説明

車輪装置、及びそれを用いた多輪式車両

【課題】段差乗り越し性を向上させる。
【解決手段】 同一軸芯上をのびる左右両側の支持軸部と、各前記支持軸部に、一端部が枢支点で枢支されかつ他端部側が上下に傾動自在な一方側、他方側のスイングアームと、前記一方側、他方側のスイングアームの各前記他端部に、枢着点で枢着される車輪と、前記一方側、他方側のスイングアームの傾動動作を上下互い違いに連動させる連動手段とを具える。一方側のスイングアームにおけるアーム長さを、他方側のスイングアームにおけるアーム長さと相違させることにより、前記車輪を進行方向の前後に位置ズレさせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば台車、ショッピングカート等として好適であり、段差乗り越し性を向上させた車輪装置、及びそれを用いた多輪式車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば台車、ショッピングカート等(以後、総称して台車等と呼ぶ場合がある。)では、方向転換が容易なように、小さな直径の車輪が前輪側に使用されている。しかし車輪の直径が小さい場合には、例えば縁石等の段差部を乗り越える際の衝撃が大きくなるなど段差乗り越し性が悪く、時にバランスを崩して転倒を招くという恐れが生じる。
【0003】
そこで、例えば下記の特許文献1には、図11に示すように、車椅子の前輪側において、垂直軸部bの下端部に金具cを介して前輪aを回転可能に取り付けるとともに、前記金具cに一端が枢支される揺動アームgの他端に、補助車輪dを回転可能に取り付けた構造のものが提案されている。又この構造では、前記揺動アームgの上昇端を位置決めするストッパeと、揺動アームgを上方に引き上げるバネfとを用い、通常走行状態において、前記補助車輪dが前輪aよりも前方かつ上方に位置するように配置している。
【0004】
このものは、前輪aに先駆けて補助車輪dが段差部を乗り上げるため、乗り越える際の衝撃を緩和することができる。しかしながら、前記補助車輪dが上昇端まで傾動した後には、前輪aが路面から浮き上がってしまうため、乗り越し時の車両安定性が低下してしまう。しかも前輪aを持ち上げる際の負荷も大きいため、段差乗り越し性を充分に高めるとは言い難く、さらなる改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3119520号公報
【特許文献2】特許第4567813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、一端部が枢支されかつ他端部に車輪を枢着した傾動自在な一対のスイングアームと、その傾動動作を上下互い違いに連動させる連動手段とを用い、かつ一方側、他方側のスイングアームのアーム長さを互いに相違させることを基本として、乗り越し時の車両安定性を高めうるとともに、車両を持ち上げる際の労力を減じることができ、段差乗り越し性を大巾に向上しうる車輪装置、及びそれを用いた多輪式車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、同一軸芯上をのびる左右両側の支持軸部と、
各前記支持軸部に、一端部が枢支点で枢支されかつ他端部側が上下に傾動自在な一方側、他方側のスイングアームと、
前記一方側、他方側のスイングアームの各前記他端部に、枢着点で枢着される車輪と、
前記一方側、他方側のスイングアームの傾動動作を上下互い違いに連動させる連動手段とを具えるとともに、
一方側のスイングアームにおける前記枢支点と枢着点との間のアーム長さを、他方側のスイングアームにおける前記枢支点と枢着点との間のアーム長さと相違させることにより、前記車輪を進行方向の前後に位置ズレさせたことを特徴としている。
【0008】
又請求項2の発明では、前記一方側、他方側のスイングアームの少なくとも一方は、ワンウェイクラッチを介して前記車輪を前進方向のみ回転可能に枢着したことを特徴としている。
【0009】
又請求項3の発明では、前記車輪のうち、進行方向の後方側に位置ズレする車輪は、ワンウェイクラッチを介して枢着されることを特徴としている。
【0010】
