説明

転がり案内装置

【課題】転動体戻り通路内の潤滑剤の流動性を高くして摺動抵抗の一層の低減化を図ることができる転がり案内装置を提供する。
【解決手段】転動体戻り通路内周に、転動体の回転軸を通り転動体の移動方向に対して直交方向の転動体の断面輪郭部に対して、該断面輪郭部の周方向に所定間隔を隔てて部分的に複数箇所で接触し得る複数の転動体支持部を設け、該複数の転動体支持部の間で、転動体の断面輪郭部との間に転動体戻り通路の全長にわたって潤滑剤を流通可能とする潤滑剤流通隙間を形成し、さらに、連結部材案内部の少なくとも一方については、方向転換の際に転動体の循環路における内周側となる側の側面と外周側となる側の側面のうちの、いずれか一方の側面のみを転動体保持部材の突出部を案内する案内面とし、他方の側面については潤滑剤流通隙間に面する構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動体が無限循環する構造の転がり案内装置に関し、特に転動体が転動体連結部材により連結された構成の転がり案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり案内装置の構成として、移動部材としての移動ブロックと軌道部材としての案内レールとが複数の転動体を介して相対移動自在に組み付けられ、各転動体が無限循環路内を循環することにより、例えば、移動ブロックが可動側とされて案内レール上を移動する構成が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
転動体が循環する無限循環路は、案内レールに設けられた転動体転走面及びこれに対向するように移動ブロックに設けられた負荷転動体転走面により形成される負荷転動体転走路と、移動ブロックに設けられる転動体戻り通路と、同じく移動ブロックに設けられ、該負荷転動体転走路と転動体戻り通路とを連通する一対の方向転換路と、によって形成される。
【0004】
転動体としては例えばボールが用いられる。各ボールは、転動体連結部材としてのリテーナによって連結され、整列される。このリテーナは、例えば、隣接するボール間にそれぞれ配置される複数のスペーサと、各スペーサを連結する可撓性のベルトと、から構成される。各ボールは、スペーサとベルトとによって囲まれて転動自在に連結される。リテーナによって連結された各ボールは、上記無限循環路内を、移動ブロックの移動に伴って循環する。
【0005】
リテーナのベルトの側縁部は、ボールの移動方向に直交する断面においてボールの断面輪郭部よりも外側に突出しており、無限循環路には、ベルトの側縁部を案内する連結体案内部としてのガイド溝が循環路全域にわたって設けられている。
【0006】
ボール及びリテーナと無限循環路との隙間には、潤滑剤としてグリースが充填される。無限循環路のうち転動体戻り通路と方向転換路の断面輪郭部は、ボール及びリテーナの断面輪郭部よりも若干大きめの略同一形状となっている。したがって、リテーナのスペーサによって離間されることで各ボール間に形成される各隙間が、グリースポケットとなる。このように充填されたグリースは、ボール及びリテーナの循環に伴って無限循環路内を流動し、ボールとリテーナの循環を円滑なさしめる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−202019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の従来技術を改良するためになされたもので、その目的とするところは、転動体戻り通路内の潤滑剤の流動性を更に高くして摺動抵抗の一層の低減化を図ることができる転がり案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明における転がり案内装置は、
転動体転走面が設けられた軌道部材と、該軌道部材に沿って多数の転動体を介して移動
自在に設けられた移動部材と、を備え、
該移動部材には、前記軌道部材の前記転動体転走面に対応する負荷転動体転走面と、該負荷転動体転走面と所定間隔を隔てて並行に設けられる転動体戻り通路と、前記負荷転動体転走面と前記転動体戻り通路間を接続して転動体を循環させる一対の方向転換路と、が設けられ、
前記移動部材は、前記負荷転動体転走面と前記転動体戻り通路が形成された移動部材本体と、前記方向転換路が形成され、前記移動部材本体の移動方向両端に取り付けられる方向転換路構成部材と、を備えた構成とし、
