説明

軟磁性粉末、造粒粉、圧粉磁心、電磁部品及び圧粉磁心の製造方法

【課題】特に高温域でのヒステリシス損が低い圧粉磁心を得るための軟磁性粉末を提供する。
【解決手段】Fe、Si、およびAlを含む軟磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成した複合磁性粒子の集合体である軟磁性粉末において、Siの含有量をa質量%、Alの含有量をb質量%としたとき、次の式(1)、(2)を満たす。式(1)…27≦2.5a+b≦29、式(2)…6≦b≦9。このような軟磁性粉末であれば、この軟磁性粉末を用いて得られた圧粉磁心の高温環境におけるヒステリシス損を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末、その軟磁性粉末を造粒した造粒粉、造粒粉を用いた圧粉磁心、圧粉磁心を用いた電磁部品、および圧粉磁心の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源やDC/DCコンバーターなど、エネルギーを変換する回路で、チョークコイルなどを代表例とするインダクタが使用される。インダクタの構成例として、軟磁性粉末の圧粉成形体を焼成して得られた圧粉磁心と、圧粉磁心の外周に巻線を巻回して構成したコイルとを備えるものが知られている。
【0003】
上記圧粉磁心は、例えば以下のようにして作製される(例えば、特許文献1などを参照)。まず、軟磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成した複合磁性粒子の集合体である軟磁性粉末を用意する。そして、この軟磁性粉末を所定の形状に加圧成形し、その成形体を熱処理することで、圧粉磁心を作製する。このような方法により得られた圧粉磁心によれば、酸化シリコーンの絶縁被膜により軟磁性粒子同士の絶縁が確保され、大きな直流電流が重畳されてもインダクタンスが極端に低下しないとされる。
【0004】
ここで、圧粉磁心に求められる特性として、鉄損と呼ばれるエネルギー損失を低減することが挙げられる。鉄損は、概ね渦電流損とヒステリシス損との和で表され、特に高周波での使用において顕著となる。鉄損のうち渦電流損は、圧粉磁心に含まれる各軟磁性粒子同士の絶縁を確保することで低減できる。一方、ヒステリシス損は、軟磁性粒子の組成を調節することによって低減できる。例えば、Fe−Si−Al合金、いわゆるセンダスト合金は、圧粉磁心のヒステリシス損を低減させることができる上、圧粉磁心の比透磁率を向上させることもできるため、軟磁性粒子として好適に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−319652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年のエネルギー問題への関心が高まる中、圧粉磁心に要求される特性も厳しくなってきており、よりエネルギー損失が少ない圧粉磁心の開発が望まれている。特に、近年発達の目覚しいハイブリッド自動車などに搭載されるコンバーターなどは、100℃以上の高温域で使用されるため、コンバーターに用いられる圧粉磁心にも、この温度域でのエネルギー損失が低いことが求められる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、特に高温域でのヒステリシス損が低い圧粉磁心を得るための軟磁性粉末、および造粒粉を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、特に高温域でのヒステリシス損が低い圧粉磁心とその製造方法、並びにその圧粉磁心を用いた電磁部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔軟磁性粉末〕
本発明軟磁性粉末は、Fe、Si、およびAlを含む軟磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成した複合磁性粒子の集合体である軟磁性粉末であって、上記軟磁性粒子におけるSi含有量をa質量%、Alの含有量をb質量%としたとき、以下の式(1)、(2)を満たすことを特徴とする。
