説明

転がり軸受の予圧調整方法およびその装置

【課題】 工作機械の主軸等を支持する軸受装置のラジアル方向の外力に対する剛性を低下させることなく、その軸受装置に設けられている転がり軸受の予圧調整をすることができ、かつ前記転がり軸受の種類を限定せずに適用できる予圧調整方法を提供する。
【解決手段】 この転がり軸受装置の予圧調整方法が適用される軸受装置2は、軸1を支持する転がり軸受3,4,4と、この転がり軸受3,4,4の外輪3a,4a,4aが内径面に嵌合する軸受箱5と、この軸受箱5を冷却する冷却流路21A,21Bと、この冷却流路21A,21Bに冷却油を供給する冷却油供給装置22とを備える。予圧調整方法は、前記冷却油供給装置22から前記軸受箱5の前記冷却流路21A,21Bに供給する冷却油の流量制御により、前記軸受箱5に温度変化を与え、温度変化による軸受箱5の熱膨張および熱収縮により、軸受箱5の内径面に嵌合する前記転がり軸受3,4,4のラジアルすきまを変化させて予圧を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械の主軸等の支持に用いられる転がり軸受の予圧を調整する予圧調整方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械の主軸は、回転精度と剛性を得るために、主軸を支持する軸受に予圧を与えて運転されることが多い。このような工作機械において、軸受の初期予圧を大きくした状態で主軸を高速回転させると、軸受の予圧が増大して軸受に必要以上の負荷が作用し、過剰な発熱あるいは焼きつき等の不具合が生じることがある。
【0003】
運転時に軸受の予圧が増大する一因として次のことが挙げられる。すなわち、工作機械の主軸系では、主軸系の温度上昇を抑えるため、軸受箱に冷却油を流すことで主軸全体を冷却している。外輪は運転により発熱し、熱膨張によってラジアル方向に変形しようとする。しかし、外輪の外側に嵌合する軸受箱が上記冷却油により冷却されているため、外輪のラジアル方向の変形が抑制され、外輪の熱膨張量が大きくならない。そのため、軸受の予圧が増大するのである。
【0004】
このような問題に対処するため、運転中の軸受予圧を調整して過大予圧とならないようにする予圧調整技術が提案されている。例えば、円筒ころ軸受の予圧調整に関するものでは、特許文献1がある。この提案は、外輪の外径部に予圧調整リングを設け、この予圧調整リングの外径面に油圧または空気圧により加圧するようにし、その加圧をON・OFF切り換えて外輪をラジアル方向に変位させることで、軸受の予圧を低速用の重予圧と高速用の軽予圧とに設定するようにしたものである。
【0005】
また、アンギュラ玉軸受に関するものでは、例えば特許文献2がある。この提案では、軸受間に組み込まれる内輪間座および外輪間座のうち外輪間座を線膨張係数の大きい材料で製作し、その外輪間座の外径部に冷却油流路を設けた構成としている。軸受の初期予圧は、内輪間座と外輪間座の軸方向寸法差により与えられる。運転中の内輪の膨張に起因する軸受予圧の増大に対して、前記冷却油流路に主軸回転数に対応した冷却油量を供給して、外輪間座を軸方向に収縮させることで、予圧を軽減して適正化している。
【特許文献1】特開平8−177852号公報
【特許文献2】特開平3−73205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成は、油圧力または空気圧力をONにして重予圧を設定した時に、予圧調整リングとハウジングとの嵌合部においてすきまが生じる。このため、軸受に切削荷重によるラジアル方向の外力が作用した場合、外輪にかかる外力を予圧調整リングとハウジングとで直接受けることができない。予圧調整リングの収縮側位置決め間座で外輪は固定されるものの、ラジアル方向の外力に対して耐力が不十分である。したがって、すきま調整しない構造と比較して剛性面で劣るという問題がある。
【0007】
