説明

車輪駆動装置および車椅子

【課題】 移動体の利用者に過大な負荷を与えることなく、レバーの揺動操作を開始することができる車輪駆動装置および車椅子を提供する。
【解決手段】 車輪に対して揺動するレバー12を備える。移動体に用いられたときにレバー12と車輪との間に力伝達機構40が備えられる。この力伝達機構40は、レバー12がX方向に揺動したときに車輪に回転力を付与する一方でY方向に空転する駆動態様、または、レバー12がX方向およびY方向のいずれにも空転する中立態様、となりうる。力伝達機構40の態様は、力伝達切替機構70によって切り替えられる。力伝達切替機構70は、レバー12の位置が特定の位置となったときに、駆動態様と中立態様との間で切り替える。レバー12が特定の位置よりもX方向側にあるときは駆動態様に保持する一方、レバー12が特定の位置よりもY方向側にあるときは中立態様に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の回転によって移動する移動体に用いられ、車輪に対してレバーを揺動させることによって当該車輪を回転させることが可能な車輪駆動装置、および、この車輪駆動装置を備える車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
この明細書において、移動体の一例として車椅子を採用し、以下、車輪駆動装置が車椅子に用いられた場合について説明する。
【0003】
近年、車椅子に代表される移動体を、レバー操作によって移動させることができる技術が開示されている。車輪に対してレバーを揺動させることによって走行できる車椅子の従来例が、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の車椅子は、レバーおよび力伝達機構を有する車輪駆動装置を備えている。力伝達機構は、レバーと車輪との間に備えられており、レバーを揺動させると、当該レバーの揺動力が力伝達機構を介して車輪に伝達され、車椅子が前進または後退する。
【0005】
力伝達機構は、駆動態様(摘み部10aの位置が前進位置αまたは後退位置γ)と中立態様(摘み部10aの位置が中立位置β)とに切り替えることができる。摘み部10aの位置が前進位置αであるときは、レバーを前方向に揺動させると、車輪が前進する方向に、当該車輪に対して回転力が付与される。また、摘み部10aの位置が後退位置γであるときは、レバーを後方向に揺動させると、車輪が後退する方向に、当該車輪に対して回転力が付与される。一方、摘み部10aの位置が中立位置βであるときには、レバーを前後方向のいずれに揺動させたとしても車輪に対して回転力が付与されることなく、レバーが遊転(空転)する。
【0006】
【特許文献1】特許第3689101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、力伝達機構が駆動態様であるとき、レバーの位置によってはレバーを揺動させることが困難となる場合がある。例えば移動体が車椅子であるとき、人間工学的に、着座者がレバーを揺動操作しやすい位置と揺動操作することが困難な位置とがある。例えば、車椅子に着座したときに、着座者の膝付近ではレバー操作が容易となり、背もたれ部に近くなるにしたがってレバー操作が困難となりがちである。レバーがこの揺動操作することが困難な位置に停止している場合には、当該レバーの揺動操作を開始するに際して、着座者に過大な負荷が生じる可能性がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、レバーを揺動させることによって車輪を回転させることが可能な車輪駆動装置または車椅子において、移動体の利用者(移動体が車椅子であれば着座者)に過大な負荷を与えることなく、レバーの揺動操作を開始することができる車輪駆動装置および車椅子を提供することを目的とする。
【0009】
なお、本発明の車輪駆動装置を適用できる移動体は、電気的駆動手段を伴うことなく例えば手動で車輪を回転させる非電動式の移動体であって、自走式の車椅子の他、非電動式の二輪車、非電動式の三輪車、非電動式の四輪車およびこれらを模した玩具等が考えられる。
【0010】
また、本発明の車輪駆動装置は、移動体が、電気的駆動手段を伴う二輪車、三輪車または四輪車であったとしても、適用できる場合がある。例えば、重量物を積載した車両、または、それ自体の重量が大きい車両の場合、一旦移動を開始すると電気的駆動手段によって移動できるものの、停止状態から移動を開始することが困難な場合がある。このとき、単独でまたは電気的駆動手段の補助的な役割として、本発明の車輪駆動装置による力の伝達を利用することもできる。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明において、以下の特徴は単独で、若しくは、適宜組合わされて備えられている。
【0012】
前記課題を解決するための本発明に係る車輪駆動装置は、車輪の回転によって移動する移動体に用いられ、当該車輪を回転させることが可能な車輪駆動装置であって、前記移動体に用いられたときに、前記車輪の略中央から径外側に向けて延在し且つ当該車輪に対して一定の範囲内で揺動自在となるレバーと、前記移動体に用いられたときに、前記レバーと前記車輪との間に配置され、当該レバーが一の方向に揺動したときに当該車輪に対して一の方向に回転力を付与する一方で当該一の方向とは反対の他の方向に空転する駆動態様、または、当該レバーが当該一の方向および当該他の方向のいずれに揺動したときであっても当該車輪に対して空転する中立態様、となりうる力伝達機構と、前記力伝達機構の態様を、前記駆動態様と前記中立態様との間で切り替え可能な力伝達切替機構と、を備え、前記力伝達切替機構は、前記力伝達機構の態様を、前記レバーが前記一定の範囲内の特定の位置に至ると、前記駆動態様と前記中立態様との間で切り替えると共に、前記レバーが前記特定の位置よりも前記一の方向側にあるときは前記駆動態様に保持する一方、前記レバーが前記特定の位置よりも前記他の方向側にあるときは前記中立態様に保持することを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、車輪の回転によって移動(走行)する移動体に本発明にかかる車輪駆動装置が用いられたとき、車輪の略中央から径外側に向けてレバーが延在する。このレバーは、一定の範囲内で車輪に対して揺動自在となっており、このレバーを車輪に対して揺動させると車輪が回転し、移動体が前進または後退する。この車輪駆動装置は、レバーと車輪との間に力伝達機構を備えており、レバーを揺動させたときに、力伝達機構を介して車輪に回転力を付与することが可能となる。力伝達機構は、少なくとも駆動態様または中立態様となりうる。駆動態様は、レバーを一の方向に揺動したときに、車輪に対して当該一の方向に回転力を付与する一方、当該一の方向とは反対の他の方向には空転する態様である。中立態様は、レバーを一の方向および他の方向のいずれに揺動したときであっても、車輪に対して空転する態様である。この力伝達機構は、力伝達切替機構によって、駆動態様と中立態様との間で切り替え可能となっている。この力伝達切替機構は、レバーの位置が一定の範囲内の特定の位置に至ると、力伝達機構の態様を、駆動態様と中立態様との間で切り替え、レバーが特定の位置よりも一の方向側にあるときは駆動態様に保持する一方、レバーが特定の位置よりも他の方向側にあるときは中立態様に保持する。
【0014】
前記課題を解決するための本発明に係る車椅子は、座部を有するフレームに回転自在に支持され、前記座部を挟む両側に少なくとも一つずつ配置される複数の車輪と、前記車輪の略中央から径外側に向けて延在し且つ当該車輪に対して一定の範囲内で揺動自在となるレバーと、前記レバーと前記車輪との間に配置され、当該レバーが一の方向に揺動したときに当該車輪に対して一の方向に回転力を付与する一方で当該一の方向とは反対の他の方向に空転する駆動態様、または、当該レバーが当該一の方向および当該他の方向のいずれに揺動したときであっても当該車輪に対して空転する中立態様、となりうる力伝達機構と、前記力伝達機構の態様を、前記駆動態様と前記中立態様との間で切り替え可能な力伝達切替機構と、を備え、前記力伝達切替機構は、前記力伝達機構の態様を、前記レバーの位置が前記一定の範囲内の特定の位置に至ると、前記駆動態様と前記中立態様との間で切り替えると共に、前記レバーが前記特定の位置よりも前記一の方向側にあるときは前記駆動態様に保持する一方、前記レバーが前記特定の位置よりも前記他の方向側にあるときは前記中立態様に保持することを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、前記課題を解決するための本発明に係る車輪駆動装置が用いられた移動体と同様の作用効果を奏する。即ち、レバーと車輪との間に力伝達機構を備えており、レバーを揺動させたときに、力伝達機構を介して車輪に回転力を付与することが可能となる。力伝達機構は、少なくとも駆動態様または中立態様となりうる。駆動態様は、レバーを一の方向に揺動したときに、車輪に対して当該一の方向に回転力を付与する一方、当該一の方向とは反対の他の方向には空転する態様である。中立態様は、レバーを一の方向および他の方向のいずれに揺動したときであっても、車輪に対して空転する態様である。この力伝達機構は、力伝達切替機構によって、駆動態様と中立態様との間で切り替え可能となっている。この力伝達切替機構は、レバーの位置が一定の範囲内の特定の位置に至ると、力伝達機構の態様を、駆動態様と中立態様との間で切り替え、レバーが特定の位置よりも一の方向側にあるときは駆動態様に保持する一方、レバーが特定の位置よりも他の方向側にあるときは中立態様に保持する。
【0016】
したがって、上記車輪駆動装置または上記車椅子によれば、レバーが特定の位置よりも他の方向側にあるときは力伝達機構が中立態様に保持されるので、特定の位置よりも他の方向側にあるレバーを一の方向に向けて揺動させるときは車輪に対してレバーが空転する。そして、レバーが特定の位置になったときに力伝達機構が駆動態様となり、車輪に対して回転力が付与される。これにより、移動体の利用者(移動体が車椅子であれば着座者)に過大な負荷を与えることなく、レバーの揺動操作を開始することが可能となる。しかも、レバーを特定の位置よりも他の方向側から一の方向に向けて揺動するに際しては、レバーの空転を利用して、レバーが特定の位置に至るまでレバーを勢いよく揺動させることができる。これにより、レバーが特定の位置に至ったのちもレバーの勢いを利用して容易に揺動させることが可能となる。さらに、揺動操作が容易な位置にレバーがあったとしても、当該位置が駆動態様であれば、レバーを一の方向に向けて揺動を開始する当初から相当の揺動力が必要となるが、このようなときは、レバーを一旦他の方向に向けて揺動することによって、レバーの勢いを利用してレバーを容易に揺動させることが可能となる。
【0017】
なお、上記構成において、特定の位置を一の方向側または他の方向側に自在に変更できることが好ましい。これにより、利用者(移動体が車椅子であれば着座者)の体格に合わせて特定の位置を変えることができる。具体的には、レバーの揺動操作を行うことが困難な範囲が利用者によって異なるため、利用者に応じて特定の位置を変えることができるようにすることで、より一層、利用者に過大な負荷を与える虞が軽減される。
【0018】