式(1)…27≦2.5a+b≦29
式(2)…6≦b≦9
【0010】
上記構成を備える軟磁性粉末であれば、この軟磁性粉末を用いて得られた圧粉磁心のエネルギー損失、特に高温環境におけるヒステリシス損を低減できる。特に、SiとAlの含有量を示すa,bは、以下の式(3)、(4)を満たすようにさらに限定することで、より圧粉磁心のヒステリシス損を低減できる。
式(3)…978/35≦18/7a+b≦1023/35
式(4)…6.6≦b≦8.4
【0011】
本発明軟磁性粉末の一形態として、軟磁性粒子におけるOの含有量が0.2質量%未満(0質量%を含む)であり、かつMnの含有量が0.3質量%以下(0質量%を含む)であり、かつNiの含有量が0.3質量%以下(0質量%を含む)であることが好ましい。
【0012】
軟磁性粉末における軟磁性粒子中のO、MnおよびNi含有量を少なくすることで、この軟磁性粉末を用いて得られた圧粉磁心の高温環境におけるヒステリシス損を効果的に低減できる。
【0013】
本発明軟磁性粉末の一形態として、軟磁性粒子の表面に形成される絶縁被膜を、SiおよびOを含む無機質からなる無機絶縁層を含む絶縁被膜とすることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、軟磁性粉末から圧粉磁心を作製する際、粉末を加圧する工程において絶縁被膜が損傷し難い。その結果、出来上がる圧粉磁心において軟磁性粒子同士の絶縁が十分に確保され、高透磁率、低鉄損(低ヒステリシス損)の圧粉磁心を得ることができる。
【0015】
〔造粒粉〕
本発明の造粒粉は、加圧により成形体とされ、その成形体の焼成により磁心用焼成体とされる造粒粉であって、上記本発明の軟磁性粉末と、成形時に保形材となって成形体を保形する成形用樹脂とを備える。そして、本発明造粒粉は、これら軟磁性粉末、及び成形用樹脂が粒状に一体化されてなることを特徴とする。
【0016】
この構成の造粒粉によれば、エネルギー損失の少ない圧粉磁心、特に高温環境でのヒステリシス損が少ない圧粉磁心を得ることができる。このような成形用樹脂としては、例えばアクリル樹脂が好ましい。アクリル樹脂であれば、成形時の変形性と、成形時の機械的強度を両立することができる。
【0017】
また、本発明造粒粉の一形態として、焼成後に焼成体を補強する焼成用樹脂を備えていても良い。この場合、造粒粉は、軟磁性粉末と上記焼成用樹脂と成形用樹脂とが粒状に一体化されて構成される。このような焼成用樹脂としては、例えばシリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂であれば、成形時の変形性と、焼成後の機械的強度を両立することができる。
【0018】
〔圧粉磁心〕
本発明圧粉磁心は、複数の軟磁性粒子と、これら軟磁性粒子間に介在される絶縁層とを備える。この圧粉磁心に用いられる軟磁性粒子は、Fe、Si、およびAlを含み、Siの含有量をa質量%、Alの含有量をb質量%としたとき、以下の式(1)、(2)を満たすことを特徴とする。
式(1)…27≦2.5a+b≦29
式(2)…6≦b≦9
【0019】
上記構成を備える圧粉磁心は、高温域でのヒステリシス損が小さな圧粉磁心となる。特に、SiとAlの含有量を示すa,bは、以下の式(3)、(4)を満たすようにさらに限定することが好ましい。
式(3)…978/35≦18/7a+b≦1023/35
式(4)…6.6≦b≦8.4
【0020】
本発明圧粉磁心の一形態として、軟磁性粒子中のOの含有量が0.2質量%未満(0質量%を含む)であり、かつMnの含有量が0.3質量%以下(0質量%を含む)であり、かつNiの含有量が0.3質量%以下(0質量%を含む)であることが好ましい。
【0021】
軟磁性粒子中のO、MnおよびNiの含有量を限定することで、圧粉磁心のヒステリシス損を効果的に低減できる。
【0022】
本発明圧粉磁心の一形態として、絶縁層は、軟磁性粒子の表面に形成されるSiおよびOを含む無機絶縁層を有することが好ましい。
【0023】
当該粒子の表面に無機絶縁層が形成されていることで、軟磁性粒子同士の絶縁を確保することができる。その結果、圧粉磁心の渦電流損を低減できる。
【0024】
