説明

軟骨再生促進剤

【課題】変形性関節症などの軟骨疾患に安全で有効な軟骨再生促進剤を提供。
【解決手段】4−(5−ベンゾール[1,3]ジオキソール−5−イル−4−ピリジン−2−イル−1H−イミダゾール−2−イル)−ベンズアミドまたはその水和物を含有することを特徴とする軟骨再生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−(5−ベンゾール[1,3]ジオキソール−5−イル−4−ピリジン−2−イル−1H−イミダゾ−ル−2−イル)−ベンズアミド(以下、BPIBと略記する。)またはその水和物を含有する軟骨再生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症は、50歳以上の人口の2〜3割が罹患しているとされ、患者数が最も多い関節疾患である。特に近年、高齢化社会の進行に伴い、患者数は増加傾向にあり、多くの患者が不自由な生活を余儀なくされている。この疾患は、加齢および遺伝的要因による関節構成要素の変性、あるいは肥満、労働、スポーツによる関節への負荷などが原因として考えられている。実際には、骨端表面に存在し骨動を担う軟骨が変形あるいは消失することにより関節が滑らかに動かなくなることで発症すると説明される。症状が軽度の場合、温熱療法やけん引といった理学療法、あるいは鎮痛薬や抗炎症薬を用いた緩和療法がとられるが、症状が重い場合には、ヒアルロン酸の関節への注入や手術による人工関節置換が実施される。しかし、本疾患の理想的治療は、変形あるいは消失した軟骨を修復あるいは再生することによる根治治療である。
【0003】
軟骨および骨の形成を誘導するとして、BMP(Bone Morphogenetic Protein)を有効成分とする医薬品が海外の一部国で承認されている。BMPは最終的には骨形成を誘導しうる蛋白性因子であり、単独で異所性骨形成シグナルとして作用するサイトカインである。
【0004】
BMPが医療用治療剤として使用される際、その最も有効な担体として米国、欧州ではアテロペプタイドI型コラーゲンが使われている(特許文献1、非特許文献1参照)。しかし、この担体は生体由来であるためにわずかながら抗原性を有し、さらにプリオンなどの未知の物質が混入している可能性を完全には否定できないことから、現在、日本ではその使用は認められていない。また現在、BMPの安価な大量生産方法が確立されていないことも臨床での使用の妨げとなっている。
【0005】
現在BMPが医療用治療剤として対象とするのは骨であり、軟骨の治療には至っていない。しかしながら類似した効果を示す物質は存在しない。
【0006】
変形性関節症などの軟骨疾患の治療および予防に有効で安全な医薬品を得るためには、分散媒に分散可能な軟骨再生促進効果を有する物質を必要とする。
【0007】
BPIBは、動物の生体内において多くの細胞の増殖をコントロールする代表的な増殖サイトカインの一種であるトランスフォーミング増殖因子β1(Transforming growth factor−β superfamily type I: TGF−β1)や、細胞内シグナル伝達分子の一種であるSMAD2、或いはTGF−βに類縁するアクチビン受容体様キナーゼファミリー(activin receptor−like kinase family: ALKs)を抑制することが知られている。また、ALKファミリーの中でも、ALK−4(アクチビン1型受容体)、ALK−5(TGF−β1受容体)、ALK−7(nodal 1受容体)は抑制するが、残りのALKファミリーであるALK−1、ALK−2、ALK−3、ALK−6には影響しないことや、血管内皮細胞に存在する骨肉腫性細胞株MG63の増殖を抑制することなどが報告されている(非特許文献2,3参照)。しかし、BPIBが軟骨再生促進効果を有することについては未だ報告されていない。
【特許文献1】米国特許第4968590号明細書
【非特許文献1】The Journal of Bone and Joint Surgery, (US), 2001, 83, p.151−158.
【非特許文献2】Molecular Pharmacology, (US), 2001, 62, p.58-64.
【非特許文献3】Molecular Pharmacology, (US), 2001, 62, p.6574.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、変形性関節症などの軟骨疾患に安全で有効な軟骨再生促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の変形性関節疾患に関する課題を解決し得る化合物を見つけるべく、各種化合物を軟骨原基器官培養系に投与してスクリーニングを実施した。その結果、BPIBに軟骨原基を増大させる作用があることを発見した。さらに、その効果を確認するため、軟骨原基器官アッセイにおいてBPIBの濃度の変更、BMPとの相乗効果を検討し、BPIBに軟骨原基を増大させる効果を見出した。BPIBは水へ溶解し難いが、水溶液中で長時間の分散を可能とさせることにより、BPIBを必須成分とする軟骨再生促進剤からなる本発明に至った。
【0010】
請求項1に係る発明は、4−(5−ベンゾール[1,3]ジオキソール−5−イル−4−ピリジン−2−イル−1H−イミダゾ−ル−2−イル)−ベンズアミド又はその水和物を含有することを特徴とする軟骨再生促進剤に関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、ナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記ナノ粒子の粒子径が5nm〜1000nmであることを特徴とする請求項2に記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記ナノ粒子が分散剤により分散媒中に分散していることを特徴とする請求項3に記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0014】
請求項5に係る発明は、前記分散媒が水性溶媒であることを特徴とする請求項4に記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0015】
請求項6に係る発明は、前記分散媒が有機溶媒を含むことを特徴とする請求項4に記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0016】
請求項7に係る発明は、局所投与用であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0017】
請求項8に係る発明は、注射剤であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0018】
請求項9に係る発明は、経口投与剤であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0019】
請求項10に係る発明は、軟骨の減少が原因で発症する疾患または障害の予防又は治療用であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0020】
請求項11に係る発明は、前記疾患または障害が、変形性関節症、慢性関節リウマチ、離断性骨軟骨炎、関節軟骨の損傷、関節軟骨石灰化症、椎間板変性、無耳症、小耳症軟骨欠損、軟骨形成不全症、補綴具周囲の骨溶解、顎関節症および歯槽骨の溶解又は破壊を伴う歯周病、骨折、難治性骨折、小人症(四肢短縮型)から選択される少なくとも1であることを特徴とする請求項10に記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0021】
請求項12に係る発明は、骨の再生促進用であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の軟骨再生促進剤に関する。
【0022】
請求項13に係る発明は、骨欠損部へのインプラント生着促進用であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の軟骨再生促進剤に関する。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る発明によれば、軟骨再生促進剤を提供できるので、手術をすることなく減少した体内の軟骨の修復、再生が可能となる。また、手術中の投与により治癒速度を促進することが期待される。
【0024】
請求項2或いは2及び3に係る発明によれば、ナノ粒子に粒子化されたBPIBを含有する軟骨再生促進剤を提供できる。BPIBをナノ粒子に粒子化することにより、BPIBの軟骨再生促進効果を高めることができ、さらに、難溶性のBPIBを水性液剤とすることができる。
【0025】
請求項4乃至6に係る発明によれば、軟骨再生促進剤が分散媒中で分散剤の作用により長時間にわたりナノ粒子に粒子化されたBPIBの分散性を維持できる。そのため、長期保存可能な軟骨再生促進剤の提供が可能となる。また、コラーゲンなど、医薬材料として不適な材料を用いることなく分散媒中にBPIBを分散することが可能となる。これにより、医薬的に安全な懸濁態の軟骨再生促進剤を提供することができる。
【0026】
請求項7に係る発明によれば、軟骨再生促進剤を患部局所に直接投与できるため、少ない薬剤で患部局所において高い効果を得ることができる軟骨再生促進剤を提供できる。また、手術中投与を含む患部局所に投与することにより、患部以外の組織における軟骨組織の増加、増大などを回避できる。
【0027】
請求項8に係る発明によれば、難溶性のBPIBを含む注射剤を提供できる。
【0028】
請求項9に係る発明によれば、BPIBを含む経口投与剤を提供することができる。
【0029】
請求項10に係る発明によれば、軟骨の減少が原因で発症する疾患および障害の予防並びに治療を目的とした安全な軟骨再生促進剤の提供ができる。
【0030】
請求項11に係る発明によれば、変形性関節症、慢性関節リウマチ、離断性骨軟骨炎、関節軟骨の損傷、関節軟骨石灰化症、椎間板変性、無耳症、小耳症軟骨欠損、軟骨形成不全症、補綴具周囲の骨溶解、顎関節症および歯槽骨の溶解または破壊を伴う歯周病、骨折、難治性骨折、小人症(四肢短縮型)の脚延長術に有効であり、かつ安全な軟骨再生促進剤を提供することができる。
【0031】
請求項12に係る発明によれば、骨折などにおける骨の修復過程で仮骨形成を促進し得るので骨の修復、再生を促進することができ、かつ安全な軟骨再生促進剤を提供することができる。
【0032】
請求項13に係る発明によれば、骨欠損部へのインプラント生着を促進することができ、かつ安全な軟骨再生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明に用いられる「軟骨再生」の語は、軟骨生成促進作用、軟骨細胞増殖促進作用、軟骨細胞分化促進作用、軟骨石灰化抑制作用、軟骨分解抑制作用、軟骨膜増殖、軟骨膜細胞増殖、軟骨修復、軟骨形成および/または軟骨基質産生促進作用を含む。
【0034】
本発明に使用される4−(5−ベンゾ−ル[1,3]ジオキソ−ル−5−イル−4−ピリジン−2−イル−1H−イミダゾ−ル−2−イル)−ベンズアミド(4-(5-Benzol[1,3]dioxol-5-yl-4-pyridin-2-yl-1H-imidazol-2-yl)-benzamide;BPIB)は、下記式により示される常温で固体の生理活性ペプチドで、分子量384.4の低分子化合物である。
【0035】
【化1】

