説明

車輪踏面状態改善装置及び車輪踏面状態改善装置の制御方法

【課題】車輪踏面の状態を改善するための新たな装置等を提供すること。
【解決手段】車輪踏面状態改善装置1において、車輪踏面Tに摺接する摺接面側に研磨子18と電極部16とを有する摺接部10と、電極部16を通電する通電回路部20と、車輪踏面Tの汚損状態を判定する判定部27と、摺接部10を車輪踏面Tに押し付けるアクチュエータ30と、制御部40とが具備されている。そして、制御部40は、摺接部10が車輪踏面Tに摺接した際に判定部27により判定された汚損状態に基づいて、摺接部10の車輪踏面Tへの押し付け力を増加させて、研磨子18による車輪踏面Tの研磨を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪踏面状態改善装置及び車輪踏面状態改善装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、列車運行の保安装置として、軌道回路を利用して列車の在線を検知する列車在線検知方法が実用化されている。この列車在線検知方法は、軌道回路内に車両が進入した際に、当該車両の車輪及び車軸でなる輪軸によって左右のレール間が短絡されることにより、軌道回路の送端側から送出された電圧の軌道回路の受信側での受電レベルが低下することを利用して、軌道回路内に車両が在線していることを検知する。
【0003】
従って、上述した列車在線検知方法により軌道回路内の列車を検知するには、輪軸により左右のレール間を確実に短絡させる必要がある。ところが、車輪踏面及びレール頭頂面の表面状態等によっては、左右のレール間の短絡が不十分となり、列車の在線を検知できない場合がある。その理由の1つとして、車輪踏面やレール頭頂面に形成された粉塵、油、錆等の絶縁性の被膜により、車輪踏面とレール間の電気的な接触抵抗が増大し、短絡不良が発生する事象が挙げられる。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1には、鉄道用車両台車の前位輪軸及び後位輪軸それぞれの車軸の左端部間及び右端部間に所定の電圧を印加することによって、車輪踏面とレール間の接触抵抗を低減させる短絡支援装置が開示されている。また、短絡不良の改善という目的とは異なるが、本願発明に類似する技術として、特許文献2に開示されているような車輪踏面清掃装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−224075号公報
【特許文献2】特開2001−180487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車輪踏面に形成された絶縁性の被膜については、車輪踏面に高い電圧を印加することにより被膜を破壊する電気的対策(いわゆる絶縁破壊)が有効である。しかし、短絡不良対策として電気的対策では改善しない場合がある。車輪踏面に異物が付着する場合が典型例である。例えば、山間部等では落ち葉が問題となる。気温との温度差に伴って結露したレール上に落下した落ち葉はレール上に貼り付く。そのレール上を車重のかかった車輪が通過することでレール上だけでなく車輪踏面にも落ち葉が貼り付く。そして、車輪回転による繰り返しの加圧によって落ち葉の繊維が車輪踏面に食い込んでいく。車輪踏面に食い込んだ落ち葉による短絡不良を電気的対策によって改善することは非常に困難である。
【0007】
また、従来の車輪踏面清掃装置は、空転滑走の防止のための車輪踏面の研磨に主眼が置かれた装置であるため、従来の車輪踏面清掃装置を短絡不良の改善のためにそのまま適用することはできない。例えば、ブレーキ時のみ研磨子を車輪踏面に当接させる車輪踏面清掃装置を新幹線のように駅間距離が長い列車に適用すると、長い間車輪踏面の清掃がほとんど行われないことになり、車輪踏面清掃による短絡不良の改善が見込めない。また、研磨子を常時車輪踏面に当接させる車輪踏面清掃装置を流用すると、走行抵抗が増大するだけでなく、研磨子の摩耗が著しくなり、研磨子を頻繁に交換する必要が生ずる。加えて、車輪踏面の劣化も早くなるため、膨大な手間と時間を要する車輪の交換頻度も上昇する。
【0008】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、車輪踏面状態を改善するための新たな装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の発明は、
車輪踏面(例えば、図1の車輪踏面T)に摺接する摺接面側に研磨子(例えば、図3の研磨子18)と電極部(例えば、図3の電極部16)とを有する摺接部(例えば、図3の摺接部10)と、
前記電極部に通電する通電部(例えば、図1の通電部21)と、
前記摺接部を前記車輪踏面に押し付ける押し付け機構部(例えば、図1のアクチュエータ30)と、
前記摺接部が前記車輪踏面に摺接した際の前記電極部に対し流入流出する電流、前記電極部に印加される電圧、前記電流及び電圧から求められる電気抵抗、及び、前記通電部の制御モードのうちの何れかに基づいて前記車輪踏面の汚損状態を判定する判定部(例えば、図1の判定部27)と、
前記車輪踏面の汚損状態に基づいて、前記押し付け機構部による押し付けを制御する押し付け制御を行う押し付け制御部(例えば、図1の制御部40)と、
を備えた車輪踏面状態改善装置(例えば、図1の車輪踏面状態改善装置1)である。
【0010】
また、他の発明として、
車輪踏面に摺接する摺接面側に研磨子と電極部とを有する摺接部と、前記電極部に通電する通電部と、前記摺接部を前記車輪踏面に押し付ける押し付け機構部とを備えた車輪踏面状態改善装置の制御方法であって、
前記摺接部が前記車輪踏面に摺接した際の前記電極部に対し流入流出する電流、前記電極部に印加される電圧、前記電流及び電圧から求められる電気抵抗、及び、前記通電部の制御モードのうちの何れかに基づいて前記車輪踏面の汚損状態を判定する汚損状態判定ステップ(例えば、図10のステップA19)と、
前記車輪踏面の汚損状態に基づいて、前記押し付け機構部による押し付けを制御する押し付け制御ステップ(例えば、図10のステップA21)と、
