品質な製品となる。また、凸部を圧入する際(凹凸嵌合構造を形成する際)には、ハブ輪と外側継手部材の相対的な軸方向の位置決めを図ることができる。これにより、車輪用軸受装置の寸法精度が安定すると共に、凹凸嵌合構造の軸方向長さの安定化を図ることができ、トルク伝達性能の向上を図ることができる。加えて、別途のシール構造を設けずとも凹凸嵌合構造への異物の侵入を防止することができ、長期に亘って安定した嵌合状態を低コストに維持することができる。但し、両者の接触面圧が高過ぎると、予圧が付与された接触面でもトルク伝達が行われてしまい、更に大きなトルクが負荷され、接触面がトルク伝達に耐えられなくなった時に接触面が急激に滑ることに起因して異音が発生するおそれがある。そのため、両者は、100MPa以下の面圧で接触させるのが望ましい。なお、異音の発生を確実に防止する観点から言えば、互いに対向するハブ輪の端面と外側継手部材の端面とを非接触にするのが有効である。この場合には、両者間に形成される隙間にシール部材を介在させ、凹凸嵌合構造への異物侵入を防止するのが望ましい。
【0026】
以上の構成において、凹部が形成される部材の圧入開始側の端部に、凸部の圧入をガイドする(凸部と凸部により形成された凹部の位相を合わせる)ガイド部を設けておけば、当該ガイド部に沿って凸部を圧入することができるので、凸部の圧入精度を向上することができる。これにより、芯ずれや、傾いた状態で凸部が圧入されるような事態を極力防止して、高精度な凹凸嵌合構造を構成および再構成することが可能となる。
【0027】
ボルト部材の座面とハブ輪との間にはシール材を介在させることができる。このようにすれば、ボルト締結部を介しての凹凸嵌合構造への雨水や異物の侵入防止効果を高めることができる。そのため、嵌合状態のより一層の安定化が図られ、更なる品質向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上に示すように、本発明によれば、この種の車輪用軸受装置において、ボルト部材の各部のサイズが不適切であることに起因して生じ得る各種不具合を可及的に防止することができ、組立性の向上が図られると共に、所定のトルク伝達性能を長期間に亘って安定的に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車輪用軸受装置を示す断面図である。
【図2】(a)図は図1に示す車輪用軸受装置に形成した凹凸嵌合構造部位における軸直交断面図であり、(b)図は(a)図のX部拡大図である。
【図3】(a)図は図2(b)に示す凸部の正面図であり、(b)および(c)図は凸部の他例を示す正面図である。
【図4】図1に示す車輪用軸受装置の組立前の状態を示す断面図である。
【図5】(a)図は継手外輪の軸部をハブ輪の孔部内径に配置した状態を概念的に示す断面図、(b)および(c)図は(a)図の変形例である。
【図6】凹凸嵌合構造の軸直交断面図における拡大図である。
【図7】凹凸嵌合構造の周辺を拡大して示す図である。
【図8】(a)図はボルト部材の頭部近傍を拡大して示す図であり、(b)図は(a)図の変形例である。
【図9】図1に示す車輪用軸受装置の分離工程を示す断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る車輪用軸受装置を示す断面図である。
【図11】(a)図は図10の要部拡大断面図であり、(b)図は(a)図の変形例を示す断面図である。
【図12】(a)図および(b)図の何れも凹凸嵌合構造の凸部の他例を示す軸直交断面図である。
【図13】(a)図は凹凸嵌合構造の他例を示す軸直交断面図であり、(b)図は(a)図のY部拡大図である。
【図14】図13(a)に示す凹凸嵌合構造の拡大図である。
【図15】従来の車輪用軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図1〜14に基づいて説明する。
【0031】
図1は、本発明の第1実施形態に係る車輪用軸受装置を示す断面図である。同図に示す車輪用軸受装置は、ハブ輪1を含む複列の車輪用軸受2と、等速自在継手3とが一体化されて主要部が構成される。なお、以下の説明において、インボード側およびアウトボード側とは、それぞれ、車輪用軸受装置を車両に取り付けた状態で車両の車幅方向内側および外側となる側を意味する。図1においては右側がインボード側、左側がアウトボード側である。
【0032】
等速自在継手3は、外側継手部材としての継手外輪5と、継手外輪5の内径側に配された内側継手部材としての継手内輪6と、継手外輪5と継手内輪6との間に介在する複数のボール7と、継手外輪5と継手内輪6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。継手内輪6の孔部内径には、シャフト10の端部10aが圧入されており、これによって継手内輪6とシャフト10がスプライン嵌合して両者の間でトルク伝達が可能となる。シャフト10の端部10aには止め輪9が嵌合され、これにより継手内輪6からのシャフト10の抜けが防止される。
【0033】
継手外輪5は、マウス部11と軸部12とを備える。マウス部11は一端を開口させた椀状で、その内球面5aに軸方向に延びた複数のトラック溝15が円周方向等間隔に形成されている。トラック溝15は、マウス部11の開口端まで延びている。マウス部11の開口部はブーツ18によって閉塞されている。ブーツ18は、大径部18a、小径部18b、および大径部18aと小径部18bを連結する蛇腹部18cからなる。大径部18aは、マウス部11の開口部に外嵌された状態でブーツバンド19aによって継手外輪5に締結される。一方、小径部18bは、シャフト10のブーツ装着部10bに外嵌された状態でブーツバンド19bによってシャフト10に締結される。
【0034】
軸部12の先端部(アウトボード側の端部)には、他所に比べて外径寸法を小径とした小径部12aが設けられ、当該軸部12の先端部の軸心上には、先端面に開口したボルト孔13が設けられている。ボルト孔13にはボルト部材50が螺着され、これにより継手外輪5の軸部12がハブ輪1に対してボルト固定されている。ボルト部材50は、フランジを有する頭部50aと、ねじ軸部50bとからなる。ねじ軸部50bは、円筒面状の基部50b1と、ボルト孔13に螺着されたねじ部50b2とを有する。
【0035】
継手内輪6は、その外球面6aに、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
【0036】
継手外輪5のトラック溝15と継手内輪6のトラック溝16とは対をなし、各対のトラック溝15,16で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込まれる。ボール7は継手外輪5のトラック溝15と継手内輪6のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する。ケージ8は、継手外輪5と継手内輪6との間に摺動可能に介在し、その外球面8aにて継手外輪5の内球面5aと嵌合し、その内球面8bにて継手内輪6の外球面6aと嵌合する。なお、この実施形態で用いている等速自在継手3は、各トラック溝15,16が曲面状をなすいわゆるツェッパ型であるが、マウス部11の開口側で外輪トラック溝15を直線状とし、マウス部11の奥部側で内輪トラック溝16を直線状にしたいわゆるアンダーカットフリー型等、公知のその他の等速自在継手を用いることもできる。
