説明

軌陸作業車の逸走防止装置

【課題】軌道走行モードで運転手が駐車ブレーキをかけ忘れて運転席から離れた場合の軌陸作業車の逸走防止装置において、運転席に運転手が居るか否かを、運転手に負担をかけることなく検出できるようにするとともに、その検出を確実に行えるようにする。
【解決手段】タイヤ車輪12による道路走行モードと鉄輪31による軌道走行モードとを選択して切り換え得るようにした軌陸作業車において、運転キャビン4内に運転席41に運転手が居るか否かを検出するためのレーザーセンサ9を設け、鉄輪31に対する制動装置として、鉄輪ブレーキ35を手動で作動させる通常制動装置6とは別に鉄輪ブレーキ35を電気的に作動させる補助制動装置7を備えているとともに、制御手段10により、レーザーセンサ9が運転席41に運転手が居ないことを検出しているときは補助制動装置7に対して制動力を発生させるように制御するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、車体に道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の鉄輪とを備え、道路上と軌道上の両方で走行させ得るようにした軌陸作業車に関し、さらに詳しくは、そのような軌陸作業車において鉄輪による走行モード中に作業車が軌道上を逸走するのを防止するための軌陸作業車の逸走防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の軌陸作業車は、道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の鉄輪とを備え、道路を走行する際(道路走行モード時)には各タイヤ車輪を接地させる(鉄輪は浮上している)一方、軌道を走行する際(軌道走行モード時)には各鉄輪を軌道上に載せる(タイヤ車輪は浮上している)。
【0003】
尚、軌陸作業車の機種としては、車体上にブーム式作業台を搭載した高所作業車や、車体上にブーム式クレーンを搭載したクレーン作業車や、荷物運搬用のトラック等がある。
【0004】
この種の軌陸作業車では、当然ながら軌道走行用の鉄輪に対しても制動装置(ブレーキ装置)を有しているが、この鉄輪用制動装置には、フットブレーキからなる主ブレーキとハンドブレーキからなる駐車ブレーキとがある。そして、軌道走行中には主ブレーキが用いられる一方、停車状態では駐車ブレーキが用いられる。
【0005】
ところで、軌道走行モード(鉄輪が軌道上に載っている状態)で運転手が運転キャビンから離れるときには、駐車ブレーキで鉄輪にブレーキをかけておくが、ときには駐車ブレーキを掛け忘れて運転手が運転キャビンから離れることがある。そのときには、鉄輪に対してノーブレーキ状態であるので、例えば軌道が傾斜していると軌陸作業車が不用意に動き出す(逸走する)ことがあり、非常に危険である。
【0006】
そこで、従来から、軌道走行モードにおいて運転手が運転席から離れると、鉄輪に対して自動的にブレーキがかかるようにした軌陸作業車の逸走防止装置が提案されている。この公知の軌陸作業車の逸走防止装置としては、例えば特開2005−53320号公報(特許文献1)で示されるものがある。
【0007】
この公知例(特許文献1)の逸走防止装置は、運転席のシートベルトが装着されているか否かの信号を受けて、シートベルトを装着している(連結具が接続している)ときには鉄輪に対する自動ブレーキを解除している一方、シートベルトを装着していない(連結具が離脱している)ときには鉄輪に対して自動的にブレーキ力を働かせるように機能するものである。即ち、この公知の逸走防止装置では、シートベルトの連結具内に設けたリミットスイッチのON・OFF信号を受けて、コントローラから鉄輪ブレーキに対して非作動信号又は作動信号を出力するようになっている。尚、この公知例で使用されているシートベルトの連結具は、バックルに対してバックルプレートを挿抜することで接続・離脱させるようになっており、バックルプレートをバックルに挿入することでバックル内のリミットスイッチがONになるものである(バックルプレートをバックルから抜き出すとリミットスイッチがOFFになる)。