また、特許文献2の構成は、軸受のアキシアル方向のすきまを変化させるものであり、予圧調整する対象となる軸受がアンギュラ軸受に限定される。このため、円筒ころ軸受のようなラジアル方向のすきま調整には使用できないという問題がある。
【0008】
この発明の目的は、工作機械の主軸等を支持する軸受装置のラジアル方向の外力に対する剛性を低下させることなく、その軸受装置に設けられている転がり軸受の予圧調整をすることができ、かつ前記転がり軸受の種類を限定せずに適用できる予圧調整方法およびその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の転がり軸受の予圧調整方法は、軸を支持する転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内径面に嵌合する軸受箱と、この軸受箱を冷却する冷却流路と、この冷却流路に冷却油を供給する冷却油供給装置とを備えた軸受装置における前記転がり軸受の予圧を調整する方法である。この予圧調整方法において、前記冷却油供給装置から前記軸受箱の前記冷却流路に供給する冷却油の流量制御により、前記軸受箱に温度変化を与え、温度変化による軸受箱の熱膨張および熱収縮により、軸受箱の内径面に嵌合する前記転がり軸受のラジアルすきまを変化させて予圧を調整することを特徴とする。
【0010】
この発明の予圧調整方法によると、運転中の軸受予圧の調整が可能であるため、常に軸の回転速度に応じた適正な転がり軸受の予圧を維持できる。このため、軸の回転速度を上げて高速運転することが可能である。
また、転がり軸受が嵌合する軸受箱のラジアルすきまを変化させて転がり軸受の予圧を調整するため、転がり軸受の種類を問わず適用することができる。例えば、円筒ころ軸受に適用した場合、特許文献1のように外輪と軸受箱との嵌合部にすきまが生じることがないため、軸受装置の剛性を低下させることがない。
さらに、軸受箱を冷却するための冷却流路の冷却油流量を制御することで、前記ラジアルすきまを変化させるため、軸受装置に予め設けられている冷却流路および冷却油供給装置を利用することができる。このため、軸受装置の構造の変更が小さく、かつ転がり軸受の予圧調整のための付帯設備の設置が少なくて済む。
【0011】
この発明の予圧調整方法において、前記軸受箱の温度を測定し、その測定結果に応じて流量制御弁を制御することにより、前記冷却油の流量制御を行うことができる。流量制御弁で冷却油の流量制御を行うと、流量制御が容易である。
なお、転がり軸受の実予圧を測定できれば最良の制御が行えるが、実予圧の測定のためには予圧荷重の測定手段が必要であり、予圧調整のための装置が大掛かりなものとなる。しかし、予圧と軸受箱の温度とは強い関係が認められるため、このような関係を予め実測して設定しておけば、軸受箱の温度を測定することで、予圧量を認識することができる。温度測定によるため、簡単なセンサで予圧測定が実現できる。
【0012】
この発明の転がり軸受の予圧調整装置は、軸を支持する転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内径面に嵌合する軸受箱と、この軸受箱を冷却する冷却流路と、この冷却流路に冷却油を供給する冷却油供給装置とを備えた軸受装置における前記転がり軸受の予圧を調整する装置である。この予圧調整装置において、前記冷却油供給装置から前記軸受箱の前記冷却流路に供給する冷却油の流量を制御する流量制御弁と、前記転がり軸受の予圧が適正予圧となる軸受箱の温度を目標温度として設定した軸受箱目標温度設定部と、前記軸受箱の温度を測定する軸受箱温度測定手段と、この軸受箱温度測定手段の測定温度を前記軸受箱目標温度設定部に設定された目標温度と比較し、目標温度に対して測定温度が低い場合は前記流量制御弁の開度を小さくし、目標温度に対して測定温度が高い場合は前記流量制御弁の開度を大きくする制御部とを有することを特徴とする。
【0013】