本発明圧粉磁心は、上記本発明造粒粉を加圧により成形し、その成形体を熱処理して得られたことを特徴とする。
【0025】
軟磁性粒子の組成が限定された造粒粉を使用することで、高温域でのヒステリシス損が小さな圧粉磁心とできる。
【0026】
〔圧粉磁心の製造方法〕
本発明圧粉磁心の製造方法は、軟磁性粉末を用いて成形体を形成し、その成形体を焼成して圧粉磁心とする圧粉磁心の製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする。
本発明軟磁性粉末を用意する工程。
この軟磁性粉末に、上記成形体を保形するための成形用樹脂を混合して造粒する工程。
この造粒粉を所定の形状に圧縮成形して成形体とする工程。
この成形体を焼成して圧粉磁心とする工程。
【0027】
この方法によれば、本発明の圧粉磁心を容易に得ることができる。
【0028】
〔電磁部品〕
本発明電磁部品は、本発明圧粉磁心と、この圧粉磁心の外側に配されるコイルであり、巻線を巻回して構成されたコイルとを備えることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、特に高温でのヒステリシス損が低く、比較的透磁率の高い圧粉磁心を持った電磁部品とすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の軟磁性粉末や造粒粉によれば、高周波で高温の使用環境下でのヒステリシス損が低く、比較的透磁率の高い圧粉磁心を得ることができる。
【0031】
本発明圧粉磁心によれば、高周波で高温の使用環境下で優れた特性を発揮する。
【0032】
本発明圧粉磁心の製造方法によれば、高周波で高温の使用環境下で優れた特性を発揮する圧粉磁心を容易に製造できる。
【0033】
本発明電磁部品によれば、高周波で高温の使用環境下で優れた特性を発揮するインダクタを構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例で作製した圧粉磁心におけるSi含有量とAl含有量と鉄損の関係を示すグラフであって、横軸はAlの含有量、縦軸は鉄損である。
【図2】実施例で作製した圧粉磁心におけるSi含有量とAl含有量と鉄損の関係を示すグラフであって、横軸はSiの含有量、縦軸はAlの含有量である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の軟磁性粉末、造粒粉、圧粉磁心、電磁部品を順次説明する。
【0036】
〔軟磁性粉末〕
<構造>
本発明の軟磁性粉末は、軟磁性粒子と、その外周面に形成される絶縁被膜とを備える複合磁性粒子の集合体である。
【0037】
(軟磁性粒子)
軟磁性粒子は、Fe−Si−Al系合金、いわゆるセンダスト合金である。この軟磁性粒子におけるSiの含有量とAlの含有量とを限定することで、高温でのヒステリシス損が小さな軟磁性粒子とすることができる。具体的には、Siの含有量をa質量%、Alの含有量をb質量%としたとき、以下の式(1)、(2)を満たす。
式(1)…27≦2.5a+b≦29
式(2)…6≦b≦9
【0038】
軟磁性粒子におけるa,bのより好ましい含有量は、以下の式(3)、(4)を満たすものである。
式(3)…978/35≦18/7a+b≦1023/35
式(4)…6.6≦b≦8.4
【0039】
また、軟磁性粒子におけるOは、軟磁性粒子のヒステリシス損を増加させる要因となる。そのため、軟磁性粒子における含有量は0.2質量%未満とすることが好ましい。軟磁性粒子におけるより好ましいO含有量は、0.1質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0040】
さらに、軟磁性粒子におけるMn含有量とNi含有量は両方とも0.3質量%以下とすることが好ましい。これらMn,Niは、軟磁性粒子のヒステリシス損を増加させる要因となる。そのため、Mn,Niの含有量はそれぞれ0.2質量%以下とすることが好ましく、最も好ましくは0質量%である。
【0041】