を含む制御方法を構成してもよい。
【0011】
この第1の発明等によれば、摺接部が車輪踏面に摺接した際の電極部に対し流入流出する電流、電極部に印加される電圧、その電流及び電圧から求められる電気抵抗、及び、通電部の制御モードのうちの何れかに基づいて車輪踏面の汚損状態が判定される。そして、車輪踏面の汚損状態に基づいて、押し付け機構部による押し付けが制御される。例えば、車輪踏面の汚損状態が悪いと判定された場合にのみ、押し付け機構部による押し付け力を上げるように制御することで、研磨子による車輪踏面の研磨を必要最小限に抑えることができるようになる。
【0012】
また、第2の発明として、第1の発明の車輪踏面状態改善装置であって、
前記摺接部は、前記電極部を前記摺接面側の車輪幅方向に複数配置して有し(例えば、図2の電極部16)、
前記複数の電極部それぞれに通電する前記通電部を備えた、
車輪踏面状態改善装置を構成してもよい。
【0013】
この第2の発明によれば、電極部が車輪幅方向に複数配置されているため、車輪の回転と相俟って、満遍なく車輪踏面の汚損状態を検出することが可能となる。また、例えば、各電極部の電極子の車輪踏面との摺接位置が重ならない範囲において、電極部の数を多くし、車輪踏面の車輪幅方向に電極部を隙間無く配置することとしてもよい。その場合には、汚損状態の検出が一層確実になる。
【0014】
また、第3の発明として、第1又は第2の発明の車輪踏面状態改善装置であって、
前記電極部は、同一の通電回路に係る電極子(例えば、図2の電極子12)を車輪周方向に並べて配置されてなる車輪踏面状態改善装置を構成してもよい。
【0015】
この第3の発明によれば、同一の通電回路に係る電極子が車輪周方向に並べて配置されるため、車輪回転方向である車輪周方向に対して電圧が印加されることになる。すなわち、レール頭頂面に接触する範囲を前後に挟むようにして電圧が印加されるため、実際にレール上を走行した場合のレールとの接触状態に近く、汚損状態を適切に検出可能ならしめることができる。
【0016】
また、第4の発明として、第1又は第2の発明の車両踏面状態改善装置であって、
前記摺接部は、車輪の前後に設けられる両抱き式の機構(例えば、図11の両抱き式の機構)でなり、
前記電極部は、同一の通電回路に係る電極子が前記前後の摺接部に配置され、
前記通電部は、前記前後の摺接部の同一の通電回路に係る電極子間に通電する、
車輪踏面状態改善装置を構成してもよい。
【0017】
この第4の発明によれば、電極子が車輪の前後の摺接部に分かれて設けられるため、電極子間の距離が長くなり、電極子間の絶縁確保の点で有利である。
【0018】
また、第5の発明として、第1〜第4の何れかの発明の車輪踏面状態改善装置であって、
前記摺接部は、前記押し付け制御部による押し付け制御の際に弾性変形して、前記電極部が前記車輪踏面に接触するよう前記電極部を押圧する弾性部(例えば、図3のバネ13)を有し、
前記押し付け制御部は、前記押し付け制御として、前記研磨子を前記車輪踏面に押し付けて前記車輪踏面の汚損状態を改善させる本押し付け制御(例えば、図10のステップA21、図5)と、前記本押し付け制御の前段階として、前記判定部に前記車輪踏面の汚損状態を判定させるために、前記本押し付け制御時よりも弱い押し付け力で前記摺接部を前記車輪踏面に摺接させる予備押し付け制御(例えば、図10のステップA13、図4)とを行う、
車輪踏面状態改善装置を構成してもよい。
【0019】
この第5の発明によれば、研磨子を車輪踏面に押し付けて車輪踏面の汚損状態を改善させる本押し付け制御と、本押し付け制御の前段階として、車輪踏面の汚損状態を判定させるために、本押し付け制御時よりも弱い押し付け力で摺接部を車輪踏面に摺接させる予備押し付け制御とが行われる。この際、摺接部は、弾性部の弾性変形によって、車輪踏面に接触するよう電極部を押圧する。その結果、車輪踏面の状態の把握と状態の改善とを分離して管理可能になる。
【0020】
また、第6の発明として、第5の発明の車輪踏面状態改善装置であって、
前記押し付け制御部は、前記予備押し付け制御の際に前記判定部により判定された前記車輪踏面の汚損状態に基づいて前記本押し付け制御を行うか否かを判定し、肯定判定した場合に前記本押し付け制御を行う(例えば、図10のステップA19;Yes→A21)車輪踏面状態改善装置を構成してもよい。
【0021】
この第6の発明によれば、予備押し付け制御の際に前記判定部により判定された車輪踏面の汚損状態に基づいて本押し付け制御を行うか否かが判定される。そして、肯定判定された場合に本押し付け制御が行われる。最初に予備押し付け制御を行って車輪踏面の汚損状態を検出し、汚損状態が悪い場合に、押し付け力を強くして本押し付け制御を行うことで、研磨子及び車輪踏面が必要以上に摩耗することを防止しつつ、車輪踏面の状態を適切に改善することが可能となり、保守の面で有利である。
【0022】
また、第7の発明として、第5又は第6の発明の車輪踏面状態改善装置であって、
前記押し付け制御部は、前記本押し付け制御の際に前記判定部により判定された汚損状態に基づいて当該本押し付け制御の終了を制御する(例えば、図10のステップA27;Yes→A31;Yes→A33)車輪踏面状態改善装置を構成してもよい。
【0023】
この第7の発明によれば、押し付け制御部により、本押し付け制御中に検出された汚損状態に基づいて当該本押し付け制御の終了が制御される。本押し付け制御によって車輪踏面の汚損状態が改善された場合には、本押し付け制御を終了することで、研磨子及び車輪踏面の摩耗を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】車輪踏面状態改善装置の概略構成を説明するための図。
【図2】摺接部の摺接面を示す図。
【図3】摺接部の断面図。
【図4】予備押し付け制御中における摺接部の断面図。
【図5】本押し付け制御中における摺接部の断面図。
【図6】記憶部に格納されたデータの一例を示す図。
【図7】予備押し付け時間間隔データのデータ構成の一例を示す図。
【図8】車輪踏面の一部に落ち葉が付着している場合の電気抵抗の時間変化を示す図。