この発明の予圧調整装置によれば、運転時には、軸受箱目標温度設定部に設定された目標温度と軸受箱温度測定手段の測定温度とを比較し、その比較結果に応じて流量制御弁の開度を調整して、軸受箱の実際の温度を目標温度に近づけることで、軸受の予圧を適正に保つ。このため、常に軸の回転速度に応じた適正な転がり軸受の予圧を維持でき、したがって、軸の回転速度を上げて高速運転することが可能である。
冷却流路および冷却油供給装置として、軸受装置に予め設けられているものを利用することができるため、構成が簡略で、安価に提供することができる。
【0014】
この発明の転がり軸受の予圧調整装置において、前記軸受箱目標温度設定部は、前記軸の回転速度毎に目標温度範囲を設定したものであり、前記軸の回転速度を測定する回転速度測定手段を設け、前記制御部は、前記回転速度測定手段で測定される回転速度に対応する前記軸受箱目標温度設定部の目標温度範囲に対して、前記軸受箱温度測定手段の測定温度を比較することにより、前記流量制御弁の開度を調整するものであると良い。
軸受箱の温度と予圧の関係は、転がり軸受の回転速度によって変わる。そのため、軸受箱目標温度設定部に設定される目標温度を、軸の回転速度毎に目標温度範囲で設定しておくと、制御部による流量制御弁の開度調整の制御を、精度良く、かつ簡略にできるとともに、不測に反応して制御が乱れることを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の転がり軸受の予圧調整方法は、軸を支持する転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内径面に嵌合する軸受箱と、この軸受箱を冷却する冷却流路と、この冷却流路に冷却油を供給する冷却油供給装置とを備えた軸受装置における前記転がり軸受の予圧を調整する方法であって、前記冷却油供給装置から前記軸受箱の前記冷却流路に供給する冷却油の流量制御により、前記軸受箱に温度変化を与え、温度変化による軸受箱の熱膨張および熱収縮により、軸受箱の内径面に嵌合する前記転がり軸受のラジアルすきまを変化させて予圧を調整するため、軸受装置のラジアル方向の外力に対する剛性を低下させることなく、その軸受装置に設けられている転がり軸受の予圧調整をすることができ、かつ前記転がり軸受の種類を限定せずに適用できる。
【0016】
また、この発明の転がり軸受の予圧調整装置は、軸を支持する転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内径面に嵌合する軸受箱と、この軸受箱を冷却する冷却流路と、この冷却流路に冷却油を供給する冷却油供給装置とを備えた軸受装置における前記転がり軸受の予圧を調整する装置であって、前記冷却油供給装置から前記軸受箱の前記冷却流路に供給する冷却油の流量を制御する流量制御弁と、前記転がり軸受の予圧が適正予圧となる軸受箱の温度を目標温度として設定した軸受箱目標温度設定部と、前記軸受箱の温度を測定する軸受箱温度測定手段と、この軸受箱温度測定手段の測定温度を前記軸受箱目標温度設定部に設定された目標温度と比較し、目標温度に対して測定温度が低い場合は前記流量制御弁の開度を小さくし、目標温度に対して測定温度が高い場合は前記流量制御弁の開度を大きくする制御部とを有するため、常に軸の回転速度に応じた適正な転がり軸受の予圧を維持でき、しかも構成が簡略で、安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の実施形態を図1〜図3と共に説明する。この転がり軸受の予圧調整装置は、工作機械の主軸1を支持する軸受装置2に設けられている。軸受装置2は、主軸1を支持する転がり軸受3,4,4を軸受箱5に組み込んだものである。軸受箱5は、軸受3,4,4の外輪3a,4a,4aが内径面に嵌合する内筒6と、この内筒5の外側を覆う外筒7とからなる。転がり軸受として、工具が装着される側である前部(図面の左側)には円筒ころ軸受3を用い、後部には前後一対のアンギュラ玉軸受4,4を背面組合せで用いている。円筒ころ軸受3は、加工時に生じるラジアル荷重を受け持つ。また、一対のアンギュラ玉軸受4,4は、主にアキシアル荷重を受け持つ。