【0037】
ハブ輪1は、筒部20と、筒部20のアウトボード側の端部に設けられたフランジ21とを有する。フランジ21は、ハブ輪1を車輪に取り付けるための取付部として機能するものであり、ボルト装着孔32を有する。ボルト装着孔32にはハブボルト33が装着され、当該ハブボルト33でホイールおよびブレーキロータがフランジ21に固定される。本実施形態のハブ輪1には、従来の車輪用軸受装置のハブ輪に設けられていたパイロット部165(図15参照)が設けられていない。
【0038】
ハブ輪1の筒部20には孔部22が設けられる。孔部22は、ハブ輪1(筒部20)の軸方向略中間部に位置する軸部嵌合孔22aと、軸部嵌合孔22aよりもインボード側に位置する大径孔22bとを備える。軸部嵌合孔22aと大径孔22bとの間には、アウトボード側に向かって徐々に縮径したテーパ部(テーパ孔)22cが設けられている。テーパ部22cのテーパ角度(軸線に対する傾斜角)は、例えば15°〜75°とされる。軸部嵌合孔22aにおいて、後述する凹凸嵌合構造Mを介して継手外輪5の軸部12と当該ハブ輪1とが結合される。
【0039】
筒部20のうち、軸部嵌合孔22aよりもアウトボード側には、内径方向に突出する円筒状の内壁22dが設けられている。この内壁22dは、ボルト部材50の頭部50aを受ける受け部として機能するものであり、内壁22dの内周には、ボルト部材50のねじ軸部50bが挿通される。そして、ねじ軸部50bのねじ部50b2が軸部12に設けたボルト孔13に螺着されると、内壁22dの内周面は、ねじ軸部50bの基部50b1の円筒状外周面と対向する。内壁22dの内径寸法d3は、ボルト部材50(ねじ軸部50b)の軸径d2よりも僅かに大きく設定される(図8参照)。具体的には、0.05mm<d3−d2<0.5mm程度である。なお、ハブ輪1のアウトボード側端面の中心部には凹窪部22eが設けられており、この凹窪部22eの底面にボルト部材50の座面50a1が当接している。
【0040】
ハブ輪1のインボード側の外周面には小径の段差部23が形成され、この段差部23に内輪24を嵌合することにより複列の内側軌道面28,29を有する内方部材が構成される。複列の内側軌道面のうち、アウトボード側の内側軌道面28はハブ輪1の外周面に形成され、インボード側の内側軌道面29は、内輪24の外周面に形成されている。車輪用軸受2は、この内方部材と、内方部材の外径側に配置され、内周に複列の外側軌道面26,27を有する円筒状の外方部材25と、外方部材25のアウトボード側の外側軌道面26とハブ輪1の内側軌道面28との間、および外方部材25のインボード側の外側軌道面27と内輪24の内側軌道面29との間に配置された転動体30としてのボールとで主要部が構成される。外方部材25は、図示しない車体の懸架装置から延びるナックル34に取り付けられる。この車輪用軸受2(外方部材25)の両端開口部にはシール部材S1,S2がそれぞれ設けられており、これにより軸受2内部に封入されるグリース等の潤滑剤の外部漏洩や、軸受内部への異物侵入が防止される。このように、ハブ輪1と、ハブ輪1の段差部23に嵌合された内輪24とで内側軌道面28,29を有する内方部材を構成していることから、車輪用軸受装置の軽量・コンパクト化が図られる。
【0041】
この車輪用軸受2は、ハブ輪1の筒部20のインボード側端部を加締めることによって形成した加締部31で内輪24をアウトボード側に押圧することにより、内輪24をハブ輪1に固定すると共に、軸受内部に予圧を付与する構造である。このように、ハブ輪1の端部に形成した加締部31で車輪用軸受2に予圧を付与した場合、継手外輪5のマウス部11で車輪用軸受2に予圧を付与する必要がない。従って、予圧量を考慮せずに継手外輪5の軸部12をハブ輪1に組み付けることができ、ハブ輪1と継手外輪5の組み付け性を向上することができる。
【0042】
ハブ輪1のインボード側端部は、継手外輪5のマウス部11のアウトボード側端部に当接している。すなわち、ハブ輪1の加締部31の端面31aと、継手外輪5のマウス部11のバック面11aとは互いに対向し、かつ接触状態にある。
【0043】
凹凸嵌合構造Mは、図2(a)および図2(b)に示すように、例えば、軸部12のアウトボード側端部に設けられた軸方向に延びる凸部35と、ハブ輪1の孔部22のうち、軸部嵌合孔22aの内径面37に形成される凹部36とで構成される。凸部35と、凸部35に嵌合するハブ輪1の凹部36との嵌合部位38全域は密着状態にある。軸部12のアウトボード側端部の外周面に雄スプライン41を形成することにより、軸方向に延びる複数の凸部35が周方向に沿って所定間隔で配設され、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37に、凸部35が嵌合する軸方向の複数の凹部36が周方向に沿って形成されている。凸部35と凹部36とは、周方向全域に亘ってタイトフィットしている。
【0044】
本実施形態において、凸部35は、断面が凸アール状の頂部を有する三角形状(山形状)を呈し、凹部36との嵌合領域は、図2(b)に示す範囲Aである。具体的に述べると、断面における凸部35の円周方向両側の中腹部から頂部(歯先)35aに至る範囲で各凸部35と各凹部36が嵌合している。周方向で隣り合う凸部35間において、ハブ輪1の内径面37よりも内径側に隙間40が形成されている。そのため各凸部35の側面35bは、凹部36と嵌合しない領域Bを有する。
【0045】
凹凸嵌合構造Mでは、図3(a)にも示すように、凸部35のピッチ円上において、径方向線(半径線)Rと凸部35の側面35bとがなす角度をθ1としたときに、0°≦θ1≦45°に設定する(同図において、θ1は30°程度である)。ここで、凸部35のピッチ円とは、凸部35の側面35bのうち、凹部36に嵌合する領域と凹部36に嵌合しない領域との境界部を通る円C1から、凸部35の歯先35aにいたるまでの距離の中間点を通る円C2である。凸部35のピッチ円C2の直径をPCDとし、凸部35の数をZとしたとき、PCDに対するZの比P(P=PCD/Z)は、0.3≦P≦1.0とする。
【0046】
なお、図2および図3(a)では、歯先35aをアール状にした断面三角形状の凸部35を示しているが、図3(b)および図3(c)に示すような他の形状の凸部35を採用することもできる。図3(b)は、θ1を約0°とした断面矩形状の凸部35を、また、図3(c)は、歯先が約90°をなし、θ1を約45°とした断面三角形状の凸部35をそれぞれ示すものである。
【0047】
上記の凹凸嵌合構造Mは、以下の手順を経て得ることができる。
【0048】
先ず、図1および図2に示すように、継手外輪5の軸部12に、公知の加工方法(転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等)を用いて、軸方向に延びた多数の歯を有する雄スプライン41を形成する。雄スプライン41のうち、歯底42を通る円、歯先(頂部)35a、および歯先35aにつながる両側面35b,35bで囲まれた領域が凸部35となる。軸部12の凸部35を雄スプライン41で形成することにより、この種のシャフトにスプラインを形成するための加工設備を活用することができ、低コストに凸部35を形成することができる。