又請求項4の発明では、前記一方側、他方側のスイングアームは、前記一端部を進行方向の前方側に向けて枢支されることを特徴としている。
【0011】
又請求項5の発明では、車両のフレームに取り付できかつ垂直な軸芯回りで水平に回動可能な補助フレームを具えるとともに、この補助フレームに、前記左右両側の支持軸部と、前記スイングアームと、前記車輪と、前記連動手段とが取り付くことにより、該補助フレームと支持軸部とスイングアームと車輪と連動手段とが協働して前記垂直な軸芯回りで向き替え自在な一体のキャスターユニットを構成することを特徴としている。
【0012】
又請求項6の発明では、前記連動手段は、
前記支持軸部の軸芯である第1の軸芯を円弧中心とした第1の円弧面部を有し、かつ各前記スイングアームに固定されて前記第1の軸芯廻りでスイングアームと一体に傾動しうる傾動部材、
左右の一方側、他方側に、それぞれ前記第1の軸芯とは直交する向きの第2の軸芯を円弧中心とした一方、他方の第2の円弧面部を有する方向転換部材、
及び、一方の前記第1、第2の円弧面部間を継ぐ一方の紐状部と、他方の前記第1、第2の円弧面部間を継ぐ他方の紐状部とを有する紐状体を具え、
しかも、一方、他方の前記紐状部は、
前記第1、第2の軸芯と直交する向きのZ軸方向にのび、かつ第1の円弧面部と第2の円弧面部とに接する接線に沿ってのびる継ぎ部分と、
該継ぎ部分に連なり、かつ第1の円弧面部に巻き戻し自在に巻き付いて係止される巻付き部分と、
該継ぎ部分に連なり、かつ第2の円弧面部に沿って巻回する巻回部分とを含むとともに、
各前記巻回部分は、それぞれ各前記第2の円弧面部に巻き戻し自在に巻き付いて係止されることを特徴としている。
【0013】
又請求項7の発明では、前記連動手段は、前記方向転換部材を、Z軸方向かつ前記第1の軸芯から離れる向きに付勢するサスペンションを含むことを特徴としている。
【0014】
又請求項8の発明は多輪式車両であって、請求項1〜7の何れかに記載の車輪装置を、車両の前輪部、及び/又は後輪部に用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は叙上の如く、一端部が枢支されかつ他端部に車輪を枢着した傾動自在な一対のスイングアームと、連動手段とを用い、一方側、他方側のスイングアームの傾動動作を上下互い違いに連動させている。しかも一方側のスイングアームのアーム長さを、他方側のスイングアームのアーム長さと相違させ、これにより前記車輪を進行方向の前後に位置ズレ可能としている。
【0016】
従って、通常の走行状態においては、双方の車輪が同高さとなって共に接地させることができ、走行の安定性を高めうる。
【0017】
又進行時、車輪が前後に位置ズレするため、段差部を乗り上げる際の衝撃を緩和することができる。しかも前方側の車輪が段差を乗り上げる時、後方側の車輪が、段差と衝突するまでの間、路面と接地しうる。その後、後方側の車輪が段差を乗り上げる際には、先に乗り上げた前方側の車輪が段差上面に接地しうる。そのため、前記衝撃緩和と相俟って段差乗り越し時の安定性を高めることができる。
【0018】
又、双方のスイングアームが連動しているため、双方の車輪に常に等しい荷重を作用させることができる。そのため、段差乗り越し時の不安定な姿勢においても荷重バランスを保ち段差乗り越し時の安定性をさらに高めることができる。又、双方のスイングアームが連動しているため、前方側の車輪が段差を乗り上げる際に、後方側の車輪が下降して車体を持ち上げる。従って、その後に後方側の車輪が段差を乗り上げる際の車体の持ち上げ量を減じることができ、車体持ち上げの労力を減じて、段差乗り越し性をさらに向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車輪装置を用いた多輪式車両の一実施例を示す側面図である。
【図2】前記多輪式車両を前方から見た正面図である。
【図3】フレーム構造を略示する斜視図である。
【図4】車輪装置を拡大して示す斜視図である。
【図5】車輪装置の分解斜視図である。
【図6】(A)は連動手段を概念的に示す斜視図、(B)はその機能を略示する正面図である。
【図7】(A)〜(D)は、段差乗り越し時の車輪の動作を示す側面図である。