【0018】
主軸1は、前端部1aの外径が大きく、それより後方の中央部1bは同一外径とされ、外端部には雄ねじ部1cが形成されている。円筒ころ軸受3およびアンギュラ玉軸受4,4は、上記主軸1の中央部1bに軸方向に所定の間隔を設けて嵌合している。円筒ころ軸受3の内輪3bの前端面は、主軸1の前端部1aと中央部1bとの境界の段部に係止されている。円筒ころ軸受3の内輪3bと前側アンギュラ玉軸受4の内輪4bとの間には、筒状のスペーサ8が介在させてある。また、後側アンギュラ玉軸受4の内輪4bの後側には筒状のスペーサ9が設けられ、このスペーサ9を前記雄ねじ部1cに螺着したナット10により抜け止めしている。
【0019】
軸受箱5の内筒6は、前後両端部に内径の大きい外輪嵌合部6a,6bを有し、前側の外輪嵌合部6aに円筒ころ軸受3の外輪3aが嵌合し、後側の外輪嵌合部6bにアンギュラ玉軸受4,4の外輪4a,4aが嵌合している。円筒ころ軸受3の外輪3aの前端面には、内筒6の前端面にボルト11で固定された前蓋12の軸受止め部12aが当接している。また、後側アンギュラ玉軸受4の外輪4aの後端面には、内筒6の後端面にボルト11で固定された後蓋13の軸受止め部13aが当接している。
【0020】
この軸受装置2は、冷却油で軸受箱5を冷却する冷却機構20を備えている。この冷却機構20は、軸受箱5に設けられた冷却流路21A,21Bと、この冷却流路21A,21Bに冷却油を供給する冷却油供給装置22と、これら冷却流路21A,21Bと冷却油供給装置22とを繋ぐ供給側油路23A,23Bおよび排出側油路24A,24Bとからなる。
【0021】
冷却流路21A,21Bは、軸受箱5の内筒6と外筒7との嵌合部におけるそれぞれ円筒ころ軸受3およびアンギュラ玉軸受4,4に対応する軸方向位置に、互いに独立して設けられている。冷却流路21A(21B)は、前後両端の円周溝21Aa,21Ab(21Ba,21Bb)と、これら前後の円周溝21Aa,21A21b(21Ba,21Bb)を連通する螺旋溝21Ac(21Bc)とからなる。冷却流路21A,21Bの軸方向外側の内筒6と外筒7との嵌合部には、シール部材25がそれぞれ設けられている。
【0022】
冷却流路21A(21B)の両端には、外筒7の外周面に開口する給油口26A(26B)および排油口27A(27B)が設けられている。給油口26A(26B)は、供給側油路23A(23B)を介して冷却油供給装置22に繋がっている。排油口27A(27B)は、排出側油路24A(24B)を介して冷却油供給装置22に繋がっている。これにより、閉路循環型の油路が構成され、冷却油供給装置22で温度調整された冷却油が、供給側油路23A(23B)を通って冷却流路21A(21B)に供給され、冷却流路21A(21B)を流れる間に軸受箱5を冷却し、排出側油路24A(24B)を通って冷却油供給装置22に戻るようになっている。
排出側油路24A(24B)中には、油路を流れる冷却油の流量を制御する流量制御弁28A(28B)が設けられている。この流量制御弁28A,28Bは、例えば弁の開度を電磁制御で調整する電磁制御弁とされている。
【0023】
この冷却機構20は、本来、軸受箱5を冷却するためのものであるが、軸受3,4,4の予圧調整にも利用される。つまり、冷却油の流量を制御することで軸受箱5に温度変化を与え、温度変化による軸受箱5の熱膨張および熱収縮により、前記軸受箱内筒6の外輪嵌合部6a,6bに嵌合する軸受3,4,4のラジアルすきまを変化させて、各軸受の予圧を調整するのである。
【0024】
転がり軸受の予圧調整装置は、上記冷却機構20と、軸受箱5(図示例では軸受箱内筒6)における円筒ころ軸受3およびアンギュラ玉軸受4,4の外周部分の温度をそれぞれ測定する軸受箱温度測定手段としての軸受箱温度計31A,31Bと、主軸1の回転速度を測定する回転速度測定手段としての回転数計32と、CPU等からなる制御装置33とで構成される。図2に示すように、制御装置33は、軸受箱目標温度設定部34A,34Bと、制御部35A,35Bとを有する。