【0049】
次いで、軸部12の外径面のうち、図1および図4にクロスハッチングで示す領域に熱硬化処理を施して硬化層Hを形成する。硬化層Hは、凸部35の全体および歯底42も含めて円周方向に連続して形成される。なお、硬化層Hの軸方向の形成範囲は、少なくとも雄スプライン41のアウトボード側の端縁から、軸部12の基端部(マウス部11と軸部12の境界部分)に至るまでの連続領域を含む範囲とする。熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の焼入れ方法を採用することができる。ちなみに、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用によってジュール熱を発生させ、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を侵入・拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。
【0050】
その一方、ハブ輪1の内径部は未焼き状態に維持される。すなわち、ハブ輪1の孔部22の内径面37は熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。継手外輪5の軸部12の硬化層Hとハブ輪1の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。例えば、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。なお、ハブ輪1は、孔部22の内径面37のうち、軸部嵌合孔22aの形成領域が未硬化部であれば足り、その他の領域には熱硬化処理を施しても構わない。また、上記硬度差が確保されるのであれば、「未硬化部」とすべき上記領域に熱硬化処理を施しても構わない。
【0051】
凸部35の高さ方向の中間部は、凹部36の形成前におけるハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37の位置に対応している。具体的には、図4および図6に示すように、軸部嵌合孔22aの内径寸法Dを、雄スプライン41の最大外径寸法(凸部35の歯先35aを通る外接円の直径寸法)D1よりも小さく、雄スプライン41の最小外径寸法(歯底42を結ぶ円軌道の直径寸法)D2よりも大きくなるように設定する(D2<D<D1)。
【0052】
ハブ輪1の孔部22のうち、軸部嵌合孔22aのインボード側端部、すなわち凸部35(軸部12)の圧入開始側の端部には、凸部35圧入時のガイドを行うガイド部M1が設けられる。ガイド部M1は、軸部嵌合孔22aのインボード側端部に周方向所定間隔(ここでは凸部35の形成ピッチと同一間隔)で複数設けたガイド溝44で構成される。ガイド溝44の底部径寸法D3は、雄スプライン41の最大外径寸法D1よりも若干量大きくなるように設定する(D3>D1)。これにより、図5(a)に示すように、軸部12(凸部35)の先端部をハブ輪1の軸部嵌合孔22aのインボード側端部に配置した状態においては、凸部35の歯先35aとガイド溝44の底部との間に径方向隙間E1が形成される。
【0053】
そして、図4に示すように、ハブ輪1の孔部22のインボード側端部に継手外輪5の軸部12の先端を配置した後、軸部12をハブ輪1の軸部嵌合孔22aに対して圧入する。軸部12の圧入に際しては、軸部嵌合孔22aのインボード側端部に設けたガイド溝44に、軸部12の各凸部35を嵌合させる。これにより、ハブ輪1の軸心と継手外輪5の軸心とが一致した状態となる。このとき、上記のように、凸部35とガイド溝44との間に径方向隙間E1を形成するようにしたことから、凸部35のガイド溝44への嵌合を容易に行うことができ、しかも、ガイド溝44が凸部35の圧入の妨げにならない。なお、軸部12の先端をハブ輪1の孔部22のインボード側端部に配置する際には、軸部12のうち、雄スプライン41を含む先端側の外径面に予めシール材を塗布しておく。使用可能なシール材に特段の限定はないが、例えば種々の樹脂からなるシール材を選択使用することができる。
【0054】
ハブ輪1の孔部22には、軸部12の圧入方向に沿って縮径するテーパ部22cを形成しているので、圧入を開始すると、孔部22の軸部嵌合孔22aに対する軸部12の芯出しが行われる。そして、軸部12の圧入を進行させると、軸部嵌合孔22aの内径寸法D、雄スプライン41の最大外径寸法D1、および雄スプライン41の最小外径寸法D2とが上記のような関係であることから、軸部12をハブ輪1の軸部嵌合孔22aに圧入することにより、凸部35がハブ輪1のインボード側端面の内径部に食い込み、ハブ輪1の肉を切り込む。軸部12を押し進めるのに伴って、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37が凸部35で切り出され、又は押し出されて、内径面37に軸部12の凸部35に対応した形状の凹部36が形成される。この際、軸部12の凸部35の硬度をハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37よりも20ポイント以上高くしているので、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37に凹部36が容易に形成される。またこのように軸部12側の硬度を高くすることで、軸部12の捩り強度を向上させることもできる。
【0055】
この圧入工程を経ることにより、図2(a)(b)に示すように、軸部12の凸部35に嵌合する凹部36がハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37に形成される。凸部35がハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37に食い込んでいくことによって、孔部22が僅かに拡径した状態となり、凸部35を設けた軸部12の軸方向移動を許容する。その一方で、軸方向の移動が停止すれば、内径面37が元の径に戻ろうとして縮径する。言い換えれば、凸部35の圧入時にハブ輪1が外径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が、凸部35のうち、凹部36と嵌合する部分の表面に付与される。そのため、凹部36は、その軸方向全体に亘って凸部35の表面と密着する。これによって凹凸嵌合構造Mが構成される。軸部12の先端側の外径面には、上記のとおり予めシール材を塗布したことから、軸部12を圧入するのに伴って凸部35と凹部36の嵌合部38にはシール材が行き渡る。従って、嵌合部38への異物の侵入は効果的に防止される。
【0056】
また、軸部12の圧入に伴い、ハブ輪1の側で塑性変形が生じるため、凹部36の表面には加工硬化が生じる。そのため、凹部36側のハブ輪1の内径面37が硬化して、回転トルクの伝達性が向上する。
【0057】
なお、凹凸嵌合構造Mを形成する際には、凹部36が形成される側(ここではハブ輪1)を固定する一方、凸部35を形成している側(ここでは軸部12)を移動させても良いし、これとは逆に、凸部35を形成している側を固定する一方、凹部36が形成される側を移動させてもよい。あるいは、両者を移動させてもよい。
【0058】