【0008】
従って、この公知例の逸走防止装置では、軌道走行モードにおいて運転手が運転席から離れているとき(シートベルトが非装着状態となる)には、鉄輪に対して自動的にブレーキが働くので、駐車ブレーキをかけ忘れて運転手が運転席から離れても、軌陸作業車が不用意に逸走(移動)しないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−53320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、軌陸作業車を軌道上で走行させるとき(道路走行時のように他の車両や障害物との衝突がない)には、運転手によってはシートベルトを装着するのを面倒がったり嫌がったりすることがある。即ち、シートベルト装着状態では、圧迫感があるとともに身体的に自由度が制限されるので、シートベルトの装着を嫌がることが多々ある。従って、軌道走行時には、シートベルトを装着しないで走行させることが想定される。
【0011】
ところが、上記した公知(特許文献1)の軌陸作業車の逸走防止装置では、軌道上での逸走防止のために、運転手が運転席に着座しているか否かの確認をシートベルトの装着状態(連結具が連結されているか否か)を検出することで行うようにしているので、シートベルトを装着していない状態では鉄輪に対して自動的にブレーキがかかってしまう。従って、シートベルト非装着状態では、軌陸作業車を軌道上で走行できなくなり、不便であるという問題があった。つまり、公知(特許文献1)の逸走防止装置を備えた軌陸作業車では、軌道上を走行させるのに、運転手は嫌でもシートベルトを装着しなければならないという煩わしさがあった。
【0012】
又、上記のように、シートベルトを身体に装着することの煩わしさから、シートベルトを身体に装着することなしに単にシートベルトの連結具を接続させておく場合が考えられるが、その場合は軌道走行が可能となるものの、シートベルトの連結具を外すのを忘れ(リミットスイッチがONのままである)、且つ駐車ブレーキをかけ忘れた状態で、運転手が運転キャビンから離れると、軌陸作業車が軌道上を逸走する虞れが生じる。
【0013】
さらに、この公知(特許文献1)の逸走防止装置のように、シートベルトの装着状態(連結具の接続状態)を検出することで運転席に運転手が着座しているか否かを確認するようにしたものでは、シートベルトの連結具が頻繁に係脱操作されることで内部のリミットスイッチが故障したり、バックルに対するバックルプレートの不適切な挿抜操作によって内部のリミットスイッチが故障する虞れがある。そして、リミットスイッチの故障により、シートベルトの連結具が接続状態であっても該リミットスイッチがOFFのままであると、鉄輪にブレーキ力が働いて軌陸作業車を軌道走行させることができなくなる一方、該シートベルトの連結具が離脱状態であっても故障によりリミットスイッチがONのままであると、鉄輪に対するブレーキ力が解除されるので、運転手が居ないまま軌陸作業車が逸走する虞れが生じる。
【0014】
そこで、本願発明は、運転キャビン内の運転席に運転手が居るか否かを検出して、該運転手が運転席に居ないときには軌道走行用の鉄輪に対して自動的にブレーキ力を働かせるようにした軌陸作業車の逸走防止装置において、運転席に運転手が居るか否かの検出を、運転手に対してシートベルトで拘束することなく、しかも信頼性の高い(故障しにくい)もので行えるようにすることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、上記課題を解決するための手段として次の構成を有している。尚、本願発明は、タイヤ車輪による道路走行と鉄輪による軌道走行とが行えるようにした軌陸作業車において、軌道走行モード状態で軌陸作業車が不用意に逸走しないようにするための逸走防止装置を対象にしている。