【0025】
軸受箱目標温度設定部34A,34Bは、軸受3,4,4の予圧が適正予圧となる軸受箱5の温度を目標温度として設定して記憶おくものである。目標温度は次のようにして定める。すなわち、予め試験等により、所定範囲に区分された回転速度毎に過大予圧とならない適正外輪温度を、両軸受3,4につきそれぞれ求める。そして、外輪温度計36A,36Bで軸受3,4の外輪温度を測定しながら、流量制御弁28A,28Bを手動操作して冷却油の流量を調整し、外輪温度計36A,36Bで測定される外輪温度が前記適正外輪温度となったときの軸受箱温度計31A,31Bの測定温度を軸受箱目標温度とする。実際には、軸受箱目標温度は、上記測定温度を基準にして上下に所定の不感帯幅を設けた温度範囲で設定する。これを回転速度の各区分毎に行うことにより、図3(A),(B)に示すように、主軸回転速度の各区分毎の軸受箱目標温度が定められる。
【0026】
制御部35A(35B)は、上記のように設定された軸受箱目標温度をフィードバックさせて、冷却油の流量を制御するものである。すなわち、軸受箱目標温度設定部34A(34B)に設定されている温度情報の中から、回転数計32の測定温度に対応する軸受箱目標温度を抽出し、その目標温度と軸受箱温度計31A(31B)の測定温度とを比較し、目標温度に対して測定温度が低い場合は前記流量制御弁28A(28B)の開度を小さくし、目標温度に対して測定温度が高い場合は前記流量制御弁28A(28B)の開度を大きくする。これにより、実際の軸受箱温度が軸受箱目標温度に近づくように、冷却液の流量が制御される。軸受箱目標温度設定部34A(34B)に設定される目標温度が、主軸1の回転速度毎に目標温度範囲で設定されているため、制御部35A(35B)による流量制御弁の開度調整の制御が簡略かつ精度良く行われるとともに、過敏等の不測な反応により制御が乱れることを防止できる。
【0027】
上記のように冷却油の流量制御をすることで、主軸1の回転速度に応じた適正な軸受箱温度となるように、軸受箱5の温度が変化させられる。軸受箱5の温度が変わると、軸受箱内筒6の外輪嵌合部6a,6bに嵌合する軸受3,4,4のラジアルすきま、すなわち軸受の締め代が変わり、予圧が調整される。
【0028】
この予圧調整装置によると、運転中の軸受3,4,4の予圧調整が可能であるため、常に主軸1の回転速度に応じた適正な軸受予圧を維持できる。例えば、主軸1の低速回転時には重予圧とし、高速回転時には低予圧とする。このように回転速度に応じた適正な軸受予圧を維持できるため、高速運転することが可能である。
【0029】
また、転がり軸受3,4,4が嵌合する軸受箱内筒6の外輪嵌合部6a,6bのラジアルすきまを変化させて転がり軸受3,4,4の予圧を調整するため、転がり軸受の種類を問わず適用することができる。この実施形態では、円筒転がり軸受3およびアンギュラ玉軸受4が使用されているが、円すいころ軸受等、他の種類の転がり軸受にも適用できる。例えば、円筒ころ軸受3の場合、外輪3aと軸受箱内筒6との嵌合部にすきまが生じないため、従来装置(特許文献1)のように軸受装置の剛性を低下させることがない。
【0030】
さらに、この実施形態では、冷却油の流量の制御に流量制御弁28A,28Bを用いているため、流量制御が容易であり、高精度の予圧調整を行える。予圧調整装置の一部である冷却機構20は、軸受装置2に予め設けられているものを利用できるため、軸受装置2に予圧調整装置を新たに設ける場合、軸受装置2の構造の変更が小さく、かつ転がり軸受の予圧調整のための付帯設備の設置が少なく済む。
【0031】