前記多数の転動体は転動体連結部材によって連結される構成で、該転動体連結部材は、転動体の移動方向に対して直交方向の転動体の断面輪郭部よりも外側に突出する一対の突出部を有しており、転動体戻り通路内周には、転動体連結部材の前記突出部を案内する一対の連結部材案内部が設けられている転がり案内装置において、
前記転動体戻り通路の内周に、転動体の前記断面輪郭部に対して、該断面輪郭部の周方向に所定間隔を隔てて部分的に複数箇所で接触し得る複数の転動体支持部を設け、該複数の転動体支持部の間で、転動体の前記断面輪郭部との間に前記転動体戻り通路の全長にわたって潤滑剤を流通可能とする潤滑剤流通隙間を形成し、
さらに、前記連結部材案内部の少なくとも一方については、方向転換の際に転動体の循環路における内周側となる側の側面と外周側となる側の側面のうちの、いずれか一方の側面のみを前記転動体連結部材の前記突出部を案内する案内面とし、他方の側面については潤滑剤流通隙間に面する構成となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転動体戻り通路内の潤滑剤の流動性を更に高くして摺動抵抗の一層の低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る転がり案内装置が有する軌道レール及び移動ブロックの、断面を含む正面図。
【図2】図1に示す移動ブロックの斜視図。
【図3】図1に示す移動ブロックの概略分解斜視図。
【図4】図1乃至図3に示す移動ブロックが備える樹脂循環路成形体を構成する樹脂フレームの構成を示す図。
【図5】図1乃至図3に示す移動ブロックが備える樹脂循環路成形体を構成する樹脂パイプを示す図。
【図6】移動ブロックの移動方向に沿い、主として循環路を示す断面図。
【図7】ボール連結帯の構成を示す図。
【図8】方向転換路の構成を示す図。
【図9】主として方向転換路の構成を示す断面図。
【図10】ボール戻り通路及び方向転換路の断面図。
【図11】本発明の実施例の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
(実施例)
図1〜図11を参照して、本発明の実施例に係る転がり案内装置について説明する。図1は、本実施例に係る転がり案内装置が有する軌道レール及び移動ブロックの、断面を含
む正面図である。図2は、図1に示す移動ブロックの斜視図である。図3は、図1に示す移動ブロックの概略分解斜視図である。図4は、図1乃至図3に示す移動ブロックが備える樹脂循環路成形体を構成する樹脂フレームの構成を示す図であり、図4(a)は上記の樹脂循環路成形体を構成する樹脂フレームの正面図、図4(b)は図4(a)の左側面図、図4(c)は図4(a)の右側面図である。図5は、上記の樹脂循環路成形体を構成する樹脂パイプを示すもので、図5(a)は外周側パイプ半体の正面図、図5(b)は図5(a)の側面図、図5(c)は内周側パイプ半体の正面図、図5(d)は図5(c)の側面図である。図6は、移動ブロックの移動方向に沿い、主として循環路を示す断面図である。図7は、ボール連結帯の構成を示す図であり、図7(a)はボール連結帯の部分側面図、図7(b)は図7(a)に関する平面図、図7(c)は図7(b)のa方向矢示図である。図8は、方向転換路の構成を示す図であり、図8(a)は図6において側蓋を外した状態の部分側面図、図8(b)は図6の側蓋の方向転換路の凹部を示す部分側面図である。図9は、主として方向転換路の構成を示す断面図である。図10は、ボール戻り通路及び方向転換路の断面図であり、図10(a)は図9のAA断面でありボール戻り通路の断面図、図10(b)は図9のBB断面であり方向転換路の断面図、図10(c)は図9のCC断面であり方向転換路の断面図である。図11は、本実施例の変形例を示す断面図であり、図11(a)は変形例1、図11(b)は変形例2をそれぞれ示す。
【0014】
この転がり案内装置1は、図1に示すように、直線状に延びる軌道部材としての軌道レール2と、この軌道レール2に沿って多数の転動体としてのボール3を介して相対移動自在に設けられた移動部材としての移動ブロック4と、を備えている。
【0015】
軌道レール2は略断面四角形状の長尺体で、軌道レール2の左右側面と両肩部にはそれぞれ2条のボール転走溝(転動体転走面)5が長手方向に沿って設けられている。軌道レール2の左右側面には、突堤2aが設けられており、この左右突堤2aの上下両側面に上記ボール転走溝5が設けられている。
【0016】