【図8】(A)〜(C)は方向転換部材の他の例を概念的に示す正面図、(D)は連動手段の他の例を概念的に示す正面図である。
【図9】後輪側のスイングアームをその連係とともに示す斜視図である。
【図10】多輪式車両の傾斜面における走行状態を示す正面図である。
【図11】従来の前輪構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は、本発明の車輪装置12を用いた多輪式車両1の側面図、図2は前方から見た車輪装置12の正面図であって、本例では、前記多輪式車両1が、前輪側及び後輪側の双方を2輪としたショッピングカートである場合が示される。
【0021】
図1、2において、前記多輪式車両1は、車両の骨格をなすフレーム2を具えるととも、本例ではその前輪部に、車輪5L、5Rを進行方向の前後に位置ズレさせた車輪装置12を採用している。本例のフレーム2は、図3に示すように、例えば2列で前後にのびる主杆部8Aと、この主杆部8Aから下方にのびる前後の支柱部8B、8Cと、前記主杆部8Aの後端部から左右両側に張り出してのびる横桟枠8Dを介して下方にのびる一対の側の支柱部8E、8Eとを有するフレーム本体8を具える。又前記フレーム本体8には、例えば各前記側の支柱部8Eから立ち上がる手押し用のハンドル軸9が取り付くとともに、主杆部8A上には、本例ではショッピング籠10を載置する載置部11が枠材11aによる枠組みによって形成される。なお前記載置部11に代えて、座席用のシートを形成することにより、前記多輪式車両1は、車椅子やベビーカ等として形成することもできる。
【0022】
次に、前記前の支柱部8Bの下端部に、車輪装置12が取り付けられる。この車輪装置12は、本例では、前記前の支柱部8Bの下端部に取り付く補助フレーム13と、前記補助フレーム13に支持されかつ同一軸芯3i上をのびる左右両側の支持軸部3Aと、各前記支持軸部3Aに、それぞれ一端部4aが枢支される一方側、他方側のスイングアーム4L、4Rと、この一方側、他方側のスイングアーム4L、4Rの各他端部4bに枢着される車輪5L、5Rと、前記一方側、他方側のスイングアーム4L、4Rの傾動動作を上下互い違いに連動させる連動手段6とを具える。特に本例では、前記車輪装置12が、垂直な軸芯J回りで首振り自在なキャスターユニットとして形成される好ましい場合が例示される。
【0023】
前記補助フレーム13は、本例では、前記前の支柱部8Bの中心孔8BHに内挿されることにより垂直な軸芯J回りで水平回動しうる支軸部13Aと、その下端部に一体固定される例えばブロック状の支持台部13Bとからなる。又前記支持台部13Bの側面には、同一軸芯3i上をのびる左右一対の支持軸部3A、3Aが両側に突設される。
【0024】
そしてこの支持軸部3Aには、それぞれスイングアーム4L、4Rの一端部4aが、前記軸芯3iである枢支点P1で枢支される。これにより各スイングアーム4L、4Rは、その他端部4b側を上下に傾動させることができる。本例では前記スイングアーム4L、4Rは、一端部4aを進行方向の前方側に向けて枢支され、従って、以後、前記一端部4aをスイングアーム4L、4Rの前端部4a、他端部4bを後端部4bと呼ぶ場合がある。
【0025】
次に、各前記スイングアーム4L、4Rは、前記支持軸部3Aに外挿保持される円筒状の枢支部4Aと、この枢支部4Aから後方にのびるアーム部4Bとを具える。前記枢支部4A内には、前記傾動を円滑に行うために、ベアリング軸受けなどの軸受け部材が内蔵される。又前記スイングアーム4L、4Rの各後端部4bには、枢着点P2で車輪5L、5Rを枢着する例えば軸状の枢着部4Cが突出している。このとき、一方側のスイングアーム4Lにおける前記枢支点P1と枢着点P2との間のアーム長さKLは、他方側のスイングアーム4Rにおける前記枢支点P1と枢着点P2との間のアーム長さKRと相違している。これにより、前記車輪5L、5Rを進行方向の前後に位置ズレさせている。本例では、KL>KRであり、一方側の車輪5Lが、他方側の車輪5Rよりも、進行方向後方側に位置ズレする場合が示される。
【0026】