【図9】車輪踏面の全体に錆が付着している場合の電気抵抗の時間変化を示す図。
【図10】処理の流れを示すフローチャート。
【図11】両抱き式の機構の一例を示す図。
【図12】変形例における摺接部の摺接面を示す図。
【図13】変形例における電極部の構成を示す図。
【図14】変形例における予備押し付け時間間隔データの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明に好適な実施形態の一例を説明する。但し、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるわけではない。
【0026】
1.構成
図1は、本実施形態における車輪踏面状態改善装置1の概略構成を説明するための図である。車輪踏面状態改善装置1は、車輪踏面Tに摺接する摺接面側に研磨子18(18a,18b)及び電極子12(12a,12b)を有する摺接部10と、電極子12(12a,12b)間を通電する通電回路部20(20−1,20−2,20−3)と、摺接部10を車輪踏面Tに押し付ける押し付け機構部であるアクチュエータ30(30−1,30−2,30−3)と、制御部40とを備えて構成される。尚、本実施形態における車輪踏面状態改善装置1は通電回路部20を3つ有することとして説明するが、図1では、第1の通電回路部20−1に係る配線及び電極子12のみを図示している。また、通電回路部20それぞれが車輪踏面Tの汚損状態を判定する判定部27を有するように図示及び説明するが、制御部40が判定部27を有するように構成してもよいし、通電回路部20とは独立した回路部として構成することとしてもよいことは勿論である。
【0027】
図2は、摺接部10を摺接面側から見た図であり、図3は、図2のA−A断面図である。摺接部10は、摺接部本体11と、車輪幅方向に沿って設けられた3つの電極部16と、電極部16を車輪周方向に沿って挟むように上方近傍位置及び下方近傍位置に設けられた一対の研磨子18(18a,18b)とを備えて構成される。
【0028】
電極部16は、ブラシ等で構成された一対の電極子12と、バネ13と、絶縁部14とを有する。具体的な配置構成を説明する。摺接部本体11の摺接面側の車輪周方向中央部には、電極部16に嵌め込まれる凹部15が、車輪幅方向に沿って3つ形成されている。そして、それぞれの凹部15に、ゴム等の絶縁材料で形成された絶縁部14が嵌め込まれて接着される。
【0029】
凹部15に嵌め込まれた絶縁部14は、前面(摺接側の外面)が摺接部本体11の前面(摺接側の外面)と同じ面、或いは凹部15内に位置する寸法形状に形成されている。また、絶縁部14には、電極子12を挿抜可能な2つの電極子挿入用凹部19a,19bが車輪周方向に沿って設けられており、電極子12同士及び電極子12と摺接部本体11間を電気的に絶縁した状態で電極子12を保持する。
【0030】
電極子挿入用凹部19a,19bには、弾性部であるバネ13を介して電極子12が挿入され、バネ13によって電極子12の前端部が、車輪踏面Tとの接触時に車輪踏面T側に圧接するように付勢される。尚、電極子挿入用凹部19a,19b内の滑りを向上させるために、電極子挿入用凹部19a,19b内に樹脂製の筒体を挿入・接着し、その筒体内に電極子12を挿入するようにしてもよい。
【0031】
また、摺接部10が車輪踏面Tに接触していない自然状態において、電極子12の前端が摺接部本体11の前面(摺接側の外面)より突出する長さが、研磨子18の前端が突出する長さよりも十分に長くなるように、電極子12の寸法形状が規定されている。これは、後述する予備押し付け制御においては電極子12を車輪踏面Tに接触させるが、研磨子18については車輪踏面Tに接触させないための構成である。
【0032】
また、1つの絶縁部14の電極子挿入用凹部19a,19bに挿入される一対の電極子12は、対応する1つの通電回路部20と配線によって接続され、この一対の電極子12と通電回路部20とで1つの電気回路が構成される。尚、電気配線の図示を省略したが、通電部21からの配線は摺接部本体11の背面側から摺接部本体11を貫通し、凹部15及び電極子挿入用凹部19a,19bを通って電極子12に接続されている。
【0033】
電極部16が車輪幅方向に複数配置されることで、車輪の回転と相俟って、車輪踏面Tの汚損状態を満遍なく検出可能となる。
【0034】
研磨子18は、車輪踏面Tを研磨する研磨材であり、鋳鉄や焼結合金等の公知の材料によって形成されている。摺接部本体11の摺接面側において、車輪幅方向に並んで設けられた3つの凹部15の全幅方向と同じ又はそれよりも長い長さで、凹部15を挟むようにして凹部17a,17bが設けられている。そして、各凹部17a,17bに、研磨子18a,18bが嵌合・接着される。また、研磨子18の奥行き方向の長さは凹部17a,17bよりも長く、凹部17a,17bに嵌合された研磨子18は、摺接部本体11の摺接面より突出するよう構成されている。
【0035】
摺接部本体11は、車輪踏面形状に適合するよう、摺接面が弓状に湾曲した形状を有しており、耐熱性、耐摩耗性を考慮して、例えばクロム、ニッケル等の金属を合成した合成鋳鉄によって構成されている。
【0036】
本実施形態では、制御部40は、研磨子18を車輪踏面Tに押し付けて車輪踏面の汚損状態を改善させる本押し付け制御と、本押し付け制御の前段階として、汚損状態の改善目的ではなく、車輪踏面Tの汚損状態の検出のために、本押し付け制御時よりも弱い押し付け力で電極子12を車輪踏面Tに摺接させる予備押し付け制御とを行う。
【0037】
図4は、制御部40により予備押し付け制御が行われている状態の摺接部10の様子を示す図であり、摺接部10についてはA−A断面を示している。予備押し付け制御中は、制御部40によるアクチュエータ30の制御によって、電極子12(12a,12b)を車輪踏面Tに接触させるとともに、研磨子18(18a,18b)が車輪踏面Tに接触しないように調整される。
【0038】