軟磁性粒子は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法などのアトマイズ法で製造されたものが好ましい。水アトマイズ法で製造された軟磁性粒子は、粒子表面に凹凸が多いため、その凹凸の噛合により高強度の焼成体を得やすい。一方、ガスアトマイズ法で製造された軟磁性粒子は、その粒子形状がほぼ球形のため、絶縁被膜を突き破るような凹凸が少なくて好ましい。また、軟磁性粒子の表面には、自然酸化膜が形成されていても良い。
【0042】
(絶縁被膜)
絶縁被膜は、例えばSiおよびOを含む無機質からなる無機絶縁層を備える。無機絶縁膜は、軟磁性粒子の外周面を覆うことで、軟磁性粉末間の絶縁を確保する。このSiおよびOを含む無機絶縁層は、高硬度で、後に軟磁性粉末を用いた造粒粉を圧縮して成形体を形成する際に、その加圧力で破壊されることがなく、かつ成形体を焼成した際の熱にも分解されることがない。このようなSiおよびOを含む無機質としては、代表的にはSiOを挙げることができるが、そのSiO中にSiO、Siの少なくとも一方が含まれていても良い。また、珪酸ソーダ(水ガラス)等の珪酸塩でも良い。SiおよびOを含む無機質からなる無機絶縁層としては、例えば、酸素を含む雰囲気中でシリコーン樹脂を熱処理することにより形成した被膜や、水ガラスを被覆することにより形成した被膜が挙げられる。
【0043】
上記無機絶縁層の厚さは、20nm以上、1μm以下とすることが好ましい。当該厚みを下限値以上とすることで、軟磁性粒子間の絶縁を確保すると共に、造粒粉圧縮時の加圧力で破壊されない機械的強度を有する無機絶縁層とすることができる。また、当該厚みを上限値以下とすることで、軟磁性粉末から圧粉磁心を作製したときに、その圧粉磁心における軟磁性粒子の量を十分に確保することができる。
【0044】
<製造方法>
本発明軟磁性粉末は、分級、及び絶縁被覆を主たる工程とする製造方法により得られる。
【0045】
(分級)
圧粉磁心における軟磁性粒子の粒径は、およそ40〜150μmの範囲とすることが好ましく、このような粒径の粉末を用いれば、1kHz以上の高周波域で使用したときに渦電流損の増大抑制に効果的である。そこで、用意した軟磁性粉末が所定の粒径を有する軟磁性粒子の集合体となるように分級する操作を行うことが好ましい。この分級は、代表的には、所定メッシュサイズのふるいを用いて行えばよい。
【0046】
(絶縁被覆)
分級された軟磁性粒子の集合体である軟磁性粉末は、絶縁剤と混合される。絶縁剤は、低分子のシリコーン樹脂、または水ガラス等の珪酸塩の水溶液が好ましい。この混合は、ミキサーなどで行うことが好適である。絶縁剤の配合量は、混合する軟磁性粒子の比表面積に応じて選択することが好ましい。軟磁性粒子の比表面積に応じて絶縁剤の配合量を決定することで、所定の厚みの絶縁被膜を軟磁性粒子の外周面に形成した複合磁性粒子を作製することができる。軟磁性粒子と絶縁剤との配合量は、例えば両者の混合物に対して絶縁剤が0.02〜1.8質量%程度となるようにすることが挙げられるが、より好ましくは0.05〜1.5質量%、さらに好ましくは0.1〜1.0質量%である。
【0047】
絶縁剤がシリコーン樹脂の場合は、被覆後に熱処理を行い、シリコーン樹脂を分解してガラス化することが好ましい。好ましい熱処理温度は、400℃〜1000℃であり、さらに好ましい熱処理温度は、600℃〜900℃である。また、好ましい熱処理時間は30分〜2時間程度である。
【0048】
絶縁剤が珪酸塩の水溶液の場合は、被覆後に50〜100℃で乾燥を行うのみで良い。また、次工程の造粒と連続で実施しても良く、シリコーン樹脂と比べて取扱が簡便である。
【0049】
〔造粒粉〕
<構造>
上記の軟磁性粉末は、さらに成形用樹脂および焼成用樹脂と混合されて造粒粉とされる。この造粒粉は、少なくとも成形用樹脂と軟磁性粉末が一体化されており、必要に応じて、さらに焼成用樹脂も一体化されていても良い。
【0050】
(成形用樹脂)
成形用樹脂は、軟磁性粉末を圧縮して成形体とする場合、成形体を保形するための樹脂であり、成形時の変形性と、成形時の機械的強度の両立の観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂の他、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレン樹脂等が利用できる。この成型用樹脂は、成形体の焼成時に消失する。