前記課題を解決するための本発明に係る車輪駆動装置または車椅子において、前記一の方向が前記移動体が前進する方向であって、前記力伝達切替機構は、前記力伝達機構を前記駆動態様に保持する力伝達駆動保持部材と、前記力伝達駆動保持部材により前記駆動態様に保持される前記力伝達機構を、当該駆動態様から前記中立態様に切り替える力伝達中立切替部材と、を有しており、前記力伝達駆動保持部材は、少なくとも前記レバーが前記特定の位置よりも前記一の方向側にあるときは、前記力伝達機構が前記駆動態様に保持されるように当該力伝達機構に対して保持力を付与し、前記力伝達中立切替部材は、前記他の方向に揺動する前記レバーが前記特定の位置に至ると、前記力伝達機構が前記駆動態様から前記中立態様に切り替えられるように前記保持力に対抗する対抗力を前記力伝達機構に対して付与することが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、一の方向は、移動体が前進する方向である。そして、レバーを特定の位置よりも前方から後方に向けて揺動することによってレバーが特定の位置となったとき、駆動態様に保持する保持力に対抗する対抗力が、力伝達機構に対して付与される。これにより、力伝達機構の態様が、駆動態様から中立態様に切り替えられる。言い換えると、移動体は、レバーが特定の位置よりも前方にあるときは、レバーを前方に揺動させると前進する一方で後方に揺動させると空転し、レバーが特定の位置よりも後方にあるときは、レバーを前進方向および後退方向のいずれにレバーを揺動させたとしても車輪に対して空転することとなる。即ち、レバーを特定の位置よりも後方から前方に向けて揺動するに際して、レバーが特定の位置に至るまでは車輪に対してレバーが空転し、レバーが特定の位置に至ったのちは車輪に対して前進する方向に回転力が付与される。一方、レバーを前方から後方に向けて揺動するに際しては、レバーの位置に拘らず、車輪に対してレバーが空転する。これにより、移動体の利用者(移動体が車椅子であれば着座者)に過大な負荷を与えることなく、車椅子等の移動体を前進させることができる。
【0020】
なお、レバーを特定の位置よりも前方から後方に向けて揺動するに際して、レバーが特定の位置に至るまでは車輪に対して後退する方向に回転力が付与され、レバーが特定の位置に至ったのちは車輪に対してレバーが空転する一方、レバーを後方から前方に向けて揺動するに際しては、レバーの位置に拘らず、車輪に対してレバーが空転する態様に切り替えることができることが好ましい。
【0021】
前記課題を解決するための本発明に係る車輪駆動装置または車椅子において、前記力伝達機構が、略円形の中空部を有する外挿体と、前記外挿体の中空部に配置され、前記レバーに固定される多角形の内挿体と、前記内挿体の略中心を回転中心とする周方向に回転可能な台座、当該台座に載置され且つ前記外挿体と前記内挿体との間に配置されると共にいずれも略同じ径の複数のローラ、前記台座から立設すると共に互いに隣接するローラとの間に配置されて各ローラを支持する支持部材、および、前記複数のローラのそれぞれに対して前記外挿体または前記内挿体に向けて付勢する弾性部材、を有する楔締要素と、を備え、前記内挿体が、当該内挿体の外周から前記外挿体の内周までの距離が前記ローラの直径よりも小さい最大径部、および、当該内挿体の外周から前記外挿体の内周までの距離が前記ローラの直径よりも大きい最小径部、がそれぞれ複数形成される多角形に形成され、複数の前記最大径部のうち前記他の方向側の最大径部と当該一の最大径部に隣接する前記一の方向側の最大径部との間には、前記ローラが一つずつ配置されており、前記力伝達駆動保持部材は、前記ローラが前記他の方向側の最大径部の近傍に配置されるように、前記保持力として、前記台座を前記他の方向に向けて付勢する付勢力を当該台座に対して付与し、前記力伝達中立切替部材は、前記他の方向に揺動する前記レバーが前記特定の位置に至ると、前記ローラが前記最小径部の近傍に配置されるように、前記対抗力として、前記内挿体の略中心を回転中心として前記一の方向に前記台座を回転させる回転力を当該台座に対して付与することことが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、レバーを揺動させると内挿体が回転する。ここで、最大径部では、内挿体の外周から外挿体の内周までの距離がローラの直径よりも小さく、最小径部では、内挿体の外周から外挿体の内周までの距離がローラの直径よりも大きい。また、互いに隣接する二つの最大径部のうち、他の方向側の最大径部を一の最大径部とし、一の方向側の最大径部を他の最大径部としたとき、ローラが一の最大径部の近傍に配置されているとき、力伝達機構が駆動態様となる。一方、ローラが最小径部の近傍に配置されているとき、力伝達機構が中立態様となる。詳述すると、一の最大径部の近傍にローラが配置されているときに一の方向に向けてレバーを揺動させると、これに伴って内挿体が他の方向に回転する。このとき、楔締め効果(ローラが内挿体と外挿体との間に噛みこまれた効果)により、内挿体と外挿体とが連結状態となる。一方、一の最大径部の近傍にローラが配置されているときに他の方向に向けてレバーを揺動させると、内挿体と外挿体とが非連結状態となり、内挿体が外挿体に対して空転する。また、最小径部の近傍にローラが配置されているときに一の方向および他の方向のいずれに向けてレバーを揺動させたとしても、内挿体と外挿体とが非連結状態となり、内挿体が外挿体に対して空転する。ここで、内挿体と外挿体とが非連結状態となるのは、ローラが内挿体に向けて付勢されていればローラと外挿体との間に間隙が生じ、ローラが外挿体に向けて付勢されていればローラと内挿体との間に間隙が生じるからである。また、台座は、ローラが他の方向側の最大径部の近傍に配置されるように他の方向に向けて付勢されている。これにより、力伝達機構には、常に駆動態様に保持されるように保持力が付与されることとなる。そして、レバーを特定の位置よりも前方から後方に向けて揺動することによって当該レバーが特定の位置となったときに、ローラが最小径部の近傍に配置されるように、台座に対して対抗力が付与される。これにより、利用者(移動体が車椅子であれば着座者)による駆動態様の変更のみを目的とする操作を行うことなく、移動体を移動させることを目的とするレバーの揺動操作を行うのみで、力伝達機構の態様が切り替わるといった具体的な構成を実現できる。
【0023】
前記課題を解決するための本発明に係る車輪駆動装置または車椅子において、前記力伝達切替機構が、前記台座の外側に配置されて当該台座と伴に前記周方向に回転する台座回転部材をさらに有すると共に、前記力伝達中立切替部材は、前記車輪に対して前記レバーが揺動するに際して当該レバーの揺動に伴って前記周方向に移動し、前記台座回転部材よりも外側の所定位置を支点として時計周りおよび反時計周りに回転自在であると共に、当該所定位置を支点として時計周りに回転したときに前記台座回転部材と当接する長手状の回転部材と、前記車輪に対して前記レバーが揺動するに際して、当該レバーの揺動に伴って前記周方向に移動することなく当該車輪側に固定される固定部材と、を有しており、前記固定部材は、前記レバーが前記他の方向に揺動するに際して前記回転部材と当接する当接部を有すると共に、前記他の方向に揺動する前記レバーが前記特定の位置に至ると、前記回転部材と当接することによって当該回転部材を前記所定位置を支点として時計周りに回転させ、さらに、前記回転部材と前記台座回転部材とを当接させることによって前記台座に対して前記回転力を付与するものであり、前記当接部が、前記レバーの揺動に伴って前記回転部材が前記周方向に移動するに際して前記所定位置からの距離が略一定となるように形成されていることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、固定部材の当接部が、レバーの揺動に伴って回転部材が周方向に移動するに際して、回転部材の支点となる所定位置からの距離が略一定となるように形成されている。したがって、レバーを特定の位置よりも前方から後方に向けて揺動し、、レバーが特定の位置となったときに台座が回転することによってローラが最小径部の近傍に配置されるものの、レバーが特定の位置を越えてさらに後方側に位置したとしても、台座がそれ以上(即ち、ローラが他の最大径部の近傍に配置されるまで)回転することがない。これにより、レバーが、特定の位置よりも前方側にあるときは力伝達機構が駆動態様となる一方、特定の位置よりも後方側にあるときは力伝達機構が中立態様となる具体的な構成が実現できる。
【0025】
前記課題を解決するための本発明に係る車輪駆動装置または車椅子において、前記力伝達中立切替部材は、前記固定部材を前記車輪側に固定的に取り付ける取付部材をさらに有すると共に、前記固定部材には、前記取付部材によって前記車輪側に取り付けられるための取付孔が形成されており、前記取付孔が、前記レバーの揺動に伴って前記回転部材が前記周方向に移動するに際して前記所定位置からの距離が略一定となるように形成されていることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、特定の位置を一の方向または他の方向に自在に変更するための具体的な構成が実現できる。これにより、利用者(移動体が車椅子であれば着座者)の体格に応じて、取付部材によって車輪側に取り付けられる固定部材の位置を変更するのみで特定の位置を変えることができる。これにより、煩雑な作業を伴うことなく、利用者に過大な負荷を与える虞が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る車輪駆動装置、および、この車輪駆動装置が取り付けられた車椅子の好適な実施形態の例について、各図を参照しつつ説明する。なお、本実施形態において、車椅子が前進する場合における車輪の回転方向をX方向、車椅子が後退する場合における車輪の回転方向をY方向と称する。
【0028】
なお、請求項1および6に係る発明では、X方向およびY方向のうちいずれかの方向が「一の方向」に相当し、当該「一の方向」とは反対の方向が「他の方向」となる。また、請求項2〜5および7〜10に係る発明では、X方向が「一の方向」に相当し、Y方向が「他の方向」に相当する。
【0029】
図1は、本発明に係る車輪駆動装置の一例を示す外観斜視図である。
【0030】
この車輪駆動装置10は、複数の車輪が回転することによって走行する例えば車椅子に用いられ、車椅子に取り付けられたときに車輪に対して揺動自在となる手動式のレバー12と、回転部20と、固定部30と、力伝達機構40と、力伝達切替機構70とを備えている。
【0031】
なお、図1に図示される車輪駆動装置10は、車椅子に用いられたときに、車椅子の座部に着座した着座者からみて右側に配置される車輪駆動装置である。また、車椅子の座部に着座した着座者からみて左側に配置される車輪駆動装置は、図1に図示される車輪駆動装置10とは左右対称となる。
【0032】
レバー12は、湾曲して延びる棒状のものであり、端部に把持部121を有している。また、このレバー12は、後述する各車輪に対応して一つずつ備えられている。
【0033】
また、レバー12の把持部121側の先端には、力伝達切替機構70を作用させるための釦式の操作部122が設けられている。この釦式の操作部122は、把持部121を把持しつつ例えば親指で下方に向けて(レバー12の長手方向に沿って)押すことができる。なお、この釦式の操作部122は、一つのレバー12に対して一つ設けられている。
【0034】
回転部20は、車輪駆動装置10が車椅子に備えられたときに、レバー12の揺動に伴って車椅子に対して回転する部分であり、カップ体22と、ハブ24とを有している。
【0035】
カップ体22は、レバー12の基端部(即ち、把持部121が設けられる側とは反対側の端部)に固定して取り付けられており、盆状または椀状に形成された略円形の部材である。
【0036】
ハブ24は、中央部に略円形の円板部が形成された長手部材であって、一方の端部がT字状に形成されている。そして、ハブ24の円板部の中心とカップ体22の中心部とが同心となるように、ハブ24の両端部がカップ体22と一体的に取り付けられている。また、ハブ24には、X方向における回転部20の回転ひいてはレバー12の揺動を制限するための受止部241(後述する図9〜図13に図示)が形成されている。
【0037】
固定部30は、車輪駆動装置10が車椅子に備えられたときに、レバー12の揺動に伴って回転しない部分、即ち、レバー12が揺動したとしてもX方向またはY方向についての回転が制限されるようにして車椅子に固定される部分であり、軸部材32と、軸基材34とを有している。
【0038】