BPIBの化合物別名(シノニム)としては、4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−5−(2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]−ベンズアミド(4−[4−(1,3−Benzodioxol−5−yl)−5−(2−pyridinyl)−1H−imidazol−2−yl]−benzamide)、4−[4−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−5−(2−ピリジル)−1H−イミダゾール−2−イル]−ベンズアミド(4−[4−(3,4−Methylenedioxyphenyl)−5−(2−pyridyl)−1H−imidazol−2−yl]−benzamide)が挙げられる。BPIBは、公知の方法で製造することができ、また、BPIBは、市販のSB431542 hydrate(SIGMA社製;Product Number S4317)などを使用することもできる。
【0036】
BPIBの水和物としては、水分子1分子以上と開合または結合した状態のものが好ましく挙げられる。具体的水和物としては、例えば、1水和物、2水和物、3水和物、4水和物、5水和物などが挙げられる。
【0037】
BPIBまたはその水和物は、そのまま本発明の軟骨再生促進剤として用いることができるが、ナノサイズに粒子化することが好ましい。ナノサイズ粒子の粒子径は、約1000nm以下が好ましく、さらに約500nm以下が好ましく、とりわけ約200nm以下が好ましい。具体的な粒子径範囲は、例えば、約5nm〜1000nmが好ましく、さらに約5nm〜500nmが好ましく、とりわけ約5nm〜200nmが好ましい。前記粒子径範囲とすることにより、BPIBの軟骨再生促進効果を高めることができ、また製剤の安定性なども高めることができる。
【0038】
BPIBまたはその水和物をナノサイズに粒子化する方法は、特に限定されないが、以下の2工程を含む方法が好ましく挙げられる。
工程1:BPIBを粗粉砕する工程、
工程2:前記工程1で粗粉砕されたBPIBを、超音波印加(照射)または、超音波印加(照射)とレーザー照射により微粒子化する工程
以下、各工程ついて説明する。
【0039】
<工程1>
粗粉砕は、公知の粉砕機、好ましくは医療・医薬に使用される粉砕機であれば限定されず、例えばロール式粉砕機、高速回転衝撃式粉砕機、媒体式粉砕機、気流式粉砕機、剪断摩擦式粉砕機、などを用いて行うことができる。粉砕されたBPIBの粒子(微結晶)粒径は、約100μm以下が好ましい。
【0040】
この粒径の範囲内であれば、次工程におけるBPIBのナノ粒子化の効率を高めることができる。
【0041】
<工程2>
超音波の印加(照射)とレーザー照射は、BPIBと溶媒を接触させて溶媒存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、薬剤学的に許容される溶媒であれば特に限定されないが、水性溶媒が好ましい。水性溶媒としては、例えば、精製水、蒸留水、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖溶液などが好ましく挙げられる。接触は、溶媒にBPIBを添加してもよく、BPIBに溶媒を添加してもよい。
【0042】
溶媒とBPIBの割合は、BPIBのナノ粒子への粒子化効率を勘案して設定することが好ましく、溶媒1mLに対してBPIBを約10〜10000μgとすることが望ましい。前記範囲であれば、BPIBのナノ粒子への粒子化効率を高めることができる。
【0043】
超音波の印加(照射)時間は、例えば超音波のパルス周波数が1〜100kHzであれば、約1〜60分間程度が好ましい。これにより、水中のBPIBを数百nm〜1000nm程度まで微粒子化できる。さらに、BPIBの粒子径をさらに数百nm以下にするためレーザーを照射することが好ましい。以下にレーザー照射の好ましい方法につき説明する。
【0044】
超音波の印加(照射)を施した後、溶媒と微粒子化したBPIBを攪拌し、BPIBを溶媒中に分散することが好ましい。攪拌は、例えば、マグネチックスターラーなどの攪拌装置を用いて実施できる。ついで、更に攪拌を続けながら、レーザー照射装置によって分散媒中のBPIBに対してレーザーを照射する。分散媒中のBPIBに対してレーザーを照射すると、BPIBはレーザー光を吸収し、光吸収部において急激且つ局所的な温度上昇が生じ得る。この光吸収部の温度上昇は、レーザー光照射後瞬間的に起こり、一方、光吸収部周囲の温度上昇は熱伝導によって起こるため、光吸収部とその周辺部に著しい内部応力が生じて粒子にクラックが発生して破砕が起こり得る。
【0045】
照射するレーザーは、特に限定されるものではなく、紫外光、可視光、近赤外光または遠赤外光のいずれかの波長をもつレーザーを使用することも可能であり、レーザーの種類は、上述したような公知の固体レーザー、半導体レーザー、気体レーザー、液体レーザーの中から適宜選択して用いることができる。
【0046】
レーザーの波長は200〜800nm程度の波長のものを用いることが好ましい。前記波長であると、レーザーの光エネルギ−が溶媒に吸収され難くなるとともに、BPIBの破砕効率を高めることができる。
【0047】
照射されるレーザーの発振形式については、パルスレーザーを用いるのが望ましい。パルスレーザーとしては、BPIBの破砕効率の観点からパルス幅が数十フェムト秒〜数百ナノ秒のものを用いることが好ましい。その理由は、BPIBへのレーザー照射による熱影響を抑制できるとともに、BPIBをナノ粒子へ破砕する効率を高めることができるためである。
【0048】
パルスレーザーの励起光強度は適宜設定できるが、例えば1〜1000mJ/cm2とすることが好ましい。その理由は、BPIBの化学構造の破壊を抑制し、かつ、BPIBをナノ粒子へ破砕する効率を高めることができるためである。
【0049】
パルスの繰り返し周波数は、0.1〜1000Hzが好ましい。前記繰り返し周波数の範囲であれば、溶媒の温度上昇を抑制し、BPIBをナノ粒子へ破砕する効率を高めることができる。
【0050】
超音波印加(照射)または超音波とレーザーを照射した後、ナノ粒子化したBPIBを分離する。分離は、レーザー照射後のBPIB懸濁分散媒を静置若しくは遠心分離処理し、ナノ粒子化したBPIBを含む上澄液を回収することによってナノ粒子化したBPIBを分離できる。
【0051】