【0051】
(焼成用樹脂)
焼成用樹脂は、軟磁性粉末を圧縮した成形体を焼成することで焼成体とした場合、セラミックス系の化合物となって軟磁性粉末を保持する保形材となる。代表的には、焼成用樹脂にはシリコーン樹脂が用いられる。そして、このシリコーン樹脂は、後述するように、焼成過程でSi、C、及びOを含む非晶質体の保形材になっていると推定され、焼成後も消失しない。
【0052】
<製造方法>
造粒粉は、軟磁性粉末および成形用樹脂、必要に応じてさらに焼成用樹脂をミキサーなどで混合することにより製造する。この混合により、通常、数個の軟磁性粉末が成形用樹脂(必要に応じて焼成用樹脂を含んでいても良い)で一体化された造粒粉の単位粒子が構成される。成形用樹脂及び焼成用樹脂は、適宜な溶剤により適切な粘度の溶液に調整して軟磁性粉末と混合しても良い。
【0053】
軟磁性粉末と成形用樹脂の混合物(焼成用樹脂も添加する場合、軟磁性粉末、焼成用樹脂及び成形体樹脂の合計混合物)は、添加する樹脂の合計量が混合物の0.5〜3質量%となるように混合することが好ましい。この下限以上の樹脂含有量とすることで、成形体または焼成体(即ち、圧粉磁心)を十分に保形することができ、逆に上限以下とすることで、混合物中の樹脂量が適量となり、成形体や圧粉磁心を高密度化することができる。
【0054】
〔成形体〕
<構造>
成形体は、上記造粒粉を所定の形状に加圧成形したものである。つまり、この成形体は、軟磁性粉末が、成形用樹脂、必要に応じて焼成用樹脂により一体化された状態となっている。ここで用いられている軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子は、この成形時の圧力により実質的に変形しないため、軟磁性粒子の外周に形成された高硬度の無機絶縁層も損傷が抑制される。成形体の形状は、電磁部品の磁性コアの形状に応じて選択すれば良い。
【0055】
<製造方法>
上記成形体は、造粒粉を金型に供給する工程と、金型内の造粒粉を加圧して成形体とする工程とを含む方法により得られる。
【0056】
ここで、造粒粉を加圧する圧力は、10〜12ton/cm程度が好ましい。圧力を下限値以上とすることで、高密度の成形体を得ることができる。また、圧力を上限値以下とすることで、軟磁性粒子の変形に伴う無機絶縁層の損傷を抑制することができる。この加圧は、常温下でよいが、成形用樹脂として熱可塑性樹脂を使用した場合には樹脂のガラス転移温度以上で成形することが好ましい。これによって成形体の密度と強度の向上を図ることができる。
【0057】
〔圧粉磁心〕
<構造>
本発明圧粉磁心は、上述した軟磁性粒子と、この軟磁性粒子間に介在される絶縁層とを備える。
【0058】
軟磁性粒子間に介在する絶縁層は、上述したように、軟磁性粒子の外周面に形成されたSiおよびOを含む無機質からなる無機絶縁層を有する。この粒子表面の無機絶縁層は、焼成後もほぼそのまま残存して、確実に軟磁性粉末同士の絶縁を確保する。また、成形体を作製する際に焼成用樹脂を用いた場合、軟磁性粒子の表面に形成される無機絶縁層(第1層)の外周に、さらに焼成用樹脂を熱処理することで得られる無機絶縁層(第2層)が形成される。ここで、焼成用樹脂がシリコーン樹脂であれば、焼成用樹脂を熱処理することで得られる第2層も、SiおよびOを含む無機質でできたものとなる。
【0059】
<製造方法>
このような圧粉磁心は、上述した成形体に熱処理を施すことで得られる。この熱処理の加熱温度は、600℃〜900℃とすることが好ましい。また、加熱時間は、30分〜2時間程度が好適である。焼成前の成形体を構成する軟磁性粉末には多くの歪が導入されているが、前記条件で成形体を熱処理すれば、その歪を十分に除去することができる。その他、この熱処理の雰囲気は、窒素雰囲気などの不活性ガス雰囲気、または減圧雰囲気とすることが好ましい。
【0060】
〔電磁部品〕
本発明の電磁部品は、磁性コアとコイルとを備える。磁性コアは、上述した圧粉磁心からなる。磁性コアの形状は、環状、棒状など、E型、I型コアなどが挙げられる。一方、コイルは、導線表面に絶縁被覆を設けた巻線を巻回して構成される。巻線の断面形状は、丸や矩形など種々の形状が利用できる。例えば、丸線を螺旋状に巻回して円筒状のコイルとしたり、平角線を螺旋状にエッジワイズ巻きして角筒状のコイルとしたりすることが挙げられる。