軸部材32は、後述する車椅子の車輪を貫通して車椅子のフレームに固定される。軸基材34は、板状の長手部材であって、板状の平面部が軸部材32に対して略直交しており、一方の端部には、後述する第2ギヤ44が固定的に取り付けられる。また、第2ギヤ44が固定的に取り付けられた軸基材34の一方の端部とは異なる他方に端部には、凹部341が形成されている。
【0039】
力伝達機構40は、盆状または椀状に形成されたカップ体22の凹部に収納される。言い換えると、力伝達機構40は、レバー12と、後述する車椅子の車輪との間に配置される。この力伝達機構40は、第1の態様、第2の態様および第3の態様のうちいずれかの態様に切替可能となっている。
【0040】
車輪駆動装置10が車椅子に取り付けられた場合において、力伝達機構40が第1の態様または第2の態様である場合には、レバー12を揺動させると、車輪に対していずれかの方向に回転力が付与される。第3の態様である場合には、レバー12を揺動させても、当該レバー12が車輪に対して空転し、いずれの方向にも回転力が付与されない。なお、第1の態様、第2の態様および第3の態様についての詳細は後述する。
【0041】
なお、請求項1および6に係る発明では、第1の態様および第2の態様のうちいずれかの態様が「駆動態様」に相当し、第3の態様が「中立態様」に相当する。また、請求項2〜5および7〜10に係る発明では、第1の態様が「駆動態様」に相当し、第3の態様が「中立態様」に相当する。
【0042】
力伝達機構40は、中空部421が形成された第1ギヤ42、第2ギヤ44、第3ギヤ46、第4ギヤ48、第1ギヤ42の中空部421に内挿される内挿体50および楔締要素52を備えている。なお、第1ギヤ42は、本発明の「外挿体」に相当する。
【0043】
力伝達機構40の構成について、図1および図2を参照しつつ説明する。図2は、力伝達機構40の一例を示す正面図である。
【0044】
第1ギヤ42は、略円形の中空部421を有しており、軸基材34に固定して取り付けられる第2ギヤ44(図1参照)と螺合するように配置されている。また、第3ギヤ46が、第2ギヤ44と同心であって且つ第2ギヤ44と一体的に重ね合わせて配置されている。さらに、第4ギヤ48(図1参照)が、第1ギヤ42と同心であって且つ第3ギヤ46と螺合するように配置されている。この第4ギヤ48は、後述する車輪に固定される。
【0045】
これにより、第1ギヤ42が回転すると、当該第1ギヤ42と螺合する第2ギヤ44(図1参照)が回転する。そして、第2ギヤ44が回転すると、当該第2ギヤ44と同心且つ一体的である第3ギヤ46が回転する。さらに、第3ギヤ46が回転すると、当該第3ギヤ46と螺合する第4ギヤ48(図1参照)が回転する。ここで、第4ギヤ48は車輪に固定されているので、第1ギヤ42が回転すると、この第1ギヤ42の回転力が、第2ギヤ44、第3ギヤ46および第4ギヤ48を介して車輪に伝達される。
【0046】
また、第1ギヤ42の中空部421には楔締要素52および内挿体50が配置される。より具体的には、第1ギヤ42の径内側に楔締要素52が配置され、さらにこの楔締要素52の径内側に内挿体50が配置される。即ち、楔締要素52は、第1ギヤ42と内挿体50との間に配置されることとなる。
【0047】
また、内挿体50の中心O(図2参照)には、軸部材32が内挿体50に対して回転自在に貫通している。ここで、内挿体50は、ハブ24の円板部と同心であって且つハブ24と一体的に固定して取り付けられている。さらに、上述したとおり、ハブ24はカップ体22(図1参照)に一体的に取り付けられている。これにより、レバー12(図1参照)を車椅子に対して揺動させると、内挿体50は、当該レバー12の揺動方向に、カップ体22およびハブ24と伴に回転する。
【0048】
一方、軸部材32は車椅子のフレームに固定される。従って、車輪駆動装置10(図1参照)が車椅子に取り付けられた状態でレバー12(図1参照)を揺動させたとき、内挿体50が軸部材32に対して回転することとなる。
【0049】
ここで、内挿体50の形状について、図3を参照しつつ説明する。図3は、ハブ24に固定的に取り付けられた内挿体50の一例を示す外観斜視図である。
【0050】
内挿体50は、平面視で多角形に形成された部材である。この多角形の角部は、中心Oからの距離が最も大きい最大径部501となっている。ここで、中心Oから各多角形の角部までの距離は全て略同じである(即ち、多角形の角部の数と最大径部501の数とが同じである)。
【0051】
一の最大径部501と、この一の最大径部501に隣接する他の最大径部501との間には、中心O側に凹む弧が形成されており、中心Oから内挿体50の外周までの距離が最も小さい部位が最小径部502となる。
【0052】
次に、楔締要素52の構成について、図4を参照しつつ説明する。図4は、楔締要素52の一例を示す外観斜視図である。
【0053】
楔締要素52は、台座54、複数のローラ56、複数の支持柱58および複数の弾性部材としての板バネ60から構成されている。
【0054】
台座54は、略真円の中空部542を有する略円形の形状をしている。なお、この台座54は、外周側面の一部に、力伝達切替機構70(図1参照)を構成する後述の台座回転部材74に連結される孔541が形成されている。
【0055】
台座54には、いずれも略同じ直径rである円柱形の複数のローラ56が、中空部542の周囲に沿って配列して載置されている。より具体的には、楔締要素52の径内側に内挿体50が配置されたときに、一の最大径部501(図3参照)と、この一の最大径部501に隣接する他の最大径部501との間にローラ56が一つずつ配置されるように、台座54に配列して載置される。従って、内挿体50の最大径部501の数とローラ56の数とが同じとなる。また、各ローラ56間のピッチは、各最大径部501間のピッチと略同じである。
【0056】
また、台座54からは、ローラ56が載置される側に向けて支持柱58が立設している。この支持柱58は、台座54と一体的に構成されている。また、支持柱58は、互いに隣接する各ローラ56の間(即ち、一のローラと他のローラとの間)に一つずつ立設されており、各ローラ56を支持している。さらに、互いに隣接する各ローラ56の間には、各ローラ56を、台座54の径内側に向けて付勢する弾性部材としての板バネ60が配置されている。
【0057】
なお、台座54の径内側には内挿体50(図3参照)が配置されるので、上述の「台座54の径内側に向けて」は、「内挿体50に向けて」と同じ意味である。
【0058】
次に、力伝達機構40の作用について、図5〜7を参照しつつ説明する。図5は、図2に図示されるA部の詳細図であって、力伝達機構40が第1の態様にあるときを示す図である。図6は、図2に図示されるA部の詳細図であって、力伝達機構40が第2の態様にあるときを示す図である。図7は、図2に図示されるA部の詳細図であって、力伝達機構40が第3の態様にあるときを示す図である。
【0059】
なお、図5〜7に図示されるように、内挿体50の外周面から第1ギヤ42の内周面までの距離は、最大径部501から第1ギヤ42の内周面までの距離σが最も小さく、最小径部502から第1ギヤ42の内周面までの距離ξが最も大きい。また、最大径部501から第1ギヤ42の内周面までの距離σはローラ56の直径rよりも小さく、最小径部502から第1ギヤ42の内周面までの距離ξはローラ56の直径rよりも大きい。即ち、σとξとrとの間には、「ξ>r>σ」の関係が成立する。
【0060】
また、内挿体50は、最小径部502の近傍では、内挿体50の外周面から第1ギヤ42の内周面までの距離に大きな変化を伴うことなく相対的になだらかな形状となっているのに対し、最大径部501の近傍では、内挿体50の外周面から第1ギヤ42の内周面までの距離に大きな変化を伴っている。言い換えると、最大径部501の両脇から当該最大径部501にかけて山型となっており、最大径部501の先端が尖った形状となっている。
【0061】
図5に示す第1の態様では、Y方向側の最大径部501aと、当該最大径部501aに隣接するX方向側の最大径部501bと、の間に配置されているローラ56が、Y方向側の最大径部501aの近傍に配置されている。このとき、各ローラ56間のピッチと各最大径部501間のピッチとが略同じなので、全てのローラ56が、Y方向側の最大径部501の近傍に配置されることとなる。
【0062】
力伝達機構40が第1の態様にあるとき(図5参照)、レバー12(図1参照)をX方向に向けて揺動させると、ハブ24およびカップ体22(図1参照)を介してレバー12と一体的である内挿体50がX方向に回転する。このとき、ローラ56の楔締め効果により、X方向について内挿体50と第1ギヤ42とが連結状態となり、内挿体50と第1ギヤ42とが一体となってX方向に回転する。ここで、ローラ56の楔締め効果が発揮されて内挿体50と第1ギヤ42とが連結状態となるのは、Y方向側の最大径部501aから第1ギヤ42の内周面までの距離σがローラ56の直径rよりも小さいからである。即ち、内挿体50がX方向に回転したときに、Y方向側の最大径部501aの近傍において内挿体50の外周面と第1ギヤ42の内周面との間にローラ56が噛み込むからである。これにより、X方向へのレバー12の揺動力ひいてはX方向への内挿体50の回転力が各ギヤ42,44,46,48を介して後述する車輪に伝達される。
【0063】
一方、力伝達機構40が第1の態様にあるときにレバー12(図1参照)をY方向に向けて揺動させると、レバー12ひいては内挿体50が第1ギヤ42に対して空転し、Y方向について内挿体50と第1ギヤ42とが非連結状態となる。ここで、内挿体50と第1ギヤ42とが非連結状態となるのは、最大径部501aから最小径部502(X方向)に沿って内挿体50の外周面と第1ギヤ42の外周面との距離が大きくなっているために、楔締め効果が発揮されないからである。即ち、内挿体50がY方向に回転すると、内挿体50の外周面と第1ギヤ42の内周面との間へのローラ56の噛み込みが解除されて、板バネ60によって内挿体50に向けて付勢されるローラ56と第1ギヤ42の内周面との間に間隙が生じるからである。
【0064】
図6に示す第2の態様では、Y方向側の最大径部501aと、当該Y方向側の最大径部501aに隣接するX方向側の最大径部501bと、の間に配置されているローラ56が、X方向側の最大径部501bの近傍に配置されている。このとき、各ローラ56間のピッチと各最大径部501間のピッチとが略同じなので、全てのローラ56が、対応するX方向側の最大径部501の近傍に配置されることとなる。
【0065】
力伝達機構40が第2の態様にあるとき(図6参照)、レバー12(図1参照)をY方向に向けて揺動させると、ハブ24およびカップ体22(図1参照)を介してレバー12と一体的である内挿体50がY方向に回転する。このとき、ローラ56の楔締め効果により、Y方向について内挿体50と第1ギヤ42とが連結状態となり、内挿体50と第1ギヤ42とが一体となってY方向に回転する。ここで、ローラ56の楔締め効果が発揮されて内挿体50と第1ギヤ42とが連結状態となるのは、X方向側の最大径部501bから第1ギヤ42の内周面までの距離σがローラ56の直径rよりも小さいからである。即ち、内挿体50がY方向に回転したときに、X方向側の最大径部501bの近傍において内挿体50の外周面と第1ギヤ42の内周面との間にローラ56が噛み込むからである。これにより、Y方向へのレバー12の揺動力ひいてはY方向への内挿体50の回転力が各ギヤ42,44,46,48を介して後述する車輪に伝達される。
【0066】
一方、力伝達機構40が第2の態様にあるときにレバー12(図1参照)をX方向に向けて揺動させると、レバー12ひいては内挿体50が第1ギヤ42に対して空転し、X方向について内挿体50と第1ギヤ42とが非連結状態となる。ここで、内挿体50と第1ギヤ42とが非連結状態となるのは、最大径部501bから最小径部502(Y方向)に沿って内挿体50の外周面と第1ギヤ42の外周面との距離が大きくなっているために、楔締め効果が発揮されないからである。即ち、内挿体50がX方向に回転すると、内挿体50の外周面と第1ギヤ42の内周面との間へのローラ56の噛み込みが解除されて、板バネ60によって内挿体50に向けて付勢されるローラ56と第1ギヤ42の内周面との間に間隙が生じるからである。