その他、本発明に使用し得るナノ粒子化法としては、乾式法と湿式法を組み合わせて砕いていくブレイクダウン法およびボトムアップ法などが挙げられる。ブレイクダウン法では、乾式の超微粉砕には衝撃摩砕式の高速回転型粉砕機やジェットミル、ボールミル、圧縮せん断型ミル(オングミル)やローラミルなどと分級機の組み合わせなどを用い、湿式法では乾式粉砕にみられるような付着凝集による粉体相の形成を抑えて、微細化の障害となるクッション効果の低減を図り、乾式法よりもさらに細かい粉砕が可能となる。ボトムアップ法では、良溶媒に溶解したBPIBを該当溶媒と相溶する貧溶媒中に混入し1000nm以下のナノ粒子を作製できる。
【0052】
ナノサイズ粒子としたBPIBは、通常のサイズの粒子に比べて、反応性が高く、分散媒中に分散しやすいなどの特徴を有する。粒子のナノ粒子化によって反応性が高まる理由は、比表面積と粒子活性度の増大に起因していると考えられる。粉粒体の比表面積は、概ね粒径に反比例する。例えば、1cm立方の角砂糖を1μmの立方体の粒子に分割すると個数は1兆倍に、比表面積は1万倍になる。
【0053】
また、粒径が10nmの粒子は、1μmの粒子に比べてさらに100倍比表面積が大きい。粒子の反応、溶解、結合、融合などは粒子界面で生じるので、これらの効果は粒子の比表面積に直接比例して増大する。一方、粒子が微細化する程、粒子表面にある、相互の結合力が弱く、反応しやすい原子の割合が増大するために、粒子の活性度が増大する。加えて、比表面積の増加に伴い、例えば分散媒中での浮力が増大し、より長時間にわたる分散維持が可能となる。その結果、例えばBPIBが軟骨の表面を長時間にわたり覆うことができるようになるため軟骨再生促進効果を増強できる。
【0054】
ナノ粒子化されたBPIBは、分散媒中に分散されていることが望ましい。分散媒としては、薬理学的に許容される水性溶媒が好ましく挙げられ、前記水性溶媒には、さらに有機溶媒を含有させることができる。水性溶媒としては、例えば精製水、注射用蒸留水、蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖溶液、などが挙げられる。有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、イソプロパノールまたはプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0055】
ナノ粒子化されたBPIBの分散を維持する方法としては、通常医薬品などに用いられる分散剤を使用できる。当該分散剤としては、薬理学的に許容される界面活性剤または増粘剤などが好適に挙げられる。
【0056】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(POE)−ポリオキシプロピレン(POP)ブロックコポリマー(例えば、ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188など)、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)などのPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE(60)硬化ヒマシ油などのPOE硬化ヒマシ油、POE(9)ラウリルエーテルなどのPOEアルキルエーテル類、POE(20)POP(4)セチルエーテルなどのPOE・POPアルキルエーテル類、POE(10)ノニルフェニルエーテルなどのPOEアルキルフェニルエーテル類などの非イオン性界面活性剤、アルキルジアミノエチルグリシンなどのグリシン型、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの酢酸ベタイン型、イミダゾリン型などの両性界面活性剤、POE(10)ラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのPOEアルキルエーテルリン酸およびその塩、ラウロイルメチルアラニンナトリウムなどのN−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸、N−ココイルメチルタウリンナトリウムなどのN−アシルタウリン塩、テトラデセンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、POE(3)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、POE(3)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのPOEアルキルエーテル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩などの陰イオン界面活性剤、アルキルアミン塩、アルキル4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど)、アルキルピリジウム塩(塩化セチルピリジウム、臭化セチルピリジウムなど)などの陽イオン界面活性剤などが挙げられる。なお、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0057】
増粘剤としては、例えば、多糖類またはその誘導体(アラビアゴム、カラヤゴム、キサンタンガム、キャロブガム、グアーガム、グアヤク脂、クインスシード、ダルマンガム、トラガント、ベンゾインゴム、ローカストビーンガム、カゼイン、寒天、アルギン酸、デキストリン、デキストラン、シクロデキストリンおよびその誘導体、カラギーナン、ゼラチン、ペクチン、デンプン、ポリガラツクロン酸、キチンおよびその誘導体、キトサンおよびその誘導体、エラスチン、ヘパリンヘパリノイド、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)、セラミド、セルロース誘導体(メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒエオロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、セルロースなど)、ポリビニルアルコール(完全または部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン(例えば、ポピドン K30など)、マクロゴール、ポリビニルメタアクレート、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンイミン、リボ核酸、デオキシリボ核酸など、およびその塩などが挙げられる。また、分散剤として、前記界面活性や増粘剤の他、等張化剤(マンニトールやグリセリン)なども使用することができる。