移動ブロック4は、軌道レール2の上面に対向する水平部6と、水平部6の左右両側からそれぞれ下方に延びて軌道レール2の左右側面に対向する一対の袖部7と、を備えた下方に開いた断面コ字形状のブロック体によって構成されている。そして、両袖部7の内側面には、それぞれ軌道レール2に設けられた各ボール転走溝5に対応する4条の負荷ボール転走溝(負荷転動体転走面)8が設けられている。これら互いに対応するボール転走溝5及び負荷ボール転走溝8により計4条の負荷転動体転走路が形成される。
【0017】
また、移動ブロック4の左右両袖部7には、負荷ボール転走溝8と所定間隔を隔てて並行に延びるように設けられた2条ずつの転動体戻り通路としてのボール戻り通路9が貫通形成され、さらに、左右両袖部7の長さ方向両端部には、図6に示すように、各負荷ボール転走溝8とボール戻り通路9の両端間を接続してボール3を循環させるU字パイプ状の方向転換路10が一対設けられている。つまり、移動ブロック4の両袖部7には、ボール3が循環する左右2条ずつ計4条の無限循環路が構成されている。
【0018】
この実施例では、4列のボール3は、それぞれ転動体連結部材としてのボール連結帯12を介して一連につなげられ転動自在に整列されており、ボール連結帯12と共に循環移動するようになっている。
【0019】
ボール連結帯12は、図7(a)〜(c)に示すように、各ボール3が挿入されるボール穴12aが設けられた連結部としての可撓性のベルト部12bと、各ボール3とボール3の間に介装される間座としてのスペーサ部12cとを備え、ベルト部12bの側縁がボール3の外径よりも外方に張り出している。すなわち、ベルト部12bの側縁部は、ボール3の移動方向に対して直交方向のボール3の断面輪郭部よりも外側に突出する一対の突出部
となっている。
【0020】
スペーサ部12cには各ボール3の球面に対応する球冠状の保持凹部12dが設けられ、この保持凹部12dによってボール3を両側から支持してベルト部12bからのボール3の脱落を防止している。この実施例ではベルト部12bの両端は連結されていない有端帯状の構成であるが(図6参照)、ベルト部12bの両端を連結した無端状の構成としてもよい。また、ボール連結帯12は、本実施例のようにボール3を脱落しないように保持する形態に限らず、各ボール3を単に連結するのみとして脱落し得るようにしてもよい。
【0021】
移動ブロック4は、図2及び図3に示すように、負荷ボール転走溝8とボール戻り通路9が形成された移動部材本体としてのブロック本体13と、ブロック本体13に組み込まれる左右一対の樹脂循環路成形体20と、この左右一対の樹脂循環路成形体20が組み込まれたブロック本体13の移動方向両端に取り付けられる方向転換路構成部材としての一対の側蓋40(一方の側蓋は省略)と、を備えた構成となっている。
【0022】
左右の樹脂循環路成形体20はそれぞれ2条の無限循環路を構成するもので、左右対称形状なので、以下の説明では片側の樹脂循環路成形体20についてだけ説明し他方の樹脂循環路成形体20の説明は省略する。
【0023】
すなわち、樹脂循環路成形体20は、負荷ボール転走溝8の両側縁に沿って延びる負荷ボール通路構成部21と、ブロック本体13の両端面に設けられる一対の方向転換路内周案内構成部22とを一体とした樹脂フレーム24と(図4参照)、ブロック本体13に貫通形成された貫通孔14に挿入される転動体戻り通路構成部材としての一対の樹脂パイプ23とを備えている(図5参照)。つまり、負荷ボール通路構成部21と一対の方向転換路内周案内構成部22との接続部が一体成形されて一体の樹脂フレーム24を構成し、一対の樹脂パイプ23を別体としてブロック本体13に対して組み込み可能としている。
【0024】
負荷ボール通路構成部21には、図4に示すように、負荷域においてボール連結帯12のベルト部12bの側縁部すなわち突出部を案内する連結部材案内部としての案内溝21aが直線状に設けられ、ボール3が転動移行する際のボール連結帯12の振れを防止すると共に、移動ブロック4を軌道レール2から外した際には、ベルト部12bの側縁部の、案内部を構成する案内溝21aに引掛けてボール連結帯12の垂れ下がりを防止するようになっている。
【0025】
また、各負荷ボール転走溝8両側縁に位置する一対の負荷ボール通路構成部21の開口幅はボール径より小さくなっており、ボール連結帯12を用いない場合でも、この負荷ボール通路構成部21によってボール3の脱落が防止される。
【0026】
一方、無負荷域の方向転換路10およびボール戻り通路9の内周においては、図5、図6、図8、図9に示すように、ボール3及びベルト部12bを案内する転動体支持部としての3条の凸部15a〜15c、16a〜16cが転走路に沿って延びるように設けられている。
【0027】