【0067】
図7に示す第3の態様では、Y方向側の最大径部501aと、当該Y方向側の最大径部501aに隣接するX方向側の最大径部501bと、の間に配置されているローラ56が、最小径部502の近傍に配置されている。このとき、各ローラ56間のピッチと各最大径部501間のピッチとが略同じなので、全てのローラ56が、対応する最小径部502の近傍に配置されることとなる。
【0068】
力伝達機構40が第3の態様にあるとき(図7参照)、レバー12(図1参照)をX方向およびY方向のいずれに向けて揺動させても、レバー12ひいては内挿体50が第1ギヤ42に対して空転する。即ち、X方向およびY方向のいずれについても、内挿体50と第1ギヤ42とが非連結状態となる。ここで、内挿体50と第1ギヤ42とが非連結状態となるのは、最小径部502における内挿体50の外周面と第1ギヤ42の外周面との距離がローラ56の直径rよりも大きいためである。即ち、板バネ60によって内挿体50に向けて付勢されるローラ56と第1ギヤ42の内周面との間に間隙が生じるからである。
【0069】
なお、レバー12(図1参照)をX方向およびY方向のいずれに向けて揺動させても、レバー12ひいては内挿体50が第1ギヤ42に対して空転するのは、力伝達機構40が第3の態様にあるとき(即ち、ローラ56が最小径部502に位置しているとき)に限定されない。最小径部502における内挿体50の外周面と第1ギヤ42の外周面との距離がローラ56の直径rよりも大きい位置にローラ56が配置されていれば、レバー12をX方向およびY方向のいずれに向けて揺動させても、レバー12ひいては内挿体50が第1ギヤ42に対して空転することになる。
【0070】
ところで、内挿体50が第1ギヤ42に対して空転するとき、内挿体50と第1ギヤ42との間には間隙が形成されているので、内挿体50は、第1ギヤ42からの衝撃を受けることなく或いは衝撃が軽減されて空転する。即ち、レバー12を揺動させたときに、ラチェットタイプの場合のような衝撃を感じることがない。
【0071】
このように、内挿体50が第1ギヤ42に対して空転するときに、内挿体50が第1ギヤ42からの衝撃を受けることなく或いは衝撃が軽減されて空転するのは、各ローラ56が板バネ60によって台座54の径内側に向けて付勢されているからである。即ち、内挿体50の外周面から第1ギヤ42の内周面までの距離がローラ56の直径rよりも大きい部位にローラ56が配置されていれば、内挿体50が回転したとしても、板バネ60の付勢作用によってローラ56と第1ギヤ42との間に間隙が生じるからである。
【0072】
また、各ローラ56の配置位置(即ち力伝達機構40の態様)については、台座54(図4参照)を、内挿体50の中心O(図3参照)を回転中心として周方向に回転させることによって切り替えることができる(以下、この明細書において、内挿体50の中心Oを回転中心として回転させることを、単に「周回させる」と称する)。
【0073】
具体的には、台座54を内挿体50に対してY方向(時計周り)に周回させると、これに伴ってローラ56も内挿体50に対してY方向に周回し、ローラ56をY方向側の最大径部501aの近傍に配置させることができる(第1の態様)。一方、台座54を内挿体50に対してX方向に周回させると、これに伴ってローラ56も内挿体50に対してX方向に周回し、ローラ56をX方向側の最大径部501bの近傍に配置させることができる(第2の態様)。また、力伝達機構40(図1参照)が第1の態様にあるときは、台座54を内挿体50に対してX方向(反時計周り)に周回させることによってローラ56を最小径部502の近傍に配置させることができ、力伝達機構が第2の態様にあるときは、台座54を内挿体50に対してY方向に周回させることによってローラ56を最小径部502の近傍に配置させることができる(いずれも第3の態様)。
【0074】
このように、台座54(図4参照)を内挿体50に対して周回させることによって各ローラ56の配置位置(即ち力伝達機構40の態様)を切り替えることができるのは、台座54から立設された支持柱58(図4参照)によってローラ56が支持されているからである。
【0075】
なお、台座54(図4参照)の内挿体50に対する周方向への回転は、一定の範囲内に限定される。即ち、Y方向側の最大径部501aとX方向側の最大径部501bとの間に配置された1個のローラ56は、当該Y方向側の最大径部501aまたは当該X方向側の最大径部501bを乗り越えることはあり得ない。最大径部501における内挿体50の外周面から第1ギヤ42の内周面までの距離σがローラ56の直径rよりも小さいからである。
【0076】
次に、力伝達切替機構70の構成について、図8を参照しつつ説明する。この力伝達切替機構70は、力伝達機構40の態様を切り替えるための機構であり、図8は、回転部20、固定部30、力伝達機構40および力伝達切替機構70を含む平面図の一例である。ただし、力伝達機構40については、便宜上、第4ギヤ48を図示していない。
【0077】
力伝達切替機構70は、ワイヤ72と、台座回転部材74と、ワイヤ72と台座回転部材74とを連結するリンク部材76と、リンク部材76をカップ体22に固定するピン78と、回転片80と、回転片固定ピン82と、径外プレート84と、プレート固定ボルト86と、コイルバネ88と、を有している(回転片80、回転片固定ピン82、径外プレート84、プレート固定ボルト86およびコイルバネ88については図10を参照)。
【0078】
ワイヤ72は、金属製であり、一方の端部が釦式の操作部122(図1参照)に連結されている。そして、釦式の操作部122を例えば親指で押圧すると、ワイヤ72は、押圧された方向(即ちワイヤ72の長手方向であって図8に図示される方向)に沿って移動する。なお、釦式の操作部122を押圧したときにワイヤ72の撓みを極力軽減するために、レバー12(図1参照)に沿ってワイヤ72を支持するガイド部材が設けられていることが好ましい。
【0079】
台座回転部材74は、中心Oから台座54(図4参照)の径外側に向けて伸びる部材であって、台座54の外周面に形成された孔541(図4参照)に連結されている。この台座回転部材74は、中心Oから台座54の径外側に向けて伸びる長方形状の底部741と、当該底部741の長辺に沿って当該底部741に略直交して立設されたX方向側の第1壁部742と、当該底部741から立設されたY方向側の第2壁部743と、を有している。これによると、中心Oから台座54の径外側に向かう方向に沿って、第1壁部742と第2壁部743とが互いに平行となる。台座回転部材74の形状について言い換えると、台座回転部材74は、中心Oから台座54の径外側に向かう方向に直交する断面が、コ字状に形成されていることとなる。
【0080】
リンク部材76は、ワイヤ72の端部に摺動自在に連結される第1片761と、台座回転部材74の底部741の端部に摺動自在に連結される第2片762と、を有すると共に、第1片761と第2片762とが一体的に形成された略L字状の部材である。そして、このリンク部材76は、略L字状の角部(即ち第1片761と第2片762との境界部)において、ピン78によってカップ体22に回転自在に取り付けられている。
【0081】
なお、リンク部材76の第2片762は、台座回転部材74の第1壁部742と第2壁部743との間に配置されている。
【0082】
また、リンク部材76の第2片762の先端には、台座回転部材74の第1壁部742または第2壁部743に当接したときに、第2片762と第1壁部742または第2壁部743と間に生じうる摺動抵抗を軽減するために、ローラ763が設けられている。
【0083】
回転片80は、長手状(棒状)のものであり、基端部が回転片固定ピン82によってハブ24に固定されている。そして、この回転片固定ピン82を支点として回転自在に構成されている。なお、回転片固定ピン82は台座回転部材74の径外側に配置されており、回転片80の支点として作用する回転片固定ピン82が配置される位置が、本発明の「所定位置」に相当する。
【0084】
径外プレート84は、内挿体50と略同心となるように第1ギヤ42の径外側に配置された板状のプレートであり、第2ギヤ44が固定的に取り付けられた軸基材34の一方の端部とは異なる他方に端部において、プレート固定ボルト86によって固定的に取り付けられている。
【0085】
また、この径外プレート84は、径外側の辺842が中心Oを中心とする略真円の仮想の円弧C1に沿った扇状の部材である。ここで、レバー12は中心Oを揺動中心としてX方向およびY方向に揺動するので、レバー12の揺動に伴って回転片80も中心Oを回転中心としてX方向およびY方向(即ち周方向)に移動する。したがって、径外プレート84の径外側の辺842が中心Oを中心とする略真円の仮想の円弧C1に沿って形成されていることにより、レバー12の揺動に伴って回転片80がX方向またはY方向に移動するに際して、径外プレート84の径外側の辺842と回転片固定ピン82との距離が一定となる。
【0086】
なお、回転片80および径外プレート84は、それぞれ、単独で、本発明の「回転部材」および「固定部材」に相当する。また、回転片80と径外プレート84との組み合わせが、本発明の「力伝達中立切替部材」に相当する。さらに、径外プレート84の径外側の辺842は、本発明の「当接部」に相当する。
【0087】
コイルバネ88は、台座回転部材74ひいては台座54(図4参照)を、Y方向側に向けて常に付勢している。このコイルバネ88は、一方の端部がハブ24に固定して取り付けられており、他方の端部が台座回転部材74の第1壁部742に固定して取り付けられている。このコイルバネ88は、台座回転部材74を、ハブ24ひいては内挿体50に対してY方向に向けて常に付勢しているので、台座54ひいてはローラ56が、内挿体50に対してY方向に向けて常に付勢されることとなる。その結果、ローラ56がY方向側の最大径部501a(図5〜図7参照)の近傍に配置されることとなり、ひいては、力伝達機構40が第1の態様に保持されることとなる。このコイルバネ88は、本発明の「力伝達駆動保持部材」に相当し、台座54に対するコイルバネ88による付勢力が本発明の「保持力」に相当する。
【0088】
なお、コイルバネ88は、台座回転部材74を、ハブ24ひいては内挿体50に対してY方向に向けて常に付勢することに限られず、ハブ24ひいては内挿体50に対してX方向に向けて常に付勢するものであっても良い。このとき、ローラ56がX方向側の最大径部501b(図5〜図7参照)の近傍に配置されることとなり、ひいては、力伝達機構40が第2の態様に保持されることとなる。
【0089】
また、本実施形態では、台座回転部材74を、コイルバネ88によって内挿体50に対してY方向に向けて常に付勢しているが、台座回転部材74を内挿体50に対してY方向に向けて常に付勢できる弾性部材であればコイルバネに限られない。
【0090】
ここで、台座回転部材74と、回転片80と、径外プレート84との間における、紙面前後方向の位置関係について説明する。
【0091】
台座回転部材74は、レバー12がY方向に揺動したとしても径外プレート84と当接することがないよう(第2壁部743と径外プレート84とが当接することもない)、紙面前後方向において径外プレート84よりも奥側に配置されている。
【0092】
一方、回転片80は、紙面前後方向における厚みが台座回転部材74および径外プレート84よりも厚くなっている。そして、回転片80が、回転片固定ピン82を支点として時計周りに回転すると台座回転部材74の第2壁部743に当接する。また、レバー12がY方向に揺動ひいては回転片80がY方向に周回すると、回転片80と径外プレート84とが当接する。
【0093】
なお、径外プレート84は、紙面前後方向においてコイルバネ88よりも手前側に配置されている。
【0094】