【0016】
[本願請求項1の発明]
本願請求項1の発明で対象としている軌陸作業車は、車体に道路走行用のタイヤ車輪と軌道走行用の鉄輪とを備え、タイヤ車輪による道路走行モードと鉄輪による軌道走行モードとを選択して切り換え得るようにしたものである。
【0017】
そして、本願請求項1に係る軌陸作業車の逸走防止装置には、車両の運転キャビン内に、運転席に運転手が居るか否かを検出するためのレーザーセンサを設けているとともに、鉄輪に対する制動装置として、鉄輪ブレーキを手動で作動させる通常制動装置とは別に鉄輪ブレーキを電気的に作動させる補助制動装置を備えている。
【0018】
運転キャビン内に設けているレーザーセンサは、運転席に運転手(着座人)が居るか否かをレーザー光で検出するもので、運転席に運転手が居ないときにはOFFである一方、運転席に運転手が居るとONになるものである。従って、このレーザーセンサでは、リミットスイッチのように検出対象物が直接接触するものでないので故障が起きにくく、且つ検出精度が高いものである。尚、このレーザーセンサは、運転席に運転手が居ないときにはONである一方、運転席に運転手が居るとOFFになるものでもよい。
【0019】
鉄輪に対する通常制動装置は、フットペダルの踏み込み量によって開弁度が変化する手動ブレーキバルブを介して鉄輪ブレーキを作動させるものである。尚、鉄輪ブレーキとしては、フットペダルによる大きなブレーキ力を発生させ得るもの(ディスクブレーキ)のほかに、ハンドレバーによる駐車ブレーキ(ブレーキ力が比較的小さい)が用いられている。
【0020】
他方、上記補助制動装置には、電気信号によってON・OFF制御されるソレノイドバルブが採用されている。
【0021】
そして、本願請求項1の逸走防止装置は、軌道走行モード状態において、前記レーザーセンサが運転席に運転手が居ることを検出しているときは補助制動装置に対して制動力を発生させないように制御する一方、前記レーザーセンサが運転席に運転手が居ないことを検出しているときは補助制動装置に対して制動力を発生させるように制御する制御手段(コントローラ)を有している。
【0022】
つまり、本願請求項1の逸走防止装置では、軌道走行モード状態において、運転席に運転手が居る状態ではレーザーセンサからのON(又はOFF)信号を制御手段で受けて該制御手段からの信号で補助制動装置(ソレノイドバルブ)をOFF状態に維持する(鉄輪ブレーキに制動力をかけない)一方、運転席に運転手が居ない状態ではレーザーセンサからのOFF(又はON)信号を制御手段で受けて該制御手段からの信号で補助制動装置(ソレノイドバルブ)をON作動させる(鉄輪ブレーキに制動力をかける)ようになっている。
【0023】
従って、運転席に運転手が居る状態では、鉄輪による軌道走行が可能となり、運転席に運転手が居ない状態では、駐車ブレーキをかけ忘れていても自動的に鉄輪ブレーキを作動させて不用意な逸走を防止できる。
【0024】
[本願請求項2の発明]
本願請求項2の発明は、上記請求項1の逸走防止装置に次の構成を付加したものである。
【0025】
即ち、この請求項2の逸走防止装置では、補助制動装置は、鉄輪に対する制動回路中に、レーザーセンサからの信号で操作されるソレノイドバルブを有しているとともに、該ソレノイドバルブを通常制動装置の手動ブレーキバルブと並列に設けて、ソレノイドバルブが操作されることにより通常制動装置の鉄輪ブレーキを作動させるようにしている。
【0026】
この請求項2の逸走防止装置では、補助制動装置のソレノイドバルブを通常制動装置の手動ブレーキバルブと並列に設けていることにより、補助制動装置(ソレノイドバルブ)が作動することで、通常制動装置の鉄輪ブレーキ(大きなブレーキ力を発生する)を作動させることができる。
【発明の効果】
【0027】
[本願請求項1の発明の効果]