負荷ボール通路構成部21は、図4(b)に示すように、ブロック本体13の水平部6と袖部7の隅角部に沿ってブロック本体13の長手方向に延びる第1連結板部25と、ブロック本体13の各袖部7内周の各負荷ボール転走溝8間に長手方向に延びる第2連結板部26と、ブロック本体13の袖部7下端面に沿ってブロック本体13の長手方向に延びる一対の第3連結板部27と、によって構成されている。
【0028】
すなわち、互いに対向する第1連結板部25の下縁と第2連結板部26の上縁が各袖部
7に設けた上側の負荷ボール転走溝8の溝側縁に位置して負荷ボール通路構成部21を構成している。また、互いに対向する第2連結板部26の下縁と第3連結板部27の内側上縁が、袖部7内側面に設けた下側の負荷ボール転走溝8の溝側縁に位置して負荷ボール通路構成部21を構成している。
【0029】
一方、図4及び図6に示すように、方向転換路内周案内構成部22と負荷ボール通路構成部21が薄肉板部29を介して一体成形され、樹脂パイプ23は薄肉板29に設けられた嵌合穴34にインロウ嵌合されて位置決め固定されている。
【0030】
薄肉板部29には軌道レール2側面の各2列のボール3に対応する方向転換路内周案内構成部22が突出形成されている。
【0031】
そして、ブロック本体13両端の薄肉板部29に上記第1,第2および第3連結板部25〜27の両端が結合されて、一つの樹脂フレーム24が構成されている。
【0032】
各方向転換路内周案内構成部22は半割円筒形状で、その外周に方向転換路10の内周案内部を構成する断面円弧状の内周案内溝10aが形成されている。この内周案内溝10aの一端は負荷ボール転走溝8の端部に接続されるもので、負荷ボール転走溝8と略同一の断面形状に成形され、負荷ボール転走溝8の端部位置に一致するように位置決めされる。また、方向転換路10の内周案内溝10aの他端はボール戻り通路9の端部に接続されるもので、ボール戻り通路9と略同一の断面形状に成形され、ボール戻り通路9の端部位置に一致するように位置決めされる。
【0033】
また、図8(a)、図9、図10(b)、(c)に示すように、内周案内溝10aの溝両側縁には、負荷ボール転走溝8側からボール戻り通路9側に向かうにしたがって徐々に高さが増すように構成された凸部15b、15cがそれぞれ設けられている。具体的には、負荷ボール転走溝8側からボール戻り通路9側に向かうボール3の移動方向に見た内周案内溝10aの表面輪郭が、凸部15b、15cの先端面だけを残してボール3の通過領域から徐々に離れていくように構成されている。すなわち、内周案内溝10aの表面のうち凸部15b、15cの先端面だけが、方向転換路10全域でボール3と接触可能な状態を維持する構成となっている。各凸部15b、15cの一方の側面にはベルト部12bの幅よりも大きい幅の円筒状縁部33が設けられている。この円筒状縁部33は、ボール3の移動方向に沿ってベルト部12bの側縁部を案内する案内面を構成する。
【0034】
方向転換路10の内周案内溝10aの両端は、負荷ボール転走溝8およびボール戻り通路9の両端に接続するために、薄肉板部29のブロック本体13端面との当接面側まで延びている。一方、薄肉板部29には樹脂パイプ23の端部が嵌合される半円状のパイプ嵌合穴34が設けられている。
【0035】
転動体戻り通路構成部材である樹脂パイプ23は、図5に示すように、側蓋40の方向転換路10の外周案内溝10bと連続する循環路外周側に位置する外周側パイプ半体23bと、内周案内溝10aと連続する循環路内周側に位置する内周側パイプ半体23aと、から構成されている。
【0036】
内周側パイプ半体23aは、図5(c),(d)に示すように、断面円弧状の溝部9aと、この溝部(凹状円弧面)9aの溝両側縁に沿ってそれぞれ長手方向に延びる凸部16b、16cと、を備えている。また、外周側パイプ半体23bは、図5(a),(b)に示すように、側蓋40の外周案内溝10bと略同一の断面円弧形状の直線状部材で、外周案内溝10bと連続する溝部9bと、この溝部(凹状円弧面)9bの略中央(溝底部)に沿って長手方向に延びる凸部16aと、を備えている。これら内周側パイプ半体23aと
外周側パイプ半体23bは、側端面同士が当接されて組み合わされることで円筒状(パイプ状)部材に構成される。この円筒状部材の内周面がボール戻り通路9となる。内周側パイプ半体23aの側端面23c、23d(凸部16b、16cの一方の側面)は、外周側パイプ半体23bの側端面23eに当接する領域の内側の面がボール連結帯12のベルト部12bの側縁部をボール3の移動方向に沿って案内する案内面を構成する。