図5は、制御部40により本押し付け制御が行われている状態の摺接部10の様子を示す図であり、摺接部10についてはA−A断面を示している。本押し付け制御中は、制御部40によるアクチュエータ30の制御によって、予備押し付け制御時よりも摺接部10が車輪踏面T側に押し出され、研磨子18(18a,18b)による車輪踏面Tの研磨に十分な圧力が加えられる。この間は、電極子12(12a,12b)及び研磨子18(18a,18b)が車輪踏面Tに摺接した状態となる。
【0039】
通電回路部20(20−1,20−2,20−3)は、電極部16の各電極子12間に電力を印加するための通電回路であり、通電部21と、電流検出部23と、電圧検出部25と、判定部27とを備えて構成される。
【0040】
通電部21は、予備押し付け制御又は本押し付け制御の際に制御部40の制御信号に応じて電極部16の電極子12間に電力を印加する電力供給装置であり、現在動作中の制御モードを判定部27に出力する。
【0041】
一般的に電源装置等の電力供給装置には、定電圧モード(CVモード)と定電流モード(CCモード)との2種類のモードを自動的に切り替える装置が内蔵されている。通電する回路の抵抗が大きい場合には定電圧モードで動作し、抵抗が小さい場合には定電流モードに切り替わる。具体的には、車輪踏面Tが汚損していない場合には、通電部21、電極子12及び車輪踏面Tでなる閉回路の電気抵抗Rは極めて小さい。この場合に定電圧モードで動作すると、過大な電流が流れるため、通電部21は、定電流モードに自動的に切り替える。一方、車輪踏面Tが汚損することで閉回路の電気抵抗が大きくなると、通電部21は、制御モードを定電圧モードに切り替えて動作する。
【0042】
電流検出部23は、通電部21、電極子12及び車輪踏面Tでなる閉回路に流れる通電電流Iを検出する電流検出器であり、検出した通電電流Iを判定部27に出力する。
【0043】
電圧検出部25は、電極子(12a,12b)間の電圧Vを検出する電圧検出器であり、検出した印加電圧Vを判定部27に出力する。
【0044】
判定部27は、電圧検出部25により検出された電圧V、電流検出部23により検出された通電電流I、電圧V及び通電電流Iから導かれる電気抵抗R、及び、通電部21の制御モードのうちの何れかに基づいて車輪踏面Tの汚損状態を判定する判定器であり、制御部40の制御信号に応じて判定結果を制御部40に出力する。
【0045】
本実施形態では、判定部27が、電気抵抗Rを判定基準として車輪踏面Tの汚損状態を判定する場合を例に挙げて説明する。例えば、判定部27は、電気抵抗Rが所定の閾値を超過している場合に、車輪踏面Tの状態を「汚損あり」と判定する。
【0046】
アクチュエータ30(30−1,30−2,30−3)は、制御部40からのアクチュエータ制御信号に従って、車輪径に応じて押し出し量及び押し出し圧を可変して摺接部10を車輪踏面Tに向けて押し出す押し出し機構部であり、空気式、油圧式、電磁式等の公知の駆動装置を用いて構成される。車輪幅方向に沿って形成された複数の電極部16の押し出し量及び押し出し圧を調整するように、各電極部16それぞれに対応するアクチュエータ30が設けられている。
【0047】
制御部40は、車輪踏面状態改善装置1を統括的に制御する制御装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやタイマー、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶部50、外部との信号のやりとりをする入出力部60を備え、制御基板等として構成される。
【0048】
また、制御部40は、運転台等から列車の速度信号及び現在時刻を示す時刻信号を入力し、所定条件を満たした場合に予備押し付け制御を行うよう、予備押し付け制御の実行制御を行う。そして、予備押し付け制御中、制御部40は、通電回路部20の判定部27から出力された判定結果に基づいて本押し付け制御を実行する。また、制御部40は、同じく判定部27から出力された判定結果に基づいて、本押し付け制御を終了する。制御部40は、予備押し付け制御及び本押し付け制御それぞれの実行をアクチュエータ30の駆動制御によって行う。
【0049】
2.データ構成
図6は、記憶部50に格納されたデータ構成の一例を示す図である。記憶部50には、予備押し付け時間間隔データ51と、予備押し付け終了条件52と、本押し付け開始条件53と、本押し付け終了条件54と、押し付けモード55と、判定結果56と、車輪径57とが記憶されている。
【0050】
図7は、予備押し付け時間間隔データ51のデータ構成の一例を示す図である。予備押し付け時間間隔データ51には、走行線区がキロ程を用いて複数の区間511に分割され、各区間ごとに、予備押し付け制御を行う時間間隔513が定められている。例えば、キロ程が「100.0km〜150.0km」の区間では、予備押し付け時間間隔が「4分」に定められている。
【0051】
例えば、山間部では、気温とレールとの温度差によって発生した結露によって落ち葉がレール頭頂面に付着する。その落ち葉を車輪が踏むことにより、車輪踏面にも落ち葉が付着し、さらに車重圧力が車輪回転毎に加わって繊維質の落ち葉が踏面に食い込む。短絡不良が発生する大きな要因の1つに、こういった車輪踏面への異物の付着がある。このように山間部では落ち葉の少ない都市部に比べ、車輪踏面が汚損する可能性が高いため、車輪踏面の状態チェックの頻度及び状態改善の頻度を高く設定すべく、予備押し付け時間間隔が走行区間それぞれに応じて設定されている。
【0052】
また、列車の運行本数が少ない線区では、多い線区に比べて、降雨や降雪によってレール頭頂面に発生する錆の量が増加すると考えられ、車輪踏面に転移する可能性が高い。そのため、各線区毎の列車の運転密度に応じて予備押し付け時間間隔を設定するとしてもよい。
【0053】
予備押し付け終了条件52は、予備押し付け制御を終了するための条件である。例えば、予備押し付け制御を開始してから一定時間内として定められている。制御部40は、この一定期間内に各通電回路部20(20−1,20−2,20−3)の判定部27から出力される判定結果に基づいて、本押し付け制御を行うか否かを決定する。一定時間は、例えば、車輪がn回転する時間(=n×車輪径×π/速度)とすることができる。その間に判定部27からの判定結果を読み取って本押し付け制御を行うか否かを決定することになる。本押し付け制御を実行するための条件は、本押し付け開始条件53に定められている。尚、予備押し付け終了条件52を、上記のような時間定義とするのではなく、車輪n回転分の長さといった距離を用いて定義してもよい。