テーパ部22cは、上記のとおり、軸部12の圧入を開始する際のガイドとして機能させることができるので、軸部12の圧入精度を向上することができる。加えて、テーパ部22cよりも軸部12の圧入方向前方側である軸部嵌合孔22aのインボード側端部にガイド溝44(ガイド部M1)を設けたことから、このガイド溝44に沿って凸部35を圧入することができる。これによって圧入精度が一層向上するので、芯ずれや、傾いた状態で凸部35が圧入されるような事態を一層効果的に防止することができ、高精度な凹凸嵌合構造Mを得ることができる。また、軸部12を圧入する際には、軸部12の外径面に塗布したシール材が潤滑剤として機能するので、軸部12を円滑に圧入することができる。
【0059】
本実施形態では、上述のように、凸部35の歯先35aとの間に径方向隙間E1が形成されるようにして、軸部嵌合孔22aのインボード側端部にガイド溝44を形成したが、ガイド溝44の形成態様はこれに限定されない。例えば、図5(b)に示すように、凸部35の側面35bとの間に周方向隙間E2が形成されるようにガイド溝44を形成しても良い。また、図5(c)に示すように、凸部35の歯先35aとの間に径方向隙間E1、および凸部35の側面35bとの間に周方向隙間E2が形成されるようにガイド溝44を形成しても良い。
【0060】
軸部12の圧入は、図1に示すように、マウス部11のバック面11aがハブ輪1の加締部31の端面31aに当接するまで行われる。このように、ハブ輪1の加締部31の端面31aと継手外輪5のマウス部11のバック面11aとを当接(接触)させれば、当該車輪用軸受装置の軸方向の曲げ剛性が向上して耐久性に富む高品質な製品となる。また、ハブ輪1に対する継手外輪5の軸部12の相対的な位置決めを行うことができるので、軸受装置の寸法精度が安定すると共に、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを安定化させて、トルク伝達性の向上を図ることができる。さらに、この接触によってハブ輪1とマウス部11との間にシール構造を構成することができるので、加締部31からの凹凸嵌合構造Mへの異物侵入を防止することができる。これにより、凹凸嵌合構造Mの嵌合状態を長期間安定して維持することができる。
【0061】
但し、このようにハブ輪1の端面31aとマウス部11のバック面11aとを接触させる場合、両者の接触面圧は100MPa以下とするのが望ましい。接触面圧が100MPaを超えると、予圧が付与された接触面でもトルク伝達が行われてしまい、更に大きなトルクが負荷され、接触面がトルク伝達に耐えられなくなった時に接触面が急激に滑ることに起因して異音が発生するおそれがあるからである。従って、接触面圧を100MPa以下とすることで、異音が極力発生しない静粛な車輪用軸受装置を提供することができる。
【0062】
軸部12の圧入が完了、すなわちマウス部11のバック面11aとハブ輪1の加締部31の端面31aとが接触した時点において、軸部12の小径部12aは、ハブ輪1の孔部22(軸部嵌合孔22a)の内径面37、および内壁22dのインボード側端面に対して非接触とされる。これにより、軸部12の小径部12aの外径側に、凹部36を形成するのに伴って形成されるはみ出し部45を収納するポケット部46が形成される。
【0063】
ハブ輪1の孔部22に対して継手外輪5の軸部12を圧入すると、図7にも示すように、凸部35による切り出し又は押し出し作用によって凹部36から材料(ハブ輪1の肉)がはみ出し、はみ出し部45が形成される。はみ出し部45は、凸部35のうち、凹部36と嵌合する部分の容積に相当する量が生じる。このはみ出し部45を放置すれば、これが脱落して車両の内部に入り込むおそれがある。これに対して、上記のようなポケット部46を形成すれば、はみ出し部45は、カールしながらポケット部46内に収納、保持される。そのため、はみ出し部45の脱落を防止して、上記不具合を解消することができる。またこの場合、はみ出し部45をポケット部46内に収納したままにすることができ、はみ出し部45の除去処理を別途行う必要がなくなる。従って、組立作業工数の減少を図ることができ、組立作業性の向上およびコスト低減を図ることができる。
【0064】
なお、ポケット部46の形状は、生じるはみ出し部45を収納できるものであれば足り、その形状は適宜変更可能である。また、上記のような作用効果を奏する上で、ポケット部46の容量は、少なくとも予想されるはみ出し部45の発生量よりも大きくするのが肝要である。
【0065】
以上のようにして構成される凹凸嵌合構造Mは、車輪用軸受2の軌道面26,27,28,29の内径側を避けて配置するのが望ましい。特に、内側軌道面28,29上における接触角が通る線との交点の内径側を避け、これらの交点の間の軸方向一部領域に凹凸嵌合構造Mを形成するのが一層望ましい。軸受軌道面のフープ応力(ハブ輪1外径部や内輪24外径部の引張応力)が増大するのを効果的に抑制あるいは防止することができるからである。フープ応力の増大を抑制あるいは防止することができれば、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、および応力腐食割れ等の不具合発生を防止することができ、高品質の軸受2を提供することができる。
【0066】
また、図6に示すように、上記の凹凸嵌合構造Mを構成する際には、ハブ輪1に対する凸部35の圧入代をΔd、凸部35の高さをhとしたときに、Δd/2hを、0.3<Δd/2h<0.86の範囲に設定するのが望ましい。ここで圧入代Δdは、軸部12に設けた雄スプライン41の最大外径寸法D1と、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径寸法Dとの径差(D1−D)で表される。これにより、凸部35の高さ方向中間部付近がハブ輪1の内径面に食い込むことになるので、凸部35の圧入代を十分に確保することができ、凹部36を確実に形成することが可能となる。
【0067】
Δd/2hが0.3以下である場合、捩り強度が低くなり、また、Δd/2hが0.86以上の場合には、微小な圧入時の芯ずれや圧入傾きにより、凸部35の全体が相手側に食い込んで圧入荷重が急激に増大し、凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化するおそれがある。凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化すると、捩り強度が低下するだけでなく、ハブ輪1外径の膨張量も増大するため、ハブ輪1を構成部品とする車輪用軸受2の機能に悪影響が及び、回転寿命が低下する等の問題が生じる。これに対して、Δd/2hを上記範囲に設定することにより凹凸嵌合構造Mの成形性が安定し、圧入荷重のばらつきも無く、安定した捩り強度を得ることができる。
【0068】
以上に述べた凹凸嵌合構造Mでは、凸部35と凹部36との嵌合部位38の全体が密着しているので、径方向及び円周方向におけるガタを抑制することができる。そのため、ハブ輪1と継手外輪5の結合部(凹凸嵌合構造M)をコンパクト化しても高い負荷容量を確保することができ、車輪用軸受装置の小型・軽量化を図ることができる。また、凹凸嵌合構造Mでのガタを抑制することができることから、トルク伝達時の異音発生も効果的に防止することができる。
【0069】
