転がり案内装置
【課題】 転動体が負荷通路に出入りすることに起因して移動ブロックに生じるウェービングを効果的に抑制し、搬送対象物である移動体を高精度に案内することが可能な転がり案内装置を提供する。
【解決手段】 長手方向に沿って転動体の転走面が複数形成された軌道レールと、前記転走面と対向して転動体の負荷通路を構成する複数の負荷転走面を有する移動ブロックとを備えており、また、各負荷転走面はその長手方向の両端に設けられた一対のクラウニング領域及びこれらクラウニング領域の間に位置する実効負荷領域を有している。そして、前記移動ブロックは前記クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が異なる少なくとも2種類の負荷転走面を含んでいる。
【解決手段】 長手方向に沿って転動体の転走面が複数形成された軌道レールと、前記転走面と対向して転動体の負荷通路を構成する複数の負荷転走面を有する移動ブロックとを備えており、また、各負荷転走面はその長手方向の両端に設けられた一対のクラウニング領域及びこれらクラウニング領域の間に位置する実効負荷領域を有している。そして、前記移動ブロックは前記クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が異なる少なくとも2種類の負荷転走面を含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールやローラといった多数の転動体を介して移動部材と案内軸とが移動自在に組付けられた転がり案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転がり案内装置としては、機械装置の固定部に敷設される案内軸としての軌道レールと、転動体としての多数のボールを介して前記軌道レールに組み付けられる移動部材としての移動ブロックと、から構成されたものが知られている。前記軌道レールはその長手方向に沿ってボールの転走面を有する一方、前記移動ブロックは前記軌道レールの転走面と対向して負荷通路を構成する負荷転走面を有しており、前記ボールが転動しながら前記負荷通路に出入りすることにより、前記移動ブロックが軌道レールに沿って移動できるように構成されている。また、前記負荷通路に対してボールを出入りさせる構造としては、前記移動ブロックに対してボールの無限循環路を具備させるものや、前記移動ブロックよりも長尺なボールケージを当該移動ブロックと前記軌道レールとの間に介在させておくものが知られている。
【0003】
前記移動ブロックに対してボールの無限循環路を設けた例について説明すると、かかる無限循環路は、前記ボールが軌道レールと移動ブロックとの間で荷重を負荷しながら転走する負荷通路と、この負荷通路と平行に設けられた転動体戻し通路と、前記負荷通路と転動体戻し通路の端部同士を連結する一対の方向転換路とから構成されており、各方向転換路はボールの転走方向を180°変更するために略半円状に形成されている。また、前記転動体戻し通路及び方向転換路はボールが荷重から解放された状態で転走する無負荷通路として構成されており、これら通路の内径はボール直径よりも大きく形成されている。
【0004】
軌道レールに沿って移動ブロックが移動すると、一方の方向転換路内に存在するボールは前記負荷通路に進入し、かかる負荷通路内で移動ブロックと軌道レールとの間に作用する荷重を負荷しながら転走する。この後、前記負荷通路を転走し終えたボールは当該負荷通路から他方の方向転換路に対して排出されて無負荷状態となる。
【0005】
一方、前記移動ブロックと前記軌道レールとの間にボールケージを設けた例では、かかるボールケージが前記移動ブロックの全長よりも長尺に形成され、そこに所定の間隔で多数のボールが転動自在に配列されていることから、前記移動ブロックが軌道レールに沿って移動すると、前記ボールケージの前記移動ブロックの半分の速度で移動することになり、当該ボールケージに配列されたボールが次々に前記負荷通路に進入して荷重を負荷することになる。また、前記負荷通路を転走し終えたボールはボールケージに配列されたままの状態で移動ブロックと軌道レールとの間から排出され、無負荷状態となる。
【0006】
前記移動ブロックと軌道レールとの間に作用する荷重は前記負荷通路内を転動しているボールによって負荷されており、個々のボールに作用する荷重は前記負荷通路内に同時に存在するボールの個数によって変化することになる。各ボールは作用する荷重に応じて弾性変形を生じることから、前記負荷通路をボールが出入りすると、これに合わせてボールの弾性変形量が変化し、軌道レール上を移動する前記移動ブロックに微小振動(以下、「ウェービング」という)が発生することになる。この移動ブロックに生じるウェービングは振幅0.1〜0.3μm程度の極めて微小なものであるが、超微細な加工精度が要求される工作機械等に採用される転がり案内装置においては、かかるウェービングの低減が重要な課題である。
【0007】
従来、ウェービング低減対策としては、前記移動ブロックの負荷転走面に対する所謂クラウニング処理が知られている。このクラウニング処理では、負荷転走面の長手方向の両端を中央に比較して余分に研削し、余分に研削がなされたクラウニング領域においてボールが無負荷状態から負荷状態へ、あるいは負荷状態から無負荷状態へ移行するようになっている。すなわち、負荷転走面に対してクラウニング処理が施されている場合、前記負荷通路に進入したボールに対して唐突に大きな荷重が作用することはなく、ボールは無負荷状態から徐々に負荷状態へと移行するので、前記ウェービングを抑制することが可能である。
【0008】
また、特開2004−58269に開示される移動体の案内装置では、個々の移動ブロックのウェービングは是認しつつも、複数の移動ブロックで移動体の運動を支承することにより、平均化効果で移動体に伝播するウェービングの低減化を図っている。具体的には、2本の平行な軌道レールに対して3基又は5基の移動ブロックを配置して移動体の直線運動を支承し、これら移動ブロックが移動体の底面で一乃至複数の三角形を構成するように当該移動ブロックを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−58269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前述した移動ブロックの負荷転走面に対するクラウニング処理では、負荷転走面の両端に設けるクラウニング領域の長さ及び深さの最適値が転がり案内装置の使用条件において異なったものとなってしまうので、生産する総ての移動ブロックに対して同じクラウニング処理を施すのであれば、ウェービングの抑制効果は限定的であった。
【0011】
また、特許文献1に示されるような複数の移動ブロックの使用によるウェービングの抑制は、個々の移動ブロックにおけるウェービングの発生を根本的に解決するものではなく、また、軌道レールを1本のみ使用すれば済むような直線案内部には適用できないといった課題があった。
【0012】
このようなウェービングに関する課題は、移動ブロックの負荷通路内を転走する転動体としてボールを使用した場合に限られず、ローラを使用した場合にも同様に発生する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、転動体が負荷通路に出入りすることに起因して移動ブロックに生じるウェービングを効果的に抑制し、搬送対象物である移動体を高精度に案内することが可能な転がり案内装置を提供することにある。
【0014】
すなわち、本発明の転がり案内装置は、長手方向に沿って転動体の転走面が複数形成された軌道レールと、前記転走面と対向して転動体の負荷通路を構成する複数の負荷転走面を有する移動ブロックとを備えており、また、各負荷転走面はその長手方向の両端に設けられた一対のクラウニング領域及びこれらクラウニング領域の間に位置する実効負荷領域を有している。そして、前記移動ブロックは前記クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が異なる少なくとも2種類の負荷転走面を含んでいる。
【発明の効果】
【0015】
前記移動ブロックはクラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が異なる少なくとも2種類の負荷転走面を含んでいるので、これら2種類の負荷転走面を比較した場合、転動体がクラウニング領域から実効負荷領域に進入するタイミングは同一とはならず、前記境界位置の変位量に対応した分だけ異なったものとなる。従って、これら2種類の負荷転走面においては、転動体が異なったタイミングで実効負荷領域からの離脱を行うので、移動ブロックに設けられた総ての負荷転走面を考慮した場合、負荷通路内の実効負荷領域に存在するボールの個数の変動を小さく抑えることができ、その分だけ移動ブロックに生じるウェービングを抑制することができ、搬送対象物である移動体を高精度に案内することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用可能な転がり案内装置の第一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した転がり案内装置のII−II線断面図である。
【図3】図1に示した転がり案内装置のエンドプレート及びリターンピースを示す斜視図である。
【図4】図1に示した転がり案内装置におけるボールの負荷通路の構成を説明する模式図である。
【図5】ラジアル荷重F1に対して機能する2条の負荷転走面を紙面に投影した模式図である。
【図6】横荷重F2に対して機能する2条の負荷転走面を紙面に投影した模式図である。
【図7】ラジアル荷重F1に対して機能する2条の負荷転走面におけるボールの荷重負荷状態を示す模式図である。
【図8】本発明を適用可能な転がり案内装置の第二実施形態を示す斜視図である。
【図9】第二実施形態に係る転がり案内装置の軌道レールを示す正面図である。
【図10】第二実施形態に係る転がり案内装置の正面断面図である。
【図11】第二実施形態に係る転がり案内装置に使用される複列ボール連結体を示す平面図である。
【図12】第二実施形態に係る移動ブロックに形成された負荷転走面を展開した模式図である。
【図13】第二実施形態に係る移動ブロックに形成された負荷転走面ペアの他の構成例を示す模式図である。
【図14】移動ブロックに組み込む4本の複列ボール連結体の相互間に位相差を設けた例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の転がり案内装置を詳細に説明する。
【0018】
図1及び図2は本発明を適用可能な転がり案内装置の第一実施形態を示すものである。この転がり案内装置は、直線状に形成された長尺な軌道レール1と、転動体としての多数のボール3を介して前記軌道レール1に組み付けられると共にこれらボール3の無限循環路を有する移動ブロック2とから構成されており、ボール3が前記無限循環路内を循環することにより、前記移動ブロック2が軌道レール1に跨るようにして該軌道レール1上を自在に往復運動するように構成されている。
【0019】