本願請求項1に係る軌陸作業車の逸走防止装置は、運転席に運転手が居ないときには、それを検出するレーザーセンサからの信号で鉄輪ブレーキに対して自動的にブレーキ力を発生させ得るようになっているので、運転手が駐車ブレーキをかけ忘れて運転席から離れても、軌陸作業車が軌道上を逸走することがない。
【0028】
又、この請求項1の逸走防止装置では、運転席に運転手が居るか否か検出するのにレーザーセンサを使用しているので、公知例(特許文献1)のように運転席に運転手が居るか否かの検出をシートベルトの装着状態(連結具のリミットスイッチのON・OFF)で行うものに比して、運転手に対して拘束(圧迫)することがないとともに、故障しにくいので信頼性の高い(誤検出の少ない)検出が行えるという効果がある。
【0029】
[本願請求項2の発明の効果]
本願請求項2の発明は、請求項1の逸走防止装置において、鉄輪に対する制動回路中に、補助制動装置のソレノイドバルブを通常制動装置の手動ブレーキバルブと並列に設けて、ソレノイドバルブが操作されることにより通常制動装置の鉄輪ブレーキ(ブレーキ力が大きい)を作動させるようにしている。
【0030】
従って、この請求項2の逸走防止装置では、上記請求項1の効果に加えて、運転手が運転席から離れたときに発生する鉄輪へのブレーキ力が、駐車ブレーキによるブレーキ力より大きくなり、軌道上での制動を一層確実に行えるという効果がある。
【実施例】
【0031】
図1〜図3を参照して本願の実施例を説明すると、この実施例では軌陸作業車として、図1に示すようにクレーン作業車を採用している。そして、以下の説明では、軌陸作業車をクレーン作業車ということがある。
【0032】
尚、他の実施例では、軌陸作業車として、高所作業車(車体上にブーム式作業台を搭載したもの)や荷物運搬用のトラック等を採用することができる。
【0033】
図1のクレーン作業車は、車両1の車体11上にクレーン作業機2を搭載している。クレーン作業機2は、車体11上に設けた旋回台21と、該旋回台21に起伏自在に取付けた伸縮ブーム22とを備え、旋回台21上に設けたウインチ23からのワイヤーロープ(図示省略)をブーム先端部を介して吊りフック24に導いて、クレーン作業を行えるようにしている。又、車体11には、前後・左右の4箇所にそれぞれジャッキ装置16を設けている。
【0034】
旋回台21には、運転キャビン4が取付けられている。この運転キャビン4内には、図2に示すように運転手Mが着座する運転席(座席シート)41がある。
【0035】
図1に示すクレーン作業車は、軌陸両用に使用できるものである。即ち、図1のクレーン作業車(軌陸作業車)では、車両1の車体11に道路走行用のタイヤ車輪(前後・左右に4つある)12と、軌道走行用の前後2つの軌道走行装置3,3とを備え、各タイヤ車輪12,12による道路走行と各軌道走行装置3,3による軌道走行とを選択して行えるようになっている。又、図1のクレーン作業車には、車両1を浮上させた状態で方向転換させるための転車装置5を設けている。
【0036】
前後の各軌道走行装置3,3は、相互にほぼ同構造であって、車体11の前端部と後端部に前後対称形に配置している。尚、この前後の各軌道走行装置3,3については、前後一方のもので説明する。
【0037】
この軌道走行装置3は、左右2つの鉄輪31を1本の鉄輪軸33に所定間隔(2本の軌道間隔)をもって取付け、該鉄輪軸33の両端部を横長の保持台32に保持させている。
【0038】
保持台32は、上下動装置30(左右一対ある)で上下に揺動させ得るように構成されている。この上下動装置30には、油圧シリンダが使用されており、以下の説明ではこの上下動装置30を油圧シリンダという。
【0039】
そして、この軌道走行装置3は、左右の油圧シリンダ30,30を同時伸縮させることによって、実線図示する上方の格納位置と鎖線図示(符号3′)する下方の張出位置との間で上下に揺動させ得るようになっている。
【0040】