また、凹部36が形成される部材(本実施形態ではハブ輪1)に、雌スプライン等を予め形成しておく必要がないことから、加工コストを低廉化すると共に生産性を高めることができる。また、ハブ輪1と継手外輪5の軸部12との組み付けに際して、スプライン同士の位相合わせを省略することができるから、組立性の向上を図ることができる。さらに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持することができる。また、上記のとおり、ハブ輪1の内径側は低硬度であることから、ハブ輪1に形成した凹部36は、軸部12の凸部35と高い密着性をもって嵌合する。そのため、径方向および円周方向におけるガタ防止により一層有効となる。
【0070】
また、図3に示すように、各凸部35のピッチ円C上において、径方向線(半径線)と凸部側面35bとが成す角度θ1を0°≦θ1≦45°の範囲に設定しているので、圧入後のハブ輪1の拡径量を小さくし、圧入性の向上を図ることができる。これは、軸部12を圧入することによってハブ輪1の孔部22が拡径するが、θ1が大きすぎると圧入時の拡径力が働き易くなるため、圧入終了時におけるハブ輪1外径の拡径量が大きくなり、ハブ輪1外径部や軸受2の内輪24外径部の引張応力(フープ応力)が高くなること、およびトルク伝達時に径方向への分力が大きくなるため、ハブ輪1の外径が拡径し、ハブ輪1外径部や内輪24外径部の引張応力が高くなること、等による。これら引張応力の増加は、軸受寿命の低下を招く。
【0071】
また、凸部35のピッチ円径をPCDとし、凸部35の数をZとして、0.30≦PCD/Z≦1.0にしている。PCD/Zが小さすぎる場合(PCD/Zが0.30よりも小さいような場合)、凹部36を形成すべき部材(ここではハブ輪1)に対する凸部35の圧入代の適用範囲が非常に狭く、寸法公差も狭くなるため、圧入が困難となる。
【0072】
特に、20°≦θ1≦35°とすると共に、0.33≦PCD/Z≦0.7とすることによって、軸部12(継手外輪5)の形成材料に特殊鋼を用いる、凸部35に表面処理を施す、あるいは凸部35を鋭利な形状にする等の対策を講じずとも、一般的な機械構造用鋼で形成した軸部12を圧入することにより凸部35で凹部36を成形することが可能となる。しかも、軸部12圧入後におけるハブ輪1の外径の拡径量を小さく抑えることができる。また、θ1≧20°とすることにより、軸部12側に凸部35を設ける場合には、上述した加工法のうち、最もコストや加工精度のバランスに富む転造加工によって凸部35を成形することができる。
【0073】
軸部12の圧入が完了すると、アウトボード側から軸部12のボルト孔13にボルト部材50を螺着し、継手外輪5の軸部12をハブ輪1に対してボルト固定する。ボルト部材50のボルト孔13に対する螺着は、ボルト部材50の頭部50aの座面50a1を、ハブ輪1のアウトボード側の端面、ここでは、内壁22dに形成した凹窪部22eの底面に当接させることにより行う。これにより、ボルト部材50の頭部50aと継手外輪5のマウス部11(のバック面11a)とでハブ輪1が軸方向で挟持される。このように、ボルト部材50で継手外輪5の軸部12をハブ輪1に対してボルト固定することにより、ハブ輪1からの継手外輪5の抜けが規制されるので、信頼性に富む装置構造となる。また、ハブ輪1をボルト部材50とマウス部11とで挟持したことにより、装置の軸方向の曲げ剛性が一層向上し、更なる耐久性の向上を図ることができる。
【0074】
但し、選択するボルト部材50によっては、当該軸受装置の組立性の他、トルク伝達性能や耐久寿命に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、本願発明者らが検証を重ねた結果、図8(a)に示すように、ボルト部材50の座面外径をd1、ボルト部材50(ねじ軸部50b)の軸径をd2としたときに、(d1/d2)2の値が所定範囲内に納まったボルト部材50を用いることにより、上記の各種不具合を解消し得ることを見出した。具体的には、2.3≦(d1/d2)2≦4.9の関係式を満たすボルト部材50を用いる。その理由としては以下のとおりである。
【0075】
(d1/d2)2の値を小さくするには、座面外径d1を小さくする、あるいは軸径d2を大きくすれば良いが、座面外径d1をあまりに小さくすると、ハブ輪1に形成した凹窪部22eの底面で摩耗や圧痕が生じ易くなり、軸径d2を大きくするとボルト軸力が大きくなり易い。本実施形態では、互いに対向するハブ輪1の端面31aと継手外輪5のマウス部11のバック面11aとを接触させているので、ボルト軸力が過大となると、両者間の接触面圧が高くなり、両者が相対回転した場合等に異音(スティックスリップ音)が発生し易くなる。これらの問題は、(d1/d2)2の値を大きくすることで解消可能であると考えられるが、(d1/d2)2の値を大きくするには、座面外径d1を大きくする、あるいは軸径d2を小さくする必要がある。しかし、座面外径d1をあまりに大きくすると、ボルト部材50の頭部50aを受けるハブ輪1の形状に制約が生じてハブ輪1の設計自由度が低下する他、組立性が悪化する、ボルト部材50の締結トルク管理が難しくなる、等の不具合が生じ、また、軸径d2を小さくするとボルト軸力が低下する。従って、以上の諸事情を鑑みると、ボルト部材50としては、2.3≦(d1/d2)2≦4.9の関係式を満たすものを用いるのが望ましく、これにより上記の各種問題を解消することができる。また、このようなボルト部材50を用いれば、ボルト緩みによる締結力の低下、またこれに起因した凹凸嵌合構造Mへの泥水等の侵入を可及的に防止することができる。
【0076】
なお、上記(d1/d2)2の関係式になるのは、座面50a1の面積(図8(a)の右図のハッチング部)とボルト部材50のねじ軸部50bの断面積とが関係していると考えられる。そして、座面50a1の内径は、ボルト部材50の軸径d2に近似した寸法であることから(d1/d2)2の関係式になるものと考えられる。
【0077】
図8(b)に示すように、ボルト部材50の座面50a1と内壁22dに設けた凹窪部22eの底面との間にはシール材Sを介在させても良い。このようにすれば、両者間の密封性を確保することができるので、アウトボード側からの凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物の侵入を防止することができる。密封性を確保し得る限り使用可能なシール材Sに特段の限定はないが、例えば、軸部12の外径面に塗布したものと同様に、種々の樹脂からなるものを選択使用することができる。もちろん、ボルト部材50の座面50a1と凹窪部22eの底面との間に介在させるシール材Sは、軸部12の外径面に塗布したシール材とは異なる種類のものであっても良い。
【0078】
なお、ボルト部材50の座面50a1と内壁22dに形成した凹窪部22eの底面とが隙間無く密着するのであれば、必ずしも両面間にシール材Sを介在させる必要はない。例えば、凹窪部22eの底面を研削すれば、ボルト部材50の座面50a1との密着性が向上するので、図8(a)に示すようにシール材Sを省略することができる。密着性が確保される限り、凹窪部22eへの研削加工を省略し、鍛造肌や旋削仕上げ状態をそのまま残すこともできる。
【0079】