【0054】
本押し付け開始条件53は、予備押し付け制御を行った結果、判定部27から出力される判定結果に基づいて、必要であれば本押し付け制御を開始するための条件である。例えば、(1)予備押し付け制御中に通電回路部20(20−1,20−2,20−3)の判定部27から出力される判定結果が1回でも「汚損あり」となること、(2)1回の予備押し付け制御中に判定部27から送られている判定結果のうち、判定結果が「汚損あり」となった割合が所定の閾値を超えること、(3)1回の予備押し付け制御中に判定部27から送られている判定結果のうち、「汚損あり」の判定結果が一定数連続すること、などが本押し付け開始条件として定められている。但し、(1)の条件を適用した場合や、(2)の条件において割合の閾値を低く設定した場合などには、ノイズを拾い易く、本押し付け制御に移行し易くなるため、条件の設定には十分な配慮が必要である。
【0055】
本押し付け終了条件54は、押し付け制御を終了するための条件である。例えば、本押し付け制御の開始後、通電回路部20(20−1,20−2,20−3)の判定部27から出力される判定結果が最後に「汚損あり」となってから車輪が規定回転数(例えば3回)回転する間に判定結果が「汚損あり」とならない場合に、押し付け制御を終了するものとして定められている。
【0056】
より具体的には、以下の式(1)が成立した時刻に、押し付け制御を終了する。
(現在時刻−判定結果が最後に「汚損あり」となった時刻)
> (車輪径×π×規定回転数)/速度 ・・・(1)
尚、現在時刻及び速度は、制御部40が運転台から入力する時刻信号及び速度信号で随時取得する。また、(1)式では速度が一定の場合の例を示したが、実際には速度は一定ではないため、列車の走行距離を速度の時間積分として算出し、算出した走行距離に基づいて押し付け制御の終了を判定することにしてもよい。
【0057】
押し付けモード55は、現在設定されている押し付けのモードであり、予備押し付け中である場合は「予備押し付け」、本押し付け中である場合は「本押し付け」、それ以外の場合には「NULL」が記憶される。
【0058】
判定結果56は、各通電回路部20の判定部27から出力された車輪踏面Tの汚損状態の判定結果である。
【0059】
車輪径57は、列車の車輪の直径であり、車両検査等で測量された最新の直径が格納される。
【0060】
図8は、車輪踏面Tの一部に落ち葉などが付着している場合に、予備押し付け制御及び本押し付け制御を行った場合の電気抵抗Rの時間変化の一例を示す図である。同図において、横軸は時間t、縦軸は電気抵抗Rを示している。車輪踏面Tの落ち葉が付着している部分において電気抵抗Rが極端に大きくなり、パルス形状を示す。
【0061】
先ず、時刻T1において予備押し付け制御を開始する。その後、予備押し付け制御が終了する以前の時刻T2において、電気抵抗Rが閾値Rθを超えると、判定部27から「汚損あり」が制御部40に入力される。例えば、本押し付け開始条件53が、予備押し付け制御中に判定結果が1回でも「汚損あり」となることとして定められている場合は、時刻T2において本押し付け制御が開始される。
【0062】
本押し付け制御を開始すると、摺接部10の研磨子18によって車輪踏面Tが研磨され、車輪踏面Tに付着している落ち葉が次第に除去されていくことから、電気抵抗Rのピークは次第に低くなっていく。そして、電気抵抗Rが最後に閾値Rθを超過した時刻T3以降、判定部27から「汚損あり」を入力せずに本押し付け終了条件54が成立した時刻T4で押し付け制御を終了する。
【0063】
図9は、車輪踏面Tの全体に亘って錆などが付着している場合に、予備押し付け制御及び本押し付け制御を行った場合の電気抵抗Rの時間変化の一例を示す図である。同図において、横軸は時間t、縦軸は電気抵抗Rを示している。車輪踏面Tの全体に亘って錆が付着していることから、電気抵抗Rは車輪踏面全周に亘って大きい。
【0064】
先ず、時刻T5において予備押し付け制御を開始する。すると、既に電気抵抗Rが閾値Rθを超過しているため、すぐに本押し付け制御へと移行する。本押し付け制御を開始すると、摺接部10の研磨子18によって車輪踏面Tが研磨され、車輪踏面Tに付着している錆は次第に除去されていき、電気抵抗Rは徐々に減少していく。そして、電気抵抗Rが最後に閾値Rθを超過した時刻T6以降、判定部27から「汚損あり」入力せずに本押し付け終了条件54が成立した時刻T7で押し付け制御を終了する。
【0065】
3.処理の流れ
図10は、車輪踏面状態改善装置において、列車走行中に制御部40が行う処理の流れを示すフローチャートである。
電源が投入されると、制御部40は、最初に初期設定を行う(ステップA1)。具体的には、押し付けモード55を「NULL」として記憶部50に記憶させる。また、予備押し付け時間間隔を所定の時間間隔(例えば5分)に設定したり、列車の車輪径57を設定したりする。
【0066】
その後、制御部40は、運転台から速度信号及び時刻信号を入力する(ステップA3)。そして、制御部40は、入力した速度信号及び時刻信号に基づいて、走行中のキロ程511を算出する(ステップA5)。このキロ程算出は、速度信号及び時刻信号に基づいて行うが、運転台等からキロ程そのものを入力することとしてもよい。
【0067】
次いで、制御部40は、記憶部50の予備押し付け時間間隔データ51を参照し、算出したキロ程511に対応する予備押し付け時間間隔513を読み出して設定する(ステップA7)。そして、制御部40は、設定した予備押し付け時間間隔513に従って、次回の予備押し付け時刻を判定する(ステップA8)。
【0068】