前記軌道レール1は長手方向と直交する断面が略矩形状に形成されると共に、長手方向に沿った両側面には凹部10が形成されており、結果として各側面の肩部に突堤11が形成されている。各突堤11の上下にはボールの転走面12が形成されており、軌道レール全体では4条の転走面12が形成されている。各転走面12は軌道レール1の底面に対して45°の角度で傾斜しており、前記突堤11の上側に位置する転走面12は斜め上方へ45°の角度で面する一方、下側に位置する転走面12は斜め下方へ45°の角度で面している。また、かかる軌道レール1には長手方向に沿って所定の間隔で固定ボルトの取付け孔13が形成されており、当該軌道レール1を機械装置などに敷設する際に利用される。尚、前記軌道レール1に対する転走面12の配置、傾斜角度及びその条数は、前記移動ブロック2に必要される負荷能力に応じて適宜変更して差し支えない。また、この例では転動体としてボールを使用する例を説明するが、ローラを転動体とするものであっても差し支えない。更に、本発明が適用可能な転がり案内装置の軌道レールは直線状のものに限られず、一定の曲率で円弧状に形成されたものであっても良い。
【0020】
一方、前記移動ブロック2は前記軌道レール1の一部を収容する案内溝を有して略溝型に形成されており、軌道レール1に対してこれに跨がるようにして配置されている。この移動ブロック2は、金属製のブロック本体4と、このブロック本体4を挟むようにして当該ブロック本体4の両端面に固定された一対の合成樹脂製エンドプレート5とから構成されている。前記エンドプレート5は取付けボルト50によってブロック本体4の端面に対して固定される。
【0021】
図2に示されるように、前記ブロック本体4は機械装置などの取付け面41が形成された基部4a、及びこの基部4aと直交する一対の脚部4bを備えて断面略溝型に形成されている。前記基部4aには前記取付け面41及び固定ボルトが螺合するタップ孔42が形成される一方、各脚部4bの内側にはボール3が転走する負荷転走面43がそれぞれ形成されている。前記軌道レール1の転走面12と前記ブロック本体4の負荷転走面43は互いに対向し、ボール3が移動ブロック2と軌道レール1との間で荷重を負荷しながら転走する負荷通路を構成する。すなわち、ブロック本体4には4条の負荷転走面43が形成されている。この実施形態において、各負荷転走面43の長手方向に直交する断面は、ボール3の球面よりも僅かに大きな曲率半径のサーキュラーアーク状をなしているが、その形状は適宜設計変更することができる。前記軌道レール1に形成された転走面12も同様なサーキュラーアーク状に形成されている。また、各脚部4bには各負荷通路に対応した4条の転動体戻し通路44が形成されている。これら転動体戻し通路44の断面形状は転動体としてのボールの断面形状よりも大きく形成されており、ボール3が荷重から開放された状態で負荷通路内とは逆方向へ転走するようになっている。
【0022】
尚、図2中において、符号45はブロック本体4の脚部4bと軌道レール1の側面との間を密封するシール部材である。また、符号46は前記ブロック本体4にねじ止めされた保持器プレートであり、前記移動ブロック2を軌道レール1から抜き取った際に、ボール3が負荷通路から転がり落ちるのを防止している。
【0023】
図3は前記エンドプレート5を示す斜視図であり、かかるエンドプレート5を前記ブロック本体4との当接面側から観察したものである。このエンドプレート5にはボール3の方向転換路を構成する複数のボール誘導溝51が形成されている。これらボール誘導溝51はブロック本体4の各負荷転走面43に対応して設けられており、軌道レール1を取り囲むようにしてエンドプレート5の4ヶ所に形成されている。各ボール誘導溝51は前記ブロック本体4の負荷通路及びボール戻し通路44と対向すべく長孔状の開口を有しており、内部には略U字状に湾曲した外周側案内面52を有している。この外周側案内面52は前記負荷通路とボール戻し通路44との間でボール3を案内し、ボール3の進行方向を180°転換する。この外周側案内面52の前記軌道レール1に面した端部は僅かに切り欠かれて掬い上げ部53が形成されており、軌道レール1の転走面12に接しながら負荷通路を転走してきたボール3はこの掬い上げ部53に乗り上げるようにして前記ボール誘導溝51内に収容される。
【0024】
一方、前記エンドプレート5の各ボール誘導溝51にはリターンピース6が嵌合している。このリターンピース6は半円柱状に形成されており、その外周面には前記ボール誘導溝51内の外周側案内面52と対向する内周側案内面61が凹曲面として設けられている。また、前記内周側案内面61の両側にはエンドプレートと嵌合する半円状の位置決め部62が形成されており、これら位置決め部62は、前記エンドプレート4の各ボール誘導溝51の中央に形成された一対の係止溝54に嵌合する。従って、リターンピース6の位置決め部62をボール誘導溝51の係止溝54に嵌合させると、かかるリターンピース6がボール誘導溝51の中央に位置決めされ、エンドプレート5に設けられた外周側案内面52とリターンピース6に設けられた内周側案内面61とが互いに対向して、ボール5の直径よりも大きな内径の前記方向転換路が完成する。
【0025】
そして、このようにリターンピース6を装着したエンドプレート5をブロック本体4に固定することにより、ブロック本体4の負荷通路と転動体戻し通路44とが略半円状に形成された方向転換路によって連結され、前記移動ブロック2にボール3の無限循環路が完成することになる。
【0026】
図4は前記軌道レールの転走面12とブロック本体の負荷転走面43とが対向して形成される負荷通路47の様子を示す模式図である。前述のように、軌道レール1の転走面12とブロック本体4の負荷転走面43とが対向して負荷通路47が形成され、ボール3はこの負荷通路47においてブロック本体4と軌道レール1との間に作用する荷重を負荷しながら転走する。前記負荷通路47に対するボール3の出入りに起因して前記移動ブロック2にウェービングが発生するのを低減するため、前記ブロック本体4の負荷転走面43の長手方向の両端にはクラウニング領域A及びBがそれぞれ設けられている。これらのクラウニング領域では、前記ブロック本体4の長手方向の端部に近づくにつれて、かかるブロック本体4の負荷転走面43と軌道レール1の転走面12との距離が徐々に拡大している。また、これらクラウニング領域A及びBに挟まれた負荷転走面43の領域は実効負荷領域Cであり、軌道レール1の転走面12と平行な直線状に形成されている。従って、ボール3が図4を紙面左から右方向へ転走する場合、前記エンドプレート5の方向転換路を無負荷状態で転走してきたボール3は、前記ブロック本体4の負荷転走面43に進入すると、クラウニング領域Aにおいて徐々に負荷転走面43と転走面12との間で押しつぶされて、無負荷状態から徐々に負荷状態へと移行し、実効負荷領域Cにおいては荷重を負荷しながら転走する。そして、クラウニング領域Bにおいて徐々に荷重から開放され、最終的には無負荷状態となってエンドプレート5の方向転換路に進入する。尚、図4はエンドプレート5を省略して描いてある。また、図4では前記クラウニング領域A及びBを軌道レール1の転走面12に対して所定角度で傾斜した直線状に描いているが、実効負荷領域Cとの連続性を高めるために曲線状に形成しても差し支えない。
【0027】
図5は、前記ブロック本体4に形成された4条の負荷転走面のうち、前記軌道レール1に対するラジアル荷重F1を負荷する2条の負荷転走面43−1及び43−2に関して、これら負荷転走面43−1,43−2をラジアル荷重F1の作用方向から観察して紙面に投影したものである。負荷転走面43−1の長手方向の両端には前述のクラウニング領域A1及びB1が設けられる一方、これらクラウニング領域A1及びB1に挟まれて実効負荷領域C1が設けられている。また、負荷転走面43−2の長手方向の両端にはクラウニング領域A2及びB2が設けられる一方、これらクラウニング領域A2及びB2に挟まれて実効負荷領域C2が設けられている。これら負荷転走面43−1と負荷転走面43−2を比較した場合、実効負荷領域C1及びC2の長さは同一であるが、クラウニング領域A1とA2の長さは距離mだけ異なっており、また、クラウニング領域B1とB2の長さも距離mだけ異なっている。
【0028】
すなわち、クラウニング領域A1と実効負荷領域C1との境界は、クラウニング領域A2と実効負荷領域C2との境界に対して距離mだけ変位して設けられている。また、同様にして、クラウニング領域B1と実効負荷領域C1との境界は、クラウニング領域B2と実効負荷領域C2との境界に対して距離mだけ変位して設けられている。この第一実施形態では前記クラウニング領域A1及びB2は同じ長さに形成され、前記クラウニング領域A2及びB1は同じ長さに形成されている。従って、負荷転走面43−1と負荷転走面43−2は長手方向の向きを180°反転させた関係となっている。
【0029】
図6は、前記ブロック本体4に形成された4条の負荷転走面のうち、前記軌道レール1に対する横荷重F2を負荷する2条の負荷転走面43−2及び43−3に関して、これら負荷転走面43−2,43−3を横荷重F2の作用方向から観察して紙面に投影したものである。負荷転走面43−3の構成は前述の負荷転走面43−1と同じであり、当該負荷転走面43−3の長手方向の両端にはクラウニング領域A1及びB1が設けられる一方、これらクラウニング領域A1及びB1に挟まれて実効負荷領域C1が設けられている。従って、負荷転走面43−2と負荷転走面43−3の関係は、前述した負荷転走面43−1と負荷転走面43−2の関係と同じであり、負荷転走面43−2と負荷転走面43−3は長手方向の向きを180°反転させた関係となっている。
【0030】
また、具体的に図示はしないが、負荷転走面43−3と軌道レール1を挟んで反対側に位置する負荷転走面43−4の構成は前述の負荷転走面43−2と同じである。すなちわ、負荷転走面43−4は負荷転走面43−1又は負荷転走面43−3の長手方向の向きを180°反転させたものである。
【0031】
従って、前記移動ブロック2に備えられた4条の負荷転走面は、長手方向の向きを180°反転させた2種類の負荷転走面から構成されており、これら2種類の負荷転走面を並べて比較した場合、クラウニング領域と実効負荷領域C1との境界位置が距離mだけ変位したものとなっている。
【0032】
前記変位量mは無限循環路内におけるボール3の配列ピッチの半分に設定されるが、これは理想的な設定量であり、ボールの配列ピッチよりも小さい値であれば本発明の意図している効果を得ることが可能である。ここで、ボール3の配列ピッチとは、前後して無限循環路を転走するボール3の中心間距離であり、例えば、互いに隣接するボール3の間にスペーサが介装されている場合はスペーサの厚さにボール3の直径を加えたものであり、また、ボール同士が無限循環路内で直接接触している場合はボール3の直径である。
【0033】
図7は、ラジアル荷重F1がブロック本体4に対して作用している際に、負荷転走面43−1及び43−2を転走するボール3の荷重負荷状態を示す模式図である。図中において斜線が付されているボール3は前記実効負荷領域Cに存在して軌道レール1と移動ブロック2との間で荷重を負荷しているボール3であり、また、それら以外のボール3は前記クラウニング領域A又はBに存在して完全には荷重を負荷していないボール3である。無限循環路内において前後するボールの間には若干の隙間があり、しかもボール3は前記転動体戻し通路や方向転換路においては後続のボール3から押されるようにして循環しているので、実際にボール3が負荷通路47に進入するタイミングは各無限循環路で同一となる傾向にある。このため、図7では各負荷転走面43−1,43−2を転走するボール3は方向転換路から当該負荷転走面に対して同時に進入すると仮定している。
【0034】