【0037】
樹脂パイプ23の内周側パイプ半体23aの長さはブロック本体13の長さと等しく、方向転換路内周案内構成部22の背面に当接して長手方向の位置決めがなされる。
【0038】
一方、樹脂パイプ23の外周側パイプ半体23bの長さはブロック本体13の長さより薄肉板部29の肉厚分だけ長く嵌合穴34に嵌合されている。嵌合穴34に嵌合された外周側パイプ半体23bの両端面は側蓋40の外周案内溝10bの端部周縁に突き当たって長手方向の位置決めがなされる。また、外周側パイプ半体23bの側端面23eの長手方向両端部(内周側パイプ半体23aの側端面23cと当接しない領域)が方向転換路内周案内構成部22に形成された円筒状縁部33の外側縁に当接することにより、貫通孔14内に挿入された外周側パイプ半体23bおよび内周側パイプ半体23aの回り止めがなされる。
【0039】
このように、樹脂パイプ23と方向転換路内周案内構成部22は、薄肉板部29に形成された嵌合穴34を介して正確に位置決めされて組付けられる。
【0040】
一方、側蓋40には、図8に示されるように、薄肉板部29が嵌合される段凹部40aと、方向転換路内周案内構成部22が嵌合される方向転換路外周案内構成部としての外周案内溝10bを備えた凹部41と、側蓋40をブロック本体13に対して締め付け固定する締め付け固定部とを備えている。締め付け固定部は側蓋40に形成されたボルト挿通孔43に不図示のボルトを挿入し、ブロック本体13の端面に形成されたボルト穴45にねじ込むことによって締め付け固定している。ボルト挿通孔43の位置は、各樹脂循環路成形体20の方向転換路内周案内構成部22の間の薄肉板部29と、水平部6の左右薄肉板部29近傍位置との4箇所に設けられている。
【0041】
凹部41の外周案内溝10bの側縁には、図8(b)に示されるように、図8(a)に示す方向転換路内周案内構成部22の円筒状縁部33との間で協働してボール連結帯12のベルト部12bの案内溝(連結部材案内部)を構成する半円状の大径段部46と、円筒状縁部33が嵌合される小径段部47とが設けられている。そして、内周案内溝10aが形成された方向転換路内周案内構成部22が側蓋40の凹部41に嵌合されると共に側蓋部40の段凹部40aに薄肉板部29が収容され、締め付け力によって薄肉板部29が側蓋40とブロック本体13の端面の間に挟まれて固定される。図9に示すように、大径段部46のボール戻り通路9に臨む縁部46aは、ボール連結帯12の引っかかりを防止すべく30度の面取り形状あるいはR形状としている。
【0042】
薄肉板部29を介して方向転換路内周案内構成部22と負荷ボール通路構成部21を連結することによって、方向転換路内周案内構成部22に設けられた内周案内溝10aの一端と負荷ボール通路構成部21の相対位置関係、または内周案内溝10aとボール戻り通路9の位置関係が正確に位置決めされる。
【0043】
一方、側蓋40の締め付け力によって方向転換路内周案内構成部22周辺の薄肉板部29が側蓋40によって均一に平坦なブロック本体13端面に押し付けられるので、方向転換路内周案内構成部22の姿勢(向き)が歪んでいる場合でもブロック本体13の端面に倣って薄肉板部29が撓んで方向転換路内周案内部22の歪みが矯正される。
【0044】
また、側蓋40の締め付け力によって薄肉板部29が強固に締め付け固定され、その摩擦力によって内周案内溝10aの位置ずれもない。
【0045】
側蓋40は、ブロック本体13に対して組み付けられた方向転換路内周案内構成部22に側蓋40の凹部41を嵌め込んで固定されるので、側蓋40は方向転換路内周案内構成部22との凹凸嵌合によってブロック本体13に対して正確に位置決めされて固定される。
【0046】
このように、内周案内溝10aと外周案内溝10bと樹脂パイプ23とが互いに正確に位置決め固定されることにより、樹脂パイプ23の凸部16aと外周案内溝10bに設けられた凸部15a、樹脂パイプ23の凸部16b、16cと内周案内溝10aの凸部15b、15cが、無負荷域においてそれぞれボール3の移動方向に沿って連続的に延びる凸部を構成する。
【0047】
次に、上記樹脂循環路成形体20の組み付け手順を説明する。
【0048】
まず、樹脂パイプ23の内周側パイプ半体23aをブロック本体13の袖部7の貫通穴14に挿入する。
【0049】