軌道走行装置3は、実線図示する格納状態ではタイヤ車輪12の下面よりかなり上方に浮上しており、鎖線図示(符号3′)する張出状態では鉄輪31′の下面がタイヤ車輪12の下面より下方に突出して、左右の鉄輪31′がそれぞれ左右2本の軌道B(図1)上に載り得るようになっている。尚、この実施例では、前側の軌道走行装置3の鉄輪軸33が駆動モータ34で駆動されるようになっている。
【0041】
転車装置5は、転車台51を2つの上下動装置50,50で上下動させ得るようにしたものであり、車両1の重心付近における車体11の下方に設置している。この転車装置5用の各上下動装置50,50も、それぞれ油圧シリンダが使用されており、以下の説明では、この上下動装置50を油圧シリンダという。
【0042】
転車装置5用の各油圧シリンダ50,50は、車体11の左右各側面から下方に延出させた2つの縦向きフレーム材55,55内に収容させている。
【0043】
転車台51は、矩形の基板52の下面側にベアリングを介して接地板54を取付けている。尚、基板52と接地板54とは水平面内で相対回転するようになっている。
【0044】
そして、この転車装置5は、各油圧シリンダ50,50を縮小させると転車台51が実線図示するように上方の格納位置に位置し、各油圧シリンダ50,50を伸長させると転車台51が鎖線図示(符号51′)するように下方の張出位置に位置するようになる。尚、転車台51が張出位置まで下動した状態では、該転車台51がタイヤ車輪12,12の下面よりかなり下方まで降下して地面A(図1)上に接地するようになっている。
【0045】
この実施例のクレーン作業車(軌陸作業車)では、図2に示すように運転キャビン4内に操作盤18が設けられており、該操作盤18に設けた走行モード切換スイッチ19によって、タイヤ車輪12による道路走行モードと鉄輪31による軌道走行モードに切換え得るようになっている。
【0046】
ところで、このクレーン作業車(軌陸作業車)には、鉄輪31を軌道Bに載せた軌道走行モード状態での停車中に、該作業車が不用意に逸走しないようにするための逸走防止装置を備えている。
【0047】
即ち、このクレーン作業車は、軌道走行モード状態において、鉄輪31に対して駐車ブレーキをかけ忘れて停車していると、例えば軌道が傾斜しているときには該作業車が軌道B上を不用意に移動(逸走)する虞れがあり、そのとき運転手が運転キャビン4(図2の運転席41)から離れていると、非常に危険である。そこで、本願では、このような逸走を防止するために次の構成を有した逸走防止装置を備えている。
【0048】
この実施例の逸走防止装置は、図1のクレーン作業車において、図2及び図3に示すように、車両1の運転キャビン4内に、該運転キャビン4内の運転席41に運転手Mが居るか否かを検出するためのレーザーセンサ9を設けているとともに、鉄輪31に対する制動装置として、鉄輪ブレーキ35を手動(フットペダル)で作動させる通常制動装置6とは別に該鉄輪ブレーキ35を電気的に作動させる補助制動装置7を備えている。
【0049】
運転キャビン4内に設けているレーザーセンサ9(図2参照)は、運転席41に運転手(着座人)Mが居るか否かをレーザー光(点線矢印)で検出するもので、運転席41に運転手Mが居ないときにはOFF(ONでもよい)である一方、運転席41に運転手Mが居るとON(OFFでもよい)になるものである。従って、このレーザーセンサ9では、リミットスイッチのように検出対象物が直接接触するものでないので故障が起きにくく、且つ検出精度が高いものである。
【0050】
尚、このレーザーセンサ9は、道路走行モードと軌道走行モードの両方で検出可能にすることができるが、道路走行モードでは逸走防止をさほど考慮する必要がないので、前記した走行モード切換スイッチ19を軌道走行モード側にセットしたときのみに検出可能となる(電源が入る)ように設定することができる。
【0051】
図3には、この実施例の逸走防止装置に関する制動回路を示しているが、この制動回路においてレーザーセンサ9、コントローラ10、及び補助制動装置7を除く部分は、各タイヤ車輪ブレーキ13,13・・及び各鉄輪31,31・・に対する通常制動装置6となるものである。尚、コントローラ10は、特許請求の範囲中の制御手段に相当するものである。