負荷転走面43−1及び43−2の端部に設けられたクラウンニング領域A1及びA2の長さはボール3の配列ピッチの半分だけ異なるので、図7(a)に示すように、負荷転走面43−2においてボール3aがクラウニング領域A2と実効負荷領域C2の境界位置に達し、荷重の負荷状態に移行した際、ボール3aと同時に負荷転走面43−1に進入したボール3bは未だクラウニング領域A1に存在し、完全には荷重の負荷状態に移行していない。一方、負荷転走面43−1においてボール3cが実効負荷領域C1とクラウニング領域B1の境界に達し、負荷状態から無負荷状態へと移行する直前の時、このボール3cと同時に負荷転走面43−2に進入したボール3dは既にクラウニング領域B2を転走しており、徐々に無負荷状態へと移行している最中である。この図7(a)では2条の負荷転走面43−1及び43−2を併せて16個のボール3が前記ラジアル荷重F1を負荷していることになる。
【0035】
次に、図7(b)は図7(a)に比較して各ボール3がボール直径の1/4だけ負荷転走面43−1及び43−2を進行した状態を示している。ボール3aは更に実効負荷領域C2に入り込むので荷重の負荷状態に変わりなく、また、ボール3bは未だその中心がクラウニング領域A1と実効負荷領域C1の中心に到達してないので無負荷状態のままである。これに対し、図7(a)で実効負荷領域C1とクラウニング領域B1との境界に位置していたボール3cは、その中心がクラウニング領域B1に進入したので、荷重の負荷状態から開放されて無負荷状態へと移行している。また、負荷転走面43−2においてボール3dの直後のボール3eはその中心が未だ実効負荷領域に存在しているので、荷重の負荷状態にある。つまり、この図7(b)の状態では、ボール3cのみが荷重の負荷状態から無負荷状態へと移行し、その結果として、ラジアル荷重F1を負荷しているボールの総数は1個減少し、15個のボールがラジアル荷重F1を負荷していることになる。
【0036】
更に、図7(c)は図7(b)に比較して各ボール3がボール直径の1/4だけ負荷転走面43−1及び43−2を進行した状態、すなわち図7(a)に比較して各ボール3がボール直径の1/2だけ負荷転走面43−1及び43−2を進行した状態を示している。負荷転走面43−2におけるボールが荷重を負荷する状態に変化はないが、負荷転走面43−1においては新たにボール3bがクラウニング領域A1と実効負荷領域C1との境界に達するので、かかるボール3bは荷重の負荷状態へと移行する。つまり、この図7(c)の状態では、ボール3bのみが荷重の無負荷状態から負荷状態へと移行し、その結果として、ラジアル荷重F1を負荷しているボールの総数は1個増加し、図7(a)と同じ16個のボール3がラジアル荷重F1を負荷していることになる。
【0037】
仮に、負荷転走面43−1のクラウニング領域A1と負荷転走面43−2のクラウニング領域A2との長さが同一の場合、これら負荷転走面を並んで転走するボールは同時に無負荷状態から負荷状態へ移行する。また、同様にしてクラウニング領域B1とクラウニング領域B2の長さが同一の場合、これら負荷転走面43−1及び43−2を並んで転走するボールは同時に負荷状態から無負荷状態へと移行する。このため、ボール3が無限循環路内を循環することに伴い、ラジアル荷重F1を負荷するボールの総数は2個ずつ増減を繰り返すことになる。
【0038】
しかし、図5に示したように、ラジアル荷重F1に関して機能する2条の負荷転走面43−1及び43−2に関して、クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置をボールの配列ピッチよりも小さい距離mだけ変位させておけば、ラジアル荷重F1を負荷するボールの総数は当該ボールの循環に伴って1個ずつ増減を繰り返すことになる。すなわち、ボール3の循環に伴う負荷ボール数の変動を小さく抑えることができるので、その分だけ個々のボール3に作用するラジアル荷重の増減幅を抑えることができ、軌道レール1に対する移動ブロック2のウェービングを抑制することが可能となる。
【0039】
このことは、横荷重F2を負荷する負荷転走面43−2及び43−3についても同じであり、負荷転走面43−2及び43−3の実効負荷領域C2及びC3を転走するボールの総数は、ボールが無限循環に伴って負荷転走面に出入りしても、1個ずつの増減を繰り返すのみである。従って、ボール3の循環に伴う負荷ボール数の変動を小さく抑えることができるので、その分だけ個々のボール3に作用する横荷重F2の増減幅を抑えることができ、軌道レール1に対する移動ブロック2のウェービングを抑制することが可能となる。
【0040】
この第一実施形態の移動ブロック2を観察した場合、かかる移動ブロック2は前記境界位置が互いに異なる2条の負荷転走面を一組として、二組4条の負荷転走面を有していることになる。組となる2条の負荷転走面とは、例えばラジアル荷重F1に対して機能する負荷転走面を考慮した場合、負荷転走面43−1と負荷転走面43−2、負荷転走面43−3と負荷転走面43−4の二組となる。一方、横荷重F2に対して機能する負荷転走面を考慮した場合、負荷転走面43−2と負荷転走面43−3、負荷転走面43−1と負荷転走面43−4の二組となる。
【0041】
このように所定方向の荷重に対して機能する2条の負荷転走面を一組とし、これら2条の負荷転走面におけるクラウニング領域と実効負荷領域の境界位置が互いに異なっていれば、当該方向の荷重に対する移動ブロック2のウェービングの発生を効果的に抑制することが可能となる。これにより、第一実施形態の転がり案内装置では、軌道レール1と垂直な面内で作用するあらゆる方向の荷重に関して、軌道レール1に対する移動ブロック2のウェービングを低減することが可能となっている。
【0042】
また、総ての負荷転走面において実効負荷領域Cの長さは同一であり、実効負荷領域の一端に位置するクラウニング領域と他端に位置するクラウニング領域の長さが距離mだけ異なっている。換言すれば、この第一実施形態の移動ブロック2では、各負荷転走面43−1,43−2,43−3及び43−4における実効負荷領域Cの形成位置が隣接する負荷転走面のそれに対してボール3の配列ピッチの半分の距離mだけ変位している。このため、境界位置の異なる2種類の負荷転走面を設けることで移動ブロック2に生じるウェービングを低減しつつ、当該移動ブロック2の荷重負荷能力は従来と変わることなく維持することが可能である。
【0043】
この第一実施形態の転がり案内装置において、移動ブロック2に生じるウェービングを一層効果的に抑制するためには、互いに隣接する2条一組の負荷転走面を転走するボールが当該負荷転走面に進入するタイミングを同期させることが望ましい。例えば、負荷転走面43−1及び43−4を転走する2列のボール3を特開平10−2332号公報に示されるような帯状の複列ボール連結体に配列すると共に、負荷転走面43−2及び43−3を転走する2列のボール3も同様な複列ボール連結体に配列し、これら複列ボール連結体を移動ブロック2の各袖部4bの無限循環路に組み込むことが考えられる。各複列ボール連結体に対して2列のボール3を並列に配置することにより、例えば負荷転走面43−1及び43−4の夫々に対してボール3が進入するタイミングは同期するので、負荷転走面43−1と負荷転走面43−4とを比較した場合、ボール3が実効負荷領域C1又はC2に出入りするタイミングは必ず異なったものとなり、既に説明したように移動ブロック2に生じるウェービングを効果的に低減することが可能となる。
【0044】
図8は本発明を適用可能な転がり案内装置の第二実施形態を示すものである。
【0045】
この第二実施形態の転がり案内装置も、第一実施形態として説明した転がり案内装置と同様に、直線状に形成された長尺な軌道レール100と、転動体としての多数のボールを介して前記軌道レール100に組み付けられると共にこれらボールの無限循環路を有する移動ブロック200とから構成されている。そして、ボールが前記無限循環路内を循環することにより、前記移動ブロック200が軌道レール100に跨るようにして該軌道レール100上を自在に往復運動するように構成されている。
【0046】
前記移動ブロック200は前記軌道レール100の一部を収容する案内溝を有して略溝型に形成されており、軌道レール100に対してこれに跨がるようにして配置されている。この移動ブロック200は、金属製のブロック本体400と、このブロック本体400を挟むようにして当該ブロック本体400の両端面に固定された一対の合成樹脂製エンドプレート500とから構成されている。前記軌道レール100は長手方向と直交する断面が矩形状に形成されており、長手方向に沿って一定の間隔で複数のボルト取付け孔130が設けられている。
【0047】
図9に示すように、この軌道レール100には当該軌道レールの長手方向に沿ってボールの転走面101a,101bが複数形成されているが、これら転走面101a,101bは2条1組となって転走面ペアを構成しており、かかる軌道レールには4組の転走面ペア102A〜102Dが設けられている。前記軌道レール100の上面には前記ボルト取付け孔130を挟んで2組の転走面ペア102A,102Bが形成される一方、当該軌道レール100の長手方向に沿った各側面にも転走面ペア102C,102Dが形成されている。各転走面ペア102A〜102Dを構成する2条の転走面101a,101bは軌道レール100の底面103に対して同じ角度で傾斜しており、換言すればボール3との接触角方向が合致しており、これら2条の転走面101a,101bは特定方向の荷重に対して同じように機能してお互いを補完し合う関係にある。例えば、軌道レール100の上面に位置する転走面はボールとの接触角が斜め上方へ45°に設定される一方、軌道レールの側面に位置する転走面はボールとの接触角が斜め下方へ45°に設定されている。尚、前記軌道レール100に対する転走面101a,101bの配置、傾斜角度は、前記移動ブロック200に必要される負荷能力に応じて適宜変更して差し支えない。また、この例では転動体としてボールを使用する例を説明するが、ローラを転動体とするものであっても差し支えない。
【0048】
図10に示すように、前記ブロック本体400は機械装置などの取付け面410が形成された基部400a、及びこの基部400aと直交する一対の脚部400bを備えて断面略溝型に形成されている。前記基部400aには前記取付け面410及び固定ボルトが螺合するタップ孔420が形成されている(図8参照)。前記基部400a及び一対の脚部400bの前記軌道レール100に面した位置には、前記軌道レール100の転走面101a,101bに対向する複数の負荷転走面401a,401bが形成されている。これら負荷転走面401a,401bも軌道レール100の転走面ペア102A〜102Dに対応して2条1組の負荷転走面ペア402A〜402Dを構成している。すなわち、前記基部400aには軌道レール100の転走面ペア102A,102Bに対応した負荷転走面ペア402A,402Bが配置され、各脚部には軌道レール100の転走面ペア102C,102Dに対応した負荷転走面ペア402C,402Dが配置されている。
【0049】