シール材Sをボルト部材50の座面50a1と凹窪部22eの底面との間に介在させた場合においても、上記同様の理由から、ボルト部材50としては、2.3≦(d1/d2)2≦4.9の関係式を満たすものを用いるのが望ましい。
【0080】
以上に示す車輪用軸受装置は、これに補修等を施す必要が生じた場合に、軸受部分(車輪用軸受2)と継手部分(等速自在継手3)とを個別に補修可能とするため、継手外輪5とハブ輪1との分離が許容される。継手外輪5とハブ輪1との分離は、図1に示す完成品の状態からボルト部材50を取り外した状態とし、その後、ハブ輪1と継手外輪5の軸部12との間に凹凸嵌合構造Mの嵌合力以上の引き抜き力を与えてハブ輪1から継手外輪5の軸部12を引き抜くことにより行われる。ここでは、ハブ輪1と継手外輪5を分離した後、分離したハブ輪1と継手外輪5をそのまま再結合する場合を例にとり、以下、両者の分離および再結合の方法について詳述する。
【0081】
ハブ輪1からの軸部12の引き抜きは、例えば図9に示すような治具70を用いて行うことができる。治具70は、基盤71と、この基盤71のねじ孔72に螺合する押圧用ボルト部材73と、軸部12のボルト孔13に螺合されるねじ軸76とを備える。基盤71には貫孔74が設けられ、この貫孔74に挿通されたハブ輪1のボルト33にナット部材75が螺合される。これにより、基盤71とハブ輪1のフランジ21とが重ね合わされた状態となり、基盤71がハブ輪1に取り付けられる。このようにして基盤71をハブ輪1に取り付けた後、基部76aが内壁22dからアウトボード側に突出するようにして、軸部12のボルト孔13にねじ軸76を螺合させる。基部76aの突出量は、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さよりも長く設定される。
【0082】
ねじ軸76と同一軸心上に押圧用ボルト部材73を配設すると共に、押圧用ボルト部材73をアウトボード側から基盤71のねじ孔72に螺着し、この状態で、図9中の白抜き矢印方向に押圧用ボルト部材73を螺進させる。ねじ軸76と押圧用ボルト部材73とが同一軸心上に配設されていることから、押圧用ボルト部材73を螺進させると、ねじ軸76がインボード側に押圧される。これに伴い、継手外輪5がハブ輪1に対してインボード側に移動し、押圧用ボルト部材73の螺進がある程度進行すると、ハブ輪1から継手外輪5が取り外される。
【0083】
ハブ輪1から継手外輪5が外れた状態からは、ボルト部材50を使用して、再度ハブ輪1と継手外輪5とを連結することができる。すなわち、ハブ輪1から基盤71を、また、軸部12からねじ軸76を取り外した状態として、ボルト部材50を軸部12のボルト孔13に螺合させる。このとき、軸部12側の凸部35と、前回の軸部12の圧入によって形成されたハブ輪1の凹部36の位相を合わせる。ハブ輪1の孔部22に形成された凹部36のインボード側にはガイド溝44が設けられているので、凸部35とガイド溝44の円周方向の位相を合わせれば、凸部35と凹部36の位相合わせは完了する。
【0084】
この状態にてボルト部材50を回転させ、ボルト孔13へボルト部材50をねじ込ませると、このねじ込みにより生じる推力で、軸部12がハブ輪1の軸部嵌合孔22aに圧入される。これにより、前回の圧入と同様に、凸部35の凹部36に対する嵌合部位の全体が、対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mが再度構成され、継手外輪5とハブ輪1とが再結合される。
【0085】
このように、ボルト部材50をボルト孔13に再度ねじ込むことで凹凸嵌合構造Mを再構成可能とすれば、圧入用のプレス機等、大掛かりな設備を用いることなく凹凸嵌合構造Mを再構成することができる。ボルト部材50のねじ込みによる推力を利用しての凹凸嵌合構造Mの再構成(継手外輪5とハブ輪1の再結合)が可能となるのは、再度の圧入が、凹部36が形成された軸部嵌合孔22aの内径面37に軸部12(凸部35)を圧入することにより行われるので、圧入荷重が1回目よりも小さくなることによる。以上から、自動車整備工場等の現場においても、ハブ輪1と継手外輪5の分離および再結合、すなわち車輪用軸受装置の点検、整備、補修等を容易に行うことが可能となり、高いメンテナンス性が得られる。
【0086】
なお、以上に述べたハブ輪1と継手外輪5の分離および再結合は、図9に示すように、軸受2の外方部材25を車両のナックル34に取り付けたままの状態で行うことができる。そのため、現場でのメンテナンス性は特に良好なものとなる。
【0087】
図8に示すように、ハブ輪1の内壁22dの内径寸法d3は、ボルト部材50(ねじ軸部50b)の軸径d2よりも僅かに大きく設定される(具体的には、0.05mm<d3−d2<0.5mm程度とされる)ので、ボルト部材50のねじ軸部50bの外径と内壁22dの内径とで、ボルト部材50がボルト孔13を螺進する際のガイドを構成することができる。そのため、ボルト部材50の芯ずれを防止して、継手外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に精度良く圧入することができる。なお、内壁22dの軸方向寸法が小さ過ぎると安定したガイド機能を発揮することができない可能性がある。一方、内壁22dの軸方向寸法を大きくすると、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを確保することができず、しかもハブ輪1の重量増大を招く。従って、ハブ輪1に設けるべき内壁22dの軸方向寸法は、以上の事情を勘案して決定する。
【0088】
図10は、本発明の第2実施形態に係る車輪用軸受装置を示す断面図である。同図に示す軸受装置が、図1に示す軸受装置と異なる主な点は、ハブ輪1の加締部31の端面31aとマウス部11のバック面11aとを非接触にする一方、軸部12の小径部12aを長大化し、軸部12の端面(アウトボード側の端面)12bをハブ輪1の内壁22dのインボード側端面に当接させた点にある。この場合、ボルト部材50の頭部50aと軸部12のアウトボード側の端面12bとでハブ輪1の内壁22dが軸方向で挟持されることにより、ハブ輪1と継手外輪5の軸方向の位置決めが行われる。
【0089】
また、この場合、図11(a)にも示すように、加締部31の端面31aとマウス部11のバック面11aとの間には隙間80が設けられる。隙間80は、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとの間から、ハブ輪1の大径孔22bと軸部12との間に至るまで形成される。このように、マウス部11とハブ輪1とを非接触とすることにより、両者の接触に起因した異音の発生をより効果的に防止することができる。
【0090】
このような構成を採用する場合、凹凸嵌合構造Mへの異物侵入防止手段が、凹凸嵌合構造Mよりもインボード側に設けられる。具体的には、図11(a)に示すように、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとの間の隙間80に嵌着したシール部材81で異物侵入防止手段が構成される。このように、シール部材81で、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとの間の隙間80を塞ぐことにより、この隙間80からの凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物の侵入を防止することができる。シール部材81としては、図11(a)に示すような市販のOリング等を使用することができる他、例えば図11(b)に示すようなガスケット等のようなものも使用可能である。