さらに、本実施形態の車輪駆動装置10は、回転部20と固定部30とを互いに連結させることによって固定部30に対する回転部20の回転を制限するための退避保持板バネ90を備えている。この退避保持板バネ90には、軸基材34の他方の端部に形成された凹部341に係合する湾曲部901が形成されており、この湾曲部901と凹部341とが係合したときに、回転部20と固定部30とが互いに連結される。このようにして回転部20と固定部30とが互いに連結されると、車輪に対するレバー12の揺動が制限(即ち車輪に対するレバー12の揺動が禁止)された状態で保持される。なお、退避保持板バネ90は、板バネ固定ボルト92によってハブ24に固定的に取り付けられている。
【0095】
次に、力伝達切替機構70の作用について説明する。なお、本実施形態における力伝達切替機構70は、釦式の操作部122を押圧操作することによって力伝達機構40の態様が切り替えられる能動的な機能と、車輪に対してレバー12を揺動させたときに力伝達機構40の態様が切り替えられる受動的な機能と、を有する。
【0096】
先ずは、力伝達機構40の能動的な機能について、図8および図9を参照しつつ説明する。図9は、図8と同様に、回転部20、固定部30、力伝達機構40および力伝達切替機構70を含む平面図の一例である。
【0097】
なお、図8は、力伝達機構40が第1の態様にあるときを示す図であるのに対し、図9は、力伝達機構40が第2の態様にあるときを示す図である。また、図8では、釦式の操作部122(図1参照)が押圧されておらず、図9では、釦式の操作部122が押圧されている。
【0098】
図8に示すように、釦式の操作部122(図1参照)が押圧されていないとき、リンク部材76の第2片762は、台座回転部材74の第1壁部742と第2壁部743との間に位置している。このとき、第2片762は、第1壁部742および第2壁部743のいずれに対しても負荷を与えていない。なお、ローラ56は、Y方向側の最大径部501a(図5〜図7参照)に位置している。
【0099】
そして、釦式の操作部122(図1参照)が押圧されると、図9に示されるように、釦式の操作部122の押圧方向(図8に図示される方向)にワイヤ72が移動し、これに伴ってリンク部材76がピン78を支点として時計周りに回転する。このとき、第2片762が第1壁部742に対して負荷を与え、その結果、台座回転部材74が内挿体50に対して反時計周りに周回する。これにより、台座54が内挿体50に対して反時計周りに周回し、これに伴ってローラ56も内挿体50に対して反時計周りに周回する。そして、ローラ56がX方向側の最大径部501bまで周回移動すると、力伝達機構40が第2の態様となる。
【0100】
このようにして、釦式の操作部122を押圧してレバー12の長手方向(釦式の操作部122の押圧方向)に沿って押し込まれると釦式の操作部122が押圧位置に変位し(この押し込まれた押圧位置が、本発明の「第2の位置」に相当する)、力伝達切替機構70によって、コイルバネ88により第1の態様に保持される力伝達機構40が、第1の態様から第2の態様に切り替えられる。
【0101】
第2の態様に切り替えられた力伝達機構40は、釦式の操作部122(図1参照)を押圧している限りにおいては第2の態様に保持されるものの、釦式の操作部122から指を離す等して押圧を解除すると、台座回転部材74が中心Oを回転中心として時計周りに回転する。これは、台座回転部材74ひいては台座54が、コイルバネ88によって内挿体50に対してY方向側に向けて付勢されているからである。その結果、力伝達機構40は、コイルバネ88によって再び第1の態様に切り替えられ、釦式の操作部122が押圧されない限り、第1の態様に保持されることとなる。
【0102】
そして、台座回転部材74が内挿体50に対して時計周りに周回すると、第1壁部742が第2片762に対して負荷を与え、その結果、リンク部材76がピン78を支点として反時計周りに回転する。すると、釦式の操作部122の押圧方向とは反対の方向にワイヤ72が移動し、釦式の操作部122(図1参照)は、押圧される前の位置に戻る(即ち、図8の態様に戻る)。
【0103】
このようにして、力伝達機構40の態様(第1の態様または第2の態様)を、釦式の操作部122の押圧操作を行うといった着座者の意思により能動的に切り替えることができる。
【0104】
なお、釦式の操作部122から指を離す等して押圧を解除したとき、コイルバネ88により台座回転部材74が内挿体50に対してY方向に向けて付勢されることによって、力伝達切替機構70を介して、操作部122が押圧位置から突出位置に戻るものの、釦式の操作部122が押圧位置から突出位置にスムーズに戻るように、操作部の近傍にコイルバネ等の付勢部材が設けられていることが好ましい。
【0105】
このように釦式の操作部122(図1参照)は、押圧していないときは、力伝達切替機構70を介して、コイルバネ88によって、常に押圧方向とは反対の方向に負荷が与えられている。このとき、釦式の操作部122は、レバー12(図1参照)の端部から突出した突出位置にある。
【0106】
次いで、力伝達機構40の受動的な機能について、図10〜図13を参照しつつ説明する。図10〜図13は、いずれも、回転部20、固定部30、力伝達機構40および力伝達切替機構70を含む平面図の一例であって、車輪に対してレバーを揺動させた場合における力伝達切替機構70の作用を示す図である。なお、レバー12は、基端部側の一部のみを図示している。また、図面上に図示されるZは、本実施形態の車輪駆動装置10が車椅子に用いられた場合に、当該車椅子の車輪が地面に設置した状態での鉛直上方である。
【0107】
図10は、回転部20、固定部30、力伝達機構40および力伝達切替機構70を含む平面図の一例であって、力伝達機構40が第1の態様にあるときを示す図である。このとき、力伝達機構40が第1の態様となるのは、上述したとおり、台座回転部材74ひいては台座54(図4参照)が、コイルバネ88によってY方向側に向けて常に付勢されているからである。なお、図10に図示されるレバー12の位置を第1の位置とする。
【0108】
図10に図示されるように、レバー12が第1の位置にあるとき、回転片80と径外プレート84との間には一定の距離があり、互いに当接していない。
【0109】
図11は、回転部20、固定部30、力伝達機構40および力伝達切替機構70を含む平面図の一例であって、車輪に対してレバー12を揺動させることによって、レバー12の位置が、第1の位置よりもY方向側に移動(周回)した図である。このときのレバー12の位置を第2の位置とする。なお、このとき、力伝達機構40は第1の態様のままである。
【0110】
車輪に対してレバー12をY方向に揺動させると、回転部20が固定部30に対して時計回り(Y方向)に周回する。
【0111】
ここで、径外プレート84は、固定部30としての軸基材34に固定的に取り付けられているため、車輪に対してレバー12を揺動させたとしても、当該レバー12の揺動に伴って周回することなく、周方向における位置が不変である。
【0112】
一方、車輪に対してレバー12を揺動させると、回転片80、台座回転部材74、楔締要素52および内挿体50は、当該レバー12の揺動に伴って周回する。
【0113】
したがって、レバー12が第1の位置にあるときは、回転片80と径外プレート84とは互いに当接していなかったものの、レバー12が第2の位置に移動すると、回転片80の先端(回転片固定ピン82によって固定される基端側とは反対側の端部)と径外プレート84とが互いに当接する。なお、このとき、回転片80の先端と台座回転部材74の第2壁部743との間には一定の距離があり、互いに当接していない。
【0114】
図12は、回転部20、固定部30、力伝達機構40および力伝達切替機構70を含む平面図の一例であって、車輪に対してレバー12をさらに揺動させることによって、レバー12の位置が、第2の位置よりもY方向側に移動(周回)した図である。このときのレバー12の位置を第3の位置とする。なお、レバー12が第3の位置に至ったときに、後述するとおり力伝達機構40が第3の態様となるので、この第3の位置が、本発明の「特定の位置」に相当する。
【0115】
車輪に対してレバー12を揺動させて当該レバー12の位置が第3の位置になったとしても、周方向における径外プレート84の位置が不変であるから、回転片80は、回転片固定ピン82を支点とする時計回りの負荷が径外プレート84から付与されることとなり、回転片固定ピン82を支点として時計回りに回転する。そして、回転片80の先端が台座回転部材74の第2壁部743に当接し、当該台座回転部材74は、回転片80を介して径外プレート84から負荷(回転力)が付与されることとなる。これにより、台座回転部材74が内挿体50に対して反時計周りに周回する。
【0116】
なお、車輪に対してレバー12をさらに揺動させることによってレバー12の位置が第2の位置よりもY方向側に移動(周回)したときに、回転片80を介して径外プレート84から台座回転部材74に対して付与される反時計周りの負荷(回転力)が、本発明の「対抗力」に相当する。
【0117】
このように、台座回転部材74が内挿体50に対して反時計周りに周回することによって台座54が内挿体50に対して反時計周りに周回し、その結果、ローラ56が最大径部501の近傍から最小径部502(いずれも図5〜図7参照)の近傍に配置され、力伝達機構40が第3の態様となる。
【0118】
図13は、回転部20、固定部30、力伝達機構40および力伝達切替機構70を含む平面図の一例であって、車輪に対してレバー12をさらに揺動させることによって、レバー12の位置が、第3の位置よりもY方向側に移動(周回)した図である。このときのレバー12の位置を第4の位置とする。
【0119】
ここで、径外プレート84は、上述したとおり、径外側の辺842が、中心Oを中心とする略真円の仮想の円弧C1(図8参照)に沿っている。したがって、台座回転部材74は、回転片80と径外プレート84とが当接して、回転片80の先端が径外プレート84の径外側の辺842に沿ったのちは、さらにレバー12をY方向に向けて揺動させたとしても、回転片80を介して径外プレート84からさらなる負荷が付与されることはない。
【0120】
詳述すると、回転片80と径外プレート84とが当接して回転片80の先端が径外プレート84の径外側の辺842に沿ったのちは、その後にレバー12が揺動したとしても、回転片80の先端が径外プレート84の径外側の辺842に沿って摺動しながら移動するのみであり、回転片80が回転片固定ピン82を支点としてそれ以上回転することはない。その結果、レバー12が、第3の位置を越えてさらにY方向側に揺動したとしても、力伝達機構40が第3の態様に維持されることとなる。
【0121】
なお、本実施形態では、回転片80の先端と径外プレート84の径外側の辺842との間の摺動抵抗を軽減するために、回転片80の先端にローラ801が設けられている。
【0122】
このように、力伝達機構40は、レバー12が例えば第1の位置や第2の位置のように第3の位置よりもX方向側にあるときは第1の態様となり、レバー12が第3の位置になったときに第1の態様から第3の態様に切り替えられる。そして、レバー12が第3の位置よりもY方向側にあるときは、当該第3の態様が維持されることとなる。
【0123】
したがって、車椅子の着座者がレバー12をX方向に向けて揺動するに際しては、第3の位置に至るまでは、車輪に対して回転力が付与されることなく車輪に対してレバー12が空転し、第3の位置からさらにX方向に向けて揺動するするときに、車輪に対して回転力が付与されることとなる。また、車椅子の着座者がレバー12をY方向に向けて揺動するに際しては、レバー12の位置に拘らず、車輪に対してレバー12が空転することとなる。
【0124】
ところで、図13に図示されるように、レバー12が第4の位置にあるとき、退避保持板バネ90に形成された湾曲部901と軸基材34の凹部341とが係合する。これにより、回転部20と固定部30とが互いに連結され、車輪に対するレバー12の揺動が制限(禁止)される。
【0125】
したがって、本実施形態の車輪駆動装置10が車椅子に用いられたとき、車椅子の着座者が例えば疲れたとき等には、レバー12を第4の位置に配置させることによって、レバー12を把持し続ける必要がなくなる。
【0126】