各負荷転走面ペア402A〜402Dに含まれる2条の負荷転走面401a,401bを転走する2列のボールは帯状の複列ボール連結体300に配列されている。図11はこの複列ボール連結体300の一部を示す平面図である。この複列ボール連結体300は合成樹脂の射出成形によって製作されて、ボール3を2列で並列に配置したものであり、各ボール列は負荷転走面ペア402A〜402Dに含まれる負荷転走面401a,401bに対応している。前記複列ボール連結体300は複数のスペーサ302とこれらスペーサ302を相互に結合する可撓性を備えたベルト部303から構成されており、前記スペーサ302は各ボール列を構成するボール3の間に設けられている。これにより、各ボール3は一対のスペーサ302によって回転自在に保持されている。この複列ボール連結体300はボールと一緒に前記移動ブロック200の無限循環路に組み込まれ、ボール3が負荷転走面401a,401bを転走するのに伴って、長手方向へ移動しながら当該無限循環路内を循環する。前記複列ボール連結体300は移動ブロック200の無限循環路内において無端状には連結されておらず、長手方向の一端と他端が間隔を空けて向かい合った状態にある。
【0050】
前記複列ボール連結体300が組み込み可能な無限循環路を形成するため、前記ブロック本体400には各負荷転走面ペア402A〜402Dに対応してベルト戻し通路403が形成されている。これらベルト戻し通路403は前記ボール連結体300が僅かな隙間を残して通過し得る断面形状を有している。ベルト戻し通路403は、前記ブロック本体400に対して前記複列ボール連結体300の幅よりも大きな直径の貫通孔を形成した後、かかる貫通孔の内周面に対して合成樹脂を射出成形することにより製作されている。
【0051】
そして、前記ブロック本体400の両端面に対して方向転換路を備えたエンドプレート500を固定すると、かかるブロック本体のベルト戻し通路403と前記方向転換路とが連結され、ボール連結体300の無限循環路を備えた前記移動ブロック200が完成する。
【0052】
図12は、前記移動ブロック200のブロック本体400に形成された8条の負荷転走面を展開した示した模式図である。このようにブロック本体400には互いに隣接する2条の負荷転走面401a,401bを一組とする負荷転走面ペア402A〜402Dが形成されている。各負荷転走面401aの長手方向の両端には前述の第一実施形態と同様にクラウニング領域A1及びB1が設けられる一方、これらクラウニング領域A1及びB1に挟まれて実効負荷領域C1が設けられている。また、各負荷転走面401bの長手方向の両端にはクラウニング領域A2及びB2が設けられる一方、これらクラウニング領域A2及びB2に挟まれて実効負荷領域C2が設けられている。これら負荷転走面401aと負荷転走面401bを比較した場合、実効負荷領域C1及びC2の長さは同一であるが、クラウニング領域A1とA2の長さは距離mだけ異なっており、また、クラウニング領域B1とB2の長さも距離mだけ異なっている。この変位量mは第一実施形態と同様に無限循環路内におけるボール3の配列ピッチの半分に設定されており、ここでは複列ボール連結体300におけるボールの配列ピッチPの半分である(図11参照)。但し、これは最も好ましい設定値であり、変位量mはボールの配列ピッチPよりも小さい値であれば良い。
【0053】
図11に示すように、前記複列ボール連結体300に対して並列の位置関係で配列された2列のボールは転走方向と直交する方向(一点鎖線X方向)に関して互いに隣接しているので、仮に負荷転走面401aのクラウニング領域A1と負荷転走面401bのクラウニング領域A2との長さが同一の場合、すなわち前記変位量mが設定されていない場合、複列ボール連結体300に配列された2列のボール3は同時に無負荷状態から負荷状態へ移行する。また、同様にしてクラウニング領域B1とクラウニング領域B2の長さが同一の場合、これら負荷転走面401a,401bを並んで転走するボール3は同時に負荷状態から無負荷状態へと移行する。このため、ボール連結体300が無限循環路内を循環することに伴い、各負荷転走面ペア402A〜402Dにおいて荷重を負荷するボールの総数は2個ずつ増減を繰り返すことになる。
【0054】
しかし、図12に示したように、各負荷転走面ペア402A〜402Dを構成する2条の負荷転走面401a,401bに関して、クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置をボール3の配列ピッチの半分の距離mだけ互いに変位させておけば、前述の第一実施形態と同様の理由で、各負荷転走面ペア402A〜402Dにおいて荷重を負荷するボール3の総数は当該ボールの循環に伴って1個ずつ増減を繰り返すことになる。
【0055】
従って、この第二実施形態の転がり案内装置では、複列ボール連結体300が移動ブロック200の無限循環路内を循環しても、各負荷転走面ペア402A〜402Dにおける負荷ボール数の変動を小さく抑えることができるので、その分だけ個々のボール3に作用する荷重の増減幅を抑えることができ、軌道レール100に対する移動ブロック200のウェービングを抑制することが可能となる。
【0056】
特に、この第二実施形態の転がり案内装置では、負荷転走面ペア402Aを構成する2条の負荷転走面401a,401bが特定方向の荷重に対して同じように機能して互いを補完する関係にあるので、このようにクラウニング領域と実効負荷領域との境界位置を変位させたとしても、各負荷転走面ペア毎の荷重負荷能力には変わるところがない。このため、転がり案内装置としての荷重負荷能力を何ら減殺することなく、移動ブロック200のウェービングを効果的に抑制することが可能である。
【0057】
また、この第二実施形態の転がり案内装置では、各負荷転走面ペア毎に複列ボール連結体300が設けられており、2条の負荷転走面401a,401bを転走するボール3は前記複列ボール連結体300に対して2列で並列に配置されているので、これら負荷転走面401a,401bを転走するボールは必ず同時に当該負荷転走面に進入する。このため、クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置を変位させることで、移動ブロック200のウェービングを一層効果的に抑制することが可能となる。
【0058】
尚、図12に示した例では負荷転走面ペア402Aを構成する2条の負荷転走面401a,401bにおける実効負荷領域C1,C2の長さは同一とし、各実効負荷領域の両端に位置するクラウニング領域の長さを異ならせることで、実効負荷領域C1,C2を長手方向へボール配列ピッチの半分の距離mだけ変位させた。しかし、これに限らず、図13に示すように、実効負荷領域の両端におけるクラウニング領域A1及びB1の長さ、A2及びB2の長さは同一とし、クラウニング領域C1とC2の長さを異ならせるようにしても良い。この図13に示す例であっても、負荷転走面401aにおけるクラウニング領域と実効負荷領域との境界位置を、負荷転走面401bのそれに対してボール配列ピッチの半分の距離mだけ変位させることが可能であり、図12に示した場合と同様にウェービングの低減効果を得ることが可能となる。
【0059】
次に、図14は各負荷転走面ペア402A〜402Dに対応して移動ブロック20に組み込まれた4本の複列ボール連結体300A〜300Dの位置関係を示す図である。これら複列ボール連結体を移動ブロック200に組み込むにあたっては、複列ボール連結体の相互の位置関係に関係なく、前述した移動ブロック200のウェービングの低減効果を得ることが可能である。しかし、図14に示すように、負荷転走面ペア402A〜402Dに対応した4本の複列ボール連結体300A〜300Dを(1/4)mずつの位相差を設けて無限循環路に組み込むことにより、移動ブロック200に生じるウェービングをより一層効果的に抑制することが可能となる。図14では、負荷転走面ペア402Aに対応した複列ボール連結体300Aを基準として、負荷転走面ペア402Cに対応した複列ボール連結体300Cが(1/4)mの位相差を有し、負荷転走面ペア402Dに対応した複列ボール連結体300Dが(1/2)mの位相差を有している。また、負荷転走面ペア402Bに対応した複列ボール連結体300Bが(3/4)mの位相差を有している。ここで、位相差mは前述の如く複列ボール連結体に対するボール配列ピッチである。
【0060】
このように、各負荷転走面ペアにおいては負荷転走面401aと負荷転走面401bの実効負荷領域C1及びC2をボールの転走方向に沿って相対的に変位させ、且つ、移動ブロック200に組み込まれた複数の複列ボール連結体300A〜300Dの相互の位置関係に位相差を設けることで、ボールの無限循環に伴って生じる移動ブロック200のウェービングを一層効果的に低減することが可能となる。
【0061】
本願発明者らが検証した結果によれば、この第二実施形態の転がり案内装置における移動ブロック200のラジアル方向に関するウェービングの振幅量は、4本の複列ボール連結体300A〜300Dの相互間に位相差を設けない場合、8条の同じ負荷転走面を有する転がり案内装置のそれの1/7以下となった。また、4本の複列ボール連結体300A〜300Dの相互間に位相差を設けた場合、移動ブロック200のラジアル方向に関するウェービングの振幅量は位相差を設けない場合の1/2以下となり、本発明の有効性を確認することができた。
【0062】
尚、前述の第一実施形態及び第二実施形態では、本発明の適用対象として前記移動ブロックが転動体としてのボールの無限循環路を備えた転がり案内装置について説明してきたが、図4に示したように前記移動ブロックは軌道レールとの間に負荷通路を構成し、当該負荷通路に対してボールが出入りする転がり案内装置であれば、本発明の適用対象はボールの無限循環路を具備した転がり案内装置に限定されるものではない。例えば、多数のボールを配列したボールケージを移動ブロックよりも長尺に形成すると共に、当該ボールケージを前記軌道レールと移動ブロックとの間に介在させ、前記軌道レールに対する移動ブロックの移動に伴って前記ボールケージに配列されたボールが負荷通路に進入する転がり案内装置、所謂有限ストロークタイプの転がり案内装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…軌道レール、2…移動ブロック、3…ボール、12…転走面、43…負荷転走面
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールやローラといった多数の転動体を介して移動部材と案内軸とが移動自在に組付けられた転がり案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転がり案内装置としては、機械装置の固定部に敷設される案内軸としての軌道レールと、転動体としての多数のボールを介して前記軌道レールに組み付けられる移動部材としての移動ブロックと、から構成されたものが知られている。前記軌道レールはその長手方向に沿ってボールの転走面を有する一方、前記移動ブロックは前記軌道レールの転走面と対向して負荷通路を構成する負荷転走面を有しており、前記ボールが転動しながら前記負荷通路に出入りすることにより、前記移動ブロックが軌道レールに沿って移動できるように構成されている。また、前記負荷通路に対してボールを出入りさせる構造としては、前記移動ブロックに対してボールの無限循環路を具備させるものや、前記移動ブロックよりも長尺なボールケージを当該移動ブロックと前記軌道レールとの間に介在させておくものが知られている。
【0003】
前記移動ブロックに対してボールの無限循環路を設けた例について説明すると、かかる無限循環路は、前記ボールが軌道レールと移動ブロックとの間で荷重を負荷しながら転走する負荷通路と、この負荷通路と平行に設けられた転動体戻し通路と、前記負荷通路と転動体戻し通路の端部同士を連結する一対の方向転換路とから構成されており、各方向転換路はボールの転走方向を180°変更するために略半円状に形成されている。また、前記転動体戻し通路及び方向転換路はボールが荷重から解放された状態で転走する無負荷通路として構成されており、これら通路の内径はボール直径よりも大きく形成されている。