【0091】
この実施形態において、軸部12のボルト孔13に螺着されるボルト部材50は、ねじ軸部50bを構成する基部50b1とねじ部50b2との間に小径部を有するものであり、ねじ軸部50bの軸径d2が、ねじ軸部50bの全長に亘って一定ではない。このようなボルト部材50を用いて軸部12をハブ輪1に対してボルト固定する場合において、ボルト緩み等の不具合を防止するには、基部50b1とねじ部50b2の軸径を概ね同一とし、これらの軸径をd2としたときに、2.3≦(d1/d2)2≦4.9の関係式を満たすボルト部材50を用いれば良い。
【0092】
また、第2実施形態に係る車輪用軸受装置では、軸部12のボルト孔13の開口部に、開口側(アウトボード側)に向かって拡径するテーパ部12cを設けている。かかるテーパ部12cを形成しておけば、ハブ輪1と継手外輪5の軸部12とを締結する際に用いるボルト部材50や、ハブ輪1と継手外輪5を分離させる際に用いるねじ軸76をボルト孔13に螺合させ易くなる。かかる構成は、図1等に示す第1実施形態に係る軸受装置にも適用可能である。
【0093】
なお、上述した以外の構成は、図1に示す軸受装置と実質的に同一であるから、共通の参照番号を付して重複説明を省略する。
【0094】
以上で説明を行った実施形態では、図2(a)および図2(b)に示すように、凸部35のピッチと、凹部36のピッチとを同一値に設定している。そのため、図2(b)に示すように、凸部35の高さ方向の中間部において、凸部35の周方向厚さLと、隣接する凸部間の溝幅L0とがほぼ同値となっている。これに対して、図12(a)に示すように、凸部35の高さ方向の中間部において、凸部35の周方向厚さL2を、隣接する凸部間の溝幅L1よりも小さくすることもできる。換言すると、凸部35の高さ方向の中間部において、軸部12の凸部35の周方向厚さL2を、ハブ輪1の突出部43の周方向厚さL1よりも小さくする(L2<L1)。
【0095】
各凸部35において上記関係を満たすことにより、軸部12の凸部35の周方向厚さL2の総和Σを、ハブ輪1の突出部43の周方向厚さL1の総和Σ1よりも小さく設定することが可能となる。これによって、ハブ輪1の突出部43のせん断面積を大きくすることができ、捩り強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくして圧入性の向上を図ることができる。
【0096】
このとき、全ての凸部35および突出部43について、L2<L1の関係を満足させる必要はなく、軸部12の凸部35の周方向厚さの総和Σが、ハブ輪1の突出部43の周方向厚さの総和Σ1よりも小さくなる限り、一部の凸部35および突出部43については、L2=L1とし、あるいはL2>L1とすることもできる。
【0097】
なお、図12(a)では、凸部35を断面台形に形成しているが、凸部35の断面形状はこれに限定されない。例えば、図12(b)に示すように、凸部35を、インボリュート形状の断面に形成することもできる。
【0098】
また、以上で説明を行った実施形態では、軸部12側に雄スプライン41(凸部35)を形成しているが、これとは逆に、図13に示すように、ハブ輪1の孔部22の内径面に雌スプライン61を形成することによってハブ輪1側に凸部35を形成することもできる。この場合、軸部12に雄スプライン41を形成した場合と同様に、例えば、ハブ輪1の雌スプライン61に熱硬化処理を施す一方、軸部12の外径面は未焼き状態とする等の手段で、ハブ輪1の凸部35の硬度を軸部12の外径面よりもHRCで20ポイント以上硬くする。雌スプライン61は、公知のブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって形成することができる。熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
【0099】
その後、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入すれば、ハブ輪1側の凸部35で軸部12の外周面に凸部35と嵌合する凹部36が形成され、これによって、凸部35と凹部36の嵌合部位全体を密着させた凹凸嵌合構造Mが構成される。凸部35と凹部36の嵌合部位38は、図13(b)に示す範囲Aである。凸部35のうち、その他の領域は凹部36と嵌合しない領域Bとなる。軸部12の外周面よりも外径側で、かつ周方向に隣り合う凸部35間には隙間62が形成される。
【0100】
図14に示すように、凸部35の高さ方向の中間部が、凹部形成前の軸部12の外径面の位置に対応する。すなわち、軸部12の外径寸法D10は、雌スプライン61の凸部35の最小内径寸法D8(雌スプライン61の歯先61aをとおる外接円の直径寸法)よりも大きく、雌スプライン61の最大内径寸法D9(雌スプライン61の歯底61bを結ぶ円軌道の直径寸法)よりも小さく設定される(D8<D10<D9)。また、軸部12に対する凸部35の圧入代をΔdとし、凸部35の高さをhとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86の範囲に設定する。このときの圧入代Δdは、軸部12の外径寸法D10と、凸部35の最小内径寸法D8との径差(D10−D8)で表される。これにより、凸部35の高さ方向中間部付近が軸部12の外径面に食い込むことになるので、凸部35の圧入代を十分に確保することができ、凹部36を確実に形成することが可能となる。
【0101】
この凹凸嵌合構造Mでも、図13(b)に示すように、凸部35のうち、凹部36に嵌合する領域と凹部36に嵌合しない領域との境界部を通る円C1から凸部35の歯先61aに至るまでの距離の中間点を通る円C2をピッチ円とし、このピッチ円上において、径方向線と凸部の側面とがなす角度θ1が0°≦θ1≦45°に設定される。また、凸部35のピッチ円C2の直径をPCDとし、凸部35の数をZとして、0.30≦PCD/Z≦1.0に設定される。
【0102】
この構成でも、圧入によってはみ出し部45が形成されるので、このはみ出し部45を収納するポケット部46を設けるのが好ましい。この構成では、はみ出し部45が軸部12のインボード側に形成されるので、ポケット部46は、凹凸嵌合構造Mよりもインボード側で、かつハブ輪1側に設ける(図示は省略する)。
【0103】
このように、ハブ輪1の孔部22の内径面に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設ける場合、軸部12側の熱硬化処理を行う必要がないので、等速自在継手3の継手外輪5の生産性に優れる、という利点が得られる。
【0104】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、凹凸嵌合構造Mの凸部35の断面形状として、図2、図3(a)〜(c)、図12(a)(b)に示す形状以外にも、半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の断面形状を有する凸部35を採用することができ、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。凸部35は、軸部12やハブ輪11とは別体のキーのようなもので形成することもできる。