【0061】
この電磁部品は、磁性コアの外周に巻線を巻回して構成しても良いし、予め螺旋状に形成した空芯コイルを磁性コアの外周にはめ込んで構成しても良い。
【0062】
この電磁部品の具体例としては、高周波チョークコイル、高周波同調用コイル、バーアンテナコイル、電源用チョークコイル、電源トランス、スイッチング電源用トランス、リアクトルなどが挙げられる。
【実施例1】
【0063】
以下の条件で軟磁性粉末の作製、造粒粉の生成、成形体の成形、成形体の焼成を行って圧粉磁心の試験片を作製し、その試験片について磁気特性を評価した。
【0064】
<試料の作製>
まず、組成が異なる複数種の軟磁性粉末を用意した。軟磁性粉末は軟磁性粒子の集合体である。各軟磁性粉末の組成は、後段の表1,2に示すように、Fe−a質量%Si−b質量%Al(a=7.0〜9.5;b=4.0〜10.0)である。また、用意した各軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子の平均粒径は、ほぼ共通しており、およそ60μmであった。
【0065】
次に、各軟磁性粉末をシリコーン樹脂とミキサーで混合して、粒子表面にシリコーン樹脂被膜を形成した。軟磁性粉末とシリコーン樹脂との配合量は、両者の混合物に対してシリコーン樹脂が0.3質量%となるようにする。
【0066】
続いて、シリコーン樹脂被膜を形成した軟磁性粉末に大気雰囲気で180℃×1時間の熱処理を施して、樹脂を硬化させた。この時点では、シリコーン樹脂はガラス化していない。その後、得られたシリコーン樹脂被膜付きの軟磁性粉末をふるいにかけて粒子同士の接合をほぐした。
【0067】
次に、得られたシリコーン樹脂被膜付きの軟磁性粉末に大気雰囲気で600℃×1時間の熱処理を施し、シリコーン樹脂被膜をガラス化し、SiおよびOを含む無機質からなる無機絶縁層とした。無機絶縁層の厚みは約120nmである。無機絶縁層付きの軟磁性粉末が得られたら、解砕を行って粒子同士の接合を分離する。
【0068】
以上の工程により、軟磁性粒子の表面にSiおよびOを含む無機絶縁被膜を形成した複合磁性粒子の集合体である軟磁性粉末を作製した。
【0069】
得られた軟磁性粉末に成形用樹脂と焼成用樹脂を混合して、造粒粉を作製した。造粒粉中の軟磁性粉末と成形用樹脂と焼成用樹脂との混合比は、質量比で100:1:0.5である。成形用樹脂にはアクリル樹脂を、焼成用樹脂にはシリコーン樹脂を用いた。このシリコーン樹脂は、無機絶縁層の形成に使用したシリコーン樹脂とは別のものであり、ポリシロキサンを主成分とする高分子のシリコーンワニスである。
【0070】
次に、各試料の造粒粉を金型に供給し、圧縮することで成形体とする。この加圧成形時の面圧は10ton/cmである。この面圧であれば、成形時に軟磁性粒子は実質的に変形しない。
【0071】
そして、得られた成形体に、窒素雰囲気下で800℃×1時間の熱処理を施し、圧粉磁心とする。このとき、無機絶縁被膜は分解されずにそのまま粒子表面に存在し、成形用樹脂は実質的に消失し、焼成用樹脂はSi、C、およびOを含む非晶質体となっていると考えられる。完成させた圧粉磁心からなる試験片は、リング状で外径34mm、内径20mm、厚み5mmであった。
【0072】
<評価>
上述のようにして作製した各試料について、次に示す手順で磁気特性を測定した。
【0073】
まず、リング状の試験片に巻線を施し、試験片の磁気特性を測定するための測定部材を作製した。この測定部材について、岩通計測株式会社製B−H/μ アナライザ SY−8258を用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数:100kHz、環境温度:120℃における鉄損W1/100k@120℃を測定した。その結果を表1、2に示す。各試料の評価として、W1/100k@120℃が350以下のものを▲、350超400以下のものを■、400超のものを◇として、表中の右端欄に示す。
【0074】