【0058】
上記分散剤のなかでも、特に、非イオン界面活性剤のモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(=ポリソルベート80)およびポロクサマー188(Pluronic F−68)、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンに代表されるシクロデキストリン類、ポピドン K−30に代表される水溶性高分子重合体などがナノ粒子化されたBPIBの分散を維持する目的としての使用に好適である。
【0059】
本発明に係る軟骨再生促進剤は、陸生または水生の脊椎動物に使用できる。陸生の脊椎動物としては、例えばヒト、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコ、フェレット、マウスおよびラットを含むげっ歯類、ニワトリ、ガチョウおよびシチメンチョウを含む鳥類、有袋類または爬虫類などが挙げられる。水生の脊椎動物としては、例えば、魚類や両性類などが挙げられる。
【0060】
本発明の軟骨再生促進剤によって再生される軟骨は、例えば、硝子軟骨、繊維軟骨、弾性軟骨等が挙げられる。硝子軟骨としては、例えば、関節軟骨、成長軟骨、気管軟骨、甲状軟骨などが挙げられる。繊維軟骨としては、例えば、椎間円板、恥骨結合、関節半月、関節円板などが挙げられる。弾性軟骨としては、例えば耳介軟骨や咽喉蓋の軟骨などが挙げられる。本発明の軟骨再生促進剤によって再生される軟骨として好ましくは、関節に存在する硝子軟骨、成長軟骨(小人症の脚延長促進)である。
【0061】
本発明に係る軟骨再生促進剤は、軟骨再生促進効果が有効に利用可能である限り、種々の用途に制限無く用いることが可能であるが、特に軟骨の変性または破壊による機能不全を伴う軟骨に係る疾患、あるいは先天的な軟骨の低形成や奇形の治療に有用である。このような疾患の例としては、例えば、変形性関節症、慢性関節リウマチ、離断性骨軟骨炎、関節軟骨の損傷、関節軟骨石灰化症、椎間板変性、無耳症、小耳症軟骨欠損、軟骨形成不全症(小人症)、補綴具周囲の骨溶解、顎関節症、歯槽骨の溶解または破壊を伴う歯周病などが挙げられる。また、本発明に係る軟骨再生促進剤は、例えば、骨折などの外傷や手術による骨の損傷または切除における修復過程の仮骨形成を促進し得るので難治性骨折や骨欠損の修復、再生促進に有用である。また、本発明に係る軟骨再生促進剤は、軟骨欠損部への軟骨細胞移植による軟骨修復において、移植用の軟骨細胞とともに用いることもできる。また、前記軟骨細胞移植に先立ち、移植に用いる軟骨細胞を本発明に係る軟骨再生促進剤を添加した培養液で増殖させることもできる。さらに、本発明に係る軟骨再生促進剤は、病気やけがにより失われた組織や器官にインプラント装着する場合に、インプラント生着を促進させるために、インプラントとともに用いることもできる。
【0062】
本発明に係る軟骨再生促進剤は、種々の投与方法、例えば、経口的にまたは非経口的に投与することができる。本発明に係る軟骨再生促進剤の適用部位が局所である場合、局所投与が好ましい。局所投与は、投与部位以外での軟骨の増殖や増大などを抑制できる。局所投与用の軟骨再生促進剤としては、軟骨組織が存在する部位の投与用が好ましく、例えば、関節腔内投与用が特に好ましく挙げられる。関節としては、例えば、顎関節、肩関節、肘関節、股関節、膝関節、骨折部(骨折で仮骨のできる部位)などが挙げられる。
【0063】
本発明に係る軟骨再生促進剤は、薬理学的に許容される担体と共に、種々の製剤に製造できる。前記製剤の形態としては、錠剤(トローチ剤、舌下錠、チュアブル剤などを含む)、顆粒剤、細粒剤、丸剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)などの経口固形製剤、例えばエリキシル剤またはシロップ剤などの経口液剤、例えば注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、点滴剤など)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、クリーム剤、パスタ剤、ローション剤、リニメント剤など)の非経口製剤などが挙げられる。これらの製剤は、速放性製剤または徐放性製剤などの放出制御製剤(例えば、徐放性マイクロカプセル)であってもよい。前記製剤は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば、日本薬局方に記載の方法などにより製造することができる。なお、製剤に含まれるBPIBの含有量は、疾患、剤型によって異なるが、一般に0.00001〜80重量%が望ましい。
【0064】
前記薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用される各種有機または無機担体物質などが挙げられ、製剤の種類に適した担体を適宜選択することが好ましい。
【0065】
経口固形製剤を製造する場合の担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤および滑沢剤などが挙げられる。賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、D−ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。結合剤としては、例えば、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、コロイドシリカ、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0066】