また、着座者以外の第三者(例えば介護者)によって車椅子が移動される場合には、レバー12を第4の位置に配置すると力伝達機構40が第3の態様となり、車輪ひいては車椅子の本体にレバー12を固定した状態で、第三者による車椅子の移動が可能となる。
【0127】
なお、本実施形態では、レバー12が第4の位置にあるとき、レバー12を、Y方向に向けてそれ以上揺動させることができないので、この第4の位置が、レバー12を揺動できるY方向における終端となる。
【0128】
一方、レバー12を揺動できるX方向における終端は、軸基材34の他方の端部とハブ24に形成された受止部241とが当接したときである。
【0129】
このように、レバー12は、一定の定められた範囲内でのみ、車輪に対してX方向およびY方向に揺動可能となる。
【0130】
さらに、本実施形態の車輪駆動装置10では、径外プレート84をプレート固定ボルト86によって軸基材34に固定的に取り付けるためのプレート固定ボルト取付孔841が形成されている。このプレート固定ボルト取付孔841は、中心Oを中心とする略真円の仮想の円弧C2(図8参照)に沿っている。したがって、レバー12の揺動に伴って回転片80がX方向またはY方向に移動するに際して、プレート固定ボルト取付孔841と回転片固定ピン82との距離が一定となる。
【0131】
これにより、径外プレート84が配置される位置を、中心Oを中心とする略真円の仮想の円弧C2に沿って変更することができる。このように、回転片80と径外プレート84とが当接する際におけるレバー12の位置を変更することができるので、力伝達機構40が第1の態様と第3の態様との間で切り替えられるレバー12の位置を、車椅子の着座者の体格にあわせて変更することが可能となる。
【0132】
なお、釦式の操作部122の押圧操作を行うことによって力伝達機構40が第3の態様となっているときは、レバー12をY方向に揺動させたとしても、回転片80と第2壁部743とが当接することがない。回転片80と第2壁部743とが当接することに先だって退避保持板バネ90に形成された湾曲部901と軸基材34の凹部341とが係合するからである。即ち、釦式の操作部122の押圧操作を行うことによって力伝達機構40が第3の態様となっているときは回転片80と第2壁部743とが互いに当接することがないので、レバー12の位置に拘らず、力伝達機構40が常に第3の態様となる。
【0133】
次に、上述の車輪駆動装置10を、車椅子に取り付ける方法について、図14を参照しつつ説明する。図14は、車輪駆動装置10、車椅子の車輪102およびフレーム106の一例を示す外観斜視図である。なお、図14では、車輪102が一つのみ図示されているが、車輪102は、座部104(図15参照)を挟む両側に少なくとも一つずつ配置されているのが一般的であるから、車輪駆動装置10は、座部104を挟む両側に配置される各車輪に対応して二つの車輪駆動装置10が設けられるのが一般的である。
【0134】
車輪駆動装置10を車椅子に取り付けるとき、先ず、軸部材32を、車輪102の中央部に形成された貫通孔1021に貫通させる。なお、車輪102の中央部には、この車輪102と同心となるように第4ギヤ48が取り付けられているので、軸部材32は、貫通孔1021および第4ギヤ48の中央部に形成された貫通孔481の両方に貫通させる。
【0135】
貫通孔481,1021を貫通した軸部材32は、フレーム106に支持される。より具体的には、フレーム106に固定された固定プレート112に、軸部材固定部114によって軸部材32が固定される。
【0136】
なお、「軸部材固定部114によって軸部材32が固定される。」とは、軸部材32の軸心を中心とする方向への回転が制限されることを意味する。
【0137】
また、貫通孔1021の内側には軸受が設けられているので、車輪102は、軸部材32に回転自在に支持されることとなる。即ち、車輪102は、軸部材32を介してフレーム106に回転自在に支持される。
【0138】
さらに、軸部材固定部114には、軸部材32を誘導するための軸部材誘導孔116が形成されている。例えば、軸部材32を多角柱とし、軸部材誘導孔116の内側を、軸部材32に対応する多角孔とすることによって、軸部材32を、軸部材誘導孔116に容易に導くことが可能となる。
【0139】
このように、軸部材32を貫通孔481,1021に貫通させてフレーム106に支持させるだけで、車輪駆動装置10を車椅子に容易に取り付けることが可能となる。このようにして車輪駆動装置10が取り付けられた車椅子を、図15に示す。図15は、車輪駆動装置10が取り付けられた車椅子の一例を示す外観斜視図である。
【0140】
なお、この車椅子100は、一般的な車椅子と同様に、背もたれ部108およびキャスター110をも備えている。
【0141】
車輪駆動装置10は、車輪102の略中心からこの車輪102の径外側に向けて延在し、且つ車椅子100に対して揺動自在に設けられている。着座者が、この車輪駆動装置10のレバー12をX方向またはY方向に揺動させることによって、車椅子100を前進または後退させることが可能となる。
【0142】
より具体的には、釦式の操作部122が押圧されていないとき、力伝達機構40(図1参照)が第1の態様(図5に図示される態様)となるので、着座者がレバー12をX方向に揺動させると車輪102がX方向に回転して車椅子100が前進する。一方、レバー12をY方向に揺動させても、空転するのみである。
【0143】
また、着座者が、例えば親指で釦式の操作部122を押圧した状態(力伝達機構40が図6に図示される第2の態様の状態)でレバー12をY方向に揺動させると、車輪102がY方向に回転して車椅子100が後退する。一方、レバー12をX方向に揺動させても、空転するのみである。
【0144】
なお、着座者が例えば親指で押圧した釦式の操作部122が半押状態であると、力伝達機構40(図1参照)が第3の態様(図7に図示される態様)となる。従って、着座者がレバー12をX方向およびY方向のいずれに揺動させても、車輪102は前進も後退もすることなく、レバー12が車輪102に対して空転するのみである。
【0145】
以上のように、本実施形態の車輪駆動装置10は、車輪102の回転によって移動(走行)する例えば車椅子100に用いられたときに、車輪102を回転させることが可能であり、車椅子100に用いられたときに、車輪102の略中央から径外側に向けて延在し且つ当該車輪102に対して一定の範囲内で揺動自在となるレバー12と、車椅子に用いられたときに、レバー12と車輪102との間に配置され、当該レバー12がX方向に揺動したときに当該車輪102に対してX方向に回転力を付与する一方でY方向に空転する第1の態様、または、当該レバー12がX方向およびY方向のいずれに揺動したときであっても当該車輪102に対して空転する第3の態様、となりうる力伝達機構40と、力伝達機構40の態様を、第1の態様と第3の態様との間で切り替え可能な力伝達切替機構70と、を備え、力伝達切替機構70は、力伝達機構40の態様を、レバー12が一定の範囲内の第3の位置に至ると、第1の態様と第3の態様との間で切り替える。また、この力伝達切替機構70は、レバー12が第3の位置よりもX方向側にあるときは第1の態様に保持する一方、レバー12が第3の位置よりもY方向側にあるときは第3の態様に保持する。
【0146】
これによれば、レバー12を揺動させたときに、力伝達機構40を介して車輪102に回転力を付与することが可能となる。力伝達機構40は、第1の態様または第3の態様となりうる。第1の態様は、レバー12をX方向に揺動したときに、車輪102に対してX方向に回転力を付与する一方、Y方向には空転する態様である。第3の態様は、レバー12をX方向およびY方向のいずれに揺動したときであっても、車輪102に対して空転する態様である。この力伝達機構40は、力伝達切替機構70によって、第1の態様と第3の態様との間で切り替え可能となっている。この力伝達切替機構70は、レバー12の位置が一定の範囲内の第3の位置に至ると、力伝達機構40の態様を、第1の態様と第3の態様との間で切り替え、レバー12が第3の位置よりもX方向側にあるときは第1の態様に保持する一方、レバー12が第3の位置よりもY方向側にあるときは第3の態様に保持する。
【0147】
したがって、レバー12が第3の位置よりもY方向側にあるときは力伝達機構40が第3の態様に保持されるので、第3の位置よりもY方向側にあるレバー12をX方向に向けて揺動させるときは車輪102に対してレバー12が空転する。そして、レバー12が第3の位置になったときに力伝達機構40が第1の態様となり、車輪102に対して回転力が付与される。これにより、着座者に過大な負荷を与えることなく、レバー12の揺動操作を開始することが可能となる。しかも、レバー12を第3の位置よりもY方向の所定位置からX方向に向けて揺動するに際しては、レバー12の空転を利用して、レバー12が第3の位置に至るまでレバー12を勢いよく揺動させることができる。これにより、レバー12が第3の位置に至ったのちもレバー12の勢いを利用して容易に揺動させることが可能となる。さらに、揺動操作が容易な位置(例えば第2の位置)にレバー12があったとしても、当該位置からレバー12をX方向に向けて揺動を開始する際には、当初から相当の揺動力が必要となる。しかし、このような場合であっても、レバー12を一旦Y方向に向けて揺動することによって、レバー12の勢いを利用してレバー12を容易に揺動させることが可能となる。
【0148】
また、力伝達機構40が、略円形の中空部421を有する第1ギヤ42と、第1ギヤ42の中空部421に配置され、レバー12に固定される多角形の内挿体50と、内挿体50の中心Oを回転中心とする周方向に回転可能な台座54、当該台座54に載置され且つ第1ギヤ42と内挿体50との間に配置されると共にいずれも略同じ径の複数のローラ56、台座54から立設すると共に互いに隣接するローラ56との間に配置されて各ローラ56を支持する支持柱58、および、複数のローラ56のそれぞれに対して第1ギヤ42または内挿体50に向けて付勢するコイルバネ88、を有する楔締要素52と、を備え、第1ギヤ42が、内挿体50の外周から第1ギヤ42の内周までの距離がローラ56の直径rよりも小さい最大径部501、および、当該内挿体50の外周から第1ギヤ42の内周までの距離がローラ56の直径rよりも大きい最小径部502、がそれぞれ複数形成される多角形に形成され、複数の最大径部501のうちY方向側の最大径部501aと当該最大径部501aに隣接するX方向側の最大径部501bとの間には、ローラ56が一つずつ配置されており、コイルバネ88は、ローラ56がY方向側の最大径部501aの近傍に配置されるように、台座54をY方向に向けて付勢する付勢力を当該台座54に対して付与し、回転片80ひいては径外プレート84は、Y方向に向けて揺動するレバー12が第3の位置に至ると、ローラ56が最小径部502の近傍に配置されるように、内挿体50の中心Oを回転中心としてX方向に台座54を回転させる回転力を、不勢力に対抗する対抗力として台座54に対して付与している。
【0149】