次に、本例の連動手段6は、前記スイングアーム4L、4Rにそれぞれ固定される傾動部材17L、17Rと、前記補助フレーム13の支持台部13Bに支持される天秤状或いは滑車状の方向転換部材19と、この方向転換部材19を介して一方、他方の前記傾動部材17L、17R間を連動させる紐状体20とを具える。
【0027】
前記傾動部材17L、17Rは、前記支持軸部3Aの軸芯である第1の軸芯3iを円弧中心とした第1の円弧面部21を有する。そして、各スイングアーム4L、4Rに固定されることにより、前記傾動部材17L、17Rは、それぞれ、前記第1の軸芯3i廻りでスイングアーム4L、4Rと一体に傾動できる。本例では、前記傾動部材17L、17Rは、前記枢支部4Aの内端側に固定される板体からなり、その端面によって前記第1の円弧面部21を形成している。
【0028】
前記方向転換部材19は、図6(A)、(B)に略示するように、左右の一方側、他方側に、それぞれ前記第1の軸芯3iとは直交する向きの第2の軸芯18iを円弧中心とした一方、他方の互いに同径の第2の円弧面部26L、26Rを有する。本例では、前記方向転換部材19が、前記第2の軸芯18iを円弧中心とした円盤状をなす場合が示される。この場合、前記第2の軸芯18iの左右両側に、半円弧の第2の円弧面部26L、26Rが形成される。
【0029】
又前記方向転換部材19は、本例では、前記第2の軸芯18i廻りで回動自在であって、前記支持台部13Bにサスペンション24を介して支持されるホルダ18の保持軸16に枢着される。
【0030】
前記サスペンション24は、本例では、前記支持台部13Bに設けられかつ前記第1、第2の軸芯3i、18iと直交するZ軸方向にのびるガイド孔22内に摺動自在に内挿される摺動軸23と、この摺動軸23の上端に取り付く前記ホルダ18と、前記摺動軸23に外挿され前記ホルダ18をZ軸方向かつ前記第1の軸芯3iから離れる向きに付勢するサスペンションばね25とを具える。
【0031】
又前記紐状体20は、一方の前記第1、第2の円弧面部21L、26L間を継ぐ一方の紐状部20Lと、他方の前記第1、第2の円弧面部21R、26R間を継ぐ他方の紐状部20Rとを有する。
【0032】
このうち、一方の紐状部20Lは、前記Z軸方向にのびかつ前記第1の円弧面部21Lと第2の円弧面部26Lとに接する接線に沿ってのびる継ぎ部分30と、この継ぎ部分30に連なりかつ第1の円弧面部21Lに巻き戻し自在に巻き付いて係止される巻付き部分31と、前記継ぎ部分30に連なりかつ第2の円弧面部26Lに沿って巻回する巻回部分32とを含む。本例では、前記巻回部分32は、前記第2の円弧面部26Lに巻き戻し自在に巻き付いて係止される第2の巻付き部分32Aとして形成される。
【0033】
なお他方の紐状部20Rも同様であり、前記Z軸方向にのびかつ前記第1の円弧面部21Rと第2の円弧面部26Rとに接する接線に沿ってのびる継ぎ部分30と、この継ぎ部分30に連なりかつ第1の円弧面部21Rに巻き戻し自在に巻き付いて係止される巻付き部分31と、前記継ぎ部分30に連なりかつ第2の円弧面部26Rに沿って巻回する巻回部分32とを含み、本例では、前記巻回部分32は、前記第2の円弧面部26Rに巻き戻し自在に巻き付いて係止される第2の巻付き部分32Aとして形成される。
【0034】
前記紐状体20には耐久性、引張り強度、屈曲性に優れることが重要であり、そのために本例では紐状体20として、前記図4に示すようにローラチェーン33を採用している。この場合、前記ローラチェーン33では、前記第1の円弧面部21に沿う向きに屈曲可能な第1の屈曲部33Aと、前記第2の円弧面部26に沿う向きに屈曲可能な第2の屈曲部33Bとを具え、かつ前記第1、第2の屈曲部33A、33Bは、継ぎリンク33Cを用いて連結される。又前記第1、第2の円弧面部21、26には、前記ローラチェーン33と噛合するスプロケット状の溝が形成され、このスプロケットのピッチ円が前記第1、第2の円弧面部21、26を構成する。なおローラチェーン33として、周知の種々の構造のものが採用しうる。又前記紐状体20としては、ローラチェーン33以外に、Vベルト、丸ベルト、ワイヤー、ロープなども要求に応じて使用できる。
【0035】