次いで、一体成形した樹脂フレーム24両端の薄肉板部29をブロック本体13の袖部7端面に沿ってすべらせながら内側面側から差し込む。樹脂フレーム24の第1連結板部25が水平部6と袖部7の隅角部に当接して上下方向の位置決めがなされ、樹脂フレーム24の第2連結板部26および第3連結板部27がブロック本体13の袖部7の内側面に当接して、各負荷ボール通路構成部21および方向転換路内周案内構成部22の位置決めがなされる。このとき薄肉板部29のパイプ嵌合穴34がブロック本体13の貫通孔14に合致する。
【0050】
次いで、パイプ嵌合穴34を通じて外周側パイプ半体23bを貫通孔14に挿入して一方の樹脂循環路成形体20の組み込みが完了する。
【0051】
同様にして他方の樹脂循環路成形体20の組み込みを行う。
【0052】
その後、一方の側蓋40をブロック本体13の一端面に締め付け固定し、ボール連結帯12を挿入した後、他方の側蓋40をブロック本体13の他端面に締め付け固定し、移動ブロック4の組立が完了する。
【0053】
<本実施例の特徴的構成>
本実施例に係る転がり案内装置1は、ボール戻り通路9の内周に複数の転動体支持部としての凸部16a〜16cを設けている。これら凸部16a〜16cは、ボール3の移動方向に対して直交方向のボール3の断面輪郭部に対して、該断面輪郭部の周方向に所定間隔を隔てて部分的に複数箇所で接触し得る。ボール3は、これら3条の凸部16a〜16cに対する接触状態、非接触状態を繰り返しつつボール戻り通路9内を支持・案内される。各凸部16a〜16cは、ボール戻り通路9の内周面からボール3の移動方向に沿って延びるように突出しており、それぞれの先端面がボール3の球面に合致するように、断面がR形状とされ、ボール3に滑らかに当接し得る。また、3条の凸部のうち少なくとも2つの凸部16b、16cの一方の側面(側端面23c、23d)は、ボール連結帯12のベルト部12bの側縁部に接触して案内する案内面となっている。
【0054】
上述したように、ボール戻り通路9において、凸部16は、ボール3をボール戻り通路9の内周面から離間させて支持できるような間隔・配置で3条設けられる。各凸部16a
、16b、16cの間で、ボール3の上記断面輪郭部との間に、ボール戻り通路9の全長にわたって潤滑剤を流通可能とする潤滑剤流通隙間17a、17b、17cが形成されている。各凸部16a〜16cの間隔は、ボール3をバランスよく支持できる間隔であるとともに、各凸部16a〜16c間にグリースの流動を妨げない広さの空間が確保できるような間隔に設定される。本実施例では、3条の凸部16a〜16cが、ボール戻り通路9の内周面の3カ所に周方向に等間隔で配置されている。すなわち、3条の凸部16a〜16cのそれぞれの間隔は、略120°である。
【0055】
3条の凸部16a〜16cは、少なくとも1条の凸部が無限循環路の内周側に位置し、少なくとも1条の凸部が無限循環路の外周側に位置するように配置される。本実施例では、2条の凸部16b;16cがボール戻り通路9におけるボール3の転走中心よりも負荷転走路側に配置される。また、1条の凸部16aがボール戻り通路9におけるボール3の転走中心よりも無負荷転走路側とは反対側に配置される。すなわち、ボール3は、無限循環路の外周側において、凸部16aにより支えられ、無限循環路の内周側において、2つの凸部16b、16cにより支えられる。
【0056】
ベルト部12bの側縁部は、ベルト部12bよりも無限循環路の内周側に位置する凸部16b;16cの側面によって案内される。すなわち、凸部16b;16cの側面のうち無限循環路の外周側(ボール戻り通路9におけるボール3の転走中心よりも負荷転走路とは反対側)の側面が、ベルト部12bを案内する案内面として機能する。ベルト部12bの側縁部を案内する各案内面は、ベルト部12bがボール3の断面の円周方向にねじれることがないように、ベルト部12bの変位をボール3の断面の円周方向に互いに逆方向に規制する配置で設けられる。また、凸部16aが各案内面に対向する方向でボール3に接触してボール3の変位を規制することで、ベルト部12bが各案内面から浮き上がることが抑制される。
【0057】
無限循環路には、ベルト部12bの側縁部を案内する溝形状に構成された連結部材案内部が循環路全域にわたって設けられる。図1に示すように、負荷転走路は、ボール戻り通路9と異なり、従来と同様、ベルト部12bの側縁部を案内する連結体案内溝(連結部材案内部)が設けられた構成となっている。すなわち、連結部材案内部は、負荷転走路においては、ベルト部12bよりも若干大きくベルト部12bの外形に略対応した溝形状となっている。ボール連結帯12は、ベルト部12bがかかる連結体案内溝に対して摺動することにより、負荷転走路内を案内される。一方、ボール戻り通路9においては、凹部の一方の側面(凸部16aの両側面)がベルト部12bから離間するように構成されており、ベルト部12bとの間に潤滑剤流通隙間17b、17cが形成されている。すなわち、本実施例では、凸部16aの両側面が、本発明の転がり案内装置における連結部材案内部において潤滑剤流通隙間に面する他方の側面に対応する。