これによれば、レバー12を揺動させると内挿体50が回転する。ここで、最大径部501では、内挿体50の外周から第1ギヤ42の内周までの距離σがローラ56の直径rよりも小さく、最小径部502では、内挿体50の外周から第1ギヤ42の内周までの距離ξがローラ56の直径rよりも大きい。また、ローラがY方向側の最大径部501aの近傍に配置されているとき、力伝達機構40が第1の態様となる。一方、ローラ56が最小径部502の近傍に配置されているとき、力伝達機構40が第3の態様となる。詳述すると、Y方向側の最大径部501aの近傍にローラ56が配置されているときにX方向に向けてレバーを揺動させると、これに伴って内挿体がX方向に回転する。このとき、楔締め効果(ローラが内挿体と外挿体との間に噛みこまれた効果)により、内挿体と外挿体とが連結状態となる。一方、Y方向側の最大径部501aの近傍にローラ56が配置されているときにY方向に向けてレバー12を揺動させると、内挿体50と第1ギヤ42とが非連結状態となり、内挿体50が第1ギヤ42に対して空転する。また、最小径部502の近傍にローラ56が配置されているときにX方向およびY方向のいずれに向けてレバー12を揺動させたとしても、内挿体50と第1ギヤ42とが非連結状態となり、内挿体50が第1ギヤ42に対して空転する。ここで、内挿体50と第1ギヤ42とが非連結状態となるのは、ローラ56が内挿体50に向けて付勢されていればローラ56と第1ギヤとの間に間隙が生じ、ローラ56が第1ギヤに向けて付勢されていればローラ56と内挿体50との間に間隙が生じるからである。また、台座54は、ローラ56がY方向側の最大径部501aの近傍に配置されるようにY方向に向けてコイルバネ88によって付勢されている。これにより、力伝達機構40には、常に第1の態様に保持されるように保持力が付与されることとなる。そして、レバー12を第3の位置よりも前方の位置(例えば第1の位置や第2の位置)から後方(例えば第4の位置)に向けて揺動することによって当該レバー12が第3の位置となったときに、ローラ56が最小径部502の近傍に配置されるように、台座54に対して対抗力が付与される。これにより、車椅子の着座者は、駆動態様の変更のみを目的とする操作を行うことなく、車椅子を走行させることを目的とするレバー12の揺動操作を行うのみで、力伝達機構40の態様が切り替わる。
【0150】
また、力伝達切替機構70が、台座54の径外側に配置されて当該台座54と伴に周方向に回転する台座回転部材74をさらに有する。また、力伝達機構40の態様を切り替える部材としては、車輪102に対してレバー12が揺動するに際して当該レバー12の揺動に伴って周方向に移動し、台座回転部材74よりも外側に配置される回転片固定ピン82を支点として時計周りおよび反時計周りに回転自在であると共に、回転片固定ピン82を支点として時計周りに回転したときに台座回転部材74と当接する長手状の回転片80と、車輪102に対してレバー12が揺動するに際して、当該レバー12の揺動に伴って周方向に移動することなく当該車輪102側に固定される径外プレート84と、を有している。径外プレート84は、レバー12がY方向に揺動するに際して回転片80と当接する径外側の辺842を有すると共に、Y方向に揺動するレバー12が第3の位置に至ると、回転片80と当接することによって当該回転片80を、回転片固定ピン82を支点として時計周りに回転させ、さらに、回転片80と台座回転部材74とを当接させることによって、台座54に対して回転力を付与するものである。また、回転片80の径外側の辺842は、レバー12の揺動に伴って回転片80が周方向に移動するに際して回転片固定ピン82からの距離が略一定となるように形成されている。
【0151】
これによれば、回転片80の径外側の辺842が、レバー12の揺動に伴って回転片80が周方向に移動するに際して、回転片80の支点となる回転片固定ピン82からの距離が略一定となるように形成されている。したがって、レバー12を第3の位置よりも前方から後方に向けて揺動し、レバー12が第3の位置となったときに台座54が回転することによってローラ56が最小径部502の近傍に配置されるものの、レバー12が第3の位置を越えてさらに後方側に位置したとしても、台座54がそれ以上(即ち、ローラ56が他の最大径部501bの近傍に配置されるまで)回転することがない。これにより、レバー12が、第3の位置よりも前方側にあるときは力伝達機構40が第1の態様となる一方、第3の位置よりも後方側にあるときは力伝達機構40が第3の態様となる。
【0152】
また、力伝達機構40の態様を切り替える部材としては、径外プレート84を車輪102側に固定的に取り付けるプレート固定ボルト86をさらに有すると共に、径外プレート84には、プレート固定ボルト86によって車輪102側に取り付けられるためのプレート固定ボルト取付孔841が形成されており、このプレート固定ボルト取付孔841が、レバー12の揺動に伴って回転片80が周方向に移動するに際して回転片固定ピン82からの距離が略一定となるように形成されている。
【0153】
したがって、プレート固定ボルト86によって径外プレート84の取付位置を変更することで、第3の位置を、X方向またはY方向に自在に変更することができる。このように、プレート固定ボルト86によって径外プレート84の取付位置を変更するだけで、車椅子の着座者の体格に応じて、第3の位置(第1の態様と第3の態様との間で切り替わるレバー12の位置)を、X方向またはY方向に容易に変更することができる。これにより、煩雑な作業を伴うことなく、着座者がレバー12の揺動操作を行うに際して、過大な負荷を与える虞が軽減される。
【0154】
なお、本発明は、上記の好ましい実施形態に記載されているが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が可能である。
【0155】
例えば、上述の実施形態において、レバー12がY方向に揺動したときに、回転片80と径外プレート84とが当接し、さらに、回転片80が第2壁部743に当接することによって台座回転部材74が反時計周りに周回しているが、これに限られない。例えば、レバー12がY方向に揺動したときに、リンク部材76の第2片762と径外プレート84とが当接し、これにより第2片762がピン78を支点として時計回りに回転し、その結果として第2片762と第1壁部742とが当接することによって台座回転部材74が反時計周りに周回する態様であっても良い。このとき、レバー12をさらにY方向に向けて揺動したとしても、第2片762の先端と回転片80の径外側の辺842とが摺動することによって第2片762がそれ以上回転することがないようにした方が好ましい。これにより、ローラ56が他の最大径部501bの近傍に配置されるまで台座54が回転されることを防止できる。
【0156】
また、上述の実施形態において、レバー12が第3の位置よりもX方向側にあるときは力伝達機構40が第1の態様となり、レバー12が第3の位置よりもY方向側にあるときは力伝達機構40が第3の態様となるが、これに限られない。例えば、レバー12が第3の位置よりもX方向側にあるときは力伝達機構40が第3の態様となり、レバー12が第3の位置よりもY方向側にあるときは力伝達機構40が第2の態様となっても良い。このような態様は、例えば、レバー12がY方向に揺動したときに、回転片80と径外プレート84とが当接し、これにより、時計回りに回転する回転片80が第1片761に当接する構成とすることで実現できる。回転片80が第1片761に当接すると、第2片762が第2壁部743に当接し、台座回転部材74を時計周りに周回させることが可能となるからである。なお、レバー12がY方向に揺動して回転片80と径外プレート84とが当接したときに、時計回りに回転する回転片80が第1片761に当接する構成に代えて、回転片80と第2壁部743との間に第2の回転片を配置しても良い。このとき、レバー12がY方向に揺動して回転片80と径外プレート84とが当接し、これにより、時計回りに回転する回転片80が第2の回転片80に当接して当該回転片80が反時計周りに回転し、その結果として、回転片80と台座回転部材74とが当接する態様であっても良い。このような構成であっても、台座回転部材74が時計周りに周回するからである。
【0157】
また、上述の実施形態において、コイルバネ88は、台座回転部材74をY方向側に付勢することによって力伝達機構40が第1の態様に保持されるように構成されているが、これに限られず、台座回転部材74をX方向側に付勢することによって力伝達機構40が第2の態様に保持されるようにしても良い。このとき、力伝達機構40は、常には第2の態様に保持され、釦式の操作部122が押圧されたときに、力伝達切替機構70によって、第2の態様から第1の態様に切り替えられる。ただし、車椅子等の移動体が後退する頻度よりも前進する頻度の方が明らかに高い場合であれば、力伝達機構40が第1の態様に保持されるようにした方が良い。
【0158】
また、上述の実施形態において、釦式の操作部122を押圧すると、当該操作部122が押圧される方向に沿ってワイヤ72が移動し、これに伴って台座回転部材74が、内挿体50の略中心を回転中心として反時計周りに回転するが、これに限られない。例えば、操作部122とワイヤ72との間にリンク部材を設け、操作部122を押圧したときに、当該操作部122が押圧される方向と反対の方向に沿ってワイヤ72が移動する構成であっても良い。このとき、力伝達機構40が第1の態様に保持される構成であれば、操作部122を押圧したときに力伝達機構40が第2の態様となる一方、力伝達機構40が第2の態様に保持される構成であれば、操作部122を押圧したときに力伝達機構40が第1の態様となる。
【0159】
また、上述の実施形態において、楔締要素52の板バネ60は、ローラ56を、台座54の径内側(即ち内挿体50)に向けて付勢しているが、これに限られず、台座54の径外側(即ち第1ギヤ42)に向けて付勢する態様であっても良い。内挿体50の外周面から第1ギヤ42の内周面までの距離がローラ56の直径よりも大きい部位(例えば最小径部502周辺)にローラ56が配置されているとき、ローラ56と第1ギヤ42または内挿体50との間に間隙が発生すれば良い。この間隙により、第1ギヤ42まで伝達される内挿体50の回転に伴って発生する衝撃を軽減できるからである。
【0160】
また、上述の実施形態において、この車椅子100は、全体の骨格をなすフレーム106に、着座可能な座部104が支持されている。この座部104の挟む両側には、フレーム106に対して回転自在な車輪102が一つずつ配置されている。ただし、車輪102の数はこれに限られず、例えば座部104を挟む両側に二つずつの車輪が一対となって配置されていても良い。
【0161】
また、上述の実施形態において、車椅子100は、一つの車輪102に対して車輪駆動装置10が一つずつ設けられているが、これに限られず、いずれか一方の車輪102についてのみ車輪駆動装置10が設けられていても良い。この場合、座部104を挟む両側の車輪102を連結することによって、車輪駆動装置10が設けられた側の車輪102を駆動輪、他の車輪102を従動輪とすることが好ましい。これにより、座部104を挟む両側の車輪102のうちいずれか一方の車輪102についてのみ車輪駆動装置10を設けた場合であっても、車椅子100を前進または後退させることが可能となる。
【0162】
また、上述の実施形態において、「レバー12」は、車輪102を回転させるといった機能は同じであるものの、一般的に「アーム」や「ハンドル」と称される場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】本発明に係る車輪駆動装置の一例を示す外観斜視図である。
【図2】力伝達機構の一例を示す正面図である。
【図3】ハブに固定して取り付けられた内挿体の一例を示す外観斜視図である。
【図4】楔締要素の一例を示す外観斜視図である。
【図5】図2に図示されるA部の詳細図であって、力伝達機構が第1の態様にあるときを示す図である。
【図6】図2に図示されるA部の詳細図であって、力伝達機構が第2の態様にあるときを示す図である。
【図7】図2に図示されるA部の詳細図であって、力伝達機構が第3の態様にあるときを示す図である。
【図8】回転部、固定部、力伝達機構および力伝達切替機構を含む平面図の一例であって、力伝達機構が第1の態様にあるときを示す図である。
【図9】回転部、固定部、力伝達機構および力伝達切替機構を含む平面図の一例であって、力伝達機構が第2の態様にあるときを示す図である。
【図10】回転部、固定部、力伝達機構および力伝達切替機構を含む平面図の一例であって、レバーが第1の位置にあるときを示す図である。
【図11】回転部、固定部、力伝達機構および力伝達切替機構を含む平面図の一例であって、レバーが第2の位置にあるときを示す図である。
【図12】回転部、固定部、力伝達機構および力伝達切替機構を含む平面図の一例であって、レバーが第3の位置にあるときを示す図である。
【図13】回転部、固定部、力伝達機構および力伝達切替機構を含む平面図の一例であって、レバーが第4の位置にあるときを示す図である。
【図14】車輪駆動装置、車椅子の車輪およびフレームの一例を示す外観斜視図である。