経口液剤を製造する場合の担体としては、溶剤、粘稠化剤、矯味剤、甘味剤、着色剤などが挙げられる。溶剤としては、例えば精製水などが好ましく挙げられる。粘稠化剤としては、例えば、スクロース、グルコース、マルトースデキストロースおよびフルクトースなどの糖類、ソルビトール、マンニトール、キシリトールおよびマルチトールなどの水素アルコール;およびポリデキストロース、キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、カラゲナン、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、マルトデキストリン、カルボマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびヒドロキシエチルセルロース(HEC)などのポリマーなどが挙げられる。矯味剤としては、例えば、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、グルタミン酸ナトリウム、5'−イノシン酸ナトリウム、5'−グアニル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0067】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられる。着色剤としては、例えば、水溶性食用タール色素(例、食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素)、水不溶性レーキ色素(例、前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩)、天然色素(例、β−カロチン、クロロフィル、ベンガラ)などが挙げられる。
【0068】
注射剤を製造する場合の担体としては、例えば、界面活性剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤または緩衝剤などが挙げられる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、無痛化剤などの添加物を用いることもできる。界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート(ポリソルベート80など)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物、ラウリル硫酸ナトリウムなどなどが挙げられる。溶剤としては、例えば、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油などが挙げられる。
【0069】
溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール、D−ソルビトール、ブドウ糖などが挙げられる。
【0070】
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸ナトリウム、L−システイン、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0071】
本発明に係る軟骨再生促進剤を外用剤として製造する場合、製剤の種類に適した基剤、例えば軟膏基剤、ゲル基剤、乳剤用基剤、懸濁用基剤、パップ用基剤または担体を適宜選択することが好ましい。軟膏基剤としては、例えば、一般に疎水性基剤としての油脂類、ロウ、炭化水素化合物などを用いることができる。具体的には、黄色ワセリン、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、プラスチベース、シリコーンなどの鉱物性基剤、ミツロウ、動植物性油脂などの動植物性基剤などが挙げられる。
【0072】
ゲル基剤としては、ヒドロゲル基剤としてのカルボキシビニルポリマー、ゲルベース、無脂肪性軟膏、ポリエチレングリコールなどを用いることができる。乳剤用基剤としては、親水軟膏、バニシングクリームなどの水/油型基剤、親水ワセリン、精製ラノリン、アクアホール、オイセリン、ネオセリン、加水ラノリン、コールドクリーム、親水プラスチベースなどの油/水型基剤などが挙げられる。
【0073】
懸濁用基剤としては、ステアリルアルコール、セチルアルコールなどの微粒子をプロピレングリコール中に懸濁させたFAPG基剤(Fatty alcohol-propylene glycol)、すなわちリオゲル基剤などが挙げられる。パップ剤用基剤としては、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、カオリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、グリセリン、プロピレングリコール、水などが挙げられる。ローション剤は、活性成分を水性の液中に微細に均質分散した製剤である。懸濁化剤としては、例えばアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ベントナインなどが挙げられる。
【0074】
乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステルなどを用いることができる。リニメント剤は、油性溶液型、アルコール溶液型、乳化型および懸濁型に分類することができる。リニメント剤には、水、エタノール、脂肪油、グリセリン、セッケン、乳化剤、懸濁化剤、その他添加剤などを用いることができ、例えば、硬パラフィン、軟パラフィン、液パラフィン、グリセリン、パラフィン油、蜜蝋、金属石鹸、粘液(mucilage)、天然油[例:アーモンド油、コーン油、ピーナッツ油、ヒマシ油、オリーブ油、またはそれらの誘導体(例えば、ポリオキシルヒマシ油)]、羊脂若しくはその誘導体、脂肪酸および/またはエステル(例:ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル)などが挙げられる。
【0075】
局所投与および注射におけるBPIBの投与量は、軟骨の減少が原因で発症する疾患および障害の度合いや体重、性別、年齢、部位、関節サイズなどにより異なるものであり、使用に際して適当な量を症状に応じて決めることが望ましい。通常、局所投与および注射の場合、有効成分としてのBPIBの投与量は、疾患部位あたり通常約1ng〜1gが好ましく、さらに約1pg〜1gが好ましい。また、経口投与の場合、有効成分としてのBPIBの投与量は、体重1kgあたり約0.01μg〜10mgが好ましく、さらに約1ng〜1gが好ましい。
【0076】
この発明に係る軟骨再生促進剤は、当該軟骨再生促進剤を収納および投与するための容器、および患者に投与するための指示書をさらに備えることを特徴とするキットとしても良い。
【0077】
以下に実施例をあげてこの発明を更に詳しく説明するが、この発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
(1)軟骨組織
成長が早いために効果を短期間で確認できる利点を有するマウス(ddy種)胎児の中足骨軟骨原基を試料として用いた。妊娠14日目のマウスから胎児を取り出し、骨器官培養培地中で顕微鏡下、第3中足骨をピンセットで摘出し、実験に供した。培地は、1試料あたり500μlとし、48時間ごとに交換した。
【0079】
(2)基礎培地
表1に示す成分からなる骨器官培養用培地を基礎培地とした。
【0080】
【表1】