なお、鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損からなるが、本実施例では各試料間に軟磁性粒子の組成以外の差異はないので、鉄損の大小をヒステリシス損の大小と見做すことができる。因みに、鉄損の周波数曲線を下記の3つの式で最小二乗法によりフィッティングし、ヒステリシス損および渦電流損を算出することもできる。
(鉄損)=(ヒステリシス損)+(渦電流損)
(ヒステリシス損)=(ヒステリシス損係数)×(周波数)
(渦電流損)=(渦電流損係数)×(周波数)
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
まず、表1,2の試料1〜58の結果を、横軸をAl含有量、縦軸を鉄損W1/100k@120℃とした図1のグラフにプロットした。このグラフから、Al含有量がおよそ6.0〜9.0付近で鉄損W1/100k@120℃が減少する傾向にあることがわかった。しかし、Si含有量によっては鉄損W1/100k@120℃が700を超える場合もあった。そこで、横軸をAl含有量、縦軸をSi含有量とした図2のグラフに測定結果をプロット(プロットのマークは、表1,2と共通)した。この図2の結果から、試料1〜58(O,Mn,Niの含有量は全て0.01質量%)のSi含有量をa質量%、Alの含有量をb質量%としたとき、27≦2.5a+b≦29で、かつ6≦b≦9を満たす実線の平行四辺形の範囲内にある試料の鉄損W1/100k@120℃は、400以下であることがわかった。また、試料1〜58のうち、上記a,bが、978/35≦18/7a+b≦1023/35で、かつ6.6≦b≦8.4を満たす破線の平行四辺形の範囲内にある試料の鉄損W1/100k@120℃は、350以下であることがわかった。
【0078】
次に、表1の試料17と表2の試料59〜68を比較することで、O,Mn,Niの含有量が小さくなるほど、鉄損W1/100k@120℃が低くなることが分かった。なお、試料62、65、68の鉄損W1/100k@120℃は400を超えるものの、他の評価◇の試料の鉄損W1/100k@120℃に比べて有意に小さかった。
【実施例2】
【0079】
まず、組成がFe−8.0質量%Si−8.0質量%Alの軟磁性粉末(軟磁性粉末中のO,Mn,Niの含有量はすべて、0.01質量%)と、珪酸カリウムを主成分とする水溶液を用意する。軟磁性粉末の平均粒径は、およそ60μmであった。また、水溶液の珪酸カリウムの濃度は30質量%とした。この軟磁性粉末と水溶液をミキサーで混合し、軟磁性粒子の表面に珪酸カリウムを主成分とする無機絶縁層を形成した。軟磁性粉末と水溶液との配合量は、両者の混合物に対して水溶液の固形分が0.3質量%となるようにした。
【0080】
次に、得られた軟磁性粉末に成形用樹脂を混合し、造粒粉を作製した。造粒粉中の軟磁性粉末と成形用樹脂の混合比は、質量比で100:1である。成形用樹脂にはアクリル樹脂を用いた。続いて、造粒粉を金型に供給し、圧縮することで成形体とした。この加圧成形時の面圧は10ton/cmとした。そして、得られた成形体に、窒素雰囲気下で775℃×1時間の熱処理を施し、圧粉磁心とした。完成させた圧粉磁心からなる試験片は、リング状で外径34mm、内径20mm、厚み5mmであった。
【0081】
作製した試験片に巻線を施し、試験片の磁気特性を測定するための測定部材(試料69)を作製した。この試料69について、実施例1と同様の方法で、鉄損W1/100k@120℃を測定した。その結果、表3に示すように、試料69の鉄損W1/100k@120℃は350以下となっており、試料69のエネルギー損失が低いことがわかった。
【表3】

【0082】
以上の結果から、本発明に規定するSi含有量とAl含有量であるセンダスト合金であれば、120℃という高温環境下でのエネルギー損失が少ない圧粉磁心を作製できることが明らかになった。
【0083】