【0058】
図10に示すように、方向転換路10は、ボール戻り通路9側から負荷転走路側にかけて断面形状が変化する(図10(b)→図10(c))。図9及び図10(b)、(c)に示すように、方向転換路10の断面形状は、凸部15a〜15cの高さがボール戻り通路9側から負荷転走路側にかけて徐々に減少していく(方向転換路内周案内溝10a及び方向転換路外周案内溝10bの溝底面の高さが凸部15a〜15cの先端面の高さに近づいていく)ように変化し、潤滑剤流通隙間17a〜17cの断面積は徐々に減少していく。特に方向転換路外周案内溝10bにおいては、ボール3に接触する案内面が方向転換路外周案内溝10bの側縁から中央部(凸部15a)に向かって徐々に広がっていくように断面形状が変化し、方向転換路内周案内溝10aにおいては、溝底面全体が同じ変化度合いでボール3の通過領域に徐々に近づいていくように断面形状が変化する。
【0059】
<本実施例の優れた点>
本実施例は、ボール戻り通路9及び方向転換路10において、断面R状の凸部15a、16a〜15c、16cによってボール3を支持・案内する構成なので、ボール戻り通路9及び方向転換路10とボール3との接触面積が低減される。これにより、ボール3がボール戻り通路9及び方向転換路10内を移動する際の摩擦抵抗が低減される。このように、無限循環路のうち無負荷域における接触面積の低減により、無限循環路全体におけるボール3の転動に影響を与えることなく、ボール3とボール戻り通路9及び方向転換路10との間の摩擦抵抗の低減を図ることができる。したがって、無限循環路におけるよりスムースなボール3の転動・循環を図ることができる。また、ボール3を転走路の内周面から離間させて支持することで、無負荷域における転走路内周面とボール3との間に隙間(潤滑剤流通隙間)を形成することができる。これにより、グリースの充填領域の拡大を図ることができ、潤滑性の向上を図ることができる。
【0060】
また、本実施例の上記構成によれば、ボール3とボール戻り通路9の内周面との間に、通路全体にわたってグリースを充填・保持する十分な空間を確保することができる。したがって、潤滑性の向上を図ることができるとともに、グリースの供給過多による摺動抵抗の変化を抑制することができる。
【0061】
また、ベルト部12bの両側縁部(一対の突出部)はそれぞれ、凸部16b、16cに対して1つの案内面のみで案内される片面支持の構成となっているので、摺動抵抗をより低減することができる。
【0062】
以上より、本実施例によれば、ボール戻り通路9内のグリースの流動性を高くして摺動抵抗の一層の低減化を図ることができる。したがって、ボール3の転がり抵抗の安定化、ボール3を連結するボール連結帯12の耐久性(信頼性)の更なる向上を図ることができ、軌道レール2と移動ブロック4との摺動抵抗の安定化等を図ることができる。
【0063】
また、本実施例では、凸部16b、16cの先端面がボール3を案内する案内面となり、凸部16b、16cの側面がベルト部12bを案内する案内面となる。すなわち、転動体案内部としての凸部16b、16cが連結部材案内部を兼ねた構成なのであり、ボール3を案内する案内面と、ベルト部12bを案内する案内面を個別に設ける場合に比して、大きな潤滑剤隙間を確保することが可能となっている。
【0064】
また、本実施例では、凸部(転動体支持部)及び潤滑剤流通隙間の構造が、ボール戻り通路9から連続するように方向転換路10にも設けられている。これにより、方向転換路10においても、グリースの流動性を高めることができ、摺動抵抗の一層の低減化を図ることができる。
【0065】
<その他>
転がり案内装置の構成は、上記実施例の構成に限定されるものではなく、例えば、レール及び移動ブロックの断面形状、無限循環路の条数及び形態は、適宜変更され得るものである。また、本実施例では、転動体としてボールを用いた例を示しているが、これに限らずローラも適用可能である。
【0066】
また、複数の転動体を連結する連結体の構成についても、本実施例で示す構成に限られるものではない。
【0067】
凸部15、16を設ける数は、上記実施例のように3条に限定されるものではない。すなわち、ボールを路面から離間させてバランスよく支持し、かつ、ボールと路面との間に、潤滑剤の流動を妨げない十分な広さの空間を形成できる限りにおいて、4条以上設けてもよい。また、凸部15、16の配置間隔も、上記実施例にように120°の等配に限定