然して、通常の走行状態においては、双方の車輪5L、5Rが略同高さとなって共に接地させることができ、安定した走行を行うことができる。しかも、本例では前記車輪装置12がキャスタユニットとして構成され、かつ前記軸芯Jが車輪5L、5Rの前方側に位置するため、車輪5L、5Rの向きを進行方向に自動調整することができ、直進安定性を向上しうる。
【0036】
又図7(A)、(B)に示すように、段差部Dを乗り上げる際には、進行方向前方側に位置ズレしている前方側の車輪5Rがまず段差部Dと衝突し、段差部Dから入力を受けて押し上げられる。このとき、前記図6(A)に示すように、スイングアーム4Rと傾動部材17Rとが、第1の軸芯3i廻りで一体に傾動(矢印j1)し、紐状部20Rが、第1の円弧面部21Rに巻き取られる向きに引っ張られる(矢印j2)。又方向転換部材19は、滑車状に傾動(矢印j3)し、紐状部20Lを、第2の円弧面部26Lに巻き取る向きに引っ張り上げる(矢印j4)。
【0037】
その結果、後方側の車輪5Lを、路面に向かって押し下げる向きに出力できる。このとき図7(B)、(C)に示すように、車輪5Rの押し上げ高さhに対して、前記アーム長さの比KL/KRに応じて定まる高さh0だけ、車体自体が持ち上がる。即ち、前記連動手段6が動滑車の如く機能し、前方側の車輪5Rが段差部Dを乗り上げる際に受ける衝撃力を減じて緩和することができる。
【0038】
しかも、前方側の車輪5Rが段差部Dを乗り上げる時、後方側の車輪5Lが、段差部Dと衝突するまでの間、路面との接地を維持する。その後、後方側の車輪5Lが段差を乗り上げる過渡状態においても、図7(D)に示すように、先に乗り上げた前方側の車輪5Rが段差上面に接地しうるため安定性を確保することができ、前記衝撃緩和と相俟って段差乗り越し時の安定性を高めることができる。
【0039】
又、双方のスイングアーム4L、4Rが連動しているため、双方の車輪5L、5Rに常に等しい荷重を作用させることができる。そのため、段差乗り越し時の不安定な姿勢においても、荷重バランスを安定して保つことができ、段差乗り越し時の安定性をさらに高めることができる。又図7(C)、(D)に示すように、後方側の車輪5Lが段差部Dを乗り上げる際には、車体自体がすでに高さh0だけ持ち上がっているため、以後の車体持ち上げの労力を減じることができ、段差乗り越し性をさらに向上させうる。
【0040】
なお前記アーム長さKL、KRの差(KL−KR)は、10mm以上、さらには20mm以上が好ましく、前記差(KL−KR)が10mmを下回る場合には、前記段差乗り越し性が充分に発揮されなくなる。逆に、前記差(KL−KR)が大きすぎると、通常走行においてバランスを損ねる恐れが生じ、そのため差(KL−KR)の上限は、200mm以下、さらには100mm以下、さらには50mm以下とするのが好ましい。
【0041】
又前記サスペンション24も、車輪5L、5Rに作用する衝撃力を緩和でき、段差乗り越し性の向上に貢献しうる。
【0042】
又本例では、一方側、他方側のスイングアーム4L、4Rのうちの少なくとも一方は、ワンウェイクラッチ(図示しない。)を介して車輪5L及び/又は5Rを前進方向のみ回転可能に枢着している。これにより、段差部Dを乗り越しきれずに途中で後戻りしてしまうのを防止できる。特に、進行方向の後方側の車輪5Lを、ワンウェイクラッチを介して枢着するのが、後戻り防止のために効果的である。
【0043】
なお、前記方向転換部材19としては、図8(A)に示すように、円盤体の上下を切除した略小判形状、図8(B)に示すように、円盤体の下部を切除した略半円形状、図8(C)に示すように、2つの第2の軸芯18iを有する略長円形状など、種々の形状のものが採用しうる。又方向転換部材19は、保持軸16で枢支することなくホルダ18に傾動不能に固定することもできる。かかる場合には、前記紐状体20を、前記第2の円弧面部26L、26R上で滑らせることとなる。又連動手段6としては、図8(D)に示すように、前記方向転換部材19に代え、保持軸16で傾動自在に枢支されかつ前記第2の円弧面部26L、26Rを有さない天秤棒状体34を使用することができ、この天秤棒状体34の両端部は、例えば前記紐状部20L、20Rの各上端部と連結される。なお図示しないが、連動手段6のさらに他の例として、前記紐状部20L、20Rに代えて連結軸を用い、この連結軸の上端部を前記天秤棒状体34の両端部と連結するとともに、連結軸の下端部を、前記スイングアーム4L、4Rの延長部分に連結するなど、種々の構造を採用することができる。