なお、この発明では、軸受箱5の温度から予圧状態を推定して冷却油の流量を制御しているが、軸受3,4,4の実予圧を測定できるのであれば、実予圧から冷却油の流量を制御するのが最良である。しかし、運転中に軸受3,4,4の実予圧を測定するのは非常に困難であり、仮に実予圧を測定しようとした場合、装置が大掛かりとなるため、実用上ではこの発明の予圧調整方法で予圧調整するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施形態にかかる軸受装置の断面図と転がり軸受の予圧調整装置の概念図とを組み合わせて示す図である。
【図2】冷却油の流量制御系のブロック図である。
【図3】(A),(B)は軸受箱目標温度設定部に記憶されているデータの内容を示す説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1…軸受装置
2…主軸
3…円筒転がり軸受
4…アンギュラ玉軸受
5…内筒
6…外筒
20…冷却機構
21A,21B…冷却流路
22…冷却油供給装置
28A,28B…流量制御弁
31A,31B…軸受箱温度計(軸受箱温度測定手段)
32…回転数計(回転速度測定手段)
33…制御装置
34…軸受箱目標温度設定部
35…制御部
36A,36B…外輪温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸を支持する転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内径面に嵌合する軸受箱と、この軸受箱を冷却する冷却流路と、この冷却流路に冷却油を供給する冷却油供給装置とを備えた軸受装置における前記転がり軸受の予圧を調整する方法であって、
前記冷却油供給装置から前記軸受箱の前記冷却流路に供給する冷却油の流量制御により、前記軸受箱に温度変化を与え、温度変化による軸受箱の熱膨張および熱収縮により、軸受箱の内径面に嵌合する前記転がり軸受のラジアルすきまを変化させて予圧を調整することを特徴とする転がり軸受の予圧調整方法。
【請求項2】
請求項1において、前記軸受箱の温度を測定し、その測定結果に応じて流量制御弁を制御することにより、前記冷却油の流量制御を行う転がり軸受の予圧調整方法。
【請求項3】
軸を支持する転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内径面に嵌合する軸受箱と、この軸受箱を冷却する冷却流路と、この冷却流路に冷却油を供給する冷却油供給装置とを備えた軸受装置における前記転がり軸受の予圧を調整する装置であって、
前記冷却油供給装置から前記軸受箱の前記冷却流路に供給する冷却油の流量を制御する流量制御弁と、前記転がり軸受の予圧が適正予圧となる軸受箱の温度を目標温度として設定した軸受箱目標温度設定部と、前記軸受箱の温度を測定する軸受箱温度測定手段と、この軸受箱温度測定手段の測定温度を前記軸受箱目標温度設定部に設定された目標温度と比較し、目標温度に対して測定温度が低い場合は前記流量制御弁の開度を小さくし、目標温度に対して測定温度が高い場合は前記流量制御弁の開度を大きくする制御部とを有することを特徴とする転がり軸受の予圧調整装置。
【請求項4】
請求項3において、前記軸受箱目標温度設定部は、前記軸の回転速度毎に目標温度範囲を設定したものであり、前記軸の回転速度を測定する回転速度測定手段を設け、前記制御部は、前記回転速度測定手段で測定される回転速度に対応する前記軸受箱目標温度設定部の目標温度範囲に対して、前記軸受箱温度測定手段の測定温度を比較することにより、前記流量制御弁の開度を調整するものである転がり軸受の予圧調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−106891(P2008−106891A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292031(P2006−292031)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】