その後、制御部40は、予備押し付け時刻になったか否かを判定し(ステップA9)、予備押し付け時刻であると判定した場合は(ステップA9;Yes)、記憶部50に記憶されている押し付けモード55が「本押し付け」であるか否かを判定する(ステップA11)。そして、「本押し付け」であると判定した場合は(ステップA11;Yes)、ステップA29へと処理を移行する。
【0069】
また、押し付けモード55が「本押し付け」ではないと判定した場合は(ステップA11;No)、制御部40は、次の処理を行う(ステップA13)。すなわち、記憶部50の押し付けモード55を「予備押し付け」に設定するとともに、アクチュエータ30に弱押し付け指令を与える。また、通電部21に通電指令を与える。
【0070】
一方、ステップA9において予備押し付け時刻ではないと判定した場合は(ステップA9;No)、制御部40は、記憶部50に記憶されている押し付けモード55が「予備押し付け」であるか否かを判定する(ステップA15)。そして、「予備押し付け」であると判定した場合は(ステップA15;Yes)、制御部40は、通電回路部20の判定部27から入力された判定結果56を記憶部50に記憶させる(ステップA17)。
【0071】
その後、制御部40は、記憶部50に記憶されている判定結果56に基づいて、本押し付け開始条件53が成立したか否かを判定する(ステップA19)。そして、本押し付け開始条件53が成立したと判定した場合は(ステップA19;Yes)、制御部40は、次の処理を行う(ステップA21)。すなわち、記憶部50の押し付けモード55を「本押し付け」に設定するとともに、アクチュエータ30に強押し付け指令を与える。
【0072】
また、ステップA19において本押し付け開始条件53が成立しなかったと判定した場合は(ステップA19;No)、制御部40は、記憶部50に記憶されている判定結果56に基づいて、予備押し付け終了条件52が成立したか否かを判定する(ステップA23)。そして、予備押し付け終了条件52が成立したと判定した場合は(ステップA23;Yes)、制御部40は、次の処理を行う(ステップA25)。すなわち、記憶部50の押し付けモード55を「NULL」に設定するとともに、アクチュエータ30に対して押し付けを止める指令を与える。また、通電部21に対して通電を停止する指令を与える。
【0073】
一方、ステップA15において押し付けモード55が「予備押し付け」ではないと判定した場合は(ステップA15;No)、制御部40は、押し付けモード55が「本押し付け」であるか否かを判定する(ステップA27)。そして、「本押し付け」であると判定した場合は(ステップA27;Yes)、制御部40は、通電回路部20の判定部27から入力された判定結果56を記憶部50に記憶させる(ステップA29)。
【0074】
次いで、制御部40は、記憶部50に記憶されている判定結果56に基づいて、本押し付け終了条件54が成立したか否かを判定する(ステップA31)。そして、本押し付け終了条件54が成立したと判定した場合は(ステップA31;Yes)、制御部40は、次の処理を行う(ステップA33)。すなわち、記憶部50の押し付けモード55を「NULL」に設定するとともに、アクチュエータ30に対して押し付けを止める指令を与える。また、通電部21に対して通電を停止する指令を与える。
【0075】
ステップA13、A21、A25、A33の何れかの処理を行った後、制御部40は、処理を終了するか否かを判定し(ステップA35)、終了しないと判定した場合は(ステップA35;No)、ステップA3に戻る。また、終了すると判定した場合は(ステップA35;Yes)、制御部40は、処理を終了する。尚、明示的に終了条件がなく無限ループ状態とし、電源切断により処理を強制終了することにしてもよい。
【0076】
4.作用効果
車輪踏面状態改善装置1において、車輪踏面Tに摺接する摺接面側に研磨子18と電極部16とを有する摺接部10と、電極部16を通電する通電回路部20と、車輪踏面Tの汚損状態を判定する判定部27と、摺接部10を車輪踏面Tに押し付けるアクチュエータ30と、制御部40とが具備されている。そして、制御部40は、摺接部10が車輪踏面Tに摺接した際に判定部27により判定された汚損状態に基づいて、摺接部10の車輪踏面Tへの押し付け力を増加させて、研磨子18による車輪踏面Tの研磨を行わせる。
【0077】
具体的には、制御部40は、最初に研磨子18を車輪踏面Tに接触させずに、電極部16の電極子12を車輪踏面Tに接触させる予備押し付け制御を行う。この予備押し付け制御中に判定部27により車輪踏面Tの汚損ありと判定された場合に、制御部40は、研磨子18を車輪踏面Tにしっかりと接触させて研磨させる本押し付け制御を行う。そして、制御部40は、研磨子18による研磨によって車輪踏面Tの汚損状態が改善された場合に、押し付け制御を終了する。
【0078】
車輪踏面Tの汚損状態が悪い場合に、摺接部10を車輪踏面Tに押し付けるように制御することで、研磨子18が常に車輪踏面Tに接触していることがなくなり、研磨子18及び車輪踏面Tの摩耗を防止することができる。また、本押し付け制御中は、研磨子18が車輪踏面Tを研磨するため、車輪踏面Tに落ち葉のような繊維質の異物が付着している場合であっても車輪踏面Tの状態を適切に改善し、短絡不良の発生を防止することができる。
【0079】
また、電極部16は、摺接部10の摺接面側の車輪幅方向に沿って複数配置されており、それぞれの電極部16が通電回路部20の通電部21によって通電され、判定部27により車輪踏面Tの汚損状態が判定されるように構成されている。かかる構成により、車輪回転と相俟って、車輪踏面に対して満遍なく汚損状態を検出することが可能となる。
【0080】
5.変形例
5−1.両抱き式の機構
摺接部が車輪の前後に設けられる両抱き式の機構によって車輪踏面の状態を改善する車輪踏面状態改善装置を構成してもよい。
【0081】
図11は、この場合における両抱き式の機構の要部を示す図である。
この両抱き式の機構では、車輪の前部に摺接部100a、車輪の後部に摺接部100bが設けられ、一対の摺接部100が形成されている。また、摺接部100には、それぞれアクチュエータ(不図示)が接続されている。摺接部100には、同一の通電回路部20に接続された電極子12が接続されており、例えば摺接部100aの電極子12aが正極、摺接部100bの電極子12bが負極とされる。そして、通電回路部20の通電部21が、前後の摺接部100の電極子12間に通電する。