【図15】車輪駆動装置が取り付けられた車椅子の一例を示す外観斜視図である。
【符号の説明】
【0164】
10 車輪駆動装置
12 レバー
40 力伝達機構
42 第1ギヤ(外挿体)
50 内挿体
52 楔締要素
54 台座
56 ローラ
58 支持柱
60 板バネ(弾性部材)
70 力伝達切替機構
74 台座回転部材
80 回転片(回転部材)
84 径外プレート(固定部材)
86 プレート固定ボルト(取付部材)
88 コイルバネ(力伝達駆動保持部材)
100 車椅子
102 車輪
421 中空部
501a Y方向側の最大径部(一の最大径部)
501b X方向側の最大径部(他の最大径部)
502 最小径部
542 中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の回転によって移動する移動体に用いられ、当該車輪を回転させることが可能な車輪駆動装置であって、
前記移動体に用いられたときに、前記車輪の略中央から径外側に向けて延在し且つ当該車輪に対して一定の範囲内で揺動自在となるレバーと、
前記移動体に用いられたときに、前記レバーと前記車輪との間に配置され、当該レバーが一の方向に揺動したときに当該車輪に対して一の方向に回転力を付与する一方で当該一の方向とは反対の他の方向に空転する駆動態様、または、当該レバーが当該一の方向および当該他の方向のいずれに揺動したときであっても当該車輪に対して空転する中立態様、となりうる力伝達機構と、
前記力伝達機構の態様を、前記駆動態様と前記中立態様との間で切り替え可能な力伝達切替機構と、を備え、
前記力伝達切替機構は、
前記力伝達機構の態様を、前記レバーが前記一定の範囲内の特定の位置に至ると、前記駆動態様と前記中立態様との間で切り替えると共に、
前記レバーが前記特定の位置よりも前記一の方向側にあるときは前記駆動態様に保持する一方、前記レバーが前記特定の位置よりも前記他の方向側にあるときは前記中立態様に保持する
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項2】
前記一の方向は前記移動体が前進する方向であって、
前記力伝達切替機構は、
前記力伝達機構を前記駆動態様に保持する力伝達駆動保持部材と、
前記力伝達駆動保持部材により前記駆動態様に保持される前記力伝達機構を、当該駆動態様から前記中立態様に切り替える力伝達中立切替部材と、を有しており、
前記力伝達駆動保持部材は、少なくとも前記レバーが前記特定の位置よりも前記一の方向側にあるときは、前記力伝達機構が前記駆動態様に保持されるように当該力伝達機構に対して保持力を付与し、
前記力伝達中立切替部材は、前記他の方向に揺動する前記レバーが前記特定の位置に至ると、前記力伝達機構が前記駆動態様から前記中立態様に切り替えられるように前記保持力に対抗する対抗力を前記力伝達機構に対して付与する
ことを特徴とする請求項1に記載の車輪駆動装置。
【請求項3】
前記力伝達機構が、
略円形の中空部を有する外挿体と、
前記外挿体の中空部に配置され、前記レバーに固定される多角形の内挿体と、
前記内挿体の略中心を回転中心とする周方向に回転可能な台座、当該台座に載置され且つ前記外挿体と前記内挿体との間に配置されると共にいずれも略同じ径の複数のローラ、前記台座から立設すると共に互いに隣接するローラとの間に配置されて各ローラを支持する支持部材、および、前記複数のローラのそれぞれに対して前記外挿体または前記内挿体に向けて付勢する弾性部材、を有する楔締要素と、を備え、
前記内挿体が、当該内挿体の外周から前記外挿体の内周までの距離が前記ローラの直径よりも小さい最大径部、および、当該内挿体の外周から前記外挿体の内周までの距離が前記ローラの直径よりも大きい最小径部、がそれぞれ複数形成される多角形に形成され、
複数の前記最大径部のうち前記他の方向側の最大径部と当該一の最大径部に隣接する前記一の方向側の最大径部との間には、前記ローラが一つずつ配置されており、
前記力伝達駆動保持部材は、前記ローラが前記他の方向側の最大径部の近傍に配置されるように、前記保持力として、前記台座を前記他の方向に向けて付勢する付勢力を当該台座に対して付与し、
前記力伝達中立切替部材は、前記他の方向に揺動する前記レバーが前記特定の位置に至ると、前記ローラが前記最小径部の近傍に配置されるように、前記対抗力として、前記内挿体の略中心を回転中心として前記一の方向に前記台座を回転させる回転力を当該台座に対して付与する
ことを特徴とする請求項2に記載の車輪駆動装置。
【請求項4】
前記力伝達切替機構が、前記台座の外側に配置されて当該台座と伴に前記周方向に回転する台座回転部材をさらに有すると共に、
前記力伝達中立切替部材は、
前記車輪に対して前記レバーが揺動するに際して当該レバーの揺動に伴って前記周方向に移動し、前記台座回転部材よりも外側の所定位置を支点として時計周りおよび反時計周りに回転自在であると共に、当該所定位置を支点として時計周りに回転したときに前記台座回転部材と当接する長手状の回転部材と、
前記車輪に対して前記レバーが揺動するに際して、当該レバーの揺動に伴って前記周方向に移動することなく当該車輪側に固定される固定部材と、を有しており、
前記固定部材は、
前記レバーが前記他の方向に揺動するに際して前記回転部材と当接する当接部を有すると共に、
前記他の方向に揺動する前記レバーが前記特定の位置に至ると、前記回転部材と当接することによって当該回転部材を前記所定位置を支点として時計周りに回転させ、
さらに、前記回転部材と前記台座回転部材とを当接させることによって前記台座に対して前記回転力を付与するものであり、
前記当接部が、前記レバーの揺動に伴って前記回転部材が前記周方向に移動するに際して前記所定位置からの距離が略一定となるように形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の車輪駆動装置。
【請求項5】
前記力伝達中立切替部材は、前記固定部材を前記車輪側に固定的に取り付ける取付部材をさらに有すると共に、
前記固定部材には、前記取付部材によって前記車輪側に取り付けられるための取付孔が形成されており、
前記取付孔が、前記レバーの揺動に伴って前記回転部材が前記周方向に移動するに際して前記所定位置からの距離が略一定となるように形成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の車輪駆動装置。
【請求項6】
座部を有するフレームに回転自在に支持され、前記座部を挟む両側に少なくとも一つずつ配置される複数の車輪と、
前記車輪の略中央から径外側に向けて延在し且つ当該車輪に対して一定の範囲内で揺動自在となるレバーと、
前記レバーと前記車輪との間に配置され、当該レバーが一の方向に揺動したときに当該車輪に対して一の方向に回転力を付与する一方で当該一の方向とは反対の他の方向に空転する駆動態様、または、当該レバーが当該一の方向および当該他の方向のいずれに揺動したときであっても当該車輪に対して空転する中立態様、となりうる力伝達機構と、
前記力伝達機構の態様を、前記駆動態様と前記中立態様との間で切り替え可能な力伝達切替機構と、を備え、
前記力伝達切替機構は、
前記力伝達機構の態様を、前記レバーが前記一定の範囲内の特定の位置に至ると、前記駆動態様と前記中立態様との間で切り替えると共に、
前記レバーが前記特定の位置よりも前記一の方向側にあるときは前記駆動態様に保持する一方、前記レバーが前記特定の位置よりも前記他の方向側にあるときは前記中立態様に保持する
ことを特徴とする車椅子。
【請求項7】
前記一の方向は前記車椅子が前進する方向であって、
前記力伝達切替機構は、
前記力伝達機構を前記駆動態様に保持する力伝達駆動保持部材と、
前記力伝達駆動保持部材により前記駆動態様に保持される前記力伝達機構を、当該駆動態様から前記中立態様に切り替える力伝達中立切替部材と、を有しており、
前記力伝達駆動保持部材は、少なくとも前記レバーが前記特定の位置よりも前記一の方向側にあるときは、前記力伝達機構が前記駆動態様に保持されるように当該力伝達機構に対して保持力を付与し、
前記力伝達中立切替部材は、前記他の方向に揺動する前記レバーが前記特定の位置に至ると、前記力伝達機構が前記駆動態様から前記中立態様に切り替えられるように前記保持力に対抗する対抗力を前記力伝達機構に対して付与する
ことを特徴とする請求項6に記載の車椅子。
【請求項8】
前記力伝達機構が、
略円形の中空部を有する外挿体と、
前記外挿体の中空部に配置され、前記レバーに固定される多角形の内挿体と、
前記内挿体の略中心を回転中心とする周方向に回転可能な台座、当該台座に載置され且つ前記外挿体と前記内挿体との間に配置されると共にいずれも略同じ径の複数のローラ、前記台座から立設すると共に互いに隣接するローラとの間に配置されて各ローラを支持する支持部材、および、前記複数のローラのそれぞれに対して前記外挿体または前記内挿体に向けて付勢する弾性部材、を有する楔締要素と、を備え、
前記内挿体が、当該内挿体の外周から前記外挿体の内周までの距離が前記ローラの直径よりも小さい最大径部、および、当該内挿体の外周から前記外挿体の内周までの距離が前記ローラの直径よりも大きい最小径部、がそれぞれ複数形成される多角形に形成され、
複数の前記最大径部のうち前記他の方向側の最大径部と当該一の最大径部に隣接する前記一の方向側の最大径部との間には、前記ローラが一つずつ配置されており、
前記力伝達駆動保持部材は、前記ローラが前記他の方向側の最大径部の近傍に配置されるように、前記保持力として、前記台座を前記他の方向に向けて付勢する付勢力を当該台座に対して付与し、
前記力伝達中立切替部材は、前記他の方向に揺動する前記レバーが前記特定の位置に至ると、前記ローラが前記最小径部の近傍に配置されるように、前記対抗力として、前記内挿体の略中心を回転中心として前記一の方向に前記台座を回転させる回転力を当該台座に対して付与する
ことを特徴とする請求項7に記載の車椅子。
【請求項9】
前記力伝達切替機構が、前記台座の外側に配置されて当該台座と伴に前記周方向に回転する台座回転部材をさらに有すると共に、
前記力伝達中立切替部材は、
前記車輪に対して前記レバーが揺動するに際して当該レバーの揺動に伴って前記周方向に移動し、前記台座回転部材よりも外側の所定位置を支点として時計周りおよび反時計周りに回転自在であると共に、当該所定位置を支点として時計周りに回転したときに前記台座回転部材と当接する長手状の回転部材と、
前記車輪に対して前記レバーが揺動するに際して、当該レバーの揺動に伴って前記周方向に移動することなく当該車輪側に固定される固定部材と、を有しており、
前記固定部材は、
前記レバーが前記他の方向に揺動するに際して前記回転部材と当接する当接部を有すると共に、
前記他の方向に揺動する前記レバーが前記特定の位置に至ると、前記回転部材と当接することによって当該回転部材を前記所定位置を支点として時計周りに回転させ、
さらに、前記回転部材と前記台座回転部材とを当接させることによって前記台座に対して前記回転力を付与するものであり、
前記当接部が、前記レバーの揺動に伴って前記回転部材が前記周方向に移動するに際して前記所定位置からの距離が略一定となるように形成されている
ことを特徴とする請求項8に記載の車椅子。
【請求項10】
前記力伝達中立切替部材は、前記固定部材を前記車輪側に固定的に取り付ける取付部材をさらに有すると共に、
前記固定部材には、前記取付部材によって前記車輪側に取り付けられるための取付孔が形成されており、
前記取付孔が、前記レバーの揺動に伴って前記回転部材が前記周方向に移動するに際して前記所定位置からの距離が略一定となるように形成されている
ことを特徴とする請求項9に記載の車椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−162370(P2009−162370A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3184(P2008−3184)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】