【0004】
軌道レールに沿って移動ブロックが移動すると、一方の方向転換路内に存在するボールは前記負荷通路に進入し、かかる負荷通路内で移動ブロックと軌道レールとの間に作用する荷重を負荷しながら転走する。この後、前記負荷通路を転走し終えたボールは当該負荷通路から他方の方向転換路に対して排出されて無負荷状態となる。
【0005】
一方、前記移動ブロックと前記軌道レールとの間にボールケージを設けた例では、かかるボールケージが前記移動ブロックの全長よりも長尺に形成され、そこに所定の間隔で多数のボールが転動自在に配列されていることから、前記移動ブロックが軌道レールに沿って移動すると、前記ボールケージの前記移動ブロックの半分の速度で移動することになり、当該ボールケージに配列されたボールが次々に前記負荷通路に進入して荷重を負荷することになる。また、前記負荷通路を転走し終えたボールはボールケージに配列されたままの状態で移動ブロックと軌道レールとの間から排出され、無負荷状態となる。
【0006】
前記移動ブロックと軌道レールとの間に作用する荷重は前記負荷通路内を転動しているボールによって負荷されており、個々のボールに作用する荷重は前記負荷通路内に同時に存在するボールの個数によって変化することになる。各ボールは作用する荷重に応じて弾性変形を生じることから、前記負荷通路をボールが出入りすると、これに合わせてボールの弾性変形量が変化し、軌道レール上を移動する前記移動ブロックに微小振動(以下、「ウェービング」という)が発生することになる。この移動ブロックに生じるウェービングは振幅0.1〜0.3μm程度の極めて微小なものであるが、超微細な加工精度が要求される工作機械等に採用される転がり案内装置においては、かかるウェービングの低減が重要な課題である。
【0007】
従来、ウェービング低減対策としては、前記移動ブロックの負荷転走面に対する所謂クラウニング処理が知られている。このクラウニング処理では、負荷転走面の長手方向の両端を中央に比較して余分に研削し、余分に研削がなされたクラウニング領域においてボールが無負荷状態から負荷状態へ、あるいは負荷状態から無負荷状態へ移行するようになっている。すなわち、負荷転走面に対してクラウニング処理が施されている場合、前記負荷通路に進入したボールに対して唐突に大きな荷重が作用することはなく、ボールは無負荷状態から徐々に負荷状態へと移行するので、前記ウェービングを抑制することが可能である。
【0008】
また、特開2004−58269に開示される移動体の案内装置では、個々の移動ブロックのウェービングは是認しつつも、複数の移動ブロックで移動体の運動を支承することにより、平均化効果で移動体に伝播するウェービングの低減化を図っている。具体的には、2本の平行な軌道レールに対して3基又は5基の移動ブロックを配置して移動体の直線運動を支承し、これら移動ブロックが移動体の底面で一乃至複数の三角形を構成するように当該移動ブロックを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−58269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前述した移動ブロックの負荷転走面に対するクラウニング処理では、負荷転走面の両端に設けるクラウニング領域の長さ及び深さの最適値が転がり案内装置の使用条件において異なったものとなってしまうので、生産する総ての移動ブロックに対して同じクラウニング処理を施すのであれば、ウェービングの抑制効果は限定的であった。
【0011】
また、特許文献1に示されるような複数の移動ブロックの使用によるウェービングの抑制は、個々の移動ブロックにおけるウェービングの発生を根本的に解決するものではなく、また、軌道レールを1本のみ使用すれば済むような直線案内部には適用できないといった課題があった。
【0012】
このようなウェービングに関する課題は、移動ブロックの負荷通路内を転走する転動体としてボールを使用した場合に限られず、ローラを使用した場合にも同様に発生する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、転動体が負荷通路に出入りすることに起因して移動ブロックに生じるウェービングを効果的に抑制し、搬送対象物である移動体を高精度に案内することが可能な転がり案内装置を提供することにある。
【0014】
すなわち、本発明の転がり案内装置は、長手方向に沿って転動体の転走面が複数形成された軌道レールと、前記転走面と対向して転動体の負荷通路を構成する複数の負荷転走面を有する移動ブロックとを備えており、また、各負荷転走面はその長手方向の両端に設けられた一対のクラウニング領域及びこれらクラウニング領域の間に位置する実効負荷領域を有している。そして、前記移動ブロックは前記クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が異なる少なくとも2種類の負荷転走面を含んでいる。
【発明の効果】
【0015】
前記移動ブロックはクラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が異なる少なくとも2種類の負荷転走面を含んでいるので、これら2種類の負荷転走面を比較した場合、転動体がクラウニング領域から実効負荷領域に進入するタイミングは同一とはならず、前記境界位置の変位量に対応した分だけ異なったものとなる。従って、これら2種類の負荷転走面においては、転動体が異なったタイミングで実効負荷領域からの離脱を行うので、移動ブロックに設けられた総ての負荷転走面を考慮した場合、負荷通路内の実効負荷領域に存在するボールの個数の変動を小さく抑えることができ、その分だけ移動ブロックに生じるウェービングを抑制することができ、搬送対象物である移動体を高精度に案内することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用可能な転がり案内装置の第一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した転がり案内装置のII−II線断面図である。
【図3】図1に示した転がり案内装置のエンドプレート及びリターンピースを示す斜視図である。
【図4】図1に示した転がり案内装置におけるボールの負荷通路の構成を説明する模式図である。
【図5】ラジアル荷重F1に対して機能する2条の負荷転走面を紙面に投影した模式図である。
【図6】横荷重F2に対して機能する2条の負荷転走面を紙面に投影した模式図である。
【図7】ラジアル荷重F1に対して機能する2条の負荷転走面におけるボールの荷重負荷状態を示す模式図である。
【図8】本発明を適用可能な転がり案内装置の第二実施形態を示す斜視図である。
【図9】第二実施形態に係る転がり案内装置の軌道レールを示す正面図である。
【図10】第二実施形態に係る転がり案内装置の正面断面図である。
【図11】第二実施形態に係る転がり案内装置に使用される複列ボール連結体を示す平面図である。
【図12】第二実施形態に係る移動ブロックに形成された負荷転走面を展開した模式図である。
【図13】第二実施形態に係る移動ブロックに形成された負荷転走面ペアの他の構成例を示す模式図である。
【図14】移動ブロックに組み込む4本の複列ボール連結体の相互間に位相差を設けた例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の転がり案内装置を詳細に説明する。
【0018】
図1及び図2は本発明を適用可能な転がり案内装置の第一実施形態を示すものである。この転がり案内装置は、直線状に形成された長尺な軌道レール1と、転動体としての多数のボール3を介して前記軌道レール1に組み付けられると共にこれらボール3の無限循環路を有する移動ブロック2とから構成されており、ボール3が前記無限循環路内を循環することにより、前記移動ブロック2が軌道レール1に跨るようにして該軌道レール1上を自在に往復運動するように構成されている。
【0019】
前記軌道レール1は長手方向と直交する断面が略矩形状に形成されると共に、長手方向に沿った両側面には凹部10が形成されており、結果として各側面の肩部に突堤11が形成されている。各突堤11の上下にはボールの転走面12が形成されており、軌道レール全体では4条の転走面12が形成されている。各転走面12は軌道レール1の底面に対して45°の角度で傾斜しており、前記突堤11の上側に位置する転走面12は斜め上方へ45°の角度で面する一方、下側に位置する転走面12は斜め下方へ45°の角度で面している。また、かかる軌道レール1には長手方向に沿って所定の間隔で固定ボルトの取付け孔13が形成されており、当該軌道レール1を機械装置などに敷設する際に利用される。尚、前記軌道レール1に対する転走面12の配置、傾斜角度及びその条数は、前記移動ブロック2に必要される負荷能力に応じて適宜変更して差し支えない。また、この例では転動体としてボールを使用する例を説明するが、ローラを転動体とするものであっても差し支えない。更に、本発明が適用可能な転がり案内装置の軌道レールは直線状のものに限られず、一定の曲率で円弧状に形成されたものであっても良い。
【0020】
一方、前記移動ブロック2は前記軌道レール1の一部を収容する案内溝を有して略溝型に形成されており、軌道レール1に対してこれに跨がるようにして配置されている。この移動ブロック2は、金属製のブロック本体4と、このブロック本体4を挟むようにして当該ブロック本体4の両端面に固定された一対の合成樹脂製エンドプレート5とから構成されている。前記エンドプレート5は取付けボルト50によってブロック本体4の端面に対して固定される。
【0021】
図2に示されるように、前記ブロック本体4は機械装置などの取付け面41が形成された基部4a、及びこの基部4aと直交する一対の脚部4bを備えて断面略溝型に形成されている。前記基部4aには前記取付け面41及び固定ボルトが螺合するタップ孔42が形成される一方、各脚部4bの内側にはボール3が転走する負荷転走面43がそれぞれ形成されている。前記軌道レール1の転走面12と前記ブロック本体4の負荷転走面43は互いに対向し、ボール3が移動ブロック2と軌道レール1との間で荷重を負荷しながら転走する負荷通路を構成する。すなわち、ブロック本体4には4条の負荷転走面43が形成されている。この実施形態において、各負荷転走面43の長手方向に直交する断面は、ボール3の球面よりも僅かに大きな曲率半径のサーキュラーアーク状をなしているが、その形状は適宜設計変更することができる。前記軌道レール1に形成された転走面12も同様なサーキュラーアーク状に形成されている。また、各脚部4bには各負荷通路に対応した4条の転動体戻し通路44が形成されている。これら転動体戻し通路44の断面形状は転動体としてのボールの断面形状よりも大きく形成されており、ボール3が荷重から開放された状態で負荷通路内とは逆方向へ転走するようになっている。
【0022】
尚、図2中において、符号45はブロック本体4の脚部4bと軌道レール1の側面との間を密封するシール部材である。また、符号46は前記ブロック本体4にねじ止めされた保持器プレートであり、前記移動ブロック2を軌道レール1から抜き取った際に、ボール3が負荷通路から転がり落ちるのを防止している。
【0023】