【0105】
また、ハブ輪1の孔部22としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部22に嵌挿する軸部12の端部の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪1に軸部12を圧入する際には、凸部35の少なくとも圧入開始側の端面を含む端部領域の硬度が、圧入される側の硬度よりも高ければよく、必ずしも凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。図2(b)および図13(b)では、凸部35を有するスプラインの歯底と凹部36が形成された部材との間に隙間40および62がそれぞれ形成されているが、凸部35間の溝の全体を相手側の部材で充足させてもよい。
【0106】
また、図示は省略するが、凹部が形成される部材の凹部形成面には、予め、周方向に沿って所定ピッチで配設される小凹部を設けてもよい。小凹部としては、凹部36の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部35の圧入時に形成されるはみ出し部45の容量を減少させることができるので、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部45を少なくできるので、ポケット部46の容積を小さくでき、ポケット部46の加工性及び軸部12の強度の向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、三角形状、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
【0107】
また、車輪用軸受2の転動体30として、ボール以外にころを使用することもできる。さらには、等速自在継手3において、継手内輪6とシャフト10とを上述した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
【0108】
また、以上の実施形態は、本発明を第3世代の車輪用軸受装置に適用したものであるが、本発明は、第1世代や第2世代、さらには第4世代の車輪軸受装置にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 ハブ輪
2 車輪用軸受
3 等速自在継手
5 継手外輪
11 マウス部
12 軸部
13 ボルト孔
22 孔部
22a 軸部嵌合孔
22d 内壁
26,27 外側軌道面(アウタレース)
28,29 内側軌道面(インナレース)
31 加締部
35 凸部
36 凹部
38 嵌合部位
44 ガイド溝
45 はみ出し部
46 ポケット部
50 ボルト部材
50a 頭部
50b ねじ軸部
50b1 基部
50b2 ねじ部
d1 座面外径
d2 軸径
M 凹凸嵌合構造
M1 ガイド部
S シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の軌道面を有する外方部材と、車輪に取り付けられるハブ輪を含み、外周に前記軌道面に対向する複列の軌道面を有する内方部材と、外方部材と内方部材の軌道面間に介在した複列の転動体とを有する車輪用軸受と、外側継手部材を有する等速自在継手とを備えた車輪用軸受装置であって、外側継手部材の軸部とハブ輪の孔部のうち、何れか一方に設けられた軸方向に延びる凸部を他方に圧入し、他方に前記凸部により凹部を形成することで前記凸部と前記凹部との嵌合部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成すると共に、外側継手部材の軸部にボルト孔を設け、このボルト孔にねじ込んだボルト部材でハブ輪と外側継手部材とを締結し、ボルト部材を取り外した状態での軸方向の引き抜き力付与により凹凸嵌合構造の分離が許容されるものにおいて、
前記ボルト部材として、その座面外径をd1、その軸径をd2としたときに、2.3≦(d1/d2)2≦4.9の関係式を満たすものを使用することを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
外側継手部材の軸部に前記凸部を設け、この凸部の少なくとも圧入開始側の端部の硬度を、ハブ輪の孔部内径部よりも高くしたことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
外側継手部材の軸部に、前記凸部を設けると共に、前記凸部の圧入による前記凹部の形成によって生じるはみ出し部を収納するポケット部を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
ハブ輪の孔部に前記凸部を設け、この凸部の少なくとも圧入開始側の端部の硬度を外側継手部材の軸部の外径部よりも高くしたことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
ハブ輪の孔部に、前記凸部を設けると共に、前記凸部の圧入による前記凹部の形成によって生じるはみ出し部を収納するポケット部を設けたことを特徴とする請求項1又は4に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記凸部を円周方向の複数箇所に設け、凸部の高さ方向の中間部において、凸部の周方向厚さを、隣接する凸部との間の溝幅よりも小さくしたことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記凸部を円周方向の複数箇所に設け、凸部の高さ方向の中間部において、各凸部の周方向厚さの総和を、隣接する凸部との間の溝幅の総和よりも小さくしたことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記内方部材は、ハブ輪のインボード側端部の外周に圧入される内輪をさらに備え、ハブ輪および内輪の外周に前記軌道面がそれぞれ設けられたものであり、
ハブ輪の端部を加締めることで前記車輪用軸受に予圧が付与されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
互いに対向するハブ輪の端面と外側継手部材の端面とを100MPa以下の面圧で接触させたことを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
凹部が形成される部材の圧入開始側の端部に、凸部の圧入をガイドするためのガイド部を設けたことを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項11】
ボルト部材の座面とハブ輪との間にシール材を介在させたことを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−62013(P2012−62013A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209609(P2010−209609)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】