されるものではない。凸部15、16を3条配置する場合には、ボール3を転走路の路面から離間させてバランスよく支持できる限りにおいて、1条の凸部15、16に対し、ボール外周に沿って左右に90°〜180°の範囲でそれぞれ凸部を設けることができる。
【0068】
図11(a)及び図11(b)に、ボール戻り通路9の内周面構成の変形例をそれぞれ示す。なお、実施例と共通する構成については同じ符号を付している。
【0069】
図11(a)に示す変形例1では、実施例と異なり、内周側パイプ半体を従来と同じものを用いている。すなわち、凸部16b、16cを設けない従来の内周側パイプ半体23a1としている。外周側パイプ半体23bは実施例と同様である。ベルト部材12bの片面支持と、潤滑剤流通隙間17b、17cによる効果は実施例と同様である。なお、図示は省略するが、内周側パイプ半体を実施例の構成とし、外周側パイプ半体23bの構成を、凸部16aを設けない従来構成としてもよい。
【0070】
図11(b)に示す変形例2では、外周側パイプ半体23b1が従来構成と実施例の構成とを組み合わせた構成となっている。すなわち、実施例では、凸部16aの両方の側面がベルト部12bから離間するように構成されているのに対し、変形例2では、凸部16a1の片方の側面のみがベルト部12bから離間するように構成されている。したがって、変形例2では、ベルト部12bの両側縁部のうち片側だけ(一対の突出部の一方だけ)が片面支持となり、一方の潤滑剤流通隙間17cだけが形成される。
【符号の説明】
【0071】
1…転がり案内装置、2…軌道レール、3…ボール、4…移動ブロック、5…ボール転走溝、8…負荷ボール転走溝、9…ボール戻り通路、10…方向転換路、12…ボール連結帯、12a…ボール穴、12b…ベルト部、12c…スペーサ部、15a、16a〜15c、16c…凸部、17a〜17c…潤滑剤流通隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体転走面が設けられた軌道部材と、該軌道部材に沿って多数の転動体を介して移動自在に設けられた移動部材と、を備え、
該移動部材には、前記軌道部材の前記転動体転走面に対応する負荷転動体転走面と、該負荷転動体転走面と所定間隔を隔てて並行に設けられる転動体戻り通路と、前記負荷転動体転走面と前記転動体戻り通路間を接続して転動体を循環させる一対の方向転換路と、が設けられ、
前記移動部材は、前記負荷転動体転走面と前記転動体戻り通路が形成された移動部材本体と、前記方向転換路が形成され、前記移動部材本体の移動方向両端に取り付けられる方向転換路構成部材と、を備えた構成とし、
前記多数の転動体は転動体連結部材によって連結される構成で、該転動体連結部材は、転動体の移動方向に対して直交方向の転動体の断面輪郭部よりも外側に突出する一対の突出部を有しており、転動体戻り通路内周には、転動体連結部材の前記突出部を案内する一対の連結部材案内部が設けられている転がり案内装置において、
前記転動体戻り通路の内周に、転動体の前記断面輪郭部に対して、該断面輪郭部の周方向に所定間隔を隔てて部分的に複数箇所で接触し得る複数の転動体支持部を設け、該複数の転動体支持部の間で、転動体の前記断面輪郭部との間に前記転動体戻り通路の全長にわたって潤滑剤を流通可能とする潤滑剤流通隙間を形成し、
さらに、前記連結部材案内部の少なくとも一方については、方向転換の際に転動体の循環路における内周側となる側の側面と外周側となる側の側面のうちの、いずれか一方の側面のみを前記転動体連結部材の前記突出部を案内する案内面とし、他方の側面については潤滑剤流通隙間に面する構成となっていることを特徴とする転がり案内装置。
【請求項2】
前記連結部材案内部は、前記転動体支持部でもある請求項1に記載の転がり案内装置。
【請求項3】
前記転動体支持部及び潤滑剤流通隙間の構造が、前記転動体戻り通路から連続するように方向転換路内周にも設けられている請求項1又は2に記載の転がり案内装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−50206(P2013−50206A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−149420(P2012−149420)
【出願日】平成24年7月3日(2012.7.3)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】