図3は前記エンドプレート5を示す斜視図であり、かかるエンドプレート5を前記ブロック本体4との当接面側から観察したものである。このエンドプレート5にはボール3の方向転換路を構成する複数のボール誘導溝51が形成されている。これらボール誘導溝51はブロック本体4の各負荷転走面43に対応して設けられており、軌道レール1を取り囲むようにしてエンドプレート5の4ヶ所に形成されている。各ボール誘導溝51は前記ブロック本体4の負荷通路及びボール戻し通路44と対向すべく長孔状の開口を有しており、内部には略U字状に湾曲した外周側案内面52を有している。この外周側案内面52は前記負荷通路とボール戻し通路44との間でボール3を案内し、ボール3の進行方向を180°転換する。この外周側案内面52の前記軌道レール1に面した端部は僅かに切り欠かれて掬い上げ部53が形成されており、軌道レール1の転走面12に接しながら負荷通路を転走してきたボール3はこの掬い上げ部53に乗り上げるようにして前記ボール誘導溝51内に収容される。
【0024】
一方、前記エンドプレート5の各ボール誘導溝51にはリターンピース6が嵌合している。このリターンピース6は半円柱状に形成されており、その外周面には前記ボール誘導溝51内の外周側案内面52と対向する内周側案内面61が凹曲面として設けられている。また、前記内周側案内面61の両側にはエンドプレートと嵌合する半円状の位置決め部62が形成されており、これら位置決め部62は、前記エンドプレート4の各ボール誘導溝51の中央に形成された一対の係止溝54に嵌合する。従って、リターンピース6の位置決め部62をボール誘導溝51の係止溝54に嵌合させると、かかるリターンピース6がボール誘導溝51の中央に位置決めされ、エンドプレート5に設けられた外周側案内面52とリターンピース6に設けられた内周側案内面61とが互いに対向して、ボール5の直径よりも大きな内径の前記方向転換路が完成する。
【0025】
そして、このようにリターンピース6を装着したエンドプレート5をブロック本体4に固定することにより、ブロック本体4の負荷通路と転動体戻し通路44とが略半円状に形成された方向転換路によって連結され、前記移動ブロック2にボール3の無限循環路が完成することになる。
【0026】
図4は前記軌道レールの転走面12とブロック本体の負荷転走面43とが対向して形成される負荷通路47の様子を示す模式図である。前述のように、軌道レール1の転走面12とブロック本体4の負荷転走面43とが対向して負荷通路47が形成され、ボール3はこの負荷通路47においてブロック本体4と軌道レール1との間に作用する荷重を負荷しながら転走する。前記負荷通路47に対するボール3の出入りに起因して前記移動ブロック2にウェービングが発生するのを低減するため、前記ブロック本体4の負荷転走面43の長手方向の両端にはクラウニング領域A及びBがそれぞれ設けられている。これらのクラウニング領域では、前記ブロック本体4の長手方向の端部に近づくにつれて、かかるブロック本体4の負荷転走面43と軌道レール1の転走面12との距離が徐々に拡大している。また、これらクラウニング領域A及びBに挟まれた負荷転走面43の領域は実効負荷領域Cであり、軌道レール1の転走面12と平行な直線状に形成されている。従って、ボール3が図4を紙面左から右方向へ転走する場合、前記エンドプレート5の方向転換路を無負荷状態で転走してきたボール3は、前記ブロック本体4の負荷転走面43に進入すると、クラウニング領域Aにおいて徐々に負荷転走面43と転走面12との間で押しつぶされて、無負荷状態から徐々に負荷状態へと移行し、実効負荷領域Cにおいては荷重を負荷しながら転走する。そして、クラウニング領域Bにおいて徐々に荷重から開放され、最終的には無負荷状態となってエンドプレート5の方向転換路に進入する。尚、図4はエンドプレート5を省略して描いてある。また、図4では前記クラウニング領域A及びBを軌道レール1の転走面12に対して所定角度で傾斜した直線状に描いているが、実効負荷領域Cとの連続性を高めるために曲線状に形成しても差し支えない。
【0027】
図5は、前記ブロック本体4に形成された4条の負荷転走面のうち、前記軌道レール1に対するラジアル荷重F1を負荷する2条の負荷転走面43−1及び43−2に関して、これら負荷転走面43−1,43−2をラジアル荷重F1の作用方向から観察して紙面に投影したものである。負荷転走面43−1の長手方向の両端には前述のクラウニング領域A1及びB1が設けられる一方、これらクラウニング領域A1及びB1に挟まれて実効負荷領域C1が設けられている。また、負荷転走面43−2の長手方向の両端にはクラウニング領域A2及びB2が設けられる一方、これらクラウニング領域A2及びB2に挟まれて実効負荷領域C2が設けられている。これら負荷転走面43−1と負荷転走面43−2を比較した場合、実効負荷領域C1及びC2の長さは同一であるが、クラウニング領域A1とA2の長さは距離mだけ異なっており、また、クラウニング領域B1とB2の長さも距離mだけ異なっている。
【0028】
すなわち、クラウニング領域A1と実効負荷領域C1との境界は、クラウニング領域A2と実効負荷領域C2との境界に対して距離mだけ変位して設けられている。また、同様にして、クラウニング領域B1と実効負荷領域C1との境界は、クラウニング領域B2と実効負荷領域C2との境界に対して距離mだけ変位して設けられている。この第一実施形態では前記クラウニング領域A1及びB2は同じ長さに形成され、前記クラウニング領域A2及びB1は同じ長さに形成されている。従って、負荷転走面43−1と負荷転走面43−2は長手方向の向きを180°反転させた関係となっている。
【0029】
図6は、前記ブロック本体4に形成された4条の負荷転走面のうち、前記軌道レール1に対する横荷重F2を負荷する2条の負荷転走面43−2及び43−3に関して、これら負荷転走面43−2,43−3を横荷重F2の作用方向から観察して紙面に投影したものである。負荷転走面43−3の構成は前述の負荷転走面43−1と同じであり、当該負荷転走面43−3の長手方向の両端にはクラウニング領域A1及びB1が設けられる一方、これらクラウニング領域A1及びB1に挟まれて実効負荷領域C1が設けられている。従って、負荷転走面43−2と負荷転走面43−3の関係は、前述した負荷転走面43−1と負荷転走面43−2の関係と同じであり、負荷転走面43−2と負荷転走面43−3は長手方向の向きを180°反転させた関係となっている。
【0030】
また、具体的に図示はしないが、負荷転走面43−3と軌道レール1を挟んで反対側に位置する負荷転走面43−4の構成は前述の負荷転走面43−2と同じである。すなちわ、負荷転走面43−4は負荷転走面43−1又は負荷転走面43−3の長手方向の向きを180°反転させたものである。
【0031】
従って、前記移動ブロック2に備えられた4条の負荷転走面は、長手方向の向きを180°反転させた2種類の負荷転走面から構成されており、これら2種類の負荷転走面を並べて比較した場合、クラウニング領域と実効負荷領域C1との境界位置が距離mだけ変位したものとなっている。
【0032】
前記変位量mは無限循環路内におけるボール3の配列ピッチの半分に設定されるが、これは理想的な設定量であり、ボールの配列ピッチよりも小さい値であれば本発明の意図している効果を得ることが可能である。ここで、ボール3の配列ピッチとは、前後して無限循環路を転走するボール3の中心間距離であり、例えば、互いに隣接するボール3の間にスペーサが介装されている場合はスペーサの厚さにボール3の直径を加えたものであり、また、ボール同士が無限循環路内で直接接触している場合はボール3の直径である。
【0033】
図7は、ラジアル荷重F1がブロック本体4に対して作用している際に、負荷転走面43−1及び43−2を転走するボール3の荷重負荷状態を示す模式図である。図中において斜線が付されているボール3は前記実効負荷領域Cに存在して軌道レール1と移動ブロック2との間で荷重を負荷しているボール3であり、また、それら以外のボール3は前記クラウニング領域A又はBに存在して完全には荷重を負荷していないボール3である。無限循環路内において前後するボールの間には若干の隙間があり、しかもボール3は前記転動体戻し通路や方向転換路においては後続のボール3から押されるようにして循環しているので、実際にボール3が負荷通路47に進入するタイミングは各無限循環路で同一となる傾向にある。このため、図7では各負荷転走面43−1,43−2を転走するボール3は方向転換路から当該負荷転走面に対して同時に進入すると仮定している。
【0034】
負荷転走面43−1及び43−2の端部に設けられたクラウンニング領域A1及びA2の長さはボール3の配列ピッチの半分だけ異なるので、図7(a)に示すように、負荷転走面43−2においてボール3aがクラウニング領域A2と実効負荷領域C2の境界位置に達し、荷重の負荷状態に移行した際、ボール3aと同時に負荷転走面43−1に進入したボール3bは未だクラウニング領域A1に存在し、完全には荷重の負荷状態に移行していない。一方、負荷転走面43−1においてボール3cが実効負荷領域C1とクラウニング領域B1の境界に達し、負荷状態から無負荷状態へと移行する直前の時、このボール3cと同時に負荷転走面43−2に進入したボール3dは既にクラウニング領域B2を転走しており、徐々に無負荷状態へと移行している最中である。この図7(a)では2条の負荷転走面43−1及び43−2を併せて16個のボール3が前記ラジアル荷重F1を負荷していることになる。
【0035】
次に、図7(b)は図7(a)に比較して各ボール3がボール直径の1/4だけ負荷転走面43−1及び43−2を進行した状態を示している。ボール3aは更に実効負荷領域C2に入り込むので荷重の負荷状態に変わりなく、また、ボール3bは未だその中心がクラウニング領域A1と実効負荷領域C1の中心に到達してないので無負荷状態のままである。これに対し、図7(a)で実効負荷領域C1とクラウニング領域B1との境界に位置していたボール3cは、その中心がクラウニング領域B1に進入したので、荷重の負荷状態から開放されて無負荷状態へと移行している。また、負荷転走面43−2においてボール3dの直後のボール3eはその中心が未だ実効負荷領域に存在しているので、荷重の負荷状態にある。つまり、この図7(b)の状態では、ボール3cのみが荷重の負荷状態から無負荷状態へと移行し、その結果として、ラジアル荷重F1を負荷しているボールの総数は1個減少し、15個のボールがラジアル荷重F1を負荷していることになる。
【0036】
更に、図7(c)は図7(b)に比較して各ボール3がボール直径の1/4だけ負荷転走面43−1及び43−2を進行した状態、すなわち図7(a)に比較して各ボール3がボール直径の1/2だけ負荷転走面43−1及び43−2を進行した状態を示している。負荷転走面43−2におけるボールが荷重を負荷する状態に変化はないが、負荷転走面43−1においては新たにボール3bがクラウニング領域A1と実効負荷領域C1との境界に達するので、かかるボール3bは荷重の負荷状態へと移行する。つまり、この図7(c)の状態では、ボール3bのみが荷重の無負荷状態から負荷状態へと移行し、その結果として、ラジアル荷重F1を負荷しているボールの総数は1個増加し、図7(a)と同じ16個のボール3がラジアル荷重F1を負荷していることになる。
【0037】