【0081】
(3)BPIBの粒子サイズ
実施例においては、(I)超音波処理を施したBPIB(超音波処理BPIBと略記する。)と、(II)超音波処理とレーザー処理を施したBPIB(超音波&レーザー処理BPIBと略記する。)を使用した。(I)の粒子サイズは1000nm以下、(II)の粒子サイズは5nm〜500nmであった。
【0082】
(4)界面活性剤
実施例にて使用した界面活性剤は、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(=ポリソルベート80)であり、特に記載しない限り、培養液に対し2.5wt%の濃度で添加した。
【0083】
(5)軟骨組織の増大効果の評価方法
BPIBの軟骨組織の増大効果は、培養開始前後における中足骨の面積の変化により評価した。中足骨の面積は、培養前後に顕微鏡下で中足骨正面をデジタルカメラで複数回撮影し、中央値を、画像解析ソフト(Scion Image, NIH)を用いて求めた。軟骨組織の増大効果は、培養開始前の面積に対する培養後の面積の比(面積増加率%)で評価した。また、増大した組織の石灰化の有無を目視で判定した。
培養期間は7日間とし、試料数は各条件で3個とした。
【0084】
(6)BPIBの軟骨組織の増大効果
本発明に係るBPIBの効果を明らかにするため、表2に示す3種類の培養液中において中足骨を培養し、そのサイズ変化を比較した。
【0085】
【表2】