【0052】
各タイヤ車輪ブレーキ13と各鉄輪ブレーキ35は、何れも大きなブレーキ力を発生させることができる形式のもの(例えばディスクブレーキ)が採用されている。又、図1に示す各タイヤ車輪12及び各鉄輪31には、フットペダルで制動させる上記の各タイヤ車輪ブレーキ13及び各鉄輪ブレーキ35のほかに、停車状態て使用する駐車ブレーキ(図示省略)が用いられている。尚、この駐車ブレーキは、作業機を停止状態に維持させるだけでよいので、比較的ブレーキ力が小さいものである。
【0053】
図3において、4つのタイヤ車輪ブレーキ13,13・・のうちの上側の2つが前輪側のタイヤ車輪ブレーキで下側の2つが後輪側のタイヤ車輪ブレーキであり、同様に4つの鉄輪ブレーキ35,35・・において上側の2つが前輪側の鉄輪ブレーキで下側の2つが後輪側の鉄輪ブレーキである。そして、図3の制動回路では、タイヤ車輪ブレーキ13と鉄輪ブレーキ35とを、それぞれ前後2系統の制動回路で同時に制動させるようにしている。
【0054】
図3に示す制動回路において、符号61はコンプレッサー、62はエアータンク、63は運転キャビン4内にあるフットペダルで操作される手動ブレーキバルブである。尚、手動ブレーキバルブ63は、フットペダルの踏み込み量によって開弁度が変化するものである。
【0055】
手動ブレーキバルブ63は、2つの弁室(前輪用弁室63aと後輪用弁室63b)を有していて、該手動ブレーキバルブ63がフットペダルによって操作されると、各弁室63a,63bをそれぞれ開作動させる。すると、コンプレッサー61(エアータンク62)からの圧縮エアーが、メインエアー管路64及び各弁室63a,63bを通ってそれぞれ分岐エアー管路64a,64bに供給される。
【0056】
各分岐エアー管路64a,64bの先側には、前輪ブレーキ用のブースター65Aと後輪ブレーキ用のブースター65Bが設けられている。この各ブースター65A,65Bは、ケーシング内にピストン65aを有し、ケーシング内におけるピストン65aの基側にエア−室65bとピストン65aの先側に油室65cをそれぞれ有している。各ブースター65A,65Bのそれぞれのエアー室65b,65bには、それぞれ前記分岐エアー管路64a,64bが接続されている一方、各ブースター65A,65Bのそれぞれの油室65c,65cには、それぞれ油路66A,66Bが接続されている。尚、一方のブースター65Aは、前輪用の2つのタイヤ車輪ブレーキ13,13と前輪用の2つの鉄輪ブレーキ35,35に対してそれぞれ作動油を供給するものであり、他方のブースター65Bは、後輪用の2つのタイヤ車輪ブレーキ13,13と後輪用の2つの鉄輪ブレーキ35,35に対してそれぞれ作動油を供給するものである。
【0057】
一方の油路66Aは、前輪側タイヤ車輪ブレーキ13用の油路66aと前輪側鉄輪ブレーキ35用の油路66bに分岐させており、他方の油路66Bは、後輪側タイヤ車輪ブレーキ13用の油路66aと後輪側鉄輪ブレーキ35用の油路66bに分岐させている。
【0058】
前輪側鉄輪ブレーキ35用の油路66bと後輪側鉄輪ブレーキ35用の油路66bには、それぞれ手動バルブ67が設けられている。この各手動バルブ67,67は、この作業機を道路走行させる場合には閉止しておくことで、フットペダル踏み込み時に鉄輪ブレーキ35側に作動油が供給されないようにできる(タイヤ車輪ブレーキ13の効きがよくなる)。他方、この作業機を軌道走行させるときには、該各手動バルブ67,67を開放しておくが、この実施例の制動回路では、軌道走行時にはタイヤ車輪ブレーキ13と鉄輪ブレーキ35とが同時に作動するようになっている。
【0059】