仮に、負荷転走面43−1のクラウニング領域A1と負荷転走面43−2のクラウニング領域A2との長さが同一の場合、これら負荷転走面を並んで転走するボールは同時に無負荷状態から負荷状態へ移行する。また、同様にしてクラウニング領域B1とクラウニング領域B2の長さが同一の場合、これら負荷転走面43−1及び43−2を並んで転走するボールは同時に負荷状態から無負荷状態へと移行する。このため、ボール3が無限循環路内を循環することに伴い、ラジアル荷重F1を負荷するボールの総数は2個ずつ増減を繰り返すことになる。
【0038】
しかし、図5に示したように、ラジアル荷重F1に関して機能する2条の負荷転走面43−1及び43−2に関して、クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置をボールの配列ピッチよりも小さい距離mだけ変位させておけば、ラジアル荷重F1を負荷するボールの総数は当該ボールの循環に伴って1個ずつ増減を繰り返すことになる。すなわち、ボール3の循環に伴う負荷ボール数の変動を小さく抑えることができるので、その分だけ個々のボール3に作用するラジアル荷重の増減幅を抑えることができ、軌道レール1に対する移動ブロック2のウェービングを抑制することが可能となる。
【0039】
このことは、横荷重F2を負荷する負荷転走面43−2及び43−3についても同じであり、負荷転走面43−2及び43−3の実効負荷領域C2及びC3を転走するボールの総数は、ボールが無限循環に伴って負荷転走面に出入りしても、1個ずつの増減を繰り返すのみである。従って、ボール3の循環に伴う負荷ボール数の変動を小さく抑えることができるので、その分だけ個々のボール3に作用する横荷重F2の増減幅を抑えることができ、軌道レール1に対する移動ブロック2のウェービングを抑制することが可能となる。
【0040】
この第一実施形態の移動ブロック2を観察した場合、かかる移動ブロック2は前記境界位置が互いに異なる2条の負荷転走面を一組として、二組4条の負荷転走面を有していることになる。組となる2条の負荷転走面とは、例えばラジアル荷重F1に対して機能する負荷転走面を考慮した場合、負荷転走面43−1と負荷転走面43−2、負荷転走面43−3と負荷転走面43−4の二組となる。一方、横荷重F2に対して機能する負荷転走面を考慮した場合、負荷転走面43−2と負荷転走面43−3、負荷転走面43−1と負荷転走面43−4の二組となる。
【0041】
このように所定方向の荷重に対して機能する2条の負荷転走面を一組とし、これら2条の負荷転走面におけるクラウニング領域と実効負荷領域の境界位置が互いに異なっていれば、当該方向の荷重に対する移動ブロック2のウェービングの発生を効果的に抑制することが可能となる。これにより、第一実施形態の転がり案内装置では、軌道レール1と垂直な面内で作用するあらゆる方向の荷重に関して、軌道レール1に対する移動ブロック2のウェービングを低減することが可能となっている。
【0042】
また、総ての負荷転走面において実効負荷領域Cの長さは同一であり、実効負荷領域の一端に位置するクラウニング領域と他端に位置するクラウニング領域の長さが距離mだけ異なっている。換言すれば、この第一実施形態の移動ブロック2では、各負荷転走面43−1,43−2,43−3及び43−4における実効負荷領域Cの形成位置が隣接する負荷転走面のそれに対してボール3の配列ピッチの半分の距離mだけ変位している。このため、境界位置の異なる2種類の負荷転走面を設けることで移動ブロック2に生じるウェービングを低減しつつ、当該移動ブロック2の荷重負荷能力は従来と変わることなく維持することが可能である。
【0043】
この第一実施形態の転がり案内装置において、移動ブロック2に生じるウェービングを一層効果的に抑制するためには、互いに隣接する2条一組の負荷転走面を転走するボールが当該負荷転走面に進入するタイミングを同期させることが望ましい。例えば、負荷転走面43−1及び43−4を転走する2列のボール3を特開平10−2332号公報に示されるような帯状の複列ボール連結体に配列すると共に、負荷転走面43−2及び43−3を転走する2列のボール3も同様な複列ボール連結体に配列し、これら複列ボール連結体を移動ブロック2の各袖部4bの無限循環路に組み込むことが考えられる。各複列ボール連結体に対して2列のボール3を並列に配置することにより、例えば負荷転走面43−1及び43−4の夫々に対してボール3が進入するタイミングは同期するので、負荷転走面43−1と負荷転走面43−4とを比較した場合、ボール3が実効負荷領域C1又はC2に出入りするタイミングは必ず異なったものとなり、既に説明したように移動ブロック2に生じるウェービングを効果的に低減することが可能となる。
【0044】
図8は本発明を適用可能な転がり案内装置の第二実施形態を示すものである。
【0045】
この第二実施形態の転がり案内装置も、第一実施形態として説明した転がり案内装置と同様に、直線状に形成された長尺な軌道レール100と、転動体としての多数のボールを介して前記軌道レール100に組み付けられると共にこれらボールの無限循環路を有する移動ブロック200とから構成されている。そして、ボールが前記無限循環路内を循環することにより、前記移動ブロック200が軌道レール100に跨るようにして該軌道レール100上を自在に往復運動するように構成されている。
【0046】
前記移動ブロック200は前記軌道レール100の一部を収容する案内溝を有して略溝型に形成されており、軌道レール100に対してこれに跨がるようにして配置されている。この移動ブロック200は、金属製のブロック本体400と、このブロック本体400を挟むようにして当該ブロック本体400の両端面に固定された一対の合成樹脂製エンドプレート500とから構成されている。前記軌道レール100は長手方向と直交する断面が矩形状に形成されており、長手方向に沿って一定の間隔で複数のボルト取付け孔130が設けられている。
【0047】
図9に示すように、この軌道レール100には当該軌道レールの長手方向に沿ってボールの転走面101a,101bが複数形成されているが、これら転走面101a,101bは2条1組となって転走面ペアを構成しており、かかる軌道レールには4組の転走面ペア102A〜102Dが設けられている。前記軌道レール100の上面には前記ボルト取付け孔130を挟んで2組の転走面ペア102A,102Bが形成される一方、当該軌道レール100の長手方向に沿った各側面にも転走面ペア102C,102Dが形成されている。各転走面ペア102A〜102Dを構成する2条の転走面101a,101bは軌道レール100の底面103に対して同じ角度で傾斜しており、換言すればボール3との接触角方向が合致しており、これら2条の転走面101a,101bは特定方向の荷重に対して同じように機能してお互いを補完し合う関係にある。例えば、軌道レール100の上面に位置する転走面はボールとの接触角が斜め上方へ45°に設定される一方、軌道レールの側面に位置する転走面はボールとの接触角が斜め下方へ45°に設定されている。尚、前記軌道レール100に対する転走面101a,101bの配置、傾斜角度は、前記移動ブロック200に必要される負荷能力に応じて適宜変更して差し支えない。また、この例では転動体としてボールを使用する例を説明するが、ローラを転動体とするものであっても差し支えない。
【0048】
図10に示すように、前記ブロック本体400は機械装置などの取付け面410が形成された基部400a、及びこの基部400aと直交する一対の脚部400bを備えて断面略溝型に形成されている。前記基部400aには前記取付け面410及び固定ボルトが螺合するタップ孔420が形成されている(図8参照)。前記基部400a及び一対の脚部400bの前記軌道レール100に面した位置には、前記軌道レール100の転走面101a,101bに対向する複数の負荷転走面401a,401bが形成されている。これら負荷転走面401a,401bも軌道レール100の転走面ペア102A〜102Dに対応して2条1組の負荷転走面ペア402A〜402Dを構成している。すなわち、前記基部400aには軌道レール100の転走面ペア102A,102Bに対応した負荷転走面ペア402A,402Bが配置され、各脚部には軌道レール100の転走面ペア102C,102Dに対応した負荷転走面ペア402C,402Dが配置されている。
【0049】
各負荷転走面ペア402A〜402Dに含まれる2条の負荷転走面401a,401bを転走する2列のボールは帯状の複列ボール連結体300に配列されている。図11はこの複列ボール連結体300の一部を示す平面図である。この複列ボール連結体300は合成樹脂の射出成形によって製作されて、ボール3を2列で並列に配置したものであり、各ボール列は負荷転走面ペア402A〜402Dに含まれる負荷転走面401a,401bに対応している。前記複列ボール連結体300は複数のスペーサ302とこれらスペーサ302を相互に結合する可撓性を備えたベルト部303から構成されており、前記スペーサ302は各ボール列を構成するボール3の間に設けられている。これにより、各ボール3は一対のスペーサ302によって回転自在に保持されている。この複列ボール連結体300はボールと一緒に前記移動ブロック200の無限循環路に組み込まれ、ボール3が負荷転走面401a,401bを転走するのに伴って、長手方向へ移動しながら当該無限循環路内を循環する。前記複列ボール連結体300は移動ブロック200の無限循環路内において無端状には連結されておらず、長手方向の一端と他端が間隔を空けて向かい合った状態にある。
【0050】
前記複列ボール連結体300が組み込み可能な無限循環路を形成するため、前記ブロック本体400には各負荷転走面ペア402A〜402Dに対応してベルト戻し通路403が形成されている。これらベルト戻し通路403は前記ボール連結体300が僅かな隙間を残して通過し得る断面形状を有している。ベルト戻し通路403は、前記ブロック本体400に対して前記複列ボール連結体300の幅よりも大きな直径の貫通孔を形成した後、かかる貫通孔の内周面に対して合成樹脂を射出成形することにより製作されている。
【0051】
そして、前記ブロック本体400の両端面に対して方向転換路を備えたエンドプレート500を固定すると、かかるブロック本体のベルト戻し通路403と前記方向転換路とが連結され、ボール連結体300の無限循環路を備えた前記移動ブロック200が完成する。
【0052】
図12は、前記移動ブロック200のブロック本体400に形成された8条の負荷転走面を展開した示した模式図である。このようにブロック本体400には互いに隣接する2条の負荷転走面401a,401bを一組とする負荷転走面ペア402A〜402Dが形成されている。各負荷転走面401aの長手方向の両端には前述の第一実施形態と同様にクラウニング領域A1及びB1が設けられる一方、これらクラウニング領域A1及びB1に挟まれて実効負荷領域C1が設けられている。また、各負荷転走面401bの長手方向の両端にはクラウニング領域A2及びB2が設けられる一方、これらクラウニング領域A2及びB2に挟まれて実効負荷領域C2が設けられている。これら負荷転走面401aと負荷転走面401bを比較した場合、実効負荷領域C1及びC2の長さは同一であるが、クラウニング領域A1とA2の長さは距離mだけ異なっており、また、クラウニング領域B1とB2の長さも距離mだけ異なっている。この変位量mは第一実施形態と同様に無限循環路内におけるボール3の配列ピッチの半分に設定されており、ここでは複列ボール連結体300におけるボールの配列ピッチPの半分である(図11参照)。但し、これは最も好ましい設定値であり、変位量mはボールの配列ピッチPよりも小さい値であれば良い。
【0053】