【0086】
その結果、表3に示すように、BPIBを添加した培養液中で培養した中足骨は、添加しなかった培養液中で培養した中足骨に比べて、明らかに増大した。また、いずれの中足骨においても石灰化は抑制されていた。
【0087】
【表3】

【0088】
(7)界面活性剤の添加による中足軟骨組織への影響
界面活性剤の添加による軟骨組織の増大効果への影響を明らかにするために、表4に示す2種類の培養液中で中足骨を培養し、そのサイズ変化を比較した。
【0089】
【表4】

【0090】
その結果、以下の表5に示すように、界面活性剤を添加した培養液中で培養した中足骨では、界面活性剤を添加しなかった培養液中で培養した中足骨に比べて、明らかな中足骨の増大が観察された。なお、いずれの中足骨においても石灰化は抑制されていた。
【0091】
【表5】

【0092】
(8)BMPと本発明に係るBPIBによる軟骨組織の増大効果の比較
BMP(Bone Morphogenetic Protein, BMP−2)とBPIBの軟骨組織の増大効果を比較するために、表6に示す2種類の培養液中で中足骨を培養し、そのサイズ変化を比較した。
【0093】
【表6】

【0094】
その結果、以下の表7に示すように、本発明に係るBPIBを添加した培養液は、BMP−2を添加した培養液と同等の中足骨の増大を示した。また、BPIBを添加した培養液で培養した中足骨では石灰化は抑制されていたが、BMP−2を添加した培養液で培養した中足骨では石灰化が認められた。
【0095】
【表7】

【0096】
(9)BPIBの濃度による軟骨組織の増大効果への影響
BPIBの添加量による軟骨組織の増大効果への影響を明らかにするために、表8に示す2種類の培養液中で中足骨を培養し、そのサイズ変化を比較した。
【0097】
【表8】

【0098】
その結果、以下の表9に示すように、中足骨の面積増加率は、添加したBPIBの量により変動した。
【0099】
【表9】

【0100】
(10)DMSO添加培地でのBPIBの濃度による軟骨組織の増大効果への影響
DMSO添加培地でのBPIBの添加量による軟骨組織の増大効果への影響を明らかにするために、表10に示す2種類の培養液中で中足骨を培養し、そのサイズ変化を比較した。
【0101】
【表10】