【0044】
次に、本例の多輪式車両1では、図1、3に示すように、前記後の支柱部8Cに、後輪用車輪35が支持される。具体的には、図9に概念的に示すように、前記後の支柱部8Cの下端部に、左右両側にのびる支持軸36が取り付くとともに、この支持軸36の両端部は前記側の支柱部8Eの下端部に支持される。又前記後の支柱部8Cと側の支柱部8Eとの間には、それぞれ、前記支持軸36に一端部37aが枢支されかつ他端部に後輪用車輪35が枢着される一方側、他方側の後輪用スイングアーム37L、37Rが上下に傾動自在に配される。
【0045】
この後輪用スイングアーム37L、37Rは、前記スイングアーム4L、4Rと同様、支持軸36に外挿保持される円筒状の枢支部37Aと、この枢支部37Aから後方にのびるアーム部37Bとを具えるとともに、各アーム部37Bの後端部には前記後輪用車輪35が枢着される。なお本例では、後輪用スイングアーム37L、37Rのアーム長さが互いに同一である点において、前記前輪用のスイングアーム4L、4Rと相違している。
【0046】
又前記後輪用スイングアーム37L、37Rも、前記連動手段6と略同構成の連動手段38により、その傾動動作が上下互い違いに連動される。即ち、前記連動手段38は、前記支持軸36の軸芯36iを円弧中心とした第1の円弧面部39を有しかつ各前記スイングアーム37L、37Rに固定されて前記軸芯36i廻りで傾動しうる傾動部材40、左右の一方側、他方側にそれぞれ前記軸芯36iとは直交する向きの軸芯41iを円弧中心とした一方、他方の第2の円弧面部42を有する方向転換部材47、及び一方の前記第1、第2の円弧面部39、42間を継ぐ一方の紐状部43Lと、他方の前記第1、第2の円弧面部39、42間を継ぐ他方の紐状部43Rとを有する紐状体43を具える。
【0047】
このように、傾動動作が上下互い違いに連動されたスイングアーム37L、37Rを用いて後輪用車輪35を取り付けることにより、図10に示すように、傾斜面S上を走行する場合にも、車体を傾斜させることなく垂直に保ちながら、しかも左右の接地圧を均等に保ちながら安定して走行することが可能となり、傾斜面Sでの横滑りや転倒を抑制し走行の安全性を高めることができる。
【0048】
なお本例の方向転換部材47は、前記方向転換部材19と同様、軸芯41iを円弧中心とした円盤状をなすが、サスペンションを介することなく、前記後の支柱部8Cに傾動自在に枢支される。しかも本例の連動手段38には、前記方向転換部材47を自在な傾動位置で固定するブレーキ手段44が付設されている。
【0049】
このブレーキ手段44は、前記方向転換部材47に一体傾動自在に取り付くブレーキロータ48と、前記ハンドル軸9に設けるブレーキレバー45(図1、2に示す。)によって作動し前記ブレーキロータ48を両側から押し付けるブレーキパッド46とを具える。このブレーキ手段44は、前記方向転換部材47の傾動を阻止し、例えば使用者が多輪式車両1に寄り掛かかった場合などにおいて車体が傾くのを防止しうる。
【0050】
本例では、前記車輪装置12が、車両の前輪部に採用される場合を例示したが、車両の後輪部に採用することもでき、さらには車両の前輪部及び後輪部の双方に採用することもできる。又車輪装置12としては、本例の如く、垂直な軸心J回りに首振り自在なキャスターユニットとして構成することができるが、前記軸芯J回りで首振りしないように構成することもできる。又車輪装置12は、補助フレーム13を用いることなく、フレーム2に前記支持軸部3A及び連動手段6を取り付けることもできる。
【0051】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【符号の説明】
【0052】
1 多輪式車両
2 フレーム
3A 支持軸部
3i 第1の軸芯
4a 一端部
4b 他端部
4L、4R スイングアーム
5L、5R 前輪用車輪
6 連動手段