図11に示すように、前記複列ボール連結体300に対して並列の位置関係で配列された2列のボールは転走方向と直交する方向(一点鎖線X方向)に関して互いに隣接しているので、仮に負荷転走面401aのクラウニング領域A1と負荷転走面401bのクラウニング領域A2との長さが同一の場合、すなわち前記変位量mが設定されていない場合、複列ボール連結体300に配列された2列のボール3は同時に無負荷状態から負荷状態へ移行する。また、同様にしてクラウニング領域B1とクラウニング領域B2の長さが同一の場合、これら負荷転走面401a,401bを並んで転走するボール3は同時に負荷状態から無負荷状態へと移行する。このため、ボール連結体300が無限循環路内を循環することに伴い、各負荷転走面ペア402A〜402Dにおいて荷重を負荷するボールの総数は2個ずつ増減を繰り返すことになる。
【0054】
しかし、図12に示したように、各負荷転走面ペア402A〜402Dを構成する2条の負荷転走面401a,401bに関して、クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置をボール3の配列ピッチの半分の距離mだけ互いに変位させておけば、前述の第一実施形態と同様の理由で、各負荷転走面ペア402A〜402Dにおいて荷重を負荷するボール3の総数は当該ボールの循環に伴って1個ずつ増減を繰り返すことになる。
【0055】
従って、この第二実施形態の転がり案内装置では、複列ボール連結体300が移動ブロック200の無限循環路内を循環しても、各負荷転走面ペア402A〜402Dにおける負荷ボール数の変動を小さく抑えることができるので、その分だけ個々のボール3に作用する荷重の増減幅を抑えることができ、軌道レール100に対する移動ブロック200のウェービングを抑制することが可能となる。
【0056】
特に、この第二実施形態の転がり案内装置では、負荷転走面ペア402Aを構成する2条の負荷転走面401a,401bが特定方向の荷重に対して同じように機能して互いを補完する関係にあるので、このようにクラウニング領域と実効負荷領域との境界位置を変位させたとしても、各負荷転走面ペア毎の荷重負荷能力には変わるところがない。このため、転がり案内装置としての荷重負荷能力を何ら減殺することなく、移動ブロック200のウェービングを効果的に抑制することが可能である。
【0057】
また、この第二実施形態の転がり案内装置では、各負荷転走面ペア毎に複列ボール連結体300が設けられており、2条の負荷転走面401a,401bを転走するボール3は前記複列ボール連結体300に対して2列で並列に配置されているので、これら負荷転走面401a,401bを転走するボールは必ず同時に当該負荷転走面に進入する。このため、クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置を変位させることで、移動ブロック200のウェービングを一層効果的に抑制することが可能となる。
【0058】
尚、図12に示した例では負荷転走面ペア402Aを構成する2条の負荷転走面401a,401bにおける実効負荷領域C1,C2の長さは同一とし、各実効負荷領域の両端に位置するクラウニング領域の長さを異ならせることで、実効負荷領域C1,C2を長手方向へボール配列ピッチの半分の距離mだけ変位させた。しかし、これに限らず、図13に示すように、実効負荷領域の両端におけるクラウニング領域A1及びB1の長さ、A2及びB2の長さは同一とし、クラウニング領域C1とC2の長さを異ならせるようにしても良い。この図13に示す例であっても、負荷転走面401aにおけるクラウニング領域と実効負荷領域との境界位置を、負荷転走面401bのそれに対してボール配列ピッチの半分の距離mだけ変位させることが可能であり、図12に示した場合と同様にウェービングの低減効果を得ることが可能となる。
【0059】
次に、図14は各負荷転走面ペア402A〜402Dに対応して移動ブロック20に組み込まれた4本の複列ボール連結体300A〜300Dの位置関係を示す図である。これら複列ボール連結体を移動ブロック200に組み込むにあたっては、複列ボール連結体の相互の位置関係に関係なく、前述した移動ブロック200のウェービングの低減効果を得ることが可能である。しかし、図14に示すように、負荷転走面ペア402A〜402Dに対応した4本の複列ボール連結体300A〜300Dを(1/4)mずつの位相差を設けて無限循環路に組み込むことにより、移動ブロック200に生じるウェービングをより一層効果的に抑制することが可能となる。図14では、負荷転走面ペア402Aに対応した複列ボール連結体300Aを基準として、負荷転走面ペア402Cに対応した複列ボール連結体300Cが(1/4)mの位相差を有し、負荷転走面ペア402Dに対応した複列ボール連結体300Dが(1/2)mの位相差を有している。また、負荷転走面ペア402Bに対応した複列ボール連結体300Bが(3/4)mの位相差を有している。ここで、位相差mは前述の如く複列ボール連結体に対するボール配列ピッチである。
【0060】
このように、各負荷転走面ペアにおいては負荷転走面401aと負荷転走面401bの実効負荷領域C1及びC2をボールの転走方向に沿って相対的に変位させ、且つ、移動ブロック200に組み込まれた複数の複列ボール連結体300A〜300Dの相互の位置関係に位相差を設けることで、ボールの無限循環に伴って生じる移動ブロック200のウェービングを一層効果的に低減することが可能となる。
【0061】
本願発明者らが検証した結果によれば、この第二実施形態の転がり案内装置における移動ブロック200のラジアル方向に関するウェービングの振幅量は、4本の複列ボール連結体300A〜300Dの相互間に位相差を設けない場合、8条の同じ負荷転走面を有する転がり案内装置のそれの1/7以下となった。また、4本の複列ボール連結体300A〜300Dの相互間に位相差を設けた場合、移動ブロック200のラジアル方向に関するウェービングの振幅量は位相差を設けない場合の1/2以下となり、本発明の有効性を確認することができた。
【0062】
尚、前述の第一実施形態及び第二実施形態では、本発明の適用対象として前記移動ブロックが転動体としてのボールの無限循環路を備えた転がり案内装置について説明してきたが、図4に示したように前記移動ブロックは軌道レールとの間に負荷通路を構成し、当該負荷通路に対してボールが出入りする転がり案内装置であれば、本発明の適用対象はボールの無限循環路を具備した転がり案内装置に限定されるものではない。例えば、多数のボールを配列したボールケージを移動ブロックよりも長尺に形成すると共に、当該ボールケージを前記軌道レールと移動ブロックとの間に介在させ、前記軌道レールに対する移動ブロックの移動に伴って前記ボールケージに配列されたボールが負荷通路に進入する転がり案内装置、所謂有限ストロークタイプの転がり案内装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…軌道レール、2…移動ブロック、3…ボール、12…転走面、43…負荷転走面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って転動体の転走面が複数形成された軌道レールと、前記転走面と対向して転動体の負荷通路を構成する複数の負荷転走面を有する移動ブロックとを備え、
各負荷転走面は、その長手方向の両端に設けられた一対のクラウニング領域及びこれらクラウニング領域の間に位置する実効負荷領域を有する転がり案内装置において、
前記移動ブロックは前記クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が異なる少なくとも2種類の負荷転走面を含んでいることを特徴とする転がり案内装置。
【請求項2】
前記クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が互いに異なる2条の負荷転走面を一組とし、前記移動ブロックは複数組の負荷転走面を備えていることを特徴とする請求項1記載の転がり案内装置。
【請求項3】
組をなす2条の負荷転走面は互いに隣接し、これら2条の負荷転走面を転走する2列の転動体に対して、前記負荷転走面への進入タイミングを同期させる手段が設けられていることを特徴とする請求項2記載の転がり案内装置。
【請求項4】
前記移動ブロックは前記負荷通路を転走する転動体の無限循環路を有する一方、前記同期手段は2列の転動体が並列配置された可撓性の複列ボール連結体であり、この複列ボール連結体が転動体と共に前記移動ブロックの無限循環路に組み込まれていることを特徴とする請求項3記載の転がり案内装置。
【請求項5】
総ての負荷転走面において前記実効負荷領域の長さは同一であることを特徴とする請求項4記載の転がり案内装置。
【請求項6】
組をなす2条の負荷転走面は、転動体との接触角方向が同一であることを特徴とする請求項5記載の転がり案内装置。
【請求項7】
組をなす2条の負荷転走面における前記境界位置の変位量は前記無限循環路内におけるボール配列ピッチの半分であることを特徴とする請求項2記載の転がり案内装置。
【請求項1】
長手方向に沿って転動体の転走面が複数形成された軌道レールと、前記転走面と対向して転動体の負荷通路を構成する複数の負荷転走面を有する移動ブロックとを備え、
各負荷転走面は、その長手方向の両端に設けられた一対のクラウニング領域及びこれらクラウニング領域の間に位置する実効負荷領域を有する転がり案内装置において、
前記移動ブロックは前記クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が異なる少なくとも2種類の負荷転走面を含んでいることを特徴とする転がり案内装置。
【請求項2】
前記クラウニング領域と実効負荷領域との境界位置が互いに異なる2条の負荷転走面を一組とし、前記移動ブロックは複数組の負荷転走面を備えていることを特徴とする請求項1記載の転がり案内装置。
【請求項3】
組をなす2条の負荷転走面は互いに隣接し、これら2条の負荷転走面を転走する2列の転動体に対して、前記負荷転走面への進入タイミングを同期させる手段が設けられていることを特徴とする請求項2記載の転がり案内装置。
【請求項4】
前記移動ブロックは前記負荷通路を転走する転動体の無限循環路を有する一方、前記同期手段は2列の転動体が並列配置された可撓性の複列ボール連結体であり、この複列ボール連結体が転動体と共に前記移動ブロックの無限循環路に組み込まれていることを特徴とする請求項3記載の転がり案内装置。
【請求項5】
総ての負荷転走面において前記実効負荷領域の長さは同一であることを特徴とする請求項4記載の転がり案内装置。
【請求項6】
組をなす2条の負荷転走面は、転動体との接触角方向が同一であることを特徴とする請求項5記載の転がり案内装置。
【請求項7】
組をなす2条の負荷転走面における前記境界位置の変位量は前記無限循環路内におけるボール配列ピッチの半分であることを特徴とする請求項2記載の転がり案内装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−92235(P2013−92235A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235944(P2011−235944)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】
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