この通常制動装置6は、次のように作動する。即ち、運転キャビン4内のフットペダルを踏み込むと、その踏み込み量に見合う量だけ手動ブレーキバルブ63が開弁する。すると、コンプレッサー61(エアータンク62)から圧縮エアーが、メインエアー管路64、手動ブレーキバルブ63の各弁室63a,63b、各分岐エアー管路64a,64bを通って、各ブースター65A,65Bの各エアー室65b,65b内に供給され、それによって各ピストン65a,65aが先側に移動し、各油室65c,65c内の作動油が各油路66A,66B及び各分岐油路66a,66bを通って各鉄輪ブレーキ35,35・・及び各タイヤ車輪ブレーキ13,13・・に供給され、該各ブレーキを作動させ得るようになっている。尚、道路走行時には、鉄輪ブレーキ35に対する手動バルブ67,67を閉止しておくことにより、各タイヤ車輪ブレーキ13,13・・のみを作動させることができる。
【0060】
他方、この実施例の逸走防止装置の一部となる補助制動装置7は、図3に示すように電気信号によってON・OFF制御されるソレノイドバルブ71が採用されている。このソレノイドバルブ71は、図3に示す制動回路中において、通常制動装置6の手動ブレーキバルブ63と並列に設けている。即ち、該ソレノイドバルブ71には、その入口側にコンプレッサー61(エアータンク62)からの圧縮エアーが供給されるメインエアー管路64が接続されている一方、出口側のエアー管路を2つの分岐エアー管路64c,64dに分岐させて該各分岐エアー管路64c,64dを各ブースター65A,65Bの各エアー室65b,65bに接続されている。尚、手動ブレーキバルブ63側の一方の分岐エアー管路64aとソレノイドバルブ71側の一方の分岐エアー管路64c、及び手動ブレーキバルブ63の他方の分岐エアー管路64bとソレノイドバルブ71側の他方の分岐エアー管路64dとは、それぞれシャトル弁68,68を介して接続されている。
【0061】
このソレノイドバルブ71は、前記レーザーセンサ9からの信号を受けて、コントローラ10によりON・OFF制御される。レーザーセンサ9は、図2に示すように、運転席41に運転手MがいるときにON(OFFでもよい)になる一方、運転席41に運転手Mが居なくなるとOFF(ONでもよい)になるものであり、そのレーザーセンサ9からのON・OFF信号を常時コントローラ10に入力している。
【0062】
そして、コントローラ10がレーザーセンサ9からのON信号(運転手検出信号)を受けているときには、ソレノイドバルブ71をOFF状態に維持する一方(コントローラ10からソレノイドバルブ71に対して作動信号を発しない)、該コントローラ10がレーザーセンサ9からのOFF信号(運転手非検出信号)を受けると、所定タイマー後(例えば3秒後)にコントローラ10からソレノイドバルブ71をONさせる信号を発するようになっている。
【0063】
そして、レーザーセンサ9がON状態では、運転席41に運転手Mが居る状態であって、該運転席41からフットペダル(手動ブレーキバルブ63)により各鉄輪ブレーキ35を制動操作できる。他方、ソレノイドバルブ71がOFF状態では、運転席41に運転手Mが居ない状態であって、当然に手動ブレーキバルブ63は非操作状態(鉄輪ブレーキ35にブレーキ力がかかっていない状態)となってるが、このときコントローラ10がレーザーセンサ9のOFF信号を受けて、該コントローラ10からソレノイドバルブ71をON作動させる信号が発せられる。すると、該ソレノイドバルブ71がONになって、コンプレッサー61(エアータンク62)からの圧縮エアーが、メインエアー管路64及びソレノイドバルブ71の弁室を通り、さらに各分岐エアー管路64c,64dを通って両ブースター65A,65Bをそれぞれ操作し、それぞれの油室65c,65cから作動油が吐出されることによって各鉄輪ブレーキ35,35・・にブレーキ力を働かせるようになる。
【0064】
従って、この実施例の逸走防止装置では、軌道走行モード状態において、運転席41に運転手Mが居ない状態で駐車ブレーキをかけ忘れていても、各鉄輪ブレーキ35,35・・にブレーキ力が働くので、作業車が軌道上を移動(逸走)することはない。