【0082】
制御部40は、予備押し付け時間間隔に従い、アクチュエータを駆動させることで、摺接部100の電極子12を車輪踏面Tに接触させる予備押し付け制御を行う。そして、判定部27から出力された判定結果が「汚損あり」である場合に、押し付け力を上げるべくアクチュエータを駆動して、摺接部100の電極子12及び研磨子18を車輪踏面Tに当接させて、車輪踏面Tを研磨する本押し付け制御を行うことで、車輪踏面の状態を改善する。
【0083】
5−2.電極部の配置
上述した実施形態では、摺接部10の摺接面において、車輪周方向における位置を略同一として、車輪幅方向に3個の電極部16を並べて配置するものとして説明したが、電極部16の個数は3個に限られるものではなく、適宜設定変更可能である。
【0084】
原理的には、車輪幅方向の長さが可能な限り短い電極子12(12a,12b)を、車輪幅方向に重複せずに隙間なく並べると最も効果が大きくなる。具体的には、例えば図12に示すように、車輪周方向に電極子12a,12bが配置された電極部を、車輪幅方向に間隔を狭くして敷きつめるように配置すると効果的である。
【0085】
5−3.電極部の構成
車輪踏面Tに大きなフラット部分や剥離箇所が存在すると、車輪踏面Tに当接させた電極子12が破損するおそれがある。これを防止するため、電極子12を車輪踏面Tに直接当接させないように電極部を構成することとしてもよい。
【0086】
図13は、この場合の電極部160の構成例を示す図である。電極部160は、電極子挿入用凹部19(19a,19b)の底面から順に、バネ13(13a,13b)と、電極子12(12a,12b)と、鋼球161(161a,161b)とが配置されて構成されている。また、鋼球161が電極子挿入用凹部19から外部に飛び出すことのないように、絶縁部14の電極子挿入用凹部19にかかる開口部分163(163a,163b)は、先窄まり形状に形成されている。この結果、バネ13の付勢力が電極子12を通じて鋼球161に伝えられ、鋼球161が、車輪踏面Tとの接触時に車輪踏面T側に圧接される。
【0087】
また、鋼球161と電極子12とは導電体でなるため、通電部21による通電時には、通電部21、電極子12、鋼球161及び車輪踏面Tでなる閉回路が構成される。予備押し付け及び本押し付け時には鋼球161が車輪踏面Tに当接する。また、車輪の回転に従動して鋼球161も回転するため、鋼球161の車輪踏面Tに接している部分が変化することとなる。これにより、車輪踏面Tの当面に多少の凹凸が生じていたとしても、鋼球161が電極子挿入用凹部19内で滑らかに移動することが可能となり、欠損が防止される。
【0088】
尚、電極部の構造はこの例に限らず、例えば、軸受付きの円形導体やベアリング構造としてもよい。
【0089】
5−4.汚損状態の判定
上述した実施形態では、電気抵抗Rに基づいて車輪踏面の汚損状態を検出するものとして説明したが、電流検出部23により検出された通電電流Iに基づいて車輪踏面の汚損状態を判定することとしてもよい。通電部21を定電圧装置とすると、車輪踏面が汚損している場合は、電極子12を流れる通電電流Iは小さくなる。そのため、通電電流Iが所定の閾値以下となった場合に、本押し付け制御を開始することにすればよい。また、通電部21を定電流装置として、電極子12間の電圧Vを検出し、電圧が所定の閾値以上となった場合に汚損状態を「汚損あり」と判定することとしてもよい。
【0090】
また、通電部21の制御モードの状態に基づいて汚損状態を判定してもよい。具体的には、通電部21の制御モードが定電流モードから定電圧モードに切り替わった場合に、車輪踏面Tの汚損により電気抵抗Rが増大したものと判断して、車輪踏面Tが「汚損あり」と判定するようにする。
【0091】
また、上述した実施形態では、直流電圧を電極部16に印加して車輪踏面Tの汚損状態を判定するものとして説明したが、交流電圧を電極部16に印加して汚損状態を判定することとしてもよいことは勿論である。
【0092】
5−5.予備押し付け時間間隔
上述した実施形態では、キロ程に基づいて予備押し付け時間間隔を設定するものとして説明したが、予備押し付け時間間隔の設定方法は適宜変更可能である。
【0093】
図14は、変形例における予備押し付け時間間隔データ59の一例を示す図である。予備押し付け時間間隔データ59には、列車種別591と、予備押し付け時間間隔593とが対応付けて記憶されている。平均走行速度が速く、停車駅が少ない列車種別ほど、予備押し付け時間間隔が短く設定されている。例えば、普通列車では頻繁に力行とブレーキとが繰り返され、車輪踏面状態が改善され易いため、予備押し付け時間間隔が「15分」であるのに対し、特急列車では高速で惰行する割合が増え、車輪踏面の汚損が進展し易いため、予備押し付け時間間隔が「5分」に設定されている。これにより、本実施形態の車輪踏面状態改善装置を備えた車両の運行列車種別に応じて適切な予備押し付け時間間隔を設定することが可能となる。
【0094】
また、始発列車については、他の列車よりも予備押し付け時間間隔を短く設定することにしてもよい。これは、列車が運行しない夜間に雨や夜露等の影響によってレール頭頂面に錆が多く存在したり、落ち葉の付着量が多くなることを考慮したものである。また、同じ列車であっても、踏面ブレーキを有する車両と有しない車両とでは、後者の方が車輪踏面の汚損が進展し易いため、後者の予備押し付け時間間隔を短く設定することとしてもよい。M車とT車においても同様である。
【0095】
また、最初は予備押し付け時間間隔を短く設定しておくが、車輪踏面の状態が良好であると判断した場合は、予備押し付け時間間隔を長くすることとしてもよい。例えば、最初は予備押し付け時間間隔を「10分」に設定して予備押し付け制御を行い、本押し付け制御によって車輪踏面の状態が改善された後は、予備押し付け時間間隔を「15分」に変更する。例えば、公知の学習機能を組み込み、データを自動更新させることとしてもよい。また、複雑なシステムにするのではなく、予備押し付け時間間隔をキロ程に左右されずに一定値としてもよい。