12 車輪装置
13 補助フレーム
17L、17R 傾動部材
18i 第2の軸芯
20 紐状体
20L、20R 紐状部
21、21L、21R 第1の円弧面部
24 サスペンション
26、26L、26R 第2の円弧面部
30 継ぎ部分
31 巻付き部分
32 巻回部分
J 垂直な軸芯
KL、KR アーム長さ
P1 枢支点
P2 枢着点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一軸芯上をのびる左右両側の支持軸部と、
各前記支持軸部に、一端部が枢支点で枢支されかつ他端部側が上下に傾動自在な一方側、他方側のスイングアームと、
前記一方側、他方側のスイングアームの各前記他端部に、枢着点で枢着される車輪と、
前記一方側、他方側のスイングアームの傾動動作を上下互い違いに連動させる連動手段とを具えるとともに、
一方側のスイングアームにおける前記枢支点と枢着点との間のアーム長さを、他方側のスイングアームにおける前記枢支点と枢着点との間のアーム長さと相違させることにより、前記車輪を進行方向の前後に位置ズレさせたことを特徴とする車輪装置。
【請求項2】
前記一方側、他方側のスイングアームの少なくとも一方は、ワンウェイクラッチを介して前記車輪を前進方向のみ回転可能に枢着したことを特徴とする請求項1記載の車輪装置。
【請求項3】
前記車輪のうち、進行方向の後方側に位置ズレする車輪は、ワンウェイクラッチを介して枢着されることを特徴とする請求項2記載の車輪装置。
【請求項4】
前記一方側、他方側のスイングアームは、前記一端部を進行方向の前方側に向けて枢支されることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の車輪装置。
【請求項5】
車両のフレームに取り付できかつ垂直な軸芯回りで水平に回動可能な補助フレームを具えるとともに、この補助フレームに、前記左右両側の支持軸部と、前記スイングアームと、前記車輪と、前記連動手段とが取り付くことにより、該補助フレームと支持軸部とスイングアームと車輪と連動手段とが協働して前記垂直な軸芯回りで向き替え自在な一体のキャスターユニットを構成することを特徴とする請求項1〜4記載の車輪装置。
【請求項6】
前記連動手段は、
前記支持軸部の軸芯である第1の軸芯を円弧中心とした第1の円弧面部を有し、かつ各前記スイングアームに固定されて前記第1の軸芯廻りでスイングアームと一体に傾動しうる傾動部材、
左右の一方側、他方側に、それぞれ前記第1の軸芯とは直交する向きの第2の軸芯を円弧中心とした一方、他方の第2の円弧面部を有する方向転換部材、
及び、一方の前記第1、第2の円弧面部間を継ぐ一方の紐状部と、他方の前記第1、第2の円弧面部間を継ぐ他方の紐状部とを有する紐状体を具え、
しかも、一方、他方の前記紐状部は、
前記第1、第2の軸芯と直交する向きのZ軸方向にのび、かつ第1の円弧面部と第2の円弧面部とに接する接線に沿ってのびる継ぎ部分と、
該継ぎ部分に連なり、かつ第1の円弧面部に巻き戻し自在に巻き付いて係止される巻付き部分と、
該継ぎ部分に連なり、かつ第2の円弧面部に沿って巻回する巻回部分とを含むとともに、
各前記巻回部分は、それぞれ各前記第2の円弧面部に巻き戻し自在に巻き付いて係止されることを特徴とする請求項1〜5記載の車輪装置。
【請求項7】
前記連動手段は、前記方向転換部材を、Z軸方向かつ前記第1の軸芯から離れる向きに付勢するサスペンションを含むことを特徴とする請求項6記載の車輪装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の車輪装置を、車両の前輪部、及び/又は後輪部に用いたことを特徴とする多輪式車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−228980(P2012−228980A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99294(P2011−99294)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(595100705)
【Fターム(参考)】