なお、本発明の実施例は、上述した実施例に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の軟磁性粉末、造粒粉、及び圧粉磁心の製造方法は、各種インダクタに用いられる圧粉磁心を得るのに好適に利用可能である。また、本発明の電磁部品は、高周波チョークコイル、高周波同調用コイル、バーアンテナコイル、電源用チョークコイル、電源トランス、スイッチング電源用トランス、リアクトルなどに好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Si、およびAlを含む軟磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成した複合磁性粒子の集合体である軟磁性粉末であって、
前記軟磁性粒子におけるSi含有量をa質量%、Alの含有量をb質量%としたとき、
27≦2.5a+b≦29
6≦b≦9
を満たすことを特徴とする軟磁性粉末。
【請求項2】
前記aおよびbは、
978/35≦18/7a+b≦1023/35
6.6≦b≦8.4
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項3】
前記軟磁性粒子におけるOの含有量が0.2質量%未満であり、かつMnの含有量が0.3質量%以下であり、かつNiの含有量が0.3質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
前記絶縁被膜は、SiおよびOを含む無機質からなる無機絶縁層を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の軟磁性粉末。
【請求項5】
加圧により成形体とされ、その成形体の焼成により圧粉磁心とされる造粒粉であって、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の軟磁性粉末と、
成形時に保形材となって成形体を保形する成形用樹脂と、を備え、
これら軟磁性粉末及び成形用樹脂が粒状に一体化されてなることを特徴とする造粒粉。
【請求項6】
前記成形用樹脂はアクリル樹脂を含むことを特徴とする請求項5に記載の造粒粉。
【請求項7】
複数の軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子間に介在される絶縁層とを備える圧粉磁心であって、
前記軟磁性粒子は、Fe、Si、およびAlを含み、
Siの含有量をa質量%、Alの含有量をb質量%としたとき、
27≦2.5a+b≦29
6≦b≦9
を満たすことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項8】
前記軟磁性粒子におけるOの含有量が0.2質量%未満であり、かつMnの含有量が0.3質量%以下であり、かつNiの含有量が0.3質量%以下であることを特徴とする請求項7に記載の圧粉磁心。
【請求項9】
前記絶縁層は、前記軟磁性粒子の表面に形成されるSiおよびOを含む無機絶縁層を有することを特徴とする請求項7または8に記載の圧粉磁心。
【請求項10】
請求項5または6に記載の造粒粉を加圧により成形し、その成形体を熱処理することで得られたことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項11】
軟磁性粉末を用いて成形体を形成し、その成形体を焼成して圧粉磁心とする圧粉磁心の製造方法であって、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の軟磁性粉末を用意する工程と、
この軟磁性粉末に、前記成形体を保形するための成形用樹脂を混合して造粒する工程と、
この造粒粉を所定の形状に圧縮成形して成形体とする工程と、
この成形体を焼成して圧粉磁心とする工程と、
を含むことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の圧粉磁心と、
巻線を巻回して構成され、前記圧粉磁心の外側に配されるコイルと、
を備えることを特徴とする電磁部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−9825(P2012−9825A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94804(P2011−94804)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】