【0096】
5−6.予備押し付け開始条件
上述した実施形態では、記憶部50に記憶されたデータに従って予備押し付け時間間隔を設定し、設定した予備押し付け時間間隔に従って予備押し付け制御を開始する場合を例に挙げて説明した。この他に、例えば、乗務員が必要に応じてスイッチを操作して予備押し付け制御の開始を指示するマニュアル方式を採用してもよい。また、地上−車上伝送によって地上から予備押し付け制御の開始を指示する信号を与える外部トリガ方式を採用することも可能である。
【0097】
5−7.本押し付け終了条件
上述した実施形態では、電気抵抗Rが最後に所定の閾値Rθを超過して以降「汚損あり」を入力せずに本押し付け終了条件が成立した場合に、本押し付け制御を終了するものとして説明したが、他には、例えば本押し付け制御を開始してから十分な時間が経過した場合に、本押し付け制御を終了することとしてもよい。
【0098】
具体的には、以下の式(2)が成立した時刻に本押し付け制御を終了する。
(現在時刻−本押し付け制御の開始時刻) > 規定した時間 ・・・(2)
【0099】
5−8.本押し付けの開始タイミングを可変
列車内の複数の輪軸の車輪踏面について同時に本押し付け制御を行うと、あたかもブレーキをかけたかのような効果が発揮されるため、走行性能に影響が生じる可能性がある。そこで、複数の輪軸の車輪踏面について本押し付け制御のタイミングをずらすことで、走行性能の低下を防止することとしてもよい。
【0100】
例えば、一の輪軸の車輪踏面について本押し付け開始条件が成立した場合に、同一の車両の他の輪軸の車輪踏面について本押し付け制御を行っている場合は、当該他の輪軸の車輪踏面についての押し付け制御が終了した後に、当該一の輪軸の車輪踏面について本押し付け制御を開始するようにする。また、複数の輪軸の車輪踏面について、予備押し付け制御を開始する時間間隔を変えることで、本押し付け制御の作動タイミングをずらすこととしてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 車輪踏面状態改善装置
10 摺接部
11 摺接部本体
12 電極子
13 バネ
14 絶縁部
15 凹部
16 電極部
17 凹部
18 研磨子
19 電極子挿入用凹部
20 通電回路部
21 通電部
23 電流検出部
25 電圧検出部
27 判定部
30 アクチュエータ
40 制御部
50 記憶部
60 入出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪踏面に摺接する摺接面側に研磨子と電極部とを有する摺接部と、
前記電極部に通電する通電部と、
前記摺接部を前記車輪踏面に押し付ける押し付け機構部と、
前記摺接部が前記車輪踏面に摺接した際の前記電極部に対し流入流出する電流、前記電極部に印加される電圧、前記電流及び電圧から求められる電気抵抗、及び、前記通電部の制御モードのうちの何れかに基づいて前記車輪踏面の汚損状態を判定する判定部と、
前記車輪踏面の汚損状態に基づいて、前記押し付け機構部による押し付けを制御する押し付け制御を行う押し付け制御部と、
を備えた車輪踏面状態改善装置。
【請求項2】
前記摺接部は、前記電極部を前記摺接面側の車輪幅方向に複数配置して有し、
前記複数の電極部それぞれに通電する前記通電部を備えた、
請求項1に記載の車輪踏面状態改善装置。
【請求項3】
前記電極部は、同一の通電回路に係る電極子を車輪周方向に並べて配置されてなる請求項1又は2に記載の車輪踏面状態改善装置。
【請求項4】
前記摺接部は、車輪の前後に設けられる両抱き式の機構でなり、
前記電極部は、同一の通電回路に係る電極子が前記前後の摺接部に配置され、
前記通電部は、前記前後の摺接部の同一の通電回路に係る電極子間に通電する、
請求項1又は2に記載の車輪踏面状態改善装置。
【請求項5】
前記摺接部は、前記押し付け制御部による押し付け制御の際に弾性変形して、前記電極部が前記車輪踏面に接触するよう前記電極部を押圧する弾性部を有し、
前記押し付け制御部は、前記押し付け制御として、前記研磨子を前記車輪踏面に押し付けて前記車輪踏面の汚損状態を改善させる本押し付け制御と、前記本押し付け制御の前段階として、前記判定部に前記車輪踏面の汚損状態を判定させるために、前記本押し付け制御時よりも弱い押し付け力で前記摺接部を前記車輪踏面に摺接させる予備押し付け制御とを行う、
請求項1〜4の何れか一項に記載の車輪踏面状態改善装置。
【請求項6】
前記押し付け制御部は、前記予備押し付け制御の際に前記判定部により判定された前記車輪踏面の汚損状態に基づいて前記本押し付け制御を行うか否かを判定し、肯定判定した場合に前記本押し付け制御を行う請求項5に記載の車輪踏面状態改善装置。
【請求項7】
前記押し付け制御部は、前記本押し付け制御の際に前記判定部により判定された汚損状態に基づいて当該本押し付け制御の終了を制御する請求項5又は6に記載の車輪踏面状態改善装置。
【請求項8】
車輪踏面に摺接する摺接面側に研磨子と電極部とを有する摺接部と、前記電極部に通電する通電部と、前記摺接部を前記車輪踏面に押し付ける押し付け機構部とを備えた車輪踏面状態改善装置の制御方法であって、
前記摺接部が前記車輪踏面に摺接した際の前記電極部に対し流入流出する電流、前記電極部に印加される電圧、前記電流及び電圧から求められる電気抵抗、及び、前記通電部の制御モードのうちの何れかに基づいて前記車輪踏面の汚損状態を判定する汚損状態判定ステップと、
前記車輪踏面の汚損状態に基づいて、前記押し付け機構部による押し付けを制御する押し付け制御ステップと、
を含む制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−208000(P2010−208000A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59585(P2009−59585)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】