【0102】
その結果、以下の表11に示すように、中足骨は、添加したBPIBの量に依存して増大した。なお、いずれの中足骨においても石灰化は認められなかった。
【0103】
【表11】

【0104】
(11)添加剤による軟骨組織の増大効果への影響
BPIBを含む培地に添加する以下の添加剤とその量による軟骨組織の増大効果への影響を明らかにするために、表12に示す培養液中で中足骨を培養し、そのサイズ変化を調べた。
(イ)2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(2−HP−β−CD)
(ロ)ポピドンK−30(PVP K−30)
(ハ)ポリソルベート80
【0105】
【表12】

【0106】
その結果、以下の表13及び図1に示すように、全ての添加剤において、BPIBの対濃度増加に応じて、中足骨の増大が促進された。また、BPIBの添加剤濃度が1μmol/Lを超えると、添加剤により、中足骨の面積増加率に差が生じたが、いずれの添加剤とも中足骨の増大を示し、中足骨に影響を与えないことが分かった。また、いずれの中足骨においても石灰化は抑制されていた(図2参照)。
【0107】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係る軟骨再生促進剤は、医薬品及び軟骨再生促進過程に係る種々の試験に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】添加剤の種類および量の違いによるBPIBの軟骨組織の増大効果への影響を示した図である。
【図2】軟骨組織の石灰化に対するBPIBの影響を示した図である。L:基礎培地中で7日間培養した中足骨の撮影画像。M:基礎培地に2−HP−β−CDを0.23mg/mL添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。N:基礎培地に2−HP−β−CDを0.23mg/mL、BPIBを0.1μmol/Lになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。O:基礎培地に2−HP−β−CDを0.23mg/mL、BPIBを1.0μmol/Lになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。P:基礎培地に2−HP−β−CDを0.07mg/mL、BPIBを10μmol/Lになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。Q:基礎培地に2−HP−β−CDを0.23mg/mL、BPIBを33μmol/Lになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。R:基礎培地にPVP K−30を16mg/mLになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。S:基礎培地にPVP K−30を16mg/mL、BPIBを0.1μmol/Lになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。T:基礎培地にPVP K−30を16mg/mL、BPIBを1.0μmol/Lになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。U:基礎培地にPVP K−30を16mg/mL、BPIBを10μmol/Lになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。V:基礎培地にPVP K−30を16mg/mL、BPIBを43μmol/Lになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。W:基礎培地にポリソルベート80を0.0125mg/mLになるよう添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。X:基礎培地にポリソルベート80を0.0125mg/mL、BPIBを0.1μmol/L添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。Y:基礎培地にポリソルベート80を0.0042mg/mL、BPIBを1.0μmol/L添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。Z:基礎培地にポリソルベート80を0.0125mg/mL、BPIBを3.0μmol/L添加した中で7日間培養した中足骨の撮影画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−(5−ベンゾール[1,3]ジオキソール−5−イル−4−ピリジン−2−イル−1H−イミダゾ−ル−2−イル)−ベンズアミド又はその水和物を含有することを特徴とする軟骨再生促進剤。
【請求項2】
ナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の軟骨再生促進剤。
【請求項3】
前記ナノ粒子の粒子径が5nm〜1000nmであることを特徴とする請求項2に記載の軟骨再生促進剤。
【請求項4】
前記ナノ粒子が分散剤により分散媒中に分散していることを特徴とする請求項3に記載の軟骨再生促進剤。
【請求項5】
前記分散媒が水性溶媒であることを特徴とする請求項4に記載の軟骨再生促進剤。
【請求項6】
前記分散媒が有機溶媒を含むことを特徴とする請求項4に記載の軟骨再生促進剤。
【請求項7】
局所投与用であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の軟骨再生促進剤。
【請求項8】
注射剤であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の軟骨再生促進剤。
【請求項9】
経口投与剤であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の軟骨再生促進剤。
【請求項10】
軟骨の減少が原因で発症する疾患または障害の予防又は治療用であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の軟骨再生促進剤。
【請求項11】
前記疾患または障害が、変形性関節症、慢性関節リウマチ、離断性骨軟骨炎、関節軟骨の損傷、関節軟骨石灰化症、椎間板変性、無耳症、小耳症軟骨欠損、軟骨形成不全症、補綴具周囲の骨溶解、顎関節症および歯槽骨の溶解又は破壊を伴う歯周病、骨折、難治性骨折、小人症(四肢短縮型)から選択される少なくとも1であることを特徴とする請求項10に記載の軟骨再生促進剤。
【請求項12】
骨の再生促進用であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の軟骨再生促進剤。
【請求項13】
骨欠損部へのインプラント生着促進用であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の軟骨再生促進剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−292787(P2009−292787A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149804(P2008−149804)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(507044022)株式会社ABsize (8)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】