【0065】
又、この実施例の逸走防止装置では、運転席41に運転手Mが居るか否か検出するのにレーザーセンサ9を使用しているので、公知例(特許文献1)のように運転席に運転手が居るか否かの検出をシートベルトの装着状態(連結具のリミットスイッチのON・OFF)で行うものに比して、運転手に対して拘束(圧迫)することがないとともに、故障しにくいので信頼性の高い検出が行える。
【0066】
さらに、この実施例の逸走防止装置では、補助制動装置7のソレノイドバルブ71を通常制動装置6の手動ブレーキバルブ63と並列に設けていることにより、補助制動装置7(ソレノイドバルブ71)が作動することで、通常制動装置6の鉄輪ブレーキ35を作動させることができるが、この通常制動装置6の鉄輪ブレーキ35は、大きなブレーキ力を発生するものであるから、駐車ブレーキによるブレーキ力による制動に比して、軌道上での制動が一層確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本願実施例の逸走防止装置を備えた軌陸作業車の側面図である。
【図2】図1の軌陸作業車における運転キャビン部分の側面図である。
【図3】本願実施例の逸走防止装置の制動回路図である。
【符号の説明】
【0068】
1は車両、2は作業機、3は軌道走行装置、4は運転キャビン、5は転車装置、6は通常制動装置、7は補助制動装置、9はレーザーセンサ、10は制御手段(コントローラ)、11は車体、12はタイヤ車輪、13はタイヤ車輪ブレーキ、31は鉄輪、35は鉄輪ブレーキ、41は運転席、63は手動ブレーキバルブ、71はソレノイドバルブ、Mは運転手である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体(11)に道路走行用のタイヤ車輪(12)と軌道走行用の鉄輪(31)とを備え、前記タイヤ車輪(12)による道路走行モードと前記鉄輪(31)による軌道走行モードとを選択して切り換え得るようにした軌陸作業車において、
車両の運転キャビン(4)内に、運転席(41)に運転手(M)が居るか否かを検出するためのレーザーセンサ(9)を設け、
前記鉄輪(31)に対する制動装置として、鉄輪ブレーキ(35)を手動で作動させる通常制動装置(6)とは別に前記鉄輪ブレーキ(35)を電気的に作動させる補助制動装置(7)を備えているとともに、
前記軌道走行モード状態において、前記レーザーセンサ(9)が前記運転席(41)に運転手(M)が居ることを検出しているときは前記補助制動装置(7)に対して制動力を発生させないように制御する一方、前記レーザーセンサ(9)が前記運転席(41)に運転手(M)が居ないことを検出しているときは前記補助制動装置(7)に対して制動力を発生させるように制御する制御手段(10)を有している、
ことを特徴とする軌陸作業車の逸走防止装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記補助制動装置(7)は、前記鉄輪(31)に対する制動回路(60)中に、前記レーザーセンサ(9)からの信号で操作されるソレノイドバルブ(71)を有しているとともに、
該ソレノイドバルブ(71)を前記通常制動装置(6)の手動ブレーキバルブ(63)と並列に設けて、前記ソレノイドバルブ(71)が操作されることにより前記通常制動装置(6)の鉄輪ブレーキ(35)を作動させるようにしている、
ことを特徴とする軌陸作業車の逸走防止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−255855(P2011−255855A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134081(P2010−134081)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000148759)株式会社タダノ (419)
【